カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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電波発生装置と考察

 先ほど渡された資料を全てカラーコピーしてからコピー元の方を封筒に入れ、ピジョン便で郵送する。これで明日の朝までには研究所に資料が届くだろう。

 

 そのままの足で電気屋で【ノートパソコン一式】と【足踏み式充電器】を購入し、ポケモンセンターへ急いで戻る。こういう急いでいる時にはこの人通りの多さは嫌気がさしてくるな。

 

 40分ほどかけてポケモンセンターで借りている部屋に戻って来ると、ハルカがテーブルの前に座って勉強をしていた。

 

「おかえりなさい。帰ってきて直ぐで悪いけれどあの資料の説明をしてくれない?」

 

「ん。わかった……と言いたいところだが、ちょっとパソコンの初期設定を終えるまでそのまま勉強を続けていてくれ。すぐに終わらせて話すから」

 

「じゃあもう少し頑張ってみる……」

 

 勉強に戻るハルカを眺めてからその場に座り、買ってきたノートパソコンをコンセントに差して充電しながら起動させ、初期設定を進めてゆく。同時並行でポケナビで登録しているマスクの王国に電話をかける。数回コール音が聞こえてからマスターが電話に出てきた。

 

「……キョウヘイ君か、この間注文したばかりなのにまた何か注文するのか?」

 

「あのオオカミはかなりいい買い物でした……追加の注文なんですが、この前マスターがネタで入荷してみたとか言っていた【簡易基地局セット】と【回線暗号化装置】ってまだ売ってます? あれば技マシンの【ひみつのちから】や例のものと一緒にまとめて買おうと思っているんですが」

 

 俺の目の前で勉強をしていたハルカが手を止めてこちらに何買ってるの!? と困惑した顔を向けてくるので、いいから勉強を続けていなさいと手で指示をする。

 

「え? アレ買うのか? こっちとしては買い手が居なかったからありがたいが……あんなものどうするんだ? 用途はなんとなく買うものの組み合わせで予想つくが……」

 

 マスターも困惑しているようだ。俺もあの時なんでこんなものが売っているのかと思ったが、人生何が必要になるかわかったもんじゃないな。

 

「ちょっと最近いろいろときな臭くなってきたので、念には念を入れようかと思いまして」

 

 アクア団やマグマ団は最大最悪の敵として認識するべきだ。トヨダさん誘拐の時も、なんでマグマ団が迎えに来なかったのか考えたが、一番あり得るのは携帯に盗聴器が仕込まれていた可能性。次点で警察内部に紛れている可能性。最悪なのは回線そのものが読まれている可能性だ。なお、隠れてこちらを見ていたというのは網代笠の特性から考えて除外する。

 

 回線そのものが読まれている場合、俺たちや研究所も危なくなってくる。ただでさえ研究所にダイゴさんが出入りして目を付けられていた可能性もあるのに、俺たちがあんな画像を手に入れていましたなんて知ったら強襲されてもおかしくはない。

 

 ただ、少なくとも現時点では回線読みはしていないはずだ。なぜなら、していたらとっくに研究所は襲撃を受けているだろう……襲撃を後回しにする理由も考えられんしな。それに、今後も襲撃をしてこないとは限らない。備えなきゃならん。

 

 後手後手に回っている今、ここで先んじて手を打たなければ……デボン社にジョーク文字コードソフトってないかな? 開発途中か、もう使われなくなって消失しかけているものならなお良いのだが。殊更ユニークな方がいい。

 

「電力は足りるのか? なけりゃただの重しにしかならんぞ?」

 

「あー……確か重さ10kg弱で出力3.8kVA超えている発電機をデボンが売っていたはずですので、それを買って使おうかと思っています」

 

 日本だとこんな軽量で高出力の発電機はなかったはずだし、やはりこっちの科学力は凄まじいな。これで静粛性にも優れているのだから恐れ入る。唯一の欠点は燃料タンクの容量の少なさか。しかし、軽くて持ち運べる小型発電所が広告の品に乗るというのも何だかアレだな……ポケモンで済む場合が多いし需要なかったのかね?

 

「それだけあったら足りるな……わかった。あとでポケモンセンターに見積もり送るから送金頼む。カイリュー便でいいな?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 会釈をしてから電話を切る。相手が目の前にいるわけでもないのに軽く会釈をしてしまう……これは日本人の習性なのだろうか? 完全に無意識で行っていた。

 

 ふと、顔を上げるとハルカがこちらをじ~っと見つめている。そんなに見つめられても……ご飯はもうさっき食べたでしょう?

 

「とりあえず落ち着くためにまな板について語り合おうか。個人的には木のまな板は味があるとは思うが煮沸消毒等が大変だと思うんだ。重たいし」

 

「そんなことどうでもいいので説明をお願いします」

 

「うむ…………まず何から話そうかね?」

 

「全部」

 

「じゃあ最初にジムで貰ってきた資料について――説明しよう!」

 

 ヤッターマンとか懐かしいなぁ。

 

「まずこの資料で目に付くのは、眠りの森もといトウカの森でのキノココ達の異常繁殖、そしてキノガッサの多さだ。しかもただ多いだけではなく、それなり以上に強い。はっきり言って平均的なトレーナーの手持ちよりも強いだろうとカナズミジムジムリーダーのツツジさんは考えているようだ。俺もこの考察と同じようなことを考えている」

 

「確かに多かったし、最後のキノガッサは強かったかも?」

 

「たぶんアレはかなり若い個体だぞ」

 

 しかも恐らく進化したばかりの個体だ。

 

「え? そうなの?」

 

「こう言っちゃなんだが、御神木様はキノガッサと最悪と言っていいほど相性が悪い。素早さで負けているから上から殴られるし、格闘タイプの技持ちだから弱点がガシガシ突き刺さる。おまけに【きのこのほうし】を覚えていたらもう勝ち目はなかったな」

 

 今は軽目に話しているがあれはかなり運が良かっただけなのだ。だから今後はああいう事態にならないよう戦うために、ポケモン達と対抗策を毎夜話し合っている。

 

 ちなみに、ハルカに今手元にある技マシンNo.35【かえんほうしゃ】を渡せばもっと楽になるのだろうが、ポケモンバトルの勉強にならなくなる可能性が高い。先に楽なものを知ってしまうのはマズイだろうから却下だ。せめてバッジ3つ手に入れてからだな。俺が勝てなくなるからでは断じてない。ないのだ。

 

「それで、そこからあの装置となんの関係があるの?」

 

「まぁ待て。次は10ページに書かれている特殊な色違いのキノガッサについてだ」

 

 そう言ってペラペラとページをめくってゆくと、画像付きで色違いのキノガッサについてのレポートが書かれているページにたどり着く。画像のキノガッサはとても濃いオレンジ色をしており、笠の部分は緑とオレンジで斑色になっているのが印象的だ。

 

「特殊? 色違いの時点で特殊だと思うのだけど……」

 

「確かに色違いのポケモンというのは珍しい。それにウチの御神木様もそうだが通常の個体よりも強いことが多いようだ。でもな、このキノガッサはその色違いのキノガッサとも少し違うんだ。確かにキノガッサの色違いは、通常緑色のところがオレンジになっているのだが、こんな風に笠が緑とオレンジの斑模様にはならないんだよ。ついでにオレンジの色が濃すぎるし色の範囲が広い。これは明らかにおかしい」

 

 ついでにこの派手な色違いのキノガッサは1人のエリートトレーナーのポケモン達と真正面から戦って殴り勝っているようだ。推定レベル65前後ぐらいかね? あな恐ろしや。

 

「じゃあ、なんでこんなことになっているのかと考える訳だが、自然に起こらないのならば人の手によって起こされたものと考えるのが自然だ。そして案の定中央ルートで崩れた家らしきモノと何かしらの機材が散乱していて、その中に電波発生装置が発見された」

 

 この部分を重要そうに強調して言うとハルカが疑問に思ったらしい。

 

「なんでわざわざ電波発生装置だけを重要視するの? 他の装置の可能性とかは? 遺伝子操作してましたとかそんな感じので」

 

「そうだな……確かにまだその装置が見つかっていないだけで、そういう装置で改造された可能性もある。ただ現状それが見つかっていないから、今回の結果で……わかっていることで考察する。さて、ここからなぜ電波発生装置を重要視しているかの話だが……少し昔の事件に遡ることになる」

 

「似たような事件があったってこと?」

 

「そうだ。ただちょっとばかり異なるがね。ハルカは3年前に起きた怒りの湖での事件を知っているか?」

 

「えーと……色違いの赤いギャラドスが現れたってやつだっけ?」

 

「そう。それだ。その赤いギャラドスが現れた原因が今回の事件と似ているんだ。当時、ロケット団の奴らがジョウト地方にあるチョウジタウンの地下で怪電波を垂れ流していてな? その怪電波によってコイキングが突然変異を起こして赤いギャラドスに進化したらしい」

 

 その事件を解決する際に、チャンピオンが人に向かって【はかいこうせん】を発射したことや、その後のコガネシティで起きたラジオ塔脱衣事件などは些細なことなのだ。きっと。たぶん。もしかするとそのような事実は確認されていないのかもしれん。

 

「まぁ要は、この時点で既にポケモンに怪電波を当て続けることで、無理やり進化させることができると実証されてしまった訳だ。で、今回見つかった電波発生装置は、ソレをバージョンアップしたものなんじゃないかと睨んでいると」

 

 恐らくツツジさん達も似たような予想をしているんじゃないかな?

 

「でもロケット団は解散したはず……まさか」

 

「うむ。俺も元ロケット団の研究者を誘致したんじゃないかなと思ってる。丁度近くにロケット団と関係のあったような企業があるしな。まぁ、単純に研究者が自ら技術と自分を売りに行った可能性もあるが」

 

 それだけの技量と経験を持った研究者なら新興の組織だと、喉から手が出るほど欲しいだろうしな。研究するために倫理観を捨てている奴がいるならありえない話ではないだろう。

 

「どっちの組織がやったのかわからんが、ホントに迷惑な奴らだよ。しかも、だ。当時より強力になっているせいで歪な進化をしたキノガッサは、その地域の他のポケモンを追い払えるほどの強さを手に入れた。重大な弱点であるはずの飛行タイプのポケモン達ですら勝てないほどの力を」

 

 色違いのキノガッサが先導してスバメやオオスバメという外敵を追い払い、その結果あの森は完全に巨大な巣になったって感じだろう。そりゃあ餌もある安全な場所があるのなら、あれだけ繁殖もするだろうさ。天敵になりうるアリアドスやヤミカラスなどが生息していなかったというのも原因か?

 

「これを様々な場所で同時起動したら生態系が完全に崩壊するだろうな。ついでに言うと元々のロケット団が行っていた研究の一つに電波でポケモンを操ろうというのもあったそうだ」

 

「ヤバイじゃないですか!!」

 

「うむ。イカにもタコにもそのトーリなのだよハルタ君。本当にあいつらは新興の組織なのかね……俺は疑いの目で見ているぞ!」

 

 新人詐欺なんていらないんですよ! カテジナさん!

 

「誰ですかハルタって……さっき注文していたのはそんな組織とやり合う可能性があるからですか?」

 

「可能性って言うか……確実に両方とやり合うだろうな。調べているもの同じだし。というか、既に何度かやり合っているから今更感があるな。この対岸の火事だと思っていたら背後からも出火した感じ……火事の火の粉が2,3kmまで飛ぶというのは、何も物理的な物事だけではなかったんだよ!」

 

 一気に余裕が無くなってくるね! ドッキリ大成功だよちくしょうめ。

 

「ちなみに買った理由は合ってるよ。今後通信が読み取られる可能性もあるから念には念を入れようかなと思ってな。ホント、バックパックの強化がこんなにもすぐに活きるとはね……この海のリハクの目をもってしても読めなかったぞ……」

 

 なんでこんなに苦労しないといけないんですかねぇ? もうちょい難易度下げられないの? イージーでいいんだよ。難易度天帝なんて望んでいないんだよ……

 

「あ~……カウチポテトになりたい……切実に……チーズ蒸しパンでもいいや」

 

 ノートパソコンの設定も終わり、スリープモードにしてからその場でテーブルに突っ伏す。今の俺ならテーブルと一体化出来るかもしれん。頭をぐりぐりとテーブルに押し付ける。

 

 気が付けば既に窓の外は夕焼けを超えていて、赤と青が食らい合いなんとも複雑な色をしている。沈みかけている夕日の光が目に直撃して厳しいです。ハルカの顔が少し下を向いているせいか、ハルカの顔に影がかかったように見える。

 

「…………キョウヘイ先生ってさぁ……いつもふるぱわーでいろいろな事に首突っ込んでいるけどさ、なんでそんなに全力で頑張れるの? 疲れない?」

 

 まだもうちょっと真面目モードを続けないといけないらしい。そろそろキツいんですが。

 

「んーそうさなぁ……当たり前だが疲れるしキツい時もあるよ? 今みたいにな。それにハルカと旅に出てからは常に作業しているように見えるかもしれんが、俺の本性なんて怠惰を煮詰めて煮詰めてさらに煮詰めてドロドロにしたものを、人形のカプセルに流し込んで作られたような男さ。飯食うのも面倒くさくて2日飯抜いたなんてザラだったし」

 

 俺だってどこぞのヒーローのような生き様なんて目指していないしな。やらなくていいならやりたくないさね。

 

「それでも頑張れている理由は現状が現状だからとか、ポケモンがいると楽しいからだとか他にも色々あるが、一番の理由としては――――自分の人生なんてモノは自分の与り知らない所で勝手に、簡単に崩れて転げ落ちることもあるって知っちまったからかな」

 

「転げ……落ちる……?」

 

 あの時は荒れたからなぁ……今だと黒歴史の一部だな。あんなもん封印だ! 封印。頭の中のもう一人の僕に引き取ってもらおう。あ、廃品回収は違う曜日ですか。そうですか。

 

「まぁ暗い話は今は省くけどさ、転げ落ちても楽しく満足に生きたい訳よ、俺は。ただ、この満足を得るというのは案外難しくてな? 相応に努力しなきゃいけなかったんだ」

 

「努力……」

 

 何かしら思うところがあったらしい。ハルカが真っ直ぐにこっちを見ている。

 

「うん努力。どこぞの雑誌のキーワードじゃないが努力はいいぞ、効率も上がるし」

 

 手札が増えたら組み合わせ次第で様々なこともできる。

 

「でもその全てが報われるわけじゃないじゃないですか」

 

「だが続ければ何かしらの自信になるさ。歩くのだっていつもいつも行っているから次に出した足でこけたらどうしようなんて普段は考えないだろ? こいつが自信だ。それにそもそも参加しなけりゃ残念賞も貰えん」

 

「それは……そうですけど……」

 

 ふむ、この辺りで軽く空気を変えるか。

 

「ただ努力のために人間性を捧げ過ぎるのはいただけない。あんまり捧げすぎると人っぽく見えなくなっちまうからな」

 

 ただただ修練を積む超人なんて人間っぽくないだろ? と肩をすくめて言う。

 

「……報われない努力も維持すれば何か変わりますか?」

 

「変わると思うよ。劇的な変化はないかもしれないが少しは変わるさ。俺はそこから満足できる生き方を探してみたら? って寝っ転がりながら言うぐらいさ」

 

 その場でテーブルからずり落ちて寝っ転がる。あ^~心がぴょんぴょんするんじゃ^~……御神木様、痛いんでつつかないでもらえません? マッサージはもうちょっとあとでやるから……やるから! チクチクと横腹を刺でつつかれる。なんだか前よりも鋭さが増してませんか?

 

「最近動きっぱなしのキョウヘイ先生が寝っ転がりながら……ねぇ……」

 

 俺とて休める日があるのなら休みたいです。でも体力だけはあるからなぁ……ぶっ倒れるなんてことがまずないんだよな。夏場以外。

 

「おう。なんならこのマスクも贈呈しようじゃないか」

 

 そう言って、現在企画途中のホラー風うさぎさんマスクを取り出す。口の部分に血のような跡がついたソレはとても狂気を感じる一品になっており、小さな子供なら見ただけで泣き出すような仕上がりとなっている。ちなみにこれはマスクの部分だけだが、正式版は全身に着ぐるみのように着ることになっているらしい。こんなのがマスコットになる遊園地ってどうなのだろうか?

 

 少なくとも俺は行きたくないな。これで子供向けって……子供向けとはいったい?

 

「あ、結構です」

 

「なんでや! 朝寝て昼寝て夜なべして、係員が丹精込めた一品なんやで!」

 

「間に合っているので」

 

 ハルカが軽く引いて笑う。ありゃ、ホラー耐性はなかったか。

 

 結局、このあとはいつも通り言葉のドッジボールをしながら、晩御飯を食べるためにあの有名食べ放題店へ向かうことになった。道中はみんなを出してゆっくりと歩き、雑談をする。

 

 大賀はワニマスクを着けた頭の上に乗せ、御神木様は予備のリュックから顔を出している。網代傘は自分で歩きたいらしい。ハルカのポケモン達もみんなボールから出て歩いている。ゴンベ、お前も歩くのか。

 

 扉の鈴が鳴り、店員がこちらを見た際に表情が一瞬固まる。それでもすぐに復帰したのはプロの根性だろう。早くゴンベがすぐに満腹になるポロックが欲しいです。

 

 食べ終えてポケモンセンターに戻ったら、大賀をメインでマッサージしよう。なに、明日はきっと上手くいくさ。だからそんなに震えないでも大丈夫だよ。そういう思いを込めて乗っかっている大賀の頭を撫でる。

 

 俺も全力で指揮をして勝利をもぎ取ってみせる。勝利への道は、訓練、決意、努力、そして信仰心と愛によって開かれる……誰の言葉だっけか? 必要なものは大体用意した。あとは俺の作戦が通じるか否か……戦場の霧次第だな。相性で勝っているからと油断はしない。

 

 


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