カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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初バトルと建ったフラグ

 ひとまず部屋に戻り、クジの商品である高性能バックパックを受け取ったが、かなり容量があって使いやすそうである。ありがたいね。

 

 今日、船内についてから今まで無理やりテンション上げておいてなんだが、これ絶対ヤバいフラグが立ってるよな。どう楽観的に考えても、最終的にアルセウスは何か目的を持って、態々俺をここに飛ばしたのだ。

 

 現状運が良くなったとは感じず、なんかボス前のアイテム小屋みたい思える。都合良すぎて気味が悪い。嫌な予感バリバリである。早いうちにフレンドリィショップに行ってボールを買って来るべきだと俺の直感が囁いてる。

 

 だいたいなんで俺に【あいいろのたま】を渡したんだ? それにあいつがここまで介入してくる理由はなんだ? そもそもどうやってトレーナーカードと発行させたんだ……いかん、だんだん素に戻って来てしまった。

 

 テッシードが不思議そうにこちらを見ているが、あまり気にしてやれる心の余裕もない。

 

 何とかしてテンションを上げなければ……後でアルコールでも入れるか。近い未来アルコール依存症みたいになりそうだな、俺。テンションが上がってないと、また昔のようになってしまう。

 

 祈りと祈りと祈りの果てに、根幹にあった思いは風化し、ただ形骸化した恐怖だけがこの身に取り残された。そうあれかしと祈ったところで、良い方向に転じる事などないのだから。

 

 感情を転化し、テンションを上げ続け、ただひたすらにボケを続ける俺にならなければならない。暗い俺は俺ではないはずだ。これから先を見据える為にも、必要な事だろう。

 

 それに、テンション高くて厚かましくなった方が他人から避けてもらえるし。良いこと尽くめだ。仮痴不癲(かちふてん)こそが俺の救いになる。そうでなくてはならない。

 

 よし。素早く目的を達成させるために、テッシードに頼んでショップまでの道案内をやってもらうことにしよう。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 目の前には人、人、人、スタジアムの周囲は人の山である。

 

 フレンドリィショップに近づくがどうにも人が多い。名所だから人も多くなるのは予想できていたが、高々モンスターボールを買うだけで30分掛かるのは想定外だ。

 

 いつもならここまで混んでいないらしいが、今日は有名人であるチャンピオンの大誤算改めダイゴさんがいるから、いつも以上に大変らしい。普段はこういったことには参加しないようだが、今回の航海はなぜかOKをもらえたようだ。つまり参加する理由があったのだろう。

 

 そしてここに来てフラグが完全に建ってることを把握したよ、うん。これ絶対アクア団に絡まれて巻き込まれる流れだよ、きっと。あの人原作だとアクア団とマグマ団追ってたはずだし、今回この船に乗ったってことはどちらかが関わっていると睨んだのだろう。海だから十中八九アクア団だろうけど。

 

 流石に陸地もないのにマグマ団が活動するなんて自殺行為もしないはず…………はず。やべぇ、自信ない。部屋に閉じこもればなんとかなるか? …………無理か。

 

 早めにポケモンバトルに慣れないと不味そうだな。人気の少ない通路でテッシードに話しかける。

 

「なぁ、テッシード。俺に力を貸してくれないか?」

 

「クギュ?」

 

 モンスタボールを棘でつつきながらこちらを見てくる。

 

「多分さ、これから大きな祭りが起きるんだ。みんなが怪我するような盛大な祭りが。きっと……きっと俺一人で祭りに挑んだら、ロクなことにならないと思う」

 

 普段はあまりしないためぎこちないかもしれないが、かなり真剣な目でテッシードを見る。

 

「テッシードからすると、訳の分からないことほざいてる自覚はある。でも、巻き込まれないように過ごすのも、おそらく無理だと思うんだ」

 

 テッシードは何も言わずこちらを見ている。俺はテッシードに見えるように、鈍く光を反射する【あいいろのたま】を取り出す。

 

「こいつを祭りの首謀者が狙っているんだ。置いていっても、いつの間にかバッグの中に入ってるような不思議物質だから捨てることもできそうにない。この船にいるのはおそらく偶然だろうが、知られてしまえば必然的に巻き込まれちまう」

 

「だから力を貸してh」

 

 喋ってる途中でリュックの上で話を聞いていたテッシードが、プレミアボールをこっちに転がしてくる。これに入れてもらいたいのだろう。ちゃっかりしているとは思うが頼んでいるのはこちらだし気にしないでおく。

 

「……ありがとう。これからよろしくなテッシード」

 

 ボールを投げると数回揺れたあとに点滅が消えた。弾き返されていないから成功したのだろう。

 

「よし、来いテッシード!!」

 

 軽くボールを放ると中からテッシードが出てきた。

 

「さて相棒、ニックネームはどうする?」

 

 目で催促してきているからニックネーム呼びでも問題ないのだろう。

 

「そして、聞いておいてなんだが実は心に決めていたのがある。今日から君の名前は御神木だ!!」

 

 無言のまま腹に1発棘を食らった。解せぬ。とりあえず様付けしたら妥協したように震えていたので、これからは御神木様がテッシードのニックネームだ。

 

「よし、シリアスタイム終了!! とりあえずこれからのことを相談して決めよう」

 

 御神木様はピョンと1回だけ跳ねた。おそらく肯定の意味なのだろう。否定の場合は棘が飛んでくるはずだ。

 

「とりあえず差し当たっての目標としては、この船から無事に出るというものにしたい。理由はさっきのこともだが昔船に乗った時に、嵐で投げ出されて死にかけた事があるんだ。だから海に飛び込む等の行為は、あまり自主的にやりたくはない」

 

 現在地もわからないしな。まぁ、着衣遠泳ができない訳ではないから、最終手段程度の認識だ。

 

「サブ目標として、ポケモンバトルの経験を積もうと思う。戦い慣れしないとこれから先できっと苦労する」

 

「クギュルルルルルルッ!!」

 

 やる気満々らしい。コイツ本当に性格生意気か? 実は夢特性みたいに夢性格ツンデレとかあるんじゃないか?

 

「いい返事だ御神木様! では早速戦いに行こう」

 

 受付を目指して行進しようとしたが、扉の向こうから何やら話し声が聞こえてきたので足が止まった。

 

「……当に……なことでき……か?」

 

「間…………ようだ、ここ…………に古代ポケ…………料の一部がある」

 

 聞き取りづらいな。もう少しはっきり聞こえないものか。

 

「…………うか、襲撃の日…………り12日目で…………のか?」

 

「変わりな…………」

 

「チャンピオン…………」

 

「……気がつかれてない」

 

 ほう、ほうほうほう。12日目とな? 新聞のテレビ欄を見た際に今日が航海6日目であることを確認している。だけど今は夜だから実質あと5日で襲撃か。時間もわかればありがたいのだがね。

 

 うーむ、とりあえずこの場から去ろう。見つかったらめんどくさそうだ。

 

 何を狙ってるのかもなんとなくわかった。古代ポケモンの化石でも奪いに来たのだろう。5日以内に対策が思い浮かぶかね。受付に向かいながら策を練り続ける。

 

   ◇  ◇  ◇

 

「すみません、アリーナでポケモンバトルをしたいのですが」

 

「トレーナーカードをお貸しください――――――トレーナーカードをお返し致します。登録完了致しましたのでこちらの整理券を無くさないようお持ちください。順番になり次第、掲示板に番号が現れますのでお見逃しのないようにお願いいたします」

 

「バトルの基本ルールは使用できるポケモンは最大3匹まで、入れ替えアリ、持ち物アリ、道具なし、となっておりますが質問はございますか?」

 

「いえ、問題ないです」

 

 トレーナーカードの便利性はすごい。免許書+保険証のようなものだ。さて、自分は4階コロシアムが空き次第入ってバトルするようだ。緊張してきたが、ナットレイの戦い方は基本的に受けなため指示が少なくなりそうな気がする。鋼+草というタイプが優秀なのだ。欲を言えばゴツゴツメットか食べ残しが欲しいところ。

 

 掲示板を確認しに行くと、既に自分の前のトレーナーがバトルを終えていた。回転率がいいな。4階コロシアムに着くと相手がもう待っていた。

 

「初めまして、恭平だよろしくな!」

 

「俺はヤマビコ、よろしく頼む」

 

 やまおとこのヤマビコと軽く挨拶し、互いのポケモンをコロシアムの真ん中に投げ入れる。

 

「行くぞ御神木様!」

 

「クギュルルルルルル!!」

 

 やる気十分のようで何よりだ。前から不思議だったが、ポケモンにとってバトルは縄張り争い以外の別の意味があるのかもしれない。

 

「本邦初公開の新人だ、ゆけっ、ベトベター!」

 

「ベ~トベタ~」

 

 ボールの中から、1m程の紫色のヘドロがうねるように現れる。不定形に近いものの、目や手がしっかりと模られていた。その姿は、まるで、あの日に見た怪物のようで――――――反射的に逃げ出そうとする足を、力で無理やり硬直させてぶん殴る。

 

 過呼吸が止まらない。無理な姿勢で、全力で右足をぶん殴ったせいで、体勢を崩して無様にその場で転がった。何やっているんだ、俺は。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 ほら、審判がなんだコイツって表情している。痙攣している場合ではない。引き攣っていても笑って上手く返答し(ごまかさ)ないと。

 

「クギュル……」

 

 御神木様も見ているぞ。せっかく付き合ってくれているのに、恥をかかせてどうするよ。

 

「ハッハッハッ……だ、だい、じょう、ぶです。初めて、の、ポケモンバトルで、緊張、しちゃって……」

 

 暴れる心臓を右手で押さえつけて、吐き気を飲み込みながら、震える足に爪を食い込ませて立ち上がる。大丈夫。失礼な言い方だが、相手はただのベトベター。倒せる。御神木様なら。絶対に。

 

「試合、続行してください」

 

「…………わかりました」

 

 納得してくれたらしい。

 

 今の間に深呼吸を繰り返して呼吸を整える。落ち着け。指示がなければ好きに動いてくれとは頼んである。落ち着くんだ。あれはベトベターであって怪物ではない。だから俺はここで、ふんぞり返っているだけでいい。

 

 だが、決して目を逸らしてはいけない。義務の放棄だけはしてなるものか。

 

 すぐに戦闘が始まり、両者がゆっくりじわじわと近づく。どちらも素早さが低いのが相まって、非常にスローペースな戦闘が行われそうな雰囲気を醸し出している。

 

「ベトベター、【どくガス】!」

 

「ベトベタ~!」

 

 ベトベターの口から勢いよく紫煙が放出される。それでも御神木様は怯みもせずに【どくガス】の中に突っ込んで行った。

 

 だが問題はない。何故なら――――鋼タイプのポケモンに対して毒タイプの技は無効化されるからだ。

 

 一瞬の静寂の後、紫煙の中からぬっと御神木様が現れる。まるで何事もなかったかのように周囲の紫煙を纏いながら、ベトベターに【身体ごと突撃(たいあたり)】した。

 

「クギュッ!」

 

 ベチャリ! と酷く粘着質な水音が響き、周辺にヘドロ片が散らばった。勢いのまま貫通した御神木様が、振り返ってベトベターの動きを伺っている。正直、音だけ聞くとほとんどダメージを与えられていないような印象を受けた。何故ならば、粘体相手に物理技が通るイメージは湧かないから。

 

「散らばったヘドロが元に戻り、ベトベターに開いた穴がゆっくりと埋まっていくッ! まだ戦えるか!?」

 

 状況を煽る実況者を尻目に、御神木様がベトベターに向かって追い打ちをかけるように【何かを打ち込んだ】。打ち込まれたソレは、ベトベターの中心から発芽し、青々とした葉を生やした。【やどりぎのタネ】だろうか。生で見るとビジュアルが余計にえげつない感じになるな、これ。

 

 そのまま、復帰中のベトベター相手にマウントを取った御神木様が、【こうそくスピン】でヘドロの体積を減らしながら【やどりぎのタネ】で養分にするという地獄めいた光景が繰り広げられることとなってしまった。

 

 御神木様が、どうだやりきったぞとばかりに、ふんすふんすとこちらへ視線を向けてくる。ああ、これは、もしかすると……最初の俺の様子がこの地獄めいた光景の原因になってしまったのかもしれない。いじらしい事してくれるじゃないの。

 

 とは言え、俺のせいで悪い事なんて一切していない相手のベトベターに酷い事をしてしまったな……後で謝りに行かないと。

 

「ゆけっ、イシツブテ!」

 

「ラッシャイ!」

 

 空中に浮遊する大きな石が現れる。

 

 …………次の相手はイシツブテか、鳴き声はアニメ版だな。懐かしい。先程の光景のお陰か、精神的にはだいぶ楽になった。これなら指示も出せそうだ。

 

 相性や技では完全に勝ってるが入れ替えてくるかね? とりあえず嫌がらせに【やどりぎのタネ】かな?

 

「イシツブテ、【かたくなる】!」

 

「御神木様! 【やどりぎのタネ】だ!」

 

「クッ!!」

 

 その場から動かずに固くなっているイシツブテに対して、御神木様の【やどりぎのタネ】が直撃し、イシツブテにやどりぎが寄生する。てっきり入れ替えると思ったのだが替えないのか。青々となるまで体力を吸った【やどりぎのタネ】が時折脈動していて、少しホラーな絵面になっている。夜に思い出しそうだ。

 

「イシツブテ、【たいあたり】だ!」

 

 テッシード相手に接触技とは……テッシードの特性ってあまり知られていないのかね? 鋼+草というタイプと相まってかなり強力だと思うのだが。

 

「御神木様、耐えて【ステルスロック】をばら撒いてくれ」

 

 空中や地面に尖った岩がむき出しで設置される。フィールドが岩によって彩られ、荒々しい印象を受ける特製フィールドになった。

 

 テッシードとイシツブテが接触し互いに傷ついたようだが、こっちは【やどりぎのタネ】で回復している。この戦法リアルでやると本当にえげつなく感じる。が、今はバトル中なので積極的に行う。

 

「御神木様! 止めの【タネばくだん】」

 

「ギュルル!」

 

 イシツブテが種の形をした何かにぶつかり爆発を起こす。動きが鈍っていたイシツブテに、弱点である威力4倍の【タネばくだん】が直撃し動かなくなった。やったかね。

 

「イシツブテ、戦闘不能!」

 

「ごめんなイシツブテ。ゆけっ、ズバット」

 

 3匹目はズバットか。でも出た瞬間に岩がズバットの体にめり込みダメージを受けているな。ついでにタイプでは毒はいいが飛行がネックだ。転がるはまだ後ろにいる可能性が高いから切りたくないな。

 

「ズバット、【きゅうけつ】!」

 

「ドイーッピン!」

 

「御神木様、耐えて【たいあたり】だ」

 

「クギュ!」

 

 正面から【きゅうけつ】に来たズバットに【たいあたり】がモロに入ったらしい。ダメージが大きく飛ぶのも大変そうだ。膝ならぬ羽にきている様子がよくわかる。急所に当たるってこんな感じなんだろう。

 

「御神木様、止めの【たいあたり】だ」

 

「クギュ!」

 

 カウンター気味にぶつけられてズバットが落ちる。流石に耐久はあまりなかったらしい。

 

「ズバット、戦闘不能!」

 

 こっちはまだまだ余裕がありそうである。さすがの高耐久ポケである御神木様だ、なんともない。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 結局、やまおとこのヤマビコ戦は相性の差で圧勝してしまった。関係者各位に謝罪した後、一旦部屋に戻る。

 

 とりあえず、沈んでいたテンションを上げる為に酒を入れよう。醜態の詫びにお酒を渡してみると、チビチビと飲み始めた。御神木様もそれなりにイケる口らしい。

 

 その後調子に乗って3人と戦ったが、皆炎タイプのポケモンを手持ちに入れていて、御神木様は【ひのこ】を食らった瞬間に溶けるように倒れてしまい現在3連敗である。

 

 耐性はとても優秀だが弱点には極端に弱いのが御神木様だ。ゆえにその性質を利用して相手の思考を誘導しやすいはずなのだが、弱点タイプのポケモンが出ても交代できないのが辛い。弱点を補完している仲間を探す旅でもするかねぇ。流石に御神木様御1人に負担をかけ過ぎである。将来を見据えてパーティー案も練らなければなるまい。

 

「クーギュー」

 

 負担のお詫びに御神木様のボディを布でピカピカになるまで磨く。コンパウンドが欲しい。

 

 磨きながらこの世界では努力値があるのか気になったのを思い出し、御神木様をスマホで再度撮り直す。

 

 No.597 テッシード(御神木) 草/鋼タイプ ♀ 生意気な性格 色違い

  体力  31

  攻撃  31

  防御  31

  特攻  11

  特防  31

  素早さ 00

 

  覚えている技

  たいあたり

  やどりぎのタネ

  タネばくだん

  ステルスロック

  ころがる

  こうそくスピン

 

 うーん、どうやらレベルは無いのやも知れぬ。努力値も恐くない。でも進化してるポケモンもいるはずだからとりあえずバトルは続けてみよう。

 

 今ふと思ったがポケモン達って、進化するために意欲的にバトルに参加してるのかね? 謎が謎を呼ぶ感じだ。こうやってゆっくりできる時間は嫌いじゃないんだけどなぁ……うーむ。

 

 とりあえずあと5日で襲撃が来ると仮定しよう。まずどうにかしてダイゴさんに知らせないとな。俺と御神木様だけでは物量で無理だろう。

 

 まずは匿名の通報でも行うか。なんで俺はその場で通報しなかったんだろうか……テンパりすぎだろう。テンションとその場のノリで行動すると、こうやって後々後悔することが多いから後で困るんだよなぁ。

 

 自衛のためとはいえ、鬱陶しい人間を演じる以外にもっと他に楽な方法はないものか。

 

 


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