――自らの意志が、強固であるほど様々な試練に苛まれるものだ。無論、試練を目前に避ける事も出来れば、逃げる事も出来る。だが、試練の真意は、そんな己の心を克服することにある――
ハルカは別の時間に挑戦したいらしく別行動を取ることになった。きっと午後に挑戦するのだろう。調整のためか、今朝早く出かけて行った時には、久しぶりに緑色のバンダナをしているのをちらっと見かけた。案外気に入ってもらえているようで何よりです。
というわけでやってきました。目の前にそびえ立つはカナズミジム。今日、俺は……いや、俺たちは初めてのジム戦を行う。俺たちの満足のいく結果を目指す為に。
フクロウのマスクを被り直し、気合を入れ直す。
――さぁ……一歩前へ踏み出そう。
自動ドアが開き、少し暗めに設定されているエントランスホールが顔を見せる。その奥には前に話したポケモンアドバイザーの人がポケモンの像の横で立っていた。いつ頃から立ち続けているのだろうか?
「おーっす! 来たな未来のチャンピオン! とうとう挑戦するのか? 挑戦するのならここに現在所持しているバッジを記入してくれ」
「ええ、ようやくですよ。全力を持って挑ませていただきます」
マークシートに名前と今のバッジ数をそのまま素直に0と記入する。誠に残念なことにバッジはまだ一つも持っていないんです。他の地方のバッジもないのです。この部分だけ見られると、俺はかなり残念な人間に見られるんじゃないのだろうか? ――まぁいいか。事実だし。
俺は当たり障りのないことを言ったつもりなのだが自信アリと見られたらしい。腕を組んで頷いている。
「うむうむ。ならばここのジムリーダーツツジを破って見せろ! ここのジムは頑強な岩タイプを扱う。その中でもツツジはポケモントレーナーズスクールの講師を務めながらジムリーダーを兼業しており、岩にときめく優等生なんて異名も持ち合わせるほどの実力者だ! ゆめゆめ弱点さえ突けば簡単に勝てる相手だと思うなよ?」
「そんなことは百も承知していますよ。それでも勝つつもりなんです」
「よろしい。ならば奥へ進め! 今この瞬間から、君はこのジムの挑戦者だ! 挑戦中はジムから出ることは許されないぞ!」
「行ってきます」
軽くいなしながらエントランスから奥の部屋へ進む。エントランスを抜けた先の部屋は広く、直線の道にはフィールドが面しているようだ。ここのジムのフィールドは岩場。大小様々な岩が転がっており、中央には2m程の大きめで卵形の岩が設置してあるな。お互いが身を隠しやすいフィールドか……ふむ、有効に利用させてもらうとしようか。
奥の壁には幾つかポケモンの化石が飾られており、独特の雰囲気を醸し出している。個人的にはアーマルドの化石が好みだな。
いつも思うがアーマルドとかってなんで水に住んでいたのに岩タイプがついちゃったんだ……なんか一説によると化石からの復元が完全ではなかったかららしいが、本当にそうなのか? だとすると復活していざ水に入ったらなんか急にダメージ食らって涙目な化石ポケモン達を見ることになりそうなんだが。
いかん、また思考がぶれ始めた。戻さなくては……
フィールドのすぐそばにはジムトレーナーが3人待機しており、彼らを倒したらようやくジムリーダーに挑戦できるらしい。地形を利用する方法を色々と考えながら梯子を登る……結構高めだな。
斜め上からフィールドを眺めると、中央の大きな岩が絶妙に視界を確保するのを邪魔してくるのがわかった。あそこの周辺でツツジさんとやり合いたくはないな。ツツジさんとやり合う前に破壊するか……もしくはそもそも近づかないを地で行くかだな。
相手からも見えないだろうし、ここで危険な賭けを行う必要もないのだが……相手に利用される可能性が高いんだよな。相手はここのフィールドで戦うことを慣れているはずだし、不安要素を残すのもどうかと思う。
そんな感じで確認をしながらフィールドを眺めていると、反対側にあるトレーナー用の指示台に短パンの少年が立った。彼が最初の俺達の相手か。
「まずは俺からだ! 一番手のタロウ、行きます! ジムトレーナーを舐めるなよ! 実力の違いを見せてやる!」
決めポーズらしき指差しをした後に投げたボールはフィールドの中へ落ち、中央の岩の少し手前側にイシツブテが現れた。もう少し動かれたら死角になりそうだな。
「ラッシャイ!」
腹の底に響くいい鳴き声だ。その辺にいるトレーナーのイシツブテよりも強そうに見えるな。先ほどのセリフは伊達ではないようだ。
だが負けてやるつもりもない。前に出てくるというのならば粉砕して押し流してやる。
「大賀、まずは前哨戦だ。自分の力がどれだけ岩のスペシャリスト達に通じるか……感じてこい!」
「ス……ボッ!」
出てきた直後、辺り一面が岩だらけで一瞬ビクッと固まってしまったようだが、すぐに再起動できたようだ。少し動きがぎこちないがバトルが始まればこのぎこちなさも解消されるだろう。
「それでは基本的なシングルバトルのルールを確認します。
一つ、1対1で戦う。
二つ、傷薬などの回復アイテムは1度だけ。
三つ、手持ちのポケモンは最大6匹まで。
四つ、持たせることのできる道具は1つだけで他のポケモンと被ってはいけない。
五つ、最後のポケモンが自爆技で相手をひんしにしても自爆した側が負け。
六つ、最後のポケモンが【みちづれ】などの技で相手をひんしにしても【みちづれ】をした側が負け。
七つ、常に勝ちを目指し全力でバトルを行う。
以上です。なお、細かなところはルールブックを参照してください」
いつの間にか中央横の審判台の上にジャッジが立って基本的なルール解説を行っている。持ち物の制限についてもしっかりと考えているぞ!
今回は大賀に【たべのこし】、網代笠にサン・トウカで買ってきた【きのみジュース】を持たせている。御神木様まで回す気は最初からない。基本何事も起こらなければ大賀1匹で全てを終わらせるつもりだ。いきなりローテーションバトルとかしないよね?
あと、基本はありえないが、ルール違反をするとトレーナーカードの一時凍結と一週間の研修があるらしい。何やらかしたんだか……ちなみに一番最初にトレーナーカードを貰った人が、一番最初にトレーナーカードの一時凍結を受けたらしい。ますますトレーナーカードが免許証チックになったな。
うーむ、それにしても……このジャッジはどこから出てきたんだ? 全然気がつかなかったぞ……それになんだか見覚えのあるジャッジだなぁ。白いハーフYシャツに黒のズボン。あとは赤い蝶ネクタイか……どこで見たんだっけな?
「さてこのバトル、両者合意と見てよろしいですね?」
深呼吸を1回、落ち着いて頷いた後にバトルが始まる瞬間を待つ。
「それでは――――第1戦目、ポケモンバトルゥーーーファイトォ!!」
「大賀! まず【やどりぎのタネ】をイシツブテの右側から正面へ、次に1拍おいて岩周辺の上部にばら撒いて牽制! 最後にイシツブテに向かって左側からダッシュ!」
「スボボッ」
ポケモンバトルの開始した瞬間に指示を受けた大賀は、【やどりぎのタネ】をイシツブテにプレゼントして、直後に左回りでイシツブテに向かって走ってゆく。
「イシツブテ! 岩の影に隠れてやり過ごせ!」
正面から放たれた小石ほどの大きさの【やどりぎのタネ】を岩の影に隠れてやり過ごすが、すぐに時間差で斜め上からも【やどりぎのタネ】が落ちて来る。完全にあの場所に縫い付けられたようだ。大きく動かないということは、移動できても岩の影でしか動く気はないということか。
「そのまま隠れようとしているイシツブテにフルオートを食らわせてやれ!」
「スボボボボッ!!」
「ラッシャ……イッ!?」
横から大賀が飛び出る。その場で目を見開くイシツブテ。岩の向こう側に敵がいると思っていたらいきなり横から飛び出て来たのだ。びっくりもするだろう。岩陰に隠れてやり過ごしていたイシツブテは完全に硬直してしまったらしい。
「――ブルズアイ、だ。 【タネマシンガン】!」
こちらに返事をする前に行動を開始する大賀。
一瞬力んだ後にドガガガガガッ! と音を立てて、フルオート――ひと呼吸で、今出せる弾を全て撃ち出す――で撃ち込まれた拳ほどの大きさの【タネマシンガン】は、イシツブテに命中してゆく。偶に外れた種が設置されていた岩を削り、続く弾が細かく砕いて砂煙が立ち登り始めてしまった。これじゃあ確認できんな……王道の追撃グミ撃ちをするべきだろうか?
「大賀! 1度引いてこい!」
念には念を、だ。ただ、至近距離で25発連続発射の【タネマシンガン】だ。瞬間火力が高いため、まともに受けて耐えられる岩タイプはほとんどいないだろうと思うが……
しかし、これにも弱点はある。これを行うと射撃前には1度力む必要があるし、射撃後に大賀は呼吸のために2~3拍は動きを止めてしまう。全力疾走後に技を出し続けるのだし当たり前ではあるか。やはり押し切れそうな時にしか使えないのが難点だが、呼吸トレーニングや実戦を積めばもう少し隙を減らせそうだ。
砂煙が晴れると、【タネマシンガン】によって岩に縫い付けられていたイシツブテはそのまま地面に倒れた。動き出す様子もなさそうだ。そして追撃のように岩が崩れ始める。ここの岩脆いな。
「イシツブテ、戦闘不能!」
まず、一匹目。全身ヘッドショット判定の己を恨め。進化してもまだ、ほぼ全身ヘッドだけれどな! あと強そうとはいったいなんだったのか。
「くそう。戻れ、イシツブテ。【やどりぎのタネ】に当たってでも攻撃を仕掛けるべきだったか……イワーク! 今回の挑戦者は強いぞ!」
「イワーーク!」
だいぶ硬いポケモンが出てきたな。しかも素早さは地面や岩タイプの中ではなかなか速い。だが、お前は体力がポッポさん以下で物理攻撃力がポッポさんと同等、だったはずだ。当たり負けるなんてことはないだろう。【れいとうビーム】や【ギガドレイン】で攻撃すればすぐに決着のつく相手だと判断できる。
「イワーク! 【あなをほる】で地中を移動して【しめつける】だ!」
「グオォーッ!」
「大賀、少し離れた岩の上に移動!」
「スボボッ!」
一部の人にトラウマを残した【しめつける】を行うために【あなをほる】で視覚外から大賀へ迫ってくる。なんだかトレマーズみたいな状態になってしまった。あっちは捕食だが、イワークのような巨体に締め付けられるというのもなかなかの恐怖であろう。
大賀が移動し終わると、だんだんと地響きが近づいて来た。そして先程まで大賀がいた場所に下から勢いよく強襲される。その後、辺りの岩をいくつか巻き込みながらゆっくりと締め付け始めた。【しめつける】で締め付けられて、動けなくなってしまうのはマズイな。
「隙もないのに簡単に締め付けられると思うなよ。大賀、締め付けられる直前でジャンプで避けながらイワークの頭に【タネマシンガン】――バックショットで迎撃!」
「スビボ!」
ガリガリ、ミシミシと音を立てて締め上げようとしているが、丸い岩のような胴体を蹴ってぴょんと飛び越え、落下しながら狙いすまし、タイミングよく近くを通ったイワークの頭にバックショット――弾を一息で12発同時発射――を撃ち込む。
集弾率が悪く至近距離でしか使い物にならないが、フルオートよりも技の使い勝手はよい。撃ち出す直前に力むのは変わらないのだが隙が少なく、威力もそれなり以上だ。欠点は、やはり撃った瞬間少し体が浮くことか。だが、これもうまく使えば撃った衝撃で相手の攻撃範囲から逃げるなんてこともできそうだ。
「グゥオォォッ!!」
バンッ! と衝撃音が凄まじいく響き渡り、当たったイワークの頭が横に弾き飛ばされる。大ダメージだったらしく痙攣してその場に倒れ伏した。
今回の結果でバックショットは体が大きい敵により効果があると実証された。流石怪物退治のメイン武器とまで言われるショットガンをモデルにした応用技だ。まさか4倍弱点とは言え、あのイワークを物理で一撃とは……急所にでも当たったのだろうか?
今回の戦闘でどちらの応用技も机上の空論ではないのだと実証された。これでこの勝負もハルカの教材にもできるな。その前に何度かブリーフィングしながら見直ししないと……
「イワーク、戦闘不能! よってこの勝負、挑戦者の勝利!」
……あれ? もう終わりか。
「戻ってこい大賀!」
向こうでもボールにイワークを戻している。
「実力が違いすぎた…! オレは負けちゃったけど、岩タイプの恐ろしさはまだまだこんなものじゃないからな!」
そう言って肩を落としながらタロウは下に降りていった。特に何もさせてあげなかったし、ああいう負け方は今月の査定なんかに響くんだろうなぁ……まぁいいや、俺が気にしても詮無きことだな。残るは2人にジムリーダーが1人……この調子で勝たせて貰おう。
次は――残った二人共が指揮台に上がってきた。ダブルバトルか? 疑問に思っているといつの間にか横にいたジャッジさんが話しかけてくる。
「ツツジさんからの指示でダブルバトルに変更したいのですが、問題ないでしょうか?」
急なルール変更だな、おい。
「構いませんが普通こういうことは事前に告知するものでは?」
ここを受けようとする受験生泣いちゃいますよ?
「申し訳ございません。こうでもしなければ、ここのジムトレーナーでは挑戦者様とまともな勝負になりそうにないとのことでして……」
これはどう受け取るべきかな。確かにジムトレーナーが皆今戦ったタロウレベルなら苦ではないだろうと思うが……さっさと終わらせて、かかって来いということか?
「……わかりました。確認なんですが、ルールは先程の奴が1対1から2対2になっただけですよね?」
「そうです。ではご健闘をお祈りいたします」
そう言ったジャッジは、瞬きしている間に審判台の上に戻っていた。まさかあの人はニンジャか!?
「二番手のカツオさ。ボクに勝てる実力がないとツツジさんには絶対敵わないよ!」
「本来三番手のソウタロウだ。実力の差故、こちらが挑戦するつもりで戦わせてもらおう」
相手になるのは短パン小僧のカツオと山男のソウタロウか。
「カツオ、相手は俺たちよりも強いんだ。しっかり連携しないとすぐに負けるぞ」
「うるさいよ。本当に僕達より強いのかなんて、戦ってみないとわからないだろ!」
その状態でタッグでダブルバトルを行うなんて……本当に大丈夫なんだろうか?
「「行け! イシツブテ!」」
「「ラッシャイ!」」
出てきたポケモンは2匹ともイシツブテか。特に困ることはなさそうだな……強いて言えばさっきまであった岩がボロボロのチーズ状になって前衛的なオブジェと化しているぐらいか。アレなら【タネマシンガン】で貫通できそうだ――狙うか!
「大賀! もう一度出番だ! 網代笠! 訓練通りにやるぞ! これより、短パン小僧のカツオが出したポケモンを1、山男のソウタロウが出したポケモンを2と呼称する。」
「スボボッ!」
「キノコッコ!!」
伝達完了。両者気合十分なり。もはや大賀も周りにある岩を怖れてなどいないようだ。吹っ切れてきたみたいでよかったと心から思う。網代笠も最近訓練漬けだったから、ここいらで本当の実戦を体験するべきだろう。互のポケモンがスタート位置に立つ。そろそろか。
「それでは――――第2戦目、ポケモンバトルゥーーーファイトォ!!」
「先手必勝! イシツブテ、ハスボーに【たいあたり】!」
「イシツブテ、こっちもハスボーに【いわおとし】だ!」
開始直後にカツオのイシツブテが大賀に【たいあたり】をするために真正面から突っ込んでくる。それに対して冷静そうなソウタロウのイシツブテは少し引いた位置から【いわおとし】で攻撃するらしい。接近しないつもりか?
「網代笠は右周りでフィールド右中央付近に移動したあと、突っ込んでくる1に【タネマシンガン】! 大賀は一旦後ろに引いて岩陰から近い1に【タネマシンガン】!」
「スボッ」
「キノコ!」
ダダダダダッと発射音が響き、近づいてきたイシツブテに種がプレゼントされる。最早【タネマシンガン】のオンパレードである。あれだけ訓練したんだもの、成果は発表しないとね?
元より動きの遅めなイシツブテだ。真正面から突っ込んできたらただの動く的でしかない。避けることもできずに
「イシツブテ、戦闘不能!」
「なんだって!?」
そう言ってボールにイシツブテを戻し、新しいボールを手に取る。その反応、こっちが言いたいです。
そのすぐ後に、ガラガラガラッと大賀めがけて岩が雪崩落ちてきた。吹っ切れたとは言え、このままではダメージ的に問題はなくとも、精神的によろしくない。しかし普通に回避しても間に合わないだろう。
「大賀! 【れいとうビーム】で一瞬でもいいから壁を作れ! 作った壁が耐えている間に後ろを回って隣の岩に身を隠すんだ!」
「スボボボボッ!」
一瞬だけ【れいとうビーム】によって岩が凍りつき即席の壁になるが、後からやってくる物量にには勝てずに押しつぶされてしまう――――だがその一瞬でも十分なのだ。すぐさまその壁の後ろを通り隣の岩に隠れる。途中、飛び跳ねてきた石が当たっていたが大したダメージもないように見える。
「大賀、網代笠、反撃を始めるぞ! まず網代笠は【タネマシンガン】を3点バーストで1に叩き込め! 大賀は――」
「キノコッコッ!!」
「敵を取れ! イシツブテ。あのキノココに【いわおとし】だ!」
「何か来る! イシツブテ 【まるくなる】で防御を固めるんだ!」
「「ラッシャイ!」」
さっきから向こうはお互いの行動が裏目に出ているな。冷静になれば動き方も、もうちょっと良かったんだろう……こっちとしてはありがたいんだが。
「――奥で丸くなっている2に対して【ギガドレイン】で回復!」
「スビボッ!」
通常なら25発を5回に分けて発射する【タネマシンガン】だが、あえて8回に分けることで命中精度を向上させる。一回の射撃量は減ってしまうし、面による制圧力も低くなるが、コンスタントに当てられるというのはそれ以上のメリットがある。
これが向こうのFPSゲーを思い出しながら考案したポケモン版3点バースト射撃だ。なお残る1発は緊急用の予備として扱うのだが……ハルカからなんでそんな風にするのかという質問が多かったなぁ……
ダダダッ! と3発ずつ種が放たれる。最初の2回は動きながら撃ったせいか外れてしまったが、残る6回の射撃が顔面に命中する。潰した! と思ったのも束の間、相手の【いわなだれ】もしっかり行っていたようで岩が雪崩のごとく網代笠に降り注いだ。
その間にも丸くなっているソウタロウのイシツブテの体から緑色の光が大量に溢れ始め、大賀に吸い込まれてゆく。元々ダメージなどほとんどないだろうが、少ししたらあの生命力で体力が回復されるだろう。
この一撃で倒せるかと思っていたが、かろうじて、ギリギリ、後一歩でゴールしそうな感じの表情をして耐えたようだ。特性が頑丈――一撃で倒されないほど頑強な体を持つ。一撃必殺を無効化する――なのだろう。
網代笠は大丈夫か? と一瞬考えたがタイプ相性的に問題はないはずだし、直撃してもピンピンしているはずだ。一応追加の指示を出しておこうか。
「網代笠! その場で【きあいパンチ】!」
「キノコッ!」
姿は相変わらず見えないが、思いの外声は元気そうだ。戦闘は続行できるだろう。
「イシツブテ、戦闘不能! ジムトレーナーのカツオは指揮台の一歩後ろへ下がってください」
「ボクの負けか。凄い実力だ……だが、ツツジさんはボクの数倍は強い! 油断はしないほうがいいよ!」
ルール上、自分のボールから出しているポケモンが全滅したら、その人は負けとなる。ダブルバトルの場合はこれが厄介で、片方が敗れたからといって残った1人が追加でポケモンを出すことが認められていない。なのでこの場合――
「2対1でこっちがタイプ相性も勝っている。チェックメイトだな」
となる。
「これは……もう少しイシツブテ合戦で体や心を鍛えるべきだったか。無念……だが、ギリギリまで粘らせてもらうぞ」
「粘るのは構わないが、それは本当に心を鍛えられるのか? イシツブテが全身でホウエンの空気を感じているだけじゃない?」
ソウタロウが色々な意味で一番危なかったよ。バトルでは普通に勝ったのに。
ちなみに……まさかここのジムそれで鍛えてるって訳じゃあないんだよね? 正式な訓練じゃないんだよね!?
圧勝気味な理由としては、タイプ相性で優っており、その上練度が主人公のポケモンの方が高いからですね。主人公のポケモンがだいたいゲーム換算だと2~3レベル高いです。