カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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 ~~技と考察~~

 

「これだけ用意すれば十分かね?」

 

 そう言って印刷をやめる。その総数150×4枚なり! 印刷した紙にはターゲットの円が1/4にカットされた状態になっている。

 

「キョウヘイ先生……なに印刷したの?」

 

「これか? 今日から行う【タネマシンガン】という技の訓練に使う的だ。90度ずつの扇状を組み合わせて円にして使うつもりだ」

 

 場所は、カナズミシティにあるレンジャーハウスのトレーニング場を借りた。流石に公共の場でこれをトレーニングするのは跳弾も含めて危険過ぎる。

 

「ふーん……ねぇ、ついて行ってもいい?」

 

「構わんが、傍から見て面白くは見えないと思うぞ? 色々と実験しながらやるし」

 

「まぁ、いいから」

 

「しょうがないなぁハルタ君は」

 

「誰ですかハルタって」

 

 ハルカが何かメモ帳らしきものに書き込んでいる。おのれは記者か何かか?

 

 今回トレーニングする前に色々と考察したことがある。まずはこの技の名前だ【タネ[マシンガン]】。そうマシンガンだ。少し気になってパソコンや辞書で調べたが、機関銃なんて言葉は検索には引っかからなかったし、そもそも銃器の銃の字ですら変換、検索できなかった。重機はあったのに……ちなみに採掘用のダイナマイトのようなものもあった。

 

 まぁそれはともかくとして、ならばなぜこの世界にはないマシンガンなんて言葉がこの技には当てられているのか? 俺は不思議でならなかった。

 

 そして唸りながら行き着いた結果は――――俺の頭、アルセウスに軽く弄られているのではないか? というものだ。

 

 そこで、先日ハルカに頼んで【タネマシンガン】の技マシンの名前を言ってもらったところ、口の動きや音に違和感を感じなかった。が、どうにも少し異なる動きをしている気がする。ここまで調べ、俺が出した結論は――

 

 ――俺にわかりやすく意訳する為に、アルセウスが【さいみんじゅつ】でも使った、だ。

 

 恐らく、俺がこの世界でやりやすいようにお膳立てでもしたのだろう。脳が勝手に翻訳していると言ってもいいのかもしれない。口も俺はマシンガンと言っているつもりだが、きっと違う言葉なのだろう。ぶっちゃけ、ここまで違和感を感じさせないとか【さいみんじゅつ】を舐めていたな。他の奴らからやられたら厄介なことこの上ない。使えそうなポケモンが敵に現れたら真っ先に潰す対象にしよう。

 

 たぶん自宅の扉開けた瞬間だろうか? 俺にとっては一瞬だったが精神弄られていたらそりゃ一瞬に感じられるだろうさ。ただ、癪ではあるが、今更解けても指揮系統で面倒になりそうだな。今度、何を、どう弄ったのか聞く必要はあるだろう。

 

 また思考が飛んでしまった。

 

 要はこの種を相手に向かって連射する技を、他の銃に見立てて訓練することはできないだろうか? というものだ。この技の特徴などを理解し、なおかつ他の銃に見立てられるのならばかなり技の幅が広がってゆく。

 

 マシンガンの本来の使い方である弾幕張り。PDWのような近距離での高速フルオート射撃。アサルトライフルのような命中精度を重視する3点バースト射撃。ショットガンのような多数の弾丸を同時に発射するバックショット。もしくは壁や障害物を破壊し突き進む道を作るスラッグショット。今ぱっと思いつくだけでもこれだけある。

 

 果ては、弾頭の形も変えられるかどうかを調べる。

 

 これが今回の訓練の目的であり、そのついでにこの技の練度を上げて、ワンホールショット――射撃によって目標物に貫通痕を残し、その弾痕を的として連続射撃する技術のこと――を達成できるのではないか。というものも企んでいる。

 

「これが訓練内容?」

 

 

 

 ~~ハルカの観察日記ver.2~~

 

 明日はキョウヘイ先生の一日を追ってみようと思う。思ったこと、気がついたことは随時書き込んで、夜に清書するつもりだ。なお、会話はボイスレコーダーに記録したものを載せることにする。

 

 翌日の早朝、時刻は05:30。

 

 ゴソゴソという音で目を覚ます。薄目を開けて確認すると、馬のマスクを身に付け、スポーツウェアに着替え終わったキョウヘイ先生が立っていた。ちょっとしたホラーかも。一瞬だが眠気が飛んでしまった。

 

「ん、起こしちまったか? まだ時間早いから寝ていていいぞ」

 

「うん。きょうへいせんせいはどこかいくの?」

 

「だいぶ眠そうだな……軽く街を走ってくるだけだ」

 

 それから1時間程してからキョウヘイ先生は帰ってきた。すぐにお風呂に入りに行ったみたい。最近体臭を気にし始めているようだ。今見直すと眠気からかミミズのような字になっていたかも。以後気をつけなければ。

 

 朝、時刻は07:00。

 

「今日は珍しくもう起きているんだな」

 

「わたしだっていつも惰眠を貪っているわけじゃないんですー! そう言うキョウヘイ先生はお風呂入った後何やってたのさ?」

 

「俺か? 風呂入ったあとは下の厨房の一部を借りてピクルスの瓶詰めと昨日作ったアメちゃんの確認をしてきたんだ」

 

 キュウリのピクルスって酒が進むんだよなーと嬉しそうにバックから瓶を取り出す。すると太い瓶が3本も現れた。

 

「結構多いね」

 

「誰かさん達が摘んでいくからな」

 

 いったい誰なのだろうか? 謎である。

 

 時刻は08:30。

 

 下のコピー機にキョウヘイ先生がずっと陣取っている。何かを印刷しているようだ。

 

「キョウヘイ先生……なに印刷したの?」

 

「これか? 今日から行う種を発射する技の訓練に使う的だ。90度ずつの扇状を組み合わせて円にして使うつもりだ」

 

 ああ、あのアロハなおじさんから貰った技マシンの技かな? 確か、わたしも一緒に確認をしたモノだ。

 

「ふーん……ねぇ、ついて行ってもいい?」

 

「構わんが、傍から見て面白くは見えないと思うぞ? 色々と実験しながらやるし」

 

 実験? またおかしなことを行うのだろうか?

 

「まぁ、いいから」

 

「しょうがないなぁハルタ君は」

 

「誰ですかハルタって」

 

 メモ帳に情報を書き込み顔を上げると、キョウヘイ先生がスクラップブックから何かしら書き込んである紙を取り出した。

 

「これが訓練内容?」

 

「大まかな、な。基本を中心に今できることを更に発展、応用させてみよう! って感じで」

 

 この時は聞き流していたが、録音を聞くと考察などを語っていたようだ。

 

 現在、時刻は10:00。

 

 早速訓練を始めたがとても不思議な感じだ。わざわざ発射の感覚を開けていたり、連続で発射できないか試して一喜一憂してみたり。あとは種が当たったところを記録しながら訓練をしている。

 

 今もキョウヘイ先生の手持ちの3匹が横並びで的を狙っている。比較的、大賀が上手いかも? 円の真ん中に当てようとしているようだが、50mも離れているためだいぶ苦労しているらしい。

 

「これ競技にしたらポケモン達も楽しめると思わないか?」

 

 楽しそうではあるかな? だいぶ難しいみたいだけれど。

 

「キョウヘイ先生。いつも考えていたのだけれど、技をそのまま使うだけじゃだめなの?」

 

「最初のうちはそれでもいいと思う。でもさ、いろいろな状況を想定して技を使うようになったら、それだけじゃ手札が少なくなるんだ。例えば御神木様の扱う【ステルスロック】もそうだろう? あの技と他の技の組み合わせ次第で防御、攻撃、妨害が行える。俺もかなり重宝しているな」

 

 使い方次第で覚えていない技のような動きもできるんだと語っている。

 

「こういう訓練をしないと、その場で名案を思いついても実行できずに泣く羽目になるかもしれない。まぁ、変に固定観念に囚われずに色々と技の応用や組み合わせに挑戦すればいいんじゃないか? こんな感じのってできそう? みたいに聞かれたらアドバイス出来るかもしれん」

 

「あーじゃあ今のワカシャモにできそうな技の応用ってある?」

 

 今思えば他に聞くことはなかったのだろうか?

 

「そうだな……今は【ひのこ】を出せる量を上げるとか、火力を上げるとかぐらいしか思いつかんな」

 

 ここまで引っ張っておいてそれですか……

 

 時刻13:15。

 

 先ほど昼食を食べたので、これからこの時間帯の付近のポケモンの生態調査を行う。特に気になった会話はなかった。

 

 時刻19:00。

 

 調査を終え、お風呂に入った後、夕食を食べた。今日は魚介類中心らしい。

 

「ハルカ、この中の質問をランダムで言ってくれないか?」

 

「構わないけど……ナニコレ?」

 

 人の体に複数の点がマークされている。ページを捲ってみるとポケモンにも種族ごとに複数箇所マークされていた。

 

「整体師用の問題集だ。人間のツボもポケモンも載っているやつでな」

 

 なんだか最近キョウヘイ先生が資格マニアに見えてきた。

 

「資格……取るの?」

 

「あったほうがいいだろ?」

 

 あったら……最近酷い肩こりや背筋をほぐしてもらえるのだろうか……

 

「セクハラはダメですよ?」

 

「せんよ。あと可愛く言っているところ悪いが、メインはポケモンだぞ?」

 

「……分かってましたよ。ええ、わかっていましたとも!」

 

 ただ、一度だけやってもらった時は魂が出るかと思った。アレはヤバイ。あれだけの腕を持っているのにまだ資格を持っていなかったのか。

 

 時刻20:00。

 

 お父さん用の資料の確認を頼まれたので、目を通しながら横で行っている恒例の作戦会議に耳を向ける。

 

「さて、本日の本日の訓練の結果から鍛える方向性が決まったので発表します!」

 

「スボッ」

 

「キノコッ」

 

「クギュル」

 

 みんな律儀に返事と軽い拍手のようなものを行っている。ツッコミは激しいが、なんだかんだで仲がいい主従だと思う。

 

「とりあえず、適正の高そうな大賀は全種類。接近適正の高かった網代笠はバックショットやフルオート、持続力が良かった御神木様は弾幕や3点バーストをメインに鍛えていきます! そこ! めんどくさそうな顔しない!」

 

 どうやら御神木様が嫌そうにしているようだが、理由としては今日の訓練でキョウヘイ先生に、「5分ぐらいずっと同じテンポ、同じ速度の種を連射できない?」なんて無茶ぶりされて、2分ぐらい息も絶え絶えに訓練をしていたからだろう。

 

「ちなみに全ての基本動作は皆さんに覚えてもらいます。次にこの技を使用する際の動き方だが――」

 

 こんなことを毎日行っている。最近はわたし達も参加するようになった。

 

 時刻21:00

 

「ん~? 何の匂いだろう? ……森っぽいかも?」

 

 資料の訂正に集中していたらしい。森林のような香りがいつの間にか部屋に漂っていた。横の方でマッサージをするための準備をしているキョウヘイ先生に聞いた。

 

「これか? フラワーショップ サン・トウカでリラックス効果の高いお香を貰ったからな。草タイプによく効くらしいから使ってみようかなと。炎タイプ用の木炭の香りも貰ってきたぞ」

 

 木炭……炎ポケモンって木炭の香りが好きなんだ……初めて知った。

 

 各ポケモン用にマッサージオイルを変える徹底ぶりだ。最近だとツボを緩やかに刺激するための鈴っぽいモノも使っていた。

 

 時刻22:00

 

 就寝時間なので部屋の電気を消す。まだ軽く森林の香りが部屋の中を舞っているのを感じた。

 

「そろそろ寝ておけよ? また明日辛くなるぞ?」

 

 そのはずなのに枕元のライトが点けっぱなしだ。

 

「はーい……キョウヘイ先生はまだ寝ないの?」

 

「なんか、こう、あと一歩で技の組み合わせとかの名案が浮かんできそうなんだ。光のボリューム下げるから、先寝ていてくれ」

 

 ギリギリまで起きているつもりだったがいつの間にか寝てしまっていたようだ。

 

 全体を見直すとキョウヘイ先生は予定は立てるが、結構マイペースなんだなと再確認できた。ポケモン中心で生活をしているようだが息抜きはできているのだろうか?

 

 

 

 ~~音楽性の違い~~

 

「ポケモンの笛かぁ……」

 

 単純に自分で演奏するタイプのアプリかと思っていたけども、これはプロの笛の演奏を聞けるアプリなのね。試供品の時点で60曲も入っているとは大盤振る舞いだ。流石、大企業はやることが違う。

 

 さっきからシャッフル再生しているけれども、ちょっと試供品だからって侮っていたかも。思っていた以上に好みの曲が多い。かなり腕のいい奏者さんと契約したのだろうか。毎朝のジョギングはこれ聞きながら走ろうかな。

 

「さっきから鼻歌交じりで歩いていると思っていたけど、早速試供品で貰ったアプリを突っ込んだのか」

 

「うん。ポケナビの容量的に問題なかったし、バージョンアップの為に是非感想を聞かせて欲しいって頼まれちゃったから……もしかして、音漏れしてた?」

 

「おう。少しだが漏れているな」

 

 帰ったらすぐに感想と曲の追加について書かないと! という意気込みが強すぎたらしい。気がつかぬうちに、いつの間にか音量が大きくなっていたらしい。

 

「いやはや、気合入っているねぇ……」

 

 なんで急にジジ臭くなっているのだろう? そんなにデボンコーポレーションでの交渉に疲れたの? 

 

 あと、いい加減そのキリンのマスクは外した方がいいんじゃないかな。さっきから通る人の注目を集めている。キョウヘイ先生はその辺りワザとやっているのだろうけど……あんまり触れない方がいいのだろうか?

 

「キョウヘイ先生はポケモンの笛は入れないの? なかなかいい曲が多いと思うのだけれど」

 

「……元々、笛の音はあんまり好きじゃないんだよな。個人的にはピアノとかの方が好みだ」

 

 本当に普段よりもテンションが低い。返し方も少し雑な気がする。

 

「なんか意外かも……」

 

 なんかこう……普通の楽器は面白くない! 珍妙な楽器こそ音楽を表しているのだ! みたいなことでも言い始めるかと思っていたのに、素の答えが返ってきた。

 

「あと笛の音って偶に寒気を感じる音を出すだろ? あれが苦手な原因だと思う」

 

「寒気を感じる音?」

 

 なにそれ。わたしそんなの感じたことないのだけれど?

 

「こう……ゾワっと全身に鳥肌が立つ音というか、頭に残って響き続ける気持ち悪い音というか……」

 

 んー? つまり……

 

「黒板を爪で引っ掻いたような音?」

 

 ダメな人は本当にダメらしいし、キョウヘイ先生もああいった音は苦手なのかな?

 

「あー、あんな感じに近い。ついでにさっきから漏れ聞こえている曲の中にもソレが混じっているから、実は結構ダメージ食らっていたりする」

 

「……ごめんなさい」

 

 だからやけにテンションが低いのね。だけど、それなら早めに音漏れを指摘して欲しかったかも。

 

「いや、こっちも早めに言ってやるべきだった。すまん。ただ、寝ているポケモンを起こす曲や、ポケモンを呼び寄せる曲も入っているとのことだから……どの道俺も聞くハメになる」

 

 そう言えばそんなことも言っていた。

 

「どうする? アプリ使う時だけでも耳栓する?」

 

「……そう、だな。一応後で買おう。あと、どの曲がダメなのかを確認する必要がある。悪いがちょっと付き合ってくれ」

 

「わかったかも」

 

 そのままポケモンセンターに戻ってポケモンの笛について色々と試した結果、キョウヘイ先生がそのままダウンしてしまった。だから無理しない方がいいと言ったのに。耳栓も後日買うらしい。

 

「というか、普通音ぐらいであそこまで体調不良になるものなの? いや、確かに嫌な音聴き続けていたら気持ち悪くはなると思うけれども」

 

 ボソボソとぼやきながらも手は動かし続ける。こういう時にお父さんの仕事を手伝っていた経験が活きている気がするかも。

 

 60曲中4曲アウト。これは思っていたよりも少なかったらしい。この4曲は他の曲と比べてかなり前衛的な曲調となっていた為、笛の音の好き嫌い以前に曲調そのもので評価が分かれそうな曲だと感じた。ただ、どれもポケモンに対して効果がある曲ではない。シャッフル再生でもしない限り、このままお蔵入り。削除機能が追加されれば、キョウヘイ先生は真っ先に削除にかかる気がする。

 

 それにしても、この4つの曲の補足に共通して書かれている実験的な曲ってどういう意味なんだろうか? 曲調がってこと?

 

「この曲は43秒目のこの部分で、こっちの曲は1分2秒辺り。これは……」

 

 確認の為に声に出しながら、どのタイミングがダメだったかを記録していく。すると、だいたい同じような音に嫌悪感を示すことがわかってきた。

 

「笛の音で高音がダメってことなのかな」

 

 ただ、笛の音自体がかなり独特というか……発音するとIli、Ke、Teに近いかも? この音って一般に売っている笛で出せる音じゃないよね……実験的って楽器も含めてなのかな。

 

 まぁ、その辺は感想を送った時にでも聞いてみよう。とりあえず、キョウヘイ先生が復活したらこの資料渡さないと。

 

 

 


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