カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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耳鳴りと掘られた言葉……そして【あいいろのたま】

「と、言うことで偶には挑まれる側になってもらうことにします。待ち合わせ場所はポケモンセンターのエントランスな。それと、今日の夜はポケモンコンテストの見学に行くつもりだからバトルは18:30までにな」

 

 ミツル君やミツル君の伯父さんも一緒に見学しに行くことになっている。

 

「……倒れた次の日からそんなにアグレッシヴで体力持つの?」

 

 ジト目で顔を見られる。照れるじゃないか。

 

「あ、もじもじするのはやめてください。視覚的に鬱陶しいから」

 

 そんなご無体な!

 

「まぁ、昼からほとんど動かないんだ。夜ぐらい少し行動しても問題ないさ」

 

「ふーん……それにしても、色違いのラルトスか~エスパータイプのポケモンとは戦った経験がないからちょっと新鮮かも?」

 

 本当に? みたいな感じのニュアンスが最初のに含まれているのであろうが、今のところ問題は無い。きっと俺の方から近づかなければ問題ないはずなのだ。まさか地雷が自ら自走してくるなんてことはないはず……ないはず!

 

「ちなみにわかっていると思うが、最初からワカシャモを使うのは無しな。ゴンベかガーディでどんな風にバトルをするのかを教えてあげるんだぞ」

 

「わかってる! でもその間キョウヘイ先生は何をしているの?」

 

「ん~たぶんお話し合いだな。そう言えば後でジョーイさんから面会謝絶の札貰ってこないとな……ああ、あとテンカイさんにも謝罪の電話をしないと……」

 

 ボソボソとこのあとの予定がこぼれ出す。

 

「あ、あともう一つ頼むことがあるんだ」

 

 そう言って、ボールから御神木様達をその場に出す。

 

「? 何かありましたっけ?」

 

「少しばかり訓練をな。トレーナー……もとい、俺の指示なしでも合理的に動けるようになって欲しいから、時間があれば御神木様達もバトルに混ぜてやってくれないか?」

 

 丁度いい機会だ。御神木様達は特殊な実戦を行える。ミツル君はバトルの経験ができる。ハルカは人に教える経験ができる。一石三鳥だ。

 

「トレーナーの指示なしでポケモンバトル……ですか?」

 

「何って言うべきかな……相手の放った技をどんな感じで避けるか。なんてのはその場でポケモンが決めた方がすぐに行動できるし隙も減るだろ? 元々野生だった時はソレが出来ていたはずなのに、トレーナーに全てを任すとこれができなくなってきてしまう」

 

「それを補うのがトレーナーじゃないの?」

 

「確かに指示などでバトルをサポートするのがトレーナーだ。でもな、共に歩むとしても全て相手任せというのはマズイ。俺は、トレーナーは一歩離れた場所から見ているのだからその離れた視点で気付いたことや、ポケモンが判断に困るような選択肢を狭めてやる指示をするべきだと思っている。それに今後、こうやって俺が行動不能になる可能性もあるしな。なぁに、確かに高い練度が必要になるが、いつも勉強会の中で動き方やその理由、メリットやデメリットを説明し、訓練してきているんだ。問題ないだろうさ」

 

 要はポケモンがメインに戦っているのだから、こういうこともポケモンが出来るようになったほうがより強くなれるだろう? ということだ。あんまり長い指示だと聞く方の反応がその分遅れてしまうしな。実際、高度なバトルだと精々避ける方向を言うか、攻撃が来る方向を言うぐらいの余裕しかなさそうだし。

 

 本来はそういうのも含めて練度が高いということなのだが、変に指示を待つように訓練してしまうと、とっさの事に混乱したまま指示を待ってしまい、何もできない間に倒されてしまうなんてこともありうる。なので、トレーナーはバトルに備えての訓練や相談役みたいなコーチ的な感じが一番だと思うというのが今の俺の持論だ。

 

 ただ、監督だと上から見ている感じになるから、俺が目指している感じと少し違う気がするんだよね。それになんか私物化している感がいやだ。

 

 そして、これに慣れたら指示なしで御神木様VS大賀&網代笠なんていうことも出来るようになるだろう。きっと面白いぞ!

 

「うーん……わかった。でも、理念や戦い方は今度もう少し深く教えてもらいたいかも」

 

「もちろんだとも。意見交換はしっかり行うさ。俺の考えが必ずしも正しいとは限らないし、疑問に思ったことはその場で聞いてくれ」

 

 他人からつつかれる事で分かる問題もあるし大歓迎だ。

 

「よーし、じゃあエントランスに行ってくるね!」

 

 ハルカの後ろについて行く御神木様達。大賀が御神木様を頭に乗せ、網代笠はマイペースに歩いて病室から出て行った。

 

 さて、俺もジョーイさんに面会謝絶札と室内での通信機器使用許可を貰いに行かないとな……

 

   ◇  ◇  ◇

 

 この後にそのダイゴさんを含めた3人で話し合いがあるんだよなぁ……気が重たくなってくる。聞きたいことって一体何だろうか? アダンさんが聞いた感じだとそれなりに緊迫したような感じだったらしい。俺が起きたらすぐに連絡が欲しいとまで言っているとなるとそれなり以上のナニかがあったと考えられるが……

 

 ポケモンセンターの屋上で、柵に片手置きながらポケナビに番号を打ち込んでいく。プルルルルとコール音が2回鳴り響いてからガチャリと電話が繋がった。

 

「はい、デボンコーポレーション専属トレーナーのテンカイです」

 

「テンカイさんですか? 私はオダマキ研究所専属トレーナーの小野原恭平と申します。先日は予定時間に面会できず、お騒がせしてしまってすみませんでした」

 

「いえ、それよりもお体は大丈夫なのですか? 今朝もニュースになっていましたが……」

 

「かなり大げさに報道されているようですね。一応、体を動かす程度は問題ありません」

 

 ただ、せめてもの救いはどこの所属かという情報は流れていなかったというものだろう。それも時間の問題かもしれないが……それにしても火傷から爆発したとかどうなっているんだ! 情報が錯綜するにも程がある。俺はプリニーか何かか! おそらくは火山が噴火(爆発)した、というのと混じったのだろうが。

 

「そうですか、ご無事そうで何よりです。昨日15時頃にお見舞いに伺ったのですが面会謝絶になっていましたので……」

 

「すみません。その時間帯はまだ意識が戻っていなかったみたいです。それでですね、今日お電話させていただいたのは、代わりの日に面会できないかと思いまして……」

 

「こちらは構いませんよ。代わりの日程はどうしますか? 私は明日から2日間休暇がありますが」

 

「ありがとうございます。そうですね……明日は教え子や知り合いの少年と育て屋へ見学に行く予定ですね。明後日は空いていますよ」

 

 これは明後日合流する感じかな?

 

「育て屋ですか? 私ももう少ししたら行こうと思っていたので、もしよければですが明日ご一緒させて貰えませんか?」

 

「誰か預けているのですか?」

 

「いえ、実家です」

 

 帰省ですか。幼い頃からポケモンと触れ合っていたからこそ、ポケモンバトルも強いのかな? それと俺の場合帰省ってどうすればいいのだろうか? アルセウスに言えばどうにかなるのかね? 仮に結婚して子供ができたら顔合わせぐらいはさせてやりたいのだが。

 

「ああ、なるほど……恐らく問題ないと思います…ッ!? …で、では、何事もなければ、明日の……育て屋前に集合で問題ないで、しょうか?」

 

 急に、軽い不快感と共にガリガリ、ザーザーとまるでスノーノイズのように鳴る耳鳴りが流れ始める。なんだ!? さっきのアレがフラグだったのか!?

 

「? どうかしましたか?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

 自分は今しっかりと喋れているのだろうか? うまくあたまがまわらない……相手の声だけがはっきりと聞こえてくる。だんだんと平衡感覚が狂ってゆき、転落防止の柵にもたれ掛かってしまった。

 

「大丈夫ですよ。ではまた明日よろしくお願いしますね」

 

「こちらこそ、よろしく、お願いします……」

 

 電話を終えてすぐ、そのあまりの耳鳴りに足が崩れ、その場にしゃがみこむ。鎖が体に纏わり付いてくるような不快感や耳鳴りにじっと耐えていると、連動するようにポケモンセンターの下が騒がしくなり始めた。ただ、今はそれを気にする余裕もない。

 

 次第に酷くなってゆく不快感や耳鳴りを耐え、手すりに持たれながらジョーイさんの居る1階まで一段一段ゆっくりと足を踏み外さないように降りてゆく。せめてもの救いはあの火傷の時ほど痛みがないことだろうか。ジョーイさんは……慌てて奥で飲み物の準備をしているようだ。そろそろ完全に平衡感覚がなくなりそうなのでラッキー辺りに手を貸して貰いたいのだが……

 

「す、すみません……深夜に、頼んでおいた、面会謝絶、の、札を、受け取りに、来たの、ですが……」

 

「キョウヘイさん? コレとコレとコレ持って早く病室へ行ってくださ……どうしたんですか!?」

 

 凄い勢いで高そうなお茶とお茶請け、面会謝絶札を渡されそうになったが慌ててそれが引っ込み、盆を机に置かれた。ジョーイさんによって、流れるような動作で棚の奥から取り出したガーゼを耳に当てられる。どうやらいつの間にか耳から出血していたようだ。気がつかなかった……

 

 普段ならば血の気が引く肉体的な接触も、今は気にしている余裕もない。

 

「何かで耳を痛めましたか?」

 

「い、いえ……先ほどから急に縛られるような不快感と耳鳴りが……平衡感覚もなくなりそうです……」

 

 けたたましい雑音の中でも人間の声だけがはっきりと聞こえてくる……歪な感覚。

 

 キモチワルイ。

 

 ガーゼを受け取り、自分で耳を覆って塞いでみても意味がないようだ。耳以外から聞こえるような違和感が先程から拭いきれない。

 

「急に……ですか? 何か他にありませんでした?」

 

「何か……そう言えば……耳鳴りがして少ししたら下の方が騒がしくなっていました」

 

 あの辺りから音が大きくなった気がする。

 

「それは恐らくチャンピオンが……チャンピオンのダイゴ様が直接話がしたいと先ほどご到着なされたからだと思います。既に病室に待機されていますがその様子だと無理だと判断させて――」

 

「待ってください」

 

 うまく回らない頭を無理やり回転させて思考する。電話でも良かったハズなのにダイゴさんが目立つの覚悟でわざわざここへ来た? 何だ? それほど機密性が高い情報なのか? 少なくとも今回の情報はそれほどまでに重要性が高いのだろう。

 

「重要な……とてもとても重要な話なんだと思うんです。恐らく今も情勢が緊迫するほどに……でなければわざわざ直接ダイゴさんは来ないでしょう……?」

 

「しかし」

 

「お願いします」

 

 意地で耳鳴りを耐え、頭を下げる。

 

「…………ハァ、わかりました。その代わり奥の臨時病室で寝ていてください。ラッキー! 今の聞いていたでしょう? 私はダイゴ様を迎えに行くから彼をベッドまで運んであげて」

 

「 ッキ !」

 

「ありがとうございます」

 

「そう思うなら今度から体を大事にしてください」

 

 善処いたします……揺れる体を支えてもらいながら奥の部屋に入り、ベッドに座る。

 

「ラ  キ ?」

 

 飲める? みたいな感じでラッキーからおいしい水が手渡された。ただ、ポケモンからの声は雑音でかき消されかけているため、行動とニュアンスでの判断だ。軽くペットボトルの半分ほど飲み込むと、少しだけノイズが軽くなった気がした。縋る思いで残りの水も一気飲みする。プラシーボ効果かもしれないが意志の支え程度にはなるだろう。

 

 だんだんと大きくなってゆく不快感の中、待っているとラッキーが何かに反応をした。恐らく部屋の前にもう立っているのだろう。すぐに扉が開き、アタッシュケースを持ったダイゴさんやアダンさん――

 

 ――そして、大音量のノイズを耳元で固定してから流されたような音の暴力が俺に襲いかかってきた。耳からはだらりと鮮血が流れ始める……気絶したいのに気絶できない拷問を受けているかのようだ。

 

「ガァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ!!」

 

 耳を塞いで声を上げる。そうして獣のように身を守ろうとするがやはり意味がない。ただ、どこからソレが流れてきているのかはようやく理解出来た。ダイゴさんがナニかを持ってきている。ソレが自分に対して赤い波動を出し、縛り上げ、害しているのだ。

 

「!? どうしたんだ!」

 

「ソレを持って来るな! ソレを俺に近づけさせるな!」

 

 視界が赤い……これは意識的なものなのか、視覚が狂っているのか、血涙しているのか認識すらできない。ただただ不快で、禍々しくて……アタマガイタイ。今すぐにでもソレを破壊しなければならないという考えが頭の中に浮かんでくるが、己の意地でそれを塗りつぶす。ソレこそがダイゴさんが直接俺の元に来た原因なのだろうから、ソレを破壊などしていいわけがない。

 

「グゥゥ”ッ!」

 

 腹のそこから溢れ出す声。除外したはずの考えがいつまでも頭の中で堂々巡りし続ける。

 

「……すみませんアダンさん。これを持って少し離れていて貰えませんか?」

 

「…………では、少し歩いてきます」

 

「うぅ”……117番道路の方へ離れてくれッ!!」

 

 火山に近づけさせてはいけないと本能が叫び上げる。

 

「……わかりました」

 

 アダンさんが走って離れてゆくのと同時に、少しずつ不快感やノイズが小さくなってゆく。やはリアレハ……

 

 ――待て。今、俺はいったい何を考えていた? ……意識が飛んでしまっていたようだ。瞬間的に記憶が抜け落ちている。

 

「ハァ……ハァ……ッン、ハァ……」

 

 ようやく体が楽になり、呼吸を整えているといつの間にか、手の横に【あいいろのたま】が転がっている。引き寄せられるように【あいいろのたま】へ手を伸ばし握り締めていると、ラッキーが心配そうな目をしてこちらを見ていた。

 

「ハァ……ハァ……すまないが……水を……」

 

「これでいいか?」

 

 ダイゴさんがおいしい水を差し出してくれていた。一気に飲み込みながら汗で濡れた顔を袖で拭うと、拭った袖にはべっとりと血液が付着している。

 

「これ、は……?」

 

「キョウヘイ……いや、オノハラキョウヘイ。以前聞いた質問をもう一度問いたい」

 

 次に来る言葉は容易に想像がつく。ついてしまう。

 

「――――君は、いったい何者n」

 

 その言葉を吹き飛ばすように勢いよくバンッと扉が叩き開かれる。

 

「いったい何かあったんですか!!」

 

 先ほどの俺の叫び声を聞いて飛んで来てしまったのだろう。本来ならばとてもありがたいはずなのだが……今回はタイミングが悪く、ダイゴさんの言葉が遮られてしまった。

 

 なんとも言えない空気の中、カーテンで閉じられている窓の外からパラパラと屋根や窓が叩かれる音がし始めている。雨が降り出し始めたらしい。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 エントランスで少し待っていると、診察室の奥から緑色の髪をした少年が現れた。服装もキョウヘイ先生から聞いた服装と一致している。恐らく彼がミツル君なのだろう。向こうもわたしに気がついたのか走ってこちらにやってきた。

 

「あなたがハルカさんですか?」

 

「ええ、それじゃあ君がミツル君でいいのかな? 今日はよろしくね!」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 元気いいなぁなんて思っていると、ぎゅっと手を握られた。ナチュラルに触ってくるなぁ。こういうのも子供の特権だろうか?

 

「すぐにバトルしに行こう! どこでやるの?」

 

「うーんそうねぇ……」

 

 そう言えばどこでやるとかそういう話は聞いていない。とはいえココでやるわけにはいかないので……とりあえずポケモンセンターから出ることにする。

 

「そうね……無難にポケモン広場まで行ってからバトルしましょうか」

 

「はーい! ねぇ、後ろのポケモンがハルカさんのポケモンなの?」

 

 後ろからついてきている御神木様達を指している。指された御神木様は何故か胸を張っていた……キョウヘイ先生がいないと、この子も案外天然なのかもしれない。

 

「この子達はキョウヘイ先生のポケモンだね。わたしのポケモンは道中でお話しながら見せてあげる」

 

「キョウヘイ先生?」

 

 何故かとても不思議そうな顔をしている。あれ? なにかがおかしいかも? まさかあの人は自分の名前を教えていないのだろうか?

 

「キョウヘイ先生は……あー……んー……」

 

 何と言うべきか考えていると、ある意味予想通りの答えが帰ってきた。

 

「あのフクロウの人?」

 

「うん、そのフクロウの人」

 

 あのマスクは印象的すぎるもんね……

 

 15分ほどわたしのポケモンの紹介など雑談をしながら歩き続け、ようやく広場にたどり着いた。道中はミシロタウンよりのどかな景色で、とても開放感がある町のように思える。ただ、噴火の影響か食料や水の買い貯めが始まっているらしく、通常より品薄状態になっていた。

 

 この分だと、ただでさえ異常気象で例年よりも値段が上がっていた今季の野菜は更に高くなるだろう。巡り巡ってわたしの胃にダイレクトアタックとは……煙突山め!

 

「さて、ここなら周りにも被害が出ずに戦えるね……よし、じゃあ早速始めましょうか!」

 

「初めての人とのバトルだ! 頑張ろうラルトス!」

 

「ラルルッ!」

 

「ゴンベ! 胸を貸す気持ちで戦おう!」

 

「ゴンべ!」

 

 両者が少し離れて立ち会う。審判は大賀がやってくれるらしいが……キョウヘイ先生はそんなことすら教えているのだろうか? 正直、他のポケモンよりも少しばかり優秀すぎる気がする。やっぱり、キョウヘイ先生は教えるのが得意なのかな?

 

 大賀は嘴にホイッスルを咥え、とても太く立派になった両手には赤と白の旗が握られていた。恐らく私が赤色なのだろう。観客は御神木様と網代笠なのだが、時折網代笠が辺りをキョロキョロしているようだ。何か探しているのだろうか? うーん、やっぱりキョウヘイ先生がいないと淋しいのかも?

 

「スブロッ」

 

 笛が鳴るのとほぼ同時にゴンベが後ろに跳ぶ。訓練通りだ。

 

「ゴンベ、【ドわすれ】!」

 

「ラルトス! 【なきごえ】で相手の能力を下げるんだ!」

 

「ゴン~」

 

 気の抜けるような声を上げながら特防二段階上げるゴンベ。エスパータイプなら効果的なはず!

 

「ラルラ~!」

 

 可愛い鳴き声が辺りに響く。女の子センサーがキュンキュンするぐらい可愛い。相手トレーナーすら【メロメロ】にするあんなに可愛い声を出せるなんて……バトルが終わったら撫でさせて貰おうかな?

 

 ただ、今は容赦しないわよ! 一段階攻撃が下がってしまったけれど、【のろい】を積めばまた戻せる。今はそれよりも攻撃ね。

 

「ゴンベ! 【おんがえし】」

 

「ゴンベ!」

 

 キョウヘイ先生曰く、ゴンベやカビゴンにとっての最強の技と言っていた【おんがえし】。最近は岩タイプが相手だったり御神木様にはじかれたりして、あんまり使えなかったりしたけれど、今回はどうだろうか?

 

「ラルトス、後退しながら【ねんりき】!」

 

「ラルー!」

 

 蜃気楼のような歪みがゴンベを襲ったが、それでもゴンベは何事もなかったかのように真っ直ぐに走り続けている。

 

「え!? ら、ラルトス! もう一度【ねんりき】だ!」

 

「ラールー!」

 

 追撃を受けてもその勢いは収まらない。

 

「ゴン!」

 

 掛け声と同時にブンッ! と振り下ろした右腕がラルトスに直撃――

 

「スタート位置に【テレポート】!」

 

 ――せずにラルトスがゴンベの後ろに【テレポート】した。でも、これでもう【テレポート】の出現位置は理解したし、これ以上逃がすこともしない!

 

「ゴンベ! もう一度【おんがえし】!」

 

 ゴンベが返す手で振り向きながら攻撃する。

 

「ラ!?」

 

「ゴンベ!」

 

 驚き固まっているラルトスに対して振り抜いた【おんがえし】が直撃する。威力を抑えられなかったラルトスが吹き飛ばさえれ転がってきた。

 

「ら~る~?」

 

 大賀が勝敗の確認にラルトスに近づいてゆく。

 

「ハス!」

 

 ピピッー! と笛が鳴り、赤い旗が挙げられた。あの一撃でどうやら目を回してしまったらしい。

 

「ゴンベ! お疲れ様!」

 

「ゴンゴン~」

 

 ゴンベを労い、撫でながらオレンの実を食べさせてあげる。この少し固めの毛が特殊系の攻撃を防いでいるのだろう。

 

 それにしても、さっきの【テレポート】はとても巧い手だった思う。わたしだとあのタイミングで指示ができただろうか? ……これが才能の差なのかな。ちょっと悔しいかも。

 

「ラル~……」

 

「これが本当のポケモンバトル……ラルトス、お疲れ様」

 

 ゴンベを撫で終えてボールに戻す。次にラルトスの元に向かい、オレンの実を食べさせながら撫で回す。やっぱりちっちゃいポケモンは可愛いなぁ……

 

「ミツル君もきのみ食べる?」

 

「うん! 食べる!」

 

 次の試合はキョウヘイ先生のポケモンと戦って貰おうかな? なんて考えていると、ポツポツと雨が降り始めてしまった。

 

「あちゃぁ……ミツル君ってここからお家近い?」

 

 流石に病気持ちの子を雨に打たせながらバトルはできないかな。

 

「ええっとね……大通りを少し歩けば家に着くよ!」

 

 ここから大通りはかなり近い。これは本降りになる前に家に送るべきね。

 

「じゃあ今日はここまで! 急いでお家に帰りましょう!」

 

 ポケモン達を引き連れながら大急ぎで大通りを抜けてゆく。それにしても――

 

 ――今日の天気予報で雨だなんて言っていただろうか?

 

   ◇  ◇  ◇

 

 ジョーイさんが来てから多少緩んだ空気を変えるため、頼み込んで外で待ってもらうことになった。その代わりもう一度検査入院する羽目になったのは秘密だ。ラッキーはここに残って俺においしい水を渡す係になっている。

 

「さて、言い直すのはアレだが、もう一度君の口から直接聞かせてもらいたい。君はいったい何者なんだ?」

 

「……現状はオダマキ研究所専属ポケモントレーナー兼異世界からの訪問者な一般トレーナーモドキです」

 

「ッ! 真面目に答え――」

 

「真面目に答えたらこうなるんです……俺の事についてはハルカが戻って来た時に一緒に話すつもりだ」

 

 俺とて何がなんだかわからないのだ。とりあえずハルカに早めに帰ってきて欲しいとメッセージを送信しておく。

 

「……ハルカ君はいつ頃戻るんだ?」

 

「雨降ってきたから30分以内には帰ってくると思う。今日バトルしている相手がちょっと病弱気味な子だと伝えてあるから無理はしないだろうし」

 

「……そうか」

 

「俺のことを話す代わりに、どうしてわざわざここに直接来たのか教えてくれないか? 結構なリスクを背負ってまできた理由が正直検討もついていないんだが」

 

 そう言うと、ダイゴさんは横に置いてあった封の空いていないおいしい水を開け、一気飲みし始めた。いきなりどうしたのかと目を丸くしていると……

 

「…………山が……を受けた……」

 

「え? なんだって?」

 

 難聴とかそういうのは一切なしで真面目に聞き取れなかった。おいしい水を飲みながらもう一度言うのを待つと、ダイゴさんが意を決したように話し始めた。

 

「昨日の午前11時頃、送り火山がアクア団及びマグマ団に襲撃を受けた」

 

「……ファッ!?」

 

 え? マジで? ドッキリとかじゃなくて? 軽く水を吹き出してしまった。ラッキーからタオルを貰い、顔や床を拭きながら思考を回す。どういうことだ……両方とも行動が早すぎないか? 隕石調査よりも先に珠の確保に動いただと? 原因はなんだ……昨日の噴火か? いや、時系列的にそれはおかしい。噴火はその事件後、あるいは最中のはずだ。

 

「以前、君が言っていたソライシ博士襲撃計画が実際に起きてね。ただ、アクア団の基地からも計画書が発見されて、裏付けが取れていたので出張って未然に防ぐことができたのだが……ソレは本来下級構成員が拝見出るものではなかった」

 

 クリアランスまで考えていなかったな……そんなところからボロが出るとは思っていなかった。ゲームだとあいつらすぐにいろいろな情報をバラしていくから、てっきり全員が知っていると思ったんだがな……迂闊だったか。

 

「だから、次に僕は君についてや君の持っていた【あいいろのたま】を調べるために送り火山に行った。だが、タイミング悪く資料の探索中にアクア団が襲撃し、【べにいろのたま】が奪われてしまった。そして、僕が奪われた【べにいろのたま】を奪還する為に追っている間にマグマ団が別方向から襲撃。見事に【あいいろのたま】を奪っていったとのことだ。その後、【べにいろのたま】は僕がアオイ御夫妻から預かってここまで持って来たんだ」

 

 マジかよ……その話が本当なら、俺を襲ってきたのは【べにいろのたま】ということになる。アレが人を攻撃するだなんて聞いたこともない。なんで俺だけ攻撃されたんだ? それに、俺はなんで【べにいろのたま】を破壊しようと考えたんだ?

 

 そして【あいいろのたま】がマグマ団に……

 

「……ん?」

 

 今、変なところがなかったか? あれ? 

 

「【あいいろのたま】……増えてませんか?」

 

「……ああ、最初に見つけた時は自分の目を疑ったよ。でも確かに送り火山山頂には【あいいろのたま】が設置されていたし、持ち出されていないのも確認した」

 

 そう言ってからダイゴさんは、今俺の手元にある物体Xに目を向けた。釣られるように俺も目を向けるが、握られている【あいいろのたま】(コ レ)は相も変わらず鈍い藍色の光を反射させている。

 

「もう一つ気になったことがある。僕が送り火やまで見た【あいいろのたま】は、君が持つ【あいいろのたま】より色が薄く一回り以上小さかったし、何より中には言葉が刻まれていた。色合い的にアレはアクアマリンに近い感じか」

 

 俺の持つ【あいいろのたま】はかなり深い藍色をしており、文字などは一切刻まれていない。どういうことだ? なんで【あいいろのたま】が二つもあるんだ? まさか【べにいろのたま】も二つあるのか?

 

「言葉は……中の言葉はなんと掘られていたので?」

 

「CAST IN THE NAME OF GOD, YE NOT GUILTY.(我、神の名においてこれを鋳造する。汝ら罪なし)……だそうだ」

 

 なんだよそれ。まるでどこぞの国の死刑執行人の持つ刀剣じゃないか。【あいいろのたま】でいったい何をしていたんだ?

 

 そもそも【あいいろのたま】とはなんだ? 今まで俺はカイオーガを鎮めたり、目を覚まさせるモノと考えてきたが違うのか?

 

 色々な考えが頭の中に浮かんでは消えてゆく。メモをしながらでないと浮かんだ考えが片端から零れてしまいそうだ。

 

 メモをしながら今までの俺の知識で何か関連しそうなものを考えてゆくと――――

 

 ――――ひとつ、頭の中で引っかかったものがあった。

 

「……まさか」

 

「! 君は何か知っているのか!?」

 

「確認したい。ラッキー、大至急俺とハルカの部屋に行って俺のバックパックを持ってきて欲しい!」

 

 ラッキーを部屋に向かわせ、その間に思考をまとめる。頭の中で引っかかったモノ、それは……

 

 『――――我々は力を持っていた……そのはずだ。我らに罪はなかったはずだ。許されたはずなのだ。何故今になって【主】に我らが滅ぼされなけらればならぬのだ――』

 

 あの解読文だ。神の名においてということは【主】が何かしらの許可を出したとかか? だから許されたはずとか彫り残したのだろう。しかし、その【主】に最後は滅ぼされている。一体何なんだ【あいいろのたま】(コ レ)は。まさかこれが滅ぼされた原因の一部なのか?

 

 ――俺たちは人間が関わってはいけないものに関わってしまったのかもしれない

 

 


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