カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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育て屋と土地柄の謎

 テンカイさんやミツル君達との待ち合わせ場所である育て屋に待ち合わせ時間よりだいぶ先にたどり着いてしまった。しかも、何故か他のトレーナーが一向にこちらと目を合わせてくれないので、ハルカ一人で歩き回ってバトルさせることにしたのだが……暇だ。なんで皆目線を逸らすのだろうか? 回り込んでみても目を逸らすとか俺泣いちゃうよ? 

 

 何、シャイな感じが今のブームなの? トレーナーの暗黙の了解はどこへ行ったのだ……

 

 仕方がないので、ぼうっと柵の中でのびのびと動き回っているポケモン達を眺めていると、1匹のメリープが柵の間から顔を出しこちらをウルウルとした目で俺を見てきたので、中腰になって正面から向き合う。

 

 その瞬間にズキューンッ! と頭の中に効果音が響いた。

 

 ある日ー柵の中ーメリープにー出会ったー♪ 

 

「ひと目で、尋常ではないもふもふだと気づいた! 気づいてしまったぞ!」

 

 育て屋に預けられていたメリープをもふもふしながら心の声を叫ぶ。この毛の柔らかさ! 暑いように見えて実は涼しい体毛!

 

「あぁ^~毛がやわらかいんじゃぁ^~」

 

 撫でまくると静電気で膨らんでくる毛! だんだんと光り輝いてくる尻尾の先の珠! これは萌え萌えキュンですわ。キュン死モノですわ。モフリスト的にこのキューティクルはベネだ。よほどトレーナーに愛されているのだろう……ケアされてますな。

 

「シビビビビビビ!」

 

 とうとう帯電していた電気がバチッというレベルを超えた状態で俺に流れ出してきた。これが愛か……甘んじて受け止めよう。毛を強く握らないように、感電する予兆があった場合には直前に掌を返しておくのが紳士流だ。

 

「……何やっているのさ」

 

 愛でているんです――いつから居たのだ君は。その緑色の服で擬態でもしていたのか?

 

「暇だったから触れ合って痺れてみた。こういう風に撫で続けて痺れ慣れると、なんだか気持ちよくなれる気がしなくもない」

 

 中級者以上になればこれもご褒美になるのだろう。とりあえず最後に頭を撫でてからメリープを帰らせる。田舎のおばちゃんのように飴を与えたい衝動に駆られたが、下手に食べさせない方がいいだろうな。育て屋であるテンカイさん一家にも迷惑がかかるだろうし。

 

「で? どうだった?」

 

 待つ間にハルカには、辺りにいるトレーナーに片端から戦わせていたが、結果は如何に?

 

「うっ……6勝1敗だった」

 

 ん? 1回負けたのか珍しい。

 

「どんなトレーナーに負けたんだ?」

 

「性格悪いおじさん。ギャラドスに【りゅうのいかり】でパワープレイされた……」

 

 おおう、完全に相性が悪いな。ワカシャモもガーディも得意なタイプの攻撃は全て効かないし逆に弱点を突かれる。ただ、今回はそれすらも行わない人のようだが。

 

 唯一威力の通る【おんがえし】も特性:威嚇のせいで攻撃が1段階は落ちている。ゴンベは素早さを盾に引き撃ちされた感じだろうか? しかも、【りゅうのいかり】を扱えるということは少なくとも25レベルぐらいにはなっていて、ハルカ達より相手の方がレベルが高かったのだろう。

 

「それは運が悪かったなぁ。ハルカ達だと相性が完全に悪すぎるから、勝つためには緻密な作戦とかなりの修練が必要だろうね」

 

 【かげぶんしん】でもあれば作戦もだいぶ変わるんだが売っていないんだよな……あるのはキンセツのゲームコーナーだったっけか? 今日中に顔を出してみようかね。

 

「……キョウヘイ先生!」

 

「お、おう。そんなに気合入れてどうした?」

 

 そんなに力むと……なんだか目が怖いな。なんでもありませんよ、ええ。何も言いませんとも。俺の言論の自由ってどうなっているのだろうか? 権利ぐらいは欲しいのですが。

 

(かたき)を取ってください!」

 

 うーむ。時間的にどうだろうか? そろそろ集まる気がするんだが……仮にやり合うとしたら、おそらく御神木様なら【りゅうのいかり】一発までなら受けても反撃できるだろう。1匹だけなら間に合うかもしれないが、相手の手持ちが2匹以上なら流石に時間的にもキツいしなぁ。

 

「あとそのマスクは外してください! 皆怯えて目も合わせてくれないじゃないですか!」

 

「マスクは断る。何故俺がマスクを脱がねばならぬのだ」

 

「キモいからに決まっているじゃない!」

 

「キモくないわ! むしろ気持ちいいだろう!」

 

 酷い! ただのミニチュアのダイオウホウズキイカのマスクじゃない! 単目で目が20cmもあるけれど。俺自身も微妙に不快感があるのが玉に瑕だが、マスクの質はとても良いものになっている。この触腕動くんだぜ! カッコイイだろう?

 

 首辺りの触腕をうねうねと動かすと、ハルカがうぇ……と気持ち悪そうな顔をする。君がさっき食べていたイカ焼きといったい何が違うと言うんだ!

 

「ならせめて他のマスクにしてよ……ソレは流石におかしいって」

 

 むぅ……確かに陸上でイカはおかしいかもしれないな、一理ある。だがそんな理論も偶には破ってみてもいいじゃない!

 

「注文が多いなぁハル太君は。しょうがない、これはまだ取っておくつもりだったが今日はこれを被ろうじゃないか」

 

 そう言って先日の目玉商品であるとっておきのマスクを被る。シカ科最大種のこいつは巨大な角だけで3キロあるがまぁ頑張ればなんとかなる範中だ。数ある中でも特に角の形や雰囲気が気に入ったものをチョイスしたからビジュアルも問題ない。むしろ良すぎて失神者が出てもおかしくないね。これなら首を痛めたり、玄関から家に入れなくなる以外問題あるまい。

 

「……お、大きいね。あと角度的に後光が差しているのがちょっと格好いい……なんの動物なの?」

 

「そうだろうそうだろう! この動物はヘラジカと言ってな、この掌のように広がっている大きな角や巨大な体が特徴なんだ。格好いいだろう! 森の王とも呼ばれるんだぜ!」

 

 流石にダイオウホウズキイカ同様そのままのサイズは使えなかったので、マスク用に縮尺は合わせてあるが、それでも威厳のようなものが醸し出されている。これを被れば誰でも頭を垂れるだろう……重さで。ああ、今俺の僧帽筋(そうぼうきん)は輝いている!

 

「で、なんだっけ? 敵討ちだっけ?」

 

「あ、そうだッ! 忘れるところだった……キョウヘイ先生お願いします!」

 

 うーん……勝てなくはないと思うが……まぁいいか。実際にアレがどれぐらいの命中率なのかも気になるしな。

 

「勝てるかどうかはわかないがそれでもいいか?」

 

「ダメ。勝って」

 

「いや、そう言われてもな……と言うより珍しいな。ハルカがそこまで言うなんて」

 

 負けただけじゃなくて何かあったのか?

 

「正面からさ。雑魚が、努力し策を練るなど弱者の発想だ! とか言われたの! 確かに負けたけれどさ、今までのわたしの努力まで否定してきたしムカつきもしますさ! それにワカシャモ達もなんだか調子良さそうじゃあなかったし……」

 

 苛立ってますなぁ……まぁ、策を練るのが弱者の発想というのはある意味間違ってはいないだろう。間違ってはいないが……そいつ自身は努力を否定できる程の圧倒的強者ではないな。それとなんとなくだが、あんまり俺の好ましいタイプでもなさそうなのがわかる。

 

「傲慢に聞こえるが、極論で言えば圧倒的な力があるならそれでも問題はないだろうさ。それこそ神様みたいな奴ならば策など意味もなくなるだろうし。ただ……【りゅうのいかり】程度でそれを言うのはおこがましいにも程があらぁな」

 

 それが効くのはバッジ3~4個までだろう。【りゅうのいかり】は便利だが、しっかり理論立てた技構成や行動に勝るとは到底思えない。精々が経験の少ないトレーナーをカモにするぐらいだろう。事実、ポケモンリーグ出場者で【りゅうのいかり】のみで闘っているものなどいない。単品ではなく組み合わせてならば無限【リサイクル】コイル等の撃退法として役割が出てくるだろうけれど……こっちの世界だとアレは成り立たないもんなぁ……

 

「言ってくれるじゃねぇか小僧!」

 

「……これはアレか? 最近は相手に気がつかれないように近づくのが流行っているのか?」

 

 いつの間にか俺達のすぐ近くに居たらしい。今年の流行はシャイなストーキングか……覚えておこう。

 

「テメェ言う事欠いて俺が弱いだと!」

 

「弱いだなんて言ってませんよ。そんなに長続きしないだろうなという素直な意見を淡々と述べただけです」

 

「キョウヘイ先生、それ火に油注いでるようにしか聞こえない」

 

 マジで!? 初耳だわ。それどこ情報? どこ情報よー?

 

「舐めてるのかテメェ! 表に出ろ小僧! ポケモンバトルだ」

 

 本当にガラが悪いなぁ……まぁ、これで殴り合いの取っ組み合いにならないのがこの世界のいい所だな。俺が殴ると立場や物理的に色々とヤバいからこの方が都合がいいけどな。この際だし、最近溜まっていたストレスをここで全部吐き出しちまおうか。

 

「既に表に出ているんですがそれは……まぁ、やるのなら1on1だな。そちらと違ってこちらは時間が足りないんだ……あ、ハルカ。審判やってくれ」

 

 バトルに巻き込まないように育て屋から少しだけ離れて、ガラの悪いおっさんトレーナーとも少し間を空ける。だいたい20mほどだろうか? フィールドは街道、しっかりと均され整えられた地面には雑草一つ生えていない。辺りを見回すと、付近には見物人が複数見られている……見られているとか恥ずかしいな。

 

「ならルールは1on1! 持ち物アリでその他道具類は無し、当たり前だが入れ替えも無しだ。単純な実力が示されるだろう? デカい口叩いた後に無様に負けちまえ! 叩き潰すぞギャラドス!」

 

「ギャァラァァッ!」

 

「あんた本当にガラが悪いなぁ……ポケモンに悪影響与えているぞ、きっと。あと、子供が生まれた時に黒歴史みたいに後悔するから今のうちに矯正することをオススメするよ。さて、せっかくだ。実践の中で例の技の命中率のデータ収集を行うぞ御神木様」

 

「クギュルルルルルゥ!」

 

 ギャラドスと御神木様が相対する。特性:威嚇で攻撃が一段階低くなっている事も考慮して立ち回らんといけない。初手はどうするか……どこかで【のろい】を積まないと威力が不足するだろう。

 

「では……始め!」

 

 ピピーーッ! とホイッスルが鳴り響き、ポケモンバトルが始まった。

 

「御神木様! 【ステルスロック 鎧】だ!」

 

「ギャラドス、【りゅうのいかり】を撃ちまくれ!」

 

「ギャァアラァッ!」

 

 御神木様が【ステルスロック 鎧】によって周囲に尖った岩の防壁を作り始めた瞬間、ギャラドスの口から放たれた青白い【りゅうのいかり】が直撃した。土煙が舞い上がり、土が焼けたような匂いが辺りに漂い始める。

 

「なんだ、散々吠えていた癖にテンで雑魚じゃねーかァ! その程度で俺達の前に出るだなんておこがましいんだよォ!」

 

「そのまま【のろい】を鎧が壊れるまで積み続けろ!」

 

 相手の言葉を無視して指示を出す。仮に鎧の展開が遅れていたとしても、【りゅうのいかり】1発程度なら普通に受けられるから問題ないはずだ。

 

「クギュルルルルゥゥウ!!」

 

 まだ土煙で岩は見えないが声的に元気そうだ。鎧が間に合ったみたいだな、重畳重畳……前よりも鎧を張るのも早くなったし、これも日頃の訓練の賜物だろう。おっさんの顔がりんごみたいに真っ赤になって怒鳴りつけながら指示を続けている。

 

 2発、3発と【りゅうのいかり】を叩きつけられ、とうとう鎧の全体にひび割れが入る。うーん……2段階ぐらい積めたかな?

 

「よーし、そのまま引き篭った奴を蒸し焼きにしちまえ!」

 

 そろそろだな……ここで【ステルスロック 鎧】+【こうそくスピン】を組み合わせた【ロックショットガン】だと相手トレーナーや観客も巻き込む可能性が高いからダメ。だからやはりここは例の技の実験に持って来いというわけで……

 

「御神木様! 【こうそくスピン】で砕けた鎧を弾けさせて――」

 

「ギャラドス! 止めの【りゅうのいかり】だァ!」

 

 御神木様がその場で【こうそくスピン】を行い、その回転速度をどんどん加速させてゆく。細かくなった邪魔な鎧の欠片を辺りへ飛ばし始めると、チャンスとばかりにギャラドスから【りゅうのいかり】が放たれた……それが甘いんだよォ!

 

「――そのまま【ステルスロック 大石槍(ランス)】で迎撃しろ!」

 

「クギュルルルルルッ!」

 

 御神木様の回転が更に加速し、その周囲に長い馬上槍のように尖った大岩が8本出現する。そして真横にあった巨大な大石槍の1本の切っ先がギャラドスから放たれた【りゅうのいかり】へ向けられる。そのままカタパルトで発射された大槍ような勢いで大石槍は弾き飛ばされて、【りゅうのいかり】と激突し――――そのままあっけなく青白い光球を貫通した。

 

「なぁッ!?」

 

「やれ!」

 

 そのままの軌道で1本目は外れたが、そんなことは気にせずガッツンガッツン音を立てながら2本目3本目と次々に射出されてゆく。時たまジャンプして射角をつけているようだ。そこまでしなくていいんだがな……これ傍から見たらどんな風に映るんだろうか? 

 

「ガァァァアッ!?」

 

 貫通のようなグロイ感じにならなくて良かった……8本目がギャラドスの首に直撃してから断末魔を上げて崩れ落ちた。2本ほど当たらなかったが、相手が痛みで悶えまくって狙いがつけづらかったから十分誤差範囲に加えていいだろう。1発1発の威力も高いが、やはり連射力はそこまで高くない。この辺は練度でどうにか出来そうかね……

 

 横たわったギャラドスと、7本の大石槍が地面へ斜めに突き刺さってさながら古代戦場跡のようになっている。御神木様の周りが焼け焦げているのも、その印象の一因だろうか? まるで龍討伐だな。【こうそくスピン】をやめた御神木様が戻ってきた。もうボールに戻したいんだが……

 

「……」

 

 なんで皆さんそんな静かなの? なんか俺やらかしたか? 今回は結構真面目に戦っていたんだけれど。なんかハルカの顔が面白いことになっている……口ポカンと開けて何をやっているんだ。

 

「ハルカ」

 

 審判にまで黙られると困るんだが……せめてホイッスルか旗を上げてくれ。

 

「……あっ、この勝負キョウヘイ先生の勝利!」

 

「やったぜ」

 

 ピピーッと終了のホイッスル音が鳴り響く。成し遂げたぜ。高々と右腕を振り上げると微妙などよめきが走った。え? 動くのもダメなの? それとも上半身タンクトップなのがいけないの?

 

「これは……ちょっと想定していたよりも惨い(むご)かも」

 

 ハルカが何かボソボソと言っているがそのまま流し、掲げていた右腕をそのまま前へ突き出しておっさんを指差す。

 

「これが技のコンビネーションだ。【りゅうのいかり】は確かに強力だが、他に技を覚えさせないとせっかくのギャラドスの強みが生かせないじゃないか。今度からは技の力だけでなくギャラドスの強さを信じてやれよ」

 

「……チッ」

 

 おっさんはギャラドスをボールに戻してから掛金を払って、そのまま足早で行ってしまった。その背中は少し煤けているように見えるが、これからは新たなバトルを目指してもらいたい。ギャラドスは【ちょうはつ】、【りゅうのまい】、【たきのぼり】を覚えるだけでだいぶ凶悪度は増すのだ。【ストーンエッジ】のようなサブ技も優秀だしな。ただ、問題はその手の技マシンは一部を除いて通販で買えないってことだよなぁ……

 

「やっぱりなかなか面白いバトルをしますね」

 

「ん?」

 

 広場に突き刺さった大岩槍を御神木様の【メタルクロー】で砕いていると、黄緑の髪に上は黄色いラインの入った赤いジャージを着ていて、下は黒いスパッツを履いた女性が話しかけてきた。いつの間に……

 

「初めましてテンカイさん。見ていらしたんですか?」

 

「初めましてキョウヘイさん。掃除が終わって何やら騒がしい家の前に向かってみればポケモンバトルをしているんですもの。そりゃあ見ますよ。とても面白い勝負でしたよ?」

 

「お恥ずかしい限りです」

 

 まだまだ訓練すべき内容があるのだ。少なくともこの先のキンセツジムを完勝出来るようにならないと。

 

「キョウヘイ先生! ミツル君達が到着したよ」

 

 ハルカが戻ってきた。なら俺も動かないとな……

 

「お、着いたか。じゃあ俺ミツル君の叔父さんに挨拶してくるから、その間にテンカイさんのお相手を頼む。御神木様はそのまま【メタルクロー】で岩を砕いていてくれ」

 

 軽く御神木様の頭を撫でてからこの場を立ち去る。

 

「テンカイです。今日は楽しんで行ってくださいね」

 

「初めまして、わたしハルカです。本日はお忙しいところ……」

 

 ハルカ達と離れるに連れて声は聞こえなくなってきた。まぁあの感じなら上手くやるだろう。

 

   ◇  ◇  ◇

 

「改めまして、本日は育て屋へようこそ! 色々と説明を挟みながらゆっくり歩きますので、何か質問があればその都度私に聞いてください」

 

「「「よろしくお願いします」」」

 

 俺、ハルカ、ミツル君が同時に話す。

 

「では、まずは今預かっているポケモン達の紹介を歩きながらしましょうか」

 

 さて、育て屋の中にゲームで入ったことはあるが、奥の広場に行けたことはない。どんな感じなのかと眺めてみると、草原のような感じになっていた。奥には林や湖のような場所もあるようだ。そして林に寄り添うように小屋が建っている。なるべくポケモンの生態に沿って土地を改造したんだろうな。植え込みも多すぎず少なすぎずでムダがない感じがいい。

 

 テンカイさんは手元にあるタッチパネル型の機材をいじり、ポケモンの場所を確認しているようだ。わからなくならないように一匹一匹にタグを付けて、認識しているのだろう。

 

「この草原エリアにはタマゴタイプが陸上や植物、虫のような陸上生活をしていて、森などにいる子がよく見かけられます。丁度今だとメリープの群れが見えますね」

 

 のんびりもしゃもしゃと草を食んでいるメリープ達の姿が見えた。きっとさっきのメリープも混ざっているのだろう……思い出すだけで涎モンですわ。ズビッ!

 

 眺めているとゆっくりとメリープの群れが動き出した。勢いはないがなかなかの大移動である。

 

「こっちに来てない?」

 

「だな」

 

 俺達の立ち位置を少しだけズラしてみたけれど、メリープの群れも同じ方向に曲がって来た。完全にこっちに目掛けて向かってきているな。そんなことを思っていると、ハルカとミツル君はすぐにメリープの群れに飲み込まれてしまった……しかし、何故か俺の周りには1匹も来ない。

 

「どういうことなの……アレか? ネコ耳か? ネコ耳がいいのか?」

 

 とりあえず怪しいチェシャ猫のマスクを被りなおし、メリープに近づくがそのまま逃げられてしまう。何が違うと言うんだ!

 

「ちくせう! ネコ耳は関係ないだと……マスクと動物耳……クソッ、どこで差がついた!? 中身か! 中身が違うからなのか!!」

 

 俺が汗臭いオッサンだからダメなのか……ここでまさかのメリープ淫獣説である。お前らユニコーンか何かか!

 

「いん?」

 

「キョウヘイ先生、後でお話が……」

 

 ミツル君はなんでそこだけ器用に音を拾うのだろうか。後ハルカさんはなんでそんな言葉知っているんです? 興味あったの? 結局影で折檻を食らい、おまけにメリープには1回も触れず群れはそのまま奥へ移動してしまった。

 

 その後、様々なトレーナーからいろいろなポケモンが預けられているということがわかったのだが、炎タイプや地面タイプのポケモンを一切見かけないのが気になった。

 

「気になったんですが、炎タイプが預けられた場合ってどうしているんです?」

 

「なるべく本来の生態が出来るように改良を加えていますが、土地柄なのか炎タイプや地面タイプのポケモンはあんまりリラックスできないようなので、キンセツシティの東口で運営している育て屋へ預けるようにお勧めさせていただいていますね」

 

「土地柄……ですか?」

 

「なんでも、この辺りは湿度が高くて調子の悪くなる子が多いようなので」

 

 ほう? 気になるな。そういえばハルカがそんなこと言っていた気がする……

 

「あ、わたしのワカシャモとガーディも動きづらそうだった!」

 

 確かに湿度が高いと炎ポケモンは鬱陶しいだろうし、地面ポケモンも水が苦手だ。

 

「でも昔はそんなことなかったはずなんですよ。少なくとも4年前までは普通に預けられていましたし」

 

 むー? なんとも不思議な話だ。この話が本当だとしたら4年で環境が変わってしまったということになる。自分で調査したいが……どうだろう。キンセツジム攻略やハルカの訓練と両立させることは難しそうだな。とりあえずレポートに書いておいてオダマキ博士の指示を仰ぐべきか。

 

「あれ? 岩タイプは大丈夫なんですか?」

 

「そうみたいです」

 

 本当に不思議な話だな。なんじゃそらという言葉が喉に突っかかった。

 

「……これお父さんにレポート送ったほうがいいよね?」

 

「だな。とりあえず送って指示を仰ごう」

 

「理由が解明されれば報酬はお支払いしますのでよろしくお願いします」

 

 急激な環境の変化……これもグラードンが関わっているのだろうか? でもそれならば炎タイプはより活発になるはずだ。なんで動きづらそうになるんだ? 地面タイプが巻き込まれる理由もわからん。

 

「さて、次は育て屋とは別なのですが、孵化器の見学に行きましょうか」

 

「孵化器? そんな物もここにあるんですか?」

 

 お爺さんが卵を持っておったんじゃ! と言っていたのは記憶にあるが孵化器が備わっているなんて知らなかったぞ。

 

「ええ、でも専ら扱っているのは私なんですけれどね。最近うちの子達(イーブイ)が15個ほど産みまして……新しく増設したんです」

 

 ゲームでも無いのに15個産んだとか凄いな。

 

「お盛んですね……」

 

 これってセクハラになるんだろうか? 向こうから話題に上げてきたから大丈夫だよね? 限りなくアウトに近いセーフのはずだ。

 

「そろそろ孵化が始まる頃なので運がいいと今日見えるかもしれませんよ?」

 

「タマゴから生まれるの!? 見たい! スゴく見たい! パリパリって産まれるんだよね!」

 

 ミツル君も見たいか。これも貴重な体験だな、ご同行させて貰おう。テンカイさんを筆頭に、先ほど林の横にあった小屋に向かって歩きだす。さっき見た感じだとだいたい10分ぐらいか?

 

「そう言えば、テンカイさんはブイズを扱っているようですが、最初のイーブイはどうやって捕まえたんです?」

 

「うちの子はね、皆お父さんのイーブイ達が産んだ子達なんだ。だから皆姉妹で末っ子だけが男の子なんです」

 

 なんだかハムスターを彷彿とさせられる。ん? その頃から多産なのか……そういう家系なんだな。てかイーブイで姉妹って無茶苦茶凄いな! 女腹なのか? 羨ましい。イーブイって♂:♀=7:1だから♀が生まれる確率は1/8。向こうで全部メスとか廃人御用達だろうな。

 

「ブイズ?」

 

「イーブイの進化系を集めたパーティさ。豊かな補助技を扱える器用なパーティだな」

 

「へぇー! 見てみたい!」

 

「後で時間が空いたらポケモンバトルをしましょうか」

 

「やったー!」

 

 ミツル君見ていると心が和む気がする。

 

「ということはずっと一緒に育ってきたわけですか」

 

「ええ、幼い頃から一緒に育ってね。旅に出るとき皆付いて来てくれたから、そんな皆に活躍してもらえるポケモンバトルの戦術を考えたんです」

 

 テンカイが照れくさそうに話す。ミツル君はへーって言った感じだが、ハルカは何か共感した部分があったらしく熱い握手を交わしている。何があったし。

 

「それで高速戦闘を目指したんですか」

 

 それにしても、最初からイーブイ達を活かす為の訓練を積んできた訳だ。そりゃあ強いわな。こう言っちゃあ何だが、他のトレーナーと思い入れや環境が違う。

 

「ええ。おかげで進化していないイーブイでも作戦を練れば戦えるんだ! って証明になったのよ」

 

 そんなことを話しているとすぐに小屋に着いてしまったので、テンカイさんが鍵を開けようとした瞬間に――――赤い服を着たアイツ等が中から出てきやがった。

 

「「え?」」

 

 事 案 発 生 である。

 

 


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