カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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タマゴ泥棒とマニフェスト

 ひ、ふ、み、よ、いつ、む……6人か。それぞれが背中の籠にポケモンのタマゴを入れているようだ。言い逃れできませんなこりゃあ。

 

「「…………」」

 

 互いに想定外の事なのか、完全にお見合い状態になってしまっている……ならば俺が場を動かしてやろう。むせび泣いてありがたがるといい。ダイオウホウズキイカのマスクを早業で換装し、右手でポケットに突っ込んでいた拾い物のカゴの実を取り出す。そして、6人いるマグマ団全員に見えるように右腕を突き出した。

 

「マグマ団諸君、ココにカゴの実があるじゃろ?」

 

 皆からの視線が集まる……やだ、恥ずかしい。

 

 うねうねと触腕が蠢く中、突き出した右手に全力を込めてカゴの実を皮ごと握り締める。すると、メキメキと音を立ててカゴの実は粉砕された。目の前にいる女マグマ団員の額から汗がたらりと流れ落ちる。そんなに顔を歪めちゃってどうしたんだい? 俺はまだお前に苦痛など与えていないぞ?

 

「――これが数分後の貴様等の姿だ」

 

 掌をゆっくりと開くと、右手の中には無残にも砕けて歪んだ木の実だったものがあった。思っていたより固くて地味に手のひらが痛いです。謝罪と賠償を請求する!

 

「ひ、ヒィーッ化物だー!」

 

「誰が化物だこの野郎!」

 

 誰かが叫んだせいで、硬直していたマグマ団員達はバラバラの方向に逃げ始める。面倒な……と思っているとスタートダッシュが遅れた奴を発見した。

 

 ふむ、まずは貴様からだ! 奥に居たせいで逃げ遅れていた男マグマ団員に向かって走り寄って触手や触腕を伸ばし、顔や足をヌルヌルの雁字搦めにする。あ、足がもつれて転んだっぽい。

 

「やめろーッ! 嫌だぁ。死にたくない、死にたくないッ!」

 

 なんだ、まだまだ元気じゃないか。なら吸盤も盛大にトッピングしてやろう、遠慮するなよせっかくの大盛りなんだ楽しんでくれ。

 

「ムゴッ、ムグゴゴゴッ!」

 

「フハハハハハッ! 俺はついにマスク(こいつ)と一体になった。もう誰も、俺を止めることはできないィッ! 網代笠、【しびれごな】で痺れさせろ」

 

「……キノッ」

 

 なんでそんなにテンション低めなの? まぁいいや。

 

 捕獲したマグマ団員の口を無理やり開かせて痺れさせた後に縛り上げ、触腕から解放するが、吸盤を引き剥がしたら一緒にヒゲやら髪やらも巻き込んでしまったようだ。本当に申し訳ないと思っている。残りの奴追っている間、猛反発枕を使わせてあげるから許してちょ。存分に使って満足してくれ。後で買うであろう湿布は実費な!

 

「……うわぁ」

 

「えっ? えっ?」

 

「追わなくていいの?」

 

 ミツル君冷静なツッコミをありがとう。そんな君にはあめちゃんをあげようね。ハルカも死んだ目をしていないで働きなさい。

 

「ハルカとミツル君はここで待機兼こいつの監視を頼む。奴らの内誰か戻ってくるかもしれないからな。テンカイさんは湖側に逃げた奴を追ってください。俺は林の中に逃げた奴を狩ってきます」

 

「……いってらっしゃい」

 

「アッハイ」

 

 テンカイさん早く人狩り行こうぜ! 丁度4人プレイだ。俺が捕まえた奴は卵を3つ持っていた。残り5人だからだいたい一人当たり2~3個は持っているはず。内訳は女3男2だから男が3つ持っている感じかな。

 

「クックック……フハハハハ……アッハッハッハ!! 貴様等もマスクマンにしてやろうかァッ!」

 

 皆にも小さくても大切な幸せを噛み締めてもらいたいから。隣人にマスクをつけてあげましょう。そんな気持ちを込めて大声で叫んだ後に、網代笠を肩に担いでから林の中へ全力で突貫した。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 キョウヘイ先生は律儀に、猛反発枕と称した岩を体の痺れが取れた頃には首が攣っているんじゃないだろうかという角度にセットしてから、奇声を上げて林に突っ込んでいった。まぁ罪になるようなことをしたのがいけないんだよね?

 

「キョウヘイさんっていつもああなの?」

 

 テンカイさんの困惑が手に取るようにわかってしまう。そこはわたしが昔通った道だ。

 

「いえ、普段はアレよりかはずっとマシですね。最近ストレスが溜まっていたみたいなので、ポケモンバトルとかで軽く発散させようと思っていたんですけれど……今日は発散させた上で化学反応が起こったみたいです」

 

 誰がそこまでやれと言ったレベルまできっとあの人はやってしまうのだろう。完全にリミッターが外れてしまったみたいだし……どうしよう。今からダイゴさん呼んだら間に合うかな? 流石に間に合いそうにないか。正直、キョウヘイ先生があそこまで吹っ切れたらどうなるのかわからないから怖い。きっと今もオーバースペックの無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きで林に逃げ込んだ人を追い詰めているのだろう。

 

 時折悲鳴が聴こえてくる。わたしはいつからモンスター映画を見始めたのだろうか? 今のキョウヘイ先生の姿って傍から見れば頭が1.3mほどの赤いイカに寄生された新手のモンスターにしか見えない。触腕もだいたい2mあるらしく、表面はヌメヌメしていた…………しかも単眼。これがとても気持ち悪く感じてしまう。生理的悪寒というものだろう。偶に瞬きしているのもモンスターっぽく見える要因の一つかな。

 

「……あれ? そういえば、テンカイさんは追いかけないの?」

 

 なんでこの人まだここにいるんだろう?

 

「もう追いかけているわよ。うちの司令塔(長女)が【ねんりき】で姉妹全員を駆り出したところ」

 

 あれ? こっちの人も想像以上に高度なことやってのけている。これがホウエンリーグベスト16に選ばれた人の実力か。キョウヘイ先生みたいに野蛮じゃないのね。スタイリッシュな戦闘方法だ。

 

「……ん、今女の子一人確保したみたいね」

 

 なんだかマグマ団が哀れに思えてきてしまった。なんでこの人の所に突っ込んだろだろうか? トヨダさんの時はこの人がいないから襲撃したんじゃないの? 今まで考えていた前提条件が違うのかも? ……とりあえず後で話し合わないと。

 

「今わたしやることがないので、わたしのポケモン達で捕まえたマグマ団員をここまで引っ張って来ましょうか?」

 

「お願いするわ。湖の横まで持ってきたからそこで受け取って来てくださいな」

 

 せめてもの救いはこの人がキョウヘイ先生みたいに相手に対して追い打ちをかけないことぐらいだろうか? 

 

「では行ってきます」

 

 7分後、マグマ団の女が怯えきって歯をガチガチ鳴らしながらえづいているのを見て、わたしは先ほどの考えを改めることとなる。

 

   ◇  ◇  ◇

 

「お前等に足りないものは、それは! 情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりもォォォオオオオッ!! 速さが足りない!!」

 

「「うわぁぁぁッ!!」」

 

 目の前で二手に別れやがった……楽しみが長続きするな。

 

 まったく、追いつくギリギリになった瞬間に二手に別れやがって……楽しいなぁ、おい。一人ずつ狩ってやろう。まずは男を追うことにするか。タマゴの数が多いし、女は足が遅そうだったからな。厄介そうな方から片付けるのは基本だ。

 

「ハァ……ハァハァ、ッハァ」

 

 後を追って入ると、乱れた呼吸音が林のどこかから聴こえてくる。ダメじゃないか、隠れるのならしっかり音も消さないと……こういう場所では案外響くんだゾ! 音の発生源はどっこかなーと、わざとガサガサ音を立てながら前へ進む。定期的に網代笠に【きあいパンチ】で木を殴りつけて揺らすことも忘れてはいけない。重要な恐怖のファクターだ。

 

「……キノコッコ」

 

 網代笠が発見したらしく、小声で伝えてきた。その方向を見ると、木の下で体を丸めてガクガクと生まれたての子ヤギのように震えているようだ。

 

「震えるな……止まれ、止まれ。大丈夫だ、大丈夫なんだ。楽なミッションのはずなんだ……これは夢だ」

 

 メソメソボソボソとまったく、そんなに怯えなくたっていいじゃないか。それでも男か。狩る者()狩られる者(お前)の仲だろう? 遠慮するな、逃げ惑ってくれよ。足を止めるな。現状を存分に楽しみ給え。

 

 ピタリと音を止めて、今度は音を立てないように細心の注意を払いながら後ろに回り込む。すると、音がしなくなったことに気がついたのか立ち上がって辺りを見回し始めた。

 

「クソッ! どこだ!? どこに行きやがった!」

 

 き み の う え です。

 

 音を立てぬように木の枝をゆっくり伝ってと近づいてゆき……真上の辺りでふくらはぎとふとももで枝を挟みこんで逆さになって――――触手や触腕で相手の首や脇に一気に巻き付かせる。同時に片手で【しびれごな】を混ぜておいた生暖かいであろうおいしい水を男マグマ団員の頭へダバダバと垂れ流す。

 

「どこへ……行こうというのだね?」

 

 痺れのせいなのか、一瞬遅れてビクンッと男マグマ団員の体が飛び跳ねる。初々しい反応だ。さぁ、もっと俺を楽しまさせてくれ。

 

「ヒッ! う、ウワアアァァァァアッ!! 止めろ! 来るなあぁぁぁッ!」

 

 必死に手足を振り回し暴れて逃げ出そうとしているが、そうは問屋が許さない。お前、イカから逃げられると本気で思っているのか? もしそうだと言うのなら、とんだ思い違いだな。本気で逃げるのであればもっと筋肉旋風(センセーション)を轟かせろよ! 

 

 男マグマ団員は疲労で腕が動かなくなってきたようだがそれでも暴れている。しかし、暴れれば暴れるほど触腕は張り付いてゆき、後後の被害が増すというのに……憐れな。せめてポケモンを出せば時間が稼げるというのに、そんなことにすら頭を回す余裕がないのか。

 

 それにしても結構まだ動けるのな。こいつは予想外だ……後でもう少し【しびれごな】を増量しよう。

 

「ハァ……ハァ……ッ止めろ! 謝る! 謝るからやめてくれ! 許してくれ……」

 

 何ほざいているんだ? こいつ。

 

「俺の持っている地図に集合場所の情報が書き込まれている! それをやるから手打ちにしてくれ」

 

「ほう? 情報によっては考えてやらなくもないな」

 

 まともな情報なら、な。

 

 ゴソゴソとサイドポーチを探すと……地図があった。集合場所はだいたいここから東へ1.2km地点か。ふむ……裏付けを取るべきだな。ハルカに連絡を入れる。

 

「……キョウヘイ先生? どうしたの?」

 

「俺が最初に捕まえた奴が地図持っていないか? 集合地点が載っているらしいんだが」

 

「え? ちょっと待ってて………………あ、うん。あった。場所はここから東へ1.4km地点だね」

 

 どうやら間違っていないらしい。集合から回収を考えると車がそこにありそうだな……ふむ、車か。その地点にもう1人ぐらい居そうだな。

 

「ありがとう、そういえば今残りって何人なんだ?」

 

「残り2人だから頑張って! だってさ」

 

「了解」

 

 うーむ。向こうはもう片付けてしまったのか。早いなぁ……それにしても、俺が遅い? この俺がスローリィだと? そいつは聞き捨てできんな。もうちょい真面目にやろうか。

 

「嘘はついていないみたいだな」

 

「あ、ああ! だから拘束を――」

 

「まぁ、待てよ。そう慌てるな、俺と一緒にアソボウゼ……?」

 

 次は尋問ゴッコしようぜ! お前実行犯な!

 

「おい! 正直に答えただろ! 早く解けよ!」

 

「だから約束通り考えたさ。そりゃあよーくよーーく考えた。考えたんだがな、やっぱりお前の行った罪は裁かれるべきだという答えに再度至ったんだよ」

 

 当然の結果だな。

 

「クソッ! ふざけんnフゴッ!」

 

「黙るフォイ!」

 

 じゃけん、うるさい口は触手で塞いじゃいましょうねー。それにしても、どうしてそんなに上から目線なんだ? 誠意というものがまったくもって見えてこないのだが……これはきっと意思の伝達が上手くいっていないから、齟齬が起きているのだろう。

 

 なるほどお互いの努力不足か……ならばしっかりとお話し合いをしなければ。まずは価値観をすり合わせしよう。意思疎通って大切だよな。

 

 ボールから出した大賀に、背負っていた籠をするすると下ろさせ、そのまま腕を縛り上げよう。これで籠が被害に遭うことはないだろう……心置きなくやれるな。枝から下り、足から着地すると同時にテコの法則で男マグマ団員の足を吊り上げる。

 

 まるでミノムシだな。口から何か生えているのは寄生生物だろうか?

 

「網代笠、【しびれごな】をここにたっぷり盛ってやれ」

 

 あえてマグマ団員の視覚だけを開放してやり、目の前の紙の上に【しびれごな】が盛られていくのを見せつけてやる。紙から溢れ出した辺りで放出をやめさせた。

 

「ムゴゴゴッ! フガッ!」

 

 そんなに首を振って、涙を流すほど嬉しいのかい。作った甲斐があるますなぁ……これが農家の人の気持ちか。

 

「おい、パイ食わねぇか?」

 

 残念なことに、ここにはパイ生地が無いので素材をそのまま使用する形となった。紙を掌に乗せて、顔面に向かって【しびれごな】を叩きつける。インパクトの少し前に触手はしっかりと抜き取った。口に異物が入っていると食べづらいもんな、ついでにそのまま皮膚にすり込んであげよう。

 

 ビクンビクン跳ねているが気にせずに下ろしてから改めて両足を縄で縛り上げ、ずだ袋に首から上だけ出るようにして大賀に背負わせてやる。タマゴの入った籠は前に装着だ。

 

「よし、網代笠は大賀に道を教えてやってくれ。大賀はそれを聞いたら小屋へ行ってらっしゃい。小屋に着いて、荷物を降ろしたら自由時間にしてよし! あんまり離れすぎないようにな」

 

「スボッ!」

 

 重そうながらもしっかりとした足取りで大賀は歩き始めた。さて、次の獲物だ……

 

「さーて、どこにいるのかなぁ~」

 

   ◇  ◇  ◇

 

 何なのよ何なのよ何なのよ! 最初はあんなに離れていたはずなのに、アレは気が付けばすぐ後ろに居た。まるで怪物映画の怪物そのものだ!

 

「ハァ……ハァ……ふざけんなックソが!」

 

 あのクソ野郎! 何が『障害になりそうなトレーナーは一人しか居ない』だ。障害になりうる怪物が一人いるじゃねーか! もう少しまともな情報をよこせよチクショウ……

 

 あと何人残ってるんだ? 何人アイツにやられた? 集合場所まであと東へ1kmか……長い。あたし以外残っていないと考えたほうが良さそうだ。

 

 クソッどいつもこいつも使えない。あの幹部候補野郎直属の手下連中も混ざっていたはずなのに、真っ先に逃げやがって……使えないにも程がある!

 

「ヒッ! う、ウワアアァァァァアッ!! 止めろ! 来るなあぁぁぁッ!」

 

 西側から悲鳴が聞こえてきた。アイツが捕まったのだろう……何が少数精鋭だ! クソックソックソッ!! 金のためになんでこんなに苦労しないといけないのよ。

 

 でも、こんなところで捕まってカガリお姉様のお手を煩わせる訳には……なんとか自力で集合地点まで移動しないと……声はまだ遠かった。全力で走れば間に合うだろう。最悪こいつらを囮にすればなんとか時間を稼げるはず。

 

 そこからは後ろを見ずに走り続けた。普通ならば聞こえて来るであろう音が一切聞こえて来ないというが恐ろしかったのかもしれない。生物の居る気配のない林。虫の声、鳥の羽ばたき、草の揺れ動く音。どれも聞こえて来ない。あたしのカンが後ろを振り向いてはいけないと囁いている。恐ろしいことになると……

 

 あと0.3km圏内にまでやっとの思いでたどり着くと、ブルリと寒気を感じた。その直後から、ポツリポツリと雨が降り始める。空がいつの間にか鉛色になっていたようだ。あたしにも運が回ってきたか。これなら雨音に紛れて脱出できるかもしれない! 一縷の望みだったがこれならばきっとイける!

 

 黒い雷も付近に落ちてきている。これならエンジン音もカモフラージュ出来るはずだ!

 

 そして、ほうほうの体で集合地点の山道に戻ってきた。乗ってきたワゴン車にたどり着くと、スライドドアを開いて急いで飛び乗る。タマゴを下ろしてからスライドドアを閉め、一息つく暇もなく吠えた。

 

「おい! さっさと出せ! 他は全員捕まった!」

 

 …………反応がない。何かがおかしい。

 

「……オイ、聞いてんのか!」

 

 さっさと車を出さない運転手にイライラしながら肩を掴むと――バタリと音を立てて横に倒れた。その顔は恐怖で歪み、涙で濡れている。よく見るとピクピクと痙攣を起こしていた

 

「……え?」

 

 理解不能。目の前の状況が理解できない。したくない。なんだこれは、なんなのよ!

 

Welcome aboard!(ご乗車ありがとうございます) でも残念だけれど、ここが終点なんだよなぁ……」

 

 そんな声が真後ろから聞こえた瞬間に、スライドドアが勝手に開き、あたしの体は後ろから何かに掴まれて車の外に投げ出されていた。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 最後部座席から身を乗り出して、タマゴに毛布をかけて固定してから車を降りる。とりあえず、逃げられないようにしようか。

 

「御神木様、【ステルスロック】で車の前後に石柱を建てて動けなくしてくれ」

 

「クギュル」

 

 ズガガガガッと車を取り囲む様に【ステルスロック】による石柱の柵が作られてゆく。そこまで指示しなかったのだが、車の後部下にも生やしたらしく後輪が完全に浮かんでいた。車が前傾姿勢の様になっていてなかなかに面白い光景だ。それにしても、いい発想だぞ御神木様! 自分で考え、行動する。その一端が垣間見られる。たださっき俺がタマゴ固定していなかったら結構惨事になっていたかも……まぁきっと俺の行動を見てたからアレを行ったのだろう。きっと。たぶん。

 

 投げ飛ばした女マグマ団員の方をチラリと見ると、ゴホゴホと咳き込んでいるようだった。水たまりの辺りに投げ込んだせいで少し飲んだのかもしれない。もしくは受身も取らずにそのまま背中から着地して肺の中の空気が抜けたか。

 

 恨みを込めた目で睨まれるがソレがどうした。それは俺をイカと知った上での狼藉か?

 

 御神木様をボールに戻してから話しかける。

 

「よぉ! お嬢さんは知らなかったのか……? 大王イカからは逃げられない……!!」

 

「クソックソックソッ!! 何なんだよお前! あたしの邪魔すんなよ!」

 

「お嬢さんの目は節穴か? 俺がダイオウホウズキイカ以外の何に見えるんだよ。まさかタコとイカの区別がつかないのか? タコ足8本イカ10本だ。これでまた一つ賢くなれたな」

 

 残念な娘ですな。でも今の俺って触腕2、触手8、腕2、足2という奇妙な生物だから、どの種のイカか見分けが付かなかっただけかもしれん。もしそうだとしたら悪いな。俺の勘違いで変な言葉を投げかけてしまった。

 

 それにしても、ここまで闘志を滾らせていたマグマ団員は他にはいなかったな。面白そうだ。さぁ、最後まで足掻いてくれ、藻掻いてくれ! 俺の障害となってみせろ!

 

「出てこい! あの男を潰せ!」

 

「ブフォー!」

 

 ポチエナか。なら……

 

「お嬢さん、人がイカに勝てると思っているのか? しかもこちとら大王だぞ? 網代笠、あいつは俺達とやり合う気らしい。這い上がるつもりがあるのならば――――そんな気が起きないぐらいに叩き潰してやろうぜ」

 

「キノッコ!」

 

 雨が降りしきる中でのバトルか。これも風情があっていいなぁ……ただ雨のせいで【しびれごな】は至近距離じゃないと流されちまうな。今回に限っては止め技のような扱いでいいだろう。相手の【すなかけ】もできそうにないし。どっこいどっこいと言った感じか?

 

「【かみつく】をして引き裂いてやれ!」

 

「【タネマシンガン 3点バースト】で迎撃。胴体を狙え!」

 

 ダダダッという独特な発射音と共にタネが撃ち出されてゆく。右へ左へと巧みに射線を避けて【かみつく】為に近寄って来ていたが、距離が近くなればそれだけ的は大きくなってゆく。

 

 ただ、やはり長距離射撃は苦手ならしく、7射目でようやくポチエナに直撃した。当たった弾は7発か、あんまり大きなダメージはなさそうだな。

 

「グッガァッ!」

 

「ほう」

 

 ダメージを食らったにも関わらずそのまま【かみつく】か。やっぱりダメージが少なかったみたいだ。ならば、噛み付いている顔面に向かって【バックショット】を叩き込んでやろう。

 

「【タネマシンガン バックショット】で沈めろ!」

 

「キノォ!」

 

 スドンッというくぐもったような音が響き渡る。そして直撃したポチエナが吹っ飛び、女マグマ団員の前で沈んだ。

 

「まず1匹目。どうした? その程度なのか? お嬢さんは俺を叩き潰すんだろうッ!」

 

 触手達をうねうね動かしながら叫ぶ。さっさとボールに戻して次のポケモンを出してこい。

 

「クソッ使えねぇ! ドンメル、死ぬ気で戦え!」

 

 その言葉に眉をひそめる。どれだけ上から目線なのだこいつは。

 

「ドル~」

 

 雨の中にドンメルか。確かに通常の天候なら網代笠の弱点は炎タイプの技だ。だが今の天候は雨、等倍にまで威力は下がっている。こちらの攻撃は元々等倍。練度次第だがイケるだろう。それよりも早くポチエナをボールに戻してやれよ。雨に当たって可哀想だろうが。

 

「【ひのこ】で焼き殺せ!」

 

「3歩右へ! 【タネマシンガン 3点バースト】で胴体狙い!」

 

 複数の火の玉が飛来してくるが――てんでダメだ。確かにタネのいくつかは火に炙られてダメになってしまっている。しかし、いつもハルカに焼かれているせいか、その軌道では網代笠に当てられないということがすぐに分かってしまった。それに、雨だということを考慮しても火の勢いが弱い。

 

 こうやって見ていると、やっぱりハルカは強くなっているんだなと軽く実感する。大きな【ひのこ】の後ろに複数の小さな【ひのこ】を出すことで小さい方を隠すとかやってくるようになったしな。バッジ3つ手に入れた時に【かえんほうしゃ】を渡すつもりなのだが……俺はハルカに勝てるのだろうかという考えが、ふと頭の中によぎった。

 

「相手の足が止まったぞ! よく狙って射撃を続けろ!」

 

「キノコ!」

 

 先ほどとは異なり、3射目からバシバシとドンメルへ当ててゆく。合計18+1発のタネがドンメルを襲い体力を削っていった。なかなかに効いたのか、ドンメルの足元がフラフラとしていたところ……

 

「ああ……クソッ! テメェらあたしの道具なんだから命令通りに動けよ! こいつみたいになるぞ!」

 

 そう言って目の前の女は――先ほど倒れたポチエナの頭を踏みつけ、蹴り飛ばした。無防備な状態で踏まれ、蹴り飛ばされたポチエナは、どこか擦り切ったのか頭から血が流れていた。多少派手に見えるのは頭の周辺に血管が集まっているからだろう。

 

 そして、そんな言葉を聞いて、その行為を見た瞬間に、俺の頭のスイッチが切り替わった。

 

 茶番は終わりだ。

 

 今までのような演技がかったものではなく、この屑を完全に潰す為に。

 

「……貴様、今何をしたのか理解しているのか?」

 

「あ? なんだよ! 道具をどう扱うかなんてあたしの自由だろッ! カガリお姉さまだってそれを掲げているんだ! 間違っているはずがない!」

 

 ポケモンが道具、ねぇ……なるほど。だからこいつも含めてマグマ団の連中はあんなに上から目線だったのか。そもそも自分達が絶対の意思であるという考えがこそが愚かしいというのに……あの頃の恐怖をこいつに見せてやりたい。人間などまったく力を持たない弱者なのだと理解させられるアレを。

 

 それにしてもカガリお姉さま、か。カガリって言うとマグマ団の幹部だったっけ。ソレが組織の公約って訳か。ポケモンを使って全能感を得たい人間が好んで入りそうなマニフェストだなぁオイ。

 

「なるほど……なるほど。俺もその理屈はわかるし、理解もできるさ」

 

 自分の持っているモノを、扱っているモノを他人に指図される筋合いはないと。

 

「だったらあたしに指図s」

 

「ただ、だからと言ってそんな考えを納得するわけにはいかねぇなぁッ! 貴様等のような屑に、ポケモン達と共に歩む資格は無い!」

 

 そう言ってボールから御神木様を出す。大賀がいないのは残念だが仕方がないな。

 

 さて、ここからはポケモンバトルではない……ただの蹂躙を始めよう。相互理解は刑務所の中で泣きながらやってくれ。

 

「御神木様、【ステルスロック 檻】をあのトレーナーに。網代笠はドンメルに近づいて【タネマシンガン バックショット】」

 

「クギュルルル」

 

 あの女の周囲を取り囲むように尖った岩が発生し、空気穴の空いた檻を形成してゆく。上手い具合にポチエナは巻き込まれていないようだ。おそらく御神木様がぎりぎりでポチエナが巻き込まれないように展開したのだろう。

 

「な、何なのよ! 出せ! 出しなさいよ、クソッ!! 岩を砕けドンメル!」

 

「メルー!」

 

 ドンメルがあの女を囲んだ岩を砕こうと【たいあたり】を続けているが、尖った岩のせいで逆に傷ついてゆく。

 

「もういい。お前は休め」

 

「キノッ!」

 

 岩を壊す為の【たいあたり】に夢中だったのか、横から飛び出てきた網代笠の【バックショット】の直撃を受けてとうとうドンメルは沈黙した。さて、残るターゲットは一人。

 

「この事件の幕引きといこうか。網代笠、ゆっくりと【しびれごな】を中に充満させろ。その間にハルカ達と連絡取るから」

 

 この車も重要な証拠になるだろう。俺が運転してもいいのだが、無免許運転で捕まりそうだし動かさないで来てもらったほうが賢明か。数回のコール音の後、ハルカがポケナビに出た。

 

「キョウヘイ先生? 終わったの?」

 

「ああ、屑共を全員確保した。警察を件の集合地点に呼んでほしいんだ。俺はその間屑共を見張っているから」

 

「……何かあったの?」

 

 声と雰囲気でなんとなく察せられたようだ。いかん。気をつけなければ口からいらん言葉も出てきそう。

 

「すこぶる気分を害された。じゃあ警察への連絡は頼んだぞ」

 

 下手なことを言う前にポケナビの通信を切ることにした。

 

 そろそろ時間的に痺れてきただろう。御神木様に檻を破壊させて、髪を触腕で掴み女を中から引きずり出す。口や瞼が痺れているせいか、涎や鼻水、涙がだらだらと無様に流れ出している。そんな状態の女を地面へ投げ捨て、両手両足を縛り上げてゆく。そして、しっかり縛った後に女のベルトからボールを奪い――

 

「――お前らも、あそこまでやられたら溜め込まないで反逆してもいいんだぞ?」

 

 ポチエナやドンメルにいい傷薬を吹きかけてやり、その後ボールへ戻してゆく。とりあえずこれで傷は大丈夫だろう。

 

「ハァ……マグマ団か……」

 

 本格的に危険思想な組織になっているんだな。うーむ、これはダイゴさんにマグマ団アジトを伝えるべきだろうか? あのアジトの規模なら本拠地として扱っているのだろう。なのでメリットとしては、この時点でマグマ団を壊滅、ないしは大打撃を与えられるかもしれないというもの。デメリットはアジト襲撃以降のマグマ団の行動が一切読めなくなるということと、アクア団との抗争が減るせいでアクア団が活発化する可能性があること。

 

 行動が読めないのはもう既になりかけているから問題ないとしても、アクア団が活発になるのはいただけないなぁ……しかし、これ以上虐待されているポケモンを見逃すというのも……

 

 現状を知ってしまったからこそ見捨てることができそうにない。むむむ……悩む。とりあえず結果は後で決めるとして、まず先に車を元に戻すか。警察来たけれどすぐに車が動けません、だと馬鹿っぽいもんな。

 

 御神木様に頼んで【ステルスロック】を1本ずつ破壊していく。その間網代笠は付近の警戒をしてもらおう。雨で視界が悪いがこんな時だからこそ襲撃があるかもしれない。石橋を叩き壊してそこに新たな鉄橋を作るのが俺のスタイルだ。

 

 5分ほどで【ステルスロック】を砕き終わったので、車の最後部座席に女マグマ団員を投げ入れ、雨に当たらないようにしてやる。俺ってばやっさしー。夏とはいえ雨に当たり続けたせいで風邪を引かれて、刑務所の職員に迷惑かけるのも申し訳なく感じるしな。

 

 するとハルカから通信が来た。

 

「キョウヘイ先生、あと10分程でそっちと合流できそうなんだけれど、何か変わったことある?」

 

「いやまったくな『パキッ』い……ん?」

 

 車内から何かが割れる音が聞こえる。音の方向に目を向けると、タマゴにかけられていた毛布がもぞもぞと動き出していた。

 

「ハルカ、さっきのやつ訂正。タマゴが孵化しそうなんだけれど、どうするべきだろうか?」

 

「え? ええッ! いやどうしようって言われても。テンカイさーん……」

 

 ハルカがテンカイさんに対処法を聞いている間にも、タマゴの動きが激しくなってゆく。籠の中で孵化すると下のタマゴに被害が及ぶかもしれないな。とりあえず、動いているタマゴだけ毛布を敷いた座席に移しておこう。そう思ってタマゴを抱えた瞬間に――

 

「ブイッ!!」

 

 ――タマゴを完全に割って、イーブイが孵った。抱き抱えているイーブイと視線が合う(イカ)。生まれてすぐに目が見えるのか、ポケモンってすげぇなぁ。毛も多少濡れたようになっているが、ほとんど生え揃っているように見える。その辺は向こうの鳥などとは違うのか。

 

 ……あ、やべぇ、凄く可愛い……

 

 鼻を鳴らしたような声で鳴いているのがとてもよく聴こえてくる。まだ足腰に力が入らないのか、とてもヨタヨタと腕の中で起き上がろうとしては失敗しているようだ……違う。眺めている場合じゃないだろう俺! この子どうしよう。とりあえず先ほど毛布を敷いた座席の上にちょこんと座らせると、左右を眺めては首をかしげている。既に首は座っているようだ。

 

「…………い。キョウヘイ先生!」

 

 ハルカが帰ってきたようだ。

 

「で、俺はどうすればいいんだ?」

 

「その生まれた子を膝の上に乗せて、待っていてだって!」

 

 膝の上に乗せていればどうにかなるのか……どういうことだってばよ! とりあえず、イーブイの顎を指で撫でながらハルカ達待ちをすることになった。長い10分間になりそうだ……

 

 

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