カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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買い物とまさかの対戦

 寝坊しかけるというフラグをしっかりと踏んだハルカを早朝に見送り、徹夜で纏めて完成させた資料をついさっきポッポ便で郵送した。

 

 これであとやることは、技マシンの為にキンセツゲームコーナーを探すぐらいか? 大まかな場所は検討をつけているのだが……元々あったであろう場所に開発途中の土地や建築途中の建物が多すぎて、方向音痴な俺じゃなくても迷子が続出する魔窟地帯になっている。

 

 普通にこの辺りのデパートで買えたら楽なのに売っていないし。仕方がないのでホームページから場所を参照して、網代笠に連れてきて貰ったのだが……

 

「網代笠~本当にここのデカい要塞の中なのか?」

 

「キノコッ!」

 

 ここらしい。網代笠はむふーと自信満々に背を反って胸を張り出している。前回の失態を挽回するためにいつも以上に気合を入れていたから間違えてはいないのだろうけれど……

 

「俺が言えた義理じゃないが、なかなか奇抜ですな」

 

 改めて目の前にそびえ立つ建物に目を向けるが、どう見ても超大型要塞にしか見えない。四方には5階建てのオフィスビル相当の塔が建っており、それを繋ぐように石造りの門や石壁がそびえ立つ。ここから石造りの門の奥は見えず、くぐり抜けないとわからないようだ。ここ本当にデパートか? 観光名所の一つですって言われたら、ああなるほどってそのまま納得できそうだぞ。

 

 ただ、周囲の建造物と造りがかけ離れているせいか、殊更異様な雰囲気を醸し出している。なんでこんな場所に造ってしまったんだ……

 

「……ここで考えても仕方がないな。入ってみるか」

 

「キノッ!」

 

 石造りの門を抜け、少し進むと4mほどの巨大な両開きの鉄扉があった。普通に考えて、人間の力で開くような感じではない。飾り扉のようなものなのだろう。下に小さな入口がないか、ペタペタ触って確かめるが見つからない。

 

 これ、どう入るのだろうかと悩んでいると、鉄扉の横にあった装飾付きの石壁が左右に動き、中から若奥様とそのお子さんが手を繋いだ状態で現れる。よく見ると自動ドア特有のレールや泥落としのマットがそこにあった。

 

「入口ここじゃないのかよ……」

 

 珍しい俺のツッコミだ。ありがたがるといい。

 

「お母さん! あそこにふくろうさんがいる!」

 

「きっと宣伝か何かじゃない?」

 

 残念ながら趣味なんです。なぜか手を振られたので俺も手を振り返しておく。

 

 自動ドアをくぐると中はごく一般的なデパートのようだ。なぜ外装をあそこまで頑張ったのに内装で手を抜いてしまったのか……最後まで貫き通せよ。Why don't you do your best!(なぜベストを尽くさないのか!) まぁ尽くしたら尽くしたで、どうしてベストを尽くしてしまったんだ的な物になりそうだが。

 

 案内板を見るとこの建造物は地上5階、地下2階建てで塔の一つ一つが専門店となっており、それを結ぶ石壁の中に雑貨店や薬局などが入っているようだ。中央にはポケモンバトル用のステージが4つほど設置されているらしい。俺の目的であるゲームコーナーは北東の塔の中にある。他のめぼしいお店として、ぬいぐるみ店やらポケモン用アクセサリー店なんかもあるみたいだな。

 

 うちのパーティーは女の娘が多いからこういうの好きそうかも? 寄ってみるか。土産で買っていくのもいいかもしれない。

 

 肝心のゲームコーナーへ行くには1階と2階が繋がっているみたいだな。一方アクセサリー店は西南塔4階か……こっちのほうが近いな。先に買い物するか。どうせバックパックに入れるから嵩張らないし、時間が経つと拙い食品系統でもない。

 

 ついでにアクセサリー入れも二つ買おう。これに少しアクセサリーを加えて、ハルカがバッジを手に入れた時のプレゼントにするかな。

 

「よし、ルートは決めた。網代笠、とりあえず先にアクセサリーショップに向かおう。道案内を頼む」

 

「キノッキノノ!」

 

 エスカレーターで上の階へ登って行く途中、ふとガラス越しで視界の端に入った中央のステージを眺めると、3箇所でバトルを行っているらしい。なかなか白熱しているらしく、歓声がこちらまで聴こえてくる。時間があったら顔を出してみよう。

 

 4階まで登り、網代笠先導のもと少し歩くとファンシーなアクセサリーショップに着いた。見かけはファンシーなのだが女性客ばかりという訳ではなさそうだ。まぁ、女性客ばかりでも気にせずに入れるのだが。

 

「網代笠、好きなアクセサリーを見つけてきんしゃい。カゴに入れるから」

 

「キノコ!」

 

 早速物色しているようだ。楽しそうに物色するあたりポケモンといえど女の娘なんだなと再認識させられる。気に入ったものがあるといいのだが……視線を網代笠から商品に移す。展示されている商品は結構な数があり、色とりどりのリボンやニット帽等の帽子、付け髭や綿。小型のサーフボードなんかもある。それはアクセサリー入れに入り切るものなのだろうか。

 

 時間がかかる気がしていたので暇つぶしに商品棚を眺めていると、網代笠に呼ばれた。思いのほか早く決めたらしい。棚の物で網代笠が好みそうなものを持ってみる。

 

「こっち? 違う? ……ああ、コレでいいのか?」

 

「キノ!」

 

 可愛らしいリボンのようなものかと思っていたが、そんな物よりもしっかりとした作りの靴のほうが欲しかったらしい。

 

 しかも、靴と言ってもスポーツシューズやスニーカーのようなものではなく、アーミーブーツに近い物だ。色も黒でなかなかに渋い。本当にコレでいいのか? もっと可愛らしいものもあるぞ?

 

 手に持ってみた感じかなり頑丈な作りになっているようで、これならすぐに壊れるような事もなく、濡れているような足場でもしっかり踏ん張ることができるだろう。でもこれ足の大きさに合うん?

 

「……アク……セサリー?」

 

 アクセサリーとはいったい……ウゴゴゴゴゴ。

 

「ええ。それも立派なアクセサリーですよ、お客様」

 

 うおッ!? 体が少し跳ねた。いつの間にか店員さんがいたらしい。

 

「その靴を身に付けてジム戦を行う方もいらっしゃいますよ」

 

「ほうほう」

 

 これ履いてバトルに出てもルールに接触しないのか。いいことを聞いた。

 

「お履きになるポケモンの足の大きさに合わせて御作り致しますので、調整に一日ほどお時間を頂きますが、それだけの価値はあるかと」

 

 一日でできるとか凄まじいな。どんな生産力だ。

 

「……お値段はおいくら程で?」

 

「進化等でのサイズ変更金は別で29,800円となります。初回以降にサイズを合わせる場合は+4000円です。修繕などもこちらに送って頂ければ行いますよ」

 

 安いな。この手の靴は4~5万はするかと思って身構えていたんだが、それぐらいならなんとかなる。サイズも変えて2~3回程度だろうし、修繕費は消耗具合で変化するがさっきの強度からして毎回毎回大破などしないはずだ。

 

「うーむ……よし、この娘の足のサイズ測って貰えますか? 一足購入しようと思います」

 

「ご購入ありがとうございます! 早速測定致しますね!」

 

 網代笠が測定している間に御神木様達の欲しいものを探そう――

 

 ――結局、皆の分やプレゼントの分を買ったら、今の財布がだいぶ軽くなってしまった。どこかでトレーナーと戦わないとな……

 

 買ったものは網代笠が黒いアーミーブーツ、御神木様が紫のリボン、大賀が黒い穴あきグローブ、夕立が白いマフラーとなった。アーミーブーツは明日ポケモンセンターに直接輸送してもらう事にしておいたので、わざわざ明日ここに来る必要もない。

 

 ……なぁ、網代笠と大賀は実用性で選んでないか? 純粋な好みを選んだのは御神木様と夕立だけな気がする。というか夕立よ、お前夏にマフラーとか暑くないの?

 

 ハルカのプレゼント用には何種類かの色のリボンと、店員さんオススメの花をいくつか詰めて貰った。これだけバリエーションがあれば色々な組み合わせができるだろう。

 

 さて、時間も昼を過ぎたし、昼食をとったらそろそろ本当の目的地であるゲームコーナーに向かうか。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 昼食を食べてからゲームセンターに行って正解だった。御神木様、大賀ペアがスロットで何回も大当たりさせた為、コインケースに入れられる量を超えてカンストさせていたし、眺めているだけでジャラジャラコインが出てくるので、気がついたらもう4時間も経っていたようだ。

 

 ただ、結果として№32【かげぶんしん】だけでなく、№29【サイコキネシス】やぬいぐるみをいくつか手に入れることが出来た。流石御神木様である。そのお姿は神々しく、まるで後光が射しているかのようで……おい、ゲームコーナーのライトを巧みに利用するんじゃあない。他のお客さんに迷惑でしょうが。

 

 まだポケモンセンターに戻るのは早いだろう。そういえば中央でポケモンバトルができたな……

 

 金稼ぐか? 御神木様達なら負けることはないだろう……【あまごい】や【みずあそび】もあるしな。体が軽い…こんな幸せな気持ちで気持ちで戦うの初めて……もう何も怖くない――!

 

 それにこんなに夕日が綺麗なんだ。きっと最高のバトルになるだろう! ……フラグはこれぐらいで十分か?

 

「今日は時間いっぱいまでバトルするか!」

 

「キノコッ!」

 

 下に降りて中央ステージの受付へ足を運ぶと、ちょうど俺の前で受付をしていた人が終わったようだ。

 

「お次の方どう……ぞ?」

 

「次の試合に参加したいのですが枠は空いていますか?」

 

 一瞬フリーズしかけたようだが、無事復帰したらしい。少なくともWindows 98のダイヤルアップ接続完了よりは早かった。

 

「ええ、あと3枠空いています。ご出場なされますか?」

 

「お願いします」

 

 お金を稼ぎたいんです! 久方ぶりに浪費しすぎた。どこかの騎士に怒られそうだが、それでもお金は大切なものなんだ。

 

「それではトレーナーカードの提示をお願いします…………キョウヘイ様ですね。トレーナーカードをお返し致します。登録が完了致しましたので3番控え室で待機していてください。また、ポケモンバトルのルールは基本的なジムのルールと変わりませんが、最大3匹までしかバトル登録できませんので注意してください」

 

「わかりました」

 

 マリンホエルオー号の時と変わらない感じか。

 

「バトル登録は控え室で行えます。3番控え室は突き当たり左ですのでお間違えないように……それではよいバトルを!」

 

 流石にこの距離なら迷わん。ごく無難に3番控え室へ入り、登録機に御神木様達を登録させていく。一番手に網代笠で持ち物は木の実ジュース、二番手に大賀で持ち物は湿った岩、三番手に御神木様で持ち物は食べ残しにしよう。お、トレーナー名のところに名前を入れる箇所がある。入力しておけば試合開始前の選手説明で読んでもらえるらしい。こ~れ~は~? 付けるしかないでしょう。今日はフクロウのマスク付けているし、インコマンでいいか。

 

 さて、これで網代笠が1番戦闘を多くこなすことになる。何試合するかは決めていないが明日も休みだしギリギリまでできるはずだ。閉園まで居座るか?

 

 連続で戦えることを前提にしているけれど大丈夫だよな? フラグが足りぬのならまだ建てるぞ。パインサラダとか……今更だが勝てるだろうとか言うのもフラグな気がしてきた。これだけ建てればフラグも重さで折れるだろう。

 

 動き方等の最終確認や道具を持たせているといつの間にか20分も過ぎていたようだ。なかなか相手が来ないなぁ、なんて思っていたら、ポーンという音が控え室の中に鳴り響いた。

 

「3番控え室のトレーナーと5番控え室のトレーナーは2番ステージへ集まってください」

 

 おお、やっとか。相手はどんなトレーナーだろう? システム的に考えるのならバッジの数がだいたい同じような相手にするはずだ。

 

 2番ステージへ向かうと、なんか思っていたよりも観客がかなり多かった。あれ? つい20分ぐらい前までそんなに人いませんでしたよね? そんな注目されるような試合でもあるの? 何台かカメラもあるようだ。あんまり心象的には嬉しくないが、高性能カメラでバトルを録画してくれるんだと思うことにしよう。

 

 外側から見る限り、普通のフラットフィールドだな。無難なステージだ。

 

 今の状況を不思議に思いながらも、ステージより少し高い場所に設置されている指揮台を登ると、ちょうど相手も同じようなタイミングで登ってきた。

 

 最初に目に入ったのは見覚えのある猫の耳のような大きなリボン。次に最近暑くなってきたからという理由で買った赤いキャミソールに黒のタンクトップ。下半身はここからでは見えないがおそらく白のショートパンツを履いており、その下にスパッツを身につけているはずだ。

 

 あれ? 君、確か今日は117番道路の主に戦いを挑みに行くんじゃなかったの? 相手も、誰が相手かを理解したようで口をあんぐり開けている。きっと俺と同じような気持ちなんだろう。

 

「赤コォーナァー! 現在バッジ1つ。最近頭角をあらわしてきたジムリーダー注目の選手! その炎の輝きは勝利の輝き! 美少女新人トレーナー、オダマキィ~ハルカァーッ!」

 

「ハルカちゃーん! 頑張ってー!」

 

 司会役の少女がトレーナーの説明を行ってゆく。少女の服装を見ると、綿の付いた青を基調としたアイドル衣装を身につけており、どことなくチルタリスを連想させる。

 

 さて、固まっていないで何か反応しんしゃい。最近ジムリーダーに注目されている他称美少女新人トレーナーさんよ。早速ファンが生まれているじゃないか。

 

「青コォーナァー! 現在バッジ1つ。様々な動物マスクを愛用しており、最早マスクこそが彼の素顔! 気になるその実力は、ジムリーダーが感心するほど! 技巧派新人トレーナー、イィンコマァーンッ!」

 

「胡散臭いぞー!」

 

「なんでフクロウのマスクをしてインコなんだー!」

 

「ナイスバルク!」

 

 右腕を上げて声援に答える。ブーイングが飛んできているが俺は屈しないぞ! 誰がなんと言おうと今日の俺はインコマンだ! ナイスバルクという掛け声にモストマスキュラーで答える。

 

「今回の司会と実況は、ホウエン地方No.1コンテストアイドルこと私、ルチアがお送り致します! キラキラ~! くるくる~? 『突然の出会い! ミラクル☆アイドルスカウト!』 」

 

 それは合言葉なのだろうか。観客もだいぶヒートアップしているようだ。と言うか、見かけによらずかなりテンション高めなんですね。

 

「「ウオォォォーーッ!」」

 

「オレを彼氏にスカウトしてくれー!」

 

 なんだか凄い濃い野郎がいるな。

 

 それにしても誰だこの子? 俺は知らんぞ? まぁこの世界にアイドルがいるのは当たり前だとは思うが、会場の雰囲気からして相当有名なアイドルのようだ。自称なのか公式なのかもわからないがNo.1コンテストアイドルということはメインはコンテストバトルか? うーむ、コンテストバトルの方はそこまで調べて居なかったからなぁ……ハルカが目指し初めてから調べる程度でいいかと後回しにしたのが裏目にでたか。

 

 しかもちょっとした裏情報を知っている、と……警戒すべきか? ただ、どっちの陣営でもここで俺達を注目させるメリットがないな。毒にも薬にもならん。

 

 ふむ……まぁその辺りは後で調べるとして、この場は勢いと熱気に身を任せよう。

 

 さて、改めてハルカが相手か……いつもと環境が違うからどうなるかわからんな。最近の勝率も御神木様でゴリ押ししてようやく7:3ぐらいだし。

 

 ただ、正直お互いに戦略はだいたい理解しているんだよな……今日の結果次第では訓練内容変えるかね。

 

 ……ハルカさんや、そろそろフリーズしていないで動きなさい。

 

「今この瞬間は、力こそが全てだ! 俺を超えてみろ!」

 

 せっかくの祭りだし俺がヒール(悪役)になってやる。さぁ、全力で俺を潰してみせろ。そんな思いをしながら網代笠をフィールドに繰り出す。

 

 ハルカも意識が戻ってきたのかゴンベを繰り出してきた。最初にガーディじゃないのか? 珍しい。

 

「師匠からの挑発が効いたのか、ハルカ選手も動き始めました! 何の因果かわかりませんが、揃ってしまった決戦の場。師弟の戦いが今、幕を切って落とされた!」

 

 正直、お前が操作したんじゃないの? と俺は思っているんだが、そこんところどうなのさ、ルチアさんや? そんな思いを視線に乗せて司会に送る。あ、くそッ。あいつ目をそらしやがった。確信犯だなあいつ。 

 

 そんなやりとりをしていると、ピピーッと審判のホイッスルが鳴り、バトルが始まった。

 

「ゴンベ戻って! 頑張ってガーディ!」

 

「ガァウッ!!」

 

「後ろへ引いて【やどりぎのタネ】」

 

「キノコッコ!」

 

 網代笠がスタート地点から4mほど後ろに跳び、【やどりぎのタネ】をゴンベへ植え付けようとしたが、その前にゴンベとガーディが交代された。その結果ガーディに【やどりぎのタネ】が寄生してゆく。しかし、特性:威嚇で攻撃が一段階落とされてしまったか。決定打が余計に放ちづらくなったな。

 

「おおっと! ハルカ選手、初手から交代をするようだ。相性の悪さを懸念したか?」

 

 だいたいそんな感じだろう。網代笠は物理アタッカーで対するゴンベは対特殊のディフェンダーだ。【のろい】を積んで耐えようにも速度が遅くなったら、網代笠の引き撃ち【タネマシンガン】に対抗できないし、接近できても接近戦は網代笠の距離だ。大賀と対面させるために温存したな。

 

「【ひのこ 火花】!」

 

「ガウッ!」

 

「【かげぶんしん】だ」

 

「キノコココッ!」

 

 ガーディが放った【ひのこ 火花】は、一つだった【ひのこ】が途中で小さい火の玉に分裂するによって5m程度の円状の範囲攻撃をする技のようだ。初めて見たぞ……面白い。だが、網代笠は【かげぶんしん】で自分の分身を増やして的を絞らせないようにしている。

 

 6匹ほどの分身に分かれていた網代笠だったが、4匹ほど焼けれて消えてしまった。結構消えたな……一切練習していないせいか、【かげぶんしん】の数がまだまだ少ない。10体ほどに分身してくれるのならばまだ使い道があったんだがなぁ……当たったりしなかったのは運がよかったと思っておこう。やっぱりぶっつけ本番はだめだな。

 

「ギリギリですが、インコマン選手の網代笠が一手先を読んでいますね。しかしハルカ選手のガーディも【ひのこ】の扱い方も面白く、当たれば相応以上に痛いでしょう」

 

 痛いなんてものじゃないんですがそれは……

 

 この攻防の間も【やどりぎのタネ】がガーディから体力をじわじわと吸い上げてゆく。

 

 さて、次手はどうする? 【しびれごな】でガーディを麻痺らせるか。対ゴンベ用で待機してもらって大賀に交代してもらうか。安全牌でいこうか。2回も賭けを行う必要はない。

 

「もう一度【ひのこ 火花】!」

 

「戻ってこい網代笠! 頼むぞ大賀!」

 

 更に【ひのこ 火花】が飛来してくるが、着弾前に網代笠から大賀へ入れ変える。交代した瞬間に大賀が【ひのこ 火花】に包まれた。

 

「インコマン選手の大賀が出てきた瞬間に火だるまになった! これは大丈夫なのかァッ!」

 

「スブゥゥゥウッ!」

 

 しかし、なんともなかったかのように、低い唸り声をあげながら大賀が炎を振り払う。現在の我がパーティにおける対炎の要なのだ。それぐらいしてもらわなければ困る。そして今負った【ひのこ】の傷も、【やどりぎのタネ】によって少しずつ回復しているようだ。

 

「よし、その場で【あまごい】だ!」

 

 大賀がその場でくねくね踊り始めると、次第に湿度が上がってゆき、ポツポツと雨が降り始めた。普通なら100秒程度しか保てないが、大賀が今、首からぶら下げている湿った岩という道具の効果によって300秒にまで延長される。これは昨日ポケモンセンターに帰ってきてから他の場所で試したから確定のはずだ。

 

 この雨によって特性:すいすいである大賀は素早さが2倍になる。特性:加速のワカシャモぐらいにしか抜かれることはないだろう。

 

「あちゃぁ……キョウヘイ先生、そんな技を大賀に覚えさせちゃったのか……本気で潰しにかかってきてるかも」

 

「おう! だからハルカも全力で抵抗しろ! 今持ちうる全ての力を出しきれ!」

 

 何とでも言うといい。今の俺はヒールなのだ! そして、偶にはヒールが勝つ劇があってもいいじゃない!

 

「ここで【あまごい】だぁッ! ハルカ選手はインコマン選手のポケモン達に多少ダメージを与えていますが、都合の悪い展開が続いているぞォ!」

 

 今この状況だとどうする? 瀕死からの交代か? ワカシャモはハルカにとって逆転の為の切り札だろう。なるべく傷を負わせたくないはず。だから選択肢は普通に攻撃するか、ゴンベに交代だ。だが、交代しても今のガーディでは特性:威嚇を入れる役割しか活かせない。そして、それすらもゴンベがいなければ意味がない。だから攻撃してくるはずだ。おそらくは等倍の【インファイト】を選択するだろう。故に行う行動は一つ!

 

「【おんがえし】を叩きつけろ!」

 

「ガーディ、【インファイト】!」

 

「スブブブブゥッ!」

 

「ガァァウッ!!」

 

 ガーディよりも先に一歩踏み込んだ大賀が、ガーディの顔面に向かって【おんがえし】を振るう。それに対し、一歩遅れた形でガーディの【インファイト】が大賀目掛けて炸裂した。お互いに強力な技と技がぶつかり合うが、一歩分の踏み込みの差は大きかったようで、大賀の右腕による【おんがえし】がガーディの頭に突き刺さる。

 

「おおっと! ここでインコマン選手の大賀による【おんがえし】が決まったァ! 通常の個体よりもかなり太めの腕は伊達ではないということかッ!」

 

「まだ、まだ戦えるわ! もう一度【インファイト】!」

 

「ガウゥッ!!」

 

 潰した! と思った瞬間、腕の伸び切った体勢である大賀の懐へ、いつの間にかガーディが深く入り込んでいた。そして前足による【インファイト】が、ガラ空き状態の大賀の胴体に叩きつけられた。上半身がその衝撃で少し左上へ仰け反り、引っ張られるように大賀の重心がブレる。

 

 その隙にガーディは立ち上がろうとしている。

 

「大賀のボディに【インファイト】が直撃するゥ! まだハルカ選手のガーディも諦めていないようだ!」

 

 多少大賀が仰け反った程度でェ、いい気になってるんじゃねぇ!

 

「止めェッ!【おんがえし】!」

 

 仰け反り、ブレてしまった重心を左足をつっかえ棒のようにして押さえ込み、仰け反りをそのまま勢いに変換して、胴体をひねりながらを血気を纏った【おんがえし】(左拳)を叩き込んだ。

 

「スブゥッ!」

 

 ズゴンッ! という鈍い音を立てて、ガーディが地面に叩き伏せられる。それでもガーディは、バトルを続ける為に立とうと足に力を入れているようだが、足がもう動かない。とうとう力尽きて倒れ伏した。

 

「……ガーディ! 戦闘不能!」

 

「ここでハルカ選手のガーディがダウーン! この熱い試合の先手を獲ったのはインコマンだァッ!」

 

 うん。前のようにすぐ諦めなくなったな。とてもいい心がけだ。正直【あまごい】がなかったらだいぶ危ない試合展開になっていただろう。

 

「ガーディお疲れ様……ゴンベ! 敵を取りにいこう!」

 

「ゴンベ!」

 

「ハルカ選手、ゴンベを繰り出してきたが果たしてどのような戦術を行うのか!」

 

 ゴンべか。素早さは最初から負けているのは承知しているだろうし……雨が切れるのを待っているのだろう。その勝ちを模索する姿、とてもいいぞ!

 

 俺達のような凡人が、考えることをやめてしまったら、諦めてしまったら、前にすら進めなくなってしまう。足掻き続けなければ勝負する為の場にすら辿り着けないんだ。だから全力で足掻いてみせろ!

 

「戻れ大賀! 任せたぞ網代笠!」

 

「キノコッコ!」

 

「その場で【のろい】」

 

「ゴンゴン~」

 

 ゴンベはその場から動かずに【のろい】を積み、攻撃や防御を高め始めた。たしかに物理攻撃メインな網代笠に対してそいつは有効だ。ただ、それだけだと勝てんぞ?

 

「セットォ! 【タネマシンガン 3点バースト】!」

 

 3発づつ発射される種が、ゴンベに襲いかかる。するとゴンベは、両腕を合わせて顔を守る盾のような体勢をとった。

 

「よし! 【おんがえし】を纏った腕を盾に最短距離で突っ込め!」

 

「ゴンベ!」

 

 面白い……そう来るか! ある程度の防御を固め、多少の被弾覚悟で突っ込み一撃を加える。体力の多いゴンベのようなポケモンだからこそ扱える方法だ。しかもあのゴンベ、正面から来た種を器用に弾いてやがる! 体力回復に木の実ジュースを飲みながら、戦車のような重圧を身に纏い、ゴンベが網代笠へ突っ込んでゆく。

 

 作戦通り、網代笠はジリジリと後ろに下がりながら等間隔で発射し続けているが、ゴンベの勢いは止まらない。ゆっくりとだが、しっかりと着実に近づいてきている。

 

「む!? 網代笠そっちは拙い!」

 

「キ、キノ!?」

 

 そして、そんな勢いに飲み込まれ、気がついたときには既に遅かった。

 

「とうとうハルカ選手のゴンベが、インコマン選手の網代笠を隅へ追いやった! もう後ろには逃げ場がないぞ!」

 

「全身全霊の【おんがえし】!」

 

「ゴーンッ!」

 

 【おんがえし】を纏わせ、振り下ろしたゴンベの右腕が網代笠に迫る。

 

「【かげぶんしん】だ!」

 

「キノノノ! キノッ!?」

 

 網代笠が【かげぶんしん】を出した瞬間に、重なっている場所を薙ぎ払うように腕を動かした【おんがえし】が直撃した。しかし、網代笠は吹き飛ばされた先で即座に受身を取り、木の実ジュースを飲み込んで体力を回復させる。

 

「ハルカ選手のゴンベが【おんがえし】でインコマン選手の網代笠を【かげぶんしん】ごと殴り飛ばしたァッ! いい威力ですね! 吹き飛んだ先でインコマン選手の網代笠はすぐに体勢を立て直して、木の実ジュースを飲んで回復したようだがダメージはかなり残っていそうだ!」

 

 確かにそれなり以上にダメージは食らったが、その分距離は稼げた! これなら【タネマシンガン 3点バースト】でも削りきれるだろう。今になって思えばさっきのは【かげぶんしん】ではなく【タネマシンガン バックショット】の方がよかったな。

 

「先ほどのダメージとて馬鹿にできないはずだ! 【タネマシンガン 3点バースト】!」

 

「【おんがえし】を盾にもう一度突撃!」

 

 かなり無理な攻撃だが、きっとハルカも理解しているのだろう――

 

 ――ここでゴンベが倒れないと勝ちが狙えないということを。

 

 あと20秒程で雨が切れるはずだ。ここでゴンベが倒れたら無傷のワカシャモが降臨できる。まともなダメージ源がほとんどなくなる網代笠では為すすべもなく特性:加速の為の餌になってから倒されてしまうだろう。

 

 だが、あえてその思考に乗ろう。その上で競り勝って見せようじゃないか! 網代笠は今度マッサージするから許してくれ。

 

 5射目が放たれ、1発目の種が肩に当たり上半身を少しだけ仰け反らせ、ガードの薄くなった腹に残りの2発が突き刺さる――しかし止まらない。残り8m弱。

 

 6射目に撃ち出された種がガードをすり抜け顔面に叩きつけられる――まだ止まらない。残り5m。

 

 7射目が足を貫かんばかりに猛威を振るう――それでもなお止まらない。残り2m。

 

「キノォッ!」

 

 8射目に残りの種を同時に撃ち出す。とうとうガードできなくなったのか、最後の4発が体に叩きつけられる。

 

「ゴ……ンべ……」

 

 やはり連続での突撃は無理だったのだろう。ゴンベはそのままの勢いで軽がり崩れ落ちて、倒れてしまった。

 

「……ゴンベ、戦闘不能!」

 

「ここでゴンベもダウーン! ハルカ選手、とうとう残り1匹になってしまったァ! だがその目はまだ諦めていない! 未だ勝ちを狙い続けているようです!」

 

「ゴンベお疲れ様……勝とうワカシャモ! 皆の犠牲を無駄にしない為に!」

 

「シャモシャモッ!」

 

 とうとう最後のポケモンとなった訳だが……先ほどの考えの通り、とうとう雨が切れた。俺としても早く【あまごい】をする為には網代笠が倒れる必要がある。かと言って、おそらく素直に攻撃してはくれないだろう。

 

「【きあいだめ】で時間を稼いで!」

 

「シャーモッ!」

 

 ワカシャモがその場で構えの形をとり、気を一点集中させてゆく。やっぱりそう来るよな。ならこっちにも考えがある。【しびれごな】か【きあいパンチ】か……完全に詰ませるとなると【しびれごな】の方がいいな。網代笠の【きあいパンチ】ではおそらく倒しきれない。

 

「網代笠、【しびれごな】だ!」

 

「キーノーッ!」

 

「これは特性:加速の為にハルカ選手がどれだけ積むかにかかってきますね。過剰に積もうとすると、その前に【しびれごな】で麻痺させられてしまう。インコマン選手も積み技読みで交代出来るはずなのですがそんなリスクを負うよりも【しびれごな】を出し続ける方が安牌ですから」

 

 ルチアさん偶に実況だけでなく解説にもなってますよね。

 

 網代笠が一生懸命に体を揺らし、【しびれごな】を風に乗せる。さて、まず一回目……どうだ? 少し様子を見るが痺れが出てきた様子はない。ダメか。【きあいパンチ】の方がよかったか……まぁいい。取り返せる範囲内だ。

 

「網代笠、もう一度【しびれごな】だ」

 

「キノッコ!」

 

「ワカシャモ、【ひのこ 大玉】!」

 

 かなり早くなったワカシャモがとても巨大な【ひのこ】の玉を網代笠の上空へ向かって吐き出す。来たか。確か以前に御神木様が焼かれた技だったはず。

 

「そのまま【ひのこ 大玉】を【にどげり】で蹴り壊して!」

 

 一度目の蹴りで地面を蹴り上げ、その反動で通常より高く跳び、二度目の蹴りで大玉の【ひのこ】を蹴り砕き、加速させて打ち出すとか言う狂った攻撃法だ。いつ見ても曲芸にしか見えない。同時に出来ないなら別々にやろうと言ったって限度がある。

 

「これは凄い! こんな攻撃方法はバトルコンテストでもなかなか見ることはできません!」

 

 そりゃあ、相手の技を利用するなんてのはよくあるだろうさ。だが、こいつがやっているのは自分で打ったボールを自分で取りに行くようなもんだぞ? こういうのがよく見られるような魔窟なのだとしたら、恐ろしいなんて言葉じゃ足りないだろう。

 

 実際は通常より少し斜めの角度で大きい【ひのこ】を打ち出し、特性:加速で追いついて蹴り出して、ショットガンのように砕けた【ひのこ】を降らせているようだ。余計酷くなっている気がする。

 

「キ、キノコココッ!」

 

 網代笠が即座に逃げようとするが、砕けた【ひのこ】による面攻撃では逃げ場なんて無く、そのまま火の雨が直撃してしまった。舞っていた【しびれごな】に引火し、フィールドの約1/3が焼け続けている。

 

 ここからでも藻掻いているのが見えるが、とうとう倒れ伏してしまった。

 

「……網代笠、戦闘不能!」

 

「ここでインコマン選手にとって初めてのダウンですッ! 残るポケモンは2匹ですが、内1匹は我々に姿すら見せておりません。ハルカ選手はこの状況でどう動くつもりなのでしょうかァッ!」

 

「ゆっくりと休め、網代笠。大賀、頼んだぞ!」

 

「スビボッ!」

 

 さて、まずは雨を降らせよう。話はそれからだ。

 

「ワカシャモ、【にどげり】!」

 

「シャモォ!」

 

 急所狙いの複数回攻撃か。それで【あまごい】の阻止を狙うのはいいが確実とは言えないぞ。

 

「【あまごい】で雨を!」

 

「スブッ!? ス、スブブブブブゥ!」

 

 ワカシャモが姿勢を低した状態で、凄まじい速度で大賀に向かって突っ込んでゆき、1回目の蹴りで空中に蹴り上げる。そして、浮き上がったところを2回目の蹴りで蹴り飛ばした。まるで格ゲーのコンボだな。

 

 それによって【あまごい】を邪魔されたが、吹き飛んだ先でしっかりと受身を取り、右手と両足をブレーキにして勢いを緩めてゆく。勢いが弱まったところで立ち上がり大賀が踊り始めた。すると、再度ポツポツと雨が降り始める。【あまごい】を成功させたようだ。そのプロ根性流石っす。帰ったら十二分にマッサージ致しましょう。

 

 そして、これで――舞台は整った!

 

「さらに【にどげり】!」

 

「シャーモッ!」

 

「【タネマシンガン バックショット】で少しでも削るんだ!」

 

「スビボボ!」

 

 カウンター狙いで少しでも削る!

 

 一気に接近してきたワカシャモに対して、溜めに溜めた【タネマシンガン バックショット】が放たれる。サイドステップで避けようとしたが、流石に面攻撃は避けきれなかったようで、15発程度は当たったようだ。それでも通常【タネマシンガン】3射分か。避ける反応が早いなぁ。

 

「【タネマシンガン】を面攻撃として扱う面白い攻撃法でワカシャモにダメージを与えてゆくゥ! かなりの速度で動くワカシャモも面攻撃は避けきれない様子だ!」

 

 至近距離でワカシャモが右足に力を入れているのが見える。来るか!

 

「しゃがめェッ! 【おんがえし】!」

 

「スブッ!」

 

 初撃をしゃがみこむことで避ける。そしてお返しと言わんばかりに、右腕に血気を纏わせ体を捻りながら【おんがえし】をアッパーのように放った。

 

「ステップ!」

 

「シャモッ」

 

 そんな渾身のアッパーをサイドステップで華麗に避け、流れるように放たれる【にどげり】の2発目が、大賀の側頭部に叩き込まれた。その威力は凄まじく、ぐらりと大賀の体が揺れている。もう限界なのだろう――だが、悪いがまだ休ませられそうにない!

 

「意地の【カウンター】!」

 

「ス、ブブブブァアッ!」

 

 沈み込みながらも左腕で【カウンター】をキメる。ワカシャモの顎に綺麗に入ったのを見届けてから大賀の体が倒れ伏した。

 

「……大賀、戦闘不能!」

 

「インコマン選手の大賀が沈みながら最後に【カウンター】を決めてきたァ! これはアツい! アツ過ぎるぞこの師弟戦! さぁ、インコマン選手の最後の1匹がフィールドに登場するぞ!」

 

 楽しんで貰えているようで何よりだ。

 

「ありがとうな、大賀。さて……クライマックスを始めようぜ、御神木様」

 

「クギュルルルゥ!」

 

「最後の1匹は、テッシードの御神木様だァ! 珍しい色違いのポケモンで、草/鋼タイプという恵まれた耐性を持つが、ハルカ選手のワカシャモとは殊更相性が悪い! この雨がキーになりそうだが、インコマン選手の御神木様はどう立ち回っていくのだろうかァッ!」

 

 御神木様の攻撃でワカシャモに対して大ダメージを期待できそうなのは【ステルスロック 岩散弾】(ロックショットガン)【ステルスロック 大石槍】(ランス)ぐらいだろう。【のろい】をまだ戦えなくもないが、単品で扱う暇はない。なら同時に行えばいい!

 

「接近しながら【ひのこ 大玉】!」

 

「【ステルスロック 鍛造】で備えろ!」

 

 大きな【ひのこ】が御神木様の上空に放たれた瞬間に、【ステルスロック 鎧】と同じように御神木様の全身を守るように尖った岩で壁を造る。

 

「クギュルルルルゥッ!」

 

 そして守られている間に【のろい】で自身を鍛え強化してゆく。これが【ステルスロック 鍛造】だ。今まで2テンポ必要だったのを1テンポに纏めて実行するため、今までよりも確実に積みやすくなった。

 

「【にどげり】で鎧を蹴り壊して!」

 

「シャモォオッ!」

 

「ハルカ選手のワカシャモによる、1匹時間差攻撃だァ! これにインコマン選手の御神木様は、どう対処するのか!」

 

 なるほど、接近で鎧を破壊。先に【ステルスロック 岩散弾】を放とうものなら【ひのこ 大玉】が降ってくると。とてもいい発想だ!

 

 ワカシャモが鎧を蹴り、一部にひび割れが入っていく。このままなら砕かれるのは時間の問題だろう。

 

 だがしかし、甘いぞ! 駄菓子並にダダ甘だ! 対特防の御神木様はなぁ、2倍弱点程度では落ちないんだよ! 今、この瞬間の為の雨だ! 存分に、たらふく食らうといい!

 

 鎧を蹴り砕こうとしていたワカシャモも危険を察知して避けようと蹴りの状態から体勢を立て直そうとする――だがもう遅い!

 

「【こうそくスピン】開始! 今日は大盛りだ。残さず食べろよッ!」

 

「クギュルルルルルルッ」

 

 姿は見えないが回転音がここまで響いている。かなりの速度に達しているのだろう。

 

「【ステルスロック 岩散弾】!」

 

 ワカシャモは5m程離れていたが、散弾の方が速度が早い。圧倒的な面攻撃だ。20発ほどの尖りきった岩がワカシャモに襲い掛かり、その場で崩れかかる。そして同時に【ひのこ 大玉】が御神木様を包んだ。

 

「やった!」

 

「シャァアモォォオ!」

 

 ハルカがガッツポーズをし、ワカシャモは崩れ落ちないように足に活を入れている。勝ちを確認する為なのだろうが、まだ終わっていない。未だに回転音が鳴り続けていることの意味を理解しろ。炎が少しだけ薄まると――【こうそくスピン】を続けている御神木様が現れた。

 

 「【ステルスロック 大石槍】で止めだ!」

 

 御神木様の周囲に以前より4本増えた大石槍が出現する。その数およそ12本。より鋭くなる為に尖り、より疾く発射するべく回転速度が上がってゆく。

 

「さぁ、幕引きといこう」

 

 ガゴンッ! と発射された大石槍がワカシャモの胴体にめり込む。2、3、4、5と次々に発射されてゆく大石槍がワカシャモの足や腕にもめり込む。最早あの状態では避けることもできないだろう。

 

 12本全ての大石槍が放ち終えると、ワカシャモは大石槍によって地面に縫い付けられ、完全に沈黙していた。フィールドはいたるところに【ステルスロック】が突き刺さっており、剣山のような状態になってしまっている。

 

「……ワカシャモ、戦闘不能! よってこの勝負、青コーナー、インコマン選手の勝利!」

 

 右腕を高々と振り上げる。ここ最近で一番の激戦で接戦だった……さーて――

 

 ――なんでこんなことになったのか話を聞きに行かないとな。

 

 


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