カイオーガを探して   作:ハマグリ9

56 / 111
アーカイブ5

 ~~アクセサリー~~

 

「……アレって本当にアクセサリー? 新手の威力アップ系の道具じゃないの?」

 

 ハルカの指の先では網代笠が新品の黒いアーミーブーツを履いて、嬉しそうに走り回っている。自分の足に合わせた靴の使用感はなかなかのようで、以前試着した時の走りよりも断然キレが上がっている。気のせいではないだろう。

 

「その疑問は既に解決されているんだなぁ、これが。書類証明もできますぜ姉御!」

 

 ついでに、俺も店員さんにちゃんと聞いたもん。

 

「誰が姉御だ。まだ14歳よ」

 

 姉御じゃない……だと……? しょうがない。誰も姉御がいないと言うのなら、代わりに俺が姉御になろう。アクセサリー入れからピンクの髪留めを取り出し、頭の部分に取り付ける。

 

「バトル時も履いていて大丈夫なんだとさ。趣味的にはどうかなとも買ったときには思ったが、今の感じを見るといい買い物をしたんじゃないかなと思えてくる」

 

 女の子らしいかはともかくとしてな。

 

「しゃべりながらにヒツジマスクの頭に髪留めを付けるのはやめて。傍から見ていてとてもシュールだから」

 

「なら誰を姉御にすればいいんだ!」

 

 もうこれしか方法がないんだよ! こうしないとメロンパン入れの封印が解けてしまう! いいのか? ダブった方の【あまごい】の技マシンが飛び出るぞ!

 

「……御神木様とか?」

 

 なるほど。

 

「姉御と呼ばせてください!」

 

「クギュル」

 

 体を左右に揺らして拒否の姿勢を取っている。頭を下げ誠意を見せたつもりなのだがどうやらダメらしい。

 

「話を本題のアクセサリーに戻したいのだけれど」

 

「うい。で、どんなアクセサリーがいいかだっけ?」

 

「参考にしたかったのだけど、どうにも個性的すぎるかも」

 

 そいつは俺も同意見だ。マトモなアクセサリーっぽい物と言えば御神木様のリボンか夕立のマフラーぐらいだろう。大賀のグローブは……手の甲を保護する為に使っているみたいだから完全に戦闘用である。これ普通の道具としてカウントしていいんじゃないかな?

 

「ルチアさんにも聞いてみたらどうだ? あの人は今現在の美しさ系コンテストトップランカーなのだから、俺のようなズブの素人の意見よりよほど為になりそうだが」

 

 仲も良さそうだし、それぐらいなら相手に聞いても問題はないだろう。

 

「プレゼント以外は自分で考えてみてってさ。私の色で染めたくないとも言ってた」

 

 ……本格的に自力で這い上がるのを望んでいるのね、と。俺の助言も含めてなのか、それとも俺の意見など価値もないということなのか。前者であることを祈りたい。

 

「そういえばプレゼントの中身ってなんだったんだ?」

 

「まだ開けていないんだけれど、おそらくアクセサリー類だと思う」

 

 そう言ってゴソゴソと青くラッピングされた箱を取り出す。ハルカの片手に乗る程度の大きさだから服系ではないだろう。ラッピングを解き、箱を開けるとモコモコな羽がトレードマークのチルットが現れた。これは可愛い。

 

「ん? チルット?」

 

 それにしてはちょっぴり太めだ。

 

「あ~……これ帽子だ! 可愛い!」

 

 かぽりと被ると、ハルカの頭にチルットが乗っかているような絵面になる。なかなか様になっているが、ソレポケモン用じゃあなかったのか。

 

「ハルカも帽子やバンダナが増えてきたな。なら、このままマスクも挑戦してみないか?」

 

「ゲテモノ類にはなりたくないかも」

 

 サムズアップしながらマスクの素晴らしさを語ると、微妙そうな答えが返ってきた。いや、まだだ。まだ教育が足りないだけかもしれん。誠心誠意マスクの素晴らしさを語ればきっとわかってくれる! ポケモン達にも何かしらのマスクをアクセサリーとして着けさせてみようか。うはっ夢がひろがりんぐ。

 

 まずは先っちょだけ! 先っちょだけだから!

 

 後日、約束の物だと言って顔の部分がフードになったメリープ風の着ぐるみのようなものを渡したら、その場では軽く文句を言っていたが部屋の中では嬉しそうに装着していた。このままゆっくりとマスクへの忌避感をなくしてゆき、ゆくゆくは……

 

 

 ~~ゴニョニョの調査結果 一部抜粋~~

 

 116番道路に生息しているゴニョニョの調査結果をここに記す。調査の結果、ゴニョニョ達は睡眠不足になっているということがわかった。そのせいで極度のストレスを感じているのか、瞳孔が開いており、攻撃的になっているようだ。

 

 血液検査を行った結果、顆粒球の割合が高くなっており、科学的にもストレスを感じていたということがわかった。また、調査中に何度か耳を押さえながら暴れだすことがあったが、その度に電車が116番道路に到着していた。

 

 以上のことから、116番道路とシダケタウンを結ぶ地下鉄の稼動音、あるいは振動音などの騒音が原因なのではないかと考えられる。

 

 しかし、運行予定時間を調べてみたが、深夜帯の運行は行っていないようだ。どういうことなのだろうか? 今後も調査を続けてゆく。

 

 

 ~~とあるポケモンの旅と出会い~~

 

 深夜に男が一人、静かに作業を行っていた。彼が黙々と行っている作業は、1匹ずつポケモンを檻に入れ、分別するというものだ。

 

「ごめんな……俺が不甲斐ないばっかりに……ごめんな……恨むなら俺を恨んでくれ」

 

 男は苦しそうな、悔しそうな顔をしていた。しかしポケモン達からしたら何の事だかよくわからない。必死に理解しようとしても生まれてすぐ、あるいは未だに生まれてすらいないモノにはできるはずもない。この男が破産したなどと。

 

 男は真面目で優しかったが、愚直すぎた。そして、そんな性格も相まって営業がうまく出来なかった。コネもなく始めた個人事業。自らの足を動かし必死に顧客を得ようと奮闘するが、そんなものをあざ笑うかのように資金は湯水のごとく消えてゆく。土地代、電気代、自身の生活費等々が重くのしかかってくる。

 

 そして、追い打ちをかけるように彼の扱うポケモンが繁殖しすぎたのだ。このタイミングで既に150匹。孵化していないタマゴは30個もある。そんな増えすぎた彼らを纏めて育て上げられるほど広大な土地を持っていない彼は、誰かから土地を借りるしかなかった。そうした借金が膨らみ続け、ついに先日とうとう破産を迎えた。

 

 増えすぎたポケモン達をそのまま野生に返すわけにもいかず、一部は他のブリーダーに。一部は元々住んでいた地域へ放流。

 

 ――残る一部は殺処分となる。

 

 そんなことは知らないこのポケモン達は、されるがままに一匹ずつ檻へ入れられていた。

 

 30個のタマゴは一部の放流されるポケモンと共に、元々の生息地である電気石の洞窟へ運ばれることとなった。この時から既に彼女は運が良かったのかもしれない。なぜなら生まれていなかったことで、自らが殺処分される可能性を回避出来たのだから。

 

 タマゴ達は生まれた地であるサンギタウンの小さな牧場からタチワキシティへトラックで運ばれてゆく。その時に一度目の幸運が起きた。籠からタマゴが一つこぼれ落ちて、今朝収穫したばかりの果物の積荷に混ざったのだ。そして誰もそんなことに気がつかず、タチワキシティの港でそのまま果物を入れた箱に封をし、ヒウンシティへ船で輸送されていた。

 

 そんな船旅の最中に、パキパキと音を立てて彼女がとても小さな産声をあげた。誰も気がつかなかったが。彼女がその場から動かずにじっとしていたのも周りが気がつかなかった原因だろうか? ただ、種族的にもあまり動きがあるタイプではないから、しょうがないのかもしれないけれど。

 

 周りにあった甘く、少し苦い果物の果汁を啜りながら辺りを伺うが何も理解できそうにない。

 

 そんなことをしていると、わずか半日ほどの船旅の後に港へたどり着く。その後、とある高級長距離移動用客船用の積荷として果物と共に積まることとなった。そして積まれてからすぐに食料庫へと運び込まれ、片端から箱の封が開けてゆく。そして、この時に2度目の幸運が起きた。彼女の入っていた箱の封を解き、蓋を外してから中身も見ず、すぐに作業員がトイレへ向かったのだ。数時間作業をし続けていたので我慢の限界だったのかもしれない。

 

 その隙に運良く外に出た彼女は初めて見た明るい世界に硬直するが、恐ろしさよりも好奇心が勝り保存庫から転がり出てきた。

 

 廊下の天井に張り付いて進み続けているが、初めてのものばかりで何が何やらわからない。時折動くモノに対して警戒心を見せるが、何も起きないと理解して安心するというのを繰り返しているようだ。

 

 すると、3度目の幸運が訪れる。そのまま進み続けると、清掃中なのか蓋の空いた大きめの通気口を発見することができたのだ。元々彼女の種族は暗いところを好む。心惹かれるように通気口の中へ入り込み、進んだ先の部屋でぼとりと転げ落ちた。

 

 一瞬なんで落下したのか理解できなかったが、とりあえず攻撃? から逃げる為に近場の狭いところに潜り込んで身を潜める。相手の姿は見えないが、おそらく強大な敵なのだろうと彼女は思案したようだ。相手が諦めるまでここから出るつもりはないと幼いに心に決めて。

 

 身を隠してから二日ほど経った時に珍客が現れた。四足歩行で移動する彼らは素早く、よく伸びた前歯を持っていた彼らが彼女の前に現れたのだ。初めて見る自分以外のポケモンに対して彼女が興味津々で見ていると、彼らはその鋭く伸びた前歯を彼女へ向け、一斉に齧り付こうとしてきた。

 

「クギュッ!?」

 

 まさかの事態に軽く動揺し、その場から逃げようとするがいかんせん彼らの方が足は早い。すぐに追いつかれて囲まれてしまった。

 

 その数およそ12匹。普通、初めての戦闘で戦うような数ではないだろう。それでも彼らに齧られ続ける訳にはいかない。近づかないでと言わんばかりにその場で回転を始めるが、それを無視して彼らも齧り付こうとする。その結果、初めての戦闘が無双系ゲームのように相手をなぎ倒すような感じになった。

 

 偶々見つけた齧りがいのありそうなモノに手痛い反撃を受け、びっくりした彼らはそのまま逃げ帰っていった。いくら数の差があろうとも、図体の差や重量の差というものは埋めがたいのである。

 

 初めての戦闘に勝利した彼女だが、多少とは言え怪我をしてしまった。また以前と同じように暗い隙間に入り込んで回復を待つ。

 

 それから3日ほど経った頃だろうか? 傷も癒えてきた。しかし、種族的にほとんど動かないとは言っても、流石に4日半もご飯抜きだと腹が減る。そろそろ動こうかと彼女が思い至ったところで、4度目の幸運が訪れる。

 

 がちゃりという音と共に――

 

「…………はい? っとと……急に揺れるなよ。あ、扉閉まっちまった」

 

 ――部屋の扉を開け、ジャージ姿の男が入って来た。甘くて苦そうな匂いを漂わせながら。

 

 

 ~~2009年8月17日のホウエン新聞 崩落事故~~

 

 134番水道で15日に崩落事故が起きていたことが今日明らかとなった。

 

 134番水道では最近古代遺跡が発見されており、ラトリクス博士率いる遺跡調査団が調査をしている最中に機材が暴走し、崩落事故が起きたと考えられている。現在、ポケモン海上救護班が救護活動を行っているが崩落現場は完全に水没しており、未だに出入り口が見つかっていないとのことだ。関係者は「あの場所の地層はしっかりしていて、普通ならば崩落事故など起こりうるはずが無い」と疑問点を挙げ、首を傾げている。

 

 今回被害に会ったラトリクス博士は、ポケモン考古学などで数々の論文を発表しており、去年発表されたジラーチについての論文は大きな影響を与えた。なので、今回の調査でかなりの進展ができるのではないかと期待されていたようだ。また、調査団の中にはデボンコーポレーションからの出向社員なども確認されており、早急な救助が望まれている。

 

 

 ~~2013年9月23日の××新聞 大学病院屋上にて放火アリ~~

 

 本日未明、千葉県夜刀浦市にある大学病院の屋上で火が出ていると通報がありました。火は3時間後に消し止められましたが、病院屋上の約1/4程が焼けていたようです。これによる怪我人などはでていません。警視庁の調べによりますと、出火原因は火炎瓶のようなものが投げ込まれたせいと考えられており、放火現場周辺には砕けた瓶などが散乱していたとのことです。また、病院周辺では度々タールのような粘液性のものが撒き散らされている事件が発生しており、今回の事件と関連性があるのではないかと調査を行うそうです。

 

 後の調べで、現場には瓶やタールのようなものだけではなく、盗難に遭っていた液体窒素や王水等を使用した痕跡が残っており、ただの放火ではなく愉快犯の犯行ではないかと掲載されている。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。