カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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秘密基地始めました。後日大まかな間取りをUPする予定です。
これが大まかな間取り図です→
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砂漠の先の温泉目指して
砂漠越えと秘密基地


「――チャンピオンらによるマグマ団アジトの粛清から既に3日が経ちましたが、依然として現場周辺は騒然としており……」

 

 ダイゴさん達は無事に襲撃を成功させ、【あいいろのたま】を取り返したのだが……思っていたより厄介な事態に陥っているようだ。

 

 手元にあるダイゴさんからの手紙を見るに、マグマ団の首領マツブサを含めた幹部勢は捕まえられなかったと書かれている。メタグロスの放ったほとんどの攻撃が外れていたようだし……いったい何があったのだろうか? 筆圧が濃く書かれている辺り、ダイゴさん的にも悔しかったのだろう。

 

 それにしても【コメットパンチ】が1、2回外れたのならわからなくもない。だが、【サイコキネシス】すらも全て外れたとはどういうことだろう。どんなトリックを使えばそうなるんだ?

 

「新聞やらニュースやらでダイゴさん結構叩かれていたね」

 

「まず上役であるポケモン協会が、一枚岩という訳では無いみたいだからな。それを、こんな風に面白可笑しく報道されれば鵜呑みにする奴も一定数は出るだろうさ。それに大多数は自分は関係もないのだと思っているのだろう」

 

 まったくもって酷い有様だ。直前でダイゴさんの連れて行けるポケモンの数の制限をするとか……少なくとも今行うべき制限では無いな。そのせいで突入時にメタグロスしか連れていけなかったようだし。それでも真正面からなら圧倒できるのだろうけれど。

 

 ここまでタイミングよく実行されるとなると、かなり面倒くさい事も考えなければならない。少なくとも可決票を出したポケモン協会役員は敵と考えておくべきだろう。約2/3が敵側とか笑えないなぁ、おい。今後、ポケモンセンターを頼るかどうかも考えておくべきかも知れん。

 

「……市民の声として『チャンピオンが出ているのに捕まえきれなかったのか』、『初動が遅すぎる』、『実力が足りていないのではないのか』等の声が上がっており……」

 

 ピックアップされた声もやれ意見の封殺だの。やれポケモン協会の陰謀に担がされただの。パフォーマンスの為の演技だの。行動が遅いだの。これだから一方報道というのは嫌なんだ。乗せられて結構な頻度で電凸しているのもいるみたいだし……

 

 これ以上ニュースを聞いていてもメリットがなさそうなので、ハルカと共にポケモンセンターを出発して、自転車で111番道路へ向かうことにする。

 

「まぁ、暫くしたら一部を除いて勝手に鎮火するさ。今はそれよりも、だ。今日、これから砂漠を越えてフエンタウンへ向かう訳だが……俺が言いたいことが解るな?」

 

 先週の訓練で、砂漠では俺がほとんど機能しないということが理解できているよな? むしろなんでハルカ達はあんなにピンピンしていたんだ。秘訣を教えてください!

 

「……が、頑張って?」

 

「……おう」

 

 まさか【あまごい】は使えないわ、ジリジリ焼かれるような気分になってぶっ倒れるわで、こんなに悲惨なことになるだなんて考えてすらいなかったぞ……精々良かったことと言えば、砂漠の砂山に向かって【ひみつのちから】を使えたことぐらいだろう。これであの砂嵐をテントでやり過ごさなくて済むはずだ。

 

 秘密基地の強度を試した結果、御神木様の【のろい】で2段階強化した【タネばくだん】程度まで耐えることができたので、寝ている途中で潰されるなんてことは起こらないだろう……たぶん。少なくとも今のところ起きていないから多少気にかけておく程度で問題ないはずだ。

 

 まぁ、前の煙突山に近づいた時のようなことにはなっていないからまだマシと言える。火傷状態にもなっていないし。体を動かすのがダルイ程度だ。

 

 それにしても日差しが強いくせに砂嵐も起きるとか超常現象か何かか? 天候も変わらないし……ついでに砂嵐のせいか電波も通じにくいときたもんだ。砂嵐の後に出現する幻影の塔周辺では完全に通信が効かないらしいしどうしたもんかね。電波以外の通信方法も考えるべきか?

 

「いやはや、【あまごい】やポケナビ通信ができないのが本当に痛い」

 

 戦いづらいったらありゃしない。

 

「水タイプの大賀はともかく、キョウヘイ先生が最初に潰れるのは想像できなかったかも」

 

「俺もだよ。あれでも結構熱対策しているんだけれどな……前回は干からびた気分だったぞ」

 

 煮干って毎回あんな大変な思いをして出荷されていくんだな。俺、あそこまで大変だなんて知らなかったよ。今までも重宝していたが、これからは崇めてから使う事にしよう。

 

「気分も何も干からびてたじゃない」

 

 もう俺が脱水されるのは懲り懲りだ。そういうのは服や海苔だけで十分です。

 

「今回は前回よりも、より高度な処理をしているから大丈夫……のはず!」

 

 前回の経験を踏まえて、通常では考えられられない様な物まで用意させていただきましたよ。防砂コートの裏にいくつも保冷剤くっつけたし、湿度なんて気にならないからハッカ油入りの霧吹きも用意した。念には念を入れてヒトコブラクダのマスクまで買っておいた!

 

 そして、水も大賀が選んだ上質な水を浄水器込みで設置型のタンク5杯分用意したからな! 

 

「これだけあれば問題ないだろう!」

 

 砂漠という旅先で風呂もできるんじゃないだろうか?

 

「最早貯水槽が歩いているようなものだもんねぇ……水多すぎじゃない?」

 

「無いと俺や大賀が干からびる」

 

 確信を持って言おう。無いと! 俺や大賀が! 干からびる! 間違いないね。コーラにメン○スを入れたら悲惨なことになるのと同じぐらい確実だ。

 

 1週間持たない気がしたのです。

 

 そんな軽口を叩きながら111番道路へ突入する。前回の経験から推測して、だいたい3時間ほどで砂漠の入口に到着しそうだな。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 砂漠に突入し、自転車をバックパックへ収納してから既に4時間が過ぎようとしているが……

 

「……俺はもうダメかもしれない……」

 

「早すぎない!?」

 

 いやさ、なんで前回よりも日中気温が暑くなっているんですかねぇ? いくらもう7月とはいえ、暑くなりすぎじゃないの? 手元の温度計は44℃になっている。前回訓練に来た時より5℃も高い。

 

 砂に足を取られて進みづらいし、砂がバシバシ当たって痛い。ナックラーが出てくる度に特性:蟻地獄で足止めされるし……心が折れそうだ……誰だよ北に向かおうとか言った奴は! ……俺ですね、ハイ。熱砂の波が吹き荒れる環境とか今後絶対に行かないようにしよう。

 

「この暑さ……どうにかならないもんかね? と言うか、ハルカはなんでそんなに平然としているんだ?」

 

 この砂混じりの風を平然と受けながら歩くとか凄まじいな。俺なんてハッカ油入りの霧吹きかけてもキツいのに。

 

「暑いけれどそれ以上に楽しいからかも。普段だと見れない景色だし、他の場所だと見かけないポケモンも多いから結構満喫できているかな」

 

「俺もそういう意味でなら楽しめているんだが?」

 

「そのマスクのせいじゃない?」

 

 そんなことはないはずだ。このヒトコブラクダのマスクをすることで砂に対する抵抗値は倍増している! と思う。前回より砂を弾いてくれているから目に優しいしな。俺も本物のラクダのように血液中に水を蓄えたい。

 

「せいぜい、ほとんど景色が見づらくなる程度だ」

 

「それって全然楽しめていないじゃない! ほとんど見えていないのによくナックラーの蟻地獄に入る前に気が付けるね……」

 

 その辺りは気配でなんとかなる。

 

「そんな馬鹿な! この胸のときめきは何だと言うんだ!」

 

 景色に心を打たれた以外にありえんだろう!

 

「ただの酸欠じゃない? ……あ! も、し、か、し、てー……このわたしの色気に悩殺させられちゃった? ごめんねー色気たっぷりで」

 

 インド風を意識したのかコートの下には、薄めの少しダボ付いたようなズボンに、へそを出すタイプのトップスを着ている。この暑さなら下半身冷えを起こすこともないだろう。いつもの赤いバンダナは頭に巻いて、髪がジャリジャリにならないようにしているようだ。そしてバンダナのうえからゴーグルを装着している。

 

 全体の印象として、それなりに自分のスタイルに自信がないとできないであろう衣装だな。ゴーグルがなければキマっていただろうに。

 

 まぁ日頃の訓練によって、同年代の娘よりは体つきが引き締まってはいる。足もそんなに太くなっていないし、おそらく太くならないように乙女力をフル活用して気を使っているのだろう。時折レンジャーさんと連絡を取り合っているみたいだし。

 

 足を止め、少しコートを開いて胸を強調するようなポーズを取っているハルカの横を、そのままスルーして通り抜ける。

 

「ハッ……確かにその年代の子供にしては体つきが良いかもしれないが、その言葉はあと10年経ってからにするといい」

 

 今のお前は色気より食い気だろうに……ルチアさんを見習うといい。あの娘は人を魅せる方法をよく知っているのだろう。仕草の一つ一つに洗練されたような無駄のなさがある。

 

 なんだか気力が沸いてきたな。ハルカを弄る事で暑さから目を背けることができたのかもしれない。

 

「むっ! いいもんね。いつかいい女になって、キョウヘイ先生にごめんなさいさせてやるんだから!」

 

 ぷくーと頬を膨らませながらこちらを指している姿は年相応にしか見えない。

 

 意気込むのは構わないが、そうなるためには少なくとも、俺の前で大量の飯を食べる事をやめるべきだろう。それだけで初見の人ではだいぶ印象が変わるはずだ。と言うより、アレの印象が強すぎるんだよ。ルチアさんからいつもあれだけ食べるの? って質問が来たんだぞ。その後に頑張って稼いでくださいとか言われるし……

 

「その意気で頑張ればいつかなれるんじゃないか? 時間があれば、その辺りについてフエンタウンのお婆さん達に聞いてみるといい」

 

「ぐぬぬぬぬ…………ぬ! まさか女の子に興味のない理由って、や、やっぱりダイゴさんと!?」

 

 突然の風評被害がダイゴさんを襲うッ! ……そんなに突然でもなかったな。誰のせいだよまったく。謂れのない物を擦り付けられるだなんてダイゴさんも大変なんだなぁ。

 

「まぁ、確かに一夜を共にしたことも無きにしも非ずだがな……」

 

 麻雀で。

 

 御神木様パワーが炸裂したせいか、南二局でハイテイが成功してダイゴさんがハコり、結構な量のナナの実を気前よく貰えたし。あの頃はいろんな意味でいっぱいいっぱいだったんです……今謝っても遅いかもしれないが、ダイゴさんすまなかった。今度お守りに御神木様の抜けた棘を渡そうかね。

 

「やっぱりホモじゃないか!」

 

 ケダモノだあぁーッ!! ってそんな大声で叫ばなくてもいいじゃない。元気が有り余っているのは結構なことだが、砂漠でそんなことやっていると――

 

「うぇっ口の中に砂が入った。ジャリジャリする~……」

 

 ――自業自得である。

 

「まったく。ほれ、これで口洗え」

 

 おいしい水をハルカに差し出す。

 

 うーむ、しかしこのままダイゴさんにホモの称号を与えるのはどうなのだろうか? ここはやはりこの俺が! ダイゴさんの株を上げるべきではないのだろうか。この場において、ハルカの持つダイゴさん株価を上げられるのは俺しかいないし。仕方がないよね!

 

「今、この場にダイゴさんがいないから言えるんだがね?」

 

 ちょいちょいと手招きをして耳を寄せさせる。

 

「むぅ?」

 

「実はな、ダイゴさんはマリンホエルオー号に居た、バニーさんの網ストッキング越しの足に見とれていたりしていてんだぜ。俗世なんて関係ありません風な趣味人っぽく振舞っているが、普通に俗世の人だぞあの人」

 

 胸や尻もチラ見していたしな。確かにあのお付の人はモデルさん並みのナイスバディだったから、いつも他人から見られている分、視線なんかには敏感だと思うんですよ。まぁ、そこまでドギツイ視線ではなかったけれどね。

 

「え……えっ? え~~ッ!? マジっすか!?」

 

「口調変わってるぞ。……マジ話だ。そしておそらくだが相手のバニーさんも気がついていた」

 

 それでも一般的な人よりもチラ見力が鍛えられているのか、あの人や俺以外には気がつかれていなかったのだが。

 

「おおう……なんか印象が変わるかも」

 

「チャンピオンがむっつりスケベとはこの海のリハクの目をもってしても読めなかったぜ……」

 

 まぁ、現実的に考えると、下手な人と付き合えないからズルズルと……と言った感じなのかもしれない。年齢的にはお店に行っていても不思議ではないと思うんだけれどねぇ。老婆心として調べたお店を紹介してみるべきなのだろうか? ……ギリギリネタとして通るな。

 

 これできっとダイゴさんもホモの称号から解放されただろう。ひと仕事やり終えたように額の水を拭ってゆく。

 

「マスクの上から汗をかくってどうなっているのさ」

 

「これただの水滴。ハルカが叫んでいる間に霧吹きをワンプッシュしただけだ……きっと」

 

 ラクダが汗をかくわけないじゃないですかーやだー。俺はまだラクダの気持ちになりきれていないらしい。まだまだ実力不足ということか。精進せねば。

 

「なんかぼそっと変な言葉が聞こえた気がしたんだけれど?」

 

「高気温のせいで幻聴でも聞こえたんだろう」

 

 気のせい気のせい……ん?

 

 だんだんと、風や飛んでくる砂の威力が強くなってきた。そろそろ大きめの砂嵐が来そうな感じである。今日はもう拠点を作るべきだろう。5m先も見えないような状態で砂漠を進むなんてことはしたくない。流砂だけでなくクレバスじみた穴が所々にあるし、何よりハルカとはぐれたらマズイ。ロープを使って無理やり進むよりは明日に体力を回したほうが賢明だろう。

 

「そろそろ今日の拠点を作成するべきかね。早めに寝て、気温が下がっている状態で出発した方が進みやすいはずだし。ハルカ、準備に取り掛かるぞ」

 

「はーい。わたし頑張っちゃいますよー」

 

 頼むのは洗い物や寝袋、小道具類の設置ぐらいだけれどな。大賀達のボールを掴んで中から呼び出す。

 

「スブロ」

 

「キノ」

 

「クギュル」

 

 全員から暑いからあんまり呼び出すなよなって言うような視線で貫かれるが仕事なのだ。頑張っておくれよ。

 

「これから大賀の【ひみつのちから】で地下室を設置し、ここをキャンプ地とする!」

 

「スブブブブッ!」

 

 ゴゴンッと低い音が鳴り響き、地下鉄の入口のようなものが現れる。一人分のスペースが空いてあるので、後で木の板を内側から取り付けよう。

 

「よし。次に、ハルカ達は内部の掃除! 俺達は入口付近をしっかり固めるぞ! 御神木様と網代笠は【やどりぎのタネ】で入口周辺にバリケードを作って砂で埋もれないようにしてくれ」

 

 ハルカたちが入った後に【やどりぎのタネ】を植えることで根を張らせて入口を固定するだけでなく、砂に対する抵抗を上げる。これだけすれば吹き飛ばされることはないだろう。

 

 中に入ると高さ3m、広さは縦15m×横10m程だろうか。広すぎる気がしなくもないが、人間二人にポケモン7匹と考えると狭い方ではないだろうか? それに戦闘も考えるとこれぐらいないと拙いしなぁ。まぁ、流石にこれだけだとアレなので、さらに部屋を増やすことにしよう。縦8m地点でもう一度大賀に【ひみつのちから】を行ってもらい、仮眠部屋を用意する。下手な宿より広いだろうこれ。これで大賀達が走り回っても問題ないスペースができた訳だ。

 

「よし、次に入口横にトイレ作るぞ」

 

 これを作らないと悲惨な事になる。携帯トイレでできなくもなかったが、前回の訓練時に好んでやりたくはないと、ハルカと話し合った内容の一つなのだ。しっかり作っておかなければ。

 

 ガゴゴゴゴッ! と小部屋が完成し、そこに深い穴を作ってからトイレや紙、消臭剤を設置する。これで問題はないだろう。最後に扉と鍵を設置してトイレの完成だ。ガーディが嫌そうな顔しているが我慢してほしい。

 

 広間の方にはハルカが既にシートやちゃぶ台、ライトなどを設置してくれているようだ。そして今日からこいつも導入する。バックパックから取り出したるは発電機と変電器。これで多少の文化的な生活が送れるのだ。ガソリン缶も20本あるし少なくとも今回の旅で切れるようなことはないだろう。

 

「さて、最後に発電機を置くスペースをトイレの隣に作る。防音材も用意してあるから音は気にならないはずだ」

 

 最後に施設系設備を纏めて設置して秘密基地の完成だ……前から思っていたがマジで基地だな。シャワーを作れないのは残念だが、1時間かからずにここまでしっかりとしたモノができるのは凄いと思う。最早小学生並みの感想しか浮かんで来ないレベルである。

 

「ハルカー」

 

「何ー?」

 

 微妙にくぐもって聞こえるのは一枚扉を挟んでいるせいだろうか。

 

「今回出した荷物のチェックリスト作成を頼む。俺はその間にパソコンでオダマキ博士に送る資料の作成しておくから」

 

 これで明日の朝なくなったものが無いか確認ができる。秘密基地から出たら穴ごと埋めちまうから道具がなくなりやすかったしこうすれば問題ないだろう。

 

 資料に関しても概ね異変が起きているとは言えないが、見つけたポケモンぐらいは書き残しておくべきだろう。ついでにハルカが砂漠で俺とはぐれたとき用の行動指示を書き出しておこうかね。絶対にないとは言い切れないもんな。

 

「わかったかもー!」

 

 時間的に微妙だし、資料作成後は久々に彫刻でもやっていようか

 

   ◇  ◇  ◇

 

「さて、本格的な砂漠越えで初めての夜となったが、何か不都合はあったか?」

 

 大賀の【れいとうビーム】によって冷やされたボトルの水を飲みながら、ハルカに質問をする。普段なら俺が頑丈すぎるから所々気を付けておかないと大惨事になりかねんからな。

 

 ハルカ視点で何も問題がなければ前回の訓練は身になったと考えていいだろう。

 

「今のところは特にないかな。正直こんなに楽に砂漠に挑めるなんて、前回の感じからして思っていなかったし……問題だったトイレもどうにかなっているからね」

 

「まぁ、俺とて厳しい旅をしたい訳じゃあないし、利用できるなら利用すべきだろう? 変に疲れている時に何かあっても困るしな」

 

 前回は想定していたよりも悲惨だったから気をつけたんです。

 

「これであとは見張りの順番を決めるだけだな。またくじ引きでもするか?」

 

 現在戦闘ができるポケモンは6匹いるが、少なくとも2匹で見張りをしてもらいたい。みんなのトラウマ、いわゆる二人組を作ってー! というやつである。

 

「そうだねぇ……前回の訓練の時と同じようにローテーションでいいんじゃないかな?」

 

「となると、次の順番は御神木様と網代笠、大賀とガーディ、ワカシャモとゴンベだな。時間はくじで決めてくれ。前回同様Aを引いたグループは22~01時まで、Bを引いたグループは01~04時までCを引いたグループは04~07時までだ。大賀とガーディが見張りをする時間帯は、ジャンケンで負けた方が一緒に起きることになる。異論は無いな?」

 

 見回すが特に反対意見はなさそうだ。今回はワカシャモチームからクジを引き始めるようだな。

 

 御神木様ならきっと自ら引かなくてもAになってくれるだろう。あとはジャンケンに勝って、大賀とガーディがどの時間になってもそれなりに眠れるようにしたい。

 

 故に――

 

「その間に俺達はジャンケンをしようじゃないか!」

 

「絶対に負けないもんね!」

 

 ――これによって今日の睡眠時間が決まる!

 

 甘く育てるつもりはない。それにこっちだと俺の体力が切れるのは早いんだ。それぐらい師に譲ってくれてもいいだろう? と目で語るが、そんなの知らんと返される。やはり争うしかないか……現実の厳しさを知るがいい!

 

「「最初はグー、じゃん、けん……」」

 

 手を振り上げ、その後重力に逆らわずに降りてくるハルカの手を注意深く観察する。一瞬、人差し指と中指が曲げられているように見えた。なるほどチョキか。

 

「「ポン!」」

 

 俺は素直にグーを出し、ハルカは――チョキを出していた。

 

「I'm Winner!」

 

 サムズアップも忘れない。

 

「キィーッ! なんでわたしは毎回毎回ジャンケンで勝てないのさぁ! わたしの心でも覗いているのか!」

 

「鍛錬が足りんよ、鍛錬が」

 

 後出しはしていないしルール上の問題もない。よってこれは技術である。早く身につけるといい。クジ引き組を見ると、見事に御神木様チームがAを引当て、大賀チームがB、ワカシャモチームがCか。奇しくも引いた順とは逆になった訳だ。

 

 これでゆっくり眠れる。ハルカ、夜の見張りは頼んだぜよ。

 

「じゃあ、今日は俺が22~01時までハルカが01~07までだ。明日は順番はともかく、俺が6時間起きてハルカが3時間起きることになる。まぁ今日は早めに寝て、見張り番を全うしてくれ」

 

 今から寝ておけば問題ないだろう。

 

「むぅ……絶対に何かあるはず……」

 

「寝袋の中で考えてみるといい。わからないことに遭遇したらまずは考えてみる癖をつけるんだ」

 

「そうやって言うってことは何かしらやっているという意味に捉えていいんだよね?」

 

「どうだろうな? もしかしたら運かもしれんぞ」

 

 ハルカはブツブツ言いながら仮眠室へ向かい、後を追うように大賀達が仮眠室に入ってゆく。さて、ダイゴさん宛の手紙の続きでも書くか。

 

 


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