今日の自由行動はいったい何をしようか? 美味しいもの巡りという単語がふわりと頭の中に浮かんできたけれど、旅館の料理を食べた後だと普通に美味しいものも劣って見えてしまうかもしれない。別の機会に回しておくべきかな。
それに、あんまり派手な行動するなとダイゴさんから釘を刺されているのだ。大食いに成功して下手に写真に載ろうものなら何を言われるかわかったものじゃあない。最近本当にストレスが凄いようだったし。
実際、昨日は顔を見せるのが恥ずかしいから、少し時間をずらして露天風呂を出ると、その間に先に部屋に戻っていたキョウヘイ先生がダイゴさんを酔い潰したようで……延々とポケモン協会への愚痴などをぶちまけていたもんなぁ。
『鉱石が……石が僕を呼んでいるんだ』とか虚ろな目をしながらボソボソと電波を発信し始めた頃に、ようやくキョウヘイ先生が部屋まで送って行ったのだ。お酒を飲んで暑くなったせいか、かなり着崩れていたのだけれど……アレって他の客から見たらどう映るのだろうか? まぁわたしが心配する必要もないだろう。ただ、ダイゴさんの部屋を聞きに肩を貸したまま受付に行くのはどうかと思った。それだけである。
さて、改めて今日は何をやろうか?
「こういう時間がある間に交流会を行うべきなのかも?」
そう言いながら見回してみるが、全員が思い思いの事をしている為誰もこちらを意識していない。纏まりがないのが何時もの事とは言え、こいつら自由過ぎるだろう。はしゃいでいるワカシャモ達をぼんやりと眺めながらそんなことを考える。
あー……でも、せっかくの休日で街に居るのだし、ウィンドウショッピングしながらゆっくりと散策するのもいいかな。砂漠を歩き続けて体幹や足腰が鍛えられたせいか、最近ちょっと足が細くなってきた気がするし。これを機に新しくミニスカートを買ってキョウヘイ先生の反応を見るのも面白そうだ。これで、わたしがポケモンバトルにしか興味を見せていないという印象を少しは拭えるかもしれない。
そういえばキョウヘイ先生ってどんな服が好きなんだろうか? 男の人だしやっぱり露出多めな方がいいのかな? ただそうなると、砂漠を渡って鍛えられた事はいいことばっかりという訳でもなくなる。本当にちょっとだけれどもお腹も割れてきたしなぁ……あんまりはっきり浮き出るようならレンジャーさんに相談するべきかも? 多少すらっとしているぐらいに抑える術はないものか。
まぁ、キョウヘイ先生云云はともかくとしても、服もツナギやオーバーオールみたいな実用的なのばかりになってきているから、そろそろ可愛いお洋服とかも欲しい! 季節的に涼しめな服も買いたい。そんなことを考え始めると俄然やる気が湧いてきた。
「うーん……よし、今日はお買い物に行こうか」
ガーディの散歩にもなるしね。
そう呟いた瞬間にピクッ! とワカシャモや大賀が反応した。大賀は首にかけているガマゲロゲ財布の中身を確認し始め、ワカシャモはスススッと視界からフェードアウトするような動きをしている。以前荷物持ちをさせたことがこんなにも響くだなんて……そんなに嫌だった? もうバックパックに全部入れるから荷物持ちなんてさせないんだけれどなぁ……
「とりあえず、買い物に着いてくる子集合!」
そう号令をかけるとガーディ、ゴンベ、大賀、夕立、最後にロコンが集まってきた。御神木様やワカシャモ達は部屋に残るつもりらしい。それにしても、なんかロコンが着いてくる気満々のようだけれど客が買い物に連れて行っても大丈夫なのだろうか?
とりあえず、買い物に出るメンバーを引き連れてロビーまで行き、そのまま女将さんに確認してみるかな。ダメでもそのままお買い物に行けるし。そう考えて1階ロビーまで降りてみると、丁度よく女将さんが暇そうにしていた。
「あの、すみません」
「どうしましたか?」
「買い物に行こうと思っているのですが、ここのロコンも一緒に連れて行っていいでしょうか? どうにも付いて来たがっていまして」
ロコンが目をうるうるさせながら女将さんを見つめている。これはなかなかの破壊力だ。ちょっとわたしがぐらっときた。
「そうですねぇ……構いませんよ。基本的に判断は任せているので、この子が行きたがっているのなら私は許可しましょう」
昨日から思っていたけれど、ここも放任主義なのかな。
「コンッ!」
ロコンが嬉しそうにゴンベの肩の上で跳ねている。そんなにお買い物好きなの?
「それにしても同室の方もそうでしたが、狐の調印持ちでもないのにロコンがそこまで懐くのは珍しいですね。中居にも懐かないことがあるのですが……差し支えなければどんなことをしたのか教えてくださいませんか?」
狐の調印? まぁいいや、懐かれるような理由……なんだろう。一緒にご飯食べていたこと、は無いか。好きなように食べることが出来るだろうし。やっぱりキョウヘイ先生が今日、旅館を出る前に彫った鬼火を纏ったロコン像かな? だいぶ喜んでいたみたいだし。そういえば、あの後少しの間いなくなっていたけれどどこに行っていたのだろうか。
「キョウヘイ先生が木彫りのロコン像を贈っていましたので、おそらくそれかも?」
「木彫りの? ハンマーやノミを使ったような感じですか?」
「いえ、彫刻刀1本で持ち込んだ太めの枝を彫って作っていました……あっ木屑は私達で全て片付けた上回収したので、残っていませんよ」
多少は片付けたアピールもしておかないと。それに、木屑も旅先では貴重な火付けの道具だ。捨てられる訳にはいかない。
「禁止事項に触れなければ問題ありませんよ。それにしても、その木彫りのロコン像をとても気に入った、と。なるほど……お2人共手先が器用なんですか?」
「キョウヘイ先生に彫刻技術を教わっているんですけれども、わたしはまだまだ上手く彫れなくて……」
今朝方ようやく木彫りのモンスターボールが完成したのだけれど、どうにも角張った感じなちゃっているし。せめてゴルフボールのような感じになるようにしたいかも。
「キョウヘイ先生って変な動物マスクを被った筋肉ダルマのような見かけなので、細かい作業をしているとシュールで面白く見えるんですよね」
そのまま雑談を続けていたら、いつの間にか40分ほど経過していてびっくりした。
◇ ◇ ◇
試験会場に入ると既に中央最前列の一箇所以外席が埋まっていた。どうやら俺が一番最後らしい。まぁ、既に時間ギリギリだから当たり前かもしれないが。それにしても意外と受験者多いな。
番号通りの席に着く。すると、目の前の壇上にネイティを頭に乗せたネイティオとその横に試験官が立ち、これから始まる試験の説明をし始めた。そのトーテムポールのようなトゥートゥー神達はいったいなんなのだろうか。アレか? カンニング対策なのか? 俺からの疑問の混じった視線を受けても、依然として身動き1つせずにネイティとネイティオは虚空を見つめている。
「これより人間ポケモン両用整体師資格の筆記試験を始めます。制限時間150分で全90問なので焦らずに解いてください。また、カンニング等の不正行為を行った場合は即刻退室して頂き、今後3年間はこの試験を受けることができなくなりますので、くれぐれも疑わしい行動などは行わないよう注意して臨んでください。それでは…………始めてください」
一斉に書き始めた為か、カリカリという懐かしい音が響き始め、なんだかこういうの久々だなぁと軽く耽りながらも手を進める。
問題を見た感じ、だいたい基本的な問題ばかりだ。骨格や関節のズレの正しい矯正方法だとか、ポケモンならではの道具を使った整え方などが問われているようだ。これなら問題なく解けそうだなと思っていると不意に視線を感じ始める。
最初は気のせいだろうと軽く無視をして書き進めていたのだが……どうにも視線が途切れる事が無い。折り返しを終えた辺りで流石に気になったから興味本位でちょっとだけ顔を上げてみると、何故かトゥートゥー神がこちらをずっと見ていたようで目が合った。しかも普段のエジプトの壁画のような目を目いっぱいに広げて丸くしており、なんかおかしなことになっている。
「……ぷッ」
思わず吹き出しかけるが向こうは真面目に仕事をしているのだと自分に言い聞かせて視線を下ろす。どうにも調子が狂うな。なんであんなにガン見されているんだ? 遅刻しそうになったからか? いや、そもそもアレは俺を見ているのか? 俺を通して何か未来を眺めているとかもありえそうだが……
……あ、ミスった。ああもう。こんな余計なこと考えている場合じゃないな。とりあえず今は残りの問題を解かなくては。この後に一番神経の使う実技試験だって残っているのだし、こんなので躓く訳にはいかない。
◇ ◇ ◇
ガーディやロコン達を引き連れて、ロープウェーから続く商店街に散歩がてらやってきた。女将さん曰く、この商店街の方が品物が揃っているので買い物をするならこっちの方がいいらしい。実際、道中で他にも寄ってみたのだがどうにもしっくりくるお店がなかった。ただ、本屋で大賀が2冊ほど本を買ったようだけどジャンルが何かは教えてもらえなかったのが気になっている。成年向け雑誌かも? なんて思ってみたり。
「…………人間はポケモンと共に暮らして……」
なにやら広場の一部を占拠して演説を行っている集団がいるらしく、スピーカーによって音がばら蒔かれているようだ。内容を聞く限りポケモン開放についてらしいが、時折音が割れているからとてもやかましく感じる。それに宗教団体臭いのもいただけない。ああいうのって騒音で通報されないのかな。
演説を無視しつつ商店街のアパレルショップを見て回っていると、よさげな赤い羽織を見つけたので立ち寄ってみる。お店の中は明るく、色鮮やかな服が取り揃えられているようだ。ポケモン用の服も置いてあるみたいだけれど、どうやらガーディ達は興味がないらしい。ちょっと残念。
「こっちもいいなぁ……あ、あっちの方がいいかも!」
ブラブラと店内をあるいていると、涼しげな印象の受ける薄い水色にラインの入ったカッターシャツにホットパンツを組み合わせたマネキンを見つける。これから夏になるのだし、こういう涼しそうなのはハルカポイント高めだ。
何よりキョウヘイ先生にわたしはいつも赤や緑色の服を着ていると思われているみたいだし、印象を変えるという目標にも合致している。値段は多少上がっているようだが、食料品ほどではない。即買いね。すぐに丈を合わせてもらって、そのまま一緒にレジで会計をする。
うーん、ここまでのお買い物で今ある所持金の半分が消費されてしまった……でも悔いはない! なんて清々しい気持ちなんだろうか。
そのまま軽い足取りで商店街の端まで来てみたが、これ以上買うような物は思いつかない。一通りお店も見終えたし、かわいい服も買えたから今日はもう帰ろうかな。
そんなことを考えていると、先程からスピーカーを使ってポケモン解放について演説している集団に混じっている女性に声をかけられた。見てくれが鎖帷子を着たあまり実用性のない騎士のようなデザインなので、視界がとても暑苦しい。
「すみません、今少しお時間ありますか? 道行くトレーナーの方にポケモンについてのアンケートを実施しているのですがお答え頂けないでしょうか?」
あ、これ面倒くさいパターンだ。すぐに去ってしまおう。
「すみません。これから予約していたお店に向かうので……」
「匿名で、しかもたった数分で終わりますから」
答える気がないことが顔に出ていたのか、すっと遮られてしまった。押しが強いなぁ。こういう時どうするんだったっけか。下手に騒ぎ立てるのも面倒だし……とりあえず何かあった時のためにICレコーダーのスイッチを入れておこう。そんな準備をしていると、信者らしき人との間にガーディが低く唸りながら割り込んできてくれた。正直凄くありがたい。帰ったら女将さんに骨付き肉を貰えないか聞こうかな。
「その余裕もないので失礼します」
そう言い放った上で、信者らしき人を避けて通る。
「あなたのようなトレーナーがいるからポケモンが開放されないんだ」
「ガウッ!」
「ひっ!?」
少し離れてからICレコーダーのスイッチを切る。ボソリと何か言ったみたいだけれど、わたしが気にする必要もなさそうだ。それでも絡まれたせいで、さっきと違ってわたしの気分は急降下している。このまま帰るのも癪だなぁ……
少し寄り道しようかな。
「あなた達、どこか行きたいお店とかある?」
とりあえず意見を聞いてみると、夕立を頭の葉に乗せた大賀が右手を上げた。先ほど買った本の入っている袋を指している。
「本? 本屋に行きたいの?」
「スブブッ」
夕立を落とさないように頷いている。本屋かー……ここは気分を上げる為に地元の美味しい物雑誌でも買おうかなぁ。
「よーし、じゃあ本屋に行こうか。こっちに来る途中にあった本屋でいいかな?」
「スビボ」
火山活動の影響で、少し値段が高くなった八百屋さんや魚屋さんを通り、少し回り道をしてからだいたい40分ぐらいかけて先ほどの少し古びた個人書店に戻ってきた。ゴンベとロコン、ガーディは外で待っているらしい。
スライドドアを開けると、紙やインクの匂いに包まれる。本屋独特の落ち着く香りだ。こういう香りの香水を売り出したらけっこう売れる気がするのだけれど、どうなんだろう。
奥のカウンターには気の良さそうなおじいさんが座って読書をしているようだ。
「おや、お嬢ちゃん。また来たのかい?」
「何度もすみません。まだ買いたい本があったらしくて」
「はぁ……やっぱり何度見ても思うが、ハスブレロが本を読むとは珍しいのう。探している本が見つからなかったら儂に聞くといい」
「ありがとうございます」
雑誌コーナーで飲食店関係の情報雑誌を探す。趣味雑誌の山のとなりになかなかしっかりと内容が書かれているグルメ雑誌を発見することができた。とりあえず、これでわたしの目的は達したかな。大賀の方を見てみると、なにやら棚の一つとにらめっこしているようだ。まだ時間がかかりそうかも。
暇つぶしに他の棚の本を流し見ていくと、地元の伝承などが書かれているコーナーで目が止まった。タイトルは『天照銀狐』。この地域では狐……転じてロコンやキュウコンに纏わる伝承が多いようだ。宿の名前もキュウコンが関係しているし、かなり信仰されているのかも?
村などでポケモンが祀られているなんて話はお父さんから聞いたことがあるけれども、こういった大きな街で根深く残っている伝承を見るのは初めてだ。興味本位で手に取って中を軽く見てみると、どうやら特殊な力を持った銀色の大きなキュウコンが『黒い化物達』を焼き殺し、追い払ったという感じだろうか?
「お嬢ちゃん若いのにその本に興味があるのかい?」
いつの間にかおじいさんがすぐ横にやってきていた。いつの間にか大賀は支払いを終えてしまったらしい。
「こういう大きな街で信仰が残っているのは珍しいなと思いまして」
「そうだろうねぇ。こういうのが残っているのはホウエン地方では
「そうなんですか?」
「少なくとも他でこの手の伝承が残った街というのは儂は聞いたことがないね」
へぇー。キョウヘイ先生でも知らなさそうな情報かも。
「どうしてここまでしっかりとした伝承が残っているんですか?」
「ああ、それはね、儂のじいさん達がこの街を発展させる為に森を切り開いた時に、実際にとても大きな銀色のキュウコンが姿を見せたから、この伝承を本物だと考えて残したらしいんだ」
「実際に……ですか」
それはまた凄い話だ。
「その時にここより先、人の侵入を禁ずと言って森と街の境界を決めたらしい。今もその境界を守っていて、ロコンに選ばれた人以外入れないんだよ」
「ロマン溢れる話ですね!」
凄い伝承だ。かなり興味が湧いてきた。この本も買うことにしよう。
「そうだねぇ。ただ、少しでも超えると祟りが起きるらしくてね。儂らの話を無視して開拓しようとした工事現場では次々と事故が起きてな。どれだけエスパータイプのポケモンや悪タイプのポケモンを呼び込んでも軽くあしらわれたそうだ。だから、唯一森の中にある建物はこのキュウコンを祀った社だけでなぁ」
「かなり厳格なんですね……とても面白い情報でした、ありがとうございます。この本、買わせていただきます」
なかなかいいお値段だけれど、この本にはそれだけの価値があると思う。
「いやいや、こっちも懐かしい話ができたから楽しかったよ。お嬢ちゃん狐の調印持ちみたいだし、また来ておくれ」
「狐の調印……ですか?」
昼頃に女将さんもそんな言葉使っていた気がする。言葉の感じからなんとなくはわかるけれど。
「ん? ああ、すっごく大まかに言うとロコンやキュウコンにかなり懐かれている人のことさ。大体はその本に書いてあるから自分で探してみなさいな。それと、貴重な縁だから大事にな」
「はい!」
◇ ◇ ◇
「さぁ始まりました。第1回ビンゴ大会! 今宵の司会進行役は私、本日無事資格を取る事ができた小野原恭平と、幸運の星の下、圧倒的な耐久力と制圧力を兼ね備えた家の大黒柱! 御神木様がお送り致します」
なお、御神木様はミラーボール係も兼任しております! 流石に御神木様も加えたら御神木様が一等掻っ攫う気しかしないからな。特別賞を既に与えて買収に成功している。
手回しって大事だと思うんだ。
「クギュル!」
「……なにこれ」
「何ってビンゴ大会だが?」
ハルカが温泉から上がってきたタイミングで今日の昼から計画していたビンゴ大会を開始する。何故かハルカは口をあんぐりと開けて脱力しているが関係ない。今宵は祭りじゃ! 常識なんてゴミ箱に3ポイントシュートしてしまえばいい。
「いやさ、どうせ旅館にいるなら全員でできるゲームでもやろうかなと考えていたんだが、何やるか全然決まらなくってなぁ……そんな時に、ビンゴゲーム用の抽選器が安売りしてたから衝動買いしちゃった」
ついでに景品も衝動買いしちゃった。てへ。
温泉なら卓球だろうと思ったんだけれれど、もう既に予約が埋まっていたのです。仕方がないね。
「え? どこからつっこめばいいの?」
「とりあえず座布団に突っ込むといいと思うよ」
「違う。その突っ込むじゃあない」
「まぁまぁ。とりあえずこのビンゴカードを受け取りたまへ」
そう言いながら無理やりビンゴカードを持たせる。ハイ! これで君も立派な参加者の一人だ。
「さて、簡単なルール説明を始めます。まず皆さん中央のマルマインをプッシュしてください。プッシュできない方はそれぞれ手元に有るインクに前足をつけてカードに印を付ける感じでお願いします。その状態で縦横斜め、どこでもいいので一列揃ったらビンゴです。番号は00~99まで。揃った時点でアプローチしてください」
「クギュ!」
「トップ3には景品がありますので、奮ってご参加くださいませ」
「景品って何さ」
もっともな疑問ですな。
「もちろん当たってからのお楽しみです!」
大丈夫、俺が選んだ景品だよ! あんしんしてね。
「トップ3が決まってから景品は発表しますので、最後までドキドキを堪能してね! それでは、BGMスタート!」
電気を消して陽気なBGMと共に御神木様が回転し始める。乱反射された光が辺りにばら蒔かれ、なんだかバブル時代のディスコみたいになっているが気にしない。
安売りされていた抽選器も景気よく回り始める。
「さーて、まず一個目! 23、23です。このまま次! 二個目! 72、72です」
◇ ◇ ◇
既に15個が終わり、未だに誰もビンゴならず。そろそろビンゴが出てもいいとおもうんだが……
「次! 99、99です」
「ブイッ!」
お?
「揃ったっぽい? 確認しまーす……はい、1等は夕立がゲット! しかし、まだ2等と3等が残っているので諦めないでください! では夕立は前足を布巾でよく拭いてからこっちに来てくれ」
「ブイブイ」
まず1等は夕立か。まぁ1等はネタ系ではないし大丈夫だ。問題ない。
「よし次! 18、18です……居ない。次! 1、1です」
「ナックラー!」
おお、ナックラーか。
「確認します……はい、2等は期待の新人ナックラーがゲット! 残るは3等のみ! ではナックラーも前足を布巾でよく拭いてからこちらへどうぞ」
2等も……まぁ大丈夫だろう。今回は同時ビンゴとかにはならないんだな。正直3匹同時ビンゴというのも予想の1つにしていたんだが、準備が無駄になったかな。
「では気を取り直して次! 66、66です」
……いないか。
「次! 7、7です」
「あ、そろったかも」
「かもってどっちですか。まぁいいや。確認しますね……はい、3等はハルカがゲット! ハルカはちょっとこっちへ来てくれ。これにて今回のビンゴ大会の抽選を終了致します。ご参加ありがとうございました!」
「クギュルルル!」
パチパチパチと拍手のようなものが飛び交う。さて、電気を点けて景品を発表するか。
「さて、景品発表の時間だァ! まず1等、夕立、前へどうぞ」
「ブイユ」
目の前でチョコンと夕立が座っている。かわいい。癖で頭をナデナデしてしまう。いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
「1等の景品は……このフエンタウンで有名な美容室HOKAGEのカット、毛づくろい券です」
「有名店じゃない!? どうやって手に入れたのさ!」
「ふふふ……俺がチケット系を手に入れる方法なんて、マスクの王国経由でしかありえないだろうが。まぁ人だけでなくポケモンにも有効だから今度ハルカと一緒に行ってきんしゃいな」
他に何があると言うんだ。今朝届いた荒々しい牛のマスクや凛々しいペンギンマスクを買った時に一緒に封入されていたんだよ。
「あたしの分のチケットは?」
「実費でどうぞ」
もふもふと夕立の頭を撫でながら切り捨てた。
「酷くない!?」
真っ先にビンゴできなかった自分の運を恨め。御神木様なんて自分用に避けておいたビンゴカードが既に3ビンゴ完成させているんだぞ! マジで参加させないで正解だった。
「次、期待の新人ナックラー、前へどうぞ」
「ナック!」
「元気いっぱいでなによりです。2等の商品は特選、木の実セットをプレゼント! 木の実アイスと俺特製のソーダ飴もセットです」
LLサイズの袋いっぱいの木の実と、プラスチック瓶2つ分のソーダ飴、24個の木の実アイスを見せる。
「ナックラーッ!」
おお、嬉しそうで何よりだ。正直、ここの料理を食べているからちょっと喜んでもらえるかわからなかったんだよなぁ。
「ソーダ飴はよく見るけれど、アイスなんていつ作ったのさ」
「いや、これは俺が作ったやつじゃあなくて通販で一緒に買った」
「ああ……あれ? まさか自分だけで食べるつもりだった?」
あれ、なんか皆目が怖いよ? まさかそんな訳ないじゃないかハハハハハ……いやホントダヨ? インディアン嘘つかない。
「さて次だ次。そんなに過去のことに拘っていたらハゲるぞ。ハルカ、君に3等の商品を渡そうじゃあないか」
「ぶっちゃけこの流れだと何が来るかわからないのだけれど……」
「なに、普通に待てば食べられる商品だ」
常識的かはともかくとしてだが。
「なにその不安になる一言は」
気にするな。フォースを感じるのだ!
「君にはこのデボンコーポレーション期待の試作品、カップラーメン味噌味を贈呈しようじゃあないか」
「試作品?」
「なぁに、普通のカップラーメンと同じように、かやくだとかを入れてからお湯を注ぎ、ほんの156分待てば完成する」
「……ん? なんだって?」
あれ? 伝わりづらかった?
「だから普通のカップラーメンと同じだって」
「いやその後だよ」
「ほんの156分待つだけで本格的な味噌ラーメンが」
「そんなに待ったら麺伸びるわ! というかお湯冷めるじゃない」
「いやどういう技術かはわからないんだけれど、ずっとアツアツのお湯のままらしい」
無駄に高度な技術だよな。お値段1個辺り6.980円税込なり。
「デボンコーポレーション何作っているのさ!?」
俺もわからんが、ネタ的に美味しいからもらってきたのだ。
「これも今朝方ダイゴさんから頂いたものでな。不法投棄するぐらいならハルカが食べると言って貰ってきた。賞味期限は3年後ぐらいだから、まず腐る心配もないぞ!」
これも有効活用だ!
これにて今日のビンゴゲーム終了! 片付けと称して抽選器をバックパックの中にブチ込む。ビンゴゲームってゴミがカード以外出ないのも経済的だよな。
「さぁハルカ、早速食べてみようじゃないか。ダイゴさんに味の感想も求められているんだ」
「……とりあえずお湯もらってきて!」
ああ、俺が言うのもなんだけれど、普通に食べるんだな。君の犠牲は忘れないよ……科学に失敗は付き物だしな。
なお、156分待って食べた味噌ラーメンは無駄に美味しかったらしい。律儀に食べるごとに何かしら発見しているらしい。すげぇなデボンコーポレーション。遊び心ありすぎだろう。ただ、一番の問題点である時間に関しては聞き入れてもらっていないらしい。不思議な企業である。
デボンコーポレーションの社員はクソ真面目にこんな商品を考えていたりします。ただの工業製品を作成して売り出す企業じゃないんです!