カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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VSフエンジム(中)

 時たま【かげぶんしん】をしたはずの網代笠が、ピンポイントで本体を業火に焼かれるという事故が発生しつつも一人、二人とジムトレーナーを倒して石畳の床を進んでゆく。長引いた戦闘も最初ぐらいで、それとて実地試験の為に無理に【かげぶんしん】+【しびれごな】や【タネマシンガン】を扱うなんて事をしなければ御神木様一匹で勝ってしまえただろう。

 

 ――――それが逆に悩ましい。御神木様だけを重用しているように取られかねんしな。まぁ戦闘以外も含めた場合、皆にそれぞれの役目があるのだが……それでもやはりバトルで見せ場を作ってやりたいのがトレーナー心というものだろう。

 

 如何に自分のポケモンを輝かせるかというのは、多少コンテスト寄りかもしれないが……もとよりダイゴさんに『君は曲芸系バトルを専攻し始めているのか?』なんて宿でも言われるぐらいだし、今更だろうな。

 

 とりあえず今回は目玉技がアスナさんに通じれば良し。度肝を抜かすことができればなお良し程度の考えで留意しておくか。草タイプでも炎タイプに善戦できるということを主張するのだ!

 

 そう心の中で決めて軽く走り出そうと踏み出した瞬間、濡れた石畳の上で靴のゴムがキュッと鳴り、そのままの勢いで足を滑らせた。ズザーッ! といい音を立てながら顔面から倒れる。

 

 締まらない……いくら凛々しいペンギンマスクを被っていると言っても、この手の芸はやるべき時とやるべきではない時というものがある。それとやるのならせめて腕にヒレを装備するべきだろう俺よ。

 

「顔面セーフ!」

 

 即是にその場で起き上がり、膝立ちの状態で両手を左右に広げて全力でジェスチャーする。顔面はセーフなんだよ! ……この今の状態カメラで見られているんだよな?

 

 ため息混じりにふと顔を上げれば、所々に生えている木々と鮮やかな紅葉が視界に入った。彩の良い赤や黄色の葉と共に影がアクセントとなって目を愉しませ、滑った心を癒してくれる。

 

 紅葉を活かすために入念に、そして丹念にこのジムを作り出したのだろうな。自然にみせつつも存在感のある影のためにいったいどれだけの手間がかかっているのだろうか。それらを生み出している湯気や照明の位置に匠の心意気が感じられるな。こういう所で温泉に入りながら熱燗片手に月見酒というのも風流だろうなぁ。

 

 今のところ例外だったのは道中の木の部屋ぐらいだろう。あれはサウナでもイメージしていたのだろうかね?

 

 あと、ジムトレーナーによっては足場に温泉が流れていなかったりしているみたいだけれども……これはあれかね? やっぱりジムトレーナーの中でも先輩後輩で序列でもあるのかね。ただ、そんなことするぐらいなら最初から温泉を引かなけりゃ良かったんじゃ……いや、もしかしたら深い考えがあるのかもしれん。俺には思いつかないが。まさかとは思うがジムの仕様に足を引っ張られているなんて……ないよな?

 

 まぁいいや、と切り上げる。

 

 そろそろどうしてこんなに思考がぶれているのかをもう一度考えるべきじゃあないのか?

 

「今回のジムは思っていたよりだいぶ長い……というか長すぎないか?」

 

 なんか新宿駅を思い出した。あそこ程ではないはずなのに歩くだけで精神が削られ始めている気がする。

 

 今までのジムの中で一番長く、既に8人ぐらいジムトレーナーを倒しているのにまだジムリーダーが見えない。これ折り返しは過ぎているんですよね? ゲームの中のフエンジムジムトレーナーって何人いたっけか……5人ぐらいだっけ?

 

 後半のジム以外ならそれぐらいのはず。

 

 12回目の板に乗った移動で1階に移動した際にようやくジムリーダーのアスナさんの後姿をチラッとだけだが確認することができた。微妙に暇そうに見えたのは秘密である。俺の現在地はジムの中央最奥部だから、単純に奥を目指すだけじゃダメだったということか。

 

 まぁ、とは言っても、ここまで板の1枚1枚をしらみつぶしで移動してきたんだ。いつもの方向音痴という事はないだろうし、行き過ぎたって事もないだろう。これで実はもう正規ルート過ぎてますなんていうことにはならないはず……はず!

 

 とりあえずこれでようやく目印ができた。あとはどうやってあそこへ向かうかだな。

 

 入口から見てアスナさんがいる場所は三段目といったところかね。左側からは行けなかったから必然的に右側にあるだろう。右回りの渦みたいに進む感じだな。

 

 とりあえずもう一度板に乗って地下に降り、今度は右端の板から1階へ上ってみる。すると、何故かこの通路にはトレーナーがいないようだった。今までこんなことなかったんだが……軽く嫌な予感がしたが、そのまま更に進む。ここに来ていきなりジムトレーナーが消える理由はなんだろうか?

 

 進んだ先でまたもや板に乗って地下1階に移動し、その通路の奥にあった板に乗って1階に戻って来ると、ようやくジムの中央部分にたどり着くことができた。中央部分も辺りには石畳が敷いてあり、立派な紅葉をつけた木々が岩の向こう側から顔をのぞかせている。この温泉の和が所々に散りばめられているような空間は今までよりも左右の幅がだいぶ広めのようで、通路の2倍近くは広く見えるな。

 

 そして手前には2m程度の指揮用の台座が設置されていた。

 

 これみよがしに設置されている指揮台に急かされる気持ちで上ると、肩に薪を担いだ男トレーナーや、赤いジャージに黒いスパッツの女トレーナーと目が合う。服装からして男の方はさっきもいたキャンプファイヤーで、女の方はエリートトレーナーだろう。それと少し前から思っていたんだけれども、なんで室内でそんな大きな薪を持ち歩いているのさね。筋トレだったらもっといい器具を紹介するのに。

 

「まだいるのか……しかも2人」

 

 少しゲンナリしながらボソリと本音が漏れる。一つの部屋に1人ならわかるが2人ってなんだよ、と言わないだけマシだろう。

 

「そう言ってくれるなよ。あんた用に今日は通常よりもジムトレーナーが多いんだ。むしろ光栄に思ってもらいたいね」

 

「そうそう。あ、私はエリートトレーナーのキョウカで、こっちのいかついのがキャンプファイヤーのタモツって言うんだよろしくね」

 

 今はそんな名誉いらないんだよなぁ。早くジムを攻略しないといけない時に限ってこうなるのか。

 

「そいつはどうも、俺の名前は恭平。今はペンギン見習いだ。とても名誉なことをありがとう……と言いたいんだが、俺もちょっと急いでいるんだよ。だから正直、今はあんまりこういう歓迎の仕方は嬉しくはないかな」

 

「そうなのか。ならさっさと始めるとしよう。ルールは2VS2のダブルバトルだな。行ってこいマグマッグ」

 

「マグマッグ!」

 

「カクレオン頑張って!」

 

「カクレ!」

 

 マグマッグとカクレオンか。二匹とも動きは遅めのポケモンが相手だし、まだ大賀には控えに居てもらおうかね。それに下手にアスナさんに情報を渡したくもない。サプライズは本人に行うべきだろう。

 

「御神木様と網代笠、行ってきてくれ」

 

「クギュル」

 

「キノコッ!」

 

 互いに出したポケモンがにらみ合いを始める。さて、マグマッグの対策はいつものアレでいいとして……カクレオンは面倒くさいな。特性:変色か特性:変幻自在かで対応できるかどうかが決まってくる。

 

 特性:変色ならこっちが攻撃したタイプと同じになるから対処しやすい。だがしかし、特性:変幻自在の場合は相手が行った攻撃技のタイプに変化するから、実質常にタイプ一致攻撃を仕掛けてくるようなものだ。

 

「この勝負、合意と見てよろしいですね?」

 

 またいつの間にかいつも見かけるジャッジがフィールドの横に立っていた。瞬間移動すぎるでしょう。

 

「それでは――――第9戦目、ポケモンバトルゥーーーファイトォ!!」

 

「カクレオン、【おさきにどうぞ】をマグマッグに!」

 

「カクレオンッ!」

 

 お、こっちに来てから初めてその補助技を見たな。完全に先手を取られたな……相手はダブルバトルに慣れているのだろう。

 

「マグマッグは【はじけるほのお】!」

 

「マグッ!」

 

 思いの外いい動きをしているカクレオンにマグマッグが押し出され、その勢いを活かして御神木様や網代笠に向かって【はじけるほのお】が吐き出された。放たれた【はじけるほのお】は空中ではまとまっていたが、その場で回転している御神木様に直撃した瞬間に周囲に飛び散る。そして、少しだけ離れていた網代笠にも火が飛び移ってしまった。

 

 網代笠からしたら予想外の方向からの火だ。これで炎タイプのポケモンとの戦闘に慣れていない草タイプのポケモンならパニックを起こしてしまうかもしれない。

 

 しかし、ウチの場合はソレに対してある種の慣れがある。しかも平均的な炎ポケモンよりも高レベルの炎ポケモンとの戦闘慣れだ。マグマッグの放った【はじけるほのお】は防御の上からなお焼き焦がそうとするような攻撃でもないのだ。今更その程度の火力では止まらんよ……いや、まぁ本来なら【はじけるほのお】って中盤辺りでなら普通に通用するはずの技なんだけれどな。

 

 御神木様が自身にまとわりついていた炎を邪魔だと言わんばかりにその場で高速回転することで周りに弾き飛ばす。多少網代笠の方にも火が飛んでいったからか、網代笠から軽く抗議の目が御神木様に向けられている。そういえば、御神木様が何かしらの攻撃を回転することで体から払うのを最近、意外とよく見かける。そんな光景を見て、ふと、あるアイディアが脳内を走り抜けていった。

 

 ――――ん? これを上手く扱えば今後、御神木様をより無敵要塞に近づけることができるようになるんじゃあないか?

 

 電流が走るとはこのことだろう。

 

 アイディアを忘れないうちに書き留めたいが、今はバトル中だ。即座にバトルを終わらせてメモに書かなければ! 視線をマグマッグに集中させる。マグマッグは押し出された結果つんのめらないように踏ん張ろうとしている。ここだ。

 

「御神木様は【ステルスロック 大石槍】を8発ずつ分けて2匹に攻撃! 網代笠は御神木様の攻撃後にカクレオンへ【タネマシンガン バックショット】!」

 

「クギュルルルルル!」

 

 ざッ! と音を立てて御神木様の周囲に【ステルスロック 大岩槍】が16本生成され、右横の石槍を打ち出す。そのまま攻撃後で体勢が崩れた隙だらけのマグマッグを倒してゲームセットかね?

 

「マッグッ! ……マ?」

 

「……お?」

 

 そう思っていると、放たれた石槍は俺の予想とは異なって少し高い軌道を通ってゆく。

 

「カクレッ!?」

 

 そして、無理な姿勢のまま身を屈めて防御しようとしていたマグマッグのすぐ真上を通り抜け、攻撃がくると思っていなかったのであろうカクレオンへぶち当たる。そして、そのまま鈍い音を立てながら後方の壁へ叩きつけた。御神木様からの攻撃をくらったカクレオンの体色が赤茶けた色に変化し、それが確認できた瞬間にその後を追うように2本、3本と追撃の石槍がはじき出され、カクレオンを壁に縫い付けてゆく。

 

 ビンゴ! 特性:変色だったようだ。これでカクレオンのタイプがノーマルタイプから岩タイプに変化した。それにしても、俺は先に攻撃役のマグマッグを倒すかな? と思っていたのだけれど、御神木様的にはサポート役だったカクレオンの方が厄介に思えたのかも知れない。

 

「キノコココッ!」

 

 そう考えた瞬間にカクレオンに近づいていた網代笠からの【タネマシンガン バックショット】という更なる追撃ちが続く。その一連の動作を見て、ああ、指示の意味……行動のことまで考えてくれたのかと再認識した。俺がなんで網代笠に御神木様の後に攻撃しろと言ったのかあの場で考えたのか。勉強会が無駄になっていないとわかったのが凄い達成感があるな。これからも続けよう。

 

「カ……クレ……」

 

 【タネマシンガン バックショット】がカクレオンの腹から胸にかけての広範囲に直撃し、カクレオンはその場で崩れ落ちた。

 

 御神木様は【タネマシンガン バックショット】を撃ち出していた網代笠には目をくれず、次のターゲットであるマグマッグに石槍を叩きつけてゆく。

 

「マグ……マ……」

 

 次々と降り注ぐ石槍にマグマッグは崩れ落ちる。マグマッグやカクレオンはあんまり体力の多くない。その上で弱点を叩き込まれると流石に持たなかったのだろう。次は何だ? 何が出てくる?

 

「カクレオン、マグマッグ戦闘不能! この勝負挑戦者の勝利!」

 

 お、終わりか。これで10人……多すぎるでしょうよ。

 

「負けちまったか。よし、このまま奥へ進んでくれ」

 

「ざんねーん……ただ面白いものが見れたわ。この奥にアスナさんがいるから万全の状態で挑んでね!」

 

 そう言って二人はすぐに指揮台から降りて、スタッフ用の扉を潜って行ってしまった。俺もすぐに指揮台を降りてフィールドで御神木様と網代笠を回収しておいしい水を与える。

 

「お疲れ様」

 

「クギュル」

 

「キノ……」

 

 すると、一息ついた瞬間に網代笠が全身から白い光を放ち始めた。その横で御神木様が目を丸くしている。

 

「ん!? 進化の光か!」

 

 そろそろ来るとは思っていたがもう23レベルなのか。トウカの森改め眠りの森で出会ってから既に2ヶ月ちょっとは経つ。もうそんなに経つんだなぁと軽く感傷に浸り――――

 

 ――――それから網代笠の額に軽くチョップを当てる。ついでに横腹もムニムニしておく。

 

「キノッ!?」

 

 俺の行動に驚いた網代笠がビクリと体を硬直させ、体から放たれていた光が一気に収まってゆく。成し遂げたぜ。いわゆる進化キャンセルというやつだ。ゲームでBBBBBBと連打している時主人公の行動はきっとこういう感じなのだろう。

 

「キノコ~ッ!」

 

 あらま、網代笠が物凄く怒っていらっしゃる。まぁ自分がより高みに行けそうな時に横から邪魔されたらそうもなるか。とりあえず弁明しないと許してもらえそうにないな。御神木様からも普段よりも強いジト目で見られているし。

 

「網代笠、すまんが進化するのはもうちょい待ってくれ。いま進化すると覚えられない技があるんだ。だからその技を覚えてから進化してもらいたい」

 

「キノ~……」

 

「ほら、俺特製のクラボの実を煮詰めて作ったジャムあげるからそうむくれないで。それに、宿に戻ったらオダマキ博士とかに技を早く覚える方法を聞いてみたりしてすぐに模索するからさ」

 

 納得いかないと顔に出ている網代笠の頭をワシワシ撫でてからボールに戻す。御神木様にも言質を取ったことを確認されたのでしっかりと約束してからボールへ戻す。その際賄賂を渡すのも忘れない。

 

 まぁ、俺もそのまま進化させてあげたいんだけれどね……あの技を覚えられるのなら覚えてもらいたいし。これで調べてみた結果、別にキノガッサでも覚えさせられるなんてことになったらアレだな。俺きっと網代笠に脛を蹴られまくるな。間違いない。アーミーブーツ+【ローキック】の練習と言い直せるぐらいには脛に蹴りをかましてきそうだ。

 

 ただ、方法がないわけではないとは考えている。でなければ眠りの森のような事は起こりえないだろう。いくら怪電波発生装置で進化させたのだとしても、それだけで技まで覚えられるとは思えない。あの森では常に降り注ぐ程度の量の胞子が撒き散らされていたのだから、それなりの数のキノココやキノガッサが【キノコのほうし】を覚えていたはずだ。ならば何かしらの手があるはずなのだ。

 

 それを見つける必要がある。今後のためにも。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 奥の通路を進み切ると一番広い石畳の部屋にたどり着いた。フィールド用の白線が引かれている……ただそれだけだ。他のギミックや障害物は一切ない。純粋に、真正面からのポケモンバトルになりやすい感じかね。火力押しで来られると拙いのだがなぁ……

 

 さっきの部屋の指揮台よりも高めの指揮台を登ると、対岸には炎の様な赤い髪をしている女性が腕を組んで仁王立ちをしていた。髪は無造作に後ろで結っていて、大きな胸を主張させている赤いチューブトップとジーンズが活発な印象を与えてくる。ベルトの代わりにタオルのようなものをつけているのも一因だろう。そして何よりもへそが丸見えなのである。まったく、けしからんな! 最近の娘はチラリズムというものを意識して欲しいものだ……安易に肌を見せればいいってものじゃあないんだぞ!

 

 そんなことを思っていると腕を組んで仁王立ちをしていたアスナさんがカッ! と目を見開いた。

 

「ようこそ! よくここまで来たものだな挑戦者よ! 私はここのジムリーダーを任されたアスナだ!」

 

 …………あれ? ゲームの時みたいにキャラがぶれていないぞ? ハルカの時からこうだったのか?

 

「くう……うん。やっぱりキャラは作るものじゃあないや。やっぱ自分らしくでないと一緒に戦ってくれるポケモンも困っちゃうもんね」

 

「普段自然体で戦っているのならそうだろうな。ただ、仮にキャラを作るとしたら、恥ずかしがっちゃいかんよね。そういう時の恥は掻き捨てなきゃこの先生き残れないですし」

 

 カメラも映してくれなくなるからな!

 

 まぁ、御神木様達の場合は俺がキャラ作ってもスルーするか、まともに戻れよって目で俺を見ながらツッコミをかましてくるんですがね……本当に芸人殺しですわ。どうしてこんなになるまで放っておいてしまったんだ!

 

「それ、芸人として生き残る方だよね?」

 

「勿論」

 

 あんまり内容のない話し合いの中、アスナさんが軽い笑みを浮かべている。どうやらかなりリラックスしているようだ……なんでジムリーダー側が成長したみたいな空気まとっているんですかねぇ?

 

「だいぶリラックスしているみたいね。でも、あなたがダイゴさん達に興味を持たれているぐらい実力があるからって、私相手に油断しちゃダメよ! 私は確かにジムリーダーに成り立てだけど、お爺ちゃん譲りの才能と、この土地で磨き上げたホットな技で、ハルカちゃんの先生であるあなたに挑戦する気持ちで挑むから! マグマッグ、強敵よ!」

 

「マグマグマッ!」

 

 今までジムトレーナーが出してきたマグマッグよりも一回りほど大きく、赤い溶岩のような液体状の体からボコボコと気泡が浮かび上がっては弾けて消えていた。そして熟練兵のように目が完全に座っているようだ……かなり力強そうに見えるな。

 

 アスナさんも、先ほどの微笑ましく笑っていた表情と打って変わって、ギラギラとした目と獰猛な笑いが見え隠れしているように見えた。ハルカが何を言ったのか分からないが、もの凄く燃え上がっていらっしゃるようだな。かなり挑発的な目でこっちを見つめてくる。

 

 ああ、そんな目で見られると――――こっちの闘争本能も火が付けられちまうじゃあないか! 

 

「今回のバトルを見学させたいポケモンが手持ちにいるんだけれども、俺の肩に乗せて見学させていいかい?」

 

「……許可します」

 

 少し悩んだようだけれども、許可を貰えた。今回のバトルもいい経験になるだろう。

 

「ありがとうございます」

 

 頭を下げてから腰に設置させているボールを二つ取り、片方をフィールドへ、もう片方を足元に出す。

 

「ブイッ」

 

 足元のボールから夕立が現れ、一気に肩に登ってくる。俺の右肩は完全に定位置になっているようだ。

 

「さて、俺達は全ての障害を粉砕し、押し流す。そうだろう、御神木様! 夕立はいつも通り見学だ。今日の相手は強いぞ!」

 

「クギュルルルルルゥ!」

 

 意気込み十分! ならば、全力をもって今を楽しもう。でもまずは最初の賭けから始めようかね。心臓の鼓動や自分の呼吸音がやかましく感じる。緊張……しているのだろう。それでも御神木様の運や、向こうの本気度を信用しているのだ。故にこの賭けは絶対に失敗しない。

 

「ルールは通常のジムバトルルールです。この勝負、合意と見てよろしいですね?」

 

 いつの間にかフィールドの横に現れていた審判の発言に頷く。今下手に声を出したら震えてしまうかもしれない。

 

「フエンジムジムリーダーアスナ、全力で戦うよ! しゃッらあああああああいッ!!」

 

 気合の入った声がジム内に響き渡り、ゆっくりと反響が散ってゆく。ここまでのモノを見せられているんだ。腹の底から声を出して、しっかりと空気を震わせてやるのが返礼というものだろう。

 

「オダマキ研究所専属ポケモントレーナー兼異世界からの訪問者、小野原恭平! 推して参る!」

 

 スタートダッシュの為なのかマグマッグは既に前傾姿勢となっているな。対する御神木様は普段通り回転を始めていた。一切軸のブレない回転によって御神木様がピンッと真っ直ぐに立っているような錯覚を起こす。

 

「それでは――――最終戦、ポケモンバトルゥーーーファイトォ!!」

 

「マグマッグ、【にほんばれ】!」

 

「グマック!」

 

 マグマッグの体が一気に沸き立ち、周囲の温度が上がってゆく。続いて放たれた炎の塊が高く舞い上がり、まるで真夏の日差しのような強い光を放っている。しかも照明弾のように落下が遅い! 数分間は残っていそうだ。アスナさん初手からかなりガチだな! 本気で今使える手持ちのポケモンでのバトルで手を抜くつもりはないらしい。

 

 ――――だが、だがしかしだ。だからこそ最初の賭けには勝ったと言っていい! ここで攻撃技を出されたら拙かったが、態々初手に炎タイプが弱点の御神木様を出した事で警戒してくれたのだろう。まぁそのミスリードの為に初手で出したのだが。

 

 さて、この1回分の行動は貴重だ。攻撃技を指示したい誘惑に駆られるが必死に押さえつけつつ思考を回す。やはりここで攻撃技を出しても相手を驚かせる程度でしかなく効果が薄そうだ。ならば、やはり事前の計画通りに進行させるべきだろう。【タネマシンガン エアバースト】は余裕があればだな。

 

 御神木様には後で謝らなきゃならんだろうなぁ……

 

「御神木様は【ステルスロック 串刺ノ城】を展開」

 

「クギュルルルルルルッ!」

 

 御神木様によって通常の【ステルスロック】の3倍近い量の大小様々な尖った岩がフィールド一帯に出現する。岩の大きさは本当にバラバラで、4m程の大きなものから20cm程の小さな石まで転がっており、とてもじゃあないがマトモな技には見えないだろう。

 

 だが、まだだ。まだ【ステルスロック 串刺ノ城】は完成していない。ここからもう1手加える。岩を撒き終えた後に、今度は【やどりぎのタネ】を撒き散らしてゆく。【やどりぎのタネ】を撒く前は、岩と岩の間は少し隙間があり、移動しようと思えばある程度はできた。しかし、岩や隙間のいたるところから伸びてきた宿り木が視界や行く手を阻むようになる。ついでにソレが一部擬似的なブービートラップにもなっている為、一石二鳥な活用方だ。

 

 【ステルスロック 串刺ノ城】はただひたすらに岩と宿り木を出現させる技で、はっきり言って異様な技である。ソレそのものに攻撃能力なんてものはほとんどなく、その見かけは刺や尖った岩だらけの森を呼び出したようなものだ。しかし、この陣の有無で今後の全てが決まるといってもいい。これは布石だ。【あまごい】や【かげぶんしん】のような必要な布石なんだ。これを見て、アスナさんはどう動くか。

 

「ん……問題ない、マグマッグ! 【オーバーヒート】で周りのもの全て燃やし尽くそう!」

 

「マグマアァァァァァッグ!」

 

 やはり燃やしてきた! そうだよな、そうすれば道も拓けるし攻撃にもなる一石二鳥のように思えるだろうしな。

 

 ただその威力は俺の想像以上であった。マグマッグを中心に爆炎と轟音が巻き起こり、一気に膨れ上がった炎は岩から生え出していた宿り木の木々を飲み込んで、その全てを燃やし尽くして広がってゆく。爆炎の巻き起こった中央周辺の生木は完全に炭と化し、岩そのものが溶け出している箇所すら見受けられる。また、少し離れた生木も炎と共にブスブスと焦げ、黒煙が上がり始める。気休め程度だが、これで多少視界を塞ぐことができるはずだ。

 

「クギュッ!」

 

 予定通り御神木様も岩が炎の直撃を庇ってくれたが、それでもはっきり言って既に御神木様の見た目はボロボロである。参考にしたアクション映画のように岩で爆風から身を守ったのをやってのけたまではよかったが、完全に身を守れるほどは上手くいかないらしい。

 

 日照り状態+4倍弱点+タイプ一致の【オーバーヒート】というのは、爆風の直撃を受けずに吹き抜けて、その身に熱風が掠っただけでもえげつない火力を発揮していた。

 

 むしろよく御神木様まだ意識あるなと思う。持たせておいた食べ残しでなんとか回復させているようだけれども、焼け石に水だ。回復量がまったく追いついていない。自分にとっての致命的な攻撃と言うのが真横を掠めて、岩を削ってゆくとか普通なら意識を失ってもおかしくないだろうに。

 

 これが【ステルスロック 鎧】などであればそのまま蒸し焼きだったかもしれないな。

 

 それでも運良く意識を保っていられているのは事前にしっかりと対策を練ったからだろう。今回のジムで俺が一番危険視していたのがこの【オーバーヒート】だった。

 

 炎タイプを主体に扱うジムで、【オーバーヒート】と言う超火力の炎技を扱うポケモンに対して、草ポケモンがどうやって反抗するか。いつものようにとりあえずでバチコンとぶち当たったら、確実に一瞬で溶かされる程度にはヤバい火力を相手は有している。それはもう焼けた鉄板の上に置いた氷の如く溶けてゆくだろう。

 

 故に今回、俺達は記憶に残っていたこの技の為に策を考える必要があった。フルパワーで攻撃が行われるため初弾が直撃する場合は大賀でも一撃で倒される可能性もある。そして【かげぶんしん】だけでは纏めて燃やされるかもしれない。故にまずは物理的な壁を張る必要があった。

 

 そして、どうやっても2手目の攻撃を避けられないと判断し、予想ではここで御神木様は退場していたのだけれども……御神木様には本当に驚かされるな。ならば一発分ぐらいやり返そうか!

 

「魅せてみろ、お前の力をッ! 距離23前後、1時方向に【タネマシンガン エアバースト】」

 

「クギュルルルルルッ!」

 

 御神木様がボロボロの体を奮い立たせながら、ポン! ポン! と軽い音を立てて【タネマシンガン エアバースト】を25発ほど曲射してゆく。最高高度に達した後、自由落下することで壁を超えて対象を周囲諸共爆発させる種だ! 腹いっぱいご馳走してやるといいさ。

 

「倒せなかった? あの【オーバーヒート】受けたのにまだ動けるの!? それにあんな所からいったい何を……」

 

 最初に打ち上げられた【タネマシンガン エアバースト】の種がマグマッグのすぐ真後ろに落下し、ドンッ! と音を立てて爆発する。

 

「な!? すぐに【ひかりのかべ】を張って!」

 

「グ、グママッ!?」

 

 大慌てで上に向かって板状の【ひかりのかべ】を張ったマグマッグだが、本来は真正面に向かって張るものなのだろう。上に向いてはいるのだが、どうにも角度が甘い。そんな状態をあざ笑うかのように、目標一帯の大まかな範囲にばら蒔かれたハンドボールぐらいの大きさの爆発する種が雨のように降り注ぐ。

 

 弱点を突けるのならば大石槍やロックショットガンを扱うのだが、どうやってもアレらは直線的な攻撃になってしまう。まだまだ技のレパートリーが足りていないと実感させられてしまうな。

 

 本来不発弾だった種もいくつかあったのだろうが、燃えている生木などや他の種の爆発などに巻き込まれて連鎖爆発してゆき、マグマッグも18箇所の爆発の中に飲み込まれていった。

 

 【タネばくだん】そのもの程の火力は無いといってもそれなりの威力のある爆発だ。あれだけの爆発を起こしてもなお砕け切らない【ステルスロック】の硬さと粘りを凄まじく感じる。なんか昔より固くなってきていないか?

 

 空爆が終わり、煙が晴れると――――ボロボロになって倒れ伏したマグマッグが姿を現した。

 

「マグマッグ戦闘不能!」

 

 よっし! 御神木様が予定以上の働きをしてくれた! 手持ちは恐らく3~4匹だろう。次のポケモンは何だ? ルビー、サファイアのようにマグマッグ2匹目か、それともエメラルドのようにドンメルやバクーダか。切り札であろうコータスはまだ出てこないだろう。ただ、未だに上では燦々と【にほんばれ】が輝いているのが足を引っ張りそうで怖いな。

 

「……ダイゴさんやツツジさんが言っていた事が襲って来た感じなのかな。確かに予想外だわ」

 

 まーたダイゴさん達か。今度は何をアスナさんに言ったんだ?

 

「前から思っていたんですけれど、俺はジムリーダー達の間でなんでそんなに話題になっているんですか?」

 

「んー……発想がキョウヘイだとか斜め上を行っているだとか色々と? あ、でもツツジさんからは色々な意味で気に入られていたよ。それとテッセンさんは事件が収まったら是非再戦したいとも言っていたわ。まぁ他のトレーナーとはいろんな意味で異なってくるから面白いみたいな事で纏まってはいるかな?」

 

 俺の扱いっていったい……

 

「酷いわ!? わたしはただただ必死になってポケモンバトルをしているだけなのに!」

 

 なんか自分で言って寒気がしてきた。

 

 それにしても、本当にツツジさんは顔や性格に反してバトルジャンキーだな! ……いや、そもそもの考え方が違うのかも。ジムリーダーになる人はだいたいバトルジャンキーなのかもしれない。

 

「ただ、今は私とのバトルに集中してね! 相手はかなりの強敵だよドンメル!」

 

「ドンメルメル~――――メルッ!?」

 

 繰り出されたドンメルは、やはり今まで見た他のドンメルよりも体格がどっしりとしており、デカイ。1mより少し小さい程度だろうか。だからか、【ステルスロック 串刺ノ城】が思いの外しっかりと食い込んだようだ。最近では【ステルスロック】は相手に向かって撃ち出すモノという認識に変わってきているが、本来の領分はこっちなのだ。決して忘れてはいけない。

 

「【ステルスロック】が本当に厄介ね……まずは弱っている相手に止めを! 【だいちのちから】!」

 

「メルメーッ!」

 

 ドンメルを中心に一瞬ぐわんと地面が波立ったと思った瞬間、衝撃波のようなものがフィールド全体の地面を駆け巡り、御神木様にも直撃する。

 

「クギュ……ル……」

 

 先ほどは意地でもって番狂わせを起こした御神木様だが、流石にもう体力が残っていなかったようで、【だいちのちから】の直撃をもってとうとうフィールドに沈んでしまう。普段なら御神木様が出てくるのは一番最後だから凄く違和感があるな。俺がいつもどれだけ御神木様に頼っていたかが浮き彫りになってしまった感じだ。道中でこうならないように考えていたはずなのだがなぁ……

 

「テッシード、戦闘不能!」

 

 だが、ここまでは本来の予定通りなのだ。今更退ける訳でもなし。あとは粛々と前へ進むのみだ……倒れるのなら前のめりが俺達の合言葉だろうが!

 

「第二段階だ網代笠!」

 

「キノコッ――――ッコ!?」

 

 網代笠も出てきた瞬間に【ステルスロック】を踏んだらしい。【ステルスロック 串刺ノ城】の厄介な所は敵味方関係なく刺が牙をむく点だろう。まぁほとんど威力はないから大丈夫。草タイプにとって【ステルスロック】は人間で言う足ツボサンダル程度だって人間ポケモン両用整体師の本に載っていたし大丈夫。アーミーブーツだって履いているのだし、きっと問題ない大丈夫。おそらくだけれども大丈夫。

 

「よし、その血流が良くなった足で走り回れ! 【かげぶんしん】!」

 

「キノコーッ!」

 

 岩の後ろに隠れて【かげぶんしん】を行い、わらわらと現れた【かげぶんしん】諸共、岩陰を通ってフィールドの四方八方に広がり散ってゆく。さぁ、どこから撃たれるかわからない恐怖というものを知るといいさ!

 

「【ふんえん】で纏めて焼くのよ!」

 

「メルルッ!!」

 

 ドンメルがその場で全身を踏ん張り、体勢を深くする。すると、ボフンという噴火音や黒煙と共に火の玉が背中の穴からどんどんと飛び出てくる。さながら本物の火山の噴火のようだ。火山弾のようなドンメルの【ふんえん】がこちら側の辺り一帯を燃やし尽くそうとしてくるが、残念。そこにはもう網代笠はいないんだ。

 

 網代笠は基本的に接近戦を好む。御神木様のように守りを主にしている訳ではないからな。フォワードがディフェンダーと一緒の場所にいるはずもない。だから、こっち側でのこっている3体は全て【かげぶんしん】だ。見えている中に本物がいるという思い込みは足元を救われる原因である。

 

 ――――前提として、苦手なタイプだから相手は突っ込んで来ないだなんて、そんなこと思っちゃあダメでしょう!

 

 いつの間にか網代笠がドンメルの真横に近づいていたらしく、2m程の岩の陰にある宿り木の中に隠れながら奇襲のタイミングを伺っているようだ。しかも微妙に焼けている宿り木の中に紛れ込むのがまたいやらしい。距離は直線距離でおよそ10mといったところか。この手の移動が早いのは体捌きとルートを選択する目がいいからだろうな。

 

「もう一度【ふんえん】で残りの【かげぶんしん】と一緒に本体を焼いて!」

 

「メルッルゥ!」

 

 もう一度ドンメルがその場で全身を踏ん張り、体勢を深くする。踏ん張るということはその場ですぐに放てないということだ! ならば今が好機! 左脇腹がガラ空きだぞ!

 

「突っ込め網代笠!」

 

「キノコココココォッ!」

 

 宿り木の中から飛び出てきた網代笠が地面を蹴って、一気に距離を縮めてゆく。飛び出てきた瞬間、アスナさんも気がついたらしい。しかし既に網代笠とドンメルの距離はおよそ残り6mを切っていた。

 

「ドンメル! 右に避けて!」

 

 驚愕の表情をしているドンメルが慌てて体勢を崩して逃げようとする。だがそれは悪手だぜ!

 

 ――――チェックメイトだ。

 

「横っ腹にぶっぱなせ!」

 

「メr「【タネマシンガン バックショット】!」」

 

 至近距離から射撃されたうえ、ダッシュの踏み込む勢いが足された【タネマシンガン バックショット】がドンメルの左脇腹から胴全体に叩きつけられ、ズドンッと低く体の芯に響くような音が鳴り響く。そしてそんな技を至近距離で受けてしまったドンメルはその衝撃で体が浮き、岩に勢いよく叩きつけられた。

 

 さて、ドンメルのタイプは炎/地面だから草タイプの攻撃によるダメージは等倍のはずだが……まだ動けるかね?

 

「め……メル……メルル」

 

 あの直撃を受けてまだ立ち上がれるのか。頭をふらつかせながらもドンメルは立ち上がろうと必死に足に力を入れているようだ。

 

「……メ……メェルゥ……メ……」

 

 だがそこで気力が切れてしまったらしい。崩れ落ちるようにその場に倒れ伏した」

 

「ドンメル、戦闘不能!」

 

 これで2匹目。あと1~2匹だろうか。

 

「むぅ……完全にペースが乱されて引っかき回されちゃった感じね……なるほどねぇ……ツツジさんの気持ちが理解できたわ。確かにこれは見逃せないよね」

 

 ん? あれ? アスナさんや……なんか不吉なこと言い始めていません?

 

「よし、審判、私はこの時点でバッジや技マシンを挑戦者……あー、キョウヘイさんに渡す事を確約します。その代わり、今から多少私事の混じったバトルとして続けていいかな?」

 

「……挑戦者が同意するのでしたら」

 

 なんだろうか。この流れ以前にも似たようなことが起きたような気がする。いったいどこであったんだっけなー……ジムリーダーの皆さん、負けず嫌いが多すぎませんか?

 

「か、構いませんよ?」

 

「キノコ」

 

 網代笠も問題ないらしい。まぁ網代笠がいいって言うなら問題ないけれどもさ。

 

「よっしゃ」

 

 そんなガッツポーズしなくても。

 

「両者合意の為、只今よりフリーバトルを行います」

 

 アスナさんが先程まで使っていたボールベルトではなく、新たにボールベルトを取り出し始める。そして、その中で一つだけボールの色が異なっているモノを見つけた。見つけてしまった。上部には青い水晶のようなものが4つ付けられていて、地の色はグレー。下部は他のボールと同じように白を基調としている。

 

 もしかしなくてもヘビーボールだろう。確かまだ正式に発売されていなかった筈だ。テスターとしてデボンコーポレーションから貰ったのだろうか?

 

「この子が、わたしと共にキョウヘイさんに挑む相棒さ!」

 

 そう言ってヘビーボールがフィールドに投げられ、中から奴が現れた。まず最初に目に付くのは真っ黒な甲羅。身を隠すことに適した甲羅の所々には穴があり、その内部は高温の燃焼炉のような役割を成している。また甲羅の燃焼炉で石炭を燃やす事で、自身のエネルギーとしているらしい。

 

 そう、あれはコータスだ。陸ガメのような見た目も、その生態の特徴も、コータスそのもののはずだ。自分の目が信じられない。肩に乗っている夕立も興味津々のようで、目をまん丸にして件の見ている。

 

 ソレは木々を焼き、その炭を食らう炎亀――――コータスというにはあまりにも大きすぎ、甲羅もぶ厚く鈍重、そして大雑把すぎる。まさに陸ガメの王であった。

 

「…………デカすぎません?」

 

 大怪獣ガ○ラの親戚か何かかな?

 

「そう? まぁ確かにちょっと他の子よりも大きいけれどさ」

 

「いやいや、いやいやいやいや、それがちょっとなら大体の事柄がちょっとで済むぞ!」

 

 俺が素に戻るレベルである。これはケジメ案件では?

 

 デカイ……目算だが2.5mはありそうだ。確か本来のコータスの大きさってゼニガメと同じで0.5mぐらいだったはず……通常の5倍とか笑うしかない。

 

 目の前で件のデカコータスはのっしのっしとフィールドを歩いている……そして、歩くたびに【ステルスロック】がみしゃりと音を立てて潰されてゆく。どうして自重で潰れないんだよ! いつからジム戦が怪獣退治に変わったんだ?

 

「おい、誰かゴ○ラ呼んで来いよ。誰も呼んでこないなら俺がゴジ○ム君の着ぐるみ着て直接戦う事になるぞ!」

 

「ゴジ……? まぁ図体はデカイけれど、最近捕まえたばかりだから練度自体はかなり低いはずだよ。だから問題ないって」

 

「最近?」

 

「マグマ団のアジト周辺でね。こうなちゃった子をそのままにするのもどうかと思って連れてきたんだ」

 

 ……ああ、なるほど。大体流れを把握したぞ。要は実験動物ないしは実験の余波で変化してしまったポケモンということか。ここまでデカイと餌の量とてバカにならないだろう。下手に野生に流したら生態系崩壊の可能性もありえたから引き取ったと。

 

「……本当にアイツ等ロクなことしねぇな、おい」

 

「察してもらって悪いんだけれども、そんな感じだからさ。こういう時でもないとこの子を運動させられないのよね」

 

 そう言われて目線を少しだけ下に向けると、むふーと白煙を鼻と背中から吐き出す。クソッつぶらな瞳が可愛いじゃねーか!

 

「畜生め! やってやる、やってやるぞ! 網代笠、目の前のノッポに立体機動で攻撃することで敗北の二文字を刻み込むんだ!」

 

「キノ!?」

 

 頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る。御神木様だって頑張ったんだから!

 

 こうしてまさかの番外試合が始まった。

 




ヘタなトレーナーと戦わせると、対戦相手のポケモンが事故る可能性が出てくるという理由で通常戦闘をほとんど見学するだけだったコータス。ようやく戦闘の機会が巡ってきたため、本ポケも白煙を出して喜んでいるようです。

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