カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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~~買い物~~

 

「お買い上げありがとうございました」

 

 さて、フレンドリーショップで50個ほどモンスターボールを買ったし、これだけあれば十分に開ける手順を覚えられるだろう。

 

「次はどうするの?」

 

「そうだな……ついでだし、砂漠横断用の食料も確認しておこう。とりあえず市場価格を確認する所からだな」

 

 旅用の缶詰が売っている店に入り、値段を確認しながら商品棚を転々と歩いてゆく。

 

「あ、この牛肉のしぐれ煮美味しいって評判のやつだ!」

 

 そのままアレも美味しそうコレもいいなぁ……なんて言いながら店の奥側へ行ってしまった。

 

 先ほどハルカが評判だと言っていた牛肉のしぐれ煮を手に取って値段を見てみるが、やはり向こうより断然安い……はずなのだが、最近の物価の影響か値札が張り替えられており少々値上がりしたようだ。これで高くなってしまったと思えてしまう辺り、俺もだいぶ毒されてきているな。気をつけねば。

 

 ふと、視界の中に1号缶で他よりも値段が安い缶詰を発見した。これで一食分! 総合具沢山シチューか……手に取って主要原料を眺めてみる。

 

「それあんまり評判良くないみたいかも」

 

 目ざといじゃあないか。いつから俺を監視していたんだ?

 

「それを買うならこっちのチキンシチューの方がいいよ。食べたことあるから胸を張っておすすめできるし」

 

 本当に胸を張らなくてもいいぞ。こいつも大きさは1号缶ほどで、内容量 : 134g/缶、標準食数 : 約2.5食/缶。味に関してはハルカが押すのだから問題ないだろう。問題があるとするのならそれは値段だ。

 

 裏返して値段を見てみる。1缶辺り1200円ととてもリーズナブルなお値段で、6缶セットのものを買うと5000円にまで下がるらしい。向こうだとありえない値段だろう。おそらくは1缶で2500円程度はするはず……だがここですぐに飛びつく訳にはいかない。

 

 今回の大まかな必要量を計算してみる。遺跡の場所まで行くとすると前回の砂漠横断の経験から考えて、フエンタウン発でだいたい往復で30日ぐらい。その後、そのままの足取りで幻影の塔へ向かうのが……すぐに見つかるとも限らないしこれは7日程と予想しておこう。あとは一応何かあったとき用に予備の食料を10日分。

 

 真夏の砂漠を砂嵐の中横断すると体力も相当消費するだろうからカロリー摂取のために一日4食として、これらを単純計算で出すと一人当たり188食分は最低でも確保しなければならない。これが人間2人とポケモン8匹で計10だから1880食。となると1回の食事で4缶づつ消費か。ハルカとゴンベには節制を心がけてもらおう。ゴンベはともかくハルカがなぁ……

 

 この缶を買うとしたら752缶必要だから、いかにまとめ買いして割引を譲歩させるかが重要だ。それに同じ味だと不満も出るだろうから違うバリエーションのモノも混ぜる必要がある。製造会社が近ければ直接交渉に行くのだが……

 

 ハルカの方をちらりと見ると、猫のように口を歪ませた笑顔をしていた。早く決めろってか?

 

「……これ作っている会社ってどこに本社があるか知っているか?」

 

「えっと……確かカイナシティだったかも」

 

 流石に遠すぎるな。通販はしていないのかねぇ?

 

「とりあえず、一度戻って通信販売しているかどうか調べてみるか」

 

「わかった!」

 

 とりあえずは納得してやろうと満足そうに頷いている。そんなに前回の横断の時に食べた干し肉が嫌だったのかね……まぁ俺も正直ハズレを引いたと思ったけどさ。

 

 買うときに思い出の塩味なんてとても面白そうで惹かれる商品名を見つけてしまったんだ。仕方がないじゃあないか。ペ○シ系列と同じような匂いがしたので、俺のチャレンジャー精神が疼いたんだよ。それにしても商品名は素晴らしかったのになんであんな味になってしまったんだろう。塩辛い味付けという予想をしていたのに、しょっぱいはしょっぱいでもあんな味だと悲しいの方の意味だろう。なんで飯食って悲しみの帯びた思い出を彷彿とさせられなければならないのさ。お前にはしょっぱい思い出しかないってか! 

 

 絶対にもうあそこの干し肉はもう買わない! …………たぶん! いや、おそらく。きっと。思いたい。思おう!

 

 マスクの大国にはなんであんなに俺好みの珍妙なものまで取り揃えているんだ…………あ、そういえば、マスクの王国でも細々とだが缶詰を売っていたよな。一応部屋に戻った時にカタログを確認すべきだろう。もし缶詰作っている会社が通信販売していなかったら、その時は電話でマスターに無茶振りしてみようかね。まぁ、それでダメならこの店で話し合って直接注文してもらおう。

 

 ついでに、水も前回使ったタンクだけでは足りなさそうだからあと5……いや、7つは追加で欲しい。

 

 ……この際だから今まで使っていたのは一つを残し、他全てを売りに出して5000ℓ級の大型タンクを用意するか? ダイゴさんからは十分前金を貰っておいたし、こっちの物価でならこれぐらい缶詰諸共買えなくもない。それにしても水5000ℓを持ち運ぼうとするとか頭おかしいんじゃないの? と言われてもなんとも言えん。最早水槽車か何かだろう。

 

 デボンコーポレーション製バックパック様々である。これがなかったら正直行く気がしない。

 

 さて、そうなってくると問題はどうやってバックパックの中に入れるかだが……後でデボンコーポレーションに問い合わせしてみるか。大型タンク自体は売っていたはずだし、デボンコーポレーションで詰め込んでもらえれば、おそらくやりようはある……はず?

 

 この休みの間に全て準備を終わらせておかないとな。やり残す事は許されない。今のように時間がある間にあのファイルも書ききらないと……

 

 

~~モンスターボールの解体~~

 

 目の前のテーブルに置かれている25個の新品モンスターボール。これらをどう弄ってやろうか……お前の秘密全てをさらけ出させてやろうじゃあないか! ぐへへへへへ。小さくなったって逃がしてやらんぞぐへへへへ。

 

「さて、とうとうこの時間がやってまいりました。長らく疑問とされていたモンスターボールについて我々が解明していきたいと思います」

 

 長年の疑問の解消…………そりゃあテンションも上がるというものだ。

 

「……キョウヘイ先生、テーブルの前で何やっているのさ?」

 

 ハルカから凄く残念そうな視線を向けられる。

 

「声明って大事だと思うんだ」

 

 ただ問題があるとするならば俺がそっち関係の知識がないせいで、どのパーツが何の機能を果たしているのかわからないという点だろう。要は上部を分解して、ポケモンが出て来る以外のわかっていなかった機能について調べられる絶好の状態なのに、知識不足のせいで調べられない悲しみを他にぶつけたいのだ。

 

 直接聞いたら企業秘密って言われちゃったしなぁ……あの時は結局アイディアだけ奪われてしまって、泣く泣く周囲のトレーナーを倒してからポケモンセンターに帰ったんだぞ!

 

「そういうのはいいから新聞紙敷くの手伝ってよ」

 

 ハルカの声を聞き流しながら自分の体にモンスターボールをぶつけてみる。

 

 5秒ほど経ったが何も変化は起きない……やはり人間には反応しないらしい。とりあえず5回ほど繰り返してみたが、やはり反応しない。

 

「そんなことよりハルカー野球しようぜー! ボールはコイツな!」

 

 そう言ってから、今度はハルカにモンスターボールを下投げで軽く投げつけてみる。こつんと腰辺りにモンスターボールが当たるが、やはり赤い線は出ずにそのまま地面に落下した。おにぎりやポケモンには反応する割に人には反応しない……どうやってその微妙な加減を認識しているんだろうか。

 

 そういえば昔、モンスターボールは人に反応せずにモノに反応する。ならば人に当てれば服だけゲットできるんじゃ!? なんて言っていた奴がいたなぁ……君の儚い夢は今破れたよ。

 

 …………そう言えば何かを捕まえる為にモンスターボール投げたの初めてだな。

 

「まぁそうなるよねー」

 

「あ゛?」

 

「うっす。あ、あとは全部俺がやりますんでハルカ先輩は座っていていいっすよ!」

 

 そんな冷たい目で見ないでくれ。照れるじゃあないか。

 

 冷たい目で見られながら下に新聞紙を敷いてゆく。油が飛んでシミになりましたなんてことになったら笑うに笑えん。新聞紙を敷き終えたあとはマイナスドライバーを用意して準備完了だ

 

「さて、始めるか」

 

「はーい。まずはどうするの?」

 

 確認のためもう一度送られてきた資料に目を通す。

 

「まずはボール上部、まぁ赤いところだな。これを外すためにボタンの上にある部分にマイナスドライバーを突っ込む。その際に力みすぎて自分の手に刺さらないようにな。あ、中央のボタンは押しながららしい。ボタンの機能が生きている状態だと上の赤い部分が外れないんだと」

 

 要は中央のボタンが壊れているか否かで基本的にポケモンが出てこれるかが決まっていると。結構この辺は単純な作りなのかもしれない。まぁ安さの分かね?

 

「これボタンが生きているのにポケモンが出せない場合はどうするの?」

 

「ボタンの下部分にある小さな隙間にマイナスドライバー突っ込んでボタンを引っぺがすらしい」

 

 試しに一つ手に持って中央ボタンの隙間にマイナスドライバーを突っ込むとテコの原理で簡単に外れた。案外壊れやすいのかもしれない。今後の取り扱いに注意である。

 

「あ、結構力いらないかも」

 

「その次はボタンを外した空間の右奥に、ボタン電池があるからそれをつついて外す」

 

 コレボタン電池で動いていたの!? こんな多機能なのに? いや、待て。このボタン電池が向こうバッテリーよりも高性能な可能性だってある。油断はできない。

 

 とりあえず指示通りにドライバーを突っ込んでつつく。今更だがこのドライバーを突っ込んでいる部分ってポケモンがいる空間とは別なのか?

 

「ん~……これ外れているかどうかの判断がしづらいね」

 

「慣れるしかないだろうな。次にようやくボール上部の赤いところを外す。外し方はボールの中央をぐるりと一周している黒い凹んだ部分に、下からマイナスドライバーを差し込むらしい」

 

 差し込んで少し力を入れるとピンッと音を立てて赤い部分が跳ねた。内部にはゆるやかなお椀状に出っ張ったメカメカしい装置が所狭しと並べられている。開閉のための蝶番の固定ネジもここに収納されていた。外装外しただけでだいぶ印象が変化するなぁ。

 

 その中に先ほどつついて外したボタン電池を発見した。こうなっているのか。そんなことを思っていると、ハルカの方からカコンッという音が聞こえてきた。どうやら勢い余って外装の赤い部分を天井にぶつけたらしい。

 

「力入れすぎだな」

 

「だってなかなかドライバーが入らなかったんだもん」

 

 微妙に頬を膨らませているハルカを尻目に作業を続ける。

 

「次は蝶番の部分の後ろにある4つの固定ネジを外し、これが終わったらモンスターボールの前方部分にあるネジを外す。これで外れるはずだ」

 

 カパリと機械類がお椀状になっていた部分が外れ、モンスターボールの中に円錐台型の空洞が現れた。ここが中心部のようなので、おそらくここにポケモンが入るのだろう。しかし、この空間がボールの全てを占めている訳でなないようだ。となるとモンスターボールの下部には何が入っているんだ?

 

「へーモンスターボールの中ってこうなっているんだ」

 

 ハルカが関心したような声をあげるが円錐台型のような空間には特に変わったところもない。どうやってこれでストレスを軽減させているんだろうか? こんな空間では寝るぐらいしか思いつかないぞ。それに時たま呼び出す前に網代笠とかが中から出てくるけれど、その辺りどうやってモンスターボールは感知しているんだ?

 

 これがデボンコーポレーションで現在開発中の、特定のポケモンの為の空間ならば何か他にもあったのかも知れないが。

 

「それにしても、結局マイナスドライバー一本で解体できちゃうんだね」

 

「そのほうが緊急時に楽だからそういう風に作ったんだろうな。慣れれば3分かからずに解体できそうだし」

 

 微妙に不満そうな顔をしている。おそらく思っていたよりも開き方が単純で、ロマンが足りなかったのだろう。

 

 しかし解体時に道具が少なくて済むと言うのは利点だ。しかもマイナスドライバーならネジ穴が潰れることもない。また、量産されているが故に基本的に質は均等だから、扱いづらい物も出てこないだろう。

 

 さて……ここからは俺の疑問を解決する為にモンスターボールを弄りまくろう。まずは……重量を軽減させる装置と、それに伴い慣性を消し去る装置についてだな。いったいどうすればあそこまで物理的影響を消し去ることができるのだろうか? そして、それは簡易的な装置のはずだ。でなければ200円で売れないだろう。あとはボールの下部分も気になる。なにかしらあるはずだ。

 

 ついでにボールの大きさが変化する理由も調べないと……うは、やること多すぎじゃね?

 

 結局、その後色々と実験しながら25個ものモンスターボールを解体したが、主要な問題は何もわからないという悲惨な結果に終わってしまった。

 

「結局キョウヘイ先生が知りたがっていた事は分からずじまいだったね」

 

「……いや、まだだ。まだ終わらんよ! こうなったら踏み潰したりして砕くことで白い下部の中身だけでも確認しよう!」

 

 解体したモンスターボールを踏み潰すと粉々に粉砕され、白い下部からいくつかの装置と共に、プレートを発見した。

 

「……なんだこりゃ」

 

「何か見つけたの?」

 

「変なプレートを発見したわ」

 

 拾って確認してみると、45桁の英数字が打ち込まれていた。

 

「IDか何かだろうけど……45桁とか長すぎじゃないか?」

 

 何の意味があるのだろうか? もしかするとポケモン協会による各ポケモンの認識番号的なやつか、これ。となるとポケモンセンター辺りで、モンスターボール毎にどのトレーナーが所持しているのかを記録させているのかもしれない。あれトレーナーカードの提示が必要だし。

 

 となると、これって交換に出した場合とかはどうなるんだ? ……そういえば機材を通した交換以外今のところ聞いたことがないな。

 

 うーん……盗まれた時用で考えていいのかねぇ……変なことに使われる番号じゃあなければいいんだが。

 

 

 

~~網代笠って自分の【しびれごな】で痺れないの?~~

 

 縁側に設置した3つの金ダライで足水を楽しみながら日向ぼっこをしている網代笠、大賀、御神木様の草ポケモン三匹衆を眺めつつ、膝に夕立を乗せてスクラップブックに新聞記事を切り取った情報を貼り付けてゆく。

 

 もう真夏日なのによくもまぁあんな風に日に当たれると思う。草ポケモンパないな。それが葉緑体の恩恵か。そういえば、最近になってからこういうよく晴れた日に大賀が日光に当たり続けていると、大賀の頭の葉っぱが色鮮やかになっていく気がするが、気のせいだろうか?

 

「その水どこから持ってきたのさ」

 

 先ほど俺がせっせと持ってきた水が気になったらしい。ハルカの方へ顔を向けると、既に課題をやり終えたらしくテーブルに肘をつけながら網代笠達を眺めていた。ワカシャモ達は奥でお昼寝のようだ。訓練のない日はこう……凄くまったりとした時間が流れるな。

 

「あの足水は、老舗旅館の裏手に設置されていた井戸の水でな、とても澄んでいて大賀が認めるほどの名水だぞ? あの3匹が干からびたときの対策として持ってきたんだ」

 

 そしてそこに備え付けの冷蔵庫でよく冷やされた地酒の清酒を、大賀が升でぐいっと飲むことでいい気分を倍プッシュさせている。あの清酒も清酒で少し前に買っておいたやつなのだが、甘口で香りとコクが口いっぱいに広がる上物である。大賀に買うならこれにしろと酒蔵で散々押されたのだ。

 

 辛口甘口で選んでいるわけではないようだから、選ぶ基準は使われている水だろうか? それでも質の良い物を引き当てられるのだから凄まじい選水眼である。一応升も3匹分用意したのだが、御神木様はちょろっと飲むことがあっても網代笠は全然飲もうとしない。そういえば網代笠が酒を飲んでいるのは見たことがないな……やはり本能的にわかっているのか?

 

 上から見下ろす形で自然を眺めながら気持ちよく清酒を飲んでいるせいか、心なしか大賀の顔が赤くなってきている気がする。まったくもって贅沢な午後の過ごし方だな、おい。

 

 まぁそれだけの働きはしていたと思うから口には出さないが。

 

 窓のすぐ近くに吊るされている風鈴が体をちりんと鳴らし、風が来たことを教えてくれている。少し乾いている風が心地よい。

 

 きょうはなんにもないすばらしい一日だった。偶にはこういう日もあってもいいだろう。

 

「……ずっと疑問に思っていたんだけれどさ」

 

「ん? いきなりどうした?」

 

「網代笠の戦闘手段に【しびれごな】を自分の周囲にばら撒いて相手を近づけさせなくするっていうのをやっているけどさ、アレって最初にやったときは網代笠が痺れるとは思わなかったの?」

 

 あー……あれか。忍法痺れ分身の術のことか。当初の目的とはだいぶ外れたんだよなぁ……

 

「そもそもアレの最初の目的は、網代笠自身に【しびれごな】を当てることだったんだ」

 

「え、そうなの?」

 

 まったくもって原型留めていないけどな!

 

「うむ。網代笠の特性:早足を活かすために自分から麻痺になろうとしたんだが……できなかったんだよ」

 

 あの時の網代笠からの次どうするのさ? という期待の目……別段次のことを考えていなかったから心にざっくりと突き刺さったんや……

 

 しかも、丁度御神木様が色々とコンボ技を練習し始めている時期でなぁ……結局、網代笠が直々に【しびれごな】からの【かげぶんしん】という組み合わせの忍法痺れ分身の術を開発した。

 

「あれ? そうなると網代笠の特性:早足って麻痺と関係あるの? てっきり道案内が上手くなるような特性なんだと思ってたかも」

 

 それはひょっとしてギャグで言っているのか? まぁ確かに網代笠に道案内をさせまくったせいか、現在ナビゲートが凄く上手くなってきていたりするが。

 

「それは単純に俺が道案内役で連れ回しているイメージが強すぎるだけだな」

 

 基本、網代笠は先頭というか出しっぱなしだしなぁ。道中で先にポケモンだとかトレーナーだとかを見つけてくれるから凄く重宝している。進化したらこの能力がなくなってしまうというのがとても残念でならない。

 

「とりあえず説明すると、だ。特性:早足は麻痺状態になると素早さが1.5倍になる上、麻痺の基本効果である機動力0.25倍を受け付けなくなる。これはとても重要な情報だ」

 

「んー、麻痺にはかかっているんだよね?」

 

「おう」

 

 でないと特性の効果が切れるからな。

 

「ということは動きが早くなるだけでなく火傷とか眠り状態にならなくなるってこと?」

 

「そういうことだな」

 

 Exactly.(そのとおりでございます。)

 

「凄まじい特性かも!」

 

 目をしいたけのように煌めかせているハルカ。そうだよなぁ。今の言葉を額面通りに受け止めたらそうなるよなぁ。

 

「まぁ良い所だけ挙げたらそうなる。最大の問題点は麻痺による行動不能が普通に起こることと、特性を変える技が当たった瞬間に素早さが1/6まで落ちることだ」

 

「…………それはそれでロマン性能だね」

 

 一瞬で異なる方向性の目に変わってしまう。いやね、確かに多少痺れるとは言え遅くならずにむしろ早くなるってなかなか使い勝手いいからな。リングマとかこの特性を上手く使って、【からげんき】の威力を上げながら素早さを上げることができるから、意外と大暴れしていたりもする。

 

「そこは指示だとかでどうにかできないかなと。まぁ、とりあえずそんな特性:早足を活かす為に、網代笠が自分ごと巻き込むように周囲に【しびれごな】をばら蒔くなんて方法を思いついたんだ」

 

 自分を麻痺させる道具なんて持っていないし。

 

「なるほど」

 

「それで試してみた結果、網代笠は自分の【しびれごな】では麻痺にならなくて、特性:早足が発揮されないという結果が出てしまってな。その経験を網代笠が活かした結果、生まれたのは今のあの技な訳だ」

 

 まぁ網代笠の場合それだけじゃあないんだがね。この説明をすると、一瞬ハルカが遠い目をした後にうんうん頷き始めた。

 

「……あー、思い返してみればそうかもだね」

 

 何かに気がついたらしい。

 

「ん? 何か似たような経験あったか?」

 

 そんな経験していた記憶は網代笠以外ではないんだけど?

 

「トウカの森、もとい眠りの森でさ? あれだけ【キノコのほうし】が降りしきる森の中でキノココやキノガッサ達は普通に動き回っていたじゃない? あれは自分達の技だから効かなかったのかなと思って」

 

「…………それに近い……かな」

 

 アレの手がかりを思い出してしまったのか。ちらりと網代笠の方へ視線を飛ばしてみるが、気持ちよさそうに金タライの中で座っていた。どうやら聞こえていないらしい。

 

「なぁ、ハルカ」

 

 今後のために、ハルカにも知ってもらっておいた方がいいだろう。

 

「どうしたの?」

 

 ハルカがきょとんとした表情をしている。

 

「今、自分で言ったことで、不思議に思うところはなかったか?」

 

「んむぅ? …………あれ? 自分のじゃあない【キノコのほうし】を常時吸っていたのにキノココやキノガッサ達が動き回ってること?」

 

 一歩真実に近づいたな。そう、俺はあの時XYをやったことがあったせいで別段違和感がなかったんだよなぁ……後々気がついて愕然としたものだ。大賀や御神木様、ハルカのワカシャモやガーディはボールから出てきても短時間で、かなり少量しか吸わなかったから問題なかったのだろう。だがあそこに住んでいた網代笠は違う。常時それを吸っていたはずだ。

 

「一応釘を刺しておくが、状態変化技を跳ね返されたら自分の出した技でも状態異常になったりするからな?」

 

 だから特性:マジックコート持ちのエーフィーとかは補助技使いからすると恐ろしい相手なんだぜ。フィールドを先に整える俺達からすると、とても厄介な相手だ。

 

「え? そうなの? ならなんで網代笠は……」

 

 話している途中で悪いが遮らせてもらう。

 

「まぁ、待て。そんなに答えを急ぐんじゃあない。物事には順番というものがあってだな? 次にハルカはあの眠りの森の主がどんなだったか覚えているか?」

 

 さっきの言葉で拗ねたのか、微妙に納得いかなそうな表情に変化する。

 

「それは結構衝撃的だったからまだしっかりと覚えてる。怪電波によって突然変異を起こした頭の笠が緑とオレンジの斑模様で、全体的にとても濃いオレンジ色をしているキノガッサでしょ?」

 

「その情報とさっきのハルカの疑問が繋がっているんだ」

 

「………………まさか」

 

 少しの沈黙の後、僅かに表情が強張った。答えに至ったらしい。

 

「いやはや、あの森で一度キノココ達に向かって【れいとうビーム】で凍らせたり、【しびれごな】ばら撒いたことがあったけどさ、あれかなり運が良かったみたい」

 

 御神木様のご利益だったのかもな。そう言いながら件のレポートをファイルから取り出してハルカに差し出すと、無言のまま勢いよくひったくられた。そして2ページ、3ページとなかなかの勢いで読み進めてゆくと、次第に手が震え出す。

 

「なんですかこれ……」

 

「眠りの森で捕獲されたキノココ及びキノガッサの血液、細胞性パッチテストの結果と考察かな」

 

 実験の結果、まったくもってロクでもない記録が取れた訳だ。しかも結果が本当かどうかの裏付け実験もしっかりととってあるようだ。流石プロだ。

 

「資料を見てもらったら分かる通り9/10のキノココやキノガッサが毒、眠り、麻痺、火傷、氷、混乱等の状態異常に対して耐性があることを示している。残りの1/10は耐性はなく一部体が奇形化しているモノもいたようだ。あそこで行われていた怪電波による実験は、状態異常に対する耐性を後天的に埋め込むことじゃあないかと筆者に考察されているな。俺も資料を読む限りそれに近い気はしている」

 

 もしかしたら弱点タイプすらも弄って消そうとしたんじゃあないだろうか? むしろそっちがメインでコレは副産物なのかもしれない。

 

 あとは……そう――――――瀕死にならないポケモンでも作り出そうとしたか。死ぬ直前までまるで攻撃が効いていないかのように動き、戦闘を続けるポケモン。そんなモノが生まれようものならなんと恐ろしく、おぞましい事になるだろう。となると、こういう研究を行うのはアクア団ではなくポケモンを道具として見ているマグマ団だろうと推測出来る訳だ。

 

 確かに道具は高性能な方が便利だもんな。ついでに出来立ての頃のモノは簡単に消耗されていってしまうとしても、少しでも長持ちしたら勝手に色々な効率が良くなってゆく夢のような道具だ。しかも大量生産も出来るのだとすると安く済ませられるだろうし。

 

「そんな……ポケモンをなんだと思って…………あ、待って。まさか……網代笠も?」

 

「網代笠もあの眠りの森に居たからな。この資料が届いた時点で一応採血したものを送って検査してもらった」

 

「……結果は?」

 

「――――――●判定だ。耐性があった」

 

 その言葉を聞いて、ハルカの表情が曇る。

 

 まぁ、だからコータスの【オーバーヒート】を受けても体に焦げ一つ出来ず、こんがり程度で済んだのだが。

 

「それで、これはおそらく……なんだがな」

 

 ここからは俺の想像だ。

 

「うん」

 

「網代笠は本能的に自分のその特異性を理解しているんじゃあないかと俺は思っているんだ」

 

「……どうして?」

 

 ハルカが一瞬目を丸くしたが、すぐに表情が戻ってきた。

 

「そうでもないと、戸惑いも、ビビリもせずに自分で自分に状態異常攻撃を仕掛けないだろう。嫌々その命令に従っているのなら、その後も勝手に自主練なんてしない」

 

 決して網代笠に恐れという感情がないわけではない。現に高レベルの炎タイプと戦う時は時たま足が竦む時があるようだし、ケントさんのカブトプスの【いあいぎり】にもビビってた。

 

 しかし状態異常技の実験の時はそれが一切なかったのだ。今のところ俺はその辺りのことを強要してきたことはないし、本気で嫌がるのなら他の手を考える。それなのに自分を攻撃しろと言われて戸惑いも、拒否することすらせずに実行できるというのはおかしいだろう。

 

 ならばそこに理由があるはずだ。

 

 その答えとして俺は、魚が水を恐れないように、鳥が高所を飛ぶことを恐れないように、網代笠にとって状態異常を引き起こす技は危険ではないと本能的に理解しているのではないか? という結論に至った。

 

 状態異常にならないから酔うこともできない……だからアルコールなどにも興味を示さないのだろう。もしかするとただ単純に味が苦手なだけかもしれないが。

 

「網代笠が、その行為は自分にとって別段害がないと認識していたと?」

 

「そんな気はしている」

 

「それで……どうするの?」

 

「どうするって?」

 

「網代笠のこと! 体の治療に専念させるとかはしないの?」

 

 治療、治療ねぇ……それは本当に必要なことなのだろうか……

 

「どうもしないさ。今まで通り、なるべく網代笠の希望に沿えるように育てていく。網代笠がこれを自らの強みとして認めている以上、俺に出来ることはそれを最大限活かせる場を整えてやる事だ」

 

 認めているから、あの【しびれごな】+【かげぶんしん】という技を作ったのだと思う。そして、それは網代笠が自分を活かす為に自力で到達した答えだ。

 

「あいつらが自分で道を選ぶなら、俺はそのスタンスを変えさせるつもりはないよ。だから……」

 

 続きの言葉がこぼれ落ちそうになって慌てて口を閉じる。

 

「……だから?」

 

 しっかりと聞こえていたらしい。真正面から言える訳ないじゃないか。

 

「……何かあったとき、俺が近くに居なかったら網代笠達に手を貸してやってほしいんだ」

 

「――――うん! まかせて!」

 

 さっきまでの暗く陰鬱とした雰囲気を吹き飛ばすように笑顔が咲く。その笑顔に対して、今の俺はフクロウマスクの下でどんな顔をしているのだろう?

 

 

 

~~2009年8月19日のホウエン新聞 崩落事故の続報~~

 

 134番水道で15日に起きた崩落事故で新たな展開を見せ始めている。2日開けた今日、新たな情報がラトリクス博士が所属している研究所から発表された。新しく発表された情報によると、そもそも古代遺跡を発見したのは流星の民と呼ばれる一族であり、その流星の民からの協力のもと、今回の古代遺跡の調査が実現されたようだ。また、数人がラトリクス博士率いる遺跡調査団に合流していたようで、流星の民から調査団へ合流した正確な人数などは分かっておらず、遺跡調査団に元々所属していた者も未だに発見されていない。ポケモン海上救護班は100人規模の捜索から200人規模への拡大が決定された。急な海流の中、今も懸命な救助が行われ続けている。

 

 今回新たな被害者として名前の出てきた流星の民とは、ハジツゲタウンより西に進んだ先にある湖や山壁を越え、山々に囲まれたクレーターのような場所で古くから生活しているドラゴン使いの一族で、流星の滝を通り抜けることで近くの町と今も交流が行われている。また、多くの古代文書などを保護、管理してきた一族であり、流星の民という単語がとても古い公文書に名前が乗っているほど。現在でも古代文化の発見に尽力しており、今回の調査先について共同での調査を依頼していたようだ。また、その活動からラトリクス博士個人とも面識があったと考えられる。

 

 


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