カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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~~情報交換のついでに皆にマスクを被せよう~~

 

 部屋を三三七拍子でテンポよくノックすると、中から浴衣を着たダイゴさんがにゅるりと現れた。目が何しに来たのと物語っている。

 

「と、いう訳で本日は皆さんにマスクの良さを広めようと思いこの場を貸し切らせていただきました」

 

 宿にお金払っているのはダイゴさんだがな!

 

「……君はいったい何を言っているんだ?」

 

「まぁ、キョウヘイ先生ですし。わたしも部屋で寝っ転がっていたのにとりあえずで連れてこられましたから」

 

 うーん、この扱い。ダイゴさんも微妙に不機嫌そうだ。

 

「やだなー、さっきバーで、チェス打ち終わった後に色々と持って部屋にお邪魔するってお手紙送ったじゃないですかー」

 

 到着5分前に。中居さん経由で届いてない?

 

「…………とりあえず中へ」

 

「いやっほい!」

 

「お邪魔します」

 

 張り切って中へ入るとメタグロスが部屋の中央で鎮座していて、その周りには布や油、コンパウンドが綺麗に並べられていた。丁度磨いている時間だったのかもしれない。ダイゴさんが微妙に不機嫌そうなのはそのせいか。楽しみを邪魔しちゃってすみませんね。

 

 一瞬、メタグロスと目が合う。それなりに早めに伝える必要がある事柄だから急な行動も許してくれという意思を込めて軽く会釈をする。今回はおまけの差し入れもしようじゃあないか。

 

「それで? 要件はなんだい?」

 

 おおう、単刀直入ですな。

 

「いやね、以前からオススメだったマスクが入手出来たからおすそ分けにやってきたついでに――――そろそろ偶々ここで会った体を続けるのが難しくなったということを伝えようと思って」

 

 どうせ相手方がマリンホエルオー号辺りで一度知り合っているみたいな情報を手に入れたのだろう。あと、シダケタウンの騒動についての情報もそろそろを集め終わっていておかしくない。一般トレーナーが謎の大火傷をしたら、襲撃を阻止したばかりのチャンピオンが何故か駆けつけたのだ。しかも大火傷して、全治数ヶ月はかかるであろう人が何故か自由に歩き回っている。

 

 となると、必然的に俺の方へ目が向くよな。

 

「…………なるほどね」

 

 微妙な間のあとに合点がいったようだ。ダイゴさんの顔つきが変わった。

 

「これ以降は普通に接していても問題ないと思うね。どうせあの最初の1回だけの為の演技だったし、いずれバレることもお互い想定済みだろう?」

 

 あれだけで都合よく騙せるなんざ最初から期待していない。

 

「確かにそろそろとは思っていたけれども、そっちで何かしらのアクションが?」

 

「おう。とは言っても単純にこっちに酒を差し出してチェスをする相手が増えただけなんだがね」

 

 思いの他バーでチェス挑んでくる人が多くなってきたのがおにいさんびっくりです。終わった瞬間に次の対局と共にアルコール度数の高い酒持って来るんだもんな。色々と判り易すぎるだろう? 

 

 どんな思案を持っているかは知らんが、バーで飲みながらチェス打ってるだけの若造が何かしらの情報を持っているなんて思うなよ。あと酒飲みながらやっているからって情報落とすなんてヘマやらかすか。何が悲しくて男とレディキラーを呑まなきゃならんのだ。

 

 まぁ、大方本命は別に居て、あれは使い捨て要員かね?

 

「そうか…………近くに誰かいるか?」

 

 ダイゴさんがメタグロスの方に目を向けて聞くと、脳内に『いない』という電子音声のようなものが流れた。おそらく念波で近くに誰か、或いは何かがいるか把握しているのだろう。これがメタグロスの力の一端か。

 

「ここらがフリーとなると……」

 

「来るのは俺だろう」

 

 まぁ当然と言えば当然だよな。難易度の桁が違うし、ついでにチャンピオンとは別方向で最後までネタたっぷりだもん。

 

「シダケタウンの時の手を誤ったね。僕がもう少し冷静な対応をしていればもう少し隠密に出来たのだけれども」

 

 悔しそうな顔をしていらっしゃる。

 

「そいつは無理だろう。あの時は俺が騒ぎの元凶であり、送り火山襲撃という事件が重なった結果だ。電話回線だけでの情報交換は難しいし、アレはアレで俺にとって貴重な情報源となったんだ。それよりも次回に繋げるべきだな」

 

 次となると、遺跡で拾うものの受け渡しとかだろう。石版だとか、化石だとか。

 

「これ以上目立たなくさせるのは不可能だろうから、場合によっては隠れながらの行動になるかもな」

 

 具体的にはゲリラ的活動に近くなる。

 

「あれ? そうなるとご飯はどうするの?」

 

 今まで黙ってメタグロスを触っていたハルカが話に食いついてきた。

 

「そうだなぁ……意外と堂々としていればバレることもないんだけれども、宿はやめたほうがいいから街の外で秘密基地暮らしかね。ポケモン協会側がどうなのかによって変わってくるんだが、その辺どうなんです?」

 

 ポケモン協会が特定のトレーナーを探して動いている原因は攫う為なのか、それとも別の何かなのか。後者ならまだ街へ入って出歩ける。前者は……状況によってはハルカをダイゴさんにまかせて俺は雲隠れだな。

 

「あれから色々な伝手を使って調べてみたんだが、どうも本格的に行方不明者の捜索に当たっているみたいなんだ。例の特定のトレーナーというのは高練度のエスパータイプのポケモンと共に行動しているトレーナーの事のようで、それが失踪者の共通点らしい」

 

 ふむ、ポケモン協会が真面目に行方不明者の捜索を当たっているとなると、俺達はポケモンセンター縛りにならなくて済むわけだから食費を減らせるな。それに、その条件だと俺達よりもダイゴさんが狙われる可能性が高い訳か……

 

「……へぇ? となると失踪事件はポケモン協会ではなくアクア団かマグマ団――――或いは他の第3勢力の仕業だと?」

 

 ここに来てまた変なのが増えるのか。高練度のエスパー使い……それだけを攫う理由はなんだ? そう言えば、ハルカが宗教団体(プラズマ団)を見かけたと言っていたが……ソレか?

 

「関係あるのかわからないけれど、こっちでプラズマ団が活動していたのをハルカが見つけて……というか絡まれたらしいけども、ソレかね?」

 

「プラズマ団?」

 

 プラズマ団という単語を挙げてみたがどうにもピンと来ないようだ。

 

「ん、あれ? ダイゴさんも知らないのか。ということはアレはこっちに来たばかり? ずいぶんとまぁ仕事熱心なことで…………その辺りは後で考えるか。プラズマ団はポケモン開放を謳う宗教団体兼犯罪組織で、イッシュ地方で主に活動しているんだ。組織としてはかなり大型……なんだけれども、情報を集めてみた限りこっちではあんまり話を聞かないな」

 

 そう言いながら以前スクラップブックに集めたプラズマ団の情報が纏められているページを開いてダイゴさんに見せる。

 

「うーん………………ダメだ、やっぱり記憶にない。宗教組織は僕の管轄外というのもあるけれど、ホウエン地方で暴れていないのなら情報がこっちにまで流れてこないんだ。それで、その組織が攫っている可能性があると?」

 

 ペラペラと何度か見直してみたようだけれども、やはり記憶にないらしい。そのままスクラップブックが帰ってきた。

 

 俺の知っている活動内容的には微妙なんだよな。ポケモンを自身の下に集めて、世界を制すみたいな感じなんだが……アクア団やマグマ団のように微妙に活動内容が変わっている可能性もある。

 

「微妙だな。俺の知っている活動内容はポケモンの開放なんてのを謳っているが、要は自分達以外にポケモンを操れる存在というのを無くし、一種の特権階級になることで世界を制すことを目指すことだ。その最中で他人がどうなろうと知ったこっちゃあないって感じだな。しかし、変に目立つ行動を嫌う節があるから、人を攫うぐらいなら教義や心に囁くことによって洗脳した方がプラズマ団的には早いし足もつかない」

 

「あんまり人を攫うメリットがない組織だという事か」

 

「ですな。ただ、高練度のエスパーポケモンを使って洗脳することができれば、かなり使い勝手がいいと思う。でもそれはほかの組織も同じだし、素直にポケモンが言うことを聞くかどうかと言うのも……」

 

 洗脳したつもりが自分が洗脳されてたなんて最大のデメリットにもなりうる。意外と堅実な事を続けるプラズマ団が手を出すかと問われると首を傾けざるを得ない。

 

「なるほど……」

 

 ダイゴさんは顎に手を当てて思案し始めてしまった。

 

「とりあえずこっちから伝えるべき情報は以上か…………あ、そうだ。ダイゴさんって民謡とかの知識ある?」

 

 ハルカが読み進めてみてはいるみたいだけれども、やはりあんまり情報が集まっていないんだよな。だから少しでもハルカの見つけた本についての知識が少し欲しい。

 

「いきなりなんだ? 一応平均より知っている程度の知識ならあるけれども、本格的に知りたいのなら僕よりもアダンさんの方が詳しいだろうね。調べておいてもらおうか?」

 

 どうするか……

 

「ハルカはどうしたい? 見つけたのはハルカだから自分で調べるか、それともアダンさんに調べてもらうか」

 

「んー…………わたし、これは自分で調べてみたいかも」

 

 自力で頑張るか。

 

「ならタイトルで何か知らないかだけ聞いてみてくれないか?」

 

「わかった。どんなタイトルなんだい?」

 

「【天照銀狐】ってタイトルだ。よろしく頼むよ…………さて、難しい話はここまでにして本題であるマスクの話をしようじゃあないか!」

 

 本題に入ろう! 

 

「本日は様々なものを入手してきたんだ! 今までのもの以外にゾウ、クマ、トラ、ライオン等の陸上動物からカモやワシ等の鳥類、カエルやサンショウウオの両生類、トカゲなんかの爬虫類、最後に目玉のタツノオトシゴ風マスクも用意してみたぞ!」

 

 今日、全員を集めて話した前半部の内容なんて飾りだ、飾り! こっちこそが本命だ!

 

「…………キョウヘイ先生ってポケモンについての勉強は出来ているけれども、人間的にバカだと思うの」

 

「……同感だ」

 

 ははははは、まったくの正論言いやがってよ! ならば、今この溢れ出る俺のリビドーはどうやって昇華すればいいと言うんだ!

 

 結局、ダイゴさんにはトラのマスクしか着用させることが出来ずにそのまま退散する羽目となった。

 

 

 

~~模擬戦(バトルロワイヤル)~~

 

「さて、今回のバトルロワイヤル開催に当たって解説を俺、小野原恭平が。実況をオダマキハルカが行います。ハルカさんよろしくお願いします」

 

「よろしくかも! …………終始このノリでやるの?」

 

「もちろんです。プロですから」

 

 隣で意味わからないかもー! と叫んでいるハルカは放っておいて、席を立ってフィールドを再度眺める。あと、既にマイク入っているからな?

 

「そういえばワカシャモ達は出なくてもいいの?」

 

「ん? あー、どうせやるなら俺もワカシャモ達を交えてやりたかったのだけれども、初回からいきなり大規模を行えるほど上手く捌ける自信がなかったから、今回は見学してもらうことにしたんだ」

 

 そもそも上手く機能するかもわからないしな。

 

 以前ケントさんと戦った場所をより大きくして、陥没したようなフィールドに身を隠せるような大きめの岩がいくつも転がっており、中心部には5m程の一番のっぽな岩が静置されている。これのせいで中央部で戦えないのだ。すぐに乱戦にはならないようにとの俺からの配慮でもある。

 

 そんなフィールド中で網代笠、大賀、御神木様がバラバラになるように配置されており、各スタート地点はくじ引きで決めたからどこに誰が居るかはお互い知っていないはずだ。

 

 既に軽い準備体操を終え、全員万端らしい。それを確認してから解説席に戻る。

 

「あと今回、微妙にフィールドから離れているけれどなんで?」

 

「そうしないと何が飛んでくるかわからんからな。とりあえず初回は俺と夕立、ハルカやワカシャモ達は少し離れた簡易テント内で観戦することにした」

 

 この光景はなんとなくだけれども、運動会を彷彿とさせる。

 

 ここ直射日光がない代わりに密度的に暑い! けれどもまだ我慢できるレベルだ。ただ、試合前の大賀に【れいとうビーム】を撃ってもらえばよかったと若干今になって後悔してきている。機械類は大丈夫だろか?

 

「昨日の夜にどこかに電話していたけれど、これの撮影のために態々追加のビデオカメラを借りたの?」

 

「おう、どんな風に動くかわからないからな。格安で4つ程借りてきた。これで元々あったの含めて5つを定点で設置して録画する」

 

 セッティングを終えて、目の前のディスプレイにフィールドの5箇所を見下ろした映像が無事に映り始める。5つのカメラで死角はほとんどなく、それぞれの顔つきまで見える。音声が取れないのが残念だが、これで本当に準備万端だ。

 

 一度席から立ち上がり、テントを出てからフィールドへ向かってメガホン越しにさっき決めたルールの確認を行う。流石にテントの中でやると袋叩きに合いそうだ。

 

「だいたいの準備が整った。これからもう一度ルールの確認をするぞ? 

 

1つ、最後の1匹になるまで戦闘を行う。

2つ、こちらからは指示をしないので、自分の判断で動き、技を出せ。

3つ、持ち物は事前に決めた物だけ。

4つ、戦闘フィールドから出てはいけない。出た場合は即失格である。

5つ、優勝者には商品が贈呈される。

 

何か質問はあるか!」

 

 聞いてみるがどこからも返事が来ない。聞こえているのだろうか?

 

「よし、では…………第1回、小規模バトルロワイヤル! 試合――――開始!」

 

 画面を見ると、網代笠と大賀は一気に走り始めたが、対照的に御神木様はその場で鎧を作成し始める。能動的か受動的かでまず行動が分かれるのが面白いな。しかも――――

 

「あれ? このまま網代笠と大賀が進み続ければ、先にその2匹が鉢合うんじゃない?」

 

「だろうなぁ」

 

 御神木様は本当にこういう時流れを持っているよな。

 

「あと、あれは【ステルスロック 鎧】? なんで【ステルスロック 串刺ノ城】じゃないんだろう? そこんところどうなのさ?」

 

 その御神木様に目を向けるが、外装の鎧のせいで中身が見えない。

 

「たぶんだけれど、あれは【ステルスロック 鎧】じゃあなくて【ステルスロック 鍛造】だな。串刺ノ城は御神木様自身よりも他2匹の方が恩恵を受けやすい。そして、ただの鎧だと大賀の【かわらわり】に叩き割られそうだし、隙を見せたら網代笠の【きあいパンチ】が飛んでくるかもしれない。だから今のうちに積んだのだろう」

 

 そう解説していると、少し場が動いた。網代笠が大賀よりも先に相手を捉えてすぐさま岩陰に隠れたのだ。

 

「網代笠が岩陰に隠れたね。一気に奇襲するのかも?」

 

「だろうな。現状、一番優勢なのは大賀だろうし」

 

 そう言うと、ハルカが目を丸めてこちらを見てきた。

 

「あれ? ここはいつもみたいに御神木様が勝つ的なやつじゃ……そうなるとキョウヘイ先生は誰が勝つと思う?」

 

 なるほど。俺は今回も御神木様押しだと思っていたのか。

 

「ん~状況によるとしか言いようがないな。どいつもこいつも相手に直撃させれば手痛いダメージを与えられる。でも個人的に有利かななんて思っているのは大賀だ」

 

 タイプ相性的に網代笠のメイン技や御神木様のメイン技ではダメージは等倍か半減で喰らいにくい。逆に自身の技は弱点を突ける。速攻をかけるのならかなり有利に立ち回れるだろう。

 

「となると大賀が勝つと予想してる感じかな」

 

「いや、勝ちやすいだけで、一回でも網代笠の【しびれごな】をまともに吸ってしまったらアウト。ついでに積んだ状態の御神木様にダメージ覚悟の【ジャイロボール】で殴り掛かられるのも困る。耐久レースでは一番不利なんだ」

 

「なるほどなぁ。これは意外といい戦闘になりそうかも」

 

 いつもの御神木様による勝ちパターンである【ロックショットガン】のイメージが強すぎるのだろう。あれは岩タイプが弱点のポケモンが俺の周りに多過ぎるだけで、愛用はしているが執着した覚えはないぞ?

 

 そんな会話が流れているなんて知らずに、大賀が網代笠の隠れた岩に走り寄ってゆく。

 

「あと15m……10……そろそろかも!」

 

 さて、網代笠はどう動くか。

 

 残り8m、まだ網代笠は動かない。もう少し引き付けるらしい。

 

 残り5m、まだ動かない。もう大賀は目と鼻の先にいる。ハルカのマイクを握る力が増す。思いのほか熱中してくれているようで何よりだ。

 

 残り2m。もう動かないと迎撃できないが……網代笠が――――――その場から動かない。

 

「これは……完全に隠れきった……の?」

 

 隠れた網代笠に気がつかなかった大賀は、そのままの勢いで走り去ってしまった。ハルカはここで激突することを想定していたのだろう。

 

「うーむ、体力的に自分が一番低いと考え、まだ戦うべきでないと判断したんだろうな」

 

 その辺りの判断は、あの眠りの森にいたせいか網代笠の方が得意だ。正直、大賀や御神木様よりもその手の嗅覚は鋭いと言っても問題はない。

 

「先に大賀と御神木様で戦闘をしてもらって、横から掠め取ろうと?」

 

「上手く立ち回れば完全に奇襲できる形になったからな。どうなることやら」

 

 その網代笠の判断が吉と出るか、凶と出るか。

 

 完全にスルーされた大賀が爆走を続ける中、御神木様はというと……

 

「あー……中が見えないからどうなっているかわからないかも……」

 

 鎧のせいでまったくもってわからない! 音が聞こえていれば何段階目か予想がつくんだけれど、ここだと音声が聞こえないから完全にわからなくなってしまっている。

 

「たぶん……今3段階【のろい】を積んだ状態かな……4まではいっていないと思う」

 

 時間的にそのぐらいだろう。ただ、御神木様は網代笠と異なって凄く目立っているから見つかった瞬間、即バトルになりそうだ。

 

 そして、とうとう大賀の視界に御神木様を捉えたらしい。今まで快速で移動していた大賀がその場で立ち止まった。

 

「いったい何をするつもりなんだろう?」

 

 ハルカが解説を求めてこっちを見てくるが、俺にもさっぱりである。技のレパートリーが凄まじく、実は俺の知らない技すらあるんじゃないかと思われている大賀のことだ。何かしらの考えがあるのだろう。

 

 そう思っていると、突然大きな岩に登り始めた。

 

「これは……なんだろう? 【ロックショットガン】の面攻撃を避けるために比較的飛来数の少ないであろう上から叩きつけるように攻撃するつもり……でいいのか?」

 

 解説をし終わるのと同時に、大賀がその場から落下しながら右腕を光らせ始める。あれ着地のことまで考えているのだろうか?

 

 何かに反応するように、御神木様が全方位に【ロックショットガン】をぶちまける。しかし、対空として弾かなかった為、大賀へと向かう岩の数は少ない。10発ほどだろうか。大賀の予想通りということだろう。

 

 それでも3段階は強化した御神木様の一撃だ。右手を弾き出された岩に叩きつけることで破壊しようとするものの、一つ目を割った時点で腕を持って行かれてしまう。右腕が弾かれた力に抗わずに体をよじることで2発の岩を避けるが、完全に体勢を崩した状態で残りの岩が叩きつけられた。

 

「スブブブブブブァ!」

 

 ここまで聴こえてくるほどの大声を上げながら空中で身を翻し、吹き飛ばされた勢いを両手両足を地面に突き刺すようにして弱め、そこから一気に御神木様へ向かって走り始めた。

 

 しかし、御神木様とてそのまま素直にそれを受け入れるはずもない。【タネマシンガン エアバースト】を放ちながらゆっくりと後退してゆく。

 

 着弾すると爆発する弾幕の中、爆発や直撃弾を完全に見切って走り抜けて、御神木様へ肉薄する。あそこで一瞬でも足を止めたら爆発に巻き込まれることを直感的に理解しているのだろう。

 

「ここにきて離された距離を一気に詰め始めたね。大賀って【みきり】は覚えていなかったと思うのだけれども?」

 

 その疑問はもっともだ。

 

「技の【みきり】じゃあなくて、単純に射線がなんとなくわかるのかもしれない。あの3匹の中で射撃が一番上手いのは大賀だ。だからどんな状態でも【タネマシンガン】を撃てるように教えてはいたが……あんなことできるのは予想外だ」

 

 もしくは……射撃のタイミングが完全に読まれているかだな。一番上手いから監修役を任せていたこともある。御神木様の撃つタイミングや射撃の癖が分かっているのなら、そのテンポで左右に走り抜ければいいのだ。

 

 まぁ理論は単純だがそれができれば苦労しない。ずっと共に訓練し続けてきた故にというやつだな。だがこの状況は2匹とも精神的な疲労が凄まじいだろう。弾幕の中ですら怯まずに飛び込んできて、止まらない大賀から感じる圧力と、止むことのない爆発する弾幕を展開する御神木様から感じる圧力。いいね。いいバトルだ。

 

 御神木様が弾幕の量を更に増やし始めるが、それでも確実に距離は縮まってゆく。

 

 とうとう、完全に止めきれないと判断した御神木様が早々に見切りをつけて、自らの足元に向かって大きな【タネばくだん】を撃ち込み、受けた爆風を利用して転がって移動することで再び距離を開かせる。

 

「おおっと! ここで自爆覚悟の足元爆破! これでまた振り出しかも!」

 

 黒く大きな爆煙が立ち上り、御神木様が転がっていた体を止め、射撃体勢に入るために前を向く。

 

 ――――しかし、その時に一瞬でも気を抜いてしまったのだろう。黒い爆煙を切り裂くようにして大賀が現れた為、一瞬御神木様の体が硬直する。

 

 大賀の白く光る右腕が唸りを上げながら、とうとう御神木様の胴体へ向かって振りかざされた。完全に腰が入っており、我流の拳とは思えないような綺麗な軌跡を描きながら右腕が進む。

 

「クギュルルルルルルル!」

 

 すると、完全に回避するのは無理と判断したのか、御神木様が大声を上げながらその場で左回転の【こうそくスピン】をし始めた。

 

 次の瞬間、【こうそくスピン】と【かわらわり】が正面から激突し――――

 

 ――――ずるりと引っ張られるように大賀の体勢が崩れた。

 

「え!? どうして!?」

 

「……そうか! 打点をずらしたのか」

 

 前のジム戦のあとに軽く話した内容を覚えていて、自分なりに工夫を加えたか! あの状態でも諦めずに足掻く姿勢、素晴らしいなぁ、おい。

 

「どういうこと?」

 

「要は受け流したんだ。渾身の【かわらわり】の打点を【こうそくスピン】の回転によってずらすことで力に抗わず、その流れだけを変えてダメージを最小で済ませて防御する。御神木様の丸いフォルムに合った防御法だな」

 

 今まであった避ける、守るとは別の防御法――――受け流す。常に自分で考えて動き続けなければいけないからか、これは色々と面白い成長が期待できそうだ。

 

 そのまま引き寄せられるように大賀の内側へ入り込んだ御神木様が、ガラ空きの胴体へ全身を光らせながらスローモーションのようにゆっくりと突撃してゆき、直撃をモロに受けた大賀が吹き飛ばされる。

 

「ああっと! ここで大賀が御神木様からの直撃を受けて吹き飛ばされてしまった!」

 

「【ジャイロボール】の直撃だ! 大賀は立てるのだろうか……」

 

 本当にノリノリになってきたな。そう言いながらも俺自身が想像以上のいいバトルをしていて完全に集中している。御神木様はすぐに体勢を立て直し、大賀へと視線を向けてすぐさま迎撃できるように身構えた。その姿に隙はほとんどない。まさかここまで熱くなるとは。

 

 誰もが視線を御神木様や大賀へ向けていた。

 

 ――――――故に、その後ろから急に放たれた【しびれごな】に御神木様は対処することができなかった。

 

 完全に意表を突かれた御神木様が、ギギギと心底悔しそうに痺れた体でゆっくりと後ろを向く。

 

「あ、ああ、あーっ! ここで、ここで網代笠が背後からの【しびれごな】で御神木様を麻痺らせたー!」

 

「いやはや、いつ来るのかなと思っていたけど物凄くいいタイミングで横槍を入れてきたな」

 

 えげつないが、とても有効な手だ。大賀は既に満身創痍、御神木様も肉体的には少ないかもしれないが、精神的にとても疲労しているようで、珍しく肩で息をしている。これこそがバトルロワイヤルの真骨頂である。

 

「大賀や御神木様はとてもいいバトルをしていたけれども、これがバトルロワイヤルだと言うことを完全に忘れていたんだろうな」

 

 バトルロワイヤルの鉄則として、最初に暴れすぎた奴から脱落すると言うものがある。ポジション取りもせずにずっと戦っていたのだからそうなるのも頷けなくはない。これを卑怯だと言うやつも居るが、そもそもなんで相手に合わせて戦う必要があるのか。

 

 自分のペースで、自由に相手をかき乱す。これも立派な戦闘方法である。

 

 【しびれごな】の直撃を受けた御神木様が反撃に出ようとするが、網代笠はすぐに後方へ引いて岩陰に隠れてしまう。すると、その岩陰からわらわらと網代笠が現れだした。その数は凄まじく、50匹以上は居るだろうか? 網代笠め、自分の影を薄くしてずっと【かげぶんしん】を積んでいたな。この数はおそらく6段階積みだろう。

 

「これは……完全に網代笠が流れをつかみ始めたな」

 

 バラけるように走り始めた網代笠達が、大賀と御神木様を囲む。さて本物の網代笠はどっちを攻めるのか……既に満身創痍な大賀は片端から【れいとうビーム】で攻撃しているようだけれども、当たっても当たっても分身が減った気がしない。ありゃ完全に頭に血が上っているな。珍しい。

 

 さて、いくら数が多いとは言え技を扱えるのは本体だけだ。どうやって、どっちを攻撃する? そして、その瞬間を見られたらそのまま反撃を貰いかねないぞ?

 

 そう思いながら画面を眺めていると、かなり外回りをしている網代笠を発見した。おそらくこれが本体だろう。相手は分身に惹きつけさせておいて自分は裏取りか。えげつないなぁ…………あ、これは俺が教えたやつか。

 

 最短距離で裏取りをした網代笠だが、大賀の後ろへたどり着く頃には既に分身の残りが4体しかいなかった。対して御神木様の方にはあと15体程分身が残っている。

 

 その残っていた4体の分身が一斉に御神木様へ向かって走り始め、それを追撃する為に大賀が分身の方へ向く。向いてしまったのだ。待っていましたと言わんばかりに勢いよく飛び出した網代笠が、大賀の背後へ飛びかかる。

 

 空中を移動しながら未成熟な腕を光らせて貯めをつくり、一瞬遅れて大賀が気がつくがそれではもう遅い。少し驚いた顔を見せた瞬間、【きあいパンチ】が大賀の胴体へ直撃し、その場で倒れ込んだ。これは戦闘不能だろう。

 

 それを見届けてから、網代笠は御神木様の方へ走り始めた。俺もすぐさま立ち上がり大賀の回収へ向かう。

 

 大賀を回収して帰ってくると、既に勝負がついていた。

 

「御神木様も頑張ったんだけれども、多勢に無勢でね。5回ほど【きあいパンチ】を受けた後に反撃しようとして、体が痺れた瞬間を見逃さなかった網代笠に【きあいパンチ】の直撃を当てられて沈んじゃった」

 

「そうか……とりあえず全員を回収してくるわ」

 

 いやはや、いい勝負だった。大賀達も色々と自分の課題が見つかっただろう。

 

 第一回バトルロワイヤル勝者、網代笠! で決定だな。疲れているだろうし、優勝賞品は後で渡すとしようかね。

 

 

~~遺跡を荒らす者達~~

 

 団員がかき集めてきた資料を読み終えて一息つける。実験結果自体は順調のようだが、数値が不安定すぎてこれではアレの代わりとして使うには足らんな。

 

 ……どうにも厄介なタイミングでチャンピオンから襲撃を受けたものだ。アレが完成さえしていれば、あの化物共を一掃出来ただろう……しかし、アレを再度作る程の余裕は我々には1分、いや1秒程もないと言うのに!

 

「フン……カガリよ。そっちは順調か?」

 

「…………は…………想定通り」

 

「そうか」

 

 ならば砂漠方面は順調なのだろう。最早1秒たりとも時間を無駄にできないのだ。奴を封印から目覚めさせるのを失敗してもらっては困る。

 

「ただ…………例のモンスターが…………邪魔をする」

 

「……どれだけ被害が出た?」

 

 死にぞこなってなお邪魔をするか! 忌々しい化け物どもめッ!  

 

「………………38人…………壊された」

 

 悔しそうな、悲しそうな表情でぽつりと呟くように紡がれた。38人……決して少ない数ではない。一度遺跡に潜っただけでこの犠牲か。人類発展の礎として集まったとはいえ、同志の死に心が痛む。

 

「人員の補充が済み次第すぐに砂漠へ戻って貰う。彼らの犠牲を無駄にしてはならない」

 

「…………は…………人類の発展の為に……」

 

「私たちの夢の為に」

 

 それを聞くと満足そうにカガリは部屋を出ていった。

 

「夢のために……か……」

 

 自らを律する為に、再度声に出す。既に賽は投げられた。二度とその事実を変えることはできない。

 

「我々は成させばならない」

 

 人類が活躍し、更なる進化を遂げるためにはステージの拡大が必要なのだ。

 

「たとえ、このまま生きる方が楽だとしても」

 

 人間とポケモンの共存などという馬鹿げた理想にまみれた世界には劇薬じみたカンフル剤が必要なのだ。

 

「この先に何があるのかわからなかったとしても」

 

 人類の……ひいては奴ら以外の全ての生命にとっての未来永劫の幸せに繋がると信じて。

 

「たとえ、今の世界を壊してしまうとしても」

 

 新たなフィールドを創造してみせよう。

 

「私の理想……終わりの始まりをもたらす為に!」

 

 犠牲者が出始めている。最早猶予などありはしない。

 

「キサマはどうする…………アオギリ…………」

 

 

~~とある医者の記述~~

 

01/28

 1月23日に渦潮に巻き込まれた患者が私達の病院に搬送された。話を聞く限りどうやら超低体温状態であり、魚鱗症の症状のようなものが散見されているようだ。どうやって4日半生き延びたのかはわからないが、快調へ向かうことを祈る。

 

01/29

 なんなんだあの患者は! まるで呪いにかかったかのような酷さだ。髪や爪は伸び続け、触ればそこが爛れてゆき、体を調べる際に必ず低温の水が必要になっている。集中治療室にある器具はエラーを起こし脈拍すらも測れない! 彼のご両親にはなんと説明すればいいんだ……

 

 時折例の患者から視線を感じる時がある。話してみると他の先生や看護師の方々も感じる時があるらしい。こんなこと医者である私が思うことは罰当たりなのであろうが、私はあの患者を恐ろしく思えてきた。

 

01/30

 現状を打破する要因が何一つ無い。彼は髪や爪だけが伸びていると思っていたが、それだけではなかった。身長もあきらかに伸びていたのだ。不審に思い、大学で行われていた健康診断の以前のデータを確認すると、既に16cm近く身長が伸びていた。

 

 私には彼が回復するビジョンが見えない……医者失格なのかもしれない。ストレスからか、頭を掻く事が増えた。

 

01/31

 私は恐ろしい物を見てしまった。彼の伸びきった爪を切ろうとして、誤って彼自身の皮膚を切り裂いてしまった際に、肉の塊と共に爪が剥がれ落ちて、地面に当たった瞬間にそのまま砕けるように水になってしまったのだ。

 

 私は幻覚でも見てしまったのだろうか? いや違う。そんなことはない。だって彼の右手の人差し指の爪は未だに生えてきていないのだから。

 

 気が付けばまた頭を掻いていた。足元には抜けた頭髪が散らばってしまっている。近いうちに私は発狂するかもしれない。

 

02/01

 例の患者が目を覚ました。そしてその直後に人間の声とは思えないほど異様な低い声でスケッチブックが必要だと暴れ回り備え付けのベッドを破壊した。片手でだ。片手だけでだ。ベッドを持ち上げて叩きつけたのだ。我々の目の前で!

 

 看護師が怯えながら持ってきたスケッチブックを渡すと、彼は自らの親指の一部を噛みちぎってスケッチブックに何かを書きなぐり始め、最後のページまで書ききった瞬間に糸が切れたように倒れ伏した。私は恐ろしくて彼が何を書いたのか見なかったのだが、偶然一番上に書き込まれたものが視界に入ってしまった。

 

 あの不安定に歪んだ五芒星形や、その内側に書き込まれていた炎のような目はイッタイナンダッタのか……

 

 ああ、あたまがかゆい

 

02/02

 かれ すけっちぶっく かえした。つもりだった けれど いつのまにか はくい ポケットにあのえ はいってる いったい なぜ?

 

 ちがでるほどかきむしって まだあたまかゆい いま これかいているあいだも ずっと ずっと ずっと ずっと ずっと みミもと で わたシ よンデいる こエ うるサい て とまらな い

 

 

 

 たスけて

 

 記録はここで途切れている。

 




医者の記述ですが、主人公は一度入院時代に盗み見た事があります。
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