カイオーガを探して   作:ハマグリ9

82 / 111
遺跡の中にあったモノ(上)

 本日も砂漠は砂嵐が起きず快晴なり。ジリジリと骨の髄まで焼き尽くすような日光が砂漠の大地に容赦なく降り注ぐ。同時に砂からの照り返しも凄まじく、素肌のままならすぐにこんがりと焼けてしまうだろう。乾いた風が口の中に焼けた砂を運んでくるのがとても鬱陶しい。

 

 そんな環境の中を、ゲームではレジロックが封印されていた砂漠遺跡を目指してかなり急ぎ足で進む。時折サボネア同士が縄張り争いなのか日照権の奪い合いなのかわからないがとりあえず喧嘩していたので両成敗したり、サンドが前方の砂山から猛スピードで転がってきたのでキャッチして転がし返すというトラブルもあったものの、概ね順調な道のりだ。

 

「……ねぇ、本当にそんなに急ぐ必要があるの?」

 

 ハルカも一晩寝たお陰か、だいぶ体力は回復したらしい。しかし、まだ俺の早歩きに付いてこられるだけの体力は回復していないらしく、大人しくウインディの背中に乗って塩分調整した水を飲みながら砂漠を横断している。ウインディって結構モフモフしているし、基礎体温がかなり高そうだけど暑くないんだろうか?

 

「俺達がいた遺跡……いや、巨大墓地でいいか。まぁそれが崩壊したせいであっちに影響が出ていないか気になるからな。早いうちに調べておきたいんだ。見逃していたら大変だろ?」

 

 封印が解けていないならそれでいいんだ。でもこれで万が一、何らかのトラブルでレジロックの眠る砂漠遺跡の入り口部分の封印が解除されてしまっていて、それを俺達が見逃していたとなると凄まじく面倒な問題となる。それに、ハルカが遺跡を見学したいと言っていたからというよりも、レジロックの眠っている遺跡がどうなっているのか気になったからというのが砂漠にある遺跡群を目指したそもそもの理由だしな。ここまで来て立ち寄らない訳にはいかない。

 

 あそこには何度か出会っているスイクンと同じ、準伝説クラスの強さであるレジロックが眠っている。そんなレジロックがマグマ団やアクア団、ダイゴさんがいるかもしれないと睨んでいた第三勢力の手に渡っていたら、現状でも厄介だと言うのに、その組織に対しては今まで以上に手がつけられなくなるだろう。

 

「それに昨日最後に拾った物と巨大墓地の関係で少し気になる物品が出てきてな」

 

 しかし、デメリットばかりではない。あれで封印が解けていたら、現在地からして一番最初に内部の調査を行えるのは俺達のはずだ。封印するぐらいだから古代人にとってあそこが一番重要度が高いはずだし、今までの遺跡で見つけてきた謎についての情報も一緒に出てくるだろう。グラードンやカイオーガとの関わりも壁画なんかに描かれいてもおかしくないな。それに――

 

『――あそこなら【主】についてのしっかりとした情報もありそうだから』

 

 …………それに? またか。まぁいいや。とりあえずどっちであってもあんまり見逃せないんだよ。うん。

 

「……あの崩壊する直前に拾った物? そんなに疑問に思うような物だったの?」

 

「少し引っかかる程度なんだけれどな。青い石の方は外殻に独特な溶融被殻が形成されていたからたぶん隕石に類する物だと思う。落下の衝撃で溶融被殻が一部割れて、元々の青い鉱石の部分が露出したのかもしれないな。まぁ詳しくは専門の人がしっかり調べないとわからないけれど、やはりどうしてそんな物をああしてわざわざ墓に埋めて、取られないようにしていたのか疑問に残る」

 

 盗人に対する殺意が凄まじかったからな。

 

 隕石に類するものを埋めていた理由の一つとして考えられるのは、古代人が一緒に墓に入れる程度には大切な物のように扱っていたようだし、もしかすると空から降ってきた石ということで宗教的に何か関係あったのかもしれないというものだ。

 

 とりあえず酸化させないように取り扱いに注意してダイゴさんに提出するべきだろう。

 

 あと隕石関連でデオキシスに繋がるかもしれないし、星……彗星関連でジラーチに関わりが見つかる可能性もある。確かポケモンで彗星の欠片ってアイテムは青色だったはず。特徴の一部は一致している。そもそも隕石というのは、ルビー・サファイア・エメラルドに関わっている物だからな。実際、俺が起きるかも知れないとリークしたソライシ博士襲撃も起こっていたみたいだし。とりあえず他にも物が確保出来るのなら確保しておきたいところ。

 

「もう一つは黒い金属塊。詳しくはわからないけれど、やたらと御神木様が食べたがっていたからダイゴさんに渡す時に交渉したいね」

 

 【ミサイルばり】で体に生やしていた鉄の棘を消費したせいか、御神木様がやけに食べたいと食いついてきたからな。どこかで拾えたら御神木様に食べさせてみようと思っている。

 

「へぇ……」

 

 そんなおざなりな反応のハルカだが、どうにも遺跡の探索よりもさっさとダイゴさんからの依頼である幻影の塔から発掘されるという石版とやらを回収して、俺を病院へ連れて行きたいらしい。

 

「でも、その砂漠遺跡? の封印は簡単には解けないんじゃないの?」

 

「そうなんだけれど、一応な……」

 

 本当に解けてなければそれでいいんだ。それだけでも情報になるしな。軽く入り口だとかを見学して、すぐにハルカの希望通り幻影の塔へ向かえばいい。こういうのは保険程度でいいんだよ。

 

「ちなみにキョウヘイ先生は封印の解き方を知っているの?」

 

「んー……大まかには知っているが、その知識が正しいかはわからないね」

 

 134番水道のダイビングスポットでおふれの石室に入り、言葉の間で【あなをほる】を行い、謎の間にホエルオーとジーランスを連れて行く。ホエルオーとジーランスの手持ちの順番はルビー・サファイアとエメラルドでは逆だから、試してみないとわからない。大雑把にはこんなところだろう。

 

「それってここですぐに出来る感じ?」

 

「無理。ここにある遺跡の封印を解くには、別の場所にある封印を先に解く必要があるんだ。だから事前情報なしには不可能のはず」

 

「なら、そんなに急がなくても……「む、見えてきたぞ」」

 

 そんな話をしながら、ようやく目的の砂漠遺跡を視認できた。こんもりとした古墳のような物が6個の大きめの岩に囲まれている。ここまでは大筋ゲームの知識の通りだ。どうやら俺達がいる場所は砂漠遺跡の真後ろらしいので、ぐるりと回り込むように進み――

 

 ――――ぽっかりと大きな口を開けているのを発見した。

 

「……ほうほう?」

 

 フクロウのマスクの中で額からつうと汗が伝う。これはやってしまったか?

 

「あれ? 封印されていたんじゃないの? 開いちゃってるけど……」

 

 深淵のように異質な雰囲気と空気を放つ砂漠遺跡を前に呆然と立ち尽くす。まるでラスボスが待ち受けているラストダンジョンのようだ。どこかからゴゴゴゴゴッ! と効果音が聞こえてくる気がする。

 

「うーむ……134番水道の遺跡は弄られていないはず……」

 

 なんで入り口が開いているんだ。やはりあの巨大墓地の崩壊が関連していたのか? それとも俺の知らないうちに134番水道にある遺跡の封印が? いや、しかし、渡された資料には少なくとも最終更新である5年前までは封印が解かれていなかったようだし。

 

「134番水道? …………あれ、なんかそんな名前どこかの記事で見た記憶が……」

 

 呆然とした時に口から零れた単語に、何故かハルカは聞き覚えがあるらしい。あんな場所、おふれの石室と勢いの強い海流以外何もないはずだが?

 

 ただ、ああいった場所は栄養やプランクトンが豊富そうだし魚が集まっていそうだな……漁か? 漁なのか?

 

「ええっと、なんだったっけな…………」

 

「頑張って思い出してくれ。かなり重要なことなんだ」

 

 まるで期末テストの残り時間5分で最後の1問が解けない学生のように頭を抱えてハルカがうんうん唸る。あー、うーん、など言いながら頭のツボをグリグリ押していると、急にパッとスッキリしたような顔になった。思い出せたようだ。

 

「…………ああ! 思い出した! 確か5年前ぐらいの8月の中頃だかに、当時有名だったラトリクス博士が率いる調査隊が134番水道の遺跡に潜ったけれど、調査中に落盤事故が発生したせいで誰も見つからず調査隊が全滅したって記事やニュースで見たんだ! あの頃から既に冒険だとかに興味があったから、そんな優秀な調査隊でもこうなるのだからわたしが遺跡に潜る時は気を付けないとって思ったの」

 

 は? 134番水道に調査隊だと!? そして調査隊が落盤事故で全滅か……あの巨大墓地での俺達と同じような事になったのか? バックパックから改めて手渡された資料を取り出して正確な日付を改めて確認してみる。そこには7月22日と書かれていた。タッチの差で封印が解かれていたのか! ダイゴさんはこの情報を知っていないのだろう。まず知っていたら恐らく本人が直接乗り込んでいるはずだ。

 

 それにしても、今までここを管理していた流星の民とやらはここの封印が解けた事に気がつかなかったのか? ……いや、もしかして――――知っていて情報を隠匿していたのか? 少なくともマグマ団に砂漠から追い出されるまで約5年あったんだ。気がつかないなんて事はない。

 

「……中に入って調査するぞ」

 

 ますます引き返す訳には行かなくなったぞ、これ。網代笠をボールから出し、最低限の装備の確認をする。もし、封印を知っていて尚、その情報を隠匿していたのだとしたらそれ相応の理由があるはずだ。

 

 例えば壁画についてや発掘された物品、それに――――レジロックの封印とか。しかし、何故それらを隠す必要がある? ポケモン協会に知られると何か不都合な事でもあったのか?

 

「え、わたしはもう当分遺跡はもういいかなって思ったり……」

 

 微妙に顔色が悪くなっているが体調にあまり気を使えそうにない。なぜなら調査しないと選択した場合、最悪のタイミングで何かが起こる気がしてならないからだ。こういうのってだいたいフラグの分岐点だよな。

 

「そうも言っていられなくなった。封印が完全に解除されてしまっているか確認する必要がある」

 

 巨大墓地の崩壊に飲み込まれかけるだなんてイベントがあったせいでハルカは若干嫌そうにしているが、最近マグマ団が遺跡の近くを占拠していて、何かを調べていたという情報があるんだ。そんな所で調べるものと言ったら遺跡以外ない。

 

 嫌な予感が凄まじいが、もしかすると第二段階の封印が未だに解けていないかもしれないもんな。うん。希望を捨てるな。その辺りを知る必要がある。

 

 耳を近づけてみるが、内部からは一切音は聞こえてこない。ポケモンも住み着いていないのだろう。懐中電灯を点けてから再度入り口を見ると、まるで深淵に誘われているように感じる。遺跡に飲み込まれるような気持ちで、ヘッドライトを装備した網代笠を先頭にゆっくりと慎重に砂漠遺跡の中に入ってゆく。

 

 内部もやはり明かり一つなく真っ暗だ。そして空気が乾いているのに、どうにも地面が少し湿っぽい気がする。また、強烈な腐敗臭や鉄が錆びたのような臭いの混ざった、どこか生理的なおぞましさを揺さぶるような臭いが遺跡のそこかしこから臭ってくる。巨大墓地のものよりも強く感じる。

 

 あまり長時間嗅ぎたくはないような嫌な臭いだ。ウインディもそれを感じているようで、ハルカを降ろしてから身を低くして唸り声を上げて警戒しながら歩き始めた。

 

 ……俺も少し警戒度を上昇させよう。何事にもすぐに対処できるように大賀もボールから出しておき、右手には御神木様が入ったボールを装備しておく。入口から入ってすぐという場所のせいか、この人数だと狭く感じるな。大きな空間に出るまでは、歩けるような人数はこれが上限だろう。

 

「きゃっ!?」

 

「どうした!」

 

 通路が少し広くなり始めた為、軽く散開したとたんにハルカが小さな悲鳴を上げてその場ですっ転んだ。残る全員が、その短い悲鳴を聞いて一斉に臨戦態勢を取って周囲を見回すが、視界の範囲内で異常はない。

 

「うう……なんか、ねちょっとしたもの踏んづけたかも……」

 

 なんだ……足を滑らせただけか。軽く安堵して警戒態勢に戻る。しかし、ねちょっとした物とな? それのせいで地面が湿っぽいのか? ハルカが踏んづけたものに光を当てると――――そこにはどこか見覚えのあるような【黒いタールのような液体】がぶちまけられたか内側から弾けたかしたように、大量に地面や壁に飛び散っていた。

 

「あれ? これって前にも見た……」

 

『これから私は先生と一心同体になるのよ!』

 

 それを見た瞬間に、ゆっくりと【黒いタールのような液体】に飲み込まれていった先輩の言葉と、その直後に火炎瓶を投げつけた事で燃え盛り始めた病院の屋上の光景がフラッシュバックする。同時に凄まじい吐き気と酷い頭痛が体を蝕んでゆく。痛みを緩和させようと頭を軽く左右に振るが、それらが収まるような気配は一向に訪れない。

 

「……もう少し足元に気をつけてくれ」

 

 もうアレは灰になるまで焼いて殺しきったんだ。生きていてココ(ホウエン地方)に居るはずがない。そう自らの精神を鼓舞すると共に吐き気を飲み下し、少し鈍くなった頭でハルカへ言葉を返すが、そのせいで少しそっけない態度になってしまった。

 

 少し空気が悪くなった状態でそのまま道なりに中を歩いてみると、通路の先に繋がっていた広めの部屋の入り口には複数のコードが繋がれた発電機と物理的に壊れた設置型のライト達がかなり乱雑に捨てられていた。発電機にあまり埃が積もっていないところを見るに――

 

「なんだかつい最近までここに誰かいたみたいかも」

 

「だなぁ……」

 

 セリフが取られたが、まぁいいや。

 

 とりあえず、ここに侵入者がいたのは事実となった訳だ。発電機に触ってみるが熱は感じないので、最後に使ってからそれなりに時間が経っているように感じる。

 

 アクア団がこの周辺で活動していたとは聞いていないから、これは管理という名目でポケモン協会に嘘をつき、黙って調査していた流星の民の忘れ物だろうか? それとも流星の民を砂漠から追い出して、ここに侵入したマグマ団の設備?

 

 傷がないか調べる際にシンボル的なものが書き込まれてないか、あるいは貼られていないかを一緒に調べてみたが、発電機そのものにマークのようなものは見つけられない。ただ、とりあえず発電機自体は壊れていないようで、燃料を入れてやればまだ十分に動きそうだ。丁度燃料自体はあるし動かしてみてもいいかもしれない。

 

 周囲を確認するために、今立っている場所から懐中電灯を奥へ向けて覗こうとしてみるも、石版に光が遮られてしまってよく見えない。ライトの光が当たっていて視界をかなり大きく遮っている石版には、体の半分がひび割れたカイオーガのような青い生物が描かれているのがここからでも見て取れる。

 

 ……やっぱり発電機を動かしてみるか? メリットはこの遺跡の内部の確認がしやすくなることと、相手が出た瞬間に対処がしやすくなる事。デメリットは音や光で相手に気が付かれて、遺跡に呼び寄せてしまう可能性が出てくる事。あ、発電機を破壊されて一瞬で暗闇にされるというデメリットもあるか。

 

 うーむ……視認して対処出来たほうが楽だな。発電機への襲撃は見張りをつければ問題なくなる。よし、素直に発電機を動かす事にしよう。

 

 バックパックから補給用の燃料缶を取り出し、発電機に注ぎ込んでからリコイルスターターを引っ張って動かしてみる。すると縁日などで聴き慣れた独特のエンジン音が軽快に部屋の中に響き始め、すぐに遺跡の内部全体に明かりが点いた。どうやらかなり配線には気を使っていたようで壁を伝うようにしていて、ライトは下に置くのではなく上から照らすようになっているらしい。

 

「……なに……これ……」

 

 そして、全体が明るくなった事で、この遺跡の内部の異様さも火を見るより明らかになった。遺跡内のそこかしこに激しい戦闘の跡が残っており、一部壊れた石版やじわりと何かを中心にして広がるように赤黒くなった壁や地面の染み、【黒いタールのような液体】が撒き散らされている。

 

 恐らく、この戦闘のせいで先ほどのライトの一部が破損したのだろう。赤黒くなった壁や地面の染みは――――恐らく血だ。出血量はかなり酷かったようで、いたるところに飛び散っている。負傷した者を引っ張ったのか、外へ向かって引きずったような跡もあるな。血は完全に変色して固まっており、飛び散ってからそれなりに時間が経過している事を示していた。少なくとも、こんな風通しの悪いところで完全に乾くとなると半日以上はかかるはずだ。これが異臭の正体だろうか?

 

「ハルカ」

 

「わかってる」

 

 異様な光景を目の当たりにし、すぐさま御神木様と夕立もボールから取り出して完全に警戒態勢を取る。ハルカも無言のままワカシャモやゴンベを出した。もしかするとハルカが襲撃を受けたサマヨールのような奴がいるのかもしれない。

 

 周囲を見ながらカメラの電源を入れて、【黒いタールのような液体】を一枚撮る事で使えるかどうかメモリーを確認すると、しっかりと写真が撮れていた。これなら紙に模写をする必要はなさそうだ。

 

 戦闘跡を数枚撮る事で記録していると、ふと乾いた血だまりの近くにあった壁画の下に、砕けたような青い欠片が落ちている事に気が付く。

 

「……んん? これは……青い欠片か」

 

 拾い上げてみると丁度目の前にある、先ほど懐中電灯に照らされていたカイオーガのようなポケモンのひび割れた部分と一致しそうだ。どうやら物理的に破損したらしい。激しい戦闘に巻き込まれたのだろう。

 

 青い欠片は石版に描かれている背景よりも鮮やかな色合いを示しているため区別しやすい。対象を強調するためだろうか? ひび割れたカイオーガのようなポケモンに青い欠片くっつけてみるとしっかりと一致した。なるほど、欠片シリーズは壁画の色付けとして使われていたのか。となると…………

 

 すぐ横を向くと、カイオーガのようなものと対峙するようにグラードンのようなものが彫り込まれている。細部が異なるように見えるがおそらくはあの二匹のポケモンだ。バックパックの中から少し前に発見した赤い欠片を取り出し、壁画のグラードンに近づけてみると確かに同じ材質のように見えた。これはビンゴかもしれない。後で砕けていたものは一部回収しておこう。

 

 知っている欠片には赤、青、緑、黄色とあるがこの感じだと、赤はグラードンに、青はカイオーガに、緑は恐らくレックウザだろう。じゃあ黄色はなんだ? レックウザも黄色い模様があるけれど……黄色い古代ポケモン……ジラーチ? アレなら頭の星部分に黄色を使いそうだし、たぶん生息地的にも合っているはず。隕石に類するものが巨大墓地に副葬品として埋められていた理由にもなる。

 

 問題は千年彗星とやらがやってきたタイミングで、尚且つ7日しか起きないのだから、石版に書かれるようなエピソードはなさそうってところか。あとはレジギガスとか……いや、自分で考えておいてなんだが、あいつ黄色成分少ないな。

 

 この数ある大きな石版の中に答えがあるといいんだけれど。ざっと見た感じ手前に4枚奥に3列の計12枚ほど大きな石版があり、それだけ死角も多い。軽く部屋全体の安全を確認してから石版を調査するとしよう。

 

「ハルカは入り口の見張りを頼む。何かあったら声を上げてくれ」

 

「ん。気をつけてね」

 

 ハルカ達には入口周辺を見張っていてもらい、慎重に歩みを進めて遺跡内を調査すると、奥へ続く一本の道が岩で塞がれていた。他には出入り出来そうな入り口は無いため、とりあえずこの部屋は安全だろう。

 

 改めて通路を塞いでいる岩を見る。この岩は元々あった封印と言うよりは、どうやらこちら側の壁をくり抜くようにして急ごしらえでここに設置したものらしく、ポケモンの技でなら砕けそうだ。しっかりと砕けば奥へ進めるだろう。ただ気になるのが、岩の後ろから先ほどよりも濃い腐臭のようなものがしているということ。

 

 ふと、つい先ほど見かけた血だまりを思い出す。そして関連するようにこの岩の奥から濃い臭いがする。頭の中で二つの事象が接続されて一つの答えが出た。もしかするとこれは……死臭というものではないだろうか? だが今まで生きてきて、それを嗅いだ事は無いためはっきりとした確証は持てない。

 

 しかし、レジロックが眠っているであろう場所に誰も立ち入らないように急ごしらえな岩が設置され、その奥から死臭のようなものが漏れ出ている。これは死体を奥へ隠したのか?

 

 現状確証が持てる事は、外側から奥の部屋に入れないようにしたことから、少なくとも戦闘を行った奴らはここからいなくなったということだ。

 

 とりあえず、この岩を破壊して奥へ進むのは後回しにしておこう。やはり絶対に死臭だとは言えないし、これでまたあの墓の時のようにヘタに破壊して、調査前に遺跡が崩壊されては困る。後で破壊するにせよしないにせよ、まずは一旦ハルカと合流するべきだ。

 

「とりあえずこの部屋には敵対するようなモノはなさそうだ……どうした?」

 

「これ……なんだろう? 古代のポケモンかも?」

 

 入り口付近に戻って合流すると、入り口に一番近い列の一番右にある石版を眺めていたハルカが素っ頓狂な声を上げた。声に釣られて一緒に石版を眺める。

 

 そこには奇妙な生物達が大きな羽を広げていて、夜なのかとても暗く光が届かないような場所で移動している様子が描かれていた。これを直視してはいけないと心の中では思えるのに、石版に描かれているソレから目が離せない。

 

 虹色の繊毛が生えた五芒星のような形の頭をしていて、五芒星のような頭から伸びた管状のものの先端に鈴に近い袋状の口があり、内部には白く鋭い歯に似たような突起物が並んでいる。五芒星のそれぞれの先端部分にはガラス質の赤い虹彩のある目が付いているようだ。

 

 球根のような首の下には大きな樽のようにずんぐりとした円筒形の胴体があり、これまた扇のように折りたたむことのできる膜状の羽が等間隔に5枚、更には海百合の触手ようなものも等間隔で5本。丁度翼の下の位置に触手のようなものが生えていて、水中や空中での移動には困らないだろう。

 

 樽のような胴体の下にも首の球根に似たようなものがあるようで、連結されるように頭部に似た五芒星のような形の擬足があるように見える。その擬足にも管状のものが5つの窪みから伸びていた。

 

 かなり細部まで書き込まれているようで球根のような首にはエラがあり、少なくとも水中での活動はできたようだ。もしかすると大気中でも活動ができるかもしれない。

 

 そのナニカの全長は比較対象が無いため不明だが、どうにも人より大きいように見えた。全体の体色は灰色で、どこか力強さを感じる。

 

 描かれているモノの全体図をしっかりと認識した瞬間、どこか不思議な親近感と共に酷かった頭痛が更にジクジクと存在感を示してくる。視界がふらつくだけでなく手ブレも大きくなってきた為、まともな写真が撮れそうにない。なんなんだこの頭痛は!

 

「ああ……くそッ、ハルカすまん。カメラ頼む」

 

「大丈夫? …………もう。ここの探索を終えて、幻影の塔で石版拾ったら病院に直行してもらうからね! 全体像と個体像を撮ればいいかな」

 

 フラッシュの後にシャッター音が響く。その際に一瞬の生まれてくる影の揺らめきが、視界の中で踊るように蠢いたような気がした。その影の動きが、未だに記憶の中に居座り続けているアレと被って仕方がない。

 

「こんな感じ……うん。しっかり撮れてる! それにしても、この生物はなんて名前なんだろう?」

 

 な、まえ? 名前……記憶のどこかに何かが引っかかった。

 

 俺はこの生物の名前を知っている? 酷く痛む頭に鞭を打って考え込んでゆく。またもや心のどこかで警告のようなものが浮かび、思い出そうとする事そのものに対する意味不明な恐怖が全身に駆け巡り思考を鈍く蝕む。呼吸が苦しくなり、立ちくらみのような症状まで現れ始めた。

 

 それでも短い呼吸を繰り返しながら引っかかった物を引きずるように思い出す。すると、恐怖の頂点に達するよりも早く一つの単語が頭の中に浮かんできた。

 

(いにしえ)の……もの……?」

 

 口が勝手に動き、その単語を紡ぎ出していた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。