カイオーガを探して   作:ハマグリ9

9 / 111
アクア団の襲撃

 いつの間にか襲撃予定日である。

 

「昨日の23時からスタンバッてます。現在午前4時で今のところは特に異常はありませんね。ええ、なにも、なんにもなかったです、はい」

 

「クギュル」

 

 誰に話しているのかって? 君だよ、君。途中寝てたでしょ? 景色すら見れずに暇だったのを共有しているんだよ。今回はアルコールも自重しているんだぞ? 本を読むにしたって、意識を完全に向けられる訳でもないから集中力が途切れやすいんだ。

 

 御神木様(テッシード)に抗議しながら、後方の行き止まり部分に設置された鏡を(うかが)う。まだ事件が発生する様子もない。

 

 すぐ真横のもう一枚の鏡には、俺の全身が映りこんでいた。本日のファッションは、向こうから持ってきた私服に、精巧なオスヤギの被り物をして、その上から黒のレインコートを着ている。しかもよりカッコよく魅せるために角のかなりしっかりとしたものを買った。オプションで黒ヤギにしてもらったから、色の統一感もアップだ。

 

 結果的に黒いレインコートを着て、精巧な雄々しい黒ヤギの被り物を被った身長190cmの男が誕生した。傍から見ると完全に黒魔術な感じだ、コレ!?

 

 まぁ、満足してるからなんにも問題はないな。ダイゴさんと事前打ち合わせをしたときに、完全に見惚れていたから今日のノルマも達成だ。なんて完璧なんだ。同性すら見惚れさせてしまう俺……なんて罪深い。ちなみに、そんな俺を妬んだ人がいたのか何回か通報されていたようで、その度に警備員に注意された。解せぬ。

 

 これで顔を隠しているから、相手に顔を覚えられないという副次効果もある。なんと万能なんだ、リアルアニマルシリーズ。店長に頼み込んで会員になったから、これからは格安で売って貰えるようになった。ペリッパー便で直接お届けもできるようだ。凄すぎるぞリアルアニマル推進委員会。

 

 やることを全てやってしまったから暇で仕方がない。ラジオも場所が悪いせいか飛び飛びだ。船員用通信端末は通るのに……なんでだろうかね?

 

 前方を見直すと、数時間前に設置した【ステルスロック】が目に入ってくる。普通の通路がささくれた岩で彩られており、少し幻想的な感じだ。ふつくしい。どこか、ホラーゲーム感がある。

 

 上に少し穴があるが、そこからもう一度【ステルスロック】を使って相手の退路を塞ぐ予定なので、【ステルスロック】の道については完成したと言って問題ない。だいたい大人一人が通れるぐらいに狭めた。少し蛇行するように設置したからどう動いても人間では、ささくれに軽く接触する。

 

 しかしこれだけでは荷物を持って移動できそうにないことが相手に知られそうだ。

 

 だから相手の頭に血をのぼらせる為に、俺の神経の逆撫で手段が火を噴かざるを得ない。お仕事だもん仕方がないよね。

 

「クッ?」

 

 御神木様が頭をかしげている。こういう時は可愛いなちくしょう。撫で回しちゃる。

 

 既に御神木様のアップを終え、【のろい】を6回重ねがけして待機してもらっている。ボールに入らなければおおよそ1~2時間は保つようだが、1時間毎にボールに戻した後にかけ直している。事前に持ち込んだピーピーエイドがとても役立っているが、これ実費なのよね。警備員のお仕事って大変なのな。これからは気がついたら元気よく挨拶しようと誓う。

 

 一応仕事が終わったら報酬が貰えることになっているが、何が貰えるのだろうかね?できれば今回使うであろうピーピーエイドの代金分よりは良い物を頼む。そしてあとでピーピーエイドの分を船に請求しよう。

 

 定時のかけ直しが終わり、アクア団の襲撃に備える――――暇だ……いや、犯罪が起きないことはいいことのはずだ。そのはずなのだが……暇が潰せない。仕方なくスマホ充電器にスマホを差しこみ、グルグルと回し続ける。傍から見たらかなりシュールだろうなコレ。

 

 そんな風にダレていると、船員用通信端末から全体に対して連絡が入る。

 

「前方より不審な船が接近中。海路を変えても塞ぐように動いているため30分後の接触は確実だ。総員はマニュアルに従い、緊急時の船内の誘導に従事せよ。繰り返す…………」

 

 かなり大事になってきたな…………今更か。船内が急に慌ただしくなり、通信からは怒号が聞こえている。どうやら潜入していたアクア団が動き出したらしい。

 

 大体3分後にはこちらと接触しそうだ。さて、腑抜けてないで気合を入れ直すかね。

 

「御神木様は今の通信聞こえてたか?」

 

「クギュルルルル!!」

 

 よく聞こえていたらしい。やる気十分なようだ。重畳重畳! 昨日新しく技を覚えたお陰かテンションも高い。

 

「よし、じゃあ歓迎しようか。盛大にな!」

 

 軽く腕などを伸ばすストレッチをしてから、用意していたパイプ椅子に座り、奴らを待つ。

 

 少しすると白と黒のストライプ柄のシャツに、青を基調として横に白いラインが入ったズボンを履き、バンダナといった海賊を思わせる衣装を着た男たち4人と、白と黒のストライプ柄のシャツが短いヘソ出しルックな女たち4人が走ってくるのがわかる。そして、全員既にポケモンをモンスターボールから出しているようだ。ポチエナやズバットが4匹ずついる。

 

 先頭でそのグループを率いているのは、筋肉質で、破れたような青いウエットスーツを履いている大男だ……あんな奴いたっけ?

 

 かなりいい勢いで走ってるがそのまま突っ込むと刺さるぞ? そう思ってると棘の道の手前でアクア団の集団が止まった。 

 

 さて、完全に幹部クラスの人間がいるように見えるのだが気のせいだろうか? これはダイゴさんの大誤算ではないか!! すみません、言いたかっただけです。はい。

 

「ここから先は関係者以外立ち入り禁止区域だ。とっととお家に帰って不貞寝するがいい」

 

「オウオウ? 誰だテメェ!」

 

「その問い掛けに意味はあるのか? 俺がお前らの仲間のように見えるのなら、眼科に行くことをオススメする」

 

 さぁ、どんどん煽っていこうねぇ。

 

「お前が誰かなんてどうでもいい!」

 

「じゃあ聞くなよ」

 

 まったく、なんなんだコイツは。もう少し常識ってやつを知りなさいよ。挨拶もなしに暴れようとするとか、これだから最近の若者は。

 

「俺たちアクア団の邪魔をするなら容赦しない!!」

 

「行け! ポチエナ!」

 

「ブフォーッ!!」

 

 アクア団の下っ端の男がポチエナに指示を出してきた。ここで突っ込んだら陣の意味がないな……待ち一択だ。自腹を切ったピーピーエイドはあまり使いたくないから、必然的に【タネばくだん】の使用率も減るだろう。

 

 【タネばくだん】は幹部用にとっておこうか。遠距離攻撃方法がないと勝手に錯覚してくれればなお良い。【ステルスロック】の陣地も壊したくないし。鬼札はまだ切らんでいいのだ。

 

「御神木様、相手が攻撃するまで待機」

 

「クギュルルルル!!」

 

「おいおいおい、散々煽って喧嘩売ってきた割には引き籠もりかよ。弱腰だなぁ、オイ!!」

 

 相手の煽りは無視。所詮下っ端だ、俺は子供の言った悪口に付き合うような、気の短い大人ではないのだ。

 

「ハッ!」

 

 このように鼻で笑ってやろう。

 

「この野郎!! ポチエナ、【たいあたり】だ!」

 

「ブフォォッ!!」

 

 逆立つ棘の道に突っ込み、当たりながらもめげずにこちらへ向かってくるポチエナには感動すら覚える!

 

 ――――が、しかし、俺はそれだけの理由でここを通してやるほど心が清くもない。【メタルクロー】でお帰り願おう。これが俺達なりの丁重な【お・も・て・な・し】というやつだ。粋だね。

 

「御神木様、よく引きつけてから【メタルクロー】!」

 

「クギュ!!」

 

「ブフォッ!?」

 

 一本の少し肥大化した棘が、バッティングセンターでいい振りが出た時のような鋭い軌道を描き、【たいあたり】を仕掛けに来ていたポチエナの頭にクリーンヒットする。【メタルクロー】ってこういう感じの攻撃なんだな。

 

 バゴンッと鈍い音を響かせながら、相手の方へお返しする。ピッチャー返しですな。

 

 それにしても惚れ惚れするようないい飛びっぷりである。これならウチのチームの4番を任せられそうだ。ピッチャーの第2球目はどう出てくる?

 

 飛ばされたポチエナは、攻撃時のそのままの勢いで【ステルスロック】で作った道を遡上し、棘に擦られながらアクア団の下っ端の男を巻き込んで、数mほど転がってその場から起き上がらなくなった。まるでボウリングのピンだな。

 

「ストラーイク!」

 

 これには俺も思わずガッツポーズ。心象的にはスプリットからのスペアぐらいに嬉しい。これほど相手を逆撫でするような方法はないだろう……ついでだ。

 

「御神木様、相手の後ろに【ステルスロック】で壁を作れ」

 

「クッ!!」

 

「何だと!?」

 

 アクア団が通ってきた通路も完全に塞いでしまう。

 

「さて、これで君たちは前に進むしかなくなったわけだ。もっと力を見せてみろ…………それとも、まさかとは思うがこんなものなのか?」

 

 これだけ挑発すれば頭に血ものぼるだろう。冷静さを失った集団など烏合の衆でしかない。

 

 すると、次は下っ端女の方がバトルを仕掛けて来た。

 

「まさか、こいつが弱すぎるだけよ。行きなさいズバット!!」

 

「ドィーピン!」

 

 次のカモだ。構わん、人一人がギリギリ通れる程度でしかない道を、速度もない上に脆いズバットが通ったらどうなるのか、身をもって学んでもらおう。

 

「御神木様、【メタルクロー】」

 

 御神木様も分かっているようで、指示の途中から既にモーションに入っていた。

 

「クッ!!」

 

 上から振り下ろし、そのまま地面に叩きつけるような一撃で打ち返す。そんなんじゃ突破できんさ。

 

 その後も同じように下っ端たちのポケモンをなぎ倒してゆく。レベルの差と攻撃6段階上昇の力と陣形は偉大である。そして何より、数で押されないのが素晴らしい!

 

「まだやるかい?」

 

 時間稼ぎとしてはそれなりに働いたと思うんだが。そろそろ15分は経つ。

 

「オウホウッ? 思っていたよりオモシレぇヤツだな。だがオレッチのアニィに対するアイには及ばない!」

 

 アイ、愛ねぇ……なるほど? 新たな煽りポイントだ。

 

「御託はいいからさっさと来いよ。後ろで部下が詰まってるだろ? 回転効率が悪いと集客率に響くんだ。そんなこともわからないのか」

 

「何言ってるんだコイツ」

 

 急に素になるなよ。相手が固まっている内に御神木様においしい水を渡す。喉? が乾いたらしい。

 

「オウホウッ!! オメぇキタネぇぞ!」

 

 今更俺の行動を理解したようだが、もう遅い。ダイゴさんと合流する前に片付けてしまおう。

 

「ポケモン勝負でモミ潰してヤル!」

 

「御神木様、あれが相手のリーダー格だ。気を引き締めていこう」

 

「クギュルルルル!」

 

 今日の御神木様は技のキレもなかなか良いようだ。

 

「オウッホウッ! イけ、キバニアぁ!」

 

「グプン!」

 

 む、初手でキバニア? キバニアが初手で御神木様に有効な手段って何か覚えたっけ?

 

「キバニア! 【いかりのまえば】!!」

 

「グプッ!!」

 

「御神木様、相手が突っ込む前に【タネばくだん】!」

 

「クギュルルルル!!」

 

 ヤバイ、あいつそんな技覚えたっけか。直撃しても形勢は揺るがないが…………なるべく余裕を持っておきたいのに。

 

 今回は道が狭く、直線ではないせいでこちらまで来る前に撃ち落とせたが、これがもし近距離や水中、陣がなかったら今回まずかったかもしれん。ただ、キバニアは効果今一つの【かえんほうしゃ】で倒れる程度には紙耐久だから、タイプ一致弱点を掠らせただけでも致命傷になる。

 

「チッ、失敗したか…………行け! ポチエナ」

 

「ブフォー!!」

 

「ポチエナ、【かみつく】!」

 

「【やどりぎのタネ】発射!」

 

「クギュッ!」

 

 傷を受けながらトンネルを通ってきたポチエナに噛み付かれた状態で、【やどりぎのタネ】が発射され胴体部に当たる。わさわさと生えてくる宿り木が恐ろしい。【ステルスロック】と鉄の棘、【やどりぎのタネ】で既に満身創痍なポチエナとは対照的に、うちの御神木様は【かみつく】でできた傷が塞がってゆく。

 

「クソッ!! ポチエナもう一度【かみつく】だ」

 

「おいおい、語尾取れてきてんぞ? 【メタルクロー】」

 

「クッ!」

 

 本日絶好調の【メタルクロー】でポチエナを相手の方へ打ち返す。やけに余裕そうに見えるかも知れないが、今回の事は完全に対策しているのだから、こうなってもらわなければ困る。

 

 そんな風にまだまだ余裕だと思っていると、突然に予想外の一撃が壁の外から打ち込まれた。

 

「オイ、時間かけ過ぎだウシオ。撤退するぞ」

 

 青いバンダナを巻き、黒い服を着た奴の連れているグラエナの技で、壁が破壊された。マジかよ……幹部と首領全員で来てたのか。アレが俺の敵になるであろう人間、アクア団首領アオギリか。

 

 ……うん? あれ? ウシオってこんな格好だったっけ?

 

「ゴメンなさいアオギリのアニィ。ヘンなのに負けちまいました……」

 

 誰が変なのだこの野郎。それを聞いたアオギリは、こちらをちらりと見たあとすぐに手下を引き連れて走って去っていった。

 

 …………終わったのか? 終わったんだよな? やりきったんだよな俺。

 

 程なくしてダイゴさんから連絡が入り、アクア団が本当に撤退したことがわかった。【ステルスロック】を片付けてから合流すると、微妙な顔をしているダイゴさんが居た。

 

「どうしたんですか?」

 

「さっきアクア団のリーダーをやってるオトコと対峙したのだけれどね、その時にちょっとね……」

 

 色々とあったらしい。そんな状態のダイゴさんに言うのはどうかとも思ったが、今やっておかないとあとで問題になったりして面倒なので報酬の話をしよう。

 

「さて、ダイゴさん。報酬の件なんですけれど」

 

「ああ、とりあえずこの船の永久フリーパスとそれなりの資金。それと僕がトウカシティまで送るというのはどうだろうか?」

 

 永久フリーパスはありがたいな。でも仲間を探す為にこっちで旅をするつもりだから、使うのは当分先になりそうだな。資金もすごくありがたい。だが最後のが少しだけ引っかかる。

 

「送ってもらえるのはありがたいが、なんでカナズミシティじゃないんだ? 第一ジムはあそこだろうし距離もそこまで変わらないと思うんだが」

 

「親父といい石コレクションで競っていてね、次会った時に見せ合うことにしていたのだけれど…………」

 

 ああ、アクア団やマグマ団のせいで忙しくて集める暇がなかったと。

 

「なるほど、そういうことならこちらから言うことは、ピーピーエイドの代金を船が立て替えて欲しいぐらいだな」

 

「わかった。ではカイナシティに着いて必要なものを揃えたら、僕に話しかけてくれ」

 

 こうして船での事件は収束し、俺が帰るための、そして俺が【あいいろのたま】を持つ意味を知るための冒険が始まろうとしていた。

 

 




主人公は基本計画を立てて相手に挑んだ場合はそれなりに奮闘しますが、奇襲みたいなことをされると慌ててミスが連発したりします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。