パンジャンドラムにチート勇者をやらせてみた   作:蝋燭機関

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前の話を微修正しました


暴走

 魔法陣に魔力が流入し、それが既定値まで達する。

 目がくらむような閃光が放たれ、聖堂を包み込む。併せて突風も巻き起こり、周囲の土埃を巻き上げる。ここ最近の魔王軍による空襲で市街地には瓦礫が散乱しており、それが突風で巻上げられて視界を阻む。

 

「団長、これは一体……!?」

 

「少なくとも召喚術式は正常に作動したハズ…………召喚は成功…………え?」

 

 土煙が薄くなるにつれ、聖堂に集まった面々に、召喚されたそれは、その姿を露にしつつあった。

 

 

 皆が懍然とした様相で魔法陣の中心に出現した存在を見つめていた。

 それは円筒を巨大な車輪で囲んだ物体であった。車輪は人よりもずっと大きい。直径はざっと3メートルほどだろうか? 

 それはゴツゴツとした非生物的な体表を持ち、とても自分たちと同じ生命とは思えない。

 

 しかし、紛れもなくそれは勇者召喚でこの世界に現れた存在であることは間違いない。

 ならば、できるだけ下手に出て相手の気を損ねないようにするべきだ。

 

 

 そう考えて、国王がソレに話かけようとしたときだった。

 言葉が通じるとはとても思えないが、話しかけるよりほかに選択肢はない。

 

 過去の文献でも、話が通じなかったというような話はないし、この魔法陣にも相手の言語を理解する能力を召喚対象に与える機能がついているのだろう。多分。うん、きっと。

 

 

(え?)

 

 

 召喚されたその物体の車輪部分、そこに多数つけられた物体が突如として一斉に火を噴いたのだ。

 それは、まるで火山の噴火のようであり、生み出された推進力はソレ、いやパンジャンドラムを一気に加速、回転させた。

 

 

 「「あ!」」

 

 

 そして不幸なことに、暴走を始めたパンジャンドラムの進路には親衛魔導師団団長、通称"聖女"がいた。

 

 パンジャンドラムは一瞬にして、デ・ハビランド DH.82 タイガー・モスの最高速度並みに加速しており、聖女は容赦なく轢かれてしまった。

 そして聖女を昏倒させたパンジャンドラムは、そのまま勢いを失わず、聖堂正面の扉を突き破り、深夜の市街地へと消えていった。

 

 

 一瞬の出来事であった。

 

 

◇◆◇

 

 

「こ……これは!!?」

 

 パンジャンドラムが召喚されたのとほぼ同時刻、王国沿岸に存在するとある軍事施設で、監視員がうわずった声を上げる。

 

 そこには、この世界で広く普及した防空に使用される集音警戒装置が設置されていた。

 

 集音警戒装置は、飛行する物体の音を拾い、その位置や移動方向を明らかにする装置だ。

 仕組みとしては空中聴音機と同じものである。

 

 地球における空中聴音機は、その探知距離は非常に短かかった。

 だがここは魔法が存在するファンタジー世界だ。

 

 集音警戒装置の探知距離は最大で100マイル(約160km)にも及ぶ長大なもの。

 そして、100を超える大集団が接近していることを今捉えていた。

 

 

「通信士! 起きろ!! 本部に至急打電!!!! 王都南方120kmに敵の大編隊だ!! 騎数は100以上!!!」

 

 

 監視員が叫ぶ。

 その声に夜遅くでうつらうつらとしていた通信士が飛び起き、電鍵のような装置を叩いた。

 

 しかし魔王軍の竜騎士団を阻む王国の制空用ドラゴンは連日の空襲により、その戦力はほとんど残っておらず、頼みの綱は大魔導師による対空砲火だけ。

 

 それが王国の現状だった……

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 王都の上空を多数の黒い影が現れる。

 

 それは巨大なドラゴンの群れであった。

 

 優れた生物工学と魔導技術を有する魔王軍が、より遠くまで飛翔でき、より強力な爆撃魔法を行使できるよう作った戦略爆撃用の大型ドラゴンだ。

 

 その雄々しい翼は、端から端までは50.3メートル、全長は34.2メートルに達そうかという巨大さだ

 そんな大型ドラゴンが隊伍をなして空を征く。

 

 しかし、その巨大な翼は羽ばたいておらず、真横にピンと張られている。

 航空力学以外の方法で空を飛ぶ生物、それがドラゴンだ。

 なお、飛行用の魔法発動には独特の音が鳴るため、うるさいことで有名なあのTu-95よりもずっと大きな飛行音を伴う。

 

 

 

『諸君!まもなく目標だ!  我らに逆らう愚か者どもを焼殺するぞ!!!』

 

 

 300騎を超える大編隊、その中心付近のドラゴンに乗る魔族は、通信器を手に取り叫ぶ。

 黄金に輝く山羊のような角に、トカゲのような緑色の鱗を持った魔族だ。

 

 彼の名はヒルネム、魔王軍の四天王の一人である。

 

 本隊の上陸前に王国首都を爆撃する任務が彼には課せられていた。

 

 

 彼の指揮するドラゴンの大編隊は、数機からなる編隊を高度差をつけて、密集配置したものを多数形成していた。

 

 爆撃用の大型ドラゴンは、その頭部から強力な魔法を行使することができるが、これは威力は申し分ないが、弾速と発射速度が低く、敵の制空用ドラゴンに対抗するための武器として用いることは現実的ではなかった。

 

 そこで魔王軍は、大型ドラゴンの体表に宝珠と呼ばれる、魔法の発動システムを埋め込んだ。

 これには、大型ドラゴン側から魔力を供給することで、魔力弾を雨のように連射する魔法陣が組み込まれており、また必要に応じて魔力弾の発射方向を偏向することができる。これにより、敵のドラゴンによる攻撃を妨げることができる。

 

 しかし、ドラゴンに宝珠を埋め込める場所は、魔力供給の関係上制限され、またあまり多く設置すれば重量が増加し、飛行性能に悪影響を与えるため、どうしても死角ができてしまう。

 

 それを補うのが、四天王ヒルネムが考案し、コンバットボックスと名付けたこの陣形だ。

 この陣形により、各大型ドラゴンは魔力弾の死角を無くし、また濃密な弾幕を張ることで、強力な防御力を発揮した。

 

『こちら7番騎、前方に火災を確認!!』

『ほう、火災確認……パスファインダーはうまくやったか』

 

 先頭のドラゴンに乗る魔族からの通信が入る。

 パスファインダー、それは本隊に先行して爆撃し、目標を示す役割を与えられたドラゴンだ。

 

 ヒルネムもすぐに、その火災を発見し、ほくそ笑む。

 

 

(降伏すれば、少なくとも死なずにすむものを………。本当に愚かな連中だ。降伏すれば魔王様が下等生物に相応しい待遇を与えてくださるというのに…… 貴様らにその権利はない!! 炎に焼かれて地獄に落ちるがいい!!!)

 

 ドラゴンが行う爆撃。

 それは大型ドラゴン頭部から、油脂を生成する魔法をベースにした集束焼夷魔導弾を発射する。

 その集束焼夷魔導弾は空中で、より小型の焼夷魔導弾に分裂することで、広範囲を延焼させる。

 燃えさかる粘着性の油脂は、水をかけても簡単に消すことは出来ず、都市を焼き払うのに非常に有用だ。

 

 

 さて、まもなく目標上空だ。

 幾筋かの照空魔導灯(サーチライト)から発せられる光の束が、我々を補足するべく空へと放たれるが、その数はあまりに少ないというよりほかない。

 

 先頭のドラゴンがそろそろ集束焼夷魔導弾を放つころかと考えていた。

 

 ――その時だった。

 

 突然、地上から光の塊が上空へと飛んできて、前方にいるドラゴンに凄まじいスピードで突っ込んでいった。

 

 

 『は?』

 

 

 正体不明の攻撃を受けた大型ドラゴンは、胴体から真っ二つに切り裂かれたらしい。

 その体躯を真っ二つに切り裂かれた大型ドラゴンは、体内の魔導回路が暴走し、空中で大爆発を引き起こす。

 

 

『何だ!?何が起きている!?』

 

 ヒルネムは叫ぶが、その間にも再度の攻撃が迫っていた。

 

 それは光の玉であった。

 先の攻撃を行った"ソレ"は上空から降下するのと同時に、更にもう一体の龍を貫いた。

 

『あれは一体……!?』

 

 その光の球はどうやら、何かが高速で回転しているらしい。

 地上に落ちたかと思うとそのまま大地をしばらく駆け抜ける。そして再び上空へと矢のように上空へとうちあがり、僚機を撃墜する。

 しかも、今度は編隊の大型ドラゴンを攻撃した後、放物線を描くような軌道で弾道飛行するわけでなく、より一層回転速度とその飛翔速度を上げ、新たなる獲物を求めて、突っ込んでいく。

 

 

『く、くるなぁぁぁ!!!』

 

 コンバットボックスを構成する大型ドラゴンの宝珠から、真っ赤に輝く魔力弾が雨あられと放たれる。

 人類の操る制空用ドラゴン、或いは飛行ゴーレムを寄せ付けなかった恐るべき弾幕だ。

 

 しかし、相手はあまりに小さくかつ高速で、全くといっていいほど当たらない。

 それに、エアラミングのごとき戦術で、堅いドラゴンの表皮を何度も切り裂くあの怪物に当たったところで効果があるとは思えない。

 

『334番騎、被弾!!』

 

 当然のように、宝珠から放たれる弾幕を物ともせず大型ドラゴンを惨殺し、新たなるキルマークをソレは量産し続ける。

 

 

『ヒルネム様、ご指示を!!!』

 

『狼狽えるな! まだ戦力の過半は健在だ!! 敵がいかに強力といえどたかが一体!!!恐るるに足らず!! 前進せよ!!!!』

 

『『了解』』

 

 大型ドラゴンが一体、また一体と落とされる中、ヒルネム率いる大編隊は目標へと損害を顧みず進撃する。

 その先にあるのが死であるとも知らず………

 

 

◇◆◇

 

 

「すごいな……」

 

 

 王都の一角、護衛を伴い防空壕へと避難する国王は、遠い空で行われる戦闘を見て、そう言葉を漏らした

 

 聖女を轢き逃げしながら聖堂から飛び出したパンジャンドラムは、そのまま街道を突っ走ると飛びはね、建物の傾斜のついた屋根をジャンプ台のように使って遙か天空へと飛び上がる。

 それはまるで、インヴィンシブル級航空母艦、或いはクイーン・エリザベス級航空母艦の飛行甲板に装備されたスキージャンプから飛び出す艦上戦闘機を彷彿とさせる。

 

 

 そして異世界に召喚されたパンジャンドラムには所謂"チート"が与えられていた。

 パンジャンドラムに装備されたロケットは、本来彼(彼女?)につけられていたものより遙かに強力な出力であり、また推力偏向ノズルが備えられていた。

 

 一度上空へと飛び上がったパンジャンドラムは、推力偏向ノズル装備のロケットを使ってこまめに方向転換を繰り返し、敵へと突っ込んでいく。

 一体誰が出力の操作をしているのかは謎である。

 

 

「しかし、敵の数があまりに多すぎます。多勢に無勢。阻みきれるとは……」

 

 

 国王にそう報告するのは、先ほどパンジャンドラムに轢かれた聖女である。

 その体は一見華奢であるが、本体だけで1.8トン以上ある巨大なボビンに轢かれても、簡単にはしなないくらい頑丈であった。

 ただ無事では済まなかったらしく、身体中が包帯で巻かれてかなり痛々しい有様だ。

 それでも自分の足でしっかりと歩いているのだから、魔法様々である。

 

 

「ううむ……」

 

 

 確かに聖女の発言は的を射ていた。

 パンジャンドラムは異次元の領域の戦闘を繰り広げ、あの恐ろしい魔王軍の大型ドラゴンを次々と撃墜している。圧倒的な戦闘力だ。

 確かにあのままいけば、敵を全て倒しきるだろう。

 だが、大型ドラゴンの数はあまりに多く、それらが集束焼夷魔導弾を放つ前に全機撃墜できるかと問われれば……

 

 

『精霊召喚 【モンスの天使】』

 

 

 突如として、上空のパンジャンドラムの周囲に光り輝く矢が多数出現した。

 それらは、どこから推進力を得ているのか全くわからないが、一気に加速し大型ドラゴンへと次々と突っ込んでいき、小規模な爆発を引き起こした。

  

 それを翼に食らったドラゴンは飛行不能となって、その高度を急速に下げていく。

 

 

 『モンスの天使』

 それは地球の第一次世界大戦においてベルギーはモンスにて、ドイツ軍を攻撃し、孤立した窮地のイギリス軍を救った実際は存在しない都市伝説の弓兵部隊だ。

 

 

 それをパンジャンドラムが精霊として、モンスの天使の放った矢を召喚したのだ。

 精霊となったモンスの天使の放つ矢は、パンジャンドラム本体と比べれば質量が小さいため、一発一発の威力は小さい。

 

 しかし、魔法によりモンスの天使は強化されており、放たれた矢は当たれば爆発し、数発当たれば大型ドラゴンを撃墜しうるものとなる。

 誘導機能?近接信管?そんなものないよ。

 

 

 またその射程は著しく短く、数百メートルしかないが、それはパンジャンドラムの空中機動によって補われた。

 爆速で回転しながら宙を舞うパンジャンドラムから、次々と光の矢が飛び出し、大型ドラゴンを血祭りへとあげていく。

 

 それは虐殺といってよかった。 

 

 パンジャンドラムには、いかに高速で移動する小型の物体とはいえ、一応大型ドラゴンの宝珠から放たれた魔力弾が、全く効果がないとはいえ数発当たっているが、『モンスの天使』によって放たれる矢は超音速な上に、非常に小さく撃ち落とすこともできない。

 

 こうして、王国首都を襲った魔王軍の大型ドラゴン合計352騎は、異世界から召喚されたチート・パンジャンドラムにより、既に爆撃を終え、魔力が払底していたパスファインダーを除き、魔王軍四天王ヒルネムの乗るものを含めたその全騎が撃墜されたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




推力偏向ノズル装備パンジャンドラム
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