パンジャンドラムにチート勇者をやらせてみた   作:蝋燭機関

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There seems to be something wrong with our bloody ships today



血塗られた我が艦隊に、今日は少し問題があるようだ

『ナゴン様!! ピケット艦『マイオピア』より通信!!! 艦隊進路11時方向に未確認反応(アンノウン)多数!! 急速接近中とのこと!!……距離80NM(ノーティカルマイル)、速度240kt(ノット)!!!!!』

 

「へ?」

 

 艦内電話越しに部下からの切羽詰まった報告があがり、彼女の思考は突如遮られる。

 魔王軍の軍船には、魔探――魔力波探信儀(マジック・レーダー)の略称――即ち、見えない魔力でできた不可視の波、魔力波を輻射し、それが何かに当たって跳ね返り、こちらへと戻ってきた魔力波を観測することで、魔力波を反射したものとの距離や方位を知る探知装置が載せられている。

 

 ピケット艦とは、艦隊より突出し、搭載した魔力波探信儀(マジック・レーダー)により、敵航空戦力を、艦隊主力に辿り着く前に探知する役割を与えられた船である。

 

 この魔探と似たようなものに集音警戒装置*1があるが、あちらはどうしても設備が巨大なものとなり艦載にはむかず、またその性能も不安定な代物。

 

 そこで、魔王軍がこれらに代わり小型で量産に適した探知装置として開発したのが魔力波探信儀(マジック・レーダー)だった。

 

 これを含め魔王軍は先進的な航空管制システムを構築しており、人類圏の航空戦力、即ち竜騎士団を一蹴し、魔王軍の快進撃の要因となった。ちなみに、これらのシステムの構築で活躍したのが先日黄泉の客となったヒルネムである。

 

 魔王軍水上部隊においても、これら魔力波探信儀(マジック・レーダー)は、人類航空戦力との戦いにおいて有効に活用された。

 

 来襲する人類航空戦力は、遙か彼方から魔力波探信儀(マジック・レーダー)によって探知され、魔王軍の運用する優秀な制空用ドラゴンとそれを駆る熟練した騎士により、七面鳥のように落とされていった。

 

 

 そして今、魔王軍の魔探は、人類最後の大戦力たる王国による魔王軍艦隊への航空攻撃を事前に捉えていたのだ。

 

 部下からの報告を聞いた四天王ナゴンが、その細い指を振るうと、何もない空中にスクリーンのようなものが浮かび上がる。

 そこには己の位置を中心として魔探が捉えた反応を俯瞰するように表したもの、即ちPPIスコープ方式、大多数の人がレーダーの画面といったらコレ!と、思い浮かべる様式で示したもので、先ほど報告のあった地点に、多数の輝点が浮かび上がる。

 それら輝点たちは、画面中央から伸びる線が回転するごとに、画面中央へと徐々に近づく。

 

 

 それを見てナゴンは、参謀達へと問いかける。

 

「さぁて、どうやら王国の攻撃部隊みたいだねぇ? どうしよっか」

 

「よもや、王国竜騎士団に対艦攻撃を行えるだけの余力があるとは思ってもいませんでした……

 とは言え、この機数からして、よほどのヘマをしない限り、無傷でやり過ごせるでしょう。

 ですが、彼らはどうやって我々の位置を掴んだのでしょう? 偵察機もなしに…………

 敵味方識別信号にも反応が無い以上、彼らが友軍の訳もないですし……」

 

 

「ん~…… でも我々以外の動くものは、その全てが敵だねぇ? 敵味方識別装置に応答のない相手は、全て敵なんだし。じゃ、迎撃を始めよっか?」

 

「迎撃もですが、我々の位置が露見した以上、ドラゴンによる索敵半径の拡大を具申します。王国に余剰の航空戦力などほぼ存在しないかと思っていましたが、攻撃があった以上、万が一のために備えてです」

 

「うん。そうだねぇ。第83任務(空母機動)部隊には索敵もお願いしよっか」

 

 航空母艦は艦首を風上へと向け、波を切って増速しはじめる

 無論それは、王国航空戦力とみられる飛行物体迎撃のために、制空用ドラゴンを発艦させるために他ならない。

 

 風魔法を利用したカタパルトによって、加速された魔王軍の制空ドラゴンが飛行甲板を駆け抜ける。

 船から投げ出されたそれらは、重力によって僅かに落下するが、既に十分な揚力を与えられていた。彼らは直ぐさま上昇へと転じて上空で編隊を形成すると、王国攻略艦隊へと無謀な攻撃を試みる敵を迎え撃つべく、北東の空へと消えていく。

 

 その一糸乱れぬ美しい機動は、緒戦で消耗し熟練の竜騎士を次々と失い、その練度が著しく低下した人類圏の竜騎士団では望むべくもないだろう。量とドラゴンの質において人類の航空戦力を凌駕していた魔王軍航空部隊が、今や量と運用する制空ドラゴンの質のみならず、それを操る竜騎士の練度においても人類を上回った。

 そのような評価が驕りや油断によるものではなく、正当な分析であるということを感じさせた。

 

 

(やっぱり私たちが負けるはずがないよねぇ! うん! 少なくとも、あんな少数の攻撃隊で、この無敵艦隊をどうにかできるとでも思っているのかなぁ!!?)

 

 

 四天王ナゴンは、彼等の雄姿を見て、此度の戦闘でも魔王軍の勝利を確信する。

 今までも、今回も、そしてこれからも勝利は我々のもの。

 

 王国側に艦隊の位置が露見したのは痛いが、王国側の戦力は、かつて存在した大陸戦線に抽出されて、まともな装備と練度を維持した部隊はほとんど残っていないだろう。

 

 反対にこちらは、魔王軍の中でも各戦線で人類軍を撃破した精鋭魔族を輸送船に満載し、王国侵攻を前に十分な補給と入念な事前計画が存在し、なおかつ四天王である私がその指揮を執る。

 

 質・量いずれにおいても圧倒的な戦力差。

 ちょっとした奇計では覆しようのない絶望的な戦力差。

 

 それならば、奇襲効果が多少減じられようとも、魔王軍の勝利を疑う余地はない。

 恐れるとすれば、多少予定よりも大きい損失を被ることぐらいで、王国が魔王軍の手に落ちた後となれば、人類に残るのは石ころみたいな小国や零細国家の群れだけだ。

 

 そう、真の意味で恐れるべきものだど存在しないのだ―――

 

 

 

 彼女は知らなかった。

 

 『無敵艦隊』というのは、異世界では西暦1588年以来、所謂『フラグ』として扱われていることを。

 なお無敵艦隊という呼称が広まったのは1588年より大分後だというのが通説である。

 

 レーダーから得た情報が投影されていた空中映像。

 ナゴンが魔術によって、結界と光魔法を組み合わせ、何もない空間に映像を映し出したもの。

 

 それはまさに唐突であった。

 

画面の9時方向、つまり艦隊の横っ腹にあたる場所。そこにいくつもの光点が出現した。

 

 

 (――ッ!!!!)

 

 

 それを認めたナゴンは、差し迫った脅威を振り払うべく、脳を急速回転させる。

 だが、いかなる思考も命令も行うには、残された時間は余りに短すぎた。

 

 旗艦から見て右前方を航行する輸送艦メーネに何かが突入した。

 次の瞬間、輸送艦から"ナニカ"が飛び出すのとほぼ同時に目の眩むような光が視界を奪う。

 

 輸送艦メーネには、砲撃魔法で消費される魔石が満載されていた。

 これら魔石は砲撃で消費されるというだけあって、非常に敏感で爆発しやすく、取り扱いに際しては火気厳禁で下手に衝撃を与えてはならない危険物。

 

 あのような船体を切り裂くほどの衝撃に襲われれば、どうなるか?

 考えるまでもない。

 

 衝撃により、輸送船メーネに積載されていた爆発性の魔石は、連鎖的な誘爆を引き起こし、その船体を内部から破壊する。

 爆発により生じた巨大なキノコ雲が天高く立ち上り、その船体を木っ端みじんに破壊した爆風が、生暖かい突風となって艦橋に吹き付けた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 先日異世界よりこの世界へと召喚された大英帝国の遺産、パンジャンドラムは、王国上空にて魔王軍の大型ドラゴンの大編隊を殲滅した後、南方へとその進路を向けていた。

 そして『モンスの天使』に続く新たな精霊を顕現させる。

 

我が亡き後に(Après moi, )大洪水よ来たれ(le déluge)

 

 召喚されたのは、英軍がかつて有した名機『アブロ・ランカスター』、通称"ランク"。

 呼び出した精霊ランカスターに自らを積載させて、魔探では探知が困難な低空を飛行、魔王軍王国攻略艦隊へと忍び寄る。

 

 また、ただ積載されるだけではない。

 パンジャンドラムは分身し、己の分身を呼び出したランカスター各機に搭載していた。

 

 そして、ランカスターの編隊がいよいよ王国攻略艦隊に迫らんとしたとき、突然爆弾倉から切り離される。

 

 重力に引かれ、海面へと落下する重量1.8トンの金属塊。

 このままではこの物体は海面へとたたき付けられ、航空魚雷のように駛走するわけでもなく、海底で魚礁と成り果てるに違いない。

 

 だが、そうはならなかった。

 落ち行く金属塊に括り付けられた無数のロケット。

 それらに一斉に火がともり、その反作用によって巨大なボビンに進行方向に対して反対の回転が与えられる。バックスピンだ。

 

 そして高速で回転しながら海面へと落ち……跳ねた。

 

 跳ねる――跳ねる――跳ねる

 

 4発の重爆撃機より投下されたパンジャンドラムたちは、海面上をまるで水切り石のように跳ねて跳ねて、突き進む。

 それはまるで第二次世界大戦にてドイツのダムを破壊したアップキープ爆弾のよう。

 だが目指す先はダムではなく、忌まわしき魔王軍の艨艟共。

 ロケットの推力をこまめに偏向し、その軌道に修正を重ねる。

 

 そしてパンジャンドラムとその分身を投下の後、精霊ランカスターは高度を上げ、魔王軍王国攻略艦隊の頭を抑えるような位置へと向かった。当然その姿は魔王軍の魔探により捉えられた。

 それを自分たちへの攻撃隊と捉え、司令部は完全に油断していた。

 

 その隙を狙い、艦隊の横っ腹から殴り込む。

 分身たちの中で、一番槍を担うパンジャンドラムは、その狙いを魔王軍輸送艦に定めた。

 

 不運にも最初に襲撃を受けることになった輸送艦は、その舷側を突き破られる。

 内部に満載されていた魔石が誘爆し、大爆発を引き起こし、輸送船を轟沈させたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

『ゆ、輸送船メーネ、爆沈!!』

 

「一体何だ、何が起こったというのだ!!」

 

「恐らく、敵による攻撃です!!」

 

 

 順調に進んでいた航海。

 相手側の戦力は今まさに底を尽きつつあり、本土から遠く離れた海上においての邀撃は敵にとっても数少ない戦力を無駄に消耗するだけで、ほぼ考えられない。

 故に我々がいよいよ敵の領土に旗を掲げんがため、上陸を開始するそのときまでは、戦闘など起こりえない。

 

 そのような考えに反して、敵機らしきものが迫っていたとはいえ、余裕を持っての迎撃が可能であり、艦隊への被害は無いはずだった。

 

 一体何が起こったのか。

 敵の正体は何で、どうして艦隊への接近を察知できなかったのか。

 疑問はつきないが、輸送船を爆散せしめたのは何らかの攻撃であることは考えるまでもない。

 ナゴンは普段の口調も忘れ、直ぐさま発令した。

 

『ええいっ!総員戦闘配置につけ! 全術式使用自由(オールマジックズフリー)!! 叩き落とせぇ!!』

 

 その命令は、すぐさま艦隊の全体へと届けられる。

 しかし、これまでの連戦連勝から漂っていたある種の楽観が、突如として木っ端みじんに粉砕されたのだ。司令部は色めき立っていた。

 

 

「敵襲だとぉ!? 魔測員は何をしていた!? 寝てでもいたのかぁ!!?」

 

「直前まで対空魔探にも対水上魔探にも反応はなかったハズ…………ならば一体が襲ってきたというのだ!!! それも輸送艦を一撃で沈められるような攻撃をできるような存在を感知できなかったというのだ! 直掩騎はなにをやっている!!!」

 

 参謀たちは、あまりに突然な襲撃に対する驚きと、それを事前に予防できなかった部下への怒りをにじませる。

 

 

 (この無能どもめが!)

 

 

 先ほどのレーダーに移った輝点は一つだけではない。

 この艦隊は今まさに奇襲を受けている最中なのだ。

 ナゴンに仕える参謀は、開戦初期の魔王軍と人類側の戦力が比較的拮抗していたころのものはほとんどいない。

 いないこともないが、ここ最近の連戦連勝に慣れすぎていた。

 

 これに関してはナゴンも彼らのことはあまり強く非難できないと自省はしたが、いくらなんでも彼らの狼狽ぶりは酷すぎた。

 

 先ほど魔探が捉えた反応も一つではない。

 次の攻撃がすぐにでも来る。

 

 輸送船を火達磨にした謎の物体。

 それが隊伍を成してやってきたのだ。

 

 

 (流石にアレは、部下だけに任せてはおけない…荷が重すぎるね…)

 

 

 最早役立たずと化した幕僚たちの様子を尻目に四天王ナゴンは、どこからともかくステッキを取り出した。

 それは白い杖であった。先端にはカリナン・ダイヤモンドが小ぶりに思えるほどの大粒の金剛石のような宝珠が据えられていた。杖が白いのは、その素材が魔王軍が殺害した大魔導師たちの人骨であったからだ。

 

 杖は魔力の指向性を向上させ、使用者がより複雑な魔法陣を組むことを可能とする。

 魔法の行使は、杖を使わずとも可能である。

 

 この世界の魔法は、作成した魔方陣に魔力を一定量流し込むことで発動するのだが、杖無しでは上手く魔法陣を描くのも困難であるし、また魔力が効率よく充填されず余計に消費してしまう。

 

 だから、この世界の魔導師は杖を使うのだ。

 杖の素材としては、高い魔力を有する魔獣の骨が最適とされる。

 

 ただ、それ以外にも杖の素材として適したものが存在する。

 高い魔力を持った魔導師の人骨である。

 

 生まれながらにして高い魔力をその身に宿し、長年魔法を行使し続けてきた魔導師の骨は、魔獣に勝るとも劣らぬ良質の素材となるのだ。ちょうどいいのは壮年期の魔導師の骨。あまりに年を取り過ぎると骨が脆くなって素材としてはあまり適さなくなるからだ。

 

 とはいえ材料としての質は魔獣とさほど変わらないし、人道上の問題、そして貴重な大魔道士を態々杖の素材のためだけに命を奪うのはあまりに不経済であり、人類圏では杖の素材として人骨は非常にマイナーであった。

 

 尤も魔王軍はこれらの経済性や、こと人道の問題とは無縁の存在である。

 とはいえ魔王軍にも人骨の供給性の問題は存在するため、あまり多くの量は出回らず、魔王軍の魔導師に支給される杖は、大半が人類圏と同じような魔獣の骨を利用したものだった。

 

 だが、その希少性のために魔王軍では人骨製の杖はある種のステータスじみたものとなっており、序列の高い魔族は人骨製の杖を愛用するものが多い。四天王であるナゴンもその口だ。

 

 

 ナゴンの愛用する杖は自ら殺害した大魔道士の骨を材料としたものだった。

 

 その杖の先端に嵌められた大粒の宝珠にナゴンは一度唇を落とすと、詠唱を開始した。

 

 

「■■、■■■■!」

 

 

 すると、ラゴンの手にするステッキを中心として青く輝く魔法陣が床に描かれる。

(…ふふっ! ヒルネムの戦略竜騎士団を壊滅させたからといってぇ、調子に乗らないでくださいねぇ!)

 

 それと連動するように魔王軍艦隊の戦闘艦艇の主檣が同じ青い輝きを纏い始めた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

戦列艦『エンペネ』

 

「右舷宝珠群、対空射撃準備!! 右八○、仰角三!! 術式"対空"!!」

 

 

 戦列艦エンペネの両舷に埋め込まれた、大小様々な多数の水晶のような球体たち。そのうち右舷のものが淡い光りを帯び始める。

 魔王軍の戦列艦は、その両舷に大砲の代わりに、宝珠と呼ばれる魔法を発動する装置が埋め込まれていた。宝珠には予め魔法陣が刻み込まれていて、これに魔力を流すことで、それぞれの魔法陣に対応した魔法の攻撃を放つことができる。

 光はまるで溶鉱炉で溶かされた金属のように真っ白で、より強烈なものへとなっていく。

 

「右舷宝珠群、魔力充填完了!!!」

 

「照準よし!!」

 

「撃てぇっ!!!」

 

 マスト上部に据えられた高射指揮装置。

 それが光学的に知り得た対象の諸元が各宝珠へと伝えられた。

 戦列艦エンペネを始め、王国攻略艦隊を構成する艦船、そのうち謎の飛翔物に対して射撃可能な位置を航行していた船から、色とりどりの光弾が放たれる。

 艦隊から放たれる光の弾丸は、水面上を跳ねながら猛烈な速度で突貫してくる物体を照準していた。

 

 

「撃て! 撃て! 撃て! 撃ちまくれぇぇぇ!!!」 

 

 

 宝珠から放たれる魔法攻撃はまるで嵐のよう。

 それらは目標にぶつかると爆発するもの、発射から一定時間たってから爆発するものなど、実に様々な形態をしている。

 

 

 先日王都を灰燼に帰すべく飛び立ったヒルネム様麾下の大型ドラゴン編隊が、正体不明の発光物体に対して宝珠による魔法の弾幕でその攻撃を阻もうとしたが、敵の重装甲のために攻撃が阻まれ、効果がなかったらしい。

 もし今右舷側から突っ込んでくるあの物体が、先日彼らを襲った物体だとすると、小型の宝珠による弾幕では効果が薄いだろう。

 だが大型ドラゴンに埋め込まれていた宝珠とは違い、艦船には艦載の大出力魔導炉をその動力源とすることにより強力な魔法攻撃を撃つことのできる大型の宝珠も搭載されている。

 

 例の物体の迎撃には力不足かもしれないが、当たれば軌道をそらすなり、海面下へと脱落させるなど一定の効果が見込めた。

 故に各艦の射手たちは、精一杯に狙いを定める。

 

 しかし、それらの見込めるであろう効果は魔法が当たって初めて発揮されるもの。

 高速で移動する物体にはまるで当たらない。

 

 

「ああっ! 『エーデル』が!!」

 

 

 戦列艦エンペネの乗員は悲劇を目撃する。

 暴風雨のごとき密度と勢いで打ち上げられる対空魔法。

 

 それらをものともせずに敵飛翔物体は、魔王軍の航空母艦『エーデル』に襲いかかった。

 航空母艦エーデル直上へと差し掛かるや、無数の白く光輝く矢が射出され、飛行甲板に駐騎していたドラゴンたちへと襲いかかる。

 

 

 ドラゴンは航空力学に頼らず、魔法の力で空を舞う。

 魔法で重力に逆らい、魔法で空戦機動を行い、魔法の攻撃で敵ドラゴンを撃墜する。

 

 ドラゴンというのは大飯喰らいの生体航空兵器なのだ。

 故にドラゴンが空中でその魔力を欠乏すれば墜落は免れない。このような事態を防ぐため、またドラゴンの戦闘行動半径を増大させるため、そして飛行を終えたドラゴンを再度飛行させるまでの時間を短縮するため、様々な方法が研究され、そして実用化された。

 

 その中でも最も有用なものが血を用いた方法である。

 鉱山より産出される魔石、それを一度気体にし、精製したものを特殊な溶媒に溶解し、それをドラゴンにまるで注射のように投与するというものだった。

 

 この方法はほかの方法より迅速にドラゴンの魔力を回復することが可能で、国籍を問わず竜騎士団で広く採用され、この世界のスタンダードと化していた。

 もちろん魔王軍も同様の手法でドラゴンを運用していた。

 

 つまりドラゴンの血液は魔石より抽出した成分が高濃度で溶け込んだ代物。

 それ故に僅かな火種でもあれば直ぐさま発火し、空母内での取り扱いは細心の注意を払って行う必要がある。

 

 そして航空母艦エーデルの飛行甲板上で飛び立つのを今か今かと待ちわびていた各ドラゴンの血は魔力を豊富に含んでおり、そこに『モンスの天使』により放たれた爆発性の矢が襲いかかる。

 

 『モンスの天使』の矢の爆発力は、謎の飛翔物体がヒルネム隷下の王都爆撃部隊に対して用いたときよりも強化されていた。

 

 甲板上で発艦を待っていたドラゴンは、矢の爆発によりその尽くが吹き飛ばされ、薙ぎ払われる。

 ドラゴンの体表面がズタズタに引き裂かれ、体内を循環していた高魔力血液が漏れ出した。

 そして高熱と衝撃にさらされ、爆発的な反応を起こす。

 出現した火球は、比較的外傷の軽微だったドラゴンを飲み込んでいく。

 

 航空母艦エーデル艦上に猛烈な閃光が走り、飛行甲板は火の海と化した。

 

 

「おのれ!! よくも空母を!!」

 

 

戦列艦エンペネの艦長は燃え盛る空母を睨み付け忌々しげに言葉を漏らす。

しかし、事態は待ってくれない。

 

「右90度、水平線上に新たな敵騎!!」

 

 艦の見張り員が絶叫する。

 報告にあった角度に視線を向けると、先ほど空母エーデルを火達磨にした謎の飛翔物、それと全く同じ姿をした物体が、海面をはねるようにして向かってきていた。

 

 

(くっ……これでは防ぎ切れん! 相手が速すぎる!!)

 

 

 基本的に航空戦力に対空砲火というのは非常に当たりにくい。

 時速にして数百キロの速度で、三次元空間を自由自在に飛行するドラゴンに対しての攻撃。それより遙かに遅い速度で、しかも平面を移動することしかない艦船や陸上目標を狙うのと比べ、その難易度は著しく高い。

 相手の諸元を計算し、対空攻撃を統一指揮する高射指揮装置の導入や直接攻撃が命中せずとも、発射から設定時間後に魔法攻撃を周囲にばらまく機構を魔法に組み込むことで、ドラゴンへの対空砲火の命中率は飛躍的に上昇した。

 しかし、たった一発の命中を得るのに放つ魔法の数は千発を超えるのだ。

 これは人類圏よりも高精度な魔導演算装置を持つ魔王軍でもそう大差はない。

 

 そもそも 対空砲火というのはスナイパーのように、狙い澄ました一撃必殺の弾丸を撃ち込むものではない。

 魔王軍が魔法攻撃を効率的に投射するために使用する宝珠というのは、ある種の工業製品であり、当然その工作精度には、一定のばらつきが存在する。

 そして、それは空中を軽快に機動するドラゴンを撃ち落とすという場面においては、無視できない差となって現れてくる。

 

 それに風力や温度、宝珠が据えられた艦自体の運動や宝珠の魔導回路の摩耗などといった環境の違いも存在する。

 宝珠から一度魔法攻撃を撃ったとして、その後すぐに全く同じ方向を指向させて攻撃を行っても、その魔法攻撃が先と全く同じ位置で炸裂することなど、まずありはしない。

 

 また演算装置が目標の諸元を計算するといっても、ドラゴンもまた思考する頭脳を載せているのだ。計算したのと全く同じ軌道を取ることなどありはしない。

 尤も演算装置を含めた管制システム無しでの命中など期待できないし、管制システムの性能が高性能であれば、あるほどいいのだが。

 

 

 故に対空砲火というのはスナイパーの心構えで行われるものではない。

 

 演算装置が計算した敵が未来において存在であろう位置の周囲に、あらんかぎりの攻撃をばらまいて弾幕を張り、運良く敵が攻撃に絡め取られるかを期待するものなのだ。

 たかが一門の砲では何もできないのだ。

 

 それに対空砲火ほどではないが、空から移動する艦船を狙い撃つというのも相当に難しく、それなりの練度が必要となる。

 攻撃のためにあまりに明け透けな軌道で飛べば、それこそ演算装置が計算したとおりのルートで飛行することになり、撃墜されるリスクも当然上昇する。

 だから艦船側も対空砲火が命中せずとも、対艦攻撃用ドラゴンの攻撃を妨害することが可能なのだ。

 

 

 だが、今この場合においてはあまりに無力であった。

 確固たる決意を持ち、猛烈な速度でもって突貫してくる敵飛翔物体。

 それを撃墜するには魔王軍は力不足すぎた。

 

 このまま続けていれば、やがては敵飛翔物への命中弾は出るかもしれない。

 しかし、それまで一体どれだけ時間がかかる?

 一体どれだけの船が犠牲になる?

 この一瞬で空母が一つ戦闘能力を喪失した。

 あの様では、洋上での修復など不可能だ。

 

 沈没はもしかしたら避けられるかもしれないが、港まで回航して、時間をかけた修理を行う必要がある。

 しかし、それは敵を追い払い、何者の邪魔も受けず消火活動と曳航が行える場合だ。

 そもそも、敵をすべて落としきれるのか?

 

「くそぉ……」

 

 戦列艦エンペネの艦長には明るいビジョンがまるで浮かばない。 

 だが艦の指揮官として狼狽える訳にはいかない。

 指揮官の動揺は、部下に伝播するのだ。

 

 そうなれば艦の戦闘能力が低下するため、動揺は見せてはならない。

 絶望的な状況でこそ、努めて勇敢に振る舞わなければならないのだ。

 そう自分を叱咤激励し、鼓舞していた。

 その時であった。

 

 

「艦長!旗艦より通信です! ナゴン様より法術支援が来ます!」

 

「おお!有り難い!!」

 

 

 見やれば、戦列艦エンペネをはじめ、魔王軍の戦列艦や巡洋艦、フリゲートといった戦闘艦艇のメインマストが青く輝き始めていた。戦闘に支障が出るほどの眩さは無いが、力強さを感じさせる輝きだった。

 

 そしてメインマストの直上に、立体映像のような巨大な魔法陣が展開される。

 一つの巨大な球状の魔法陣を中心として、その周囲に無数の魔法陣がまるで衛星のように展開されていた。

 それが多数の軍艦の真上にて形成されていた。

 通信ではない、四天王ナゴンによる念話(テレパシー)が艦隊に響く。

 

 

『さぁ、全艦対空戦闘ぉ!!』

 

 

次の瞬間、艦隊の頭上に展開された無数の魔法陣から、迫り来る飛行物体たちへ向かって激しい光弾の嵐が放たれる。先ほどまでに四天王ナゴンによる法術支援抜きで放たれる攻撃も苛烈なものではあったが、今行われているそれを嵐とすれば、先までのものは小雨に過ぎないように思えた。

 四天王ナゴンによる法術支援とは、主力艦のマストを巨大な魔法の杖に変貌させ、各艦の上空に魔法陣を展開し、ナゴンにより統一管制された強烈な砲火を放つというものだ。

 

 艦頭上に展開された魔法陣には、魔力波探信儀(マジック・レーダー)と同様の仕組みではあるが、より波長の短い魔力波を輻射、より精度の高い相手の諸元を入手し、その情報を元に火器管制を行う術式が仕込まれたものが含まれている。尤も一部は今まで通りの光学的な照準が行われるが。

 

 しかも、今回は対空砲火というだけあって、放たれる魔法攻撃にも魔力波を飛ばす仕掛けが組み込まれていた。接触や時限式ではなく、魔法攻撃が敵の近くにいくだけで、魔力波が敵を捉えて、魔法攻撃が敵の近傍で炸裂するのだ。ナゴンがマジック・ヒューズと名付けた仕掛けだった。

 

 魔王軍の機動部隊が人類圏の航空戦力を圧倒するまで、魔王軍艦隊の最後にして最強の盾として働いてきた無敵の防空網。それをたやすく突破するのは、魔王軍ですら不可能とされた。

 

 

 それが…いとも簡単に破られる。

 

「ダメです! 対空砲火、まるであたりません!!」

 

「ナゼだ!何故当たらん!!!」

 

 魔法陣から放たれる濃密な弾幕を飛翔物体は鮮やかにすり抜ける。

 対空魔法は目標を正確に照準できていないのだ。

 また炸裂の位置も目標とは離れていた。

 

 

(海面のノイズか!!)

 

 

 冷静に考えれば訳もないことだった。

 魔力波探信儀(マジック・レーダー)及びナゴンの魔法は、魔力波を輻射している。

 そして、それが何かに当たって反射したものを検知することで相手の位置を掴んでいる。

 これは水平面より上方であれば何の問題もないのだが、水平面以下に対して魔力波を飛ばすと、海面が飛ばした魔力波をすべて反射し正常に作動しなくなる。

 

 正体不明の飛翔物体は海面20メートルにも満たない超低空を跳ねながら魔王軍の艦船を狙っていた。

 正確に探知できないのは当然だった。

 

「ああ………!!!」

 

 

 副長が口をあんぐりと開け、呆然とした様子で嘆く。

 正体不明の飛翔物、もといパンジャンドラムの分身体はナゴンによる濃密にして苛烈極まる対空砲火をものともせずに海面を走り抜け、空母へとその刃を向けた。副長に遅れて左舷を見やれば、火だるまになった巨艦が一隻から二隻へとその数を倍増させていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

王国攻略艦隊 旗艦

 

 

『空母エーダーゼーより通信! 注排水限界突破、ダメージコントロール不能とのこと!!まもなく転覆します!』

 

『戦列艦リスターより入電。『我、航行ノ自由ヲ失エリ。我、航行ノ自由ヲ失エリ』』

 

 

 戦闘開始から2時間近くが経過しようとしていた。

 ナゴンの座乗する魔王軍の王国攻略艦隊旗艦には、椀子蕎麦どころか、処理しきれないほどの損害報告が届けられる。

 14隻あった航空母艦はその全てが戦闘能力を喪失し、3隻は既に海面下に没していた。

 それ以外の艦で未だに戦闘能力を維持しているのは半数程度しかない。

 王国攻略艦隊は壊滅状態だった。

 

 

「ぐっ…………!!!! おのれ…おのれぇ……!!!!!」

 

 

 ナゴンはその端正な顔を真っ赤にし、今にも憤死しそうな形相で呪詛を吐く。

 

 

 (ダメだ、これではダメだ 今からでも転進し、撤退するべきか?)

 

 

 ナゴンは顎に手を当て思考を巡らせる。

 

 魔王様は、作戦の失敗に対しては異常に厳しい。

 すでに艦隊は半数が航行不能か沈没、主力である航空母艦も大半が航行不能となっており、未だに戦闘が続くこの状況では、更に被害は増し、空母は一隻も持って帰れないだろう。

 

 作戦を中止し、しかも相手に損害らしい損害を与えることなく、無意味にこれだけの艦船と人員を消耗したのだ。

 私の更迭は免れないだろう。物理的に首が飛ぶ可能性すらある。

 

 

 (だけど、この作戦は既に破綻している!)

 

 

 すでに作戦は破綻し、遂行不可能であることが判断できる程度にナゴンは冷静であった。

 破綻した作戦を無理に推し進めるべきではない

 仮にこのまま王国へとの進撃を命じれば、さらに損害は増え続ける。

 運良く王国に接近できたとして何ができるというのだ?

 

 王国にたどり着く頃には空母は沈み、砲力もわずかしか残っていないだろう。

 傷だらけの艦隊だ。

 

 あの飛翔物体と王国の同時攻撃を受けることになる。

 王国が如何に戦力をすり減らしているとはいえ、あまりに無謀な攻撃。

 やる意味などない。

 

 ならば、己の立場を犠牲にしてでも艦を魔王軍の占領地域まで返さねばならない。

 熟練した乗員ならば比較的短時間で用意できるが、艦船は用意するのにもっと時間がかかる。

 人類では艦船より熟練した乗員を用意する方が時間がかかるが、魔王軍は魔族の特性のために逆であった。

 

 ナゴンは部下に撤退を命じるべく、その口を開こうとした。

 だが、できなかった。

 

 

 見敵必殺というやつである

 

 見逃される筈などない。

 見逃される理由などない。

 見逃されることなど決してない。

 

 

『本艦正面に敵飛翔物体!!!!!』

 

 

「え……?」

 

 ドラゴンや飛行ゴーレムなどの航空戦力から放たれる攻撃が、自分に直撃するかどうかを把握するのはそこまで難しくない。

 自分に向かって来るときは、一つの点が徐々に大きくなっていくように見えるのだ。

 それはまるで長い針を針先から見つめるようなもので、生理的な嫌悪感を抱いてしまう。

 

 そして丁度目の前から迫ってくる飛翔物体(パンジャンドラム)は、一つの点のように見えた。

 これまで感じたことのない本能的な、生命の危機を感じさせる恐怖がナゴンを襲う。

 

 「ひっ!」

 

 

 四天王ナゴンは魔法で結界を張ったり、部下に何かを命じたりすることもなく、その細い腕で思わず顔面を覆った。

 だが、ナゴン本体自体の耐久力は、人間の、それも特に魔力を持たない一般人とそう大差はない。

 

 パンジャンドラムが生み出した分身体、そのうち一体は、魔王軍の王国攻略艦隊を構成する船を多数沈めた後、航空母艦に次ぐ排水量を誇る艦隊旗艦、その籠状マストのような形状をした艦橋の頂部に直撃し、巨大な爆炎を生み出した。

 

 艦橋に詰めていた幕僚たちは、痛みを感じるまもなく高温の業火にその体を焼かれた。

 船体そのものを破壊されなかった旗艦の甲板や海面に、爆砕された構造物やついさっきまで生きていた者の残骸が落下していく。

 

 その中には、ダイヤモンドのような大きな宝珠や、焼け焦げたフリルのついた服が含まれていた……

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

第二帝国跡地 旧ルーキ市

 

 かつて栄華を誇った第二帝国の軍港は魔王軍の手に落ちていた。

 魔王軍の海上戦力は、王国攻略作戦のためにこの港から出撃しており、港には魔王軍の旗を掲げた軍艦や輸送船が停泊しているが、その数は少ない。

 

 王国攻略作戦は魔王軍が実行した揚陸作戦の中でも最大のものであり、そのための物資を集約するために、一度は徹底的に破壊したルーキ市のインフラは魔王軍の手により再建が成され、一大軍事都市として再興していた。尤も再建はかつての住民を使った過酷な強制労働の賜物ではあるのだが。

 

 そんな多くの人の犠牲によって作られた町。

 その港近くにある大理石でできた建物には、四天王旗が掲揚されている。 

 

 

『第八艦隊は何処にありや、全世界は知らんと欲す』

 

 

「ダメです。全く応答がありません」

 

「そうですか……本当に全滅してしまったのですかね?あまり考えたくはないのですけどね」

 

 

 部下からの報告に、眼窩に緑色の炎を宿した水晶骸骨が応じる。

 その体には肉は一切なく、水晶でできた人骨が服を着て立っているように見える。

 彼女は、魔王軍の四天王の一角、スオードである。

 

 

 彼女は王国攻略艦隊からの通信が途絶えて以降、ずっとその応答を求める無線を発していた。

 王国攻略艦隊からは敵襲により艦隊が大損害を受けているという旨の通信が大量に届けられていた。

 

 一見してそれらは要領を得ないものではあったが、通信で報告される敵飛翔物体の特徴は、先日ヒルネムの部隊を壊滅させたという物体に対して生き残りのパスファインダー乗員が述べたものと酷似していた。

 

 (この短時間で我々にこれだけの損害を……。由々しき事態ですね……)

 

 四天王スオードは頭を抱える。

 想定などしていなかった新たな敵の出現。

 それも四天王二人とそれが指揮する部隊をこの短期間で葬るほどの戦闘能力を有するのだ。

 

 あとは痩せ細った王国を倒してゲームセットといったところに、戦略を根本から見直す必要が出てきたらしい。

 面倒なことこの上ない。

 

 そう窓の外を見ながら思案しているとき、不自然なものが見えた。

 それは一見、何の変哲もない魔王軍のフリゲートに見えた。 

 今は夜間未明であるが、港湾に設置された照空魔導灯(サーチライト)によりその姿は照らされてよく見えた

 

 

「あの小型艦は何ですか?」

 

「我が軍の軍艦旗を掲げていますし、普通に我々のフネでは? ですが、今こちらへと軍艦が回航されるなどという話は聞いていま…」

 

 

 部下の魔族がその先を言うことはなかった。

 

 眼前で照らされた魔王軍のものであったハズの小型帆船。

 その艦影がグニャリと揺らぐ。

 

 

「幻影魔法ですか!!」

 

 

 幻影魔法。それは光を歪める物理的な方法、または相手の認識能力を歪ませることで、存在するものを存在しないよう、あるいは異なったものに見せかける、もしくは存在しないものを見せたりする魔法の総称だ。

 木製であったはずの船体が、鋼鉄でできた灰色の姿へと変わっていく。

 艦上には帆の張られたマストはなく、代わりに箱のような物体や小さな塔のようなものが多数屹立していた。

 小さな塔の一部からは、何か筒のようなものが生え、船体中央の一際高く大きな塔からは黒煙が立ち上っている。

 

 艦上にあるものは何に使うのかよくわからない装置ばかりであり、不気味な船であった。

 そしてそのマストには今まで見たことのない旗が掲げられている。

 

 四天王スオードは人類圏の海軍が使う旗、艦艇をすべて記憶していた。

 だが、いくら記憶を振り返ってもあのような旗や軍艦を使っている国など覚えがなかった。

 

 しかしわざわざ幻影魔法で己の姿を偽装し、ここまでやってきたのだ。

 ヒルネムやナゴンを襲ったものと姿は違う。だが間違いなく敵だ。

 魔王軍以外を全て敵と定義しているので、味方ではないということは敵ということである。

 

 四天王スオードの考えと、沿岸に据えられた宝珠を用いた魔法砲台の射手たちの考えは同じだった。

 

 沿岸の魔法砲台が轟然と射撃を開始し、その砲撃は放物線を描き、海面にいくつもの水柱が発生する。

 砲撃は徐々に精度をあげ、敵への命中弾も出始めるが、敵は止まらない。

 艦上から立ち上る黒煙の勢いを一層あげ、増速しながらこちらへと向かってくる。

 

 そしてついには港の乾ドックの水門に突入し、乗り上げた。

 次の瞬間、謎の艦艇の右舷側に閃光が生じる。

 

 その閃光は高速回転する物体から生じているらしく、それはまるで光の球のようになって港を駆けていく。

 港にいた魔族たちがその進撃に巻き込まれ、轢き逃げされ、跳ね飛ばされていく。

 

 一体どれだけの速度が出て行くのだろうか?

 その光の球はあっという間に地平線の彼方に行って見えなくなってしまった。

 未明とはいえ起きて警戒していた魔族はいたが、対応する暇もなかった。

 

 

 それからというもの、謎の艦艇にも動きはないようなので、襲撃への対応が開始された。

 四天王スオードは庁舎の会議室にて報告を受ける。 

 

「…損害はほとんどないようですね………」

 

「生じた被害は乾ドックの水門に軽微な損傷と、警備兵と工員に死傷者が20名程度だけですからね」

 

 襲撃の派手さの割には、魔王軍が被った被害はほとんどないに等しかった。

 

 物的な被害はドックの水門に多少の損傷が生じたぐらいで、すぐに修復が可能だった。

 人的な被害も死者や重傷者が出たものの、その数は少なかった。

 

 

 どうやらあの光の球は魔王様が居城を構える旧第二帝国の帝都ヴェアリーンに向かっていったようだが、既に中央への報告は完了している。

 そして損害も軽微となれば、話題は港に残された謎の艦艇に移っていく。

 

 

「しかしスオード様、港に残されたあの船は如何いたしましょう? あの発光物体を射出してからまるで動きがありません。調査員を派遣していますが船内には人っ子一人おりません。」

 

「ああ、あれですか。詳細の調査は日が昇ってから行いましょう。今はどうやら壊滅したらしい王国攻略艦隊への対応もありますし、この暗闇ではまともに調査もできません。調査には私も加わります」

 

 

 その後の議題はスオードの言ったとおり、王国攻略艦隊や発光物体に関するものへと移ったが、それらへの対応に関しては、日が昇ってから対策会議を改めて開くということで、この会議はお開きとなった。

 

 こうして彼らの運命は決定した。

 当然だが、件の艦艇の正体は、パンジャンドラムが召喚した精霊のうち一体だった。

 しかし、その精霊は所業から連想される、かつてフランスのサン・ナゼール港を強襲したタウン級駆逐艦の一隻ではなかった。

 船体に描かれたペナント・ナンバーは『K271』

 精霊の正体はリバー級フリゲート『プリム』であった。

 

 

 

 その日の正午、ルーキ市にTNT爆薬25キロトンに相当する『ハリケーン』が吹き荒れた。

 地上に太陽の如き閃光が生じ、文字通り身を焼かんばかりの熱線、続いて超音速の衝撃波が来襲する。

 四天王スオードや同市に駐留していた魔王軍、収容所で強制労働を強いられていた人類圏の捕虜。

 この日、この時間、この場所にいた全ての命は平等に死が与えられた。

 

 

 

 

*1
前々話参照。超高性能ファンタジー空中聴音機




暇潰しに書いているのでクオリティと投稿頻度には期待しないでください……
しかもチャスタイズ作戦のはずがビスマルク海の米軍みたいになってしまったし……


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