ライブまで残り僅か。数少ない日数の中で、かのんと可可は練習をこなしていった。
彼女たちの凄まじい熱意は、始や千砂都の課したメニューに食らいついていく。すべてはフェスで1位を取るため。これからも2人でスクールアイドルを続けていくため。
「短期間でここまでできるなんて本当にすごいよ!」
「でも……もう無理ぃ~」
「ハハハッ、かのんもクゥクゥもお疲れ。2人とも頑張った。後は本番だ」
最後の追い込みを終えた2人。肩で息をしながらもどこか清々しさを感じさせる。本番は明日。スクールアイドルに触れてこなかった彼女たちを見れば直前までやるべきなのかもしれない。しかし追い込みすぎて本番に支障があっては意味がない。そんな判断から明日は軽いフォーメーションの確認だけとなっている。
「はぁ……はぁ……はぁ……頑張りマス……」
「それでいい。よし、体を冷やさないうちにストレッチして帰ろう」
「じゃあまた明日学校で!」
千砂都の声と共にそれぞれの帰路に就く。夜でも相変わらず賑やかな街で、始とかのんは肩を並べて歩く。
「始くん、ホントにありがとね。練習付き合ってもらって」
「お礼なんていらないよ。俺がやりたくてやったことだし、それで俺の経験が少しでも役に立ったのならそれで」
「でも本当に助かったんだよ」
「はいはい」
「適当に聞き流してない?」
「別に~」
他愛のない会話を繰り返しながら道を進んでいく2人。そしてこの数日の練習から感じたことを始はかのんへ投げかける。
「にしても、この数日は随分熱が入ってたよな。こっちも練習メニューちょっとキツくしちゃった」
「あ、やっぱり? どうもキツイなって思ったんだよね。キツすぎて後で絞めてやろうかと思った」
「こわ……」
「冗談冗談! でも熱が入ってたのは本当。クゥクゥちゃんも頑張ってるし、なにより……私とステージに立ちたいって言ってくれたから」
「そっか」
かのんの真っ直ぐで力強い瞳。可可の思いを無駄にしたくない、自分のできることを精一杯頑張りたいという気持ちの表れだ。
「頑張ってるよかのんも」
「ありがとう。でも、こうなれたのは始くんのお陰でもあるんだよ」
「……え?」
突然のことに間の抜けた声を発する始。
「あの時……怪獣が来た時にさ、始くんは自分の気持ちに嘘を吐くのは終わりにするって言ったでしょ? その言葉があったから私は可可ちゃんとスクールアイドルをやりたいって言えた。まあ、歌えるかどうかはわからないけど……でもキッカケの1つは始くんだった」
あの時は自分に言い聞かせるため、過去の自分とある意味での決別として放った言葉だった。けれど同時に、自分ではない誰かに……かのんにも影響を与えているとは考えてもいなかった。だから彼女の語ったことに対してどう反応すればいいかわからなかった。
「だから、本当にありがとうって」
「……お、おう」
「ねえ、ちゃんと話聞いてる!?」
始の反応があまりにも薄かったから、かのんは顔を赤くして睨んでいる。
「き、聞いてるよ! ただ、意外だった……というか、思ってもみなかったっていうか。俺のお陰だなんて」
「いつも人助けしてるのにこういうのには鈍いんだね」
「わ、悪かったな鈍くて! ……でもそっか。今回は助けになれたんだな」
始は笑顔を見せる。すると自然とかのんも笑顔になっていくのだった。けど、始の言葉は間違いだ。”今回は”なんてことはない。
「今回だけじゃない」
「え?」
「ううん、あ、じゃあ私はここで! 始くん、また明日」
「……? うん、じゃあな。早めに寝ろよ。今日は特に!」
「わかってる!」
幸いなのかどうか。遂に2人の帰り道も別々に。簡単な会話の後、始の背中が見えた瞬間、かのんは呼び止める。
「明日は……絶対いいライブにするから!」
「うん、楽しみにしてる!」
始の背中が小さくなっていく。その姿を見つめながら、かのんは呟いた。
「ずっと助けてもらってる。あの時から」
────「こういう時は歌を歌えばいいんだよ」
────「かのんちゃんの歌、俺大好きだな~」
────「大丈夫、絶対助けが来るから!」
記憶に焼き付いているそれは、かのんにとって良くも悪くも大きな出来事として残っている。記憶と共に発したかのんの声は、喧々たる街の活気にかき消されてしまうのだった。
*****
来る代々木スクールアイドルフェス当日。しかし至極当然のことだが、世間がそれ一色になることはない。例えばここ。ストレイジ統合基地では先の怪獣についてブリーフィングが行われていた。一同はモニターに映された怪獣の動きや攻撃方法を視聴。同時に対策について話し合っていた。
「前回の行動と頻発している謎の停電から、ネロンガは電気を捕食していると見て間違い無い」
「透明な状態で電気を捕食し、力を貯めたら姿を見せて周りを威嚇する。……面倒な怪獣だ」
「その面倒な怪獣さんについてなんだけど、停電の発生時間と場所を繋げてみたら……」
停電の発生場所が一本の線で繋がっていく。見えてくるのはネロンガの行動。各発電所で電気を捕食しつつ移動しているのだ。さらにこのままのルートであれば、ネロンガは東京に到達することになる。
「このままだと日本中の電気を食い尽くされちゃう。同時に放電なんかされたらたちまち黒焦げ」
「どうにかして防ぎたいけど……どうすれば」
生活維持に必要不可欠な電気。それを食われ、放電によって火の海を生む。多大な被害を生むことが予想されるネロンガは即座に討たなくてはならない。でも、透明になる上にこれまで溜め込んだ莫大な電気。これを撃たれればひとたまりもないだろう。ではどうすべきか。すると結衣は笑みを浮かべながら小さなミサイルを取り出した。
「ふっふっふ……そこで私の開発した電解放出弾の出番! これを使ってネロンガの表面に強い電解を────「ああ結衣、簡単に頼む」……ちぇっ、わかりましたよぉ。電気をため込んでる角の付け根に命中させてぇ、貯まってる電気を空気中に放出。そうすりゃネロンガもただじゃ済まない」
ネロンガの電撃対策は結衣の兵器でどうにかなりそうである。しかしこの電解放出弾、一発限りであると結衣は注意を促す。その話を聞いて表情を歪ませる晶子。
「一発? 透明になるからただでさえ当て辛いってのに?」
「んも~しょうがないでしょ? 時間なくて一発しかできなかったんだから」
「そういうことだ。だから外さないように俺が発信機をぶち込んでやる。晶子はコイツを装備したゼブンガーで待機だ。いいな?」
ムスッとする結衣を苦笑いしつつフォローする正太。
組織特有のお堅い雰囲気がなくとも、作戦の概要が決まった。あとは出撃準備を始めるだけだ。すると、格納庫のほうから男が入ってくる。黒縁の眼鏡をかけた老年の男。その白いツナギ姿は彼が整備班だと言う事を表していた。
「よ、今時間あるか?」
「バコさん! 珍しいですねこっちまで来るなんて」
そう、彼が因幡浩司。ストレイジ整備班班長だ。
「調整が終わって聞きたいことがあったからな。晶子、前言ってた背部スラスターの噴射が左右で微妙に違うってやつ、調整しておいたぞ。あと操縦時の伝達時間のズレもな」
「ほんとですか! ありがとうございます!」
「いいって。
調整は終わったが、次は即座に出せるようにセブンガーを待機状態にしておく必要がある。そのために浩司は格納庫のほうへと戻っていくのだった。
「よし、作戦名は”ネロンガ電気放出大作戦”次こそ討つぞ!」
「「了解!」」
目の色が変わる。そこには人々の平和を守る防衛隊としての姿があった。
「大作戦って何さ」
「結衣、ツッコまないの」
簡単な確認を終え、会場に着いた頃には既に多くの人々が集まっていた。誰もがスクールアイドルをこの目で見たいと思っていることだろう。そして集まっている人数は、世間でどれだけ注目されているのかを示していた。
「すっごい人だな」
「ね! それだけスクールアイドルが人気ってことだよ」
かのんと可可の2人とは異なり、始と千砂都は観客席の方から出番を待っていた。
「この規模で2人はファーストライブか……」
観客はスクールアイドルを良く知る者が殆どだろう。そこに今回が初ライブとなるクーカーが登場するといなれば、一体どのような反応になるだろう。かのん達を疑っている訳じゃないが、それでも不安になってしまう。
「これまでかのんちゃんもクゥクゥちゃんも練習を頑張ってきた。やれることはやった。なら、信じてあげるのが私たちの役目だよ」
「……うん、そうだよな」
千砂都はかのん達を強く信じている。これまでやってきたことを発揮してくれると。
彼女の言う通りだ。一番近くで練習を見てきた。彼女たちは本気だった。ならば、後は本番を見届けるのみ。自分たちが一番信じてあげなきゃいけないのだ。
「よしっ! 精一杯応援するぞー!!」
「おー!!」
すると携帯が震えた。始が確認すると可可からメッセージが来ていた。内容は少し話したいのだと。時間はまだある。千砂都に伝え、可可の元へと向かうことに。
「どうしたんだクゥクゥ?」
「あ、始さん……」
ステージから少し離れたところにいた可可。既にステージ衣装に着替えており、準備はバッチリの様に見える。でも彼女の表情はそうではないと伝えてる。いつもの元気な可可とは異なり、顔が強張っており、声も若干震えている。
「可可、こういったのは初めてデ。いざ始まるのだと思うと、震えてしまっテ……」
当たり前だ。今回が初。しかも1位を取らなきゃというデカいプレッシャーの中だ。しなかったら大物だ。
「緊張した時はさ、こうやって掌に犬って書いて飲み込むとか、一回深呼吸してみるとか……色々方法がある。まあ人に寄りけりってやつだし、クゥクゥも知ってるとは思うけど」
可可へ実際にやってみたりして、始は緊張の解し方を伝える。すると彼女は震えた瞳をこちらに向け訪ねてきた。
「始さんは緊張したこと……ありマスか?」
「うん、あるよ」
彼の解答に可可は驚きを隠せていない。そんな彼女の表情から察した始は、少しばかり自分の過去を彼女へ話す事にした。
「俺、昔柔道やっててさ。色々あって辞めちゃったんだけど……大会の時は毎回緊張してたよ」
多くの目が体に突き刺さる感覚。意識を向けてしまうと鼓動は速くなるし、体が凍りついたかのように動かなくなる。思考も鈍くなってこれまで積み上げてきた力を充分に発揮できない。
「でもさ、自分を応援してくれる声を聞くと……居るとわかると頑張ろうって気持ちが湧いてきて、熱意が緊張を上回るんだよ」
背中に刺さるのは冷たい視線だけではない。頑張れと応援する温かい声が、体に纏わりついた氷を溶かしてくれる。
「多分これって、クゥクゥたちのステージも同じなんじゃないかなって思う。見てくれている人の笑顔とか、一緒になって自分たちも楽しみたいとか……そういった気持ちが、時に助けてくれる」
「始さん……」
「隣にはかのんがいる。俺も千砂都も信じてる。大丈夫。……ステージを見に来てくれた人に見せてやろうぜ! 結ヶ丘の……クーカーの凄さを!」
彼女の目を見つめ始は微笑む。
「始さん……はい! クーカーのライブを見せつけてやりマス!」
「その意気だ。じゃあ、あとはかのんと調整してくれ!」
どの程度力になったかは分からないが、可可も先の表情と比べてマシになったと思う。そう思えた始は観客席に戻ろうとした。だが、近くで声が聞こえたのだ。
「おい、ストレイジがネロンガ討つってよ」
「そうなん? 中継とかあんの?」
「これ見ろよ」
携帯端末に集まっている人々。ライブを楽しみたいところだが、話を聞いてしまってはそうもいかない。気になった始はその輪に加わることにした。
*****
始が気付く数分前。ストレイジはネロンガ到達予測地点のとある発電所で待ち構えていた。正太と結衣はサーモグラフィで辺りを警戒。晶子はセブンガーのメインカメラから周辺を見回していた。統計から推測した進行速度を考えたら、そろそろ現れる頃だろう。
「結衣、どうだ?」
「こっちも見当たりません。早く出てきてネロンガァ~」
結衣の心ない叫びが通じたのだろうか。彼女の背後にあった鉄塔が
「隊長居ました! ってサーモグラフィに映らないんだけど!? もしかして透明だと体温まで消せる……え、マジやっばすっげぇぇぇぇ!!!」
無線機から結衣の興奮した声が聞こえてくる。スピーカーの出力調整を間違えた正太は顔を顰めながらも透明状態のネロンガに狙いを定める。
「……」
長年の勘と凄まじい集中で正太はネロンガへ発信機を撃ち込むことに成功。同時に外部からの衝撃でネロンガも姿を現した。
「晶子、発信機を撃ち込んだ。後は隙を見つけ次第ミサイルを放て」
『了解!』
見える時は目視で。見えないときはコックピット内のモニター表示を頼りに攻撃を加えていく。
強力な右フックがネロンガを地面に伏せさせた。すかさず詰め寄って2撃目の拳。さらに顎元を両手で持ち上げ、遠方へと投げた。
その追撃がネロンガの逆鱗にでも触れたか。背中を伝って角の先から青白い放電。
「きゃああああーーっ!!」
《ダメージレベル40%。駆動回路異常あり》
もろに受けた……ということもあるが、1発でセブンガーがまともに戦闘を行うことすら難しい状態になるほどのダメージ量。どうやらここに来るまでにもたらふく食ってきたらしい。
さらに先のお返しと謂わんばかりに2発目の放電。胸元に命中し、火花と黒煙を上げながらセブンガーが倒れた。
「晶子!」
『あいつ、フルまで充電してきたみたい……』
「この……こっちだ!」
正太はレーザー小銃のマガジンを交換し、ネロンガの気を引かんと引き金を引いた。けれども怪獣の怒りはセブンガーに向いているのか見向きもしない。
「晶子、一度離脱だ。もう一発食らったら持たないぞ!」
弾を放ちつつ、離脱命令を必死に伝える。
弾が命中しても、硬い皮膚には掠り傷1つない。ネロンガは着実にエネルギーを貯めた。背中が光り、角がスパークする。着実に近付くのは、逃れようのない死であった。
「……っ!」
始は即座に人の輪から抜ける。ストレイジのピンチを黙って見過ごすわけにはいかないからだ。もう迷いはない。力を持っているのなら、その力で出来ることをするのみだ。自分が後悔しないために。それを他からなんと言われようとも。
「うおおおおおおっ!!」
少年の叫びは、近くで始まった祭典の熱狂と交じり合った。
《Hajime Access Granted》
「宇宙拳法、秘伝の神業!」
宇宙拳法の担い手とそれを育てた紅き闘士、そして彼を父に持ち、同じく宇宙拳法の使い手である若き戦士。彼らの力を合わせて使うために、メダルをセットしていく。
《
『ご唱和ください我の名を! ウルトラマンゼェェェット!!』
「ウルトラマン……ゼェェェット!!」
電撃が迫ってくるセブンガーの前に、青白い刃が降ってくる。2枚の刃はバリアのように電撃を受け止め、押し返すと同時にネロンガを切り裂いて飛んでいく。
「これって……」
晶子はメインカメラを使って上空を見上げる。
右足を炎に包み落下してくる巨体の姿。彼は一直線にネロンガの頭部へ攻撃を与えると宙返りで着地。土煙から姿を現し再度構えた。
《ULTRAMAN Z ALPHA EDGE》
以前と同じ夜の街中であり、こちらが不利な状況であることは変わらない。けれど、胸に抱いた思いは以前よりも強く、揺るがないものだ。ここにゼットとネロンガのリターンマッチが幕を開けた。
かのんと可可はこれで終わりにしないためにステージへ。そして始とゼットも力を持つ者としてネロンガとの戦いに。