『行くぞ始!』
「ああ、言われなくても!」
地面を強く蹴ってネロンガと衝突。首元をホールドしつつ、背部に手刀や肘打ちを繰り出す。捕縛から逃れたヤツの攻撃を上手く躱し、素早く正拳突きや蹴りを打ち込む。
以前相対した時よりも動きは素早く、それでいて力強い。始とゼットの繋がりが強く保たれている証拠だ。
「よし……やれてる」
『ああ、けど油断は禁物だぞ』
「わか……ってる!!」
渾身の回し蹴りが、赤い軌跡を残してネロンガを吹き飛ばした。命中した部分に目を向けると、角の付け根が焼け焦げているのがわかる。悶えるヤツの様子からもかなりの痛手になったことが伺える。
「効いてる……けど……」
しかし喜ぶのはまだ早い。ダメージが目に見えて分かったのは、力を込めた一発を当てたからだ。そう何度も何度も連発できるわけではない。ウルトラマンは短い時間でしか活動できない上、むやみな消費は活動時間のさらなる短縮につながる。加えて相手が大技を親切に当てさせてくれるとも限らない。
案の定、ネロンガは雷を飛ばして距離を開け始めた。さらに角をスパークさせ極小の電気を生み出す。極小とは言っても怪獣規模での話だ。その眩い閃光は目潰しとして機能する。
『小賢しい野郎だ……』
「それにまた消えた……!」
ネロンガは目くらましをした隙に透明化したのだ。戦いの中で学習しているのか……なんとも利口な怪獣である。
見えないところからの攻撃はやはり防ぎようがない。背後を撃たれ、警戒すればまた背後から。こちらが完全に弱るまで姿を見せない気だ。
『ヤバみを感じるぞ始!』
「それ同感」
焦りが胸中を渦巻く。このままでは時間切れになってやられるか、黒焦げにされてやられるか、そのどちらかだ。どっちにしろ始たち、そして人類に未来はない。
「どうすればいいんだ」
『6時の方向……いや、真後ろ!』
途端、声が聞こえる。そこには機械の力で拡大した故の独特な響きが混じっていた。声の主は銀色の鉄人……の中にいるパイロットだ。
「……ッ!」
『ホントに居ましたな!!』
「ああ……」
『透明で見えないなら私が位置を教える。私を信じて……ウルトラマン!』
中にいる人物も知っている筈だ。この星の人々はウルトラマンに対して良い思いを抱かなくなってしまったことを。だからウルトラマンが自分の言葉に耳を貸してくれるのか不安だったのだろう。
『始……!』
「志は同じだ。信じるに決まってる!」
セブンガーに向かって頷いてみせたゼット。そこからセブンガーからのナビで位置を知り、攻撃や回避を繰り返していく。
『斜め右!』
2対の光刃を振り回し、皮膚を切り裂く。
『左横!』
横蹴りで大きく飛ばす。
しかしネロンガは自分の位置が知られていること、そして体に刺さっている存在に気付いたらしい。体全体に電気を行き渡らせ、発信機を壊してしまった。
『位置が……!?』
彼女の声からも位置が把握できなくなってしまったことは明白。またもや振出しに戻ってしまった。
「またかよ……くそ、俺たちが位置を知っていれば……」
悔しさに顔を歪ませ呟いた始。すると彼の脳裏に過るものが。
────「見えるものだけを追うな」
以前、怪しい男から教わったこと。
そう言えばあの男を捕まえた時、目に頼って捕まえたわけではなかったことを思い出した。
始が記憶の深くにアクセスしたように、ゼットもまたあることを思い出していた。
それは宇宙警備隊員になってすぐの頃。師匠が珍しく稽古を付けてくれた時の事だった。弟子にした覚えはないと断り続けたゼロに対し、ゼットは何度も何度も教えを頼みにいった。勿論、宇宙警備隊員の訓練や任務の合間にだ。へこたれずに頼みに行き、遂に折れてくれたゼロが組み手の相手をしてくれたのだった。
────「さあ来い!」
「行きますよ! 師匠!!」
何度も拳を振り上げるゼットだったが、ゼロにはなかなか当たらない。彼の直線的な攻撃を見切っているゼロは、簡単なステップだけで攻撃を回避していく。空振った拳の代わりに、手痛いカウンターを貰ってしまうゼット。めげずに顔を上げて反撃しようとしたのだが、目の前にゼロの姿は無かった。
「ど、どこだ……」
キョロキョロと見回すゼット。そのあまりにも無防備な背後にゼロの撓る脚が。
「おわっ!?」
攻撃されたと自覚した時には地面に伏せていた。それでもたった一瞬。起き上がったゼットは、攻撃を与えた時にいたであろう場所へと目を向ける。けどもそこにもう姿は無い。
「こっちだ!」
「そこで────ブワッ!?」
全くの別方向から与えられた衝撃にゼットはまたも倒れてしまう。
「ゼット、どうして攻撃を貰っちまったと思う?」
「師匠の姿が捉えられなくて……でしょうか?」
そうだなと首を縦に振った後、呆れ気味にゼットへ語り掛けた。
「はあ……おいゼット、お前は視覚に頼りすぎだ。目で見てから対応してるだけじゃ防ぎきれねぇぞ?」
「そう言われましてもですね……どうすれば……」
「「どうすれば……」って……それ以外も活用するしかないだろうがよ」
ゼロは語るよりも、実際にやって覚え込ませるタイプだった。だからこれ以上は語らずに組手を再開。ゼットも視覚以外を活用しようと思ったのだが、どうにも上手く行かなかった。だから仕方なくゼロはもう少し言葉で教えることにした。
────「ゼット、君は視覚に頼りすぎるところがある。そのままじゃ見えない相手との戦いでは命取りになるよ」
記憶が飛んである日の訓練。その時はゼロが任務でおらず、ちょうど別のウルトラマンに稽古を付けて貰った時の事であった。彼はゼロから話を聞いていたのか、それとも組手で見抜いたのか。欠点についてゼットに話しかけた。
「そうなんですよ。ゼロ師匠からも言われたんですよ。それで視覚に頼らない方法ってのを試してるんですけど、ど~うにも上手くいかなくって……」
「ゼロからは助言を貰ったんだろ?」
「はい。精神を集中させて、感覚を研ぎ澄ませばいいって言われました」
言われたとおりにやればいいのだが、どうにも集中だとかジッとしているのだとかが苦手だとゼットは語る。
「そっか。じゃあ今日はボクが付き合うから、苦手を克服しようか」
「いいんですか?」
「ああ。そうすればゼロも弟子に認めてくれるかもしれない」
「おおおお……! やる気がウルトラ湧いてきた……よろしくお願いしやっす!!!」
「ゼット!」
『始!』
記憶の旅から戻ってきた2人。すると両者の思考はシンクロし、何を考えているのかコンマ数秒のズレもなく伝達。
「『やるぞ!」』
視覚を遮断し、精神を集中させる。体を中心として気配を辿る。どこに向かうのか。どこから狙ってくるのか。ヤツの気配を、殺気を捉えるのだ。
「『ッ!!』」
体に走る感覚。それは背中の右側から始まった。自分のとらえた感覚を信じ、火炎を纏った右足を大きく振るった。
途端、何もない……ように見えるところから火花が飛び散る。数秒後、ネロンガが姿を現しながら倒れ込む。
『おおっ! ウルトラヒット!!』
「よっしゃ!」
支援なしに己が見破られたことへ困惑するネロンガ。ヤツはダメージなど気にする余裕もなく、即座に姿を消した。
消えたとなれば再び精神を集中。そして今度は横へジャンプ。
すると、雷撃が先程までゼットがいた場所に落ちる。ゼットはネロンガの殺気を感じ取り素早く回避したのだ。横へ飛んだモーションを崩さずに、額のビームランプから光線を発射。一直線に伸びていった緑の光は肉体を貫く。さらに着地と同時に光刃を投擲。2撃目の火花で声を上げたネロンガ。怯んだその隙に、ゼットは背に跨って角を掴む。雷を飛ばす瞬間、ネロンガは鼻先と頭部の角の3つをスパークさせている。そこを対策しさえすれば、電撃を放つこともできなくなると踏んだのだ。
取っ組み合いが続き、ネロンガの動きが止まったほんの一瞬。ヤツの頭部、先ほど攻撃を食らって焼け焦げた角の根元にミサイルが撃ち込まれた。撃ち込んだのは勿論……
途端にネロンガは苦しみ藻掻く。同時に頭から大量の電気が放出された。電解放出弾がしっかり効いている証だ。
「よっしゃぁぁぁぁ! 大成功ッ!!」
製作者の結衣は大はしゃぎ。
「あとはお願い」
撃ち込んだ晶子はモニターで戦いを観察する。駆動回路の異常で戦闘を行うことはできない。ミサイルを撃ち込む装置が機能していただけでも幸運だったのだ。ここからは
「彼女たちがやってくれた。後は君ら次第だ」
戦いを見つめる正太。
ストレイジの力を借り、ネロンガを大幅に弱体化させた。勝負も終盤へと差し掛かる。
自分の体から大量の電気が抜けていく。エネルギー源にして攻撃を放つ際にも必要な電気。力が抜けていく恐怖と、同じくらいに沸き立つ怒り。尻尾でウルトラマンから距離を取り、またしても透明化。これで不意打ちを狙うつもりだ。
『またか』
「ああ、けど……!」
相手は見えない敵。どこから攻撃を行うかわからない。けど心の目で見つめれば、感じ取ることができれば、それは脅威でもなんでもない。
力を持つ責任を果たすために、平和を乱す敵を討つために、彼らの感覚がヤツの潜む場所を探り当てた。
「『……ッ!」』
振り向きつつ貯め込んだ力は、青い閃光となって腕から腕へと伝っていく。
互いの意識が以前よりも強く、はっきりと重なり合う。強い結びつきを感じながら、力を開放するスイッチの如く、
『「ゼスティウム光線ッ!!』」
青い熱戦は黒の世界を突き進み、空を……否、透明となったネロンガを見事に貫いた。光線は肉を焼き骨を砕く。さらにはその熱量に耐えられなくなり、透明怪獣の体は爆発の中で粉々に吹き飛んでいくのだった。
「……フッ、悪くない戦いだ。なんか初めの頃のアイツを見てるみたいで嫌だったけど」
ウルトラマンと特空機、どちらが欠けても勝利はなかった。互いが互いを支えた戦いを見届けた正太は、どこか満足そうに2人へ指示を飛ばした。
「ゼット、あの方向に頭を向けてくれる?」
『え、お安い御用でありますが、どうしたんだ?』
空を飛翔する傍ら、始はゼットに頼み込んだ。別段無理なお願いという訳でもなかったため、逆にゼットは首を傾げていた。
「大切な人たちのライブがね。ごめん、ウルトラマンの力を個人的なことで使っちゃうなんて」
『このくらいなら問題ないさ。なるべく近くに降りよう』
「ありがとう、ゼット」
ウルトラマンから始へと戻る間、ライブ会場から目を離すことはなかった。
*****
ステージ立てばやはり体が強張る。多くの歓声が圧になって、自分たちを押しつぶそうとしているように感じた。
またあの時を同じになるのか。もう嫌だというほど味わった。周りからの期待に応えられない申し訳なさ、自分のせいで夢を諦めなければいけなくなること。だとしても、自分の歌に惚れたと、一緒にやりたいと言ってくれた。だからステージに立った。けど────
途端、辺り一面が暗闇に包まれた。停電したということは嫌でも理解できた。最悪だ。最初で最後になるかもしれないステージが、このような事態で終わりを告げるなんて。
「見テっー!」
すると、背に立つ友人から声が。恐る恐る目を開けると、目の前には光が。多くの光が見えた。色とりどりの鮮やかな光。空に輝く星々にも負けない、地上で輝く光の海。
これは自分たちへのエールだ。新たな一歩を踏み出さんとする自分たちへの。期待とかじゃない。応援してくれているんだ。それは圧ではなく、自分たちを包み込み、背を押してくれる声だった。もう、止まらない。この溢れ出しそうな思いを声に出すんだ。
「歌える」
大丈夫だ。前にも、そして隣にも支えてくれる人がいるんだ。今はもう────
「1人じゃないから……!」
────Tiny Stars────
憧れを歌う。そんな彼女ら2人は多くの光で照らされ輝いている。でもそれだけじゃない。彼女たち自らが星のような煌めきを宿していたから輝いて見えるのだ。
例えここで道が絶たれたとしても後悔することはない。だって、友人と約束した最高のライブを披露できたのだから。
「すっげ……」
クーカーのライブを目の当たりにし、始はただただ見入ることしかできなかった。その後自分が震えていることに気付く。感動から込み上げる巨大な想いが行き場を求めているのだろう。
「ん?」
心を落ち着けようとステージから目を離すと、離れた場所に突っ立ている女子生徒を見つけた。見覚えのある制服……というか自分たちの通っている学校の制服に身を包んだ金髪の生徒。始には覚えがあった。
「ねえ、君……」
声を掛けた途端、電気が走ったかのように体を跳ねらせた女子生徒。
「何もしてないったらしてないわよ!!」
一目散に逃げていき、すぐさま見失ってしまった。
「なんだったんだ……今の?」
『さあな……。にしても始、スクールアイドルというのは素晴らしい文化でございますな!!』
「だよな。まだまだ知って日は浅いけど────」
話していて違和感に気付く。いつも調子で話していたが、今までは無かったことだ。
『どうしたんだ、始?』
「え?」
『え?』
「いやいやいやいや、おかしいだろ!? なんでゼットの声が聞こえてるんだよ!!」
『何でと言われましてもなぁ……』
ゼットの声が聞こえる。近くで話しかけているのかと思って耳を塞いでもみたが、聞こえなくなることもない。つまりは頭の中で響いている。
「だってこれまでは直で……」
『多分、始と俺の繋がりが強くなったからかもしれないな』
「なんだよそれ。まあ、いいけどさ」
前回の対話を経て、一心同体の度合いが変化したのだろう。インナースペースを介さなくとも話せるようになった理由はそれだと推測したゼット。でも、不思議と悪い感じはしなかった。
『何はともあれ、これからもよろしくな、始!』
「……ああ、こっちこそよろしく……ゼット」
互いの存在を、関係をもう一度強く結び直すように呼び掛け、始は観客席の方に歩いていくのだった。
ゼットと始がインナースペースを介さずとも話せるというタブーを破ってしまった感のある話に……。言い訳をさせてもらうと、こうでもしないとゼットが空気と化してしまうのではという思いからくる苦渋の決断です。
そして始が見かけた女子生徒とは一体どこのギャラクシーなのでしょうか……。