「本当にこっちなの? 他の部室はみんな新校舎の方だよ?」
放課後、いよいよ本格的に活動を迎えることになった。まずはその第一歩たる部室へと向かう4人。
千砂都が始やかのんに投げかけた質問は、この学校に通う生徒なら誰もが抱くはずであろう疑問だった。用意されている部室は開校の際に建てられた新校舎の方に用意されている。だがスクールアイドルだけは別。旧校舎……神宮音楽学校から使われている方に用意されているとのことだった。不安になるのも無理はない。
「さっき地図で見たらこっちだったんだよ。始くんも見たよね?」
「ああ……こっちだったよ……」
地図で確認した。だから間違いはない筈。けれども歯切れが悪い始。彼は昼休みに女子生徒へ教えたことが不安になっていたのだ。今向かっている場所を教えたつもりだが、それが間違っていたら? すれば彼女は全く別の部室へ向かうことになってしまう。そしたら恥をかいてしまうだろう。女子生徒に教えたのは始。つまりは始が恥をかかせたことになる。間違えた事を教えてしまったのではないかと思うと、罪悪感でいっぱいになるのだった。
(どうしよう……マジであってるよな? ゼットォォォ……)
『ンなこと俺に聞かれてもわからんよぉ!?』
口に出さなくても念じればゼットは答えてくれる。
無意識に彼へ助けを求めてしまうが、地球の建造物の……ましてや新設校のことなど知る筈もないので助けてはくれない。
「どうしたの?」
「いや……俺も不安になってる。合ってるかな~って」
「大丈夫デス。可可もしっかり確認しましタ。始が不安がることは無いデス!」
可可は始を励まして、先に進んでいく。
「クゥクゥちゃんについていこっか」
「……だな」
迷いなく進んでいく可可の足取りは、不安がっていても仕方がないと示しているようだった。
グレージュの髪を揺らして歩く少女を先頭に部室へ向かう途中、かのんは白い鍵を取り出した。
「でもさ、なんで2本付いてるんだろう?」
恋から渡された部室の鍵。そのリングには2本の鍵がぶら下がっている。1本は部室を開けるためと見て間違いないだろう。ではもう1本はなんだ。鍵を揺らしながらかのんは頭を悩ませる。
「予備じゃないの?」
「思った。けど同じリングに付けておくか? それにさ、先端の形が微妙に違うんだよな」
「それもそうだね……」
2本あるとなれば紛失用の予備ともとれる。しかしリングに付けておくとは考えられない。第一形が微妙に異なっている。となれば扉を開錠することはできない。やはり2本目の使用用途が見えず、かのんと共に唸る始と千砂都。
「ありマシタ!」
悩ます者たちに可可の声が届く。鍵の事は後回しにし、部室へと急ぐ。
「地図通りだね」
「んで隣から屋上に出れるとね……」
件の部室は屋上へ出る扉の隣にひっそりと存在していた。一見すると物置のように見えなくもない。だがしっかりとルームプレートが貼られており、そこがれっきとした教室であることを示していた。しかし昼に始へ接触してきた生徒の姿は見当たらない。まだ来てないということだろうか。
「……始くん、見てこれ」
「なに? 学校アイドル部……?」
千砂都の言葉通り、指さされたネームプレートへ目を向ける。するとそこにはペンで”学校アイドル部”と書かれていた。「理事長が付けてくれたのだろうか?」そう可可が推測する。
「にしては、ちょっと古びてない?」
かのんの言うように、プレートは新品というにはあまりにも傷が目立ち、文字も所々掠れている。新設校で用意した物にしてはいささか時間が経ちすぎている気もする。
「味がある……というやつデスネ」
「まあそうとも言えるけど」
苦笑いで答える始。対照的に表情が強張るかのん。そんな彼女へ、千砂都が後ろから語り掛けてきた。
「なんか……お化けとかいそう」
「っ!?」
「かのん、怖いのデスカ?」
「ま、まっさか~」
嘘だ。先程の反応からも意識しているのがバレバレであった。若干声も震えている。
その姿を見て悪戯心が刺激されてしまった始は、鍵穴から内部を覗くかのんへと千砂都ともに声を掛けた。
「「みぃたぁなぁ~」」
「~~~~~!!!!」
声にならない悲鳴を上げてかのんは逃げていく。
「冗談はやめてよぉ!!」
「ごめんごめん。あまりも怖がるから」
「ちょっと見てみたくてさ。ごめん」
かのんのあまりの驚き様に、困り気味で謝罪する2人。すると彼女は唇を尖らせて戻ってくる。けれどそれだけでは終わらなかった。
「ったあー!? えっ、俺だけ!?」
「うるさい!!」
バシバシと肩や背中を叩いてくる。ビックリさせた恨みがこもっているのか、叩く力が微妙に強い。
「……誰か居マス!」
しかし可可の一声でまた緊張が走る。冗談で言ったつもりだったが、本当に中にいるとは。
かのんはもう自分で開ける気はないようで、可可に鍵を渡して最後尾へ。
「開けマス……」
「始くん、盾、盾!」
「わかったから。押すな! 裾を引っ張るな! 進めないし退けないだろ!!」
「鍵……開いてますネ。まあいいデス」
意を決して扉を開ける。
日陰に佇んでいるせいか姿が良く見えない。けれども人型だということは確かにわかった。
「あの……」
「~~~~~~!!!!!」
姿が見えて声も聞こえる。本当に目の前にいるとわかってしまった今、かのんは二度目の悲鳴を上げる。
「誰デスカ?」
「私は……」
一歩踏み出すと日が当たり姿が明確になる。するとどうだろう。同じ結ヶ丘の生徒のだった。
「大丈夫、足はついてる!」
「本当?」
「いや失礼だろそれ……」
始も目を向ける。彼はかのん達とは別の意味で目を丸くする。何故なら目の前の人物は、昼休みに接触してきた人物だったからだ。
「あー! 昼休みの!! でも、鍵かかってただろ?」
「これ、スペアキーよ。貸してもらったの」
場所は間違えてなかったことに安堵しつつ、どうして先に待っていたのかを訪ねる。するとポケットから鍵を出してくれた。成程。それならば中にいたことも納得できる。
「始くん、平安名さんと知り合いなの?」
「知り合い……っていえるのかは大分難しい……」
かのんは女子生徒のことをご存知のようだった。聞けば同じクラスらしい。
「自己紹介はまだだったわね。
簡単な自己紹介を済まして本題に入る。何故すみれがここにいるのかということだ。話を聞いていくと、どうやらスクールアイドルに興味があるらしい。
「やっぱりかよ。なら昼休みにでもかのん達に言えばいいじゃないか」
「うっさいわね。今ここで話せてるからいいじゃない」
確かにそうだ。どの道部室へ向かうことになるし、詳しい話になれば昼休みや空き時間よりも部活の時間でした方が邪魔されずに済む。であれば結果オーライというやつか。そう1人納得する始。
頷いている少年のことなど気にも留めず、すみれへ向かっていく者が。可可である。
「スクールアイドルが素晴らしいデス! 最高デス! 青春の輝きそのものと言っても過言ではありマセン!! ささっ、ここに名前とクラスを書けば、あなたも今日から立派なスクールアイドルデス!!」
マシンガン並みの喋りですみれを圧倒する可可。確かに仲間が増えるのは嬉しいことだが。
「クゥクゥちゃん」
「ちょっと落ち着いて」
まずはスクールアイドルとはなんなのかを事細かに説明することになった。しかし、驚くべきことにすみれは予習済み。なんとも頼もしい人物が部室に来てくれたものである。
「こんな大きなステージに立てるの!?」
「はい、ラブライブの決勝は毎年豪華なステージを用意してくれるんデス」
今動画で見ているのはラブライブ決勝のステージだ。決勝進出者のパフォーマンスもさることながら、巨大なステージにも目が行く。
「海上の特設ステージとか、アキバドームなんかが用意されたんだっけ?」
「始の言う通りデス。よく勉強してますネ」
スクールアイドルの人気と共に用意されるステージも豪華になっていく。有名な歌手やスポーツ選手が使うようなスタジアムなども過去の決勝では使用されている。それほどまでに人々を熱狂させているということだ。
「ア、アキバドーム!? 正月にビートル隊の展示祭が開かれてる?」
「そう。ってかなんでビートル隊……?」
驚きの声を上げたすみれ。アキバドームでは正月になると、ビートル隊広報部らの企画による展示祭が行われているのだ。ゼットビートルや特空機の模型が置かれるのは毎年同じだが、再現度の高い模型ということもあって人々に大人気なのである。他にもビートル隊やストレイジを主役としたステージなんかも開かれている。
「じゃ、じゃあこういったステージに立てれば……有名になれるわよね?」
「はいデス。去年決勝に出たSunny Passionは今、98000人ものフォロワーがいるんデス」
フォロワーの数を後ろからのぞき見して始は考えた。決勝に進むために必要なもの。高度な技術は勿論として、多くの人々を虜にする魅力というのも備わっていなければいけないのではないかと。
「ギャラクシー……!?」
「……?」
「やるわ。やるったらやってやるわ!」
人の反応としては適切ではないワードが聞こえたが、誰も触れようとしない。それよりも、当の本人であるすみれが入部を決意したことに関心が向いたからともいえる。平安名すみれが加入することとなり、結ヶ丘のスクールアイドルは3人となった。
*****
すみれがスクールアイドル部に加入すると宣言したほんの数時間前。
「お~い冠木~、メシ行こうぜぇ~!」
「……」
怪獣研究センターは昼休憩に入っていた。
冠木に声を掛けた男も、空腹を訴える体を満たそうと何処かへ向かおうとしている。そのついでに彼にも声を掛けたようだ。しかし、怪獣研究センターのツナギを未だ着たままの彼は、何も答えることなく背を向けて歩き出すのみ。
「冠木さん、最近付き合い悪いですね」
「どうしたんだ? まあ、最近は忙しいしまいってるんだろ」
「倒れないでほしいですよね……」
同僚は彼を心配しつつ、センターを後にする。
それらを気にすることなく、怪獣の残骸が保管された倉庫から”ある物”を取ってくる。夏の日。東京に君臨した存在の一部。黒い姿へと変わったウルトラマンに倒された……怪獣の一部を。
「……」
反扇状の装置を取り出し、トリガーを押す。目の前に開かれたゲートを潜ると、そこには怪しげな装置が。
先ほど取ってきた怪獣の残骸を流し込み、バルブハンドルを回せば奇怪な音を立てて装置が起動。数秒ほどでメダルが生成された。お望み通りのメダルを冠木は虚ろな目で眺め、口角を上げるのだった。
『本当にここで合ってるのか?』
「ああ。ヤツはここで落ち合うようにと」
とある路地。
そこではスーツに身を包んだ男と、金と黒のジャージを着た男が立っていた。ジャージ男は普通に話しているが、スーツの男は口を開いていない。けれども声は聞こえる。どうやら胸に付けた装置から音が出ているようだった。
「またせた」
『遅いじゃないか』
「許容範囲だ。問題ない」
するとそこに冠木が合流。なにやら3人は話始める。
『あんたもこの星の言語に慣れてきたようだな』
「ぼちぼち……だが」
「それよりも、早く本題に移ろう」
冠木とスーツの男が頷く。途端、ジャージ男は頭から一本の触手が生え、単眼がギョロギョロと動く異星人へ。スーツの男は紫色の髪を持つ、幽霊のような顔の異星人へと変わった。否、戻った。
『ゴース星人シェバだ』
「ゼットン星人フィゾー」
「君たちには実験に協力してもらいたい」
そう言って冠木は自分のゼットライザーとメダルを差し出す。2つのアイテムを使って暴れろということだ。暫しの沈黙の後、最初に同意したのはフィゾー。しかし思うところはあるようで、先ほどの声にはなかった不満の色が混じっている。
「地球で言うモルモットのようだが……まあいい。地球を手に出来ればそれで」
『ああ。あのひよっこウルトラマンなら脅威でもないしな』
”実験”という言葉が多少引っ掛かるし、自分たちが実験動物の様に扱われるのは不満だが、それを呑み込んでまでも彼に協力するのはそのメダルの存在故だろう。”星を喰らい尽くす”という伝説を持つ魔王獣の力が宿ったメダルの。
「ネロンガに苦戦するようでは、この力には敵わないだろう」
『そうだな』
全てとはいかなくとも、両者は納得した。
「それと、提供してもらった怪獣から製造したメダルだ」
冠木が取り出した2枚のメダル。そこには宇宙恐竜と双頭怪獣の姿が。
『そりゃいい。つまりこの3つを装置で合体させろと?』
シェバの言葉に、首を縦に振って答える。その話を聞いて2体は笑う。一体どのような力を手にすることができるのか、その力でどれだけ地球を恐怖に陥れることができるのか。楽しみで仕方ないからだ。
するとシェバは突然、バッグからカプセルを取り出した。両手で抱えるくらいの大きさだ。
『そうだ。お礼と言っちゃなんだが、これどうだ? 裏オークションで取ったんだ』
覗き込む冠木とフィゾー。中にあるのは三又の槍。子どものおもちゃのようにも見えるが、一体何故これを取り出したのか。目線でシェバに訴える。
『コイツはな、正真正銘あのウルトラマンオーブが使ってた槍らしいぜ。地球付近で回収したって話だ』
「ほう……あのオーブの」
『でも不思議なのが回収した奴曰く、地球圏に漂ってたわけじゃなくて、
地球付近を飛んでいた宇宙人に回収され、そこからあちこちの裏オークションで出回っていたらしい。
「お前取ったんだろ。いらないのか?」
『最初はレア物ってことで嬉しかったが、ウルトラマンの力だしな。しかもなんか見てると無性にイライラするし』
その時の衝動に任せて購入したものの冷静になってみればいらない品物だった。というのはよく聞く話である。しかもウルトラマンの物であるならば尚更だろう。しかしそれをお礼の品として出すのはどうなのかと、フィゾーは首を傾げた。
「不要だ。実験については後で連絡する」
『あ、おい!』
そっけない言葉を放ち、冠木は2人の元を後にする。背後からシェバの声が聞こえるが、彼には聞こえていない。
路地を出て、普段通り生活する人々に紛れて歩く冠木。人ごみの中で彼は、いつものように不敵な笑みを浮かべていた。
すみれが加入する裏で何やら企む宇宙人たち。
彼らがどんな怪獣を使役するのか(変身するのか)もう面子的にバレてるとは思いますが、ここでは伏せておきます。
名前に関してですが、シェバはヘブライ語で7の意味。フィゾーについては……そういうことです。
さて、他の異星人にゼットライザーが使えるのかというのはこちらとしても疑問があるのですが、経緯は特殊ながらも闇のコピーが出回っていたし……まあいいかなと。