Superstar-Z   作:星宇海

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お待たせしました。
用事の合間にちょくちょく書いてたらこんなに時間が空いてしまいました。


第16話 歪な男

 

 

 昨日と同じ。街を歩く人は相変わらず多い。車の行き来も普段と同じ。仕事に行く者、学校に行く者、買い物に行く者……今日も今日とて様々な人が入り乱れている。その様はまさに平穏そのもの。

 ネロンガをウルトラマンとストレイジが討伐して以降、これと言って大きな事件は起きていない。最近の話題といえば「気温上がってきたな」というくらいには平穏であった。

 

「最近暑いねぇ~」

「あ~……」

「やっぱり涼しいとこを求めてなのかな? この時期お客さんが増えるんだ~」

「あ゛~……」

「って聞いてる?」

「あ゛~……ん、何?」

 

 バチンと二の腕を叩かれる音。即座に彼の悲鳴が街に響いた……気がする。

 光の巨人と一体化した彼が気を抜いていられるくらいには、平穏が続いている。

 

 

 

 

 

 彼と同じアイテムを使った“実験”が始まろうとしていることは、未だ知られていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

「今日はここまでにしとこうか!」

 

 澄んだ声が屋上に響いた後、続けざまに聞こえてくるのは疲れ果てた声。そして体が空気を求めんと激しく息を吸う音。

 始の体力トレーニングも、千砂都のダンスレッスンも厳しさを増していた。ただかのん達が成長し、新たなステップに進んだだけなのだが、それを自覚し喜んでもいられないくらいにキツかった。

 

「お疲れ。キツイのは最初のほうだけ。慣れれば楽になってくるよ」

「最初のほうだけ……デスカ……」

「その最初が大変なんだよ~」

「でも、かのんちゃんもクゥクゥちゃんもしっかりついてきてる。始めたころから大分成長してきたんじゃない?」

 

 彼女の言う通り。スクールアイドルを始めたころであれば、確実にこのメニューは熟せなかった。しかし今はどうだ。地面に座り込み、肩で息をしているもののしっかりとついてきている。それこそが証拠なのだ。

 

「それにしてもすみれちゃんも同じメニューでやるなんて」

「ショウビジネスの世界で……生きてきた私を……甘く見ないでよ……」

「すみれ向けのメニューも一応考えてきたんだけど、いらなかったな」

 

 すみれも同じメニューで練習を行った。最初は止めたのだが、彼女に押し切られ首を縦に振ったのだ。勿論、ヤバくなったら無理せず言うようにと忠告もしたし、こちらから見て無理だと感じたときは止めに入るつもりでいた。けれど彼女はやり切った。すみれの言う通り、“ショウビジネスの世界で生きてきた”経験が、役立ったのだろう。

 

「ってこんな話してる場合じゃなかったな」

「そうそう! 私今日、お店の手伝いがあるから!!」

「私もこれからダンスの練習あるし!」

「可可もライブがありますノデ!」

 

 そう。今日に限ってみんな予定が詰まっているのだった。じゃあ練習無しでも良くない? となるのが普通だが、運が悪いのか明日の天気予報がまたしても雨だったのだ。ここ最近は碌に練習ができていなかったのもあり、少しだけでもやりたいということで練習することとなった。

 その結果ハード且つ慌ただしい解散に陥ることになったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 気まずい。始の胸中に渦巻くのはそれだった。かのん、可可、千砂都が弾ける様に部室を出て行ってしまった後、残されたのは始とすみれの2人。特にやることもないのでそのまま学校を後にしたわけだが、同じ帰り道の中、話す話題もなく、道なりに歩を進めている結果になってしまった。

 

「……」

 

 街の人々が賑やかにしているからだろうか。喋らない自分たちだけが物凄く浮いているように思えた。それがどうも落ち着かない。

 

『だったら話せばいいじゃないか』

(それができたら苦労しないっつーの!)

 

 ゼットへ反抗。すると、すみれの方から声を掛けられる。

 

「体力トレーニングってあんたが考えてるのよね?」

「え? うん、そうだけど」

「随分と本格的よね。どこで見つけてきたの?」

「昔の経験とか色々だよ」

 

 何事もなく、他愛のない会話。それは自然と2人の仲を氷解させていく。

 

「何かやってたの? 中学じゃ運動部?」

「ま、まあ空手をやってたよ」

「何か訳ありな感じね。……ごめん」

「いや別に」

 

 自分の歯切れの悪さから察したのか。すみれはその話題からすぐに切り替える。相手のことを考えられる優しい人物。始の目にはそう映った。

 

「そう言えばあんた、なりふり構わず色んな人を助けてるって聞いたわよ」

「なりふり……ってのはどうかと思うけど」

 

 すみれはかのんや千砂都に聞いたと事前に説明しつつ、始に問いかけてくる。でもそれが一体どうしたのか。彼には見当もつかない。何故か。そんな疑問によるものなのか、始はすみれから視線を離さずジッと見つめた。

 

「どっちでもいいわ」

 

 途端、すみれは足を止めて始の方へ向き直る。その真剣な眼差しに、始も自然と表情を強張らせる。

 

「夏空始。あんたのそれ……酷く歪よ」

 

 幾ばくかの静寂。

 すみれの言葉は、始の胸元を貫いた。そして彼が抱いた感情。怒り? 驚愕? どれも違う。答えは納得。やっぱりそうだったかと、自分でも驚くくらいすんなりと受け入れられた。

 

「そう……かもな」

 

 自覚しているなら尚更だと、すみれは言葉を紡ぐ。

 

「私が入部する前にしたことも千砂都から聞いた。そしてこれまでのこともね。本当に感謝してるし、あんたのやってきたことは尊敬してる。誰にでも出来る事じゃないわ。でも……だからこそ言うの。あんたの生き方は歪だって」

「……」

 

 誰かの生き方を否定すること。それがどれほど相手にとって苦しく、悲しいことなのかはすみれにもわかっているつもりだ。だがそれを承知の上で彼女は伝えたのだ。

 何かを成せば、それと同じくらい何らかの応酬が必要なはず。社会のシステムなら勿論のこと、自分の生きてきたショウビジネスの世界ならば常にそうだ。けど、夏空始(この男)は違う。時には自分だけ傷ついて、損をしても、「それでいい」と笑顔を見せる。千砂都から聞いた話だって、彼女が見抜いてなければ関係の破綻だってあり得た筈だ。まあ、そうなったところで彼女には無関係だったかもしれないが。

 

「タダより怖いものはないって良く言うでしょ? かのんたちは違うかもしれない。けど、あなたの親切を利用して笑う人も逆に怖がる人だっている。今はいなくても、いつか必ずね」

 

 利用されるだけ利用して、邪魔になったから排除される。そんな姿……こっちだって見たくない。だからすみれは本音をぶつけたのだ。

 

「……すみれの言う通りかもな」

 

 随分と素直に受け入れてくれたと、言い放ったすみれ本人が驚いている。多少の口論くらい覚悟していた。かのんや千砂都、可可よりも付き合いの短い人間に自分の生き方、在り方を否定されたのだ。罵詈雑言が飛んできてもおかしくはない。

 

「正直、この生き方は歪だよ。やってることはただのお節介。俺だけが損をすることなんてしょっちゅうだよ」

「なら────「けど、やめるつもりはないよ」

 

 言葉を失ってしまった。自覚しつつもやめるつもりはない。呆れるとか怒るとか、そんな感情の前に出てきたのは疑問だった。どうして、と。

 

「俺が憧れてる……からかな。沢山の人を助ける姿……父さんの姿に憧れて……それに近付くにはどうすればいいか、それを俺なりに考えたのが今なんだ。だからやめるつもりはない」

 

 憧れた姿を自分なりに出力してみせたのが今の夏空始だというのだ。

 

「お父さんの……私……」

「すみれの言う事も理解してる。ありがとう」

「は、はあ!? なんで私にお礼なんかしているのよ!? 普通怒るでしょ!」

「けど、心配してる……ことだろ? 少しは考えろって」

「そんなんじゃないわよ! お節介は焼きすぎると逆にウザくなるの。それでトラブルでも起こしたらこっちにも迷惑がかかるでしょ? それを見越して言ったの」

 

 後半は事実だ。行き過ぎたお節介は逆に邪魔となる。そんなことでトラブルにでも発展すれば、かのん達も胸を痛めるだろう。そうさせないためにははっきりと言ってあげる必要があるのだ。

 

「……うん、わかった。少しは自重するよ。すみれたちにも迷惑はかけられないし」

 

 なんか上手く丸め込まれた気がするが、良いだろうとすみれは息を吐いた。そんなすぐに彼が変えられるとは思ってない。自覚をしていたこと、彼の憧れ故の行動だったこと。そして少しは控えてくれる。これだけ聞ければ十分だろう。

 

「はあ……今はそれでいいわ」

「すみれってさ、実は結構優しいよな。厳しいように見えて、周りの人のことを考えてる」

 

 おそらく、彼に他意はない。心の底から思っていることなのだろう。

 彼女から始まった会話の最後に、こんな返しを貰うとは予測していなかったすみれは取り繕うようにして言葉を発する。

 

「バッ……! いい? 私はショウビジネスの世界に帰りたいの。その前にトラブルで戻れないなんてことにはなりたくないの! ただそれだけ。いい?」

「わかってるよ。さて、そろそろ帰ろう。すみれも神社の手伝いがあるんだろ?」

「余計なお世話……でも、そうね。帰りましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人の間にあった靄は消え、友人同士の下校。そんな時間が始まろうとした時、各々の携帯から音が響く。

 

「これって……」

 

 音、そして画面に表示された文字で確信を持つ2人。平和な世界を瞬く間に恐怖と悲しみで覆う存在の出現である。

 

「ああ。怪獣だ」

 

 怪獣出現の警告音が彼方此方で響いた数秒後、地鳴りと共に巨大な影が姿を現す。アスファルトの破片や土が舞い上がる。

 翼と一体化した腕。尖った耳や牙……その姿はまさしく巨大化した蝙蝠であった。何度か街中に咆哮を轟かせた後、即座にビルを破壊し始めた。

 

「始! 逃げるったら逃げるわよ!!」

「あ、ああ!」

 

 今すぐゼットに変身したいところだが、すみれを安全な場所まで避難させることが先だろう。不幸中の幸いか、周囲に逃げ遅れた人や転倒した人は見当たらない。

 

 地面から姿を現した怪獣は、目的もなくただただ暴れまわるのみ。障害物などお構いなしに前進し、目に付くものは片っ端から倒していく。すると瓦礫の一部が、宙を舞う。凄まじい速度で街を移動するそれは小さな建築物に食い込む。倒壊せずとも、破片のいくつかが地面へと落ちていく。

 

「……!?」

 

 ちょうど、すみれたちの居る場所に。

 

「すみれっ!!」

 

 人からすれば巨大な破片たちが、彼らを呑み込んだ。

 




始の生き方はちょっとヤバくない? という話でした。このようにはっきりと言ってあげられるのはやっぱりすみれなのかなと。彼女は芸能界にも居たわけですし「何かをしたら返ってくる」ということには敏感なのかなと思いまして。
まあやめるつもりもない堅物の始にはあまり効果がなかったわけですが……。
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