Superstar-Z   作:星宇海

19 / 51
第2章 結び、結ばれ
第19話 意外な客人


 

 それは彼女の幼い頃の記憶。

 

「ここはわたしたちの場所なの」

「かってに使わないでよ」

「ごめんなさい……知らなくて」

「近くにすんでるなら知ってるでしょ」

 

 どうやらその公園は、あるグループが良く使っていたらしい。周辺に住む同い年の中では暗黙の了解になっていた。けれど彼女はそんなこと知らず、使ってしまった。

 公園は本来、誰でも自由に使える場所だ。けれど数の暴力で迫られては……ましてや当時の彼女では、そのことを強く主張することはできなかった。

 

「はじめてこの公園にきて……知らなくて……」

「ふ~ん、まあいいわ。でも、これはもらってくから」

 

 3人組の1人が握っていたのは、髪を結ぶための紐。

 

「ダメ! それはダメ!!」

 

 彼女にとって大事なもののようだ。必死に返して欲しいと訴えるが、少女たちは聞く耳を持たない。腕を高く上げれば、背の関係もあり届かなくなってしまう。

 

「なんで? あんたが私たちのじゃましたんでしょ!」

「そうよ!」

「あ、泣いてるー!」

 

 大事なものを取られ、圧を掛けられ、すれば自然と目元に涙が溜まる。その姿を少女たちは楽しそうに見つめる。それが悔しかったのか、彼女は必死に答えた。

 

「泣いてない!!」

 

 だがそう答えるたびに、溜まる量は増えていく。同時に伸ばした手足の力がなくなっていく。目の方は決壊寸前だ。

 

「あー!!」

 

 耳に届いたのは安心する声だった。視線を向ければ、オレンジ色の髪を揺らし走ってくる少女の姿があった。彼女は庇うようにして立った。その後ろ姿は、まさしくヒーローだっただろう。

 

「■■ちゃんをいじめちゃダメ!」

「なんなのあんた?」

「いいから■■ちゃんの大事なもの、すぐに返しなさいよ!」

 

 怯まず、力強く言い切った少女。その姿に気圧されたのか、これ以上の言い合いが面倒になったのか、3人組は投げるようにして返し、大人しく去っていった。

 

「これでよし」

「ありがとう。でも仕返しされるかも……」

 

 髪を結び直してもらい、仲良くブランコに座る。けど彼女は心配だった。今回は過ぎ退いてくれたが、今後倍の人数、違ったやり方で仕返しされるのではないかと。

 

「大丈夫。■■ちゃんのことは私が守るから! 困ったら呼んでよ。それにね、すっごいたよりになる子がいるんだ!!」

 

 けど彼女は臆することなく、いつものようなキラキラした目で言ってのけたのだった。

 それが嵐千砂都に刻まれた記憶。彼女が今の自分から脱却したいと思った……最初の出来事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 多くの登山客で溢れかえる某有名山岳の1つ。真夏の太陽が照り付ける晴い空の下、普段であれば絶好の登山日和である。そう、普段であれば。しかし今日は登山することは叶わないだろう。何故なら────

 

「くそっ! こんなバカ暑い時に出てきやがって!!」

『始、怪獣に暑さとか関係ないでございますよ!』

 

 怪獣が出現したからである。白い体毛に筋骨隆々な体。登山客の側からすれば、ゴリラや伝説に名高い雪男のように見えるだろう。名前は【冷凍怪獣(レイトウカイジュウ)ギガス】現れて早々、その場に居合わせた登山家や山に生息する動物に襲い掛かっていたのだ。そこにウルトラマンゼットが登場して現在に至る。

 

『この怪獣、ウルトラ強ぇ……』

「どうにか攻め込む隙を見つけないと!」

 

 ゼットと取っ組み合うギガス。しかし状況はギガスが優勢であると言える。ゼットが怪力に押されているからだ。どうやら素早い連続攻撃で相手を追い込むアルファエッジとは致命的に相性が悪いらしい。単純な力技の前には強く出られない。幾度の攻撃にたまらず怯むゼット。反撃したのにも拘らず、ギガスの頭突きでさらに吹き飛ぶ。

 

「なかなかやるな……」

 

 攻められっぱなしのゼット。するとそこに頼もしい助っ人が現れた。

 

『以前の借り、ここで返すよ!』

 

 ゼブンガーである。着地してすぐ、ゼットとバトンタッチするようにギガスへ接近。互角のパワーでギガスを相手取る。腕部の攻撃をブロックし、そのまま腹部へ殴り掛かる。距離が空いたらロケットブースターを点火させ、強力な頭突きを放つ。

 

『ウルトラマン!』

 

 晶子の声に応え、ゼットが攻め立てる。素早く脚で蹴り、額の光線で隙をさらに作ってからギガスの胴を打つ。

 ゼブンガーの登場によって形成逆転。当然不愉快になったギガスは奥の手を使う。口から冷凍光線を放ったのである。

 

『うわっ!? 冷えるっ! ウルトラ冷えるっ!!』

「マズいマズいマズい! いったん距離を取ろう!!」

 

 バク転で後方へ移動し、ギガスの動きを伺う。しかし時間もかけてられない。隣に立つセブンガーと目を合わせると、ゼットは青い槍を召喚する。

 

『「ゼットランスアロー!』」

 

 レバーを引き生成された黄色い光弾をギガスに放つ。切っ先から放つ遠距離技、アローショットだ。

 

「よーし、これを撃ち込んでやる……!」

 

 ゼブンガーも大技の発射準備へと入る。

 狙いを定めるゼブンガーを阻止するため、ギガスは再度冷凍光線を放つ。

 

「させるか!」

 

 燃え滾る槍を振り回し前方でZの字を描く。そして狙いを光線へと定め、その文字を撃ちだした。

 

『「ゼットランスファイヤー!』」

 

 両者は中間で激突。凍らされ、燃やし尽くし、どちらも空中に分散する。しかしこれでいいのだ。ゼットが行ったのはあくまで発射までの時間稼ぎと光線の排除。後はゼブンガーの仕事だ。

 

『硬芯鉄拳弾……発射!』

 

 撃ちだされた拳はギガスの腹部に命中。衝撃に耐えられず、ギガスは断末魔を上げながら爆発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『力が足りない……?』

「そう。ギガスと戦って思ったんだけど、単純な力比べになったら今のままじゃ負けるなって」

 

 ギガスとの戦闘を終え、結ヶ丘へと登校した始。今は夏休みの真っ最中だが練習は勿論ある。

 そしてその道中、彼は先程の戦闘から自分たちの課題を見つけ出したのだった。今のアルファエッジでは強力な力の前に無力だ。セブンガーが助けに来てくれなかったら今頃どうなっていたか……。

 

『確かに。ウルトラフュージョンが出来れば、パワーファイトに特化した形態にもなれるんだが……』

「え、そんなのもあるの? クソ、なんでメダルがないんだよ……」

 

 どうやらウルトラフュージョンには怪力を発揮できる形態もある模様。けど今あるメダルは5枚。アルファエッジにしかなれない。始はメダルが未だ見つからないことに毒づく。

 

『まあ、無いものねだりしたってしょうがない。暫くは、攻撃を避けてその隙に一撃一撃を加えていくしかないだろう』

「はあ……だよね。あ、ゼットランスアロー使って遠距離からチクチク攻撃してくってのもアリか」

『時間がウルトラ掛かるぞ、それ』

 

 遠距離からひたすら攻撃を加える。確かに有効そうだが、極僅かな時間しかいられないウルトラマンでやるのはとてもリスキーである。それにそんな姿、見た人々はどう思うだろう。心無い言葉が飛んでくるのは必至だろう。

 

「……やめとくか」

『ああ、やめとくべきだ』

「はあ……面倒だ」

 

 暫くは怪獣退治に苦労しそうだなと溜息を吐きながら、始は屋上へと歩いていく。

 

「加えて外も……はあ……」

 

 彼が憂鬱なのは、怪獣だけじゃない。ギラギラと太陽が照り付ける屋上も……である。

 今日は猛暑日であり、水分補給などを行い熱中症対策をと騒がれている。今朝もキャスターが注意喚起しているのをグデッとした姿勢で聞いていた覚えがある。

 

『おいおい、そんな調子で大丈夫なのか?』

「でも暑いものは嫌なんだよ……」

 

 ゼットも呆れた様子で尋ねてくるが、嫌なものは嫌だと始は答えた。

 

『あのな、怪獣墓場にある炎の谷ってのがあってな。そこはウルトラ熱いらしいぞ。それと比べたら……』

「知らないよそんなこと。こっちは地球の環境事情で手一杯なんだよ」

『けど、こんなに暑くなったのは地球人のせいだってどこかで聞いたぞ』

「……まあ、確かにそうかもしれないけどさ」

 

 本来、太陽から受けた熱は宇宙に放出されることによりそれなりの環境が保たれてきた。しかし二酸化炭素の等の温室効果ガスが増え、宇宙に出ていく筈の熱を捕まえてしまい、地球の温暖化が徐々に進んでしまっているのが暑くなる原因だという。二酸化炭素などは、人々の生活の中から大量に溢れている。つまりは地球人がこの事態を招いているということだ。

 ゼットの言葉に、始が反論する余地はない。けれどゼットも別に責めているわけではない。彼の言葉は偶に正直すぎるのだ。

 

『けど寒いよりいいじゃないか。俺たちウルトラマンにとっては寒さが弱点だからな』

「へえ~、じゃあギガスとかやばかった?」

『ヤバい。ウルトラヤバい』

 

 などと話していると、部室に到着する。

 時計に目を落とせば既に練習が始まっている時間だ。荷物を置いてすぐに屋上へ向かうつもりの始だったが、部室を開けた途端断念した。

 

「死ぬかと思いマシタぁ……」

 

 可可がぐったりと椅子に座り、すみれが団扇で扇ぐという光景を目にしてしまったからである。

 

「悪いおく……え……え、何この状況!?」

「あ、始くんおはよう。見ての通り、今日は遅れても大丈夫だよ」

「クゥクゥちゃんが暑さにやられちゃったからね」

 

 安心と困惑がいっぺんに襲ってきたが良しとしよう。

 確かに今日は猛暑日だ。故に体力の一番低い可可だけが倒れてしまったのだろう。

 

「そういうことか。やっぱり外でやるのはマズいよな」

「だよね。それで今その話してたんだ」

「始、あんたも何かない? 涼しい練習場所」

 

 どうやら全員で他の練習場所を探しているようだ。条件は1つ。”涼しくある”こと。しかしそう簡単には見つからないし、思いつかない。部室であれば直射日光を遮ることはできるが冷房がついてない。ダンスレッスンをしようものなら蒸し焼きだろう。

 

「すぐ思いついたら苦労しないよ。体育館……はもっと暑いか」

「その前に、他の部活が使ってるでしょ」

「じゃあ、音楽科のレッスン室は?」

 

 千砂都が提案する。レッスン室は新設する際に建てられた新校舎にある。設備もそろっており、涼しくはあるだろう。涼しくは。

 

「でも使わせてもらえないよ。”普通科”は」

「デスヨネ……」

 

 普通科を強調するかのんの語調には微量の不満が混じっていた。

 春から夏へと季節が移り変わっていくにかけ、音楽科と普通科の溝も徐々に深くなってきていた。小さくとも確実に。そのため、音楽科の人達が親切に使わせてくれるとは思えなかった。

 

「千砂都が頼むならいけるんじゃないの? 音楽科だし、いつも使ってるんでしょ?」

「ナイスアイディア」

「やめとこう? もし許可が出ても他の普通科の人達に悪いよ。それに、同じ学校なのにこっちが使わせてもらってるの、なんか良くない気がする」

 

 確かにそうだ。要は特別扱い……になる訳だ。しかしそれは音楽科の設備を使うことなく練習を行っている普通科の生徒に申し訳がない。それよりも、音楽科に許可がいるという今の序列、システムも確かに引っ掛かることではある。

 

「ま、しょうがなくはあるのかな」

「そうね。音楽科が最優先みたいなとこはあるし」

「そうだけどさ……科が違うだけなんでこんなに扱いの差が出ていいのかなって」

 

 かのんと同じことを思わないわけではない。けれども現状ではどうしようもないことだった。音楽科の生徒が優秀であることは間違いないし、規模の大きい大会にも出場しているのも事実だ。実績のためには練習場所がいる。でも平等にとはいかないから、こうして比率を音楽科に傾けている。納得できる理由だ。けど、正論は時に嫌われる。

 

「はい、5分経ったわよ」

 

 そんな暗い空気を覆すかのようにすみれの声。途端、可可を除いて机を囲むように立ち始めた。

 

「どうした、急に?」

「そっか、始くん居なかったもんね。団扇を扇ぐ人を決めるの。じゃんけんで」

「じゃ、じゃんけん?」

 

 どうやら時間交代のじゃんけん制らしい。

 

「じゃあ俺が扇ぐよ?」

「ダメです。それでは始の優しさに甘えてしまうコトになりマス。だからこそここは公平なジャンケンで決めるべきなのデス!!」

「あ、はい……」

 

 事情があったとはいえ、今日は大丈夫だったとはいえ遅刻は遅刻だ。だからと自ら手を挙げたのだが、椅子に座りながらもバタバタと手足を動かして訴える可可に押された始は素直にじゃんけんに参加する。

 

「「「「最初は────」」」」

 

 結局、始が入ってきた時と同じようにすみれが扇ぐことなった。そして屋上での練習は危険(熱中症などの観点から)と判断し、結ヶ丘を後にすることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりクーラーがあると違いマスネ~」

「でもここで練習するわけにはいかないでしょ?」

 

 場所を移動し、かのんの家兼喫茶店へと来ている。店内の涼しい空気が、熱を纏った体を急速に冷やしてくれる。生き返るとはこういうことなのだろう。

 

「かのんの部屋を片付ければなんとかなりマセンカ?」

「お父さんが仕事してるからな……」

「店側にも響くだろうから、現実的とは言えないわ」

 

 かのんの父親は翻訳家であり、部屋に籠って仕事することも多々あるという。さらに部屋の下が喫茶店なのだ。ドスドスと物音が聞こえてきたら雰囲気も台無しになるというもの。

 

「じゃあすみれちゃん家は?」

「木陰とかあるんじゃないデスカ?」

 

 次は後ろのテーブル席でストローを咥えるすみれへと向けられる。

 

「そんなに広くないわよ?」

「大丈夫、私たち3人が動ければいいんだし」

 

 最悪、3人のダンスレッスンが出来れば問題はない。練習場所が見つからなければ、すみれの神社にお世話になるだろうなと考えつつ、始はアイスコーヒーを注文する。

 

「またチャレンジするの?」

「飲めるようになるまでな」

「無理しなくてもいいのに」

「俺は飲めるようになりたいんだよ」

 

 かのんと始のやり取りを聞き、興味深そうに顔を覗かせるすみれと可可。

 

「はい、どうぞ」

「いくぞ、今日こそは…………苦い」

 

 意を決して飲んだものの、一口目で顔に皺を寄せる。彼は苦いものが得意ではないのだ。

 

「もう……ここにガムシロップとミルク、置いとくよ」

「ありがと」

「意外。始、舌はお子様なのね」

「なっ……」

 

 何も言い返せず、始は無言で薄茶色となった液体を啜る。

 

「そう恥ずかしがらなくてもイイじゃナイデスカ、始~」

「……うるせえ」

 

 ニンマリと笑みを浮かべた可可にすり寄られるも、始はそっぽを向いて啜るだけ。そんな姿が面白く、辺りが笑いに包まれた。

 そんな時、新しい客が入ってきたことに最初に気付いたのは苦笑いを浮かべていた千砂都だった。

 

「「「「「「……っ!?」」」」」

 

 千砂都のみならず、そこにいた全員が来店者の姿を見て驚愕した。その中で一番リアクションが大きかったのは可可だ。

 

「いらっしゃいま……うわぁぁっ!?」

 

 黄色の髪を後ろで束ねた少女。紫のロングヘアの少女。そんな2人を見間違うはずもない。彼女たちのことは可可から何度も聞いたし、街頭テレビで映像が流れているのはしょっちゅうだ。それに代々木のフェスでも見たのだから。

 

「Sunny……Passion……」

 

 神津島の生んだスクールアイドル、Sunny Passionの”聖澤(ヒジリサワ)悠奈(ユウナ)”と”(ヒイラギ)摩央(マオ)”がそこにはいた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。