皆さんよいお年を。
「Sunny……Passion……」
目の前にいる2人組。それを見間違う程愚かではない。大人気スクールアイドル、SunnyPassionご本人だ。本来あり得る筈のない来店に、結ヶ丘の生徒5人は言葉を失う。そして現状が夢なのではないかと疑い始める。主に可可が。
「す、すぐに可可の頬を引っ張ってくだサイ!!」
「なんでよ……」
「夢じゃない確証が欲しいからデス! あのサニパ様が目の前にいるナンテ……怪獣の仕業かもしれないノデ!!」
「怪獣もそこまで都合よくない……わよっ」
「……痛くありマセン」
「冷たさで痛覚バグってんのよ!」
可可はすみれのよってこれが現実であるとわかると、一気に飛び出していく。そして2人へ自己紹介。彼女たちを見てスクールアイドルに憧れたこと、そして日本へ留学してきた事を一息で話す。しかし、初対面でこれだけのことを語るのは失礼だと可可はブレーキを踏み、クールダウンだとかき氷をかき込む。当然、冷たいものを一度に大量に摂取したとなる待っているのは頭痛である。
「落ち着きなさいったら落ち着きなさい」
憧れの人達を前に迷走ぶりを見せてしまう彼女を助けたのはすみれ。
「ハイ……」
でも何故、彼女たちがここへ来たのか。疑問符を浮かべ続ける5人。
雰囲気的にも宣戦布告ではなさそうである。第一、わざわざ挨拶しにくるほど暇じゃないだろう。であれば一体何の目的があるというのか。そんな彼らの疑問は、あと数分後に解決するのであった。
*****
「2号ロボの開発がストップ!?」
晶子の声が指令室に響く。
2号ロボットとは、その名の通りセブンガーに続けて配備される予定の対怪獣特殊空挺機甲2号機のことである。セブンガーと比較してもより人型に近い構造、そして機動性を重視しているという点で配備を心待ちにしていたのだが、どうやらロボの開発予算が止まってしまったらしい。それにともない開発状況も一旦ストップという判断を下すしかなくなってしまったのだ。
「済まない。予算会議で話に挙げたんだが、今回は見送りという結果になってしまったんだ」
「それ、絶対上が圧力かけてるでしょ! これ以上手柄奪われたくないからって!!」
目線を下げながら話すのは長官の栗山。そしてその話に憤りを見せるのは結衣であった。
成果を出しているストレイジだが、未だにビートル隊所属部隊の中では評価が低いというのが現状だった。それもあってか、予算を回してもらえないことや話を保留にされることも少なからずあった。しかし今回は珍しく上手く行きそうだったのだ。それがまたストップともなれば、結衣のように言いたい放題になるのも仕方がない。
「実際問題、予算はどこも欲しいからな。今は怪獣や宇宙人の動きが活発になってる」
「そうですけど……じゃあ、ビートル隊本部の事務次長が予算会議に来るとき、ストレイジがプレゼンする時間を作ってもらえるように頼み込むこととかできないですか?」
「できればそうしたいんだが……」
歯切れの悪い栗山。それができない理由があるらしい。語ってくれない長官へ結衣は詰め寄る。
「おい結衣、抑えろ」
流石にここまで隠しては申し訳ないだろうと思ったのか、栗山は語った。それができない理由を。
「今、事務次長と連絡が取れないんだ」
「え、どうしてですか?」
「本部に……いらっしゃらないからだよ」
「い、いらっしゃらない……?」
「そうなんだ。どうやら休暇をとっているらしくてな」
殆どの時間を地球の平和に費やしている為、なかなか羽を伸ばせる機会がないのだという。防衛隊のトップに所属する者としてその身を捧げているのだから感謝の意として体を休めてほしいのは山々だが、どうして今なのだろう。
休暇が終わればすぐに予算会議へ向かうことになる筈。であれば頼んで時間を作ってもらうことは不可能。その時にはスケジュールに空きがなくなっている可能性が高いからだ。タイミングが悪すぎると頭を抱えてしまう。
「因みに何処へ?」
「なんで聞くんだ? もしかして直談判しに行くわけじゃないだろうね!?」
「そんな訳ないですよ。結衣はただ好奇心で尋ねているだけです……だよな?」
「当たり前じゃないですか~」
本当なのだろうか。正太も普段は規律正しい立派な隊長なのだが、時偶に悪ノリすることがある。実は今もそうなのではないか。栗山は疑いの目を向けつつ答えた。
「日本の何処か……としか言えない」
「それでも広すぎる……」
「なに?」
「いえなんでも!」
しかし栗山も2号ロボのことで話したい事が山ほどある。その想いはここにいる隊員たちと何ら変わりなかった。だからこそ彼女らの抱える不満も理解できてしまう。
「済まない。休暇が終わったら、改めて話の場を設けさせてもらえるよう話を付ける。それまでは……頼む」
長官の方から頭を下げられてはどうしようもない。顔を見合わせ、3人は命令に従う。それを見た栗山もどこか申し訳なさそうに指令室を後にするのだった。
「そういうことだ。ま、別に計画がなくなる訳じゃない。2号ロボの顔を見るのが少し遅くなるだけだ」
「……そうですよね。うん、こんな顔してたら整備班のみんなにも、セブンガーにも悪いですもんね」
「晶子の言う通りだね。けど、もしまた保留にされたら本部にのり込んでやる……!」
「ちょっと結衣!」
「……」
正太がそれを笑って流せないのは、結衣の場合なら本当にやってしまいかねないからだ。怪獣のことと装備のことには良くも悪くも真っ直ぐな彼女。いつかやらかすのではないかと密かに震えているのである。
「おい2人とも」
すると正太の端末に通知が。内容は勿論のこと────
「任務が入った」
「怪獣討伐じゃ……なさそうですね」
「ああ、どうやら調査らしい。2人の端末にも送ったから確認してくれ」
2人が目を通すと、どうやらある場所に眠っている怪獣の調査をお願いしたいらしい。
「へえ……バイタルに揺らぎを観測したと」
「けどこの数値じゃ断言しにくいから、私たちの意見を聞きたいと」
付近の住民が不安になるのも頷ける。何故なら今は異常事態が起こりやすくなっているからだ。ゲネガーグの襲来依頼、世界各地に眠る怪獣の活性化が問題になっていること、さらに日本に限定すれば何処からともなく姿を現したゼッパンドン。そしてウルトラマンの来訪。ここ数年にない事象が頻発している為、不安になるのも仕方のないことだった。
「そこでだ。俺と結衣で現地調査に向かう。晶子はこっちでデータを解析、それと怪獣の出現に備えててくれ」
「データは逐一送るから。データベースと照合させて調べてみて!」
「わかった。けど、結衣が見落とすこととかないでしょ」
「”もしも”ってことがあるかもしれないし!」
「そうだな。他の怪獣の痕跡があろうものなら、任務そっちのけで調べ始めるかもしれないし」
「隊長、私そんなことしませんって!」
軽口を叩きながらも今後の方針が決まる。
作戦時間まで解散と言いかけたところで、そういえばと結衣が質問を飛ばしてきた。今回の調査、どこに向かうのかと。
「書いてなかったか? それは────」
「神津島で一緒にライブ!?」
「そうなの! 夏は毎年故郷の島でライブを開催していて……」
「今年のゲストに、是非かのんさん達をお招きしたいと」
これがどうやらここまで訪ねてきてくれた理由らしい。
故郷の島で毎年行うとのことだから、Sunny Passionは地元に愛されているのだろう。スクールアイドル激戦区である東京地区を勝ち抜くほどの技術を持っているのだから、相当な練習量をこなしているのは間違いない。けれど地域での活動も決して忘れない。その精神性、話しているだけでも勉強になる。
「サ、サニパ様からの直々のスカウト……!」
「でも、いいんですか?」
「アハハ、そんなにかしこまらないで。ラブライブと違って順位を決める訳じゃないから!」
「とは言っても、島を盛り上げるという目的はありますけどね」
千砂都は尋ねる。どうするのだと。しかしこのような話、持ち掛けられた時から答えは決まっている。かのんはすみれや可可を見る。2人の表情を見るに、答えは一緒のようだった。
「ちぃちゃんも始くんもいいよね!」
「勿論」
「……うん」
「是非出演させてください!
今は歌える場があればどんどん参加してきたいという旨を伝える。その答えは2人にとって好印象だったみたいで、悠奈の喜んでいる表情が目に映った。
けれど始は神妙な面持ちだった。参加する云々にではない。先程かのんに聞かれた時、千砂都の反応に妙な違和感を感じたからだ。それが気になった始は千砂都の方へ目を向ける。
「……? どうしたの?」
「なんかあったのかなって」
「なんで? 別になにもないよ!」
けど、いつもと変わらない笑顔で反応した千砂都だった。故にさっきの違和感は気のせいだったのかと2人へ向き直る。
「そうだ、君も来るでしょ? 見たところ、グループに関ってるみたいだし」
「え、俺もですか……?」
突然投げられた言葉に狼狽える始。かのん達の練習を手伝っているとはいえ、今回は必要ないだろうと完全にいかない気持ちで話を聞いていた。なのに、悠奈は当然だとでもいうような口調で確認してきたのだ。驚くべきはその洞察力か。少しのやり取りで始がかのん達と関わっていることを見抜いたのだから。
「始くんも来るでしょ?」
「始も行くんデスヨ!」
「もしかして行かない気でいたの? あんたも部の一員なのよ。忘れた?」
かのん達は始が最初から行くものだと思っていたらしい。3人の視線により、自然と苦笑いがこぼれる。
「答えは出ているみたいだけど?」
「拒否権はなさそうだな……わかりました。俺も同行させてもらっていいですか?」
「勿論だよ!」
こうして、始も神津島に向かうことになったのである。
*****
「一応始くんにも伝えてあるけど、練習メニューと振り付けは送っておいたから」
「プレッシャーだなこれ」
「始くんなら大丈夫だって。自信持ちなよ!」
ターミナルで話し合うかのんと千砂都、そして始。
因みにかのんと始は夏らしく涼し気な私服であるのに対し、千砂都は結ヶ丘の夏服。彼女だけが違ったのである。そして先の会話。どうやら千砂都だけは島に行かないらしい。
「それにしてもビックリだよ。ちぃちゃんが学校代表に選ばれるなんて!」
これは数日前に聞いた話なのだが、千砂都はダンス大会の学校代表に選ばれていたのである。音楽科で技術を磨いている彼女なら納得のいく話だが、最初に聞いたときは驚きと歓喜に包まれたのを今でも思い出す。
「日程が被ってなければ私も行けたんだけどね」
「応援も行きたかったな」
「ほんとだよ~」
かのんと話している時、千砂都の表情が彼の目に入った。一瞬、ほんの一瞬だけ……曇った気がしたのだ。でもすぐにいつもの笑顔に戻る。
「……千砂都、何かあれば連絡してくれよ」
「うん! いつでも連絡して!」
「そっちこそ「千砂都、練習メニュー何だっけ~」って泣きついてこないでよ?」
「な!? そんなことしないっつーの……多分」
「ん~そこは言い切ってほしかったな~」
始の見せた弱気な面に2人は笑う。このようにしていると、そこは至って普通の、いつものやり取りに思える。しかし始の中では靄のようなものが濃くなっただけであった。
「始がダメでも任せておきなさい! この平安名すみれが、ショウビジネスの世界のダンスを叩き込んでおくわ!」
そう言って振り向いたすみれ。ハットにサングラス。頭から下の服装とはあまりマッチしていないような気のするそれは、まさしく”有名人のお忍び”と言われるようなものであった。
「グソクムシがダンスは要らないデスヨ?」
横から可可が。かのんはどうやら可可にも動画を見せたらしい。そこから事あるごとにグソクムシと可可は彼女を弄っていた。
「あ、そろそろ時間だよ」
時計を見れば、船の出向時間が迫っていることに気付く。
「クゥクゥちゃんもすみれちゃんも集まってー!」
別々の場所で頑張る友人への応援を込めて、ピースマークで円を作る。
『ういっす! ういっす!! ういっすー!!!』
天高く掲げて互いの激励とした。ライブの成功、そして大会の……。
こうして夜に出航した4人を乗せた船。
何事もなく船内での時間を過ごすことができると思ったが、そうもいかないらしい。
「おいおい、大丈夫か?」
「まさか船に弱いなんてね」
3人が覗き込む。そこには横になる可可の姿があった。彼女、船に酔ってしまったのだ。そこまで波が強いわけではないのだが、可可は極端に弱いのかもしれない。
先程飲ませた酔い止めの効果が効いてきたのか、上体を起こして話せるくらいには回復したようである。
「スミマセン。サニパ様に会えるかと思うと、夜も眠れズ……」
「それもあったか……」
十分な睡眠もとれておらず、疲れが残った状態でもあったらしい。
可可がSunny Passionに並々ならぬ想いがあることは十分知っている。そんな人々にまた会えるとなれば、そしてライブも参加させてもらうともなれば、興奮してしまうことも無理はないだろう。
「クゥクゥちゃん、今日はこのまま休んでて」
「いえ、先ほどの酔い止めもあって治ってきマシタ。早速船上での練習を……」
立ち上がろうとした瞬間、力が抜けるようにして倒れ込む。揺れを感じ、また気分を悪くしてしまったのだろう。
「どうして床が揺れるのデスカ~」
「今日はそのまま休んでろ」
あまり眠れていなかったこともあるのか、横になって数秒で寝てしまった。その姿を見ていると、こちらも眠気を誘われてしまう。欠伸が出てきたのがその合図だろう。
「さて、俺たちもそろそろ寝るか」
「そうだね。明日も早いし」
そう言って横になってみると、自然と瞼が重くなるのを感じたのだった。
*****
「……」
背筋を伸ばし、深く息を吐く。精神を落ち着かせ、1つ1つ丁寧に動きを重ねていく。
翌日の早朝、誰よりも速く目が覚めた始はデッキへ。そこで彼が行っているのは型。型は空手の基盤、いわゆる基本的な動作である。空手競技としての型は「いかに正しく演舞できているかどうか」「技の繰り出しができているかどうか」という2つの視点から競うものである。始も当然やっていたものだ。
「……ッ! ……ッ!!」
約3年前に辞めた空手。なのに動きは体に染みついているのか、どの型もスムーズに行えた。始は心に靄があるときや、集中したいときにはこのように型を行っていた。因みに今は前者。心に靄があるからだ。
(千砂都が来なかったのは……ダンス大会があるから……)
思考を巡らす彼の動きは素早く、そして力強くなっていった。
千砂都今回来なかった理由。それが気掛かりなのだ。ダンス大会があるから来ないのだと納得したい。けど裏には……何か別の心算があるのではないかと思えてしまうのだ。
「始……?」
自分を呼ぶ声が聞こえてきたところで型を止める。後ろを振り返ると、そこにいたのはすみれだった。
「今の型……よね?」
「うん。目が覚めてもやることなかったから精神統一ってことで」
推測の域を出ないことを言って、余計な負担をかけたら今後に響くだろう。咄嗟に判断した彼は胸の内に本心をしまうのだった。
「なによそれ」
どこか呆れ気味だったがそれだけでなく、別の感情も込められているような声音と共に始の隣へ向かうすみれ。早く起きた者同士の、何気ない会話の始まりだった。
「クゥクゥは?」
「まだ寝てるわ。あの調子ならもう大丈夫よ」
「そっか。ならよかった」
甲板を歩きながら話を続けていると、薄暗い空が徐々に照らされていくのがわかった。
「かのんは?」
「ヨガをしながら歌詞を考えていたけど、今は話しかけない方がいいわ」
「成程……行き詰ってる感じか」
「そうね。あまり急かしたくはないけど、こっちも覚える時間があるから悩みどころね」
「確かに」
彼にも経験がある。昔、何かに悩んでヨガを行っているかのんに話しかけ、普段と異なる口調やトーンで返された時には思わず泣きそうになった程である。
「そろそろ日の出か……すみれ、見てこようぜ。俺見たことないから楽しみなんだ~」
「ちょ、ちょっと始! もう、急に子どもっぽくなるんだから……」
船首の方へ走っていく始。そしてやれやれと言った感じで追いかけていくすみれの姿があった。
「ようこそー! 私たちの島へ!!」
船から顔を出すと、悠奈と摩央が出迎えてくれていた。一目散に降りていったのは持ちをん可可。そしてかのん、始、すみれの順に下船していく。
「重そうだな、持つよ?」
「このくらい大丈夫よ。ショウビジネスの世界でもやってきたんだから」
すみれの持つキャリーケースがあまりにも重そうだったので提案したが、このくらいのことは今までもやってきたと却下された。
「わざわざありがとうございます」
「いいのいいの!」
「お二人に出迎えていただけるなんて何たる幸セ……これささやかなモノデスガ!」
「もう、気は使わないで」
「あんた、意外とそういうところ細かいわよね」
そこから早速移動を開始したのだが、ある看板が目に留まった始は足を止める。
「どうしたの、始くん?」
「これが気になって……」
「なになに……なんて読むの?」
「わからん……」
かのんと共に見つめる看板。そこに書かれていた漢字は見たことのない羅列であり、この島特有のものであるとすぐにわかった。読めずにただ眺めていると、悠奈と摩央が気付き説明してくれた。
「それは
「呉毛羅……岩……?」
「そう。この島に伝わる伝説、みたいなものかしら」
「なんですかそれ?」
そして彼女らが語ったのは、この島で古くから言い伝えられているというある怪物の話だった。