Superstar-Z   作:星宇海

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お待たせしました。


第22話 君が今、したいこと

 

「なんだコイツ! チビで弱そーじゃんか」

「はなして!」

「あんたはだまってなさいよ!」

 

 仕返しは意外と早く訪れた。どうやら3人組はガキ大将と噂される同い年の子と共にやってきた。恰幅も良く、性格は乱暴。彼が来たら素直に場所も玩具も譲るしかないと思わせる程、同年代の子を恐怖で支配していた男の子だった。

 かのんは邪魔になると警戒したのだろう、女の子たちに抑えられてしまった。しかし千砂都は何もすることができない。前には大きな男の子が目の前に立ち塞がっているのだから。彼女から見れば、怪獣と何ら変わりなかった。

 

「か、かのんちゃん……」

 

 逃げ出したい。いや逃げろと本能が警告している。でも、足が動かない。岩にでもなってしまったのかのように。そしてまた、目元に涙が溜まる。

 

「あはははっ、コイツ泣いてるー!!」

 

 女の子たちと同じく、男の子も千砂都を見て笑う。何もできず、助けてくれる人も動けない。そんな状況で心を折られる1人の女の子を見て、彼は笑う。

 

「な、泣いて……ない……」

 

 消え入りそうな声で必死に抵抗してみるも、声は届かない。

 

「ちぃちゃん!」

 

 かのんも必死に抵抗するが、3人がかりで抑え込まれては何もできない。男の子の影が千砂都を覆い尽くしたその時、別の男の子の声が聞こえてきた。

 

「やめろー!!」

 

 青い髪に緑色の目を持った少年は千砂都とガキ大将の間に割って入る。

 

「はじめくん!」

「かのんちゃん!」

 

 どうやらかのんと知り合いらしい。そこで千砂都は理解した。はじめと呼ばれた彼が「すっごいたよりになる子」であることを。

 

「なんだ、きゅうに入ってきて」

「弱いものいじめはやめろー!」

「なにそれ? せいぎのみかたってか?」

「そうだ!」

「うわ、だっさー」

 

 ガキ大将と同じく、後ろの3人組も笑う。けれど少年は変わらず千砂都を庇うまま。

 

「じゃまだし早くどっかいけよ!」

「いやだ! ぼくは絶対にどかない!!」

 

 睨んでくるガキ大将に対し、始も抵抗の意思を見せる。すると、これ以上言ってもわからないことを悟ったのか、の彼は手をパキパキと鳴らし近付いてくる。

 

「じゃあお前も一緒に泣かしてやるよ!」

「うわ、こわーい!」

「もういいから……君も

「いやだ。ぼくはぜったい逃げない!!」

 

 そうして彼はガキ大将へと向かって行く。子どもながらに見た彼の差はあまりにも大きく、勝ち目はないことなどわかりきっていた。それでも、少年は立ち向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

「ランニング10キロ……」

「ライブまで時間ないからな。追い込んでいくぞ」

「お2人と共に出来るのであればなんでも来いデス!」

「一番体力無いあんたが言うなっての……」

 

 海辺で話し込んでから数時間後。日が十分に高く昇り、昨日と同じ青い空が広がっている。

 今日からはライブに向けて練習が始まるわけだが、初っ端の走り込みの距離に苦い笑みを浮かべていた。一方で一番体力のない可可が張り切っているのはサニパの2人と練習できるからだろう。

 

「張り切るのはいいけど程々にな? 気温も高いから、飛ばすとすぐバテるぞ」

「大丈夫デスヨ始。サニパ様が考えてくれたメニュー……しっかりこなして、スタミナをつけるんデス!!」

 

 張り切った様子を見せてくれるのは頼もしくて良いのだが、体力面のこともあり逆に心配になってくるというもの。けれど、これではあまり聞いてくれないようにも感じてしまっていた。

 何とも言えない顔で困り果てていた始へ、かのんが小声で話してくる。

 

「始くん、今日はクゥクゥちゃんのことを重点的に見てあげて?」

「だな。そうする」

 

 そうして青空の元、元気よく駆け出して行ったのだが……

 

「スミマセン……」

「いいって別に」

 

 可可がダウン。始が肩を持って木陰のベンチへ連れていき、今は横になってもらっている。隣ではかのんが扇ぎ、どうにか涼しい風を送っている。

 彼女を介抱する3人を前に、悠奈や摩央は昨日の疲れが残っている中でハードなトレーニングを課してしまったのではと申し訳なさを抱いていた。

 

「この子、元々体力なかったんで想定内です」

「どうする、先に宿へ戻ってる?」

「それは可可ちゃんが悲しむと思うので……」

 

 とは言っても一度気分を悪くした者を再度練習に参加させることは避けたいのが素直なところだ。

 一体どうしたものかと思考を巡らせていたのだが、Sunny Passionのリハを見た途端に回復。元気にペンライトを振る姿を見せることとなった。

 

「マジか……」

「すっかり元気になってるじゃない……」

「よ、よかった……」

 

 リハの後、激励の意味も込めて案内してくれたのは野外ステージだった。

 

「立派ね」

「これは島の人たちが?」

「うん。学校のみんなにも協力してもらってるんだ!」

 

 後ろに広がる青い海をイメージしたかのようなステージに、心を奪われてしまった。島のイメージにピッタリ……というのもそうだが、何より彼女たちを応援してくれる人たちが協力してステージを作り上げているという点に。

 

「学校のみんな……」

「島って住んでる人の数が限られてるから、私たちが中心になって学校のみんなと一緒に盛り上げていこうって」

「じゃあ、スクールアイドルを始めたのも……?」

「そうだよ! 誰かの為って思えると、不思議と力が湧くんだよね~」

「大変なことも全部楽しく思えてくるの」

 

 ここに来て、彼女たちが何故スクールアイドルをやっているのか、その根底にある想いを知ることができたような気がする。何かのために頑張るというのはとても素晴らしいことだ。彼女たちが島のためにと頑張るから、みんなが手を貸してくれる。助け合いの輪というものが自然と繋がり、広がっているということなのかもしれない。

 

「私たちも頑張らないとね!」

 

 その心意気に触れたかのん達も、ライブに向けて再度気持ちが入ったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────神津島・呉毛羅岩付近

 

「へぇ~、この先のその……呉毛羅岩とやらがぁ~?」

「そうなんです。先生もきっと気に入りますよ。ささ、こちらです!」

もう少し興味ありそうにしろよ

先生は顔に出すぎなんだよな……

 

 2組のスクールアイドルが練習をこなしている時も、日常は常に回る。

 島の伝説として語り継がれている呉毛羅岩。その場所に向かうのは歴史研究家、もしくは民俗学者の一団であった。汗を拭きつつ険しい山道を登る一団。しかし「先生」と呼ばれる男はそこまで興味がなさそうにも思えた。しょうがあるまい。本来であれば彼は不思議な伝承の残る九頭流村や、これまた不思議な言い伝えが残ると言われる坂根村に行きたかったのだから。しかし時間などを考慮するとここにしかこれなかったのである。

 生徒と思しき者たちからも愚痴を言われているが、それを気にする程の男ではない。まず聞こえていないだろう。

 

「先生、これが呉毛羅岩です!」

 

 目の前にあるのは巨大で丸い岩。しかしゴツゴツとした岩肌には、自然では形成されることのない、奇妙な形の掘り込みなどが存在していた。それはまるで頭や手足にも見える。例えこの岩が偽物であったとしても、当時の人達は恐れおののいたのだろう。故に島の伝承に残る怪物の名を付けたとしても頷ける。

 

「ほぉ~、成程……確かに怪獣の面影はあるな……」

「先生、さっさと調べちゃいましょうよ! ストレイジが来て後々調査するようですよ!」

「そうだな。追い出されちゃここまで来たのが無駄になるな」

 

 なんやかんやで実物を見たらスイッチが入るらしい。

 一団は呉毛羅岩について調査を始めた。するとその最中、「先生」は妙な鉱石を発見した。

 

「ん? なんだ……?」

 

 赤色に発光する鉱石。鋭く形成されたそれはまるで瞳のようにも思える。しかし自分は鉱石の学者ではないと、不可思議なそれを投げ捨ててしまった。

 その後、誰にも見つかることなくその鉱石は呉毛羅岩の中へと入り込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 練習が終わり、日が傾き始めた。

 キッチンの方で仲良くやっているすみれと可可、作詞に向かったかのんとそれぞれが時間を使う中、始も砂浜に座り込み考え事をしていた。すると携帯が振動。相手は勿論……

 

「もしもし、千砂都?」

『始くん、今時間良いかな?』

「全然大丈夫。今日の練習は終わったしな。そっちは?」

『今は休憩。もう少しやってくつもり』

 

 そこからは何気ない話を繋いでいく。昨日今日、島で何があったのかを。逆に千砂都はどんな練習をしていたのかを。ありきたりな友人同士の会話。けど時折、始の心は引っ掛かりを感じていた。だからなのか、話題が自然と彼女のダンス大会のことへと向かってしまうのだ。

 

「大会、もうすぐだっけ?」

『………うん』

「こっからでも応援してる。頑張ってな!」

 

 ありがとう、と返ってくるがどうもすっきりしない。数秒の沈黙の後、彼を呼ぶ声がスピーカー越しから聞こえてきた。変わらず耳を傾けているという旨を相槌で打って知らせる。

 

『私、ね……ううん何でもない』

「なんだよ? もったいぶらずに言えって」

 

 そこまで言って取り消されては余計に気になる。しかも声の調子から只事ではないように思えた。

 

『……だから何でもないって! なんか始くんの声聞いたら安心して忘れちゃった……!』

「なんだよそれ」

 

 そんな訳がない。どこからか告げる声が響く。でもこれ以上踏み込んで良いのか、判断がつかない。

 

「まあいいや。次会ったらしっかり話してくれよ?」

 

 そう言いつつ、自分を責める。これは逃げだと。不用意に干渉して彼女の何かを台無しにしてしまうんじゃないかと思って……逃げたのだと。

 

『わかった。それじゃあそろそろ練習に戻るね?』

「ああ。頑張ってな。ういっす!」

『ういっす!』

「『ういっすー!」』

 

 電話を切る。始は長い溜息を吐いて空を見た。一体どうすればいいのだと、誰かに問い掛けるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナニコレ……すっご……」

 

 夕飯時。テーブルには豪華な料理が並んでおり、思わず固まってしまった始。味は言わずもがな。口に入れるたび笑顔がこぼれる。

 

「これ全部2人で作ったの!?」

「凄いわ」

「でも美味しく感じるのは、島の食材が良いからかと思います」

 

 そう語るすみれの横で何故かうなだれている可可がとても気になる。

 

「それのこの料理は、クゥクゥの故郷の料理なんですよ。ね~?」

「可可は作って無いデス……」

いいから合わせなさい。堂々とているのも、ショウビジネスの世界では必要なんだから

「それは嘘つきデス!!」

 

 可可が立ち上がり、すみれも同じく席を立つ。

 2人でキッチンに立ったのは本当、やあんたの代わりに料理してあげたんでしょ、とか聞こえてくる。話が見えてきた。可可ではなくすみれが殆ど作ったということなのだろう。だから可可はうなだれていたんだ。

 

「仲良しね」

 

 2人のいつもながらのやり取り。サニパの2人は気にしておらず、逆に微笑ましく見ていた。

 

「すみません……」

 

 かのんの謝罪を聞くといたたまれない気持ちになってくるため、始は誤魔化すように料理を口に運ぶ。

 

「やっぱり、ウルトラ美味いな!」

「え、ウルトラ……?」

「あ!? いやいや、すっごく美味しいって意味!! あ、いや~すごいな~アハハハ……」

 

 どうやらゼットの口癖が移ってしまったみたいだ。これからは気を付けないとと思いつつ、始はふと今この胸の中で渦巻く悩みを誰に相談すべきか考えが過るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 夕食の後、かのん達は外へと出向いていた。なんでも今日は満月らしい。しかし始だけは違った。今彼は別の場所へと赴いている。

 

「ゼット、俺はどうすればいいだろう……?」

『いきなりどうしたんだ、始!? 浮かない顔して入ってくるからウルトラビックリしたぞ』

 

 思念だけの会話ではなく、今回はインナースペースへと向かい、面と向かって相談を持ち掛けていた。内容は勿論、千砂都のことだ。

 

「千砂都には千砂都なりの考えがある。でも、それ以外にも何か抱えているように感じるんだ」

『……? なら詳しく話を聞いて助けてやればいいんじゃないか? 始ならそうするだろ?』

 

 ゼットは戸惑いつつ提案。それはいつもの夏空始であれば取るであろう行動。けれど今はできそうもないのだと、彼の表情が告げる。ゼットが尋ねた何故、という問いに始はポツリと答えた。

 

「俺は……怖いんだ。自分勝手な想いで動いて……彼女の覚悟を台無しにするんじゃないかって」

 

 善意は時に人を惑わす。良かれと思ってやったことが、当人から見れば迷惑でしかない……なんてこともあり得る。

 実際問題、彼は過去にかのんを慰めるつもりで放った無責任な言葉を後悔している。今どう思っているかは知らないが、当時は迷惑だと思っていた筈なのだと。

 人助けにおいて吹っ切ることができた面は確かにある。けれどやはり過去の一件かあるからか、その足が止まってしまうこともあるのだ。

 

『……始から見て、どんな感じだったんだ?』

 

 ゼットの問いかけに答える。何処か悩んでいるようだった、と。

 

『なら、その直感を信じるしかないんじゃないか?』

「……え?」

 

 あっさりと返ってきた答えに、間の抜けた声を出してしまう。これは自分の問題なのだから自分で考えろ……ということなのだろうか。

 目を伏せてしまう彼の反応も予想済みか、少年を見つめ話を続ける。

 

『ずっと一緒の仲……なんだろ? なら、長い間その子を見てきた始が悩んでるって感じたのなら、そうなんだと思うぜ?』

 

 優し気な口調で語り掛けてくれるゼットに始は目を向けた。

 幼馴染として、千砂都と共に居た時間は長い。その中でたくさんの表情を見てきたはずだ。そんな始自身が「千砂都は悩んでいる」と感じたのなら、その直感に従うべきなのだと。

 

「けどだからって……全部が分かる訳じゃ……」

 

 全てがわかる訳じゃない。全能の神でもあるまいし。

 

『始はどうしたい? その悩み抜きで、今、どうしたいんでございますか?』

 

 そんなの決まっている。

 

「助けたい。どうすればいいのかわからないけど……いや、だからこそ、今は直接会って話したい!」

 

 真っ直ぐな瞳で言い切った。するとゼットは頷いた。その言葉が聞きたかったのだと納得しているようにも思えた。

 

『会いに行くべきだ。動かずに得られるものなんて、そんなにない。大丈夫だ、始。お前の想いは間違ってないさ』

 

 その言葉が背中を押した。

 動かずに悩んでいたって、何かが起こるわけではない。ならば、自分の正しいと思ったことをやるしかないのかもしれない。やらないで後悔するよりも、やって後悔した方が何倍もマシなのだから。

 

「……うん! ありがとうゼット、俺行ってくる!!」

『おう! ウルトラ応援してるぜ!!』

 

 ゼットの声を背に、始はインナスペースを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ……ってかのんは?」

 

 インナースペースでの数分は現実世界での1秒。その為、特に怪しまれることなく合流した。だがかのんの姿が見当たらないのが少し気になった。

 

「電話をしに行きましタヨ?」

「多分千砂都とじゃないかしら?」

「そっか」

 

 すると可可、すみれと共に残った摩央は始の顔を覗き込み、フッと微笑んだ。

 

「昨日よりもいい顔になっているわ。ということは……」

「ええ、俺にもわかりました。何が足りないのか……いえ、誰が足りないのか」

「そう。かのんなら向こうに行ったわ。悠奈も一緒にいるからすぐにわかる筈よ」

 

 進むべき方向を指してくれた摩央にお礼を述べつつ、走り出そうとする始。しかし寸前でブレーキをかけた。理由は内容の意図が不明でぽかんと仲良く立ち尽くす2人である。

 

「明日は2人で練習してくれ! 頼んだ!!」

 

 なにやら背後で2人の声が聞こえてくるが、今は構っていられない。ごめん、ともう一度叫んでから始は走る速度を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「かのん! おお、いた! おっとっとっと……!!」

「え、始くん!」

「急にどうしたの!?」

 

 全速力から急ブレーキをかけたせいで転倒しそうになりながら辿りつた始。

 その危なっかしくて急すぎる出現に、かのんと悠奈は戸惑いつつ彼の下へと集まった。

 

「千砂都のとこ……行こう……!」

「ええ!? 始くんも私と同じ考え!?」

「え……ってことは……」

「2人とも考えることは同じだね!」

 

 どうやらかのんも千砂都のことを心配し、直接会って話そうと考えていたらしい。さらに悠奈が語るには島から東京への移動を頼んでいたとも。がしかし、問題が1つあると悠奈が語る。

 

「行きはどうにか出来るけど、使ってる船は昼間使う予定があるの。東京から神津島(こっち)に来るにはまた別の船を用意してもらうしかないんだけど……」

「それなら問題ありません!」

 

 自信ありげな始に、2人の視線が集中する。

 彼は懐からある物を取り出した。それは昨日()()()()()()()()と言って渡された、とある連絡先が明記された名刺もどきであった。

 

「こいつを十分に利用させてもらいますから!」

 

 

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