「私、はファウスト。無限、に広がる……闇の権化」
「ファウスト……?」
殺風景な荒野で睨み合うのはウルトラマンゼットとデットン、そしてファウストと名乗る謎の巨人である。未完成な発音と起伏のない声から何も読み取れない。だがこの空間を展開し、自分たちを閉じ込めたのが仮に目の前の巨人だとしたのなら……。
『俺たちの敵……か』
「そうだな」
構えを解かず、すかさず立ち上がって間合いを図る。
しかし何と言っても、この空間に来てからというもの気分が悪い。中からせり上がらんとしてくる物をどうにかして堪えているのが現状だ。さらに冷や汗が背をなぞる。倦怠感は依然として続き、息苦しさも加わる。これもすべてこの空間が原因か。
「早く終わらせよう」
『ああ、ここはウルトラ気分が悪い。長居は危険だ』
どうやらゼットも同じ思いだったようだ。2人の意見は一致し、この場所に来てから初めての攻めに転じた。
「結衣! これどうなってるの!?」
「わかんないよ! いきなり消えちゃったんだもん!!」
現実世界では突如として巨人と怪獣が消失した件に困惑を隠せない模様だった。
結衣もこのケースは初めてのようで、あらかじめ持ち込んだ計器を使い測定などを行うが反応らしきもの反応はなかった。そこにあるのは日常そのもの。幾らかの残骸が目につくが、
「何がどうなってるの……もう……」
「……ねえ結衣、デットンは何かに誘導されてるって言ってたよね?」
「ん、そうだけど?」
今回出現したデットンは自然に現れたわけではない。何らかの誘導に従い地上へ姿を見せた。先程は緊急時につき保留状態にしていたが、改めてその意図を読み取らんとする。
「それで、程なくして反応が消えた。その反応が消えたタイミングは……」
「ウルトラマンと戦闘している最中だった……」
2人はある仮設に辿り着く。
怪獣が現れればストレイジやビートル隊……そしてここ数ヶ月の間ではウルトラマンが駆けつけるようになっていた。恐らくそれを狙った……。
「異星人の仕業ってところね」
正直に言って、地球を狙う異星人の数は止まる所を知らない。ビートル隊での事情聴取記録を拝見することもあるのだが、地球に来た目的は大体2つに分かれる。
「デットンを餌にしてウルトラマンが現れたところで……ってことか」
卑劣だ。対処しているとはいえ、怪獣も……少なくともデットンはこの星で生きる存在だ。それを道具のように利用するとは。
『まんまと罠に嵌まった訳だな』
「「隊長!」」
通信越しに聞こえてきた正太の声。
どうやら彼も気付いていたらしく、ウルトラマンに伝えるために走ったのだが間に合わなかったとのことだ。
「気付いてたなら先に言ってほしかったですよ」
「結衣と同意見です」
『悪いな。焦ってて伝える暇がなかった』
今更たらればを言ったってしょうがない。怪獣もウルトラマンも消えた。しかし反応が追えないようではここにいても出来る事はないだろう。警戒は解かずとも、一旦は基地へ戻るしかないと結論に至ることになった。
『先に戻っててくれ。もう少し事後処理のおっちゃんと話してくる』
「わかりました。隊長も気を付けて」
『ありがとう』
通信が切れ、現場に残るのは正太のみ。事後処理のおじさんと話してくるというのも建前に過ぎない。彼は待っているのだ。巨人が戻るのを……どんな形であれ。
「まさかな……」
以前、情報通の異星人から聞いたことがある。
とある巨人が戦闘時に用いる空間。現実世界からは不可視。観測することすらできない世界。異生獣を隔離し、世界に被害を与えることなく闘い抜ける不連続時空間のことを。そして空間内では巨人の力が飛躍的に向上するのだとか。しかし光と闇が相対する位置にあるように、この空間にも真逆の性質ともいえる空間が存在する。闇の巨人達と異生獣が更なる力を発揮することができ、逆に光の巨人の力を奪い去る異空間。名を……。
「
あの黒点はダークフィールドの発生を示すものだったのだろう。であれば彼らを包んだ闇、そして反応ごと消え去ったことにも納得できる。そして恐らく……いや、間違いなくゼットたちは苦戦を強いられていることだろう。お世辞にも成熟しているとは言えない巨人だ。空間内で課せられている効果は最大の脅威として襲い掛かっている。そんな枷を嵌められたまま、闇の巨人やデットンを相手取るとなれば。
「君たちが戦うには手強すぎるな……ウルティノイドは……。
「……」
思い出はここらにし、2体が消え去った場所を見つめる。一体いつあの空間が消失するのだろうか。そして消えた時、どのような姿で戻ってくるのか。或いは……跡形もなく消えてしまっているのか。ならば前者の方がマシだ。ダークフィールドにいる以上、こちらからは介入できない。しかし脱出、或いは時間切れになればまだ希望はある。
「今回ばかりは……援護だけじゃいられないか」
焦げ臭さの残る街に、彼の言葉は溶けていくのだった。
*****
「か……ぁぁ……」
地面を転がり、荒い息と共に大地を踏みしめる
軽やかな動きで攻めるダークファウストに圧倒され、横からデットンの怪力が腕や腹部を狙ってくる。力が十分に発揮できない以上、袋叩きにされるのは仕方のないことと言えた。
『始! 大丈夫か?』
「ゼットの方こそ……どうなんだよ……」
互いを気にしつつも出る答えは1つ。かなりキツイ、としか言いようがない。
「フ、フフフッ」
「なんも面白くないぞ!」
無表情の仮面で笑いととれる表現をされてもも不気味なだけ。
始は体を動かし、幾度目かの攻撃を入れる。しかしファウストには見切られている。拳は当たらず、目の前にはヤツの脚が。咄嗟に防御の姿勢をとるが衝撃は全体へ伝播。倒れぬよう堪えつつ、次の一手を警戒。
『ウルトラ素早い……』
「なら、これで動きを止める!」
額から光線を放って仕切り直しを狙ってみるも、威力は通常よりも弱いのが明白。さらにその光線が最後のトリガーか、カラータイマーの点滅も始まる。
『やっぱり、この場所が俺たちのエネルギーを吸い取ってる』
「余計焦るって……その報告」
焦りは動きを単調にする。それはゼットも例外ではなかった。アルファエッジには似合わない大振りな攻めで生まれた隙にヤツは懐へ入り込み、首元や脇腹に手刀。トドメにハイキックでゼットを地面に倒す。
「貴様、脆弱だな」
首を掴まれ、あまりにも軽々しく持ち上がったゼットの肉体。するとファウストの指先にエネルギーが集中する。至近距離で解放された破壊光弾”ダークフェザー”はゼットを大きく吹き飛ばした。
「『うおぁ!?」』
飛んでいくゼットは大きく突き出た岩山に背を打ち付け、そのまま地面に転がる。その光景は戦いではなく、一方的な暴力に他ならなかった。さらにファウストは空へ光弾を打ち上げる。一定の高度まで達せば、弾けて雨のように降り注ぐ”ダーククラスター”がゼットを更に追い詰めていった。
「邪魔、だ」
便乗するように進行していたデットンを投げ、ダークフェザーで痛めつける。そしてゼットへ目を移す。今の彼は膝立ちの状態が精一杯のようだが、すぐにまた倒れるだろう。
「う、うう……ぁ……まだ……だ……」
丁度頃合いか。
ファウストは突如、亜空間を解除した。気色の悪い空から、青く澄み切った空へと戻っていく。
「え……どうして……?」
その場に残っていたかのんを含む市民たちは姿を現した巨人を前に困惑する。先ほどまで勇敢に戦っていたウルトラマンとは全く違う姿がそこにはあったからだ。そしてゼットの目に立つ黒い巨人からは、底知れない恐怖を感じ取っていた。
「立って……ウルトラマン……」
恐怖から脱するように、かのんは祈る。あの黒い巨人を倒してくれと。そして平和が戻ってくるように……と。
『まずいぞ……始、立たないと……!』
「わか……ってる……!」
立って抵抗しなければ……。本能が叫ぶものの、体が言う事を聞いてくれない。重たい体は地面から離れず、節々の痛みが力を奪っていく。
巨人は勝ち誇ったと言わんばかりに堂々と近付いてくる。ヤツの黒い瞳を見ていると、自分たちの魂が吸い込まれる錯覚に陥る。
「フ、フフッ……」
ファウストの腕に光が灯る。それは死へと進んでいる明確な証。導火線の火。カウントダウンが着実に迫っている。
何もできない彼らに、暗黒の刃が突きつけられんとしたその時────
「……っ!?」
世界が停止したほどの衝撃。空が光り、幾何かの後に何者かが地面に降り立った。
「な、に……?」
着地と数秒遅れで一帯の瓦礫が、土が、先とは正反対の澄んだ空へと舞い上がる。
「あなたは……」
人々は息を呑む。その姿に声を失う。
ほぼ黒に包まれている体色。額のランプや両目、そして胸の水晶を常に輝かせている赤色。右手に持った巨大な剣。それはまるで……地球を救ったあの巨人と対をなすような存在。だが人々の記憶には、彼の思惑とは全く反対の刻まれ方をしていた。
『あれは一体……?』
「もう1人の……オーブ……」
ウルトラマンオーブと共に闇に立ち向かったもう1人の巨人……と。
ダークファウスト強い。とにかくデットンが可哀想。
そして遂に登場です。前作のライバルポジが!
前作『Sunshine‼&ORB』を読んでない人に説明します。彼はオーブシャドウ。間違ってもオーブダークブラックノワールシュバルツと一緒にしてはいけません。変身アイテムとか恰好はほぼ一緒ですが。違いと言えばカリバーの属性がオーブと一緒だということです。
ウルティノイドとどのように戦ってくれるのか、そして何故今まで姿を現さなかったのか……ぜひ楽しみにしていただければ。