ファウストとの再戦が始まろうとしている中、正太は待ったをかけた。その横で始が一体どんな表情をしているのかは言わなくてもわかるだろう。
「アイツはお前を倒したい。ゼットになった途端に姿を見せるだろうね」
「望むところです」
「そう焦るな。まずは人質の救出だ。彼女を救いたいんだろ?」
彼の言葉に始は首を縦に振った。ファウストの対処もそうだが、最優先するのはかのんだ。
始の返答に正太は笑みを浮かべ、スロートマイクに手を当てる。何やら誰かと通信している様子。一体化によって強化された聴力が運んでくるのは、女性隊員と思われる声だった。
『隊長、こっちの準備はバッチリですよ!』
「よし。それじゃあ頼んだぞ」
『了解! 波長パターンをウルトラマンに合わせます!!』
一体何をしようとしているのだろうか。始には理解できない。
「波長パターン……?」
「そう。ウルトラマンゼットの波長を疑似的に再現し、あの道化師を引っ張り出してやろうって作戦さ」
餌を用意し、釣り出すつもりだ。しかし模造された餌。上手く引っ掛かってくれるのだろうか。するとまたもや始の思考を見透かすかのように、正太は口を開く。
「狙いはお前だ。何が何でも飛びつくさ」
途端、空から闇が落ちてくる。衝撃と轟音を撒き散らしながら、ウルティノイド……ダークファウストが姿を現した。
「ほらな。さてと……結衣、あの巨人の近くに生体反応を確認できるか?」
『ちょっと待ってください……見つけました!』
「よし、そのデータをこっちに送ってくれ。後は晶子と協力して市民の避難誘導を頼む」
『了解!』
送られてきたデータを確認し終えるとすぐさま始の方を見る。
「合図したら、僕の手の上に乗れ」
「は、はい!?」
有無を言わさず、ストレイジ隊長は手に持ったアイテムを空へ掲げた。
紫の光が辺りを照らした数秒後、もう1人の巨人が地面を揺らした。そして尻もちをつく始のもとへ手を伸ばした。
そして───
「ある程度の時間は稼ぐ。彼女を救ってこい!」
───始を躊躇なく投げた。
「うあああああああああ!?」
抜けていく風……なんて生易しいものじゃない空気抵抗が始の体を叩く。さらに一直線に飛んでいく彼の後ろから、鏃状の光弾が追い抜いていった。光弾は青い空に着弾。すれば空間が割れるという、本来あり得る筈のない現象が目の前で起きた。でも始は困惑することはなかった。察していたからだ。目の前の異空間……そこがファウストの隠れていた場所だと。そして、かのんがいる場所だと。
「やり方が強引なんですよぉぉぉぉぉ!」
絶叫に似た声を発しながら、始はゼットライザーを起動させた。
始の向かった異空間を守るようにして、オーブシャドウはファウストに立ちはだかる。両者は見合いつつ、互いの間合いを図る。
「貴様、どういうつもりだ? 」
「囚われの姫を救い出す王子様……今時は古いか。そんなシチュエーションの為に時間を稼ごうってつもりさ」
「笑、わせる」
「思ってもないことを言うじゃない……木偶人形」
罵倒の後、両者はぶつかり合う。
ファウストの拳を剣で受け止めて脇腹に蹴り込んだが、反撃と謂わんばかりの足技がオーブシャドウの胴体を襲う。しなやかな動きで相手を絡めとるとする動きには、剣を持った巨人ではあまりにも追いつけない。
「……ッ!」
けれどここまで潜り抜けてきた戦士の1人。自分が不利な状況など、いくつも経験してきた。今の状況は想定の内だ。仕掛けてくるファウスト目掛け、左手から光弾をマシンガンの如く連射。
「……!? 」
足を止めた瞬間がチャンス。聖剣のホイール部を回し、4属性あるエレメントのうち1つを選択。緑の暴風がファウストを宙へ舞い上げる。そして未だ無防備の体に鋭い一太刀。
しかし未だファウストは顕然。攻撃を受けた後体制を立て直して着地を決めた。
「弱い、な。もしや、貴様……力を発揮しきれていないな」
ファウストに対し無言を貫く。いや、逆に沈黙が答えになっているのかもしれない。負傷した後、防衛を地球人に任せ変身することを放棄、同時にアイテムの修理もしなかった。故に、オーブシャドウは本来の力を発揮できずにいる。
「としたら? まさか楽勝で勝てるだなんて思ってないだろうね?」
力が十分に発揮できない程度で舐めて貰っては困る。
ダーククラスターを突っ切り、ファウストと再度激突。光弾、ダークフェザーを叩き落して顎を蹴り上げる。さらに回し蹴りで吹き飛ばそうとするが、蹴られたファウストはよろけた姿勢から踏ん張り、同じ動きを選択。両者の脚が中心で激突する。
「ク……!
「……! 」
どちらも押し切れないと判断し、素早く距離をとった。
「なかなか、やる。ならば……」
ファウストの一声。すると瞬く間に辺りを闇が包み、忽ち世界は殺風景な荒野へと早変わりする。
「続き、をしよう」
「ああ、ウルトラマン擬き同士……楽しくやろうか」
ダークフィールドに戦いの場を移し、2体の巨人は光線を放ち合った。
*****
「かのん……どこだ……」
ゼットへ姿を変え、異空間内を探索している。
彼らは焦りを抑え、冷静に辺りを見渡す。ストレイジの調査、そして正太の行動からここにいるのは確かだ。
『始、あれを見ろ!』
ゼットと視線をシンクロさせると、闇の球体が飛び込んできた。加えて不思議なことに、この場所に似つかわしくない美しい声が聞こえてくるではないか。
『これは……』
「……歌?」
か細い声ではあったが、リズムに乗った声は聞き間違えようのないもの。その声を信じ、球体のもとへと向かう。
『始、彼女を助けるぞ!』
「ああ!」
球体を大事に抱えれば、異空間を脱出すべく飛翔。
始は中を覗いてみると、目が虚ろで衰弱している様子だった。そしてゼットが抱えた数秒後、ぱたりと意識を手放していた。助けが来たことを理解し、安心したのだと思いたい。
『この空間と球体の影響だろうな……』
「……」
『けど頑張ったんだな。助けが来るって信じてたんだ』
更にゼットが続けるには命に別状はなさそうとのことだ。その言葉に安心し、溜め込んでいた息を吐く。
「始……くん……」
聞こえてきた声に驚き、球体の方に視線を移す。けど彼女は目を閉じたままだ。
「助けに……きてくれて……ありが……とう……」
穏やかな表情から眠っているのはわかる。そして呟いているのは寝言……なのだろう。どうやら彼女の夢の中では始が助けに来ているらしい。中らずと雖も遠からずな状態に複雑な表情を浮かべてしまう。
「頑張ったな。今は休んでろ」
聞こえてはいないが、気持ちとして彼女に語り掛けた。
『俺の事は触れてない……!?』
「しょうがないだろ? よし、次はファウストだ」
『おっとそうだった。ウルトラ気合入れるぞ!』
ゼットの言葉に頷き、異空間の入口へと向かう。残るのはファウストとの再戦のみだ。
飛行速度を上げ、一気に離脱。前が開ければ、見覚えのある闇で閉ざされた荒野。一角ではファウストとオーブシャドウの交戦している。そこを目指してさらに速度を上げれば、全体を赤い光が包み、球体となって飛んでいく。
『始、オーブシャドウ先輩をお助けするでございますよ!』
「……ッ!」
ダークフィールドで戦闘を続けるファウストとオーブシャドウ。勝負は未だ拮抗状態だった。
「どうした? 疲れたか?」
「……」
煽りに耳を傾けることなく、只ひたすらに攻撃を続ける。裏拳を撃ち込み、防がれればその上からさらに拳を撃ち込んで防御を崩す。崩れたその一瞬、ドロップキックでオーブシャドウを飛ばす。
「無視かい? 酷い……な!」
吹き飛ばされたものの、バク転して体制を立て直す。同時に地面を蹴ってブースト。回転斬りをかました。
「面倒、な巨人だ」
「それはお互い様、だろ?」
幾度目かの見合いになった途端、オーブシャドウの横に赤い球が着地。土煙の中から巨人が姿を現す。
「ようやく来たか」
アルファエッジの姿をとるゼットは、大事に抱えた彼女を遠い岩山に下す。彼女を今包んでいるのは闇で生成された球体ではなく、ゼットが作った保護用の球体。これ以上彼女が闇に苦しめられることはないだろう。
「返してもらったぞ、ファウスト」
「よくやった」
『にしても始、改めて見るとほんと偽物っぽいですな~』
「おい、随分と失礼じゃないか?」
『あ、ウルトラ申し訳ないです!』
思ったことをそのまま口にしてしまうゼットへ苦い笑みを浮かべたのも束の間。始もゼットも……そしてオーブシャドウもファウストへ目を向ける。
「前回の借り……返してやる!」
「そういう訳だ。大人しく倒れてくれ」
「それ、はどうかな。お前、如きにこの空間で十分に戦えるのか? 」
『悔しいがアイツの言う通りだ。この空間じゃ力を発揮できないでございますよ!』
ゼットの言う通り。この暗黒空間では思うように動けない。力が吸われているのだ。下手に力を消耗すれば、すぐさまカラータイマーの点滅が始まるだろう。
「前回はお前とデットン対ゼット。でも今回は僕とゼット対お前。どうなるかな?」
「でも……」
「心配するな。僕はもともと、オーブに対抗するために光と闇を混ぜ合わせてこの力を生んだ。この空間なら、君たちよりもマシに動ける。もしものことがあれば力を分けてやるさ」
オーブシャドウは光と闇の属性を合わせ持つ存在。その為、ダークフィールドの恩恵と弊害を同時に受けている。つまりそれは、現実世界と何ら変わりないことを意味していた。
「本当、に面倒だ」
「さて、役者はそろったんだ。再戦を始めようか!」
「『はい!」』
構えをとった3体は見合う間もなく駆け出す。
空間が光を奪っているというのに、ゼットは果敢に攻めていく。それは平和を願う心故、ファウストを止めるために力を生み出しているからだろう。
正拳突きしたゼットと交替し、オーブシャドウは聖剣を振るう。横一文字に火花が飛び散っていく様をから目を離さず、炎の力を解放する。
「シャドウフレイムカリバー!」
火球がファウストを包み爆砕。生じた波は暗黒時空間を震わせる。
「この、程度」
するとヤツはゼットに向かって破壊光弾であるダークフェザー、そして必殺光線ダークレイ・ジャビロームを放ってきた。
殺到する光芒に臆することなく、ゼットランスアローで弾く。だが流石は必殺の光線。弾くのは容易ではなかったか、武具が手元から離れてしまう。
「今、だ」
ダーククラスター。光弾が雨のように降り注いでくる。しかしゼットはバク転で悉くを回避。狼狽するファウストの眼前に、赤い瞳が滑り込む。
「余所見しない方が身のためだよ」
咄嗟の攻撃は全て読まれているのか、何をしても手応えがない。焦りという感情がヤツにあるのかは不明だ。しかし的確な攻撃よりも手数で応戦しようとして、腕や足の振りが早く雑になっているのは明白だった。
オーブシャドウは片腕で攻撃を防ぎつつ蹴り上げ。脇腹に喰らって苦しそうに呻いているファウストへ、ゼットの長距離射撃が追い撃ちをかける。そして地面を蹴り上げ……。
「『アルファバーンキック!」』
助走からの跳躍。かなりの低高度を維持しながら飛んでいき、右足が燃え上がる。
ファウストは赤いバリヤー、ダークシールドを貼って防御。しかしダメージはバリヤーを粉砕し貫通。大きく吹き飛ばした。
《ULTRAMAN Z BETA SMASH》
真紅の体へと姿を変えたゼットは気合を2度3度ため込むような仕草を見せ、ダッシュでファウストへ肉薄する。
左から迫る蹴りを防いでしっかりホールド。すかさず右足がゼットの側頭部を狙ってくるが想定済み。そして両脚を掴んで大回転。所謂ジャイアントスイングだ。地面に叩きつけられ呻くヤツの胸元目掛け、ゼットは高所からダイブ。全体重を持ってプレス。更なるダメージがファウストを襲う。
「エグいな……」
ベータスマッシュの戦いっぷりを見て、少しだけ相手に同情してしまいそうになる。
ゼットの攻撃が効果的だったのか、周りの風景が変化していく。気味の悪い荒野は崩壊し、見覚えのある街、そして青空が広がっていた。
『これは……』
「クソ、力が」
「あの空間を維持するのも限界みたいだね」
それはつまり、ダークファウストのエネルギーも底を尽きかけているということ。そしてダークフィールドからの恩恵も弊害も存在しない。この場面でどちらが不利なのか……火を見るよりも明らかだ。
「……ッ! 」
このままでは危ういと感じたのか、ファウストは撤退の姿勢を見せ空へ。
「させるか!」
『……始!』
「……! これで!!」
前回は人質を取って消えられたが今回はさせない。その時、ゼットの目に入ったのは手元から離れたゼットランスアローだった。地面に突き刺さったそれを再度手に取る。彼らの怒りが体現したかの如く燃え盛る全体を逆手に持ち、狙いを定める。そして……。
「『ゼットランス……ファイヤァァァァァ!!』」
豪快な投擲を見せた。ブレなく突き進んで先はファウストの腹部。
「グ、オオォォォォ……」
爆発し、地へ落ちた魔人。ヤツに残る力も僅かだ。
「決めよう」
「はい。ゼット!」
『ああ、ウルトラ決めるぜ!!』
2体が取るのは必殺の一撃を放つための姿勢。Z状の光が迸り、宙に幾つもの円が出現し重なっていく。ダークファウストも両手をスパークさせ、持てる最大火力をぶつけんと闇を溜め込んだ。
「シャドウスプリームカリバー!」
『「ゼスティウム光線!』」
技を放ったのはほぼ同時。しかし、光線が拮抗することはなかった。圧倒的な光が、ファウストの闇を打ち砕いていく。そしてヤツの体を包み込んで、巨大な爆発を世界に見せた。
それはウルトラマンが……平和を守らんとする者たちが、闇に勝ったというメッセージにも思えたのだった。
レッドアロー!(やけくそ)