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「ありがとうございました」
戦いが終わり、平和な日常が戻ってきた。夕暮れ時にあちこちから聞こえる鳥の鳴き声、再建設の為に働く重機の音。そして何より、人々の声。それらを喧騒と片付けることは容易い。だがこの何事もないありふれた音こそが、平和を物語る証拠なのだろう。
始は目の前に立つ男、青影正太に頭を下げる。ファウストと戦い勝てたのは、そしてかのんを救出できたのは彼とストレイジのお陰なのだから。
「いいって。地球を守る者同士、協力していかないと。それに、アイツでもこうやるだろうし……」
「アイツ……?」
「こっちの話だ。でも、あれは数ある事件の1つだ。これからも似たような”お客さん”は出てくるだろう」
平和と言っても一時的なもの。怪獣は変わらず出現するし、この星は狙われ続けているのだから。あのウルティノイドだって侵略者の先兵……挨拶代わりなのかもしれないのだ。
「わかってます。けど、俺とゼットで」
「ああ~わかってる。それに僕たちストレイジやビートル隊だっているしな。やることはこれまでと変わらない……だろ?」
互いに地球を守るという覚悟を見せた後、ふと正太は何か思いついたような顔をして始に問い掛けた。
「そうだ。これは提案なんだけど……」
その提案を聞いた始は、思わず声を上げてしまう。何故ならそれは……高校生である彼には絶対にあり得ないだろうと思えたことだったのだから。
彼のリアクションを見た正太は、悪戯の成功した子どものような笑みを見せる。それはまるで、地球人として溶け込む前の────
数日後。練習を終え、帰路につく始とかのん。あの事件の後もかのんは至って普通に生活を送っている。巻き込まれたのだから病院に行けとうるさく言われた彼女が、眉間に皺を寄せていたというのはその場にいた誰もが知っている話だ。
今は夏休みということもあってか、街行く人は気持ち多めだった。
「練習……疲れたな~」
「今日もお疲れ!」
「ちぃちゃんの練習メニューは相変わらずハードだよ~」
千砂都が加入し本格的にこちらに力を入れるようになったため、練習のハードさは増すばかり。けど、パフォーマンスの精度が良くなっていくのもまた事実であった。
そんな他愛もない話をしながら歩いていると、見えてくるのはショッピングモール。ゴーガの出現によって一度は被害にあった場所。2人が閉じ込められた場所だ。
「そういえば不思議な夢だったな……」
「何が?」
「あの黒い巨人……えっと剣持ってる方じゃない巨人に私連れ去られちゃったでしょ?」
「ああ、一時はどうなるかと思ったよ」
この話題が出ると冷や汗が出そうになる。かのんが危険だったこともあるが、なにより自分がゼットとして助けに行ったことをうっかり話してしまうのではないかと思っているからだ。下手なことを話さないよう、言葉を考えながらかのんの話に耳を傾ける。
「その時にさ、なんか始くんに助けられたような気がして……」
「は!? なんで!? 俺いなかったろ?」
「そうだけど……なんでだろうね……なんて、もうわかってるんだ」
「え? なにを……わかってるんですか……?」
まさか勘付かれたのかと、恐る恐る訪ねる。しかし返ってきたのは全く違うもの。
「不安なときこそ歌えばいい」
「それ……」
「あの時始くんが助けてくれたおかげ。だからかな~て」
怪獣災害にあった時、始がかのんを助けるために取った行動と投げかけた言葉であった。確かに当時の始は助けたい一心で行動した。けど時が経った今でも彼女が覚えていて、それが助けになっていたのは少し意外だった。かのんに負い目がある始にとって、彼女からのそれは非常に嬉しいものだったし、どこか救われる気がした。でもいざ告げられてみると恥ずかしいもので、ついつい顔を背けてしまう。
「え、照れてる?」
「……うるさい」
「照れてるんでしょ~顔見せなって~」
「うざ……」
「ちょ、それ酷くない!?」
「いや酷くないし。かのんが悪いんだし……」
「はぁ!?」
靴が刻んでいくリズムの変化。そして遅れて入りながらも重なっていくもう1つの足音。何気ない会話を重ねている2人。けれどその実、互いに大きな影響を与え合っているのだ。しかし伝えあうことはないだろう。
そして胸の中にある感情が一体何なのか……彼ら自身が知ることも、そして伝えることも……まだまだ先の話になりそうだ。
「あ、そうだ。かのんにも伝えておかないと」
「なになに……? うん……え? エエェェェェェッ!?」
最後、今後に関る重大な話をかのんに伝えた。当然、あれこれ聞かれたのは言うまでもない。
*****
新たな制服に袖を通すと、普段のそれとは全く異なる緊張感が生まれた。
腕にあるワッペンは、幾度となく活躍している特空機の顔を模したもの。それはつまり、人々を守る者たちの証であり、自分がストレイジの一員になることを意味しているのだ。
「まさかこんな事になるとは……」
「おーい、着替え終わったか〜?」
「はい! すぐ行きます!!」
正太に呼ばれ、ロッカールームを後にする。そして向かったのは司令室だ。
「来たか。晶子、結衣、今日から……あ〜インターンとかなんとかでストレイジに入隊する新入りだ」
左の胸元には「H-NATSUZORA」の文字。
「本日付でストレイジに入隊します! 夏空始です! よろしくお願いします!!」
始はストレイジに入隊する事になったのだ。
彼の入隊に、晶子も結衣も感激と同時に驚きを隠せないでいた。
「後輩……私にようやく後輩が……」
「結衣よかったね〜って違う! 隊長、良いんですか? 彼まだ高校生ですよ?」
高校生を防衛隊の一員に引き入れるなんて、周りから見れば非難の的だろう。栗山長官の胃痛もさらに悪化してしまう。しかし正太だって考えていないわけがない。入隊に際してのあれこれは既に済ました事を伝える。
「十分承知の上だ。彼にもしっかり考えて貰ったし、親御さんからの了承も得てる。それに、始が多く担当するのは避難誘導。なにも晶子と一緒にパイロットやれってわけじゃない」
「晶子さん、ありがとうございます。でも全部、隊長の言う通りです。これは俺自身で考えましたし、母にも許可は貰ってます」
「そっか……本人の意思なら私が口出すことじゃないね。私は中嶋晶子。セブンガーのパイロット。よろしくね始」
「はい、よろしくお願いします!」
晶子の手を握る。これから共に平和のために戦う仲間としての挨拶だ。
「私は太田結衣! ストレイジの化学班! わからないことあったら色々聞いてね!! 特に怪獣のことだったらなッッッんでも教えてあげる!!」
「あ……ありがとございます。よろしくお願いします……」
「結衣、始が困ってるよ?」
「ほんと? ごめん……つい調子に乗っちゃって」
個性的だが自分の芯をしっかり持った2人なんだなと思いつつ、小声で正太と話す。
「本当に俺のこと知らないんですよね?」
「知らない知らない。心配しなくとも平気さ」
始のストレイジ入隊の秘密は、彼と正太だけしか知らない。
ウルトラマンゼットととして戦いに赴く始だが、その際どのようにして誤魔化すのかと言う点から「逃げ遅れた人を助けに行くじゃそろそろ無理だろ」と正太からの指摘を受けたのだった。その点、ストレイジの一員としていればより容易に変身を行えると提案を受けたのだ。
「本当は地球人だけの力で戦い抜きたいけど、今はそうも言っていられない。お前たちの協力が必要だからね。それにウルトラマンと一体化してるんだ。いつ何処で狙われるかわからないからな。保護的な意味合いだってある」
「そこまで考えてくれるなんて……ありがとうございます」
「別に。ただ後輩を助けたかっただけさ」
「……?」
さて、と手を叩き隊員をまとめる正太。
表と裏の切り替えが早く、それでいてボロが出ない。心底味方で良かったと始は安心する。
「今日からストレイジは4人で活動する。が、人が増えてもやることは変わらない」
「私たちが平和を守る」
「うん!」
「……はい!」
ストレイジの在り方を再確認、或いは確認し、4人は手を重ねるのだった。
「「「「ゴー! ストレイジ!!」」」」