「生徒会長候補! 平安名すみれ!!」
青い空をバックに、すみれは画面の向こうで見ることになろう人達へ向かって手を振る。そしてすぐさま駆け出していく。ちらりと映ったかのんは気にせず、木陰のベンチへと向かっていく。
「合言葉は結ヶ丘~……ギャラクシ────「あ~待て~!!」
合言葉に決めポーズをとった瞬間、前を横切ったのは運動部の生徒。どうやらボールを取り損ね、追いかけて来たらしい。すみれの撮影には目もくれなかったことから、どうやら相当慌てていたようだ。
「これカッ────「このまま続けてクダサイ」
録画停止をタップしようとした始の腕を、可可は掴む。困り気味の顔で抗議する始だったが、彼女は腕を離してくれない。
「はい、OKデ~ス」
「イイわけないでしょ!? もっと本気でやりなさいったらやりなさいよ!!」
生徒が横切ったのだからOKな筈がない。要は可可はすみれの撮影にはこれっぽちもやる気がないということだ。
ショウビジネスの世界で生きてきた自分なら、生徒会長くらい楽勝だと可可に向かって訴えている。しかし、訴えかけられている本人は全く聞いていない。彼女的にはかのんを候補者にしたく、その気持ちは未だ変わらずにいたのであった。
「かのんちゃーん!」
「どうだった?」
そこに別行動をしていた千砂都が戻ってくる。生徒会長立候補者の締め切りは今日。正式にどのくらいの生徒が競うのか確認してきたようだ。
「今締め切られて、正式にすみれちゃんと葉月さんの2人で争うことになったよ」
「つまり葉月恋を倒せば、この学校頂点に立てる訳ね」
「まあ、そこまで簡単じゃなさそうだけどな」
「戦う前からそう言う事言うんじゃないわよ!」
学校創設者の娘である彼女に、票数で勝つのは厳しいだろう。だが、彼女もそこまで盤石という訳ではないらしい。
「実際、クラス委員でみんなをまとめていて、人気があるのは事実なんだけど……普通科を少し下に見ているんじゃないかっていう噂もあって」
「そうなんだ……」
千砂都の話しを聞き、少しだけショックを受けた。確かに
「それよ!」
「それ?」
「ええ! 普通科は音楽科の3倍……つまり始!」
「……普通科の票を全部すみれに入れて貰えば勝ち目はある……ってことか?」
「その通りよ!」
勝ち筋が見えたのか、すみれは不敵に笑う。
音楽家と普通科の溝……それが深まり続けていることを始は危惧するようになっていた。この爆弾が、いつか大爆発を起こすのではないかと。
「『私、葉月恋は普通科と音楽科が手を取り合う学校を目指し、秋の学園祭を共に盛り上げていくことを約束します』……か」
「葉月さんて、音楽科のことばかり考えてると思ってた~」
「それね! 私たちのことも考えてくれてんじゃん」
公約を見てみると、どうやら普通科、音楽科への見方に差は無いらしい。しかも具体的な案として持ってきたのは学園祭。学校の一大行事であると共に、共に手を取り合う学校という姿を見せられる、身をもって知ることのできる格好に機会だ。
「先手打たれちゃったね」
「流石は葉月さんってところか。抜かりないな」
「これでは勝てる訳アリマセン。このままデハ……」
可可は最悪な未来を思い描く。
生徒会長となった葉月恋がスクールアイドルを厳しく取り締まり、こちれは隠れつつ活動を行うという未来を。
「そこまではないと思うけど……」
「どんなディストピアだよ」
そこまで暗い未来はないだろう。しかしこれまでの反応からするに、スクールアイドルがやり辛くなるというのはありえなくもないような気がする。
「かのんも始も見くびっていマス! あの目はスクールアイドルを憎んでいる目デス!」
可可は葉月恋に対しての印象がすこぶる悪い。悪い方向にばかり考えてしまっている。すると、千砂都はこんな疑問を口にした。
「でも、なんで葉月さんはそこまでスクールアイドルのことを毛嫌いしてるんだろう……」
「ちぃちゃんも知らないの?」
「うん、音楽科ではその話ほとんどしてなかったから」
友人が多く、様々な話が耳に入ってくる千砂都ですら、彼女が何故スクールアイドルに対して良いイメージを持っていないのかを知らないらしい。前提として、音楽科ではその話をしたことがない……つまり触れていないということだろう。
「でも嫌いなら理由がある筈だ」
「理由デスカ?」
「うん。葉月さんは『なんとなく』とかで嫌いなものを作るタイプじゃなさそうだろ。っていうか、世間的にも注目されてるし、音楽の一種として捉えることも出来る。そんなスクールアイドルをやるなって制限するのはおかしくないか?」
結ヶ丘の名を広めるための手段として、スクールアイドルはもってこいだ。生半可なものではいけないと以前言われたことがあるが、代々木、そして神津島でのライブをやり切った今の彼女たちであれば認めてもいい筈だ。しかし、状況は一向に変わらない。
「ま、ここは選挙で勝つしかないわ」
ここでいくら理由を考えていても仕方がない。今は選挙で勝つことが先だとすみれは席を立つ。当選祈願のだるまを片手に。
しかしどのように勝つのか。普通科全ての票を入れてもらうのは困難だと先ほどの公約が証明している。だがすみれには考えがあるらしい。それは────
「本日は皆様へのご挨拶も兼ねまして、たこ焼きをサービスしちゃいまーす!」
挨拶と称したこ焼きを配る……というものであった。
「お、お願いしまーす……」
「ありがと! ぼ、僕平安名さんに入れるね!」
「俺も俺も!」
「たこ焼きうまっ! 平安名さんに票入れるよ。約束する」
かのんやすみれにたこ焼きを配られた男子生徒は単純だった。すみれに入れると約束し、たこ焼きを頬張りながらその場を去っていく。その様を苦笑いで見つめるかのんとは裏腹に、すみれは思惑通りだと笑みを浮かべている。
「これ……よろしくないのデハ?」
「どうだろ……アウトよりのセーフ?」
「いえ、アウトです」
「「っ!?」」
理事長直々に禁止を宣告されてしまった。選挙運動の際、飲食物を振舞うのは禁止だ。買収に当たるからだろう。
よってこれまで正当に入っていた票も没収となり、結果は-20票という数字になってしまった。対する葉月恋の票は101。禁止行為を行ってしまったため、葉月恋が生徒会長当選となることは確定的となってしまったのだった。
*****
「で、葉月さんが当選……か」
『うん。たこ焼きの件でペナルティも食らっちゃったし……』
「モノで釣るのはいけなかったよな……」
『そうかもね。クゥクゥちゃんはそれがなくても結果は変わらないって言ってたけど』
電話越しにかのんから選挙の結果を聞く始。彼だけは学校を離れ、統合基地へと向かったのだ。学生として時間を使って良いとは言われているが、ストレイジに入隊した以上それだけではいられない。統合基地の中で学校のことを話す彼の姿は、他の隊員や整備班からしてみれば懐かしいような、どこか違和感のある光景に見えているはずだ。
「つっても、葉月さんなら上手くまとめてくれる気がするよ。スクールアイドルは別として」
葉月恋の正確なら、生徒会長として上手く全体と取りまとめてくれる気がする。それだけの手腕があるのは確かだ。しかし、ある一点を見つめると納得し辛いものがあったりするのが気掛かりだが。
『だからね、私話してみようと思うんだ。どうしてスクールアイドルが嫌いなのか』
「話してくれるのか?」
『わからない。でも、やってみなくちゃ』
考えるよりも行動に移した方が楽な場合がある。どうやら今がその時らしい。遠くにいる自分が出来るのはただ1つ。彼女を信じて任せることだ。
「いい結果待ってる」
『うん。始くんもストレイジ、頑張ってね』
「ああ、じゃあまた学校で」
力強く頷いたのが声だけでもわかった。胸の中で晴れない靄を抱えつつ、いい結果を聞けることだけ信じて通話を終えるのだった。
「熱いな」
「うわっ、隊長!? びっくりさせないでくださいよ!」
「済まない。影のように音もなく近付くっての……得意だからさ」
隣で話を聞いていたのか、青影正太はニヤリと笑みを浮かべていた。彼が言うにはそろそろ時間らしい。始は気持ちを切り替え、正太と共に指令室へと向かった。
「ああああああ! まただぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
指令室では絶叫が響いていた。入った途端に聞こえてきたそれに驚き、目が点になってしまう。絶叫の主は結衣。何やらモニターを見つめて頭を抱えている。
「隊長、それに始も」
「晶子先輩、結衣先輩どうしたんですか……」
「始、あれ見てごらん」
晶子が指差すのは格納庫。彼女の言う通りにし目を向ければ、セブンガーの横に新たなロボが建造されていた。セブンガーに比べ細身の体系。そして体のいたるところに噴射口のような構造が。
「あれってもしかして……」
「もしかしなくても。あれがウインダム……ストレイジの新しい仲間」
「おお……あれがウインダム……」
予算が下りてから遂にウインダムが完成間近なのだ。整備班の様子や機体の状態から見ても、最後の仕上げに取り掛かっているのは明白だった。
始がウインダムに見惚れて感嘆の声を上げていると、後ろから結衣が顔を覗かせる。しかもかなり興奮気味で。
「セブンガーを軽量化してさらに人型へ近付け、全身に搭載したジェット噴射口でウルトラマンのように自由な飛行が可能! そしてそして新型電池の搭載によって活動時間を5分に伸ばせた最新型!!」
それが”特空機2号ウインダム”。力で押すセブンガーに対し、ウインダムは機動性で怪獣と戦うのが特徴なのかもしれない。そして何と言ってもその稼働時間だ。5分であればより長く怪獣と戦うことが可能であり、人々をより多く救うことにも繋がる。
「で、状況は?」
正太が声を掛けた途端、結衣は萎んだ風船のように力が抜け、自分のデスクへ戻っていった。それが答えなのだろう。
「よぉ始、学校の方はいいのか?」
「バコさん。はい、学校の方は大丈夫です」
「お熱い電話もしていたしな」
「隊長!」
「まあいいじゃないか。若い時ってのはそんなもんだ」
するとそこへ因幡浩司が入ってきた。どうやらウインダムの電力事情を報告しに来てくれたようだ。
「それでバコさん、どうです?」
「充電完了まであと4日は掛かるな」
「5分動かすのに4日ですか。なかなかの大食らいですね」
5分稼働させる電力を供給するのにまだ4日かかるといいのは、明らかにコストパフォーマンスが悪い。それでは怪獣が出現しても発進できない事態の方が多くなる。宝の持ち腐れと非難されかねない。
「当初の設計ではもっと早かったの! なのに上があーだこーだ言って別々の会社にパーツなんか発注するから!」
「わかってる。わかってるよ」
「そのせいで接続が上手く行かず! 送電ロスが発生してるんです!!」
すごい気迫で隊長に迫っていく結衣だが、正太はのらりくらりと対応する。いつものことだから慣れっこなのだろう。
「もぉ~早く特空機追加武装プランを試したいのに~!」
「外部武装ならセブンガーでテストしたでしょ?」
「違うよ晶子~、ウインダム専用の追加武装! 設計の時から考えてたの!」
どうやらすでにウインダム専用武装の計画もあるみたいだ。一体どのようなものなのか、始も非常に興味がある。好奇心を抑えられず、始は結衣に尋ねる。
「なんですかその追加武装って」
「よくぞ聞いてくれたよ始くん! ウインダムの左腕部に強力な砲台を追加して……」
「あの……ちょ……揺ら……」
「結衣、始を揺らし過ぎ」
「あ、ごめん!」
「いえ……大丈夫です……」
結衣の熱量を身をもって体感させられた始。このとき彼は、彼女に興味本位でものを聞くもんじゃないと思った。
そんな様子を眺めつつ、正太は浩司へ今一度頼み込む。
「ウインダム、何とかなりませんかね」
「頑張ってみるよ」
その「頑張ってみるよ」という浩司の声を聞き、結衣は目を向ける。電力が溜まらず、未だ光の灯らないウインダムの顔へ。
そんな時、基地内に怪獣出現を知らせる警報が鳴り響いた。
「葉月さん……どうして……」
帰路につくかのんは思わずそんな言葉を呟いてしまう。
電話の後、意を決して葉月恋へ話を聞きに行った。スクールアイドルを何故嫌っているのか。そこにある理由を。
だが返ってきたのは耳を疑うような言葉。「別に何もない」それが彼女の答えだった。「学校の為にはならない」だからスクールアイドルは無い方がいい。それだけだったのだ。
「学校の為って……」
彼女の発した言葉を再度口にする。けれど答えが見えくる筈もない。納得いかない。腑に落ちない。考えれ考えるほど真意の見えてこない返答。苛立ちでかのんの表情が歪んでいく。
けど、その苛立ちもすぐさま消えるのだった。何故なら怪獣出現を知らせる警報がスマホから鳴り響いたのからだ。
「か、怪獣!?」
轟音が周囲に伝播する。音の発信源は地中。土を巻き上げ、その姿を地上に現す。姿を見せたのは……2本の触手がある尾。そして両腕が鞭となった巨大生物。
暴れまわり、街を破壊する2体だがその様は人に危害を加えているものではない。それは自然界であれば当然の光景。獲物を追う者と捕食者から逃げている光景そのものであった。
一カ月一話更新は流石にやばいわよ……