Superstar-Z   作:星宇海

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もうfinaleから1週間!?

気軽に勇君を聴けない体に改造されてしまいました。


第37話 あの時の景色、継がれていくもの

 

「そっか~。……けどそれはさ、君が悩むことでもないんじゃない?」

 

 始の話を聞き終えたフユは、穏やかな波が打ち続けている海を見て言った。

 至極当然の意見であることは間違いなかった。学校の運営方針しかり、入学者数しかり……1生徒でしかない始には何の責任もないし、関係のないことだからだ。学校創立者の娘である恋がその問題を重く受け止めて故に独自で動き、音楽科と普通科の間に溝ができてしまった。でもそれだって彼女の独断故の結果だ。始が介入することではない。なんせ彼女自身から関わるなとキツく言われたのだから。

 

「運営方針が変わったからって始くんに影響がない……訳ではないけど、でもその変化だって大した事じゃないはずだよ?」

 

 かもしれない。いや、むしろ好都合といってもいいのかもしれない。音楽科優先の状況が緩和されれば、かのん達の活動だって今よりももっと良くなるのではないだろうか。練習場所とかだって、今よりも良い場所が使えるようになるのではないか。そう考えれば……このまま知らないと目を背ける方が楽なのではないだろうか。

 

「俺は……」

 

 フユは海から目を離し、彼をジッと見つめる。まるで何かを見極めているかのように。

 

「俺は……」

 

 途端、脳裏に過るのは恋の顔だった。今にも崩れてしまいそうな表情だった。そして彼女の家で、部室で……聞いた言葉だった。

 

「俺は……フユさんの言うように、ここまで深入りする必要はないのかもしれません。勝手にしろと、目を瞑っても良いのかもしれません。でも俺は……俺やかのん達は……あの時聞いたんです。彼女の口から。いつもスクールアイドルを目の敵にしていると思っていた彼女から、ようやく話してくれたんです。……過程はちょっと複雑ですけど」

 

 聞き、そして知ってしまった。結ヶ丘の置かれている状況も、彼女の母の事も。そして彼女がどんな思いで今過ごしているのかを。普通科から誤解されたままだろうと、母の想いを途切れさせるわけにはいかないと必死に抗っている彼女の事を。

 

「だから、俺はもう知らない事になんてできません」

 

 助けは不要だと拒否されたが、そんな言葉ぐらいで簡単に引き下がるつもりなどないのだから。

 

「俺が自分の目で確証を得られるまで、やめるつもりはありません」

「それは同情?」

「……あると思います。でも、俺は信じているんです。葉月さんが母親の想いを繋いでいきたいように、俺も父さんの想いを繋いでいきたい。その気持ちは一緒の筈だって」

 

 胸元を握りしめる。彼女の根底にあるものも、自分の根底にあるものも、どちらも一緒だと始は信じているのだ。

 

「……似ているね、彼と。違うか、似ているからこそ選んでくれたのかな」

「……?」

 

 眼差しは始に向けられているが、見ているのは自分ではなく、もっと遠い誰かの気がした。始にはその目が誰に向けれらているのか、そして言葉の意味もわからないのだが。けど、フユの態度や話し方から聞きたい言葉を聞けたのだという満足気な雰囲気は伝わってきた。答えになっているのかわからなかったが、自分の答えを肯定してくれている気がして始は嬉しかった。が、問題が解決したわけではない。

 

「とは言っても材料がなさ過ぎて何もできないのが現状なんですけど」

「材料? なかなか大変そうだね」

「はい。学校アイドルの件なんかまさにそうで。頑張っても結局廃校になってしまった……だから、その活動自体を後悔しているのではないか。葉月さんはそう思ってます。だから同好会も……。俺はそうは思えない。思いたくない。けどそれを否定できる根拠がない。だから大変なんです」

 

 学校アイドルに関する思い出や記録だけがどこにもない。だから何もわからない。後悔しているのではないか……これを否定するには何か証拠がいるのだ。推測だけでは、もう彼女の心を動かすことはできないのだから。

 

「……」

 

 数秒、フユは黙り込む。そしてすぐさま始へ笑顔を向けた。

 

「だったら、先輩方に教えてもらうしかないね」

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

「おいおい結衣、なんだソイツは?」

「これはネロンガの電気を増幅し放出させる器官です。ウインダムに接続できませんか?」

 

 ストレイジの格納庫へ結衣は件の器官を持ち込んでいた。整備班が見つめる中にはもちろん浩司の姿もあった。彼女の狙いはわかっている。この器官を利用し、ウインダムの電力を効率よくそして短時間で充填するためだろう。これまで一度もやったことのない挑戦。確実性に欠けているが、結衣の表情は真剣そのもの。その申し出を断る程、彼自身も腐ってはいない。

 

「ネロンガの器官をか……よぉしっ、何とかしてみるさ!」

「うん! ありがと、バコさん!!」

 

 準備は着々と行われ、遂に各配線がネロンガの器官とウインダムへと繋がれた。そして最後は基地の電力供給システムと器官とをつなげる役目なのだが、それには結衣が立候補した。

 

「私が言い出したことだし、私が最後までやる。いいでしょ?」

「はなっからそのつもりだよ。ほら、大喰らいの次男坊を腹いっぱいにしてやれ。お前らも準備しておけ!!」

 

 彼らはその言葉を聞きつけ、すぐさま溶接面等をかぶり始めた。怪獣の力を使うのだから、準備や予防に抜かりはない。

 

「それじゃ、行きますよー! レディー……ゴー!!!」

 

 電極が繋がれたと同時にシステム起動。安全基準内の電気が増幅され、青い光となってウインダムへ流れ込んでいく。凄まじいスピードと力故か、ウインダムのカメラアイやセンサー類が光を放っていた。さらにコンピューターに目をやれば、あれだけ時間を掛けていたウインダムの充電率は比べ物にならない早さで上昇していく。その結果に、結衣も浩司も笑い合っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「昔はここにもバス停があったんだけどさ、もう来ないからって撤去されちゃったんだよね」

 

 歩くこと数十分。フユに道を任せ、見えてきたのは木々に包まれた坂道だった。彼女は無言のまま、歩を進めていく。随分と急な坂を上り切り、次第に見えてくるのはグラウンド。そして……

 

「学校……?」

「そう。君にとってはここは良い答えになるんじゃないかな」

 

 虫や鳥の鳴き声、時々遠方から聞こえてくる車の音。人の気配のない不思議な空間の中に、その学校は佇んでいた。その風景だけを切り取ったのではないかと思えるくらい、その学校一帯だけは静まり返っていた。神聖な場所とも言える雰囲気の中を歩き、校門までやってくる。錆や汚れが、そして塗装の剥がれがあらゆる箇所に見受けられた。ここが長年使われてきたことは明らかだった。けど、施錠されていることやそこかれ見える窓の汚れ、そしてグラウンドに生える草の多さから始は違和感に気付く。

 

「なんか……今は使ってないみたいですね」

「みたいじゃない。使ってないんだよ、ここ」

 

 そうか、と始は納得した。人の気配がないことも、先ほどのバス停の件も。すべてはここが使われていない……つまり廃校になっているからなのだと。そして彼女が何故ここに連れてきたのか、その理由も。けれどわからないのは、この場所から何を得られるのかということだ。すると彼の心を読んでいるのか、彼女は門に手を掛けた。

 

「君に知らせたいのはここからじゃわからないから……ねっ!」

「ちょ、ちょっと何してるんですか!?」

「みりゃわかるでしょ。門で遊んでるとでも思った?」

「違いますよ。”それ”はまずいですって!」

「大丈夫大丈夫。真面目か!」

 

 フユは門を登って校内へと入り込んだ。軽々しく上った様に驚いたが、まさかの無断侵入にそれどころではなくなってしまう。始も衝動的に彼女の後を追う。降り立った彼らはもう一度、校舎を見上げた。途端、突如吹いた追い風。無意識に一歩目が出た時、始は感じた。まるで学校が、入ることを許可してくれているように。

 

「さ、行こ」

「見つかったら───「その時はどうにかするよ」

 

 緊張感のない、安心しきった声だった。それに始自身も、ここまで来たら知りたくなっていた。彼女が何を教えようとしているのか。そしてここで何が見つかるのかを。

 

「どうして廃校に?」

「生徒数の減少かな。それで沼津の学校と統合するからって。悲しいことだよね。子どもが少なくなるのって」

 

 生活スタイルの変化や経済的要因……少子化の理由などいくらでもある。加えて近年は怪獣頻出期だ。家庭という平和を簡単に壊してくる存在が山ほどいる。厳しい時代になったのだとよくテレビやネットでは言われていることだ。それらが原因でここも統廃合という結果になってしまったのだと。

 

「でもね、当時のスクールアイドルが廃校を阻止しようとラブライブに出場した。もう11年も前だよ」

「阻止しようと……それって……」

「そう。花……さん、だっけ? その人と一緒」

 

 廃校を阻止しようとしてスクールアイドルを始めたこと。それは花さんとまったく同じだった。そして、その願い叶わず廃校が決定してしまったことも。

 

「それに、11年前って怪獣出現期の……」

「初期も初期。前例のないことばっか。ないない尽くしで色々大変だったんだよ? ……でもオーブが守ってくれた。ここも、彼女たちも、この街も」

 

 それはオーブと怪獣が出現した年と一緒だ。そしてこの場所も彼が守っていたこと……初耳身だった。聞けば聞くほど、この地とオーブの関わりの深さに驚く。でもそれはまるで、今の始とゼットと同じようで……。

 

「彼女たちは……その、後悔していないんですか? スクールアイドルをやったこと」

「どうして?」

「だって、救えなかったじゃないですか。一番の活動理由なんでしょ!? 頑張って、足掻いて。藻掻いて藻掻いて……それでも結局救えなかった。なら、その記憶すら……記録すら見たくないって思うんじゃないんですか」

 

 始は彼女にぶつけた。この学校のスクールアイドルがどう思っていたのか、彼には分らない。想像ができない。でも、もし恋が言っていたことと同じであるのならば、それはきっと後悔なのではないか。足掻き切った末に見えたものが、覆しようのない現実だと思い知らされた時、その時の失望感ややりきれなさ、不甲斐なさに完全に心折られたのだとしたら……。その後に襲い来る後悔は果てしのないものなのだろう。

 

「決定した時はそうだったかもしれないね」

 

 でも、と彼女は言葉を繋ぐ。見上げた先にあるのは青空と、煌めく太陽だった。彼女の目には、いつの景色が見えているのだろう。

 

「でも君は見くびりすぎ。彼女たちはそんなに弱くないよ。いつだって足掻いてきたんだから」

「……まるで見てきたような言い方ですね」

「フフッ……それに弱くないのは彼女たちだけじゃない。この学校の生徒の全員もかな」

 

 フユは足を止め、指をさす。始は導かれるままに、その方向へ進んでいく。

 

「あれが先輩たちの答え」

 

 古びた壁面に目をやる。そして始は言葉を失ったのだった。そこに書かれ、描かれたものに。

 

「これって……」

「みんなの感謝の気持ち……そのものだよ」

 

 校舎の壁面に、窓に……そこら中の至る所に描かれているものがあった。書かれたものがあった。色とりどりのそれは、心からの感謝の言葉。楽しかった時も、辛く苦しかった時も、いつでも見守ってくれた学校に対する溢れんばかりの想いがそこに広がっていた。

 

「みんながこれを?」

「うん。卒業式の日にね。浦の星、最後の卒業式の日に」

 

 飛び散ったペンキの跡に触れると、見えてくる気がした。これを描いているときの当時の姿が。きっとこの学校の生徒達は、悲しさだけで描いていたわけじゃない。最後に……いや最後だからこそ、みんなの思い出として笑顔でやっていたのだと。確信はないが、そう見えてくる。こんなにも想いがあふれている場所を始は見たことがなかった。だからこそ彼は言葉を発することなく、その景色を見渡している。

 

「消えてなくなることはない。積み上げてきたものがなくなることはない。0にはならないんだよ。みんなの想いも記録も、記憶だって、ここに残っている」

 

 大きく描かれた虹をなぞりながら彼女は言った。一歩一歩、過ごしてきたその時間が無くなることはない。そしてここの景色……青い空も海そしてそこで過ごした思い出も、色褪せて消えることはない。ずっと残っていくものだから。その胸にある限り、輝きは永久なのだと。

 

「彼女たちも廃校を阻止したかった。ユメを追いかけたんだよ。でも阻止できなかった。一番叶えたいことは叶えられなかった。……でもね、そこまで歩んできた道を……軌跡を後悔してはいなかった。それだけは思ってなかった。まあ、花さんがどう思ってるかはわからないけど。ち……彼女たちと同じ志を持っているのなら……もう言わなくてもわかるよね?」

「はい……」

 

 胸元にあった重い何かが、スッと消え去っていく気がした。それが何なのかわからないけれど、でもきっとそれが良いことだというのは確信できた。始の中には再度、諦めたくないという気持ちが灯っていた。

 

「ありがとうございます。俺、ここに来れて良かったです」

「その顔……いいね」

 

 彼女は笑みを浮かべた。対して始も笑顔で返す。

 

「因みにこの学校のスクールアイドル、何て名前なんですか?」

「浦の星学院スクールアイドル Aqours(アクア)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここに来ると彼女たちを思い出すな」

 

 一方、周辺調査を続行している正太。辺りを見回し、デバイスを見つめ、そして彼はふと呟いていた。

 この地は彼にとっても思い出深い地だった。彼らと敵対し、”彼”の信念の前に敗北。そしてスクールアイドルの少女に助けられた。奇妙な道のりだったが、今の自分を構築しているのも、あの出来事があったからだ。良かったとは言えないが、後悔はしていない。

 

「もう11年……あっという間だったな」

 

 空を仰ぎ、感傷に浸っていたのも束の間。デバイスからアラート音が鳴り響く。反応が大きくなっているからだ。

 

「まずい……始! 始、聞こえるか!」

『はい、こちら始』

「件のテレスドン、反応が大きくなっている。……内浦に現れるぞ」

 

 もう時間は僅かしかない。再度この地を踏み荒らされるのは心外だが、言葉が通じる相手ではない。今は対策を急がなければならない。正太は内浦を駆けつつ、沼津市長へ連絡を取らんとデバイスを操作する。

 

「始、近隣住民の避難を。アラートは鳴っているだろうから、すぐに警察や消防も動いてくれるはずだ」

『わかりました』

「頼んだ。……市長、青影です─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

「フユさんも早く!」

「私の事は良いから、ほら他の人!」

 

 始も住民の避難誘導を開始していた。さすがは沼津。市民も、行政も避難マニュアルがしっかりしているため動きが速い。

 

「こちらの避難誘導完了しました!」

「自分の方はまだです!」

「こちら手を貸してください!」

 

 いかに被害を少なくするか、そのことを念頭に置いて動くのは何もストレイジだけじゃない。そのことを、目の前に人々から感じ取っていた始。

 すると、巨大に地響きがバランスを崩させる。その原因が一体何なのか、見当はとうについている。数秒後、地面を割り、土煙をぶちまけて地底怪獣(チテイカイジュウ)テレスドンが姿を現した。

 

「やっぱり来たか」

「避難、急ぎましょう!!」

 

 消防隊の隊員らは避難を行ってくれている。その重要な仕事は彼らに任せるとして、始は始にしかできないことをしなければと駆け出そうとする。

 

「フユさんも早く逃げてください。俺は逃げ遅れた人がいないか見てきますから」

 

 するとっ彼女は笑う。こんな時に不謹慎だと眉間に眉が寄りかけたが、次の一言でなかったことになる。

 

「彼と一緒か」

「え?」

「確信はなかったけど……やっぱりね」

「何のことかわからないですけど、とにかく逃げてください」

 

 走り出したものの、彼女の言葉で足を止める。

 

「どうなの。君はやっていけそう?」

 

 その問いがどういった意味を含んでいるのか、始は直感的にわかっていた。わかってしまったの方が正しいだろう。でも彼は隠すことなく彼女へ返答することにした。

 

「正直……プレッシャーです。彼と同じようにできるのか……。同じ立場に立って初めて知りましたよ。こんなに大変なんだって。でも彼は守り向いた。本当に凄いです。やっていけるかどうかなんて今はわかりません。でも、俺は今ゼットと一緒にいる。それが力を持つ者の責任、俺のやるべきことですから」

 

 テレスドンの咆哮が響き、炸裂音が海を揺らした。もう時間はない。

 

「そっか。なら私は君に任せるよ」

「アイツ倒したら、またAqoursの事とか教えてください」

「いいよ」

 

 そうして始はテレスドンの元へと走っていくのだった。

 

「大丈夫……これだけ時間が経っても……ちゃんと受け継がれているんだから。だよね、───■■?」

 

 

 




沼津に行けばAqoursは居ます。
永久です。またどっかのタイミングで沼津行きます。

※廃校舎に無断で入るのはフィクションだから許されています(自己防衛)
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