盛りだくさん……というか詰め込みすぎたというか……。
「ゼット!!」
ゲートをくぐり、開口一番に始が発したのは謝罪の言葉だった。結ヶ丘でゼットに向けてしまった言葉を謝りたいのだろう。こんなことをしている場合ではないとわかっているのは始も一緒だ。でもこれを行わなければ、これから始まる戦いを潜り抜けることはできない。一緒の想いで立ち向かうことはできない。
「俺、ゼットに感情的に当たった。あの時はホントにごめん」
『始……いや、俺も悪かったよ。始の気持ちも考えずに言ってしまった。ウルトラ申し訳ない』
頭を下げる2人。そしてすぐさま外で起きている状況に向き合う。
『細かい話は後だ。始、ウルトラフュージョンだ!』
「ああ!」
眩い光が3つ。周囲を舞ってからゼットの体を包み込み、彼は空高く舞い上がった。
《ULTRAMAN Z ALPHA EDGE》
「喰らえッ!」
流れ星の如く、頭上めがけて垂直に放たれた蹴りがテレスドンを直撃する。爆発にも似た撃音が伝播し、ヤツは地面に倒れこんだ。着地の衝撃を回転で逃がし、即座に構えを取る。背を見せるのはコンマ数秒のみ。背を見せること自体がアウトなのだが仕方がない。であれば……せめて出来るだけ短く。
一方、脳震盪から回復したテレスドンは即座に先の攻撃者を視界に収めた。激昂が海を震わす。そして己の気分を苛立たせた主……すなわちゼットを睨み、テレスドンは進撃を開始した。
「……」
ゼットとテレスドンが戦闘を開始するころには、ほとんどの住民が避難しきっていた。人気のなくなったこの街に、不釣り合いな恰好の男が1人。観察を行いながらやけにゆっくりと、それでいて避難所とは別方向に歩いている。緑の防護服を纏った男、冠木の佇まいは自然の如く街の静寂と一致していた。
「……」
感情の失われた目の奥に、燃えるような好奇心が宿ってることは、誰にも見抜けないだろう。
「■■■■■ッーー!!!!!」
テレスドンとゼットの戦闘は、遠い空へと響き渡る轟音とともに続いている。だが彼の目的は観察ではない。彼が向かう先には、ある実験の結果とその結果を確かめるための計算がある。彼が持つのは小さなメダル。それは彼がこれから行う行為の重要な鍵となる。冠木は一呼吸おき、静かに呟いた。
「実験の始まりだ」
「『ゼットスラッガー!!」』
ゼットの攻めは終わらない。腕を振り抜くと同時に青い光刃はまるで雷鳴の如く閃き、建物の谷間を縫うように舞いながら鋭くテレスドンの肉体を切り裂いていく。ヤツの体は刃の猛攻に激しく揺られ、血しぶきが空気を裂く。
けれどヤツもただでは終わらない。鋭い動きで刃を振り払っていく。まるで鬱陶しい蠅を叩き落とすかのように。その動きは決して滑らかでも、器用でもなかったが、ヤツの持つ強大な力が光刃の勢いを殺している。光刃を叩き落とし、ゼットを焼き殺さんと火炎を吐き出した。
「『ゼットランスファイヤー!」』
それらは中心で衝突し、直後に激しい爆発を生んだ。
「もう一度────『「アルファバーンキック!』」
煙を突っ切りつつ懐へ潜り込み、腹部を蹴る。一度、二度、三度……。回し蹴りを繰り返すごとに、周囲に残る炎の軌跡。それらの光景はまるで美しいダンサーのようだった。
最後の一撃でテレスドンは大きく吹き飛ばされ、地面を何度も転がった。
「このまま決めるぞ!」
『よし! 一気に行きますぞ~!!』
ここでトドメかと勝敗が決まりかけた時、その時は来た。
「■■■……」
体力の少ないテレスドンの元へ冠木が姿を見せたのだった。彼はヤツの口目掛け、例のメダルを投げ入れる。訳も分からずそれを飲み込んだ。すると突然、緑の光がテレスドンから発せられた。
『な、なんだアレ!?』
「テレスドンが……光ってる?」
『あれを見ろ! 何かが……生えてきた』
テレスドンの咆哮と共に、光は禍々しく輝きを増す。さらに首元へ、本来あるはずのないものが。その様子を基地で見ていた結衣、そして現場で避難誘導を行っている正太ですら、驚愕を隠せずにいた。
「あの色と形……間違いない。ジラースの襟巻……でも、どうして……」
「どういうことだ? 怪獣同士を掛け合わせるなんて……またあのリングを持った者が現れたのか?」
異なる怪獣同士を繋ぎ合わせ、さらなる怪獣……フュージョン怪獣を作りだす所業。それを実現させる”彼”の持つそれと対をなすアイテム。それがまたこの星に牙をむいたのか。彼の苦々しい記憶と共に思い起こされ、同時に警戒心が強まる。でも、それにしては一部的で不完全のようにも思えた。
「■■■■■ッッーーー!!」
新たな姿となったテレスドン……”
「くっ……今は考えても仕方がないか。ここからどう対処する……始」
《隊長! 発進準備整いました!!》
すると通信機から晶子の声が聞こえてくる。後ろから小さく聞こえる浩司達整備班の掛け声。
「晶子、悪いがセブンガーじゃ──《じゃないです。私が乗っているのは》
「まさか……行けるのか?」
《勿論です。私を舐めないでください》
続いて結衣。その自信気な声に、彼の口角も上がる。彼女らの言葉が一体何を意味しているのか。そんな事、改めて聞く方が無粋だろう。彼女が……否、彼女たちがやってくれたのだ。であれば、彼の答えは決まっている。皆を信じ、ストレイジの隊長として彼は決断を下した。
「ウインダム……発進を許可する!」
襟巻を起点にし、何重もの点滅。自身の持つ振動波を襟巻で増幅させ、強力な熱線波が放たれる。もろに体に浴びたゼットは再度倒れこむ。
「この……!」
起き上がりと同時に放ったゼスティウム光線。しかし眼前に張られた空気の壁は、波を作るかのように光線を巻き取った。
『止めたのか!?』
固めるように圧縮し、流れを逆流させた。己の必殺が、無数の矢のように突き抜ける。周囲を巻き込んで爆砕。その光景は太陽の光よりも白かった。
「どうなってんだ……前回はこんな力なかっただろ」
『わからない……とにかく、あの襟巻をどうにかしないと……!』
幾度も身体を掠めてくる熱線により、容易に近付く事すらできない。しかし避けてばかりでは周りの被害が拡大するだけ。だいぶ手詰まりの状況下。それが2人を追い詰める。不規則な軌道で撹乱しつつ、熱線の間隔を測る。周囲の注意と眼前の警戒。同時にこなすには中々辛い。
「■■■ッ!」
赤い光が地面を焦がすと同時に、ゼットは力強く地を蹴った。熱線波スレスレを走り抜け、決死の突撃がエリマキテレスドンを射程内に捉える。
「『ッッッーー!」』
これが幾度目か。熱の灯った右脚が首元を振り抜いた。地を数度転がり、ビルに突っ込み停止。しかし奴はすぐに起き上がる。炭化した首元からは煙が漂う。攻撃を受け、ダメージを負ったことを認識した途端、急激に襲ってくるのは激痛……そして怒りだ。エリマキテレスドンは天高く轟かせ、熱線の威力を底上げし、先よりも激しく撒き散らす。
『「ッッッ!?』」
地面が揺れ、火花が飛び、炎が吹き荒れる。許容出来る範囲をとうに超えたダメージはゼットを吹き飛ばし片膝をつかせた。時間切れ……いや体力の限界も近いのだろう。胸元の水晶が赤く点滅し、危機的状況を一層際立たせた。
「くそっ……このままじゃ……」
こちらを串刺しにせんと、己の体を回転させ突っ込んでくる。避けようにも体が言う事を聞かない。
『まずい……!?』
万事休すかと思われたその時、銀色の光がエリマキテレスドンを横切ると同時に吹き飛ばした。
『あれは……んん?』
ぜブンガーよりもスリムな体型。体の各所にあるのはバーニアやミサイルの発射口。それは機動電力の問題で眠っていた、大食らいの2号ロボットであった。
「おいおい……もしかしなくてもウインダム!」
《ウルトラマン、私も一緒に戦うよ!》
初陣の地は初めて巨大生物と巨人が激闘を繰り広げた地。ストレイジの2号ロボットウインダムは、オーブと同じ巨人と共に、人々の平和を守るために降り立ったのだ。
その様子を見守るのは沼津や内浦の住民だけではない。先ほど元気よく送り出してくれたストレイジのみんなも一緒だ。
《それじゃ……いくよ!》
手首を高速回転させて放たれる突き技は、ヤツの体を簡単に貫く。一撃、二撃と青い雷光がスパークする。同時に後退していくエリマキテレスドンをすかさずロック。額から放たれた高出力のレーザー照射の衝撃は、ヤツを吹き飛ばすには十分の威力を誇っていた。
『よし始、勇気の力でウインダムを援護するぞ!』
「わかった!」
地を蹴ったゼットはベータスマッシュへ姿を変える。それでもヤツは以前と同様、熱線を放たんと体内器官を駆動させる。しかしその予備動作を捉えてもなお、ゼットは回避の素振りすら見せない。気合で乗り切る気なのだろうか。
『このまま……突き進むぞ!』
どうやらそのようだ。赤く輝き躍動する肉体は鋼ともなり得る。その自信からか、放たれた赤い光束を見据え両腕を目の前で交差させる。
「ウゥッ!?」
腕をクロスして致命傷を防ぎつつ、攻撃の中を突っ切って行く。腕に光の束が当たり爆発を起こす。そして弾いた残り香は周囲に飛び散り火花と化していった。
「く……痛っ……」
『ウルトラ耐えるんだ……始……!』
苦痛。衝撃と焼けてジリジリ蝕んでいくような痛みが腕を包み込んでいる。アルファエッジに比べてマシとは言え、許容出来るものではなかった。そして耐えるのは気合い。ここまで来て気持ちの問題かと悪態を吐きたいところだが、ご覧の通りそんな余裕はない。
「……ってぇな!!」
怒りのラリアットが命中。エレマキテレスドンを反転させる。土を巻き上げ伏せている巨体を持ち上げ、更に投げつける。
足元、背中にバーニアが火を噴く。地を疾走したウインダムは、そのままエリマキテレスドンへタックル。鋼の獣に耐えられる筈もなく、またもや体制を崩されてしまった。だが気付いた時にはもう遅い。ウインダムは首元の襟巻を掴み……引き剥がす。激痛に悶えるテレスドン。その目線の下にはあの赤い顔が。彼は既に、眩い拳を握って引き絞っていたのだ。
「『ゼスティウム……アッパァァァァ!!」』
上空へと打ち上げられて、成す術のないテレスドンを再度ロック。無数の照準を一体の怪獣に合わせた。トリガーを引いた際、機体は積まれたミサイルの熱で赤く染まる。20式対怪獣誘導弾は、全弾テレスドンへ命中。引き起こされた爆発は空を、そして海を揺らしたのだった。
「……」
一方冠木は、足元に落ちたジラースメダルを拾い上げていた。どうやらウルトラメダルよりも強度はないらしい。掌に乗った数秒後、粉々に砕けてしまったのだ。戦闘のダメージも影響しているのかもしれないが、少々方法が強引過ぎたのもいけなかったようだ。だがこれが失敗だったのか成功だったのか、彼の表情から読み取ることはできない。ただ、右のこめかみをほぐすようにしてそのまま立ち去ってしまうだけだったのだから。
*****
「「「「「やっっっっったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」
完成、そして出撃までに幾度の困難にぶち当たった末、初陣を勝利で飾ったウインダム。新たなストレイジの戦力に、整備班の歓喜の声が格納庫内を震わす。肩を組み声を上げるもの。これまでの苦難を思い出し涙する者。中には紙吹雪を捲いて喜びを表している者も。行動は異なるが、皆の中にある感情はどれも同じだ。
「ネロンガの体内器官を使うなんてな。よく思いついたな」
「フフッ……”意外なものが別の場所で役に立ったりするもの”……でしょ?」
「ああ、そうだ」
浩司からもらった言葉をそのまま返す結衣に、彼は再度笑いかける。その行動は怪獣のことを知り、そしてより解明したいと考える彼女だからこそ取れたものなのだ。浩司の言葉がなければ、そして結衣の怪獣に対する想いがなければ……このどちらかが欠けていれば、ウインダムは目覚めなかった。そのことを知っているから、2人はとても嬉しく、微笑み合っているのだろう。彼らの歓喜の雄たけびは、ウインダムが戻ってくるまで続いたそうだ。
『始、俺はもっと……地球人の心に寄り添わないといけないのかもしれない』
「寄り添う?」
戦闘後、始に語り掛けるゼット。彼の言葉に、始はそのまま返す。ゼットが語るのは宇宙警備隊として、必ず守らなければいけない事。そしてそれ故に不足してしまった配慮について。
『俺たちは、その星の文明に深く関わりすぎてはいけない。それが宇宙警備隊として、俺たちが守らなければいけない事なんだ。でも今俺は、始と一緒に戦っている。それを忘れちゃいけないんだって思った。なら、俺はもっと地球人に……始に寄り添わなきゃいけないって……そう思うんだ』
あくまで彼らは戦う力のない存在を、極悪な侵略者や怪獣から守るために星から星を飛んでいる。だからその星の文明が決めたことに……進もうとする道に過度に介入してはいけない。異なる星への侵略が目的なら別だが……。でもそうだとしても、最初はその行く末を見守らなければいけない。ウルトラマンは決して神ではないのだから。
だが、ゼットはそれ故に始の行動を止めてしまった。結果的には正解だったのかもしれないが、それでも理性じゃなくて感情が違うと叫ぶことだってあるのだ。それをまだゼットは理解しきれていなかった。地球人をまだ知れていなかった。だからもう一度、彼はここに誓うのだ。その答えを聞いて、始は笑みを浮かべる。ゼットの答えが嬉しかったからだ。
『始……改めてよろしくな』
「うん、よろしく……ゼット」
2人の右腕は力強く交差した。
「お疲れ様。あのロボット凄いね~ウルトラマンと一緒に怪獣を倒しちゃうなんて」
「特空機ウインダム。ストレイジの新しい仲間ですよ」
海岸を見つめるフユに、始は新たな仲間を紹介した。始も誇らしかったのだ。ウインダムが自分たちを助けてくれたことに。そしてテレスドンにトドメをさしたのは何よりもウインダム。そのことがとても。
青く澄んでいた海は、夕焼けの光を反射しオレンジ色のあたたかな雰囲気へと変わっていた。優しい風と波が2人を包み込んでいる。そんな中で、始は彼女から……”彼女たち”から教わった末の答えを彼女に話した。
「どうするの? って言ってももう答えは出てるか」
「はい、俺、探してみます。花さんが後悔していないって証。花さんもAqoursの皆さんと一緒の気持ちなら……結ヶ丘のどこかに残しているはずですから」
浩司から言われた時点でそうするのは決心していた。でも拭えなかった不安を、浦の星が消し去ってくれたのだ。そうすればあとは動くのみだ。
「……積み上げてきたもの消えてなくなることはない。0にはならない。想いや記憶だって残っている……ですよね?」
フユは笑みを浮かべる。合格ということなのだろうか。途端に波の音が一段と大きく聞こえる。まるで何かの合図のようだった。
「夏空始、あんたはこれからも多くの出来事に翻弄される。それでも……自分の心にだけは嘘をついちゃダメだよ?」
「……え? それってどういう……」
突然の言葉に、始は間の抜けた声を出してしまう。でも彼女の声音から真剣な話だという事は理解できていた。とは言ってもなぜこのタイミングなのか、どうしてそのような言葉を投げかけたのか……始が聞こうとした瞬間、正太の声が聞こえてきた。
「お~い、始~!」
「隊長か……柄にもなさそうなことしてるんだ」
「隊長……そうだフユさ────」
振り向くと、フユの姿は消えていた。先ほどまでいたはずなのに、まるで最初か誰もいなかったのように。
「始、どうした? そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」
正太にも姿は見えていなかったらしい。見えていたらこんな反応はしないはず。始は辺りを見回すが、彼女の姿はどこにもない。
「誰を探しているんだ?」
「隊長、本当に見ていないんですか?」
「見てないって誰を?」
「俺、あの人に教えてもらいました。この場所の……あの学校のスクールアイドルについて」
「なに?」
始は話したのだった。彼と別れてから起きた出来事を。そして彼女と何を見てきたのかを。すると正太は、フユについて尋ねてきた。どんな人物だったのか、見た目はどうだったのか。まるで、彼の中にある何かと答え合わせをしているかのようで。それを聞いた正太は口を開けっぱなしで呆然としていた。あり得ないと笑うのだろうかと思ったがそんなことはなく、ただ数秒だけ目を閉じて自分の感情を落ち着けているかのように思えた。
「隊長……大丈夫ですか?」
「…………ああ……大丈夫だ。戻ろうか。テレスドンは居なくなった。被害も最小だし。戻ってウインダムを祝ってやらなきゃな」
「そうですね。わかりました」
でも始にはわかっていた。彼が大丈夫ではないことに。だって……彼は何かを必死に堪えているかのようにしていたのだから。悲しみや後悔か……あるいは嬉しかったのか。それを知る権利というものを始は持ち合わせてはいない。それは、正太をよく知る”彼”だけが……一緒に持ち合わせているものなのだから。
「ありがとう。……行くぞ、始」
「はい! ───っ!?」
すると一瞬風が吹き、始は不思議な感覚を背中に味わった。まるで誰かに背中を押されたような……そんな不思議な感じを。背後を振り向いても誰もいない。でも彼は穏やかな波の打つ海を見ながら微笑んだ。
「おーい始ー、早くしないと置いていくぞー!!」
「……ありがとうございました。俺はこれかも頑張っていきます」
誰にも届くことはないその言葉。だが、内浦の海は……彼の言葉をしっかり聞き届けていた。
*****
「ウインダム……起動電力問題さえクリアできれば、ホント頼りになりますね」
統合基地の格納庫へ足を運んだ始たち。今日の戦いを終え、格納中のウインダムを見上げている。ゼットとして戦った始にはわかる。ウインダムの存在がどれほど救いになり、頼もしかったのか。ウインダムが居なけば、彼がここに立っていることもなかっただろう。
「でも、そこはもう解決策があるんだよね? 結衣」
「ネロンガの器官を解析して、人工的に再現する。そうすれば、いつでも出撃できるってね!」
「そりゃあいいじゃないか。よぉし、じゃあ早速、うちの次男坊のメンテナンスだな」
それが、ウインダムの電力問題に頭を悩ませていた結衣の出した答えだった。怪獣の器官の再現など、閲覧できるデータには前例がない。どれほど困難で、難解なのだろうか。けれど、ウインダムを起動させて見せたのが彼女だ。また天才的な閃きで、簡単に再現してしまうのだろう。そんな期待が皆の中にはあった。明るい答えに気合が入ったのか、浩司も腕を回しながら意気込んでいる様子だった。すると結衣は違うと訂正を持ち掛けてきた。
「
「でしょ!」
「わ、私たちのって……」
「始くんもそう思うよねえ?」
「ねえって、始ぇ……」
両腕をホールドされた浩司は狼狽えながら始を見る。その様子に始も思わず吹き出してしまう。
「何照れてんですか、バコさん」
「照れてなんかねえよ……まあ、俺たちの新たな家族ってことで、な? いいだろ?」
「ですね」
「異議なし!」
「私も!」
すると彼は改めて始に、結衣を見る。
「それにしても2人とも、いい顔になってる。お前も何か掴んだって感じだな、始」
「はい。俺が納得するまで、やり切るって決めましたから」
「ハハハッ、そうかそうか。なら頑張れよ!」
わしゃわしゃと始の頭を撫で、浩司はメンテナンスへと向かっていった。少し早歩きだったこともあり、やはり照れているのだろう。
「さ、次は始の番。頑張りな!」
「あ痛っ!?」
背中に晶子の平手が炸裂する。それが彼女なりの檄の飛ばし方なのだろう。でも、だからこそ改めて始は気合が入るのだった。恋の抱えたものを、必ず解決させるのだと。
決意を伝えるように、始は今一度、新たな家族……ウインダムへ言葉を投げるのだった。
「よろしくな! ウインダム!!」
第38話 エピローグ
不思議な出会いと戦いを終え、再び戻った日常。代々木公園でランニングを行っているのは、沼津から戻ってきた始だ。規則正しい呼吸音と、地面蹴る音が心地良い。目の前に迫ってくるのは今日のゴール。己の設定した目標を走り抜けば、今日の日課は終わりだ。
「はあ……はあ……はあ……」
息を整え、昂った心音を落ち着けようとすれば、背後から声が聞こえてきた。
「始くん!」
「かのん!?」
トレーニング着姿、そして息切れをしてる様子から彼女もランニングをしていたのだろう。汗を拭いつつ、始の元へ駆け寄ってくる。
「どうしたんだよ。今日は練習ないはずだろ?」
「なんか家にいたら落ち着かなくなっちゃって。お店はお母さんとありあが居るし。ってそれを言うなら始くんもでしょ?」
「俺は……家にいたら落ち着かなくて……」
「なんだ、私と一緒じゃん」
どちらも同じだった。己の中にあるその気持ち。その発散先を走る事に回していただけ。偶然会ったというのに理由まで同じとは……。その事に自然と笑みが溢れた2人。
「よいしょっと!」
「おい、走ったらストレッチだろ!」
「もう固いなぁ~。そんなこと言わない……で!」
「おわっ!?」
ドスン、と鈍い音がした。寝転がったかのんは始の腕を引いた。そして彼は思わずバランスを崩して仰向けに寝転ぶことに。でも、悪い気はしなかった。かのんと共にそうしている時間は、とても居心地がよかったから。
「綺麗だね」
「走った後だから、尚更そう見えるのかも」
真っ青な空が視界を埋め尽くした。その青さから無意識に連想したのか、熱を帯びた体が徐々に冷めていく気がした。そこからどれくらいの時間そうしていたのだろうか。気付けば息は整っているし、汗も引いている。すると徐にかのんが口を開いた。
「沼津、大変だった?」
「え? うーん、一時はどうなるかと思ったけど、ウインダムとウルトラマンが何とかしてくれた」
「へぇ〜。そうそう、なんだっけあの特空機……っとぉ……」
「ウインダム?」
「それそれ。セブンガーとは違う可愛さがあるなってみんなと話してたんだ」
ウインダムも概ね好評の様子。特空機はどこか愛嬌があって市民からの反応が良いと笑っていたのは結衣か……それとも正太だったか……或いはどちらもか……。正直どちらが言っても納得できるからか記憶が曖昧だ。
「確かにそうかも。ウインダムはまた違った可愛さがあるな」
「始くんはどっちが好きなの?」
「俺? う~ん……」
そこから、始はどっちの特空機が好きなのか、逆にかのんはと話を広げていった。そして沼津のスクールアイドルのこと、彼女らの輝きについても。
「Aqoursに浦の星か……クゥクゥちゃんが喜びそうな話だね!」
「だろ? けど、クゥクゥが居なかったら知ることはなかったんだよな」
「感謝しないとね」
「うん」
そして話は恋と学校の事へと移る。恋の母親、花が学校アイドル部を後悔しているのではないか。そして学校の方針が変わってしまうのではないかという事。それらは全く解決のされていない大きな壁であった。以前の始だったら、表情を曇らせ迷っていただろう。でも今は違う。出会いと助言に背中を押された今なら、その困難も乗り越えられそうな気がする。
「私ね、葉月さんにはああ言われたけど、やっぱり諦めたくない。後悔してるなんて、そう思いたくないんだ。だってスクールアイドルの先輩ってことでしょ? 私はクゥクゥちゃんに誘われて、今こうしてスクールアイドルをやっている。だけど後悔なんてしてない。私たちの先輩なら絶対、私と同じ気持ちだって……そう思いたい」
始は彼女を見る。体育座りとなっている彼女は遠くを見ている。でも、その瞳から強い意志を感じ取ることができた。彼女も彼女なりの答えを見つけていた。やはりかのんは凄いなと、始は勇気付けられる。そして彼もかのんと目線を合わせ、決意を語る。
「俺もだよ。葉月さんには悪いけど、最後まで向き合いたい。知らないふりは絶対にしない。それに俺は……俺が納得するまで探し続ける。きっと後悔していないって俺もそう思うんだ。0になることは……積み上げたものが消えることは決してないんだって。そう証明する」
「フフッ、それでこそ始くんだね」
「え?」
間の抜けた声で聞き返す。するとかのんは嬉し気な顔をして言うのだ。
「どこまでも真っ直ぐで、前を向いている……それでこそ始くんだよ!」
途端、なぜか体温が急に上がってくるような気がした。だからなのか、話を強引に切り替えてしまう。
「……! そ、そうだ。お土産買ってきたからさ、明日みんなで食べよう」
なんで食べ物の話なのか。無意識に出た言葉に心の中で悪態をつく。しかしかのんには怪しまれていないようだった。
「ホントに! 楽しみにしてる!!」
「……かのんの口に合うかどうかはわからないけど」
無意識に頬を掻きながら溢した言葉。それは照れからなのか。今の始にはわからない事だった。が、そんな空気もかのんの一言で終焉となった。
「それ私の舌が肥えてるって事?」
「いや違っ、んなこと言ってねーし! てか自分で言ったってことは、自分でも肥えてるって思ってたって事だろ!」
「そ、そんなんじゃない!」
先の雰囲気はどこへやら。けど、2人の気持ちは同じ方向を向いていることは間違いなかった。