Superstar-Z   作:星宇海

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第39話 遺された想い

「神宮音楽学校の記録?」

「はい。保管してあるものを見たいのですが」

 

 始とかのんは、早速許可を貰わんと理事長室の扉を叩いた。藪から棒に一体何なのかと言いたげな理事長へ、説得を試みる2人。しかし反応から察するに却下されてしまいそうだった。だから始は隠すことなく、理事長に訳を伝えた。

 

「神宮音楽学校時代に活動していた学校アイドル部。その活動記録を探したいんです」

 

 一瞬、理事長が息をのんだことがわかった。先ほどの重たい空気から、流れがどことなく変わった気がする。ここがチャンスだと彼は続けて言葉を連ねる。

 

「学校の運営方針、そして母親の事……それで葉月さんは悩んでいます。だからこそ、学校アイドル部の活動記録を探し出したいんです」

「学校のこれからについて、私たちも……葉月さんと一緒に向き合いたいんです!」

 

 彼らから学校アイドル部(その言葉)が出るとは思わなかった。恋が話したのだろう。スクールアイドルとして活動を行っている彼女たちにとって、そして同じこの場所で学び、励んでいる者として、彼女は先輩だ。そして恋から始まった音楽科と普通科の現状……どうにかしたいと思わないわけがないだろう。しかしだからと言って、簡単に託すわけにはいかない。理事長は始たちに問いかけた。

 

「見つかる保証はあるの?」

「正直……ありません。でも、俺もかのんも何もしていない。探しもしないでなかったと決めつけたくはない。俺たちが納得するまで探して……それでもなかったら諦めます」

 

 そんな確証もない行動に、易々と許可を出すわけにはいかない。彼らが面白半分ではない事は十分に伝わってくる。しかし、それだけでは足りない。だって実の娘の恋が見つけられなかったのだ。彼らよりも気持ちも覚悟も違う。だからこそ恋は、この現状に1人で藻掻いているのだから。

 

「でも俺は知っています」

「何をですか?」

「築いてきたものは、決して0にはならないってことを。悔しかったことも、悲しかったことも……そして楽しかったことも全部が全部……大事なことなんだって」

 

 しかし、曇りのない彼の目に……彼ら2人の目に賭けてみたくなった。今を生きるスクールアイドルと、それを支えんとする彼に。()()()()()()()()彼のような存在に。

 

「「お願いします!」」

 

 頭を下げる2人。いつもの間にか溜め込んでいた息を吐き、再度尋ねる。正直形としてではあるが。

 

「午後は全校集会ですよ?」

「それまでには返しに来ます」

「必ず返します。ですからどうか……お願いします」

「……散らかさないように」

「「ありがとうございます!」」

 

 許可が下り、一目散に資料室へ足を運ぼうとする2人。すると理事長に、始のみが呼び止められた。校則違反をした記憶はなく、呼び止められる理由は見当たらない。かのんに先に行くように伝えた後、部屋の中には先と同じ静かな空気が流れる。

 

(校則違反はしてないよな……ってまさかストレイジの事か!? 隊長……上手く言っておくって言ったじゃないですか!!)

 

 呼び止められる理由に当該するものが1つあった。しかしそこは正太が「上手くやる」とか言っていたため完全に任せていた。しかしあの隊長の事だ。()()()()はそこそこ腹黒い。なにか仕込んでおいても不思議ではなかった。始が心の中で恨み言を呟いていると理事長が口を開いた。

 

「どうか彼女たちの……恋の事、よろしくお願いします」

「……え?」

 

 予想外の言葉に、間の抜けた声が出る。どうして自分に託すような言葉を掛けたのだろうか。彼の脳内は理解が追い付かず、エラー表記で埋め尽くされていた。無論、彼の脳内など見える筈もなく理事長は話を続ける。

 

「彼女たちに一番近い立場である貴方という存在が居れば……何かが変わるかもしれない。あの時とは」

「それは一体どういう……」

 

 優しさが垣間見えた声音は打って変わり、いつもの威厳のある雰囲気に戻っていた。

 

「以上です。ほら、全校集会が始まってしまいますよ」

「やべっ……失礼しました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……違う」

「これも違う」

「当時の部活の記録はあるけど、学校アイドル部の記録だけはないわね」

「こちらにもないデス……」

 

 資料室を片っ端から調べてみるものの、手掛かりらしきものすら出てこない。千砂都、すみれ、可可も探してくれているが、聞こえてくるのは「ない」という報告ばかり。

 

「始くんの方はどう?」

「いや、こっちも書いてない。どこにあるんだ……」

 

 始の左右には山積みの資料たちが。それだけ探しても見つからない。始は困り気味で頭を掻く。いったん情報を整理しようにも時間が足らなすぎる。簡単に見つかるものではないとは思っていたが、ここまで酷いとは。

 

「それでもどこかにある筈なんだ……どこかに……」

 

 けれど諦める素振りは一向に見せなかった。それは彼がまだ限界まで探していないと感じているからだ。まだやれると心が訴えかけているからだ。

 花が当時、どのような想いを抱いたのかはわからない。当初は活動を後悔したのかもしれない。こんな思いをするのであれば、始めからやらなければ良かったと。ここまで行ってきた過程で感じた悲しみや喜びといった様々な気持ち。最初は見向きもされなかったが、徐々に応援してくれる人が増え、ライブを行えば多くの人々が歓声届けてきてくれたこと。応援してくれてのに、それでも結果は伴わなかった。だから悔しくて、申し訳なくて……そんな気持ちになっていたのかもしれない。けど、始が見てきた彼女たちと同じなのであれば……。

 

「どこかにある筈なんだ。俺は……俺はそう信じてる……」

「始……」

「始くん……」

 

 脇目も振らずひたすら記録を探す彼の姿。それは学校の運営方針以前に、恋の気持ちに共感し、手助けをしたいという彼の(さが)であることをすみれは知っている。だから「もう止めよう」なんて言葉を掛けるわけにはいかなかった。彼の確固とした信念……悪く言えば頑固なその性格を千砂都も知っている。困っている人を放っておけない彼の性格を可可も知っている。無意味だとしても最後まで貫き通そうとする彼の姿。誰かの力にならんとするその姿。それにかのんは憧れた。夏空始という存在に勇気づけられ、一同が資料探しを再開しようとしたとの時、入り口から声が聞こえてきた。

 

「何度も探しました。ですが、それだけは記録にないのです」

「葉月さん……」

 

 やはり探していたのか。資料を見る手を止めず、始は恋の声に耳を傾ける。アイドル活動の記憶だけが、数多くあるファイルのどこにもない。それだけが抜き取られたかのように消えている。俯きつつ語る恋はもはや諦めているようだった。しかし、まだ手掛かりはある筈だとかのん達は再度尋ねた。

 

「何か言ってはいなかったノデスカ?」

「いえ……小さな頃聞かされたのかもしれませんが……」

 

 もう何年も前の記憶だ。薄れて消えかかっている。鮮明な描写も言葉も思い出せない。無理に思い出そうとすると、記憶がごちゃ混ぜになり捏造してしまいそうになる。

 

「……っ! ただ……」

「ただ?」

 

 けど、ある言葉だけはまだ覚えている。それはチビが子犬の頃、恋でも抱えあげられるくらい小さかった頃の記憶。その時花は恋に向かってよく言っていたのだとか。

 

「”同じ場所で想いが繋がっていてほしい”……と」

「同じ場所……?」

「だからこの学校を作ったってことだよね?」

 

 神宮音楽学校のあった場所を結ヶ丘として開校したこと。彼女の言葉は既に行動に現れている。千砂都の言葉で再度考え直そうとした瞬間、終了を告げるチャイムの音が。

 

「全校集会が始まります。行かなくては」

「どうするの?」

 

 無論、学校の現状、そしてこれからについてだ。

 

「正直に話すしかないしょうね。いつまで経ってもお知らせしないのは、生徒会長として、学校創立者の娘として失格ですからね。せめてこれくらいは正直に話さなくては」

「いいのか、それで?」

「もう……どうしようもありません」

 

 それ故に一体何が起こるのか、想像のできない5人ではなかった。激しい批判と、残ったわずかな信用の失墜。はっきり言って悪いことしか起きないだろう。それでも覚悟を決めているのは、この学校を守りたいから。母親の残した学校をどうにかしたいからだ。恋の小さくなっていく足音からは不安と諦めといった、悲しい音が含まれているように感じた。

 

「同じ場所か……」

 

 先の言葉が、始の脳内でリフレインしている。神宮音楽学校から結ヶ丘へ。どちらも同じ音楽を主としていた。連想ゲームの如く、広域から狭域へと焦点を絞っていく。

 

「同じ場所……とっ!?」

 

 すると考え込んでいた始は、咄嗟の動きでファイルを落としてしまった。床に落ちたそれを拾い上げると、そこに描かれていたのは校舎の図面だった。どうやら結ヶ丘へ改修する際の設計図面もここに保管しているらしい。

 

「そういえば旧校舎はあまり弄ってないんだっけか?」

 

 頁を捲っていく。旧校舎については耐震改修などを主に行っているようだった。教室を広くするといた大幅な工事は行わず、なるべく当時の教室をそのまま使えるようにしている。さらにページをめくると、部室棟の記述へと移っていく。

 

「そういえば……」

 

 そして彼の頭に浮かぶのはいつも足を運んでいる部室。そう言えば、学校アイドル部なんて室名札がついていたなと思い出した途端、パズルのピースがはまる様に、何かのスイッチが押され電源が入る様に……思考がクリアになると同時に答えへの道筋が鮮明となっていくのを感じた。

 

「部室……」

「部室? 始、それどういう事?」

 

 すみれに聞かれ、始は己の推測を口にする。これだという確信が彼にはあったからだ。

 

「同じ場所……あの部室は学校アイドル部でも使っていた。あの部室で、自分と同じような活動をする誰かに……自分たちの記録を預けたんだ。積み上げてきたものは確かにここにあるって、無駄なんかじゃなかったって。同じ学校アイドル……スクールアイドルの誰かに……同じ想いが繋がってほしいって……!」

 

 同じ場所に……つまり部室に置いたのはそれほどその活動が、その軌跡が輝いていたから。限られた時間で精一杯輝くことのできる学校アイドルが輝かしいものだったから。Aqoursや浦の星の生徒が校舎に描いたように、それが消えてなくなることはないと知っていたから。その道筋も大事な思い出なんだという事を未来の誰か……即ちかのん達のような存在に見つけてほしかったからだ。

 

「かのん、部室のカギ持ってるか!」

「うん、葉月さん待って!」

 

 意思疎通でもしているのか、始が何も言わずともかのんは廊下を歩く恋を止め問う。以前貰った部室の鍵。そしてそのリングに通されたもう1つの鍵について。

 

「この鍵、葉月さんが渡してくれたよね?」

「え、ええ。理事長が見当たらないというので、家を探したら私の机から」

 

 何故、恋の机の中に鍵があったのか。何故鍵は2つあるのか。確信に近づきつつあることを察した始もかのんも、最後まで聞き取ることなく足早に部室へと向かっていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 心臓の鼓動が早まる。それは確信に近づく故の緊張か。それとも急な動きにただ単に体が対応しきれていないだけなのか。彼らの行動に戸惑うのは恋だけではない。千砂都達もだった。彼らの後を追うように、急いで資料室を後にする。

 

「夏空さん、澁谷さん……ってみなさんも! 廊下を走ってはいけませんよー!!」

 

 生徒会長の目の前で校則違反をしたが今は緊急時だ。後で反省文でもなんでも処罰を受けるつもりだ。ただ今だけは、悠長に歩いている余裕はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 部室の扉を開け、飛び込むように入った2人。そんな彼らを追うように、すこし遅れて千砂都達が合流する。

 

「かのんちゃーん!」

「始ェ~!」

 

 部室に3人が着くや否や、始は千砂都たちへ訪ねた。

 

「最初、この部室に来た時にはなにがあったか覚えてるか?」

「特にハ……」

「ここにあるの?」

「わからない……でもここに……このどっかに……!」

 

 不安気、若しくは半信半疑な表情で見つめる。ここに来た時、何があったかはそこまで鮮明に覚えてはいない。けど、そのどれもが特段何物でもないただのガラクタであった。だからここにあるとは到底思えなかったのだ。すみれの問いに始はわからないと答える。しかし答えはこの部室の中に眠っているのだと、彼の直感が告げている。あの内浦での出会いが告げている。

 

「始くん、こっちはどうかな?」

「探してみよう!」

 

 次に扉を開けたのは物置だ。段ボールが積まれ、埃除けのシートが丁寧に被されている。一見すると学校用具をただ詰め込んだだけのそれにしか見えない。

 

「そこには何もなかったデス」

「ただの物置だよ……」

 

 千砂都は声を震わせている。そこには何もないことを知っているからだろう。もう時間もないため、不安だけが3人を襲っている。しかしそれでもと、始とかのんだけは真っ直ぐな瞳で答えを探し続けていた。

 

「ただの物置だからこそ」

「何かが……何かがここに……!」

 

 互いに憧れを抱き、互いの力になろうとする2人の瞳は、奥に押し込まれた棚の中で静かに眠る木箱を発見した。段ボールの群れの中で唯一、鍵穴を持ったそれを引っ張り出す。

 

「始くん」

「その鍵で開くはずだ」

 

 恐る恐る鍵穴へ鍵を入れる。すると、子気味の良い音で開錠される。その中で大事にしまわれている物を見て、かのんは嬉しさの声を上げ、同時に彼へ抱き着いた。

 

「あった……あったよ始くん!」

「ああ! あったな! やったよかの……っ!?」

 

 しかしその状況下に始は目を白黒させる。何せかのんが自分の肩に腕を回しているのだから。始はさらりと距離を離し、状況を落ち着かせる。状況というよりは自分自身をだが。

 

「よ、よし……これをもって葉月さんのところに急ごう!」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 一方、体育館では既に全校集会が始まっていた。開催の迫っている学園祭、そしてその後の話。話したくない事ではあるが、自身の役目として、与えられた責務として全うしなくては。そんな義務感……もはや強迫観念にも似た感情が、恋の重い足を動かしていた。一歩一歩が重く、息も満足に吸えないような錯覚。

 

「今後の学園祭の事についてお話しする前に……先日、私の発言によって学校を混乱させてしまったことを謝らせて下さい」

 

 すみませんと、頭を深々と下げる。不快に感じた者、怒りを抱いた者がいたことは重々承知している。しかし、恋は知ってほしかった。この結ヶ丘という学校の良さを。その想いだけは皆と何も違わない。ただただ純粋なものだった。それだけは訴えたかった。でも……彼女の声は、普通科の生徒の声にかき消されてしまった。「今さらそんなの関係ない」とでも言いたげなその反応に、恋は言葉を詰まらせた。

 

「学園祭に参加できるんですか!?」

「音楽科でなくても歌いたいです!」

「ぼくたちにチャンスはないんですか!!」

「音楽科だけなんて酷すぎます!」

「差別だー!」

「撤回してください!!」

 

 その声に混じって聞こえてきたのは、「スクールアイドルはやはり活動禁止なのか」という問いかけだった。この新設校の中で一番結果を出し、一番名が知れている部活だ。だというのに禁止にしているのは何故かと、生徒たちが声を上げている。

 

「それだけは……」

 

 それだけはどうしてもダメなのだ。何故なら……何故なら記録が───

 

「ちょっと待ったー!!」

 

 殺伐とした体育館に少年の声が響く。

 

「ん? あれ始じゃん!」

「それと……」

「かのんちゃん?」

 

 静寂の中、息を切らしながら精一杯の声を張る。先ほど部室へ走り去っていった男子生徒……夏空始は、恋に向かって尋ねた。

 

「俺たち……いや、かのん達から葉月さんに話したいことがあるですけど……いいですか?」

 

 戸惑いを見せる恋の代わりに、理事長が許可を与えてくれた。始はかのんへと話しかける。

 

「じゃあ、後は頼んだ」

「ここまで始くんもやってきたでしょ!? 最後まで一緒に……」

「スクールアイドルとして、ここは葉月さんに声を掛けるべきだ。俺が出張る場面じゃないってこと。な、頼む!」

「もう……わかったよ」

 

 始に背中を押され、かのんはステージへと昇っていく。その間、声を発するものは誰一人いなかった。息をのみ、この行く末を見守ってくれているのだ。

 ステージ上で向き合うかのんと恋。するとかのんは手に持ったノートを彼女へ見せる。古びたキャンパスノート。そこには”神宮音楽学校 アイドル部”の文字が。

 

「それは……!」

 

 かのんはマイクを手に取る。この誤解を終わらせるために、恋を悪者にしないため全員に話を聞いてもらうために。

 

「さっき、私たちの部室でこのノートを見つけました。この学校の前身。神宮音楽学校の生徒たちが書いたものです」

 

 廃校を阻止するためにアイドル活動をしていた当時の生徒。その誰かが書き記した一部をかのんは読む。アイドル活動をしたけど、結局学校はなくなってしまう……と。過去の記録はあっても、結局憂う気持ちを記していたのかと恋は肩を落とす。が、かのんはまだ続きがあると恋を覗き込んだ。

 

「『でも、私たちは何一つ後悔していない』」

 

 後悔はしていなかった。何故ならアイドル活動を通じ、学校が1つになったからだ。音楽を通じて、多くの人たちと結ばれたから。そしてその果てに、最高の学校を作り出すことができたからだ。

 かのんの言葉が母親の声で聞こえてくる。恋は自然とノートを手に取りページを捲った。するとそこには母親を含むアイドル部のメンバーの写真が。発足したてで、何をし何をするのかわからない。だけどやる気と希望に満ち溢れたアイドル部の記念写真。仲間と切磋琢磨した練習風景。初めてで不安しかなかったが、仲間とならなんだってやれる気がしたファーストライブ。そして学園祭でみんなと結んだアーチ。そこに貼られてある写真は、どれもが笑顔で輝いていた。ステージに立ち、仲間たちと光り輝いていた。

 

「一緒に努力し、一緒に夢を見て、一緒に一喜一憂する……。そんな奇跡のような時間を送ることができたから。だから私は、みんなと約束した。”結ぶ”という文字を関した学校を同じ場所に、音楽で結ばれる学校をもう一度必ず作ることを!」

 

 その活動が、その思い出がとても強く残り続けてきたからこそ、彼女は再度結ヶ丘を開校することにした。そう。アイドル部の活動を後悔しているなんてことはなかった。むしろその活動が、結ヶ丘の根底に強く……強く結ばれていたのだ。

 

「葉月さんのお母さんは、音楽で結ばれることを望んでいた。普通科も音楽科も、心が結ばれている学校」

 

 音楽科と普通科の溝があったこと自体、間違いだったという事だ。その言葉を聞いて、生徒たちは自身の心に再び問いかけた。今までの自分は、そのような望みに応えられていたのかを。

 

「スクールアイドルは、お母さんにとって最高の思い出だったんだよ!」

 

 かのんの言葉が、幼き日の恋の記憶とオーバーラップした。記憶の中にある花の笑顔もノートにある写真と変わらない、眩しいほどの笑顔だった。

 

「お母様……」

 

 絞り出すように呼ぶ恋。愛しい母親の記録に、願いに触れたことで大粒の涙が頬を伝っていく。さらに、可可が恋にとあるものを差し出した。

 

「これも一緒に入ってマシタ」

 

 それは花がアイドル活動をしていた時、実際着用していたステージ衣装だ。手にすることはないと思っていた母のレガシーに触れ、恋の感情はあふれ出した。今はそれで良い。彼女が抱え込んでいたもの、諦めていたものがあったとわかったのだから。だから今だけは、彼女が泣くことを誰もが許していた。

 

「やった……やったな……。はあ……やりましたよ」

 

 その様子を後ろから見ていた始も、へたりと座り込んだ。彼女の気持ちが救われたことに安堵したからだ。そして柄にもなく彼も涙を流しているようで、手で目の部分を覆う。

 

(フユさん……同じでした。同じ想いでした……!)

 

 ここまで諦めずに食らいつけたのも、あの出会いがあったからだ。彼女がヒントを教え、背中を押してくれたから。彼は心の中で、彼女へお礼の言葉を述べるのだった。

 

 

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