また活動報告にてある報告がございますのでご一読いただければと思います。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=331193&uid=128401
第44話 僕らの名前って、なに?
「地球はもうすぐ生まれ変わります」
都内某所の教会で、フードに包まれた司祭の声が響く。静けさが満ちた空間で伝播するその声は低く、それでいて体に力強く染み渡る。染み渡った声は非常に強い安心感を抱かせてくれた。彼に……否、■■■■■を信じれば、自分も救われる。こんな混沌とした世界から……解放してくれる。
「聖なる炎が……穢れを焼き払ってくれるのです」
祈りを捧げる信者たち。その装いは皆バラバラだ。無理もない。だって彼らは日々働き、日々暮らしている……どこにでもいる普通の人々なのだから。でも1つ共通点があるとするなら、天使の羽を着けたり、天使の人形を持っていたり……”天使にまつわる何か”を必ず持っているということだ。この場にいる誰もが恐怖に晒されている。不安に呑まれている。いつ現れてもおかしくない怪獣に。文化や生存様式、そして根本的な在り方すら異なる異星人に。そしてまたいつか突然去ってしまうかもしれない……光の巨人に。
「■■■■■は……決してあなた方を見捨てません」
司祭は信者の頭を撫でる。静かに、そして優しく。一声で誰かが泣き崩れた。安心で感情が溢れたのだろう。それでも良いと司祭は囁く。
「■■■■■が……あなた方を必ず導いて差し上げます」
祈りは続く。誰も顔を上げることはない。誰も疑うことはない。彼らは微動だにせず、祈りの言葉を繰り返す。でもそれはもはや祈りではなく……呪文のようにも聞こえ、教会という小さな世界を侵食していく。そこにあるのは静けさと……陶酔にも似た狂気だけ。その中心にいるのは優しさという仮面を被る……黒い何かであった。
これは、序章にすぎない。
この世界に生まれた小さな星たちと、この地に降り立った一筋の光。それらが紡ぎ出す……新たな夢と、未来へと駆け出す物語の。
*****
「ラ、ブ、ラ、イ、ブ……!」
大盛況だった学園祭の楽しさと成功に包まれた高揚感。心地の良い疲労感が薄れてきたのもつい先日。結ヶ丘高等学校はいつも通りの生活へと戻っていた。放課後の校舎に、静かな時間が流れている。
恋を入れ6人となったスクールアイドル部は、部室でちょっとしたミーティング。その回の主は可可だ。彼女はホワイトボードにペンを走らせ、あるイベント名を書き込んでいた。彼女にとっては思い入れがあるのだろう。文字をカラフルにしつつも、丁寧に大きく書いていた。
「のエントリーが始まりマス!」
「ラブライブかぁ~」
「他の部活で言うところの全国大会みたいなものだよね?」
千砂都の言葉に可可はそんなありきたりなものではないと否定する。ラブライブはその大会の度、幾つもの感動と奇跡を起こしてきたスクールアイドル達にとっての夢と魂、命の源……なのだとか。後半2つは真偽のほどは不明だが。
「実際に大会で有名になったことで、入学者がすごく増えた高校もあるとか……」
「それに廃校のピンチから一気に有名になったり、学校の名前をしっかり残した高校もあったり……とかな」
「お~、始もしっかり勉強してマスネ!」
「まあな。マネージャーだからな」
というのも、彼は沼津でのとある出会いの後、再度Aqoursというスクールアイドルについて調べたのだ。そこには大会を優勝したことと、そして学校の名をしっかりと刻み込んだことが記してあった。それを見つけた時、なんだかとても勇気付けられた。それが原動力の1つとなり、生徒会長選のいざこざを解決するのに繋がったのだ。
またラブライブに出場し有名になれば、結ヶ丘も例に漏れず入学希望者が増える筈だ。優勝を目指す部活の側面と、学校の認知度。どちらを見ても大会に出て不利益なことはないだろう。
「たかがアマチュアの大会で?」
だがすみれはその話を信じ切れていない様子。いつもなら食って掛かりそうな可可だったが、すみれの反応は想定済みらしい。即座に部室を暗くし、引き上げ式スクリーンに何かを映し出した。
「どっから持って来たんだよ……」
「今は使わないからって先生から借りてきたらしいよ」
「用意が良いなホント」
千砂都と始の会話には目もくれず、可可は話を続ける。
「これが今年の……決勝の会場デス!!」
「すごい……」
「こんな大きなところなの……!?」
千砂都とかのんが狼狽えるのも無理はない。そこはスポーツの祭典や世界大会は勿論、超一流アーティストがライブを行うこともある特別な場所なのだから。
「ついについについに……コノ神宮競技場で行われるコトになりマシタッ!」
「ここまでやるなんて……ラブライブってすげーな」
さらに神宮競技場は別の意味でも有名なのだ。
今から3年前───地中から発掘された2つのカプセルが、異星人の犯罪集団によって盗まれた。その後分け前で揉めたらしく、強力な電撃を発生させる火器で撃ち合いにまで発展した。その際の事故でカプセルが崩壊し、運悪くその電撃がトリガーとなって活性化。やがて
互いは街中で激突。ビートル隊、そしてロールアウトしたばかりのセブンガーを含む防衛隊の総戦力が投入され対処にあたった。しかし任務の途中、2体が持つ毒素の危険性が判明。迂闊に手を出すことができず、討伐に時間がかかってしまい被害は拡大の一途を辿った。その被害のひとつ……それが神宮競技場の大破壊である。最終的には毒素に対し何重もの対策を講じた上で、バニラとアボラスは防衛隊の決死の総力戦、そして2体の相打ちによってようやく鎮圧に成功したのだった。
カプセル盗難から始まった2匹の怪獣の蹂躙。多くの被害をもたらし、国民誰もが知る建造物の大破壊。歴史的な怪獣災害となったそれは、後に新聞や報道で8年前の再来とし”悪魔ふたたび”という触れ込みで人々の脳内に記憶されることとなった。
「ここで……」
良い意味でも悪い意味でも記憶に刻まれている神宮競技場。
そこでパフォーマンスができる可能性に、すみれは胸を躍らせた。競技場を埋め尽くす人々と眩い光……そして熱狂的な歓声。それらは全てすみれへと向けられている。堂々と歩く姿はまさにスター。彼女はアリーナにやスタンドに向かって叫ぶ。「ギャラクシー!!」と。
「うひひっ……幼きあの日から夢見てきた……スポットライトを浴びる瞬間が……!」
とはいってもそれは全て妄想だが。
「そんな簡単に
「す、スットコ……!?」
「流石に言いすぎだぞ可可……」
「始、甘やかしは厳禁デス!」
「えぇ……」
彼女の長年の夢ともいえるものであったが、今はまだ夢の話。スクールアイドルの力量を図り損ねているすみれに対し、可可は辛口な言葉と表情で一蹴する。あんまりな言われようにすみれは言葉を繰り返すのみ。
「一体、どういう事でしょうか?」
「あれ……恋ちゃん……?」
「な……なんです!?」
「恋ちゃん……なんか違和感が……」
「むむむ……」
かのん達はその違和感の謎を探るため、ひたすら恋を見つめた。ジロジロと見られている当の本人は羞恥や戸惑いでいっぱいだろう。自分から言えばいいのに……というのはこの際に至っては無粋といえよう。
「あー! 制服!!」
「そうだよ! 普通科の制服!!」
恋が着ていたのはこれまでの白いブレザータイプの制服ではなかった。普通科の生徒が着る灰色のジャンパースカートにネイビーブルーの上着を羽織った制服であった。
「まさかあんたまで普通科に移ってこようって?」
「でもそんな話は今朝聞かなかったけど?」
「いえ、科によって制服を区別するのでは無く、自由に選択できるようにと理事長から提案がありまして」
誰がどの科なのか、一目で判別できたのが制服であった。しかし同時にそれが、両者の溝を大きくする一因であったことは否定できない。当初から言われていた小さな不満の1つだ。上だとか下だとか、無意識のうちに選民思想を育てていたのかもしれない。そういった不満が溜まり、爆発してしまったのが生徒会長選から始まった一連の騒動だ。しかし制服を自由に選べることによって、見た目で区別するされることはなくなるだろう。恋は代表である者として、一番に制服を選択したということだ。音楽科である恋がとった行動は、その後に続く音楽科や普通科の生徒達も、格段に選択をしやすくなるというものである。
「私も音楽科の制服、作ってもらおうかな」
「今度みんなで着てみよっか!」
「うわー! それ絶対楽しい!!」
かのんと千砂都が話す中で、始もふと思っていた。
「音楽科の制服か……」
白を基調とした制服を着てみる自分も、意外と悪くないのではないかと。
「始さんもどうです? 音楽科の制服」
「そうだな。良いかもしれない」
「始さんなら絶対似合いますよ」
「そ、そうか……へへ……」
「でも着たらすぐ汚しそうね」
「うっ……それは否定できないかも」
異なる制服に袖を通す。考えたこともないそれに話が花咲き始めた。段々と盛り上がっていく様にストップをかけたのは彼女の一声。
「話の話題が逸れてイマス!!」
可可は呆れ気味に周囲を見回し、議題に話を戻す。5人は気まずそうに席に戻って可可の話に耳を傾ける。
「今年のラブライブは難関デス。スクールアイドルの数は留まるところヲシラズ、参加数ハ毎年史上最多を更新し続けてイマス! その中デ夢のステージに辿りツケルのはホーント、一握り!!」
「でも私たちのレベルはそんなに低くないと思うよ?」
毎年参加数やパフォーマンスの最高点を更新し続けるラブライブ。数年……数十年に一度、奇跡のようなステージで観客を熱狂させるラブライブ。
数ある中から予選を勝ち抜き、決勝の会場で事が出来るのはほんの数グループのみ。学校のある数だけ、スクールアイドルが存在する。そう揶揄される近年で決勝に進むことがどれだけ困難なのか、ここにいる誰もがまだ本当の意味では理解していなかった。それは千砂都ですら例外ではなかった。
「かのんちゃんの歌は素晴らしいし」
「ちいちゃんのダンスは大会で優勝できるレベルだし」
「恋ちゃんはピアノやフィギュアスケートをやっていたし」
「すみれちゃんは小さいころからステージ経験が豊富」
「クゥクゥちゃんの熱い想いは何よりの武器だし」
「それを全て活かせる様にトレーニングしてくれる始くんもいる」
ここまでのメンバーが揃っているのだから、優勝はともかく、予選突破は狙えるのではないか。可可を除く誰もが同じ考えであった。けど、けれどそれが可可には余計に燃料を投下することになってしまった。
「甘い……皆サン、甘すぎデス。チョコデスカ! チョコレートナンデスカ皆サンハ!!」
突如彼女は立ち上がり、中国語で荒れてしまう。彼女のキャラ変ともいえるそれに戸惑いを見せる。けど同時に、少し楽観視しすぎたとも反省する。
「取り合えずエントリーはシマスガ、素晴らしい曲と圧倒的なパフォーマンスが必要デスカラ!」
可可がエントリー申請を進める中、話題は曲へと移る。ラブライブは予選から決勝まで新曲のみという決まりだ。それぞれのオリジナリティを重視していることや、そのエントリー条件によってふるいにかける意図もあるのだろう。
「かのんちゃんが詩を書いて……」
「私が作曲ですか?」
「せっかく6人になったんだし、その方が新しくていいと思う」
「ま、まあ出来ないことはないと思いますが」
「流石、恋だな」
「パッと輝く曲でお願いよ」
曲に対する体制も決まりだしたところで、可可が声を上げる。それは先ほどとは違う。か細く愕然とした声であった。
「どうしたよ。今日は感情が忙しいな……?」
「始……これヲ……」
可可のスマホを覗き込んだ始は数秒固まり、息を吐いてかのんたちを呼んだ。
「結ヶ丘スクールアイドル部……」
参加学校名の下に設けてある欄。そこに何を入れるのか、誰もが欄の上部にある記載へフォーカスを当てた。
「グ、グループ名……」
「そういえば私たちって……」
「なんてグループ名なの?」
「……知らない」
結ヶ丘高等学校スクールアイドル部、君たちの名前は……一体何か。これが6人の次なる課題であった。