また活動報告にてある報告がございますので、読んでいない方が居ればご覧いただければと思います。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=331193&uid=128401
「全っ然思いつかないよぉ~!」
グループ名の名を見て固まった6人。その後練習へと向かったのだがグループ名の事が頭から離れず、このままやっても身にならないということで基礎練習のみとし解散となった。
そして翌日。かのん達のクラスで集合となり、改めて名を考えることとなったのだが……結果はかのんの嘆きでお察しである。
「というか決めてなかったの……?」
「”結ヶ丘スクールアイドル”でどうにかなっちゃってたし」
「かのんと可可の時はクーカーでやってはいたんだけどな……」
フェスへの出場から始まり、神津島でのライブや学園祭……。慌ただしく過ぎていった日々の中で行われたライブではそこまでグループ名の必要性がなかったというのも事実。それに初めてのスクールアイドル活動で右も左もわからないまま。そんな中でグループ名を熟考している余裕はなかった。がしかし、ラブライブに出場するとなれば名前は必須。仕方がなかったとはいえ、先延ばしにしていた問題に今ぶち当たってしまったという事だ。
「始の言う通りデス! さらに6人にナッタ今、その発展形トシテ……」
「おいおい、俺は出ないんだから5人だろ?」
「……仕方ないデスネ。じゃあ5人の頭文字をトッテ……」
始を入れてくれるのはありがたいことだが、ステージに立つのは5人。そのことを強調すると可可は一瞬ムスッとした。しかし黒板に書く表情はそれまでの自信に満ちた顔付きであった。表情がコロコロと変わる彼女に、頬が緩む。けれど書き出されたそれには苦い表情を浮かべてしまう5人であった。
「チクレカス……」
「なんかネットスラングみたい……」
「いやアウト」
千砂都、可可、恋、かのん、すみれの頭文字を並べたそれは、ネットの海に漂う俗語の一種のような響きであった。さらに厄介なのは似た響きのネットスラングが軽蔑的な表現であること。流石にこれは表に出せる名前ではない。
「カス……」
「なんデスト!?」
「書いてあるでしょここに!!」
いつものやり取りが発生している後ろでかのんは千砂都へ問いかける。
「ちぃちゃんはなんか思いついたのある?」
「私はやっぱり……まる!」
続いては千砂都が黒板へチョークを走らせる。フリーハンドで書いたというのに綺麗な二重丸。さらにその中にカラフルな”MARU MARU”の文字。
「例えば”まるまるサークル”! サークルってのはまるでしょ? まるとまるが集まって世界はまるで溢れてるんだよ!! 幸せ~」
”まる”について千砂都に語らせれば一日中話してくれる。とある日に始が興味本位で聞いて実証しているのだから間違いない。青い空が気付けばオレンジ色に染まっていた時の出来事は今でも覚えている。
隣で聞く恋は呟いた「丸、ですか……」と。すると横から顔を覗かせる千砂都の話はさらにヒートアップした。
「”まる”は全ての基本! 世界最大の謎であり、全ての始まりなんだ!!」
彼女は例を挙げつつ黒板にイラストを描いていく。マンホール、ボール、水滴、マンマルの目。さらには月や地球、太陽も。
「そうそう、ウルトラマンに渡したあのメダル! あれも”まる”なんだから世界……ううん、宇宙共通! 全ては……まるなんだYO!!」
踏切からの回転。そして自身でまるを示したポーズで表してみせる。ブレのない回転や片足立ちの状態ながらも、片方の足を掴んで丸とさせる柔軟性やバランス力。千砂都の能力の高さが垣間見えるモーションだったのだが誰も気には留めなかった。”まる”の話で意識を持っていかれているからだ。
「……恋ちゃんは何かないの?」
「私ですか?」
「スルー……?」
かのんは千砂都の発言には一切触れず、まるで何もなかったかのように、次に恋へと意見を求めた。そのあまりの素通りぶりに、千砂都は声を震わせている。
「始くんぐらい反応してよ! さすがの私も泣いちゃうよ?」
「えぇ……ホントまるのことになるとおかしくなるよな千砂都は……」
始も千砂都とやり取りをしつつ、恋の方を見る。
「私にはこのようなものは……あまり趣旨を理解していないもので……」
けれど始はさっき、ほんの一瞬だけ見てしまった。彼女がメモ帳にそっとペンを走らせていたところを。何を書いていたのかなんて、聞かなくてもわかる。けど彼女がそれを言いたくないのなら、無理に聞き出すのは違う気がした。勿体ない、とは思ったが、今はまだそれでいいのかもしれない。
「ソウデス! このグループを一番理解しているのはかのんデス!」
「う~ん、それで言うと……ストレートに”結ヶ丘スクールアイドル”とか……」
「つまらん」
かのんの真面目すぎる回答にすみれはバッサリと切り捨てた。
「ねえ……始くん聞いてる~?」
一方、始はこれらの光景をぼんやりと眺めながらこんなことを考えていた。"彼女たちも同じように感じていたのだろうか"と。以前訪れた場所で話を聞いたスクールアイドルのこと。砂浜に書かれていたグループ名のこと。彼女たちもきっと……悩んだり考えたりしながら、自分たちだけの名前に出会ったのだろうか。そう思うと、始まる場所は違っても、スタートはみんな同じだったのかもしれないと思えた。
「始くんは何かある~?」
「え、俺!?」
かのんの声に、ぼんやりしていた思考が引き戻される。とはいえ、始自身もまだはっきりとした答えは持っていなかった。ただ、頭の中に浮かんでいるイメージがある。学園祭のライブのときに見た……あの光景が。
「要素っていうか、イメージ……みたいなものはあるよ。白と……星……みたいな……」
「……白と星?」
「あー、ナシナシ! 忘れてくれ!!」
急に自分でも何を言っているのかわからないし、この空気に耐えられる気もしなかったので強引に話を終わらせる。するとすみれの声が響く。それが助け舟のようにも思えて始は非常にありがたかった。
「だったら私がショウビジズ界でセンスを磨き続けてきたこの私が───「思いつきマシタ!」
すみれの案を最後まで聞くことなく、可可は次なる方法を閃いたようだった。
「ギャラクシィ~~!?」
彼女の悔しそうな声が虚しく響く。
「確かレジェンドスクールアイドルはカツテ……」
今では“伝説”とまで謳われるスクールアイドルたちの話だ。今日のスクールアイドルブーム、そして「ラブライブ」という大会の転換点に立っていた存在。一説によれば、彼女たちの登場を境に、スクールアイドルの歴史は“前”と“後”に分けられるとも言われている。それほどの影響を与えた彼女たちも、最初はグループ名に悩んでいたという。そんな彼女たちがとった方法というのが……。
「募集箱?」
「ソウデス! かのレジェンドスクールアイドルもこのように名前を募集したのデス!」
「本当に集まるかな……」
廊下の連絡用掲示板。その近くに、募集箱を設置していたらしい。その話にならって、さっそく実践してみることにした。とはいえ、本当に誰かが名前を入れてくれるのだろうか。そんな不安が頭をよぎる。
「入ったとしても、ロクなものがなさそうだけど……」
ふざけ半分で書き込む生徒がいないとも限らない。けれど、そこは人の善意に祈るしかない。
「大丈夫デス! こうしておけば、週末ニハ――─!」
――─が、現実は非情であった。
「ないデス……」
「すっからかんったらすっからかんね」
「うるさいデス!」
箱の中には紙1枚も無かった。箱を幾度も振ったが何もない以上出てくることはない。とはいえ、それほどまでに自分たちには興味がないのか。意見箱の結果が不安を煽る。
「もしかしたら、私がずっと反対していたから……」
心当たりがあると恋は表情を曇らせる。以前は恋がスクールアイドルを反対していた。それが未だ生徒達にも影響を与えているのではないかと。けどそれは既に過去の話だ。彼女の想いもステージで歌う姿も、みんなが見ていた。既に誤解は解けているはずだ。千砂都は恋の言葉に反論する。
「それはないと思うよ。学園祭の時に恋ちゃんがどういう気持ちなのかはわかっていると思うし」
「それじゃどうして……」
これまでのライブを見るに、大盛況だったことは間違いない。否定的な意見がない訳ではないとは思うが、概ねみんなが受け入れてくれて応援してくれている。しかしであれば何故、この意見箱には何も入っていないのか。かのんの消えそうな声が廊下に響く。けれどその理由を語れる者は……この場には誰もいなかった。
*****
「動画配信?」
『うん。スクールアイドルって歌とダンスだけじゃなくて、色々なことやってるみたいで……』
夜、メッセージアプリでかのんから連絡があった。その後グループ通話に繋げ、話し合いが行われている。スクールアイドル活動というのは多岐にわたる。SunnyPassionとかのんがグループ名の相談をしていた際、話題となり詳しく聞いたそうだ。多くの人の覚えてもらい応援してもらうにどのような活動を行っていたのかを。
『確かに、私たちは歌を上げているだけだもんね』
『迂闊デシタ……。ついラブライブばっかりに目を奪われテイテ……』
完全に失念していたと可可。知名度を上げることもラブライブで勝ち抜くには必要なこと。しかし何も手付かずの状態であった。
「じゃあ明日はみんなの魅力を伝えるにはどんな動画がいいのか、ってのを考えようか」
『そうだね……ってごめんね始くん。お風呂だった?』
「別に気にしないで大丈夫だって」
『あんた、髪の毛乾かしてるんでしょうね? 風邪引くわよ』
「終わったら乾かすよ」
かのんやすみれがそんなふうに言ったのは、始がバスタオルを頭から被っていたからだ。ストレイジやビートル隊からの報告書、学校の課題などを片付けているうちに、入浴の時間がすっかり遅くなってしまっていた。すみれの呆れ顔に、始は苦笑いを浮かべる。
ともあれ、彼の提案には4人が納得してくれた。だが、イチゴアイコンの彼女だけは、反応を返してこなかった。
「恋、聞こえてるか?」
先ほどまで顔こそは見えなくても、声だけは聞こえていた。しかし今は声すら途絶えている。
『あの始さん……つかぬことをお聞きしますが、動画配信とはなんなのですか?』
始が固まる。始の代わりにかのんが間の抜けた声を出す。
『動画を配るのですか? どこかに?』
『レンレン……マサカ……』
『……知らない?』
『はい……あまりそういったものには近付かないようにと言われていたので』
ネットやSNS、動画といった媒体は手軽にアクセスできる一方、不確かな情報や不適切なコンテンツも多く飛び交っている。そうしたものが恋に悪影響を及ぼすと考えられ、彼女はこれまでインターネットの海に潜ることなく過ごしてきたようだ。となればかのんが言っていた“ネットスラング”も理解していなかったのだろう。少し悪いことをしたかもしれない。けど、彼女ももう分別のつく年齢だ。スクールアイドルとして活動を始めた今こそ、ネット媒体に慣れてもらうには絶好の機会といえる。
「それじゃあ、明日早速やってみようか」
『よ、よろしくお願いします!』
その後、話題は動画の話から少し逸れて、いつものように他愛もない雑談へと移っていく。夕飯の話、明日の授業について、そしてネットで話題の小話など……。恋はそれを聞いてぽかんとしているようだったが、皆が楽しそうに話しているのを見ていたのか、彼女の笑い声も混じっていた。
始はバスタオルを首にかけ、髪を乾かすのも忘れて通話に夢中になっていた。すみれが「ほんとに風邪引くわよ」と呆れながらも、画面越しにドライヤーを持ってくるようにジェスチャーして見せると、かのん達も笑いながらそれに乗っかった。
そんな何気ない会話の数々が、6人の仲をより縮めていくような気がした。
『それじゃ、今日はここまでにしよう!』
PCのスピーカーを通し、かのんの声が通話の締めくくり告げる。するとスピーカー越しに千砂都たちの声が次々に返ってくる。手を振り、カメラに向かってピースサインを送ってくる。恋も『お疲れ様でした』と声を掛けてくれた。始はようやくドライヤーを手に取りながら「じゃあ、また明日」と笑う。画面の中で皆の顔が順に消えていき、始のPCからも通話が切れる音が静かに響いた。
「……」
部屋に戻った静けさの中、始はふと天井を見上げる。さっきまでの賑やかなやりとりが、まだ耳の奥に余韻として残っていた。しかし次の瞬間、彼の表情が切り替わる。ドライヤーのスイッチを入れて髪を乾かしながら、手早くUSBメモリを挿し込む。ストレイジから支給されたそれは、何重ものプロテクトが施された特別なものだった。
「
それは最近信者を急速に増やしている宗教団体の名だ。今のところ表立って怪しい行動をしている訳ではない。しかし「ウルトラマンこそが真の悪魔である」と堂々と謳う光景、そして団体全体に漂う不透明さが、正太の勘に警戒信号を灯したらしい。
それは始も同様である。「ウルトラマン~」の部分も滅茶苦茶気になるが、その名は沼津でも耳にしたことがあるからだ。東京だけではなく、広範囲に浸透しつつあることがうかがえる。表向きは救世などを教義に掲げながらも、裏では何か別の目的が動いている。そんな気がすると……胸の中で静かに鳴り響いていた。
「なにが目的なんだ……」
彼は資料を閉じると、カーテンを開けて窓の外に目を向けた。空は暗く、見えるのは光に照らされる建造物たち。さらに窓を開けると夜風が部屋の中に入ってくる。夜の街は静かで、何事もないように見える。
「何が起きようとしてるんだ……この世界で」
かのん達と生きるこの世界。スクールアイドルに対する課題で思い悩む世界。それはある意味平和の象徴ともいえるものだ。だがその静けさと平和の裏に……何かが蠢いているような気がしてならなかった。