年末は終章まで走り切りたくて何もできてませんでした。
「どう、配信できそう?」
「まだ。ってかこれ初期設定済んでないし」
翌日、早速部室で配信を行う事としスマホの配信アプリを立ち上げて準備を進めていた。とは言っても勝手などよく知る訳がなかった。見ることはしても、やることはないからだ。だから調べながら、試しながらとなってしまう。そのため時間が掛かってしまっているのが現状だった。難しい顔の始はすみれへ呼びかける。彼女であれば、何かしらを知っているのだと踏んだのだろう。
「すみれ、やり方知らないのかよ。ショウビジネスの世界にいたんだろ?」
「任せなさい! ……とは言いたいけど、流石に配信のやり方は知らないわ……」
「まったク、頼りにならないデスネ」
「何よ!!」
また始まった2人のやり取りに溜息を吐く始。こうなったらしばらくは2人には頼れない。眉間に皺を寄せながら、配信の準備を進めていく。
「これが動画配信ですか……」
「そうだよ。これで動画撮影して、それを世界中の人に見てもらって結ヶ丘のスクールアイドルを覚えてもらうの。そしたら、きっといい名前が集まるんじゃないかって思う」
何も知らないため恋に、かのんは動画撮影の意図を再度説明する。さらにどのように配信を行うのかも丁寧に伝える。彼女は例としてよく見る音楽系配信者や、可可から教えてもらったスクールアイドル専門チャンネルを見せた。
「始くんはどんな動画見るの?」
「俺か? まあ広く浅く色々見るよ。けど最近のお気に入りは……これ」
準備も終わりに差し掛かり、ある程度余裕が出てきた彼は千砂都に最近見ている動画チャンネルを見せた。
「SSP……?」
「そう。色々な怪奇現象を調べて解明……しているかはわからないけど、まあそんな感じのチャンネル」
SSP……正式名はSomething Search People。高校の先輩後輩3人組によるチャンネルで、「世界のミステリーや怪奇現象を解明すること」をモットーに掲げているようだ。現在は怪獣やストレイジ、ウルトラマンゼット関連の動画が多く、再生数もそこそこ伸びている。
「なんか危なっかしいチャンネルだね……」
「まあガセネタ、炎上、無断転載される、実況がうるさいとか色々あるしね」
「本当に大丈夫なのそのチャンネル!?」
否定できず苦笑いを浮かべる始。さらにビートル隊やストレイジもこのチャンネルの存在を把握しており、度々通告しているらしい。正太はこの話題が出るとなぜか苦い顔をする。理由を聞くと高校時代に彼女らを見たことがあるらしいのだ。知り合いがこのようなことをやっていれば気まずくなるというのは理解できる。
「でもそういった配信のお陰で、避難してくれる人もいるから強く言えないんだって」
「配信のお陰で助かっている人たちもいるんだね」
「らしいよ。けど不思議なのはビートル隊がたまに出てくることなんだよな……」
SSPの動画には時折、ビートル隊情報特務隊の隊長が登場する。理由は不明で、ネット上では様々な説が囁かれている。血縁関係があるのではないか、配信の中止を訴えに行ったら成り行きで出演させられたのではないか、あるいは民間からの情報を秘密裏に収集するためではないか……などといった説がネットの海には飛び交っている。
「動画に出演して、みんなに知って貰うため……とかかな?」
「いや、でも誰だって知ってる巨大組織だぜ? 今更そんなことはしないだろ」
「そういった動画に出演し、より身近に感じてもらうため……でしょうか?」
「「「あー……なるほど」」」
会話に入ってきていた恋の一言に、始と千砂都そしてかのんは同時にうなずいた。
「……っとそうだった。設定は済んだよ。これでいける筈だ」
「ホント! ありがとう始くん。それじゃ早速やろっか!」
「わ、私はまだ心の準備が……」
「まったく、待ちくたびれたわよ始!」
「グソクムシは撮らなくていいデスヨ始ー」
「なにをぉぉぉ!!」
準備ができてという事で、部室の空気が一気に賑やかになる。浮き立つ雰囲気の中に口元を緩ませる始。とはいえ、いざ「どのような内容で始めるのか」となると頭を悩ませる。諸々の手順を踏み、「最初の一歩」を探しているその時……始のスマホが唐突に鳴り響いた。
「隊長から……?」
始は画面を見て眉をひそめ、すぐに真剣な顔つきに変わった。何故なら正太は滅多なことで電話をかけてくることはない。それは、始が学校生活を平穏に、伸び伸びと送れるようにという正太なりの配慮でもあった。正太自身は青春を知らない。知る環境に恵まれなかったし、その場に身を置くことも選ばなかった。だが、彼の相棒……いや、腐れ縁とも言うべき存在は違う。彼は普通の生活を送り、心から信頼できる仲間を得ることができた。その絆こそが脅威を退ける力の源となっていた。だからこそ正太もそれを尊重しているのだ。
「始くん、後は私がやるよ」
「ありがとう。じゃあかのんに任せる」
短くそう告げると、始はスマホを耳に当てて立ち上がり部室を後にした。
「隊長、どうしたんですか?」
『始、部活中に悪いな』
「……なんで部活中だってわかるんですか? 監視ですか?」
『ちがーう。時計を見れば「あ、今は部活の時間だな」ってわかるだろ。結衣みたいなこと言わないでくれ』
実はこれ、結衣から教えてもらったことである。いつかやってくれとの彼女から頼みだったのだ。気は引けたが先輩の頼みだ。仕方ない。などと言い訳をしつつ投げ掛けた言葉。彼の反応から結衣とのやり取りは苦労していそうなどと察する始。そんな隊長と部下とは到底思えない軽口の応酬の後、スピーカーから響くのは真剣な声音であった。
『結衣から連絡があった。その近くで不穏な反応が検出された』
正太の報告によれば、都内にて通常では検出されないパターンが確認されたらしい。警戒の色を隠さず、近場にいる始へ声を掛けたのが現状だ。しかし始も学校に通う身。しばらくは晶子が調査を引き受けてくれている。晶子からの定期報告も「異常なし」とのこと。
正太からの話によれば、都内である反応があったとのこと。普段は検出することのないそのパターンに警戒の色を見せ、近場にいる始へ声を掛けたのが現状だ。しかし始は学校。しばらくは晶子が調査を引き受けてくれている。彼女からの定期報告も今は異常なしとのことだ。「ならばすぐ行かないと」そう言いだすであろう始が性格を察してか、正太のフォローが入る。
『急かしている訳じゃない。それに反応もそこまで大きなものじゃないしな。……ただ、後々調査に参加してほしいという事を伝えたかったんだ』
彼の言葉に始は小さく息を吐いた。すぐに駆け出したい衝動を抑えつつ、彼の配慮を汲み取って彼は短く答える。
「……了解しました。部活が終わり次第、合流します」
『そうしてくれると助かる』
スピーカーの向こうで正太がわずかに笑った気がする。軽口と真剣な口調の交じり合ったやり取りは、静かに終わりを迎えたのだった。
「さてと……そうだ動画配信……!」
始は頭を数分前の状態に切り替える。先ほどまでかのん達が行う配信を手伝っていたのだった。けれど今は彼女に任せてあるし、きっと無事に始められているだろう。そう信じている始。多少ぎこちない進行はあるかもしれないが、大きな事故なんて起きるわけがない。そう思い込み、胸をなで下ろしながら部室へと戻っていく。
「よし、静かに開けない……と?」
小さく呟いた瞬間、部室の中から聞こえてきたのは、どう考えても動画配信には結びつきようもない騒ぎ声だった。もはや叫び声一歩手前なのではと思う程の大声。さらになぜか歌声まで混じっている。
そして扉を開けた途端、目の前に広がっていたのは、始の想像を軽々と裏切るカオスな光景だった。
「まるー! まるー!」
「グッソクムシ~グッソクムシ~♪」
「凄いデス! イッキにいいね爆上がりデス!!」
「こんなのでいいねを貰っても……嬉しくなぁぁぁぁい!!」
恋はかのんの両頬をつねり、千砂都は丸を連呼。すみれはグソクムシの帽子を被って歌っている。そして可可はこの光景で視聴数が爆上がりしていることを伝えていた。進行もテーマも何もない。とりあえず自分でできることを順序なしに見せているというとっ散らかり具合だった。
「……なにこれ……なに……?」
その光景を見た始は……ただ困惑でフリーズするしかなかった。
「……」
「……」
誰も話すことなく、無言で玄関へと向かう。
結局その後、ハチャメチャな動画配信は終了。そしてグループ名の話し合いを行うも何も出てこず……。当たり前だ。あれだけの姿をインターネットの海に放流してしまったのだから。疲れたし、何よりも恥ずかしい。時間を捲き戻すか、どこか山奥へ逃げてしまいたいという気持ちなのだろう。数か月前の恋が見ていれば、部室に怒鳴り込んできて活動停止だと言い放ったに違いない。……けれどその件の本人も、今は一員なのだが。
「ま、まあ~よかったんじゃ無いか? 他のグループとは違うインパクトもあったし、視聴者の反応も好評だった───「よくないよ!!」
始のフォローは虚しくかのんの声にかき消された。
「こっからどう挽回していけばいいんだか……」
「挽回は……どうだろう千砂都?」
「ここで私に振るかな!? さすがにあれはフォロー無理!!」
「まあ、この平安名すみれのお陰で? あの配信も致命傷は避けられたんじゃないかしら?」
「グソクムシやってたことがデスカ?」
「言わんでいい!!」
まただ。また傷が開いてしまった。言わなければよかったと頭を抱える始。何でいつもいらん事を言ってしまうのか。……何故だかゼットが共感の意を示したような気がしたが、触れないでおこう。
本日幾度目かの溜息を吐きながら外へ出る。校庭の方ではまだ部活中の生徒たちがちらほらと見える。自分達が早めに切り上げただけで、他の生徒たちはそれぞれの活動に精を出している。
「どうしましょう? 結局動画だけで今日は何も進みませんでしたし……」
「とりあえず明日からはちゃんと練習やらないと」
恋と千砂都の言う通りだ。ラブライブに出場するという事であれば、このまま何もしないと言う訳にはいかない。高いポテンシャルを秘めていたとしても、それを100%、120%引き出すためには日々の練習が不可欠なのだから。2人の話を聞き、思い出したとすみれはかのんへ尋ねる。
「そういえばかのん、歌は出来たの?」
「それもそうですね。かのんさん、詞を」
「え……?」
「……え?」
かのんと恋、2人は互いに不思議そうな顔をする。
「あ……千砂都これは……」
「始くん、これは……」
「これは何なのデスカ? 千砂都、始!」
状況を察した千砂都と始。そしてただ一人だけ頭の上に巨大な「?」を浮かべている可可。その3人の視線の先では、かのんと恋が互いに主張している。どちらが先に作るのかを。
「曲が先でしょ?」
「
「私は曲ができたらそれに合わせて書こうかと……」
「「えぇ……」」
完全に噛み合っていない2人の主張。途端、場の空気が一瞬でフリーズした。
*****
日が落ち始めるも段々早くなった。もう残暑だってない。やがては寒くなる一方だろう。初めてくる高校生としての冬。一体どんなことが待っているのか。そんな考えが一瞬だけ頭を過る。同時に、かのんは作詞できたのだろうかとか、グループ名を考えなければとか、スクールアイドル部としての彼もそこにはいるのだった。
作詞が先か、作曲が先か。どちらが先に作るのか、あらかじめ話し合わなかった故に生じてしまった問題。仕方がないとはいえ、時間がないのも事実。
「って言っても、このグループと学校を代表する曲ってなるとなかなか……」
「そんな難しく考えなくてもいいんじゃないかな?」
「ソウデス! 私たちを見て感じたコトヲそのまま歌にすればイイノデス!」
「じゃあ逆に聞くけど、私たちのイメージってどんなのか言える?」
かのんが可可に問いかけると、頭を悩ませつつ可可は言葉を紡ぐ。”最強”、”最高”、”エクセレント”……ではないことを。
「ほらね」
「じゃあ……ウルトラ強い……とか?」
「ガキね始は。決まってるったら決まってるでしょ。”ギャラクシー”よ!」
「ガキって言うなし……」
「えー、”まる”だと思うけどな。まるまるサークルなんだし」
「そのグループ名は拒否されました」
「じゃあ何だというのデスカ!!」
「そ、それは……」
まったくもってイメージも、名前もバラバラ。統一という言葉がここには存在していなかった。自己主張が強すぎて方向性が定まっていないのがバレバレだ。
「ほら、みんなだってそうでしょ? 私たちって最初から何か目的をもって集まった訳じゃないし……」
「それはわかりますが……」
「つっても、んな悠長なこと言ってらんない」
「だね。エントリー期限も迫ってるし」
「まさか諦めるの?」
「ソンナ訳アリマスカ!!」
すみれへ詰め寄った可可の剣幕はこれまで以上のものだった。彼女はスクールアイドルになるために日本へ来た。ラブライブ出場だって、彼女の目標の1つ、或いは通過点の筈だ。そんなおいそれと諦めるわけにはいかないだろう。むしろグループ名が決まらないから出場見送りなど、許される筈もない。
「コウナッタラ……」
ガラの悪い目つきの可可がかのんを見る。恐らくこの状態の彼女が思いつくことは何か良からぬことであろう。
そうしてかのんが恋の家で所謂”缶詰め状態”になったのが先ほどの事である。始はストレイジの任務があるからと、そこからは別行動になってしまった。
「始くんずるいよぉぉぉ~!」
「って言ってもなぁ……」
「裏切者ぉぉ~~!!」
「えぇ……」
かのんは1人だけ抜け駆けという状況に見えているらしい。彼女も始の事情に理解は示しているだろうが、自分だけ缶詰めになることがわかっている為このようなことを言っているのだろう。
「始くん、かのんちゃんは私たちがしっかり見張ってるから!」
「始さん、こちらはお任せてください」
「う、うん。あまり厳しくない方が良いと思うよ……」
それだけ言い残し、始は正太から頼まれた任務へと向かうのだった。
「~~~~!!」
声にならない叫びを背に受けながら。
「ダメダメ。今調査に集中しないと」
それが先ほどの話だ。今は恋の家で頭を抱えている頃だろう。それにしてもあの状況で1人だけ抜けてしまったことには罪悪感が残る。自分もスクールアイドル部の一員であるのであれば、最後まで居たいと思うのが普通だろう。でも今は状況が状況だ。みんなとスクールアイドル部を続けていくためにも、不穏な要素はしっかりと排除しておきたい。後でみんな(特にかのん)には何かしらでお詫びをしなければ。
そこまで考えてから彼は自身の頬を叩く。そろそろ”高校生の夏空始”から”ストレイジの夏空始”にスイッチを入れなければならない。今は調査に集中するべきだ。
「……って言っても」
通りはいつものざわめきで満ちていた。子どもの笑い声、店先の呼び込み、遊びに来ている男女の声。日が傾いてほとんど見えなくなってきてはいるが、街全体は緩みそれでいて心地いい空気が漂っている。それは日常であり、当たり前の世界。何も異常はない。因みに先に調査を行っていた晶子は基地へと戻った。丁度彼とバトンタッチしたという事だ。
その瞬間、空気がひっくり返る。平和な世界に影が差す。
「─────君はこの星の守護者を気取っているつもりかね?」
投稿できてなかった分、本当は1話で終わらせたかったのですが長くなりすぎるようだったので区切りました。