初めて(前編)とサブタイにつけました。
それはいつもの放課後。
練習を始める前の些細で妙に落ち着く時間。そんな平和をぶち壊すように飛んできた提案。部室で頬杖をついていた始は、そんな提案に瞬きの回数を増やしながら聞き返した。
「……ボランティア?」
「そう。ボランティア」
「ボランティアデス」
「ボランティアなんです」
「……どういう事?」
夏空始、途端のボランティア連呼に困惑中。
「んでまたどうしてそうなったんだよ?」
「私たちもさっき恋ちゃんから聞いたんだ〜」
練習の合間の休憩時間。照らされる午後の光は、少しずつ赤みを帯びてきていた。日の入りの時間も早くなってきており、季節は本格的に秋へと向かっているのだと、始は身体をほぐしながらぼんやりと考えていた。
ラブライブへエントリーしたことで、練習の密度はこれまで以上に濃くなっている。基礎的な体力や体幹、ステップは勿論のこと、かのんと恋が作ってくれた曲を基により実践的な練習も行なっているのが現状だった。
第1回戦の課題発表まであと1週間あるかどうかというタイミングの中、唐突に提案されたのがそれであった。
「えらく唐突だな……」
ぼやく始に、千砂都は苦笑しながら肩をすくめる。
「まあまあそう言わず。これにはふかーい訳があるんだよね、恋ちゃん?」
「はい。この結ヶ丘を開校するにあたって、お世話になった方々がたくさんいらっしゃいます。その方々への感謝を込めて、私はボランティアに参加しているのです」
「そうなんだ」
そう言われると、先ほどの言葉はあまり良くなかったのかもしれない。結ヶ丘を開校するために動いていたのは、何も恋の母親だけじゃない。多くの人達の働きがあっての事だ。彼らへの感謝を込めて恋はそのボランティアに参加していた。
「どう? 始くんならこう言われちゃ断れないよね?」
「そうだな。で、どこでやるんだっけ?」
「ここです」
恋はスマホを始に見せた。そこは都会から少々外れており、もう少し行けば山梨に差し掛かる場所であった。近場かと思ってたいたので面食らったが、それくらいで気分を削がれるものではなかった。
「結構距離あるな」
「はい。ですが、あちらの方々の応援あっての結ヶ丘です。そのお礼も兼ねて、今年もお手伝いしたいと思っているんです」
「今年って……もしかして去年も?」
「はい。一昨年も行っているんです」
どうやら恋は去年も、さらに一昨年も参加していたようだ。なら今年も参加しなくては顔が立たないだろう。仮にそうでは無かったとしても、彼女の責任感を鑑みれば必ず参加するはずだ。多分、以前の彼女だったらこのような事は言ってくれなかったかもしれない。最悪彼女だけで参加していたかもしれない。けど、今はこうやって話してくれたし、誘ってくれている。その事がとても嬉しくて、みんな乗り気なのだろう。
「うん。俺も行くよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
遠いとはいえ、行けない距離ではない。それに恋の提案だ。断る理由はもうない。ぱっと表情が晴れやかになった恋を見て笑みを浮かべた始。他にも彼は聞きたいことがあるようで彼女へ尋ねる。
「けど、具体的に何をするんだ?」
始の問いかけに、かのんが待ってましたと言わんばかりに身を乗り出してくる。
「地域のお祭りのお手伝いだって! 屋台の準備とか、子どもたちの遊び場のサポートとか、いろいろあるみたい」
「なんだよ……意外に本格的……」
「でしょ!」
「なんでかのんが得意気なのよ!」
「別にいいーじゃーん!」
かのんとすみれの本題関係なしのやり取りは無視。
けど始はそれを聞いた瞬間、亡き父である勝もそのような地域のお祭りに参加していたなと思い出す。その地域の子どもたちと神輿を担いだりなんだり。酒を飲み赤くなった顔でもしっかりと自分の仕事をこなしていた。そして帰りには、屋台で色々買ってくれた。自分は疲れているはずなのに、そんな顔色を一切見せないで。
「───始が楽しそうだと、俺も楽しいんだ」
そう言って笑っていた父親の顔を見上げていたのは……いつの話だったか。
「始さん、大丈夫ですか?」
「え!? うん、大丈夫」
いけない。少しばかり過去の思い出に浸ってしまっていたようだ。話を聞いていないと思われたのか、恋から心配そうに呼びかけられてしまった。彼女の声によって現実に引き戻された始は、軽く咳払い。気持ちを整える。
「少し考え事を」
「ならいいのですが……始さん、あまり無理はしないでくださいね?」
「してないよ。それを言うなら恋の方が無理すんなよな。練習もあって、手伝いもあって。それで生徒会長だろ?」
むしろ心配をする恋の方が多忙だろう。こちらはゼットとの一体化によって、ある程度の疲労ならすぐに回復する。けど恋は違う。始のように便利な状態ではないのだから。
「ありがとうございます。ですが私なら大丈夫ですよ。こうして皆さんも手伝ってくれるようですし」
「で、続き続き!」
にこりと笑う恋の横で、再度かのんが飛び出てくる。
「お祭りの準備ってさ、けっこう大変らしいんだよね。でもさ、みんなでやったら絶対楽しいって!」
「そうそう。子どもたちも喜ぶし、地域の人たちも助かるし。この平安名すみれを知って貰うにも絶好の機会!」
すみれも頷きながら言う。けど後半は自分の願望だった。
「グソクムシの被り物被って踊っていればイイデス」
「このっ!」
やや辛辣だが軽口の範囲……内のやり取りが展開される。
苦笑いの始は足首を回しながら少し遠くを見る。ここからでも多くのビルが目の前に広がっている。確かに、都会の喧騒から少し離れてみるのも良いのかもしれない。
「すみれちゃんの言う事も半分正解。私たちLiella!の事を知って貰えるチャンスだからね」
「千砂都さんの言う通りです!」
ラブライブを勝ち進めるためにも、知名度はなるべく上げておいた方が良い。それはいずれ大きな武器になる筈だ。そう言った面でも参加する価値はあるだろう。でも、重要なのはそこではないことをみんな知っているのだが。
賑やかな声が、練習の疲れをふっと癒してくれるのだった。
*****
「かのんちゃんとすみれちゃんは残念だったね~」
「グソクムシは兎も角、かのんには来てほしかったデス……」
「いやいや、すみれはこういった時に居てくれるとありがたいんだぞ?」
「そうデスカネ?」
「そうなんです、クゥクゥ」
可可のぼやきに始は反論。彼の隣に座っている恋は小さく笑う。
「……まあ、2人とも仕方ない事情ですし。責められませんよ」
「そうそう。かのんちゃんもすみれちゃんも、来られないのは残念だけど……」
ボランティア当日。電車で揺られ、現地に向かっているのは始、恋、千砂都、可可の4人だ。窓の外から見える景色は、街よりも自然の方が多くなってきていた。加えて色も緑というより、紅や茶が増えてきている。さらに少しだけ重ね着をする人も増えてきていた。着実に移行している季節の匂いが、より今日という日を特別にしている感じがした。
残りの2人、かのんとすみれは事情で来れなくなってしまった。勿論ドタキャンではないし、体調不良とかでもない。決まった翌日には相談したし皆納得はしたのだが、やはり当日になると「一緒に来たかった」という気持ちが顔を出してしまうのは仕方のないことといえる。
「かのんもすみれも、家の手伝いだからな。そっちが優先だよ」
「だね~」
かのんは実家の喫茶店の手伝い。近くで催し物があるらしく、お客さんが多くなる見込みで人手が必要だという。すみれは実家の神社で、巫女として秋の行事を手伝うらしい。どちらも「行きたかったのに~」と愚痴をこぼしていたが、現場に入ればそんな余裕もなくなるだろう。
「クゥクゥさん、今日は私たちで頑張りましょう?」
「はい。可可はそのつもりデス! 任せてくだサイ、レンレン!!」
「ありがとうございます。クゥクゥさん!」
ぼやきはするが、しっかりとやり遂げる意思は確かにそこにある。可可だってそうだ。不在の寂しさはある。けど恋は今までそうだったのかもしれない。なら、このくらいであれこれ言うのは違うだろう。
「だったらさ、今日の写真をいーっぱい撮って、2人に送ってあげない?」
「ナイスアイディアデス!!」
「しゃ、写真ですか……上手く撮れるでしょうか……」
「上手くなくてもいいんだよ。私たちが楽しくやっているところがわかれば!」
「俺も写真あまり得意じゃないからさ。得意じゃない同士、ほどほどにやろう」
「……ふふっ。じゃあ、ほどほどに頑張りましょうね」
千砂都が明るく言うと、連鎖的に作用して空気が軽くなる。その後も電車に揺られ、4人の会話はゆるやかに続いていく。楽しさと同じくらいに、今日をやり遂げようとする前向きな空気を誰もが持っていた。
「着いたぁぁぁ!!」
「毎回思うのですがちょっとした旅ですね、これ」
「おぉ、東京とはマタ違う景色……!」
電車を降り、改札口を出た面々は景色を見渡す。電車を降りた時から感じてはいたが、やはり都会とは空気が違う。自然の匂いが混じった様な、少し冷たく澄んだ空気。辺りは山が多い。高層ビルが視界の端に無いだけで、視界がいつもよりひらけていると思えた。
「痛たたた……久しぶりにこんな時間乗ったなぁぁぁ……」
「ふふ、始くんおじさんみたい!」
腰に手を当てストレッチをする始に、千砂都は笑いかける。まだ10代でこの様な動きをしているのは確かにそう思われても仕方ない。
「まだ10代だっつの!」
言い返しながらも、どこか照れている様な口元の緩み。すると少し遠くから、恋を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あら、恋ちゃん!」
地元の人らしき女性が恋を呼ぶ。それに気付いた恋は背筋を伸ばし、丁寧に頭を下げた。おそらく彼女がそうなのだろう。
「今年も来てくれるなんて助かるよぉ」
「いえ、助かっているの私の方ですから。今年もよろしくお願いします」
再度頭を下げる恋に、始たちも合わせて頭を下げた。今こうして、恋とこの場所に来られたことやスクールアイドルを始められたこと。それらも結ヶ丘があってのことだ。謂わば彼女たちの支援のお陰で今があると言っても過言ではないのだから。
微笑みを浮かべていた女性はふと表情を和らげ、恋から視線を横へと移した。これまではいなかった新たな友人たちへと、話題を向けたのだ。
「皆さんが、恋ちゃんの言ってたお友達かい?」
「はい。よろしくお願いします!!」
簡単に自己紹介を交えつつ、改めて気持ちを込めて挨拶を交わした。
「今年はなんだかより盛り上がりそうね」
「私もそう思って、なんだかいつもよりワクワクしています!」
「可可もワクワクしてマス! どんと来いデス!!」
「なんだか頼もしいねぇ」
はしゃぐ可可を見た始と千砂都は互いに顔を見合わせて笑う。けど彼女の気持ちは2人も共通しているものであった。これから始まるワクワクに誰もが胸を躍らせている。それは始ですら例外ではなかった。女性先導のもと、集合場所へと一同は向かっていくのであった。
彼らが去った駅の掲示板にも、天焔救世会の紙が何枚も貼られていた。
*****
「今年は恋ちゃんの他に、3人も手伝ってくれるよ!」
「「「よろしくお願いします!!」」」
事前準備の前に、集まっている人達へ始たちは挨拶を交わした。ボランティアの年齢層も幅広く、若者から年配者と様々であった。挨拶を終えたところで、周囲の大人たちが興味深そうに声をかけてくる。
「今年は若い子が多くて助かるよ~」
「スクールアイドルなんでしょ? ネットで配信見たよ!!」
「恋ちゃん、今年もよろしくね!」
配信の事はあまり触れられたくなかったようで、3人は苦笑いで済ませていた。始もそこはあまり触れないでと、小声で伝えている。とは言っても、彼女たちLiella!も少しずつではあるが世間に浸透し始めてきたようだ。その事実は新たな原動力になるし、心の奥に小さく喜びを灯していた。
「それじゃ、早速設営に入りましょうか!!」
今回のリーダー格である男性が呼びかける。あらかじめ振り分けられていた配置に従い、各々が準備を進めていく。始も気合を入れるように両頬を叩いて向かおうとするが、そこで男たちに止められた。
「で、始君。お前どの子を狙ってるんだ?」
「え、いきなり!? ……いや、別にそういう訳では」
「なんだよ、隠すな隠すな!」
「ったく、その歳でハーレムとはませてますなぁ」
肩を組まれ、ほぼ初対面で振られたその話題に始の額には汗が滲んでいた。
「大丈夫だ。そんなすぐバラしたりはしねぇーよ」
「全っっ然、信用出来ないんですけど。……いや、すぐじゃなくて後ならバラしてOKではないですからね!?」
「張り切りすぎて、体壊すなよ」
「お前が言うと説得力が違うな」
「お前!? 黙ってろ!」
軽口が飛び交う中、周囲の大人たちもくすくすと笑い、始はますます逃げ場を失っていった。
一方、3人は早速準備に取り掛かっていた。
「荷物運びは人数がいると助かるんだ」
「任せてくだサイ!」
「可可ちゃん、無理しちゃダメだよ」
可可が張り切る横で、千砂都とは心配そうに声を掛ける。体力がついてきたとはいえ、まだまだ少ないのが現状だ。準備から飛ばして後でバテてしまっては意味がない。違う場所では恋が慣れた様子でテキパキと動いている。
「まずはこっちの倉庫から机を出しますね」
「ありがとう。助かるよー」
さすがは去年も参加しているだけあり、先の事を考えながら準備を進めている。
「これくらいは……余裕……デス……」
可可は荷物を抱えて歩いている。抱えているのは箱を2つ重ねたものだ。余裕とは言いつつも若干フラついている。その様子を見ていた千砂都はすかさず駆け寄った。
「……わッ!?」
「ちょっ!? だから可可ちゃん、言ったのに~!」
「スミマセン、千砂都~」
やれやれと首を横に振り、千砂都は箱を積み上げる。
「こっちの箱、持ってあげる! あっ、この匂い!」
箱に入っているのはソースだ。たこ焼き屋でバイトしている彼女が反応しないわけがなかった。
「ってことハ千砂都」
「うん。まあるい完っっ璧なたこ焼きを作る!」
千砂都のスイッチは既に入っていた。目を輝かせながら、千砂都は準備を進めるスピードを上げていく。無論、可可はそれについてはいけなかった。
「はあ……はあ……逃げてこれた……」
「だ、大丈夫ですか?」
男性たちに絡まれていた始はなんとか脱出。そのまま準備に合流しようとしたところで、恋が心配そうに声を掛けてくれた。始は手を挙げて問題ないと伝える。
「一体、何の話を……」
「いやいい! 聞かなくていいから!!」
「……?」
始のリアクションだけが返ってきた。訳も分からず、恋は首をかしげるだけ。そんな状況から強引に話題を変えようと、始は目の前の光景に目を向けた。
「……にしてもいいな。こういうの」
「はい。始さんもそう思いますか?」
「うん。学園祭の時も思ったけど、こういう……何かを準備してる雰囲気ってのが好きなんだよな」
同じ目標へ向かって、多くの人が協力する光景、そして雰囲気が好き。そして自分もその一員として手伝えているのが、始にとっては楽しいのだ。本番も楽しいが、彼にとっては準備の方がそれを上回るのかもしれない。
「素敵ですね。こういう時間を好きって言えること」
恋は微笑みながら、柔らかな雰囲気で伝えた。でもそれは恋だって同じなのではないか。そう思った彼はそのまま彼女に投げ掛けた。
「恋だってそうだろ?」
「そうですね。でも、今年は去年とは少し違いますね」
「どういうこと?」
「今年は始さんに千砂都さん、可可さんがいます。かのんさんとすみれさんにも来てほしかったのですが、こればかりはしょうがありませんが」
今回は友人たちが共にいる。同じ気持ちを、同じ目標を共有し合える仲間がそばにいる。それが彼女にとっては何よりも嬉しかったのだと思う。去年とは違って、今年は皆と一緒に。その事実が、彼女の胸の奥を温めているのだと思う。恋は準備に励む可可や千砂都、隣にいる始の姿を見て小さく息を吐いた。
「皆さんとここに来れて良かった。本当に……」
「おいおい、まだ準備だぞ? 本番はこれからだっての」
「そうですね。忘れていました」
「えぇ……」
始のリアクションを他所に、恋は再度向き合って言うのだった。
「絶対、良いものにしましょうね」
「ああ。そうだな」
けど、誰も知らなかった。それらを覆うような暗雲が、すでに近付いていることは。
始たちが準備を進める頃、ストレイジでは特空機の新装備開発計画が動き出していた。
だが課題は山積みで、結衣は今日も頭を抱えるばかり。
そんな矢先。始たちのもとに、突如として宇宙海獣が出現!
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