Superstar-Z   作:星宇海

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中編です。


第49話 冷炎海獣出現(中編)

 

 始がボランティアへ行っているのと丁度同じ頃。結衣は机に突っ伏しそうな姿勢でキーボードを叩いていた。無論、このような姿勢になっているのには理由がある。それに数か月前にも同じような光景を見たばかりだ。

 

「うぅ……なんでこうなるの……」

 

 画面に並んでいるのは、山のような課題点。それらひとつひとつへ解決策を試してみても、返ってくるのはエラーの嵐か、より致命的な結果ばかり。解決には程遠い様子だった。うなだれた彼女の姿はストレイジの隊員というよりも、疲れた会社員のそれであった。

 

「結衣、大丈夫?」

「大丈夫じゃない~晶子ぉ~~」

「お~よしよし……」

 

 頭を優しく撫でてあやす晶子の背後から、正太の姿が見えた。どうやら格納庫から戻ってきたようだ。彼も目の前の様子をスルー出来るほど冷たくはなかった。……いや、もしかしたら彼がスルーしなかったのはその光景が面白かったからなのかもしれない。

 

「大丈夫……じゃなさそうだな。アレか?」

「多分……そうですね。アレです」

 

 モニターを覗き込んだ晶子は確信をもって彼に伝えた。その表情には「やれやれ」と言いたげな色が見えた。どうやら2人には結衣がここまで項垂れる訳に心当たりがありそうだ。結衣のPCに映っていたのはウインダム……と、その強化武装プランについてだった。

 

「結局、解決しそうにはないか」

「一難去ってまた一難とは……このことなんですかね?」

「課題が多すぎるよぉ~!」

 

 結衣の嘆きが基地を漂う。困り気に眉を寄せつつ、正太は窓を開けた。そこから見えるのは件の次男坊。彼は語り掛けた。

 

「だってよ……ウインダム」

 

 

 

 

 

 

 

 

「結衣先輩、これは?」

 

 話しは少々過去へと遡る。それはゴルバー討伐から少し経った日のストレイジ基地内。唸りながらも作業をする結衣へと話しかけていたのは始だった。

 

「お、聞いてくれたね〜! これは……」

「始まった……」

 

 先程までの険しい顔が嘘の様に変容する。そして嬉々として語り出す結衣の後ろで正太は頭を抱える。もう何度も見た光景だからだ。

 

「以前現れたゼッパンドンのデータを元に立案されたウインダムの強化装備プラン!」

「ウインダムの?」

「そう! ……早いって思った?」

「ま、まあ……。配備されてからまだ時間経ってないですし」

「本当はセブンガーにも装備させてあげたいんだけどね〜。今回のはちょっと相性悪くて」

 

 力で攻めるセブンガーへの装備としては、今回のプランは相性が良くない。だから機動力も高く、より人の動きに近いウインダムに白羽の矢が立ったのだ。結衣としても、特空機1号のセブンガーにも何かしてやりたと考えていた。だが今回は火器の使用が前提となる為、泣く泣くウインダムを選ぶ判断をしたのだ。

 

「赤い鶏冠と左腕の銃口を取り付けた新形態! 名付けてウィダム高火力砲装備型。ってのは長ったらしいから通称"ファイヤーウインダム"!!」

 

 結衣が指を差す。モニターに映し出されたのはファイヤーウインダムの設計データだった。さらにはコンピューターグラフィックで描かれた完成イメージも映し出されていた。

 

「おお! なんだよこれかっこいい!!」

「そうでしょそうでしょ? 通信強化はデフォとして左腕には高火力の砲身を換装! あの銃口から放たれる"ファイヤーショット"を使えば怪獣なんてイチコロ! さらに機体重量の調整と各関節部のエンジンを新調するからよりアクロバティックな────」

「結衣、それくらいにしときな。始も困ってるよ?」

 

 始に向かいあらゆる情報を解説する結衣。見かねた晶子は苦笑しながら制止する。彼女の言う通り、始も最初は興味深く聞いていたが結衣の熱量に完全に押されていた。

 

「あ〜ゴメンゴメン。つい喋り過ぎちゃった。でもアレで完成とは言えないんだよねぇ……」

「……?」

 

 先程まで興奮していたと思ったら急に落ち込んでしまう。堪らず「何故ですか?」と問う。すると後ろで聞いていた正太が代わりに答えた。盆栽を弄りつつ片手間に。

 

「ファイヤーウインダムの状態だと5分の活動時間がたったの1分になる」

「い、1分!? セブンガーより短いじゃないですか!」

「折角セブンガーより長く戦えるのにね……」

「冷却システムが予想以上に必要で……」

「電力も食うからな」

 

 大火力を有する為か、従来の熱制御では機体が保たないらしく、冷却システムを複数個導入することで問題をクリアすることとなった。しかし機体制御に加え冷却システムの継続運用は予想以上に電力を消費するらしい。その為活動制限時間が大幅に減ることとなったのである。

 

「それとねあのファイヤーショット……撃ち出したらその熱量に負けて砲身が溶ける」

「ダメじゃないですか!」

「そんなことわかっとるわ!」

 

 怪獣と直接殴り合うのだからそれなりの強度を持つのが特空機のボディであり素材だ。しかしそれでも今回の高火力には耐えられないらしい。撃てて数発。それ以上は砲身がドロドロに溶けてしまうのだ。

 

「あ〜あ、宇宙人の使うロボットとか降ってこないかな〜。そしたら新素材の開発だってできるのに!」

「先輩、そんな都合のいいことなんかないですよ」

「始くんも祈って!」

「俺も!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「とはいえ、テスト装備はもう出来上がってるんだろ?」

「まあ、一応。でも課題は解決してませんから。実戦なんて夢のまた夢ですよ」

 

 今回はいつもより話が早かった。ウインダムの資金問題クリアし間もなく、怪獣災害への実績も認められた。その為ビートル隊上層部への承認もスムーズに進んだのだ。とはいえ綿密に根回しをした栗山長官のお陰が殆どなのだが。そしてテスト演習のために用意された換装パーツは既に基地に運び込まれている。数日後には実際に起動してみせる予定だ。とはいえ課題は何も解決はされていないので、武装のデモンストレーションは行わず、動きだけの演習になるのだが。

 

「ただ動かすだけって、それでホントに演習になるんですかね?」

「まあ、実際に動かしてこそ見える部分もあるだろうからな。バコさんだってそう言ってたぞ?」

「ホントのところ、上がうるさいから黙らせる為ですよね」

「……」

「沈黙は合意と受け取りますよ?」

「さあ、どうだか」

 

 演習の為に人も時間も動くとなれば、晶子の言う事も納得できる。第一、その演習中に怪獣が出現した際のリスクも考えなければいけないのだ。でも、組織として上からの命令に逆らうことはできない。実績やらなんやらと口うるさい本部の人間を黙らせるためにも、演習を行っておとなしくなってもらう必要があるのだろう。

 そんな正太と晶子の真面目な空気を感じることもなく、机に突っ伏したままの結衣は顔も上げずに口を開いた。

 

「でもファイヤーショット撃つところ見たい!!」

「お前が言ったんだぞ? 砲身が溶けるって」

「たとえ溶解したとしても、撃つ瞬間を、威力を見たいと思うのは私たちの性ではありませんか!!」

「……」

「隊長、納得しないでくださいよ!?」

「わ、わかってる。わかってる。わかってるよ……」

 

 晶子の一言に押し返され、正太は肩をすくめながら頷き、足早に自分のデスクへと戻っていった。

 

「……今のままじゃ、まだ心許ないからな」

 

 デスクに戻った彼は、格納庫の方を見ながら呟いた。地球人が自分の力で己を守れるようになること。それはとても喜ばしいことだ。けど、現状ではそれではまだ足りない。そう彼は感じるのだ。それは多分、彼が宇宙の脅威を知っているからだろう。

 

「あんなのが出てきたら、ストレイジでも……ゼットと始が居てもお手上げだろうからな」

 

 以前、別時空で邂逅したある軍団がいた。三大軍団長を筆頭に、悪名高い宇宙人や怪獣たち、さらにはファイティング・ベムと呼ばれる戦闘生物を従え、全宇宙の支配を目論んだ"宇宙の悪魔"だ。しかしその野望は、その時空にいるウルトラマンと銀河の覇者、今も宇宙(ソラ)を流離う光。そして彼らが結んできた絆により集まった"奇跡"によって打ち砕かれた。

 この宇宙にも、その様な混沌を生み出しかねない存在が未だ野放しになっているに違いない。遠くへと飛び立った彼がいるとはいえ、1人で全ては救えない。この地球は侵略者から見れば格好の餌場だ。故にウルトラマンだけに頼ることなく、人類の力だけで脅威を退ける力は必要なのだ。

 

 想いにふける正太のもとに、緊急通報が舞い込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

「夏空くん、それはここに置いてくれるかい」

「わかりましたー!」

 

 ストレイジへ緊急通報が舞い込む数分前。始たちは準備を進めていた。備品関係は並べ終わっているし、テントの設営ももうそろそろ終えられそうだ。その後は食材や、景品などを並べる。そして休憩を挟んでから時間までに最終調整を行う。

 

「……っと」

「いや~若い手があると助かるよ。それにしても、随分力あるね?」

「へっ!? ま、まあこれでも鍛えたりしてるんで!」

「そっか~。高校生だったらそういうのも憧れるしね!」

 

 歯切れの悪い返答になってしまったが、男性は特に気にすることもなかった。そのことに始は胸を撫でおろした。無理もない。大人たちが2往復している間に、彼は倍以上のスピードで物を運んでいた。ついつい張り切ってしまい、ゼットの力まで借りてしまっていたのかもしれない。

 

「は、始ぇ……」

「く、クゥクゥ……大丈夫?」

「だ、大丈夫……デス……」

 

 ふらふらと近付いてきたのは、息も絶え絶えの可可だった。心配そうに覗き込む始とは対照的に、千砂都が呆れ半分の表情で歩み寄る。

 

「さっきも言ったよ? 程々にねって」

「ス……スミマセン……千砂都……」

「でも私は嬉しいですよ。可可さんにこんなに手伝っていただいて」

「レンレン!!」

 

 さらに恋が柔らかい笑みを浮かべて近づくと、可可は彼女へとダイブ。「まったく」といった表情で、恋と千砂都が視線を交わす。その様子に始は思わず小さく笑った。

 

「さて、一旦休憩しましょう」

「だな。クゥクゥもこんな感じだし」

「だね」

「助かりマシタ……」

 

 彼らのほのぼのとした空気のまま、休憩のために場所を変えようと歩き始めた時だった。

 

 空気が震えた。それは地面を這うように伝達する。最初は誰も気にすることはなかった。自然の多さ故の現象だと思ったからだ。でも次の瞬間、地面がはっきりと揺れた。砂埃が舞い、屋台の骨組みが揺れる。

 

「え、なに……!?」

「地震……じゃないよね……?」

 

 嫌な予感。でもこの感覚は……ゼットと一体化している彼には、それは予感ではなく確信といえるものがある。

 

「……!」

「おい、あれを見ろ!!」

 

 誰かが叫んだ。皆が一斉に指差す方を見る。少し離れた山の方。そこに蠢く闇のようなオーラは収束。黒いそれが弾けると、巨大な獣の姿を形作った。

 

「か、怪獣!!」

 

 その姿は甲殻類。エビとカニを混ぜ合わせたような姿だった。赤い目が地上を見渡す。左右非対称の大きさを持つ鋏がギラリと光った。

 

「”宇宙海獣(ウチュウカイジュウ)レイキュバス”。……さて、どのように対処する?」

 

 どこからかその様子を見ている男は呟いた。

 

「早く逃げてください!!」

「慌てず誘導に従ってください!!」

「君は避難に遅れた者がいないか、君は負傷者の手当てを!!」

 

 怪獣……否、海獣レイキュバスを見た人々は一斉に逃げ出す。でも、一部の大人たちは避難所やシェルターへの誘導を行う。その人込みには始たちの姿もあった。

 

「どうして……」

 

 そう呟くのは恋だ。ここまで何事もなかった。このまま例年通り開催できるはずだったのに、あの海獣が出現してしまった。このままではどうなるか……想像に難くない。そんな彼女の声を聞いた始は立ち止まった。

 

「……恋、大丈夫。絶対ここまでは来させない」

 

 彼は真っ直ぐな瞳で彼女を見つめている。その強さに恋は一瞬だけ息を呑む。しかし混乱の渦の中にいる彼女は、思わず聞き返した。

 

「始さん……でもどうやって?」

「俺はストレイジだ。やれることをやるさ」

 

 最後に小さく笑って見せ、人々とは逆方向に走っていく。

 

「ちょ、待ってクダサイ始ぇー!」

「もうこんな時に……仕方ない。恋ちゃん、クゥクゥちゃん!」

「……はい!」

 

 可可の制止も聞くことなく、彼は人込みの中に消えていった。千砂都は溜息を吐きながらも2人に呼びかけた。彼の事を心配する気持ちはある。けど彼はいつもそうなのだ。そう言い聞かせたし、彼はストレイジに所属している身だ。切り抜ける技だって教えてもらっている筈。今はそう信じるしかない。

 

「クゥクゥちゃん、疲れてると思うけど走るよ!」

 

 彼女たち3人も流れに逆らわないよう、避難所へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

《セブンガー、着陸します。ご注意ください》

 

 緊急通報を受け、現地に急行したセブンガー。着陸し、すぐさまメインカメラで海獣の姿を観測。データを転送する。

 

『今までのデータにない種か。晶子、気を付けて!』

『了解』

「あの鋏は厄介だ。それに飛び道具を隠している可能性もある。気を抜くなよ」

 

 車を走らせ、現地へ向かいながら指示を出す正太。通信を終了し、彼は呟く。

 

「にしても……嫌な気配だ。デビルスプリンターでもなさそうだし、また厄介な奴が手引きしてるのか……?」

 

 胸の奥で、得体の知れない警告が鳴っていた。前回出現したゴルバー時と同じような妙な感覚を、彼だけが持っていた。だから気を抜けない。恐らく始とゼットもこの場所に現れるだろう。その時、彼らはどのように対処するのか。興味よりも心配が勝っていた。

 

 

 

 

 

 セブンガーとレイキュバスが激突。拮抗するのはほんの一瞬。徐々にレギュバスが押されていく。セブンガーの馬鹿力は流石と言ったところか。

 

「……!!」

 

 背中のブースターが点火。噴射口が炎を上げ、更なる力を付与した。推進力の乗った、怒涛の鉄拳を叩き込む。レイキュバスは悲鳴を上げるばかりで、反撃の隙すら与えられない。

 

「更に…….食らえ!」

 

 体を直立にし、そのまま突貫。レイキュバスの腹部に、鋼鉄の頭部が突き刺さるようにめり込んだ。鈍い衝撃音。そのまま吹き飛び地面を揺らした。

 

「このまま……!」

 

 地に伏したレイキュバスは悶えるのみ。だが、その悲鳴は1秒と続かなかった。尾の筋肉が最大限に躍動する。目の奥に宿った闇が更に澱む。

 

「■■■■■ッーー!」

 

 悲鳴……ではなく、怒りの叫びに似た轟き。レイキュバスが瞬時に起き上がり、先の勢いを越える突進がセブンガーを吹き飛ばす。

 

「な、なんで!?」

 

 昌子の困惑。追い詰めたはずなのに、目も前のそれはものともしない。重鈍さが嘘の様に、その身体からは異様な速度で両腕の鋏が閃く。

 

「こ……のッッ!!」

 

 装甲から火花が飛び散る。鋭く伸びた刃が外装を抉り取った証拠だ。警告灯が鳴り響き、赤い点滅がダメージを知らせる。セブンガーは大きく踏み、後方へ跳躍。距離を取り、体制を立て直し、再度突進を試みる。

 

「そこまで上手くいくかな?」

 

 だが次の瞬間……レイキュバスの口から炎の弾丸が放たれた。

 

「嘘嘘嘘ッ!?」

 

 回避行動が遅れた。1発貰い、続け様に数発撃ち込まれた。

 

「……ッッ!!」

《機体損傷箇所、多数検知》

 

 警告音が更にけたたましく鳴り響く。

 黒い煙を上げたセブンガーは、その場に倒れ込んだ。予想以上のダメージに、機体の電源がシャットアウトしたのだ。

 

「不味いな……」

 

 正太もこの状況に顔を顰める。この状況下で再起動を行い、即活動再開とはいかないだろう。さらに隣で結衣が彼女へ呼びかけているが反応も無い。そんな起動不可となったセブンガーの元へ、レイキュバスはゆっくりと歩み寄っている。獲物を仕留める捕食者の如く。

 

「晶子さん! 前回の借り……返します!!」

 

 今まさにトドメをさされる寸前という状況を前に、始はゼットライザーを起動させた。

 

「……来たか」

 

 辺りを眩く照らす閃き。光は人型へと形を成す。

 

《ULTRAMAN Z ALPHA EDGE》

 

「ゼットデス!!」

「お願いします……どうかあの怪獣を……!!」

 

 人々の声援を受けながら、ウルトラマンゼットがその地に降り立つ。彼はゼブンガーを庇うように立ち構えた。

 

「危な……ギリギリだった」

『始、あれを見ろ!』

「……っ! あの男……!」

 

 視線の先にはあの男。以前始に意味深な言葉を投げかけ、ゴルバーを出現させた男が立っていたのだ。となれば、この海獣の出現も当然……。

 

『どうやらコイツもあの男の仕業らしいな。ウルトラ腹立つぜ』

「くっ……試練でもなんでも受けてやるよ!」

 

 ゼットは地面を蹴り上げ、果敢にレイキュバスへ向かっていく。対するレイキュバスは一直線に向かってくるゼットを嘲笑うかのように、口から極熱の火炎を吐き出した。

 

「───ッ!」

 

 紙一重のスライディング。連弾を避けつつ、射程圏内へ滑り込むと同時に脚を蹴飛ばした。体幹が崩れた瞬間、ゼットは畳み掛けるように攻撃を重ねた。対するヤツも、両手の巨大な鋏で巨人を切り裂かんと振るう。一撃一撃が重攻撃。一度でも食らえば、完全に主導権を奪われる。

 

「これなら……見切れる……!」

 

 連発される刃を潜り抜け、腹部へ横蹴り。続け様に正拳突き、縦拳、下突き。打撃技の連打で確実にダメージを蓄積させていく。

 

「『ゼットスラッガー!」』

 

 距離が開いた途端、レイキュバスから放たれる火炎放射。それを迎え撃つ為、彼らが選択したのは光の刃。プロペラの如く回転させて前面へ展開。それらは中央辺りで激突し、燃え上がりながら粉々に砕け散った。けどそれはさほど重要なことではない。両者にとっては。

 

「……ッラァ!!」

 

 ゼットは跳躍し、空中で反転。落下の勢いを乗せた踵落としは、レイキュバスの頭上に鋭く、そして重く叩き込まれる。ダメージで視界が揺れ、方向感覚を失っているものの本能に従い、反射的に尾を振り回す。その攻撃は予想だにしていなかったか、ゼットは喰らってしまう。大地が悲鳴を上げ、土煙が大きく上がる。

 

「■■■■ッッッ!!」

 

 倒れたゼット目掛け、さらに追撃の火炎弾が発射される。寸前のところでゼットは回避。地面を転がりつつ、体を跳ね上げる。体を反転させて再度腹部に飛び蹴りを浴びせた。

 

『炎は避ければ怖くない。早く決めるぞ!』

「俺もそのつもりだ!」

 

 もう攻撃は受けない。こちらの猛攻で一気に畳みかける。2人の意思は強くシンクロし、目の前の怪獣へ向かっていく。

 

「レイキュバスの持ち得る攻撃は、何も炎だけではない。それを見切れるか?」

 

 戦闘を観覧する男は、独り言のように呟く。その声は誰にも届かない。だからこそ、男はニヤリと口元を歪めた。

 一方、ゼットはレイキュバスの頭部をホールドし脳天へ手刀を叩き込む。途端、レイキュバスの目の色が文字通り……変わる。赤から青へ。けれどゼットは変化に気付いていなかった。そのまま投げ飛ばし、さらに追撃だと駆け出してしまう。

 

 

 

 

 

 しかしそれが迂闊だった。致命的なまでに。

 

 

 

 

 

 レイキュバスが吐いたのは炎ではなく……凍てつく冷気。

 

「うっ!? ……なに!?」

『ま、まずい!! 始、これは……!!!』

 

 彼らの警告灯が激しく点滅したのは、ほんの数秒。その数秒が命取りになることを失念していた。ゼットはその吹きかけられる冷気の激流から逃げ出すことはできなかった。カラータイマーが数度弱々しく点滅した後、全身が厚い氷に包まれてしまった。彼が動くことはない。冷気によって奪われた。意識すら。

 その様子を目の当たりにした人々は、誰一人として声を発せなかった。つい先ほどまで優勢だった状況が、思ってもない一手により、わずかな瞬間で一気にひっくり返った。その急速な変化に、思考が追い付かない。人々に灯り始めていた小さな希望は、冷めた風によって吹き消される。何もできないもどかしさと、海獣の勝利に対する恐怖が辺りを支配する。

 

「ゼットが……氷に……」

「そ、そんな……」

 

 恋や千砂都は息を呑む。可可は声を失ったまま凍り付いた光景を見つめるだけ。目の前で見せつけられる光景。それが一体何を意味するのか……言葉にしなくとも理解できてしまう。

 

 

 

 今、この瞬間……ウルトラマンゼットの敗北が決定した。

 

 

 

「噓でしょ……」

「始、ゼット……」

「そんな……」

 

 それは無論、ストレイジの面々も同様だった。セブンガーから降りた晶子も、避難誘導を行っていた正太も、作戦室から見ていた結衣も……呆然と立ち尽くす。

 勝ち誇ったように咆哮を轟かせるレイキュバス。巨大な鋏を太陽で輝かせ、氷像と化したゼットへ影を落としながらゆっくり歩み寄っていく。

 

「哀れだな、ウルトラマン。だが安心しろ。人間どもは私が導く。君たちは精々、その氷から見ているといい。私が築く……この星の未来をな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 謎の男が呼び出したレイキュバスによって、状況はまさに絶体絶命。レイキュバスを、そして謎の男の企みを止める術は……果たして残されているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 




凍り付いた俺と始。
俺たちを退けたレイキュバスの魔の手は次第に都市部へと伸びていく。
戦えない人々を守るため……遂にストレイジは、ウインダム高火力砲装備型の戦地投入を決断する。

次回、Superstar-Z「冷炎海獣出現(後編)」

ウルトラ燃えるぜ!!



前半部分で正太が触れた出来事について知りたい方は、山形りんごをたべるんご様作「RAINBOW X STORY」にて語られています。こちらは水卵様作「ギンガ・THE・Live!」と前作「Sunshine!!&ORB」のトリプルコラボとなっております。非常に見応えのある展開が繰り広げられておりますので是非ご覧いただければ。

作品リンク→https://syosetu.org/novel/224442/
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