『先日、10年ぶりに姿を現したウルトラマンは────』
いつもと同じアナウンサーが報道する様子を寝ぼけ半分、覚醒半分で視聴する始。
(あれ、本当のことだったんだよな)
自分がゼットと一体化し怪獣を倒した。その事実が未だに信じられない。けれどレポーターの現地取材やテレビに映る青い巨人の姿など、それは紛れもなく現実であり、自分があの日戦ったという出来事を強く物語っていた。
『いやでもねぇ、今更ウルトラマンが出現するというのもどうかと思いますね』
取材する市民の声がモニターを通して始の耳に届く。
『ぽっきり居なくなったかと思ったらまたいきなり現れて……』
『恩でも売りにきてるのかね〜?』
その声は歓喜だけでは無かった。10年前にウルトラマンの姿を消した。けれど怪獣の被害はなくならなかった。だから人々は様々な感情を抱いた。今回もそうだ。どうせウルトラマンが居たっていつかまた消える。なら居なくてもいい。
『ビートル隊やストレイジがあるんだ。ウルトラマンの出る幕じゃねぇよな!!』
『そうだ! 少なくとも消えるなんてことはねぇもんな!ハハハハハハッ』
これ以上聞いているとおかしくなりそうだ。始はテレビの電源を切る。
別に賞賛の声が貰いたいからゼットと一体化した訳じゃない。でも、ああ言われて平常心を保っていられる程始はまだ大人じゃ無かった。
「最悪の気分だよまったく……」
ぶつけようのない想いを抱え、始は玄関を開けた。
怪獣が襲ってきてもウルトラマンが降り立っても、日常はいつものように巡る。
「始くんおはよ〜♪」
暫く歩いていると、やけに上機嫌なかのんに声をかけられた。
その理由は始がウルトラマンゼットに変身した日に遡る。
あの後、ストレイジ隊員に言われた通り病院へと足を運んだ。けれど結果は至って正常。傷すらも見当たらなかった。そのまま解放され、なんとなく携帯を確認すればたくさんのメッセージが送られていたので思わず顔を引き攣らせてしまった。送り主は勿論かのんや可可だ。
急足で結ヶ丘へと戻りこっ酷く叱られた後、かのんからこんな事を伝えられた。
「始くん、私……クゥクゥちゃんと一緒にスクールアイドルやろうと思う」
始は何も答えず、かのんの言葉に耳を傾ける。今は彼女の気持ちを聞く事が重要だと感じたからだ。
「私も自分の気持ちに嘘をつきたくない。私の声を……歌を好きって言ってくれた人のことを無視したくない。だから!」
「それに聞いてください始さん! かのんさん、なんと人前で歌えたんデスよ!!」
「…………え、マジ?」
「マジもマジデス!」
可可のそれを聞いた途端、内から昇ってくる感情を抑えることはできなかった。
「……〜〜〜!! やったなかのん!! 俺、自分の事のように嬉しい!!! うん、かのんとクゥクゥならすっごいスクールアイドルになれる!」
「始くんはしゃぎ過ぎだよ……」
彼の喜びや励ましにかのんは頬を赤らめているが始は気付いてない。それに1番嬉しいのは歌うことができた彼女自身だ。
奇しくも同じ日に2人の運命は変わったのだった。
そんな事もあり、かのんもすっかり上機嫌という訳だ。隣にいる始とは正反対である。
「朝からなに暗い顔してんの〜?」
「いや別に」
自分の表情を見透かされたくなくて、咄嗟に大丈夫だと偽ってしまった。けど、相手は幼い頃からの付き合い。彼の言葉と感情が一致していないことはお見通しだった。さらに、その訳さえも。
「もしかして、ウルトラマンのこと?」
ふにゃふにゃとした笑顔から一変し、真剣な面持ちで問いかけてくる。
「まあ……そうだけど」
隠していてもしょうがない。始は首を縦に振った。けれど自分が一体化して戦って、それで世間から色々言われている……などと正直に言えるはずも無い。今歩いているのは街中。誰が聞いているかわからない状況で真実を話すのは軽率だしそれに……言うのが怖いというのもある。
「なあ、かのんはどう思った。10年ぶりにウルトラマンが来て。それで怪獣を倒して……どう思った?」
グイグイと行き過ぎた感もあるが、今更後悔してもしょうがない。けれど聞きたかった。付き合いの長い彼女が
「私は……嬉しいというか安心した? でも、嬉しいって感覚もあるのかな。あの時のようにまた来てくれたって」
「そっか」
「あ、ごめん。始くんは……」
「それ、何年前の話だよ。あの事は自分の中で踏ん切りがついてる。かのんが気にすることじゃないって」
彼女の評価にひとまず安心した。
しかしかのんがすぐさま申し訳なさそうにしたのは、始の身に起きたとある出来事が関係しているからだ。けれど先程の話で生じた心の余裕もあるし、なにより自分で踏ん切りをつけた出来事だ。彼女が心配することではない。なにより”この話題”を振ったのは始だ。
「それよりスクールアイドル、どうすんだよ?」
湿っぽい話から話題を変える。かのんと可可が始めようとしているスクールアイドルはどのような運びになっているのかと。確か生徒会長が頑なに認めてくれないということらしいが。
「まだ何も決まってないんだ。生徒会長……
かのんと可可がその葉月さんと話した時のことを聞きながら、結ヶ丘へと歩を進めていくのだった。
*****
「ダメだったデス……」
校舎に入って早々、がっくりと肩を落とした可可を発見。というか待っていたのだろう。彼女に何があったのだろうか。教室に荷物を置く時間も惜しかったので、廊下で何があったのか尋ねる。
「どうしたの?」
可可は無言で紙を見せてきた。そこには部活申請書とあり、部名は”スクールアイドル部”。部員には3人の名前が。
「もしかして提出したの?」
つまるところ、提出しに行ったのはいいが追い返されたと見ればいいだろう。しかしだ。何故────
「俺の名前が入ってるんだよ!?」
申請書には始の名前も書いてあったのだ。ツッコまずにはいられない。
「こういうのは少しでも人数が多い方がいいんデス!」
「そ、そういうものかな?」
「そういうものデス。それに可可は今困っています。始さんであれば助けてくれるマスよね?」
ここまで困っている様子の彼女を見れば手を差し伸べてやりたい。けど、部に入るとなると少々抵抗感を覚えてしまう。
「自分に嘘を吐くのはやめたのではなかったのデスか?」
「うわぁぁぁぁ!! やめろ、言うなよ恥ずかしい!!!」
よりにもよって避難所で口に出した言葉をここで持ってくるとは。思い返すだけでも恥ずかしいのに、誰かに言われるとよりゾワゾワとした感覚が体中を走る。
「それより!!」
可可に始がボコボコにされている中、かのんが仲裁。話を元に戻さんと、可可に尋ねる。
「クゥクゥちゃんはその申請書を提出したけど、断られたってことだよね?」
「そうでした。はい、かのんさんの言う通りデス。”スクールアイドルはこの学校には必要ない”と葉月さんが」
やはり部員がいてもダメなものはダメということのようだ。さらに可可が言うには、部活は葉月さんを中心とした生徒会が管理するらしい。そこに受理されなければ部室はおろか、活動だって許してはくれない。
「……」
「始くん(さん)?」
無言で立ち去ろうとする始を2人は呼び止める。すると彼は予想通りとも思える言葉を口にした。
「葉月さんと話してこようと思って」
「あなたは?」
「俺は夏空始……なんてことはどうでもいいんだ。葉月さん、どうしてスクールアイドルは必要ないんだ? それを教えてくれないか」
最初に声を掛けた時にはそれほど怖そうな雰囲気を感じてはいなかった。がしかし、スクールアイドルという言葉を聞いた途端、彼女の目つきがどことなく鋭くなったような気がした。
「その話は先ほども伝えたはずですが?」
彼女の目線は始の後ろに立つ可可に向けられていた。こちらから同じ説明をしたくない。彼女から話を聞けと言うことか。
「それでもわからないから聞いてるんだよ。だって部活だよ!? 生徒が集まってやりたいことをやる。それの何がいけないの?」
かのんも恋に疑問をぶつける。人も少なく活動内容が意味不明であるものならともかく、スクールアイドルは世間でも注目されており、大きな大会だって開かれている。拒む理由が”必要ない”だけでは納得いかない。
「スクールアイドルにも音楽といえる要素があります」
「音楽の要素を持つ以上、他の学校よりも優れていなきゃってことか?」
「はい。そうでなければ音楽科のあるこの学校の価値が下がってしまいますから」
ごもっともだ。この結ヶ丘は音楽に力を入れていると謳っている。そこに所属するスクールアイドルの成績が低かったとしたら学校の評価にも影響を与えてしまう。それは避けたいところかもしれない。
「レベルの高いものじゃないとダメってこと?」
「それなら大丈夫です。可可とかのんさんなら────「本当にそう言えますか?」
恋は可可の言葉を信用することはできない。
今やスクールアイドルは人気故に多くの学校で活動が行われている。それに伴って注目されるには高い技術が要求されている。そんな状況下で結ヶ丘の代表として恥ずかしくない成績を上げられるのかと、恋は問う。
「もう一度言います。音楽に関してはどの学校よりも秀でていなければ、学校の価値が下がってしまうのです。それでもやりたいと言うのなら────」
音楽の要素を持つものを扱う以上、他校に劣るわけにはいかない。だから博打じみているスクールアイドルの活動を認めるわけにはいかない。それが嫌なら────
「他の学校に行くことですね」
恋の言い放った言葉に言い返せる者は誰もいなかった。
「これはどうしたものか……」
かのんと可可がスクールアイドルを始めようとしているのに、どうもスムーズにはいかない。ウルトラマンと彼女たち。考えることが山済みで授業内容が頭に入るのかと不安がよぎる。頭を掻きながら教室へと戻る途中、光の門が開いた。
「うわビックリした!?」
つまりも何も、ここに入れってことだ。始は恐る恐る門をくぐった。
『よう、夏空始……で合ってるよな?』
すると自分と同じ大きさのゼットが姿を現し、始の名を確認する。無論間違っていなかったので首を縦に振る。
「けどどうしたんだよ。名前を確認するだけで呼んだんじゃないだろ?」
『いや、改めて自己紹介しようと思って』
律儀な巨人だと始は驚いた。一体化した時もそうだが、ウルトラマンは案外人間と同じような性格をしているのかもしれない。
『俺の名前はウルトラマンゼット。M78星雲光の国から来た』
「そうなんだ。前にいたウルトラマンも同じ所から?」
『いや、始の世界にいたウルトラマン……ウルトラマンオーブ先輩は別の星が出身だと師匠に聞いた』
目の前にいるゼットと以前この星を守っていたオーブ。同じウルトラマンという括りでありながら、出身は別の場所。なんだか不思議な気分だった。
他にもそういった出身の異なるウルトラマンはいるのか、ゼットに尋ねてみる。
『ああ。U40という星が出身のウルトラマンもいるそうだ。師匠に聞いた』
その師匠と呼んでいる人物からは数多くのことを教わったようだ。固い絆で結ばれた師弟関係なのだろう。間違いない。
「へえ~」
『話を戻すぞ。俺は宇宙の平和を守る宇宙警備隊のメンバーなんだ』
ゼットの話によると、今宇宙では”デビルスプリンター”と呼ばれる邪悪な因子が数多の宇宙中に広がっているらしい。
「数多の宇宙……ってなに?」
『マルチバースだ。ええっと……師匠が言うには……自分が存在している宇宙とは別の宇宙がたくさんあるとか……ってやつみたいだ。ちなみに俺も、こことは別の宇宙から来た』
なんだかスケールのデカそうな話だ。地球が怪獣の脅威に脅かされているというのが気にならなくレベルである。
『またまた話を戻すぞ。その因子を飲み込んだ怪獣が、狂暴化してあちこちで暴れまわっているんだ』
その事態に対応するため、先輩ウルトラマンの力を込めた”ウルトラメダル”と、そのメダルを読み込み、ウルトラマンの力とする”ウルトラゼットライザー”が開発された。しかし、先日地球へ飛来したゲネガーグが光の国を襲撃。アイテムを丸呑みして逃げ出したらしい。
『俺は師匠のウルトラマンゼロと追いかけたんだが、師匠は四次元空間に呑み込まれちまった。だから俺1人でこの地球に来たってわけだ』
「そういうことだったんだ」
それにしてもゼットは以前のおかしな話し方ではなくなっていた。地球の言葉はウルトラ難しいとか言っておきながら、短時間で学び直したのだろうか。それもそうか。全宇宙ともなれば、様々な言語を話せるようにならなければいけないのだから。
『俺の言葉遣い、ここまでで変なところありまへん?』
「…………ま、まあそんなにはね」
前言撤回。
『そうか。とにかく、散らばったメダルを回収しないとな』
「あ、そうだ。ゼットって何歳?」
始が尋ねてきたことに、ゼットは困惑気味だ。けれどこれから一心同体としてやっていく仲だ。そういったことも大切だろうと始は諭す。
『大体5000歳だが』
「え、じゃあ滅茶苦茶年上!? うわ……すみませんタメ口で話しちゃって」
『なに? なんだその話し方は!?』
5000歳という人間では絶対に到達することのできない年齢を口にしたゼット。そうと分かった始は敬語で話始める。やはり年上を敬わなければ。しかし敬語で話しかけられたゼットはまたもや困惑気味だった。
『なんか……え、やめて……やめてよ……ウルトラ気持ち悪い……』
敬ったことはあれど、敬われるという経験はないのか、ゼットはやめるように声を震わす。
「そう訳にはいかないですよゼットさん」
『頭……頭が低い……ウルトラ低い……』
敬語で話される状況を処理しきれていないゼットを無視し、始は腰についたホルダーを指さして尋ねる。
この青いカラーリングのホルダーは目立ちすぎる。それに伴って正体がバレてしまうのではないだろうかと。最初はそれを危惧し、家に置いてこようとも思ったのだが怪獣出現が頻繁に起きる世界だ。備えあればというやつで着けてきた。またゼットライザーもカバンの中にある。
『それについては問題なしだ。地球人には見えない物質でできているからな』
「本当ですか?」
『本当だ。全く見えていない。誰も気づかなかったろ?』
そう言えばそうだ。今朝から着けているがかのんや可可は勿論のこと、生徒会長の葉月さんからも何も言われなかった。
「そう言われれば……」
『だろ。だから問題ない。大丈夫だ』
ゼットの言葉に納得し、始は教室へと戻っていくのだった。
「あのコンチクショ~許すまじ……」
放課後、場所はかのんの家兼喫茶店へと場所を移す。
可可はその可愛い顔を歪めて1枚の紙をテーブルに叩きつける。
「なにそれ?」
「かのんさんも始さんも書いてくだサイ!!」
「だから何をだよそれ」
部活申請書なら可可が自分の名前まで書いてくれたじゃないかと、思いつつ紙を手に取って目を通す。
そこに書いてあったのは入学し、1学期も終わってない頃にお目にかかるような文字ではなかった。
「これって…………退学届け!?」
始の驚愕した声は喫茶店を大きく震わせた。