Superstar-Z   作:星宇海

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お待たせしました……。


第50話 冷炎海獣出現(後編)

 

 ウルトラマンゼットがレイキュバスに敗れた。

 

 守るべき人々の前で、無惨にも氷漬けにされる姿を晒した光の使者。その衝撃は計り知れなく、巨人の活躍を見守る者達は言葉を失うしかなかった。

 

「どうすんだよ……」

「ウルトラマンがまけちゃった……」

「うるさいな! 俺たちに何ができるってんだよ!?」

「天使様に、天使様に祈るしか……!」

「馬鹿! そんなんに祈ってどうするんだよ!?」

「天使様……天使様……」

「ええ……ちょっと!」

 

 一言で言えばパニック。

 人々は思いおもいの感情を吐き捨てる。涙を流す者、ただ怒る者、そして天使とやらに祈る者……。一体の巨人が無力化されるだけで、こうも人間は希望という光を濁らせる。それが男には堪らなく愉快だった。圧倒的弱者。無力で愚かな姿。我々に導かれるに相応しい生物。

 

「……」

 

 無表情だった男の顔は……不気味に歪む。

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

(そりゃあんな事があったんだ。気分も落ち込むよな)

 

 人々の安否確認のため、現場近くの避難所に立ち寄った正太は内心納得していた。入った途端、その場に漂う重たい空気を前にすると、己の力不足を嫌でも自覚させられる。

 外を見てきたが、設営途中の屋台等があった。おそらく祭りの類を開催する予定だったのだろう。それが海獣出現とウルトラマンの敗北。二重の絶望に晒されている。重たい空気がより酷くなるのも道理だった。

 

「隊長!」

「昌子、無事で何よりだ」

「すみません。私が油断したばかりに……」

「仕方ないさ。が、飛び道具の警戒をしておくべきだったな。次は気を付けろ?」

「はい!」

 

 ポンと肩を叩き、先の戦闘の反省は終了だ。今は次の対策を練らなければいけない。セブンガーの修復については、先程バコさん率いる整備班が現着し至急対応中との事だ。

 

「レイキュバスの活動は?」

「今は非活性状態ですね」

「寝ているということか……なんとも呑気な野郎だ」

 

 あれからレイキュバスは活動を停止している。勝利に酔って休眠をとっているのだろう。その静けさがむしろこちらを苛立たせるのだが。彼らが避難所を周っていると、知っている顔ぶれが。

 

「君たちは……」

「あなたはストレイジの……」

 

 恋の声に続き、千砂都と可可が顔を上げる。その会釈からも彼女たちの心情が滲んでいる。成程。おそらく始とここへ来た際に海獣案件に巻き込まれたのだろう。ウルトラマンと共に戦う少年の隣にいる者たちに降りかかる運命……というやつなのだろうか。光の使者の戦いは、いつだって周囲の誰かの平穏を奪っていく。だから”彼”も、当時は非常に辛かったのだろう。あの戦いを超え、それなりに互いの関係へ折り合いをつけた今になって……ようやくそう思える。

 

「始ハ……! 始は無事デスカ!!」

 

 可可は食って掛かる勢いだった。晶子も、そして正太も事を察して口を噤む。それが回答となってしまったのか、彼女は表情に影を落とす。

 それは恋も同様だった。「やれることをやる」そう言って駆け出して行った彼の背中がフラッシュバックする。あの時、引き留めておけばよかったのではないか。そう考えてしまう。ストレイジも、ウルトラマンも負けたこの状況で彼が無事でいる確率は限りなく低い。あれが最後の会話になるなんて、とてもじゃないが納得できない。

 

「……お前たちが信じてやらないで、誰が信じてやるんだ」

 

 発した言葉は、曖昧なものでしかなかった。確証を持てるものではなかった。でも正太の言葉は静かに、それでいて確かに3人の心を揺らした。息を呑む沈黙。それを最初に破ったのは千砂都。

 

「そうだよ。始くんは……始くんはきっと大丈夫! 今までだってそうでしょ?」

「……そうですね。千砂都さんの言う通りです」

「これだけ心配サセテ……後でアイスを奢ってもらいマス!」

 

 恋の声には揺るがない芯があり、可可は拳を握っている。そんな彼女の言葉に空気が少しだけ軽くなる気がした。そうだ。彼はこれまで無事に戻ってきた。なら今回だって大丈夫。今も逃げ遅れた人を助けるために力を尽くしているのだろう。戻ってきたら笑顔で迎えよう。とはいえ小言くらいは許して欲しいが。

 

「その意気だ」

 

 正太の目尻が、ほんのわずかに緩む。彼には珍しく、作り笑いでは無いように思えた。そのまま避難所を巡回し、彼は避難所を後にする。その直前、先の3人から声を掛けられた。「ありがとう」と。

 

「別に……隊長として、先輩として……”らしいこと”をしてみただけさ」

 

 彼の真意は3人に伝わり切ることはない。だが、彼の背中が頼もしく見えていたのは事実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、レイキュバスに凍らされたゼット。始もインナースペースの中で倒れこんでおり、周りは氷に閉ざされた状況だった。ここにはゼットの光も声も届かない。

 

(クソ……体が動かない……寒い……)

 

 体が凍りついてまともに動かすこともできなかった。それに加え、意識が徐々に途切れていく感覚がある。刺されたナイフがじわりと深くを刺していくような……そんな嫌な感覚だった。

 

「俺には……まだ力が足りないのか……」

 

 まだだったんだ。自分の力はこんなものでは無いはずだ。もっとやれるはずだ。そう思っていた。けど違った。まだ自分1人で何とかできる程自分は強くないのだ。

 

「それは違うぞ、始」

「……え?」

 

 途端に聞こえる懐かしい声。耳を疑った。それはもう聞く事はできないはずの声だったのだから。

 

「父さん……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『隊長、レイキュバスが活動を再開。進路予測から、どうやら都市部に向かって進行を開始したみたいです』

 

 避難所を出た幾分か後、結衣から通信が入る。お目覚めで目指すのは人口が密集する都市部。火球で焼き尽くすのか、それとも冷気で氷河期でも呼び込むのか……。どちらにしろ甚大な被害が出ることは間違いない。晶子と顔を見合わせる。セブンガーはまだ整備中。しかしそれだけでは足りない。ウルトラマンゼットの救出も同時に行わなければいけない。困難なミッションだ。

 

「セブンガーしか動けない状況で……」

 

 正太は考えを巡らす。2つのミッションをこなすためには何が必要か。何がいるのかを。そして彼は意を決して言い放った。

 

「……結衣、ファイヤーウインダムを出す」

『隊長!? む、無茶ですよ!! まだ実戦演習も終えてないし……それどころか欠点だらけで何も解決してない……』

「わかってる。が、1分は使用可能だろ?」

 

 彼は結衣とは真反対の落ち着いた口調で話しかける。課題しかないその装備。でも使う事は可能なのかと。

 

『理論上は』

「砲身も数発は耐えられる」

『おそらく……』

 

 結衣の不安が混じる曖昧な答えにも、彼は「なら問題ない」ときっぱり言い切る。動けば問題ない。それが彼の答えの様だ。

 

「昌子はファイヤーウインダムで待機。合図を出したらまずはウルトラマンゼットの氷を溶かせ。そして同時にレイキュバスを叩く」

「けど、レイキュバスはあの場所から離れてます。溶かしてからじゃ時間切れに……」

「大丈夫だ。レイキュバスを元の場所まで誘導する」

 

 それは綱渡りにも等しい作戦だった。これは賭けだ。誘導役は非常に危険な役目だし、一歩間違えれば全滅もあり得るのだから。

 

「結衣、40㎜汎用機関砲を積み、ウインダムを特殊運搬車で運んできてくれ」

『まさかセブンガーで?』

「ああ、それしかないだろ」

 

 結衣が困惑の表情を見せる隣で、正太は当たり前の様に言い放った。

 先のレイキュバスとの戦闘でセブンガーはダメージを負っている。応急処置で戦線復帰出来ても、100%のポテンシャルは発揮できないだろう。それは彼も承知済みの筈。その状態下で誘導を行うのは自殺行為に等しかった。でも彼の覚悟は固い。ゼットを救うためには誰かが危険を引き受けなければならない。でも彼は信じている。仲間を、そしてウルトラマンを。それに聞きたいのはもう1つある。

 

「けど操縦は誰が……」

「俺だよ」

「『……え?』」

 

 結衣の声と昌子の声が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うって……違うってどう言うことだよ! 父さん! 待ってよ父さん……置いてかないでよ!!」

 

 始の叫びが静かな空間に虚しく響いた。それはただの少年。覚悟も強さもない、年相応の縋り付く声だった。

 

「始、1人で何でもできると思っているうちは……お前の強さはそこまでだ」

 

 父は振り返らずに、低く言い放った。けれど始は意味も考えられず、ただ手を伸ばすのみ。しかし、父は去り際にふと足を止める。次に出た声は先ほどよりも少しだけ……柔らかい声だった。 

 

「いいか、始。お前は1人じゃない。……仲間を信じろ」

 

 それだけを言い残し、父の姿は消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、マジで言ってるのか!?」

「マジも大マジですよ、バコさん」

「……ったく、お前が乗るとよ、整備が普段の倍は必要になってくるんだがな」

「人類の危機なんですから大目に見てくださいよ」

「お前それ何回目だよ……」

 

 ぶつくさと正太に話しているが、きっちりセブンガーの整備は済ませている。さらに正太の癖などを理解し、彼好みの調整を施して。隣を見るとどうやら結衣も到着したようだ。換装済みのウインダムを荷台から降ろし、晶子はコックピットで待機。準備が着々と進んでいく。

 40㎜汎用機関砲。セブンガーの追加武装として開発された、自動小銃に似た実弾兵器の1つだ。実戦投入時、怪獣に奪われるという失態があったが、暴発が起きて逆に討伐成功という奇妙な経歴のある武装だ。因みにその暴発問題も一応解決はされている。

 

「ぶっ壊したら承知しねぇぞ?」

「善処します」

 

 コックピットハッチを開ける感覚。加えて操縦桿を握った時の感触。それらは懐かしい記憶を蘇らせてくる。

 

「久しぶりだなセブンガー。僕は部下を……後輩を助けたいんだ。力を貸してくれるかい?」

 

 コンソールを撫でながら戦友に語り掛ける。返事はなかった。しかし起動スイッチを押し、何ら不具合なく再起動した事が答えであると彼は信じていた。

 

「……ありがとう」

 

 その状況を見下ろしていた男は吐き捨てる。

 

「なにを愚かなことを」

 

 人間が躍起になったところでもう遅い。足掻いても無駄だと。素直にこちらへ全てを預ければ良いのだ。余計な足掻きは、より深く絶望するだけだと。

 

「こちら正太。出撃準備が整った。結衣と昌子の方はどうだ?」

『こちら晶子。ウインダムはいつでも起動できます』

『これ……本当にやるんですか? マガジン射出装置だって……位置情報がバグってテストでも上手くいかなかったじゃないですか』

 

 特殊運搬車に搭乗している結衣からの通信。この車両は特空機の支援メカとして開発された。特空機や支援武装の運搬、簡易充電が主な使用用途だ。しかし実弾兵器を用いる際に、銃弾の補給としてマガジン射出装置を搭載している。とはいっても、これも欠点だらけだが。

 

「そこはこっちから合わせるから、結衣は合図したら射出してくれればいい」

『……了解』

『隊長……ここで待ってますから』

「期待してて待っててくれ」

 

 短い言葉のやり取りだった。それでも誰もが覚悟を決めていた。誰かがやらなければゼットは戻らない。誰かが危険を引き受けなければ、レイキュバスの魔の手で人々が悲しみに包まれる。次は負けない。その意思は1つだ。

 戦えない人々を守るため、ウルトラマンを救出するため……ストレイジは作戦開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

実用行動時間、残り3分(「作戦開始」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 起動のアナウンスと共に、活動時間のカウントダウンが開始される。セブンガーのブースターを併用して地面を蹴り出した。巨体とは思えない加速。そして誰の操縦よりも軽やかに。セブンガーとは別ルートで特殊運搬車も発進。

 

「よし……捉えたぞ」

 

 移動を開始してから数十秒。何倍にもズームされ、あの甲殻類に似た姿を捉える。正太はスイッチを操作し、セブンガーの出力を上げると共に武器の安全スイッチを解除した。

 

「マガジン、初弾確認。セーフティ解除、自動連射。光点確認、遮蔽物なし。……ファイア」

 

 トリガーが引かれ、銃が低く唸る。連射音が空気を震わせ、絶え間ない火花が飛び散る。放たれた弾丸はレイキュバスを正確に貫き、爆ぜた粒が弾ける。

 突然の襲撃に怒声を上げた巨体が180度回転。攻撃を当てた不届き者を目の前に捉えるや否や、負けじと火球を連射する。

 

「食いついたか!」

 

 右ブースターだけを点火。セブンガーの巨大が横滑りするように軌道を変え、火球の中を紙一重で回避する。ロックオンを確認しつつ即座にグリップを引き絞る。再び撃ち込まれる弾丸がレイキュバスの怒りを煽る。

 

「そのままついて来い」

 

 踵をかえし、逃げるように見せかけて距離を取る。けれどヤツは逃す気は微塵もない。頭上から降り注ぐ火球の雨。咄嗟の判断と精密な操作がセブンガーを舞踊のように踊らせた。爆炎が弾ける。爆風で装甲が焼き付く。それでも操縦桿を握る手は迷わない。機体を反転させ銃弾を振りまく。残弾数がレットゾーンに達した。そろそろ弾切れだ。

 

「結衣、リロードだ!」

『こんなの……どうなっても知りませんよ!』

 

 トレーラーからマガジンが射出される。GPS誘導で計算されてはいるがこれも欠陥だらけの装備だ。精度はそこまで正確じゃないし、なんなら全く別の方向へ飛んでいくことすらある。

 

「射出が正確じゃないならこっちが合わせればいい」

 

 攻撃を避けながらチャンネルを変更。メインカメラ、サブカメラで飛来するマガジンを視認した。セブンガーは地を蹴り、跳ぶ。機体の限度ギリギリの姿勢制御で空中キャッチ。着地と同時にリロードを完了させ、銃口をレイキュバスに向ける。

 

「……!」

 

 引き金が引かれ、連射される銃弾。レイキュバスの動きが鈍る。そして数秒後、地をかけるスピードがより速くなる。狙い通りの動きに正太はこの極限状態でも笑みを見せていた。

 

「■■■■ッッッッーーー!!」

「結衣、次だ!」

 

 セブンガーは間髪入れず次のマガジンを要求。再び射出されたマガジンを走りながら受け取り、滑らかに装填。再度の連射。一定のリズムで撒かれる弾幕が、レイキュバスへ確実にダメージとして蓄積されていく。

 それを幾程続けたか。セブンガーの活動限界時間も迫っているし、弾薬も残り少ない。けれど戻ってきた。あの場所へ。

 

「そろそろか。昌子!」

『任せてください!』

 

 ゼットの氷像が眠る地へ。セブンガーは装甲が焼き付き、黒ずんだ箇所が目立ってきている。それでも勢いは止めない。火球の雨に対抗するように、弾丸を撃ち込む。ランデブーポイントへの到達を確認した証拠も、己の機体を起動させた。

 

「行くよ……ファイヤーウインダム!!」

 

 メインカメラが閃き、起動したのは課題だらけの装備を纏った次男坊。赤い鶏冠と左腕の砲身は、通称の如く赤く光っているようだった。ウインダム高火力砲装備型……通称"ファイヤーウインダム"が立ち上がった瞬間だった。

 

《冷却システムオンライン。実用行動時間、残り1分》

 

 ウインダムの運動性は元から高い。それを活かして高く跳ぶ。レイキュバスをかく乱しつつ、ゼットの氷を解かすためだ。

 

「照準確認。出力調整。ファイヤーショット……発射!」

 

 威力を微調整して放ったファイヤーショットはゼットの氷像に衝突。爆発を煙が一面に上がる。これがもし火力が高すぎた場合、ゼットは粉々に砕け散る。逆に低ければ貴重な一発を無駄にしたことになる。加えてレイキュバスだってそう何度もやり直しをさせてくれるとは思えない。

 

「戻ってこい……始……」

「お願い……ウルトラマンゼット」

 

 だが煙からは何も見えてこない。失敗なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、誰にも知られることのない氷の中では、少年が手を伸ばしている。白く暗い世界の中に生まれた一筋の光。その光は力と暖かさを"彼ら"にもたらした。少年と巨人の意思が再び輝きを灯す。声を上げ、その世界で彼の名を叫んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「■ッ■ッ■ッ■ッ!」

「黙ってろ!」

 

 嘲笑うような声を上げるレイキュバスに、ゼブンガーのタックルが炸裂する。地面を転がり、怒り狂ったヤツは特大の火球を放とうと口を広げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────その時

 

 

 

 

 

 

 

 

『「アルファバーンキック!!』」

 

 業火に包まれた脚部がレイキュバスを再度吹き飛ばした。見間違う事はない。夢でも幻でもない。宙を回転し、地面に降り立ったその轟音が何よりも証拠だ。

 

「……来たか」

「よし! よしよしよし……!!」

「作戦……成功っ!!」

 

 ウルトラマンゼットが復活したのだ。ストレイジによって灯された光はゼットの復活を持って最大限に輝いた。遠くの方から人々の歓喜の声が聞こえてくる。それはペースがこちらに傾いた合図だと、そう思わせるには十分だった。

 

「もうさっきの様なヘマはしない」

『ああ、もうやられはしない!』

 

 ゼットと始の心が強くリンクする。光が躍動し、ベータスマッシュへウルトラフュージョン。リターンマッチ開始のゴングが鳴り響いた。ファイヤーウインダムも再度気合入れるように全身のエンジンが唸る。真正面からレイキュバスへ突っ込んだ。今度こそ倒す。その意志は皆同じ、そして戦場の空気を燃え上がらせる。

 

『ウルトラ……燃やすぜ……!!』

 

 途端、身体から灼熱の炎が噴き出した。しかしゼットはこの技についてはよく知らない。気合いで発動しているだけで何の力が、どのような理屈で発動しているのかなんて考えていない。でも今はそれでよかった。レイキュバスの冷風に耐えれるのなら、火球を打ち落とせるのなら。

 

「『何度も喰らうかよ!!」』

 

 青い目へと変わったレイキュバスの冷凍放射。しかしゼットには効かない。ゼットランスファイヤーの発動で盾としているからだ。隙を作ってしまったヤツには火炎弾が撃ち込まれる。青い目が赤い鶏冠の獣を睨む。それがまた隙となった。ゼットの放つ回し蹴りで吹き飛ばされたのだ。

 

「■■■ッ、■■■■ッッ」

 

 困惑と怒りの混じった叫びがレイキュバスから聞こえる。だがそんなのは関係ない。巨大な鋏を交わし、ゼットとウインダムが交互に攻撃を撃ち込む。

 

「ファイヤーショット……発射!」

 

 ゼットの立ち位置を阻害しないよう、横へ滑るようにして射撃位置へ立つ。ロックと同時に放たれたファイヤーショットがレイキュバスの体から爆発を起こさせる。

 

『「ベータレーザー!』」

 

 レーザーが身体を貫き、ゼットランスアローの刃が固い殻をこじ開ける。そして撃ち込まれるファイヤーショット。焼き付く痛みに悲鳴を上げながら、2体の連携にレイキュバスは命の危機を感じ取る。だからなのか、死への恐怖、生への渇望という生き物の本能が反撃の力を与える。

 

「くっ……!」

「この!」

 

 押し戻されたゼットとファイヤーウインダムは膝をつく。形勢は一旦リセットかと思われたが、レイキュバスは銀色の拳に殴られフラフラと体幹が揺らいだ。

 

「おい……僕も忘れてんじゃないぞ間抜け」

 

 起動時間ギリギリのセブンガーが放った硬芯鉄拳弾だ。

 

『始、跳ぶぞ!』

「わかった!」

 

 高く跳んだゼットは回転と捻りを加える。頭部へ向かい、威力を増大させた両脚を打ち付けた。ゼットが地面に着地すると同時に、レイキュバスは倒れこんだ。

 

「今だ! ウインダム!!」

 

 始の声は聞こえない。でも意思は伝わっている。その想いに応える様に再度銃口を向けた。撃てるのはあと1発。稼働時間、砲身ともに限界が迫っている。

 

『晶子、出力最大でぶっ飛ばしちゃえー!!』

「了解。ターゲットロック、全出力最大……」

 

 警告音が響くが、開発者結衣の頼みだ。ここは無視させてもらおう。

 サークルが赤くなる。爆発ギリギリのチャージ音を耳で捉えながら、レイキュバスを見据えてトリガーを引いた。

 

「ファイヤーショット……発射っ!!」

 

 放たれた火球は豪速球の如く空間を疾走。一直線にレギュバスの腹部へ突き刺さる。抵抗を許すことのない大激震の後……爆裂。高エネルギーの奔流に耐えられない宇宙海獣は、悲鳴を上げる間もなく粉々に四散していったのだった。

 

《危険、砲身溶解。……ウインダム活動限界》

 

 砲身は熱に耐えられず溶けてしまい、電力も底を尽きたためファイヤーウインダムは機能を停止する。

 

『……ありがとう、ウインダム』

「みんなのお陰です。ありがとうございます」

 

 己を救ってくれた特空機とストレイジに頷くと、ゼットは空を駆けていくのだった。

 

「……」

 

 Zの軌跡が描かれた空の下、不服そうに特空機を睨む男。だが彼はすぐに無表情に戻り、その場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイキュバスの出現。そしてウルトラマンゼットの敗北。人々の平和が危ぶまれた数時間はようやく終わりを迎える。無限にも等しかった筈なのに、終わってみれば呆気ない。

 

「よし! 準備を進めるぞ!!」

「え!? あんな事があったのに……?」

「馬鹿! ……あんな事があったからこそやるんだよ」

 

 開催が危ぶまれているお祭りだが、ボランティアに参加する男性は言い切った。怪獣の出現は不明確で予測のつかないもの。そう理解しているものの、恐怖が消え去ることはない。だからこそ、人々の明るさが必要なのだ。祭りのような明るい場所が。日々の喧騒や不安、ストレスを忘れて皆んなが楽しめる祭り事が。

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

「く、クゥクゥさん……?」

「次、行キマスヨ」

「ちょ、ちょっと待てって……」

 

 その夜、お祭りは予定通りに開催されることとなった。時間は短くなってしまったし、被害を受けてしまった所もある。けれども開催出来たのはここにいる人々のお陰なのだろう。

 

「始!」

「こ、これも?」

「ッ!」

 

 物言いたげな目を始に向けつつ、屋台の商品を指差している。ここで改めて言葉で問うと言う選択肢はおすすめできない。彼女の機嫌をより悪化させかねないからだ。屋台に立つ2人の男女も苦笑いしている。実際、戻ってきた始に対し3人がどんな反応を見せたのか……間近で見ていたからだ。

 

「すみません。これください……」

「あいよ! ……災難だが、今回は受け入れるしかねぇよ

デ、デスヨネ……ははっ……」

「ありがとうゴザイマス! ……始!」

 

 どうやら彼女の機嫌はまだまだ治らない様子。周りで響く笛や太鼓の音と賑わう人々の声。そして鼻腔をくすぐる食材の匂い。楽しい空間のはずなのに、始だけは違うようだ。

 

「栗山長官に激怒されるかな……」

「隊長、大丈夫なんですか?」

「まあ戦果は上げたんだからトントンだろ」

 

 一方、周辺の巡回を行っているストレイジの3人。祭りに混ざりたいところだが、今はまだ任務中。彼らは今日の行動を栗山にどやされるのではないかと不安なのだ。ファイヤーウインダムは正式採用の装備ではない。まだテストも碌に終わってないようなものを現場判断で戦地投入したのだ。個人の持ち物ではなく組織の持ち物。大破でもしたら大問題になるのだから。とは言ってもウルトラマン救出にレイキュバス討伐。これらはファイヤーウインダムがいてこそ成し遂げられたもの。何かは言われるが、そこまでうるさくはならないだろう。

 

「ウインダム高火力装備については今後も改善を続けていきます。今回の戦闘で得られたデータも、特空機開発に役立つと思いますし!」

「結衣、ウインダムの次があるの。もう?」

「一応話だけはね。でも今はまだそこまで詰めなくても良いかなぁ」

 

 神津島での一件以降、特空機の評価はうなぎのぼりだ。恐らく現場に居合わせた彼の言葉が響いているのだろう。ウインダムに続く新たな特空機の開発計画も進んでいるらしい。しかしこの話はまだ企画段階。本格的に動くにはまだ時間が掛かると結衣は笑った。

 

「……っと、辺りを見て回ったが大丈夫そうだな。ビートル隊もいるようだし」

「ホント、終わってから来ますよね……」

「あの遅さはわざとですか?」

「そう言ってやるなよ。俺はもう少し見て回ってくるから、2人はもういいぞ」

 

 ビートル隊、怪研も現場に来ているようだった。ビートル隊はことが終わってから来る。それが許せない晶子と結衣。でも正太はそれを笑って宥める。

 

「ってことは?」

「ああ、楽しんで来い」

 

 つまりは”そういう事”。言葉にしなくとも彼の頷きが答えだった。2人は顔を見合わせて笑う。そして正太の腕をそれぞれが掴んだ。

 

「けど……」

「今日は……」

「……?」

「「隊長も!!」」

 

 そう言って彼を引っ張りながら出店へと向かうのだった。

 

「お、おい!? 引っ張るな! やめろ!!」

 

 可可に従うしかない今の始は、千砂都が出しているたこ焼きの屋台へと来ていた。

 

「お、励んでるね!」

「励んでるってお前……ま、まあ今回は危なかったけどこうやって───「っっ! 笨蛋!! 别得意忘形ーー!!!」

「クゥクゥ!? ごめん、ごめんって!!」

「あははっ、でも流石に今日は始くんが悪い!」

 

 千砂都にきっぱりと言い切られてしまうと、もう何も言い返せなかった。彼女にはそう思わせるだけの迫力があった。

 でも確かにそうだ。己の油断が”あの結果”に繋がってしまったのだから。短時間とはいえだ。正体を知らない彼女たちには、自分が戻らないという状況でどれほど心配をかけてしまったのだろう。そう思うと、彼女たちこう言われても仕方ない。しかし彼女はすぐに口元を緩めた。怒ってはいるが、そこには楽しさや優しさというものも確かに含まれているのがわかった。

 

「ごめん、心配かけたよな。こういうことはしない……っていうのは出来ないけど、もう少し考えるよ」

「でも、無事でよかったです。戻ってきてくれて」

 

 すると挨拶などを終えた恋が合流してくる。彼女の言葉は、単純な罵倒や責める言葉よりも重く響く。彼は再度謝罪の言葉を口にする。

 彼のそれが本心からの言葉だという事がわかるから、3人は息を吐き、互いに目を合わせてから彼へと視線を戻した。

 

「ま、これだけ反省しているようですし~?」

「はい。これで不問にしましょう!」

「クゥクゥちゃんもそれでいいよね?」

「~~。しょうがないデスネ。いいデス、許してやりマス!」

 

 許しの声が出揃った時、彼は視線を落とし小さく頭を下げた。

 

「……ありがと。ほんとに」

 

 その小さく震えた声には、安堵や照れといった色が含まれていた。

 

「始! 照れてマス!!」

「ばっ……!? て、照れてねーし!!」

 

 可可の指摘に、ベータスマッシュ張りに真っ赤になった始。その顔を右腕で覆って隠すしているのが図星のように思えて、千砂都と恋が思わず笑いあった。さっきまでの緊張は、もうどこにも存在していない。

 

「はぁ……私、今年も参加できてよかったです」

 

 恋は今の楽しい時間を噛み占めるように、3人に伝えた。もう1人じゃないという事がこれほどまでに楽しいなんて……長らく忘れていたその感覚。それを思い出させてくれたことに。そして紆余曲折ありながらも今年も開催できたことに。彼女の伝えた想いはみんなも同じだった。

 

「俺も参加できてよかった」

「私も!」

「可可もデス!!」

「それでは、来年はかのんさんとすみれさんも一緒に! ですね!!」

 

 恋がぱっと顔を輝かせて言うと、3人も自然と笑顔になった。

 

「もっと楽しくなる気がシマス!」

「私もそう思う!」

「来年も楽しみだな」

 

 未来を思い描く彼女らの言葉。それらは風のように流れていく。

 

「ここは始の奢りデス!」

「いいんですか、始さん?」

「だってよ? はい、ちぃちゃん特製まんっまるたこ焼き!! 始くん、人数分」

「そ、そんなぁ……」

 

 始の嘆きに、3人の笑い声が弾けた。その笑いは、祭りのざわめきへゆっくり溶けていく。

 父の言っていたことは、始にとってはまだわからないことだらけだ。でも、先の戦いとこのやり取りの中で、少しだけわかりそうな気がした。今はまだゆっくりでいいのかも。始はそう思いながら、苦笑いを浮かべつつ財布を取り出した。

 

 

 





結ヶ丘情報発信部から公開された情報

《特空機2号ウインダム高火力砲装備型》
 ゼッパンドンの”ゼッパンドン撃炎弾”から得られた火炎データを元に、激化する対怪獣戦を想定して開発されたウインダムの強化プラン。運用目的と機体の相性から、ベース機はセブンガーではなくウインダムが選定された。
 通信能力を拡張するための赤色強化鶏冠ユニットと、主兵装となる高出力砲「ファイヤーショット」を発射する左腕部大型砲身ユニットを新規装備している。中〜遠距離での制圧火力を重視した設計で、従来機を上回る機動性も確保されている。
 また正式名称では味気ないとのことで、ストレイジでは”ファイヤーウインダム”と呼称されている。
 高い機動性と高火力を両立した反面、試験段階ゆえの欠点も多く、特に熱管理・電力効率の問題が深刻で、安全活動時間は1分に制限されている。

課題・弱点
• 高火力維持のため、機体稼働とは別系統で大量の電力を消費
• 発熱量が極めて大きく循環冷却システムが追いつかない為、熱暴走の危険性あり
• 「ファイヤーショット」連射時、砲身が溶解する危険性あり
• 熱暴走・電力枯渇のリスクから運用時間は1分限定

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