しかし非常に申し訳ないのですが、これからもっと空いてしまうこともあるのでどうかご容赦いただければ幸いです。
「い、1位!?」
かのんや可可、始から語られた内容があまりにも信じ難かったために、千砂都は声をあげてしまう。
理事長から提示された条件。それは近々開催される代々木スクールアイドルフェスに出場し、1位を取ることであった。
「いきなりのステージで1位か……ドンマイ!」
「「まだ終わってない!」」
もう終わったような千砂都の反応だったが別段おかしくない。むしろ正常といえよう。いくら歌が上手いかのんがいるからと言っても、スクールアイドルに関することは何一つやってきていない。日々パフォーマンスのレベルが上がり続け、激しい競争状態にあるスクールアイドルの世界。その中に半人前の彼女らが参戦し1位に、ましてや上位に食い込むことなんてはっきり言って無理に近い。だが現状、許可を貰うためにはこの方法しかない。彼女たち2人にとっては状況がとことん悪すぎる。
「私とクゥクゥちゃんで曲を作って練習するって話になったんだけど、ダンスとか振り付けは全然でしょ?」
「だから、ここはダンスをやってる千砂都にお願いできないかって話なんだ」
千砂都の空いている時間でどうにか教えて貰えないだろうかと、3人は頭を下げる。
「……しょーがないなー、ちぃちゃんの授業料は高いよ~?」
「ってことは?」
「うん、私でよかったら喜んで」
しぶられるのではないかと思ったが、彼女は快く引き受けてくれた。これで本格的に動き出せる。時間はないが一歩前進だ。
「これでダンスは百人力だね」
「ああ、千砂都のダンスは小学校の頃から評判だったからな」
「では、千砂都さんも一緒にスクールアイドル始めませんカ?」
「ダメだよ。ちぃちゃんは音楽科。そこまで無茶は言えないよ」
千砂都には千砂都の目的があって音楽科に入った。ダンスの指導だけでもありがたいのに、スクールアイドルを始めてしまったら彼女の目的が達せられなくなってしまう。そうかのんは可可を諭した。
イベントまで時間は残り少ない。あらゆる手を尽くして許可をもぎ取ってやろうと、4人は活動を始めることにした。
しかし、開始早々問題が。
「クゥクゥ、大丈夫か?」
「言い忘れてマシタ……すみ……ません……」
地面に倒れる可可に声を掛ける始。別に思いっきり疲れるメニューをこなした訳ではない。なんならまだほんの数分しか経っていない。
まずはかのんと可可がどれだけ動けるのか、千砂都のカウントに合わせてステップを踏んでいた……のだが可可はすぐに倒れ込んでしまった。聞けば彼女、運動が大の苦手らしい。
ステージで歌って踊る以前の問題だった。
人々が賑わう原宿の街中で、平安名すみれはクレープ片手に立っていた。
クレープを食べたいというのもあるが、その真意は他にあった。鼻の頭についたクリームがその印だ。
「うわー、おいしそー!!」
人々にはっきりと聞こえるように、わざとらしくリアクションをとった。彼女の瞳が2、3往復。けれども自分のことを見つけてくれた者はいないようだった。場所が悪かった。今回は諦めようと足を踏み出した瞬間……何かがつま先に当たった感覚が。
「なによ……これ?」
彼女が見つけたのは────
*****
「しばらくはダンスの練習と並行して体力を付けていこう。今日はゆっくりめのペースで走るから」
ダンスも歌も体力がなければ意味がない。なんならアイドルは5分近く体を動かしていなければいけないのだ。
ランニングウェアに着替えた始を先頭に4人は街中を走る。千砂都はダンスをやっていることもあって正直ぬるいペースかもしれないが、2人はそうもいかない。
「よしラストはダッシュだ!」
目の前の木をゴールに設定し、そこまで全力で駆け抜けた。
「急に止まるなよー! 歩いて呼吸を整えろ」
肩で息をする2人だったが、始の言葉に従い再び足を動かし始めるのだった。
「きょ、今日はこのくらいで勘弁してやる……デス……」
休憩となれば即座に倒れ込んでしまった可可。結構ゆっくりな走りだったがそれでも彼女には相当応えたらしい。発覚した可可の体力事情に、一同は驚きを隠せない。
「全然ダメじゃん! どうしてそれでアイドルやろうと思ったの!?」
「気持ちデス! スクールアイドルに一番大切なのは気持ちなんデス!!」
どれだけ技術を磨いてきても、最後に必要になってくるのはステージに立つ人物の気持ちが重要だというのは始たちも同意見だ。けれども、現状では踊れなくては意味がないという話に収束してしまうのだが。
「ちなみにダンスゲームでは完璧なコンボを繰り出せますよ?」
携帯を取り出し、リズムアプリで実践してみせる。タイミングも完璧でミスがない。
「リズム感はあるってことだね」
しかし時間はない。あっという間に本番になってしまうのだと可可に詰め寄っていく千砂都の姿は、幼馴染2人からしても恐ろしいものだった。
「こわ……なんか千砂都の迫力増してない……?」
「怒らせない方がいいかもね……」
「だな……」
その後先程と同じペースで走り終了となった。練習が終わるころには天高く輝いていた太陽も傾き、空を柑子色へ染めていた。
「お疲れ。あ、風呂入ってる時か後にストレッチしとけよ。それで次の日に疲れを持ち越さなくて済むから」
目に見えて疲れている状態の中、クールダウンを行う2人。
明日からは千砂都によるダンスレッスンも始まる。予想外の展開に見舞われたが、どうにか軌道を修正できそうだ。
「そうだ。曲作りもしないと」
かのんの言う様に、スクールアイドルは自分らで作り上げた楽曲を使用する。昔はコピーでもよかったらしいが、大会の規定整備によって”オリジナルのもの”でなければいけなくなったらしい。
「かのんさん……可可、書き溜めた歌詞がありマス……」
彼女は歌詞が書き溜められたノートをかのんへと渡す。そこにはスクールアイドルとしてどんなことを音に乗せたいか、何を伝えたいのかといった彼女の想いが綴られていた。
「私、これすっごくいいと思う! クゥクゥちゃんからもらった言葉……大事にして曲を作ってみるよ!!」
可可の綴ったノートを元に、かのんの曲作りもスタートすることとなった。
練習は段階を重ねて負荷を増やしつつ、千砂都のカウントに合わせてステップも覚えていく。可可は「グルジイ」と叫びながらも必死にトレーニングに追いついていった。彼女の言っていた一番大切なもの……気持ちが体を動かしていたのだろう。
「じゃあなー」
練習を終え、帰路についた4人。今日はいつもよりもう1セット多くこなしてきた為、解散するころには日もすっかりと暮れ、街灯が街を照らし始めていた。
「今日もお疲れ様、始くん」
「それは千砂都もだろ。自分のこともあるのにダンスのレッスンを引き受けてくれて助かったよ」
「にしても、始くんがあんなに体力あるなんて思わなかったよ」
「まあそう思うよな」
始はかのんや可可に対し、体力面での指導を担当している。空手をやっていた頃の経験を活かせるのではないかという声があり、実践してみたら面白い具合にマッチした。それが基礎体力を向上させるトレーニング法やその後のケアなどであった。けれども始は中学生で辞めた身。体力が落ちているのではと思われたが、千砂都と張り合うかそれ以上の体力を有していたのだった。
「何かやってるの?」
「走ったり、筋トレとかはやってるよ」
毎日じゃないけどと付け足す。確かに体力があるにはあるが、それ以外にもゼットとの一体化も絡んでいるのだろうと始は推測している。
「そうなんだ」
「うん。体動かしてないと落ち着かなくってさ。あーだこーだ言い繕っても……やっぱり諦められなかったってことなんだと思う」
誰かを助けけることが、逆に誰かを傷つけることになる。そう思って一度はすべてを辞めようと思った。正確には他にも理由があるのだが、今は触れなくてもいい。ともかく自分の本心に嘘を吐き、蓋をしたはずだった。けれども自分の純粋な憧れや想いを消し去ることはできなかったのだと、今ならわかるのだ。
「なんだよそんな嬉しそうにさ」
「ううん別に~」
何が彼女の心を刺激しているのだろうか。微笑んでいる千砂都に始は尋たのだが、はぐらかされてしまう。
「このこの~」
「痛いって。なんだよ?」
肘でわき腹を突っつかれる。けども彼からしたら意味が分からない。
「始くんはさ、もしかのんちゃん達が1位を取って了承されたら……そのままスクールアイドル部に入るの?」
途端、打って変わって真面目な雰囲気を纏い始に問う。
「そうしようと思う。俺も…………2人を助けたいから」
自分がこんなことを言えた立場なのかわからない。でも、彼女たちが迎えてくれるのなら。
「そっか。じゃあかのんちゃん達の事、ちゃんと助けてあげてね」
「……?」
不思議と千砂都の言葉は、どこか距離があるように感じた。自文とは違う場所を見ているかのような……遠い場所に行ってしまうかのような……そんな感覚が。
「じゃあ私こっちだから。じゃあねー!」
「あ、ああじゃあな!」
手を振っている間、先ほど感じたのはただの勘違いだろうと己に言い聞かせていた。どうやら自分も疲れているらしい。帰って早めに休もうと、始も歩き出した。
がしかし、その足をすぐに止めてしまうことになる。
『ご覧ください! 市民の通報を受けて現場に向かったところ、なんと発電所が破壊されてしまっています!!』
街頭モニターに映し出されたニュース。アナウンサーが現地取材を行い映されているのは、破壊し尽くされた発電所の様子。
『これは怪獣の仕業なのでしょうか?』
人間であればすぐに監視カメラで捕捉されるだろう。けれどもそのような様子もない。正体の分からない不可解な出来事はすべて怪獣、または宇宙人の仕業としてみるのが今の世界だ。
「怪獣だってぇ~。ウルトラマンがどうにかしてくれるかな~」
「もういなくなってんじゃね?」
「やっぱストレイジだよな」
「そこはビートル隊って言いなよ~」
周囲の人の言葉に耳を傾けた。やはりウルトラマンに期待する者はほとんどいない。過去の出来事が関係しているからだ。人間の力に信頼を向けるのは良いことだと思う。それに、彼らの事も理解できてしまうのだ。だって────
(俺も同じだったもんな……)
すると始の頭上から光が。そのまま真四角のゲートが現れ、全身を呑み込んでしまった。
「またいきなり……」
始がいたのは以前ゼットと話した空間だった。どうやらゲートの出現方法は色々在るらしい。
『始、アレは間違いなく怪獣の仕業だ』
「え、ゼットさんも見えてるんですか?」
『ある程度は共有させてもらってる。それよりも時間がない。今すぐ動けるのは俺たちだけだ』
「……」
『……? 始?』
変身を促すゼットに対し、始は黙り込んでしまった。
ビートル隊はともかく、ストレイジでも出撃にいくらか時間が掛かってしまう。ならば自分たちが変身して向かえばすぐに済む。けど、こう思ってしまう。そこまでして自分たちがやる必要があるのか、と。誰もこちらには期待してない。ストレイジでも対処できるなら任せてもいいだろう、と。第一、ゼットだってメダルの回収が目的だ。
『声……聞こえてはります?』
「……す、すみません! ちょっと……」
『始を巻き込んで済まないと思う。だが、危害を加える怪獣の対処も俺たちの宇宙警備隊の使命なんだ』
「そうですよね……行きましょう!」
ゼットの真剣な声音が空間に響いた。
自分の事なんて後回しだと言い聞かせる。ゼットが使命だと言っているのだ。それに応えなければ、一体化したことを後悔させてしまう。黒い感情を呑み込み、始はゼットライザーを取り出した。
*****
(ここか……)
空を駆け、周りに被害が出ないようフワリと着地したゼット。
辺り一帯はモニターで見た通り。いや、移動の数分で発電所辺りにも被害が広がっていた。
『姿が見当たらない』
怪獣を止める以上、悲惨な光景を嫌でも見渡さなければならない。奥歯を噛みしめて元凶を探す。だが、辺りはやけに静かだ。もう逃げた後なのだろうか。
途端、背部に雷が。火花を散らして前のめりになるゼットだったが、倒れるのを堪えつつ雷が襲ってきた方向に目を向ける。
パネルが反転するようにして表皮、外見が露わになった。鼻先に巨大な角、後頭部には2本の触角。一部の隆起した背中から尻尾の先まで形成された鰭のようなもの……。目の前にいる四足歩行の巨大怪獣が発電所を破壊し、雷撃を加えてきたものの正体だ。
「やっぱり怪獣か!」
『あれは……!』
「知ってるんですか?」
ゼットのリアクション的に怪獣の事を知っているようだった。ならば聞かない選択肢はないだろう。
『えっと……なんだっけな……メロン……いや違う。ネオン……だったけな……』
「ちょ、本当に知ってるんですか!?」
ゼットはヤツの名前を思い出せないのか、果物や、希ガス元素の一つを呟いている。けれど怪獣何某は記憶の奥深くにアクセスする暇を与える気はサラサラ無いようだ。飛来してきた雷がまたもやゼットを直撃する。
「ああもう、取り敢えず攻撃するしかないですよ!」
このまま好き放題電撃を放たれてたら黒焦げだ。
ゼットが駆け出したのを見て、【
「このまま!」
ペースの乗っている内に勝負を決めてしまおう。ゼットの右足がネロンガのわき腹にヒットさせようとした直前……姿を消した。
『透明になった!? この……探すぞ!』
「はい!」
周りをしきりに確認するも、姿を捉えることができない。するとゼットの側面から突進。宙を軽く飛んで転倒してしまう。
受け身を取りつつ頭を動かす。まだ目の前にネロンガがいる。頭部から2枚の光刃を放つべく投擲体制を取り……発射。しかし、先ほどと同じく放つ直前で透明化。刃は空を斬るだけだ。
(くそ……こんな有様じゃ……)
全く歯が立たない状況も影響してか、始は想像してしまった。戦いを見る人々の言葉を。
「────やっぱりだ」
「────前回はまぐれだよね」
「────ウルトラマンなんかより」
「────ストレイジの方が」
直後、ゼットに異変が起こる。
カラータイマーの点滅が異常に速いのだ。加えて────体が重い。
エネルギーを消耗したからとかそういった類のものではない。まるで回路が出鱈目に、滅茶苦茶に繋がって……今にも壊れてしまいそう。ゼットと始、2人の繋がりが途端に弱くなり、変身を維持できないのだ。
『なんだ!? どうなってるんだ!?』
「わからないですよ……俺に言われても……」
とは言っているものの、始には心当たりがあった。変身する前と今、彼はこう思った。自分がやらなくてもいいと。批判的なことを言われるなら、必要とされていないのなら、自分たちは戦わなくていいと。そんな諦めの感情を抱いたのと同時に、始もどこかでウルトラマンという存在に複雑な思いを抱いていたことを思い出してしまったからだった。「来てほしかった時に来てくれなかった」と泣いていた過去の事を。
「『あああああああっ!?!?」』
動きが止まれば、ネロンガにとっては恰好の的。ヤツの放った雷の光弾がゼットの胸元を直撃。体を痺れさせながら仰向けに倒れてしまった。
『ま……マズい……!?』
体に力が入らない。ネロンガは踏み潰さんと迫ってきている。このままでは二度と立ち上がることができなくなってしまう。焦りと不安で支配され、ウルトラマンゼットはネロンガを見ることしかできなかった。
その時、ネロンガの咆哮と混じりつつ空を飛翔するジェット音が聞こえてきた。数秒後、暗然たる空の向こうから巨大なロボットと銀色の飛翔体が姿を現す。
『あれは……』
「セブンガーと……ゼットビートル……」
《セブンガー、着陸します。ご注意ください》
AIの注意喚起が響いた後、地面を陥没させながら着地。
セブンガーとゼットビートルは、威嚇の唸りを上げるネロンガと正面から向き合った。
スクールアイドル側でもウルトラマン側でも危うい面がある始。一体どうなるのでしょうか。
そしてゼットとの繋がりが弱くなったのにウルトラフュージョンが解除されないのは何故だと思われた方もいると思います。個人的な解釈で書かせてもらってますが、始は「完全に戦意を喪失したわけではない」状態なので高速点滅と、体が重いだけになってます。(それでも致命的ですが。)
そんな危機を救ったのがストレイジとビートル隊……ほんと頼もしい限りです。