遂に始まったデッカー。パワフルで明るい感じ……これからの展開も楽しみです。
「で、ついてきたわけだけど……ここってちぃちゃんのバイト先だよね?」
千砂都に連れられてかのんや可可が訪れたのはたこ焼き屋。千砂都のバイト先だ。たこ焼きと自分が歌えないことに何の関係があるのか。共通点の見いだせないかのんは、数分で作られたとは思えない程丁寧に盛り付けられた丸い食べ物を見つめる。
「かのんちゃんが歌えないのは、大きなステージや人前だったでしょ?」
事の発端ともいえる発表会や試験がこれに当該する。
「そして何よりもプレッシャーが原因なんだと思う」
「プレッシャー……?」
「そう。前だって、上手く歌って合格しなきゃとか思ってたんだろ? 今回だって同じ。それこそ、フェスで1位を取らなきゃいけない。それがかのんのプレッシャーになって歌えないんだろって千砂都と話し合ったんだ」
千砂都からバトンタッチした始が声を掛ける。
彼女の中に生じた「周りに応えなきゃいけない」とか「上手くやらなければ」という圧が、自然と彼女の声を塞いでしまうのではないか。始はそう睨み、千砂都に相談した。すると彼女も同意見だったようで、バイト先に案内するという流れになったわけだ。
「いやそれでも……どうしてこうなるの!?」
原因は理解できても、やはりたこ焼き屋に来たことまでは理解できない。いつの間にかエプロンを付け、屋台に立っていたかのんは声を上げる。
「喫茶店での接客は慣れてるだろうけど、不慣れな状況に対応できると変われるかもしれないでしょ?」
屋台の、しかもたこ焼きとなると作る所から渡すまでずっと見られている状況に置かれる。その中でちゃんと作れることができれば、歌えるようになるのではないか。それが狙いだ。
その後かのんはしっかりと業務をこなしていった。初めてなのにどこか手馴れているのは、喫茶店での手伝いがあったからだろう。
だが、ことはそう簡単には行かず……
「ダメだったか……」
「歌は別問題みたいデスね」
結果、人前で歌うことはできなかった。作る状況から見られていることと、歌う際に見られることは彼女にとっては結び付かないものだった。それほどまでに彼女にとって歌とは大きな存在だと言うことだ。今の状況に至っては良くも悪くも……であるが。
「衣装……?」
「はい! 可愛い衣装を着れば気分が上がるんデス。そうすれば、かのんさんも歌えるようになるはずデス!!」
「そこらは可可に任せるよ」
気分を変えればプレッシャーがなくなるとまではいかないが、どうにか歌えるレベルになるのではないかとかのんに様々な衣装を着せていく。
可可の個人的な趣味……ではないだろう。彼女だってかのんの力になりたいんだ。
「似合わないなんてこと無いデス!」
「そうだよかのんちゃん。観念しな~!!」
「ギャアアアアアア!?!?」
いや、どうなんだろう。力になりたい半面、個人的な趣味の部分も少なからずあるかもしれない。
可可と千砂都が飛びかかった数秒後、叫び声が聞こえた。でも、そこに向かったらこちらは人として、そして社会的な信用を失うだろう。だから頑張ってくれと始はエールを送ることしかできない。
「お友達ですか?」
店の中にいる男は始一人。その妙な居心地の悪さを感じていると、店員に声を掛けられた。
「そうなんです。あ、もしかしてうるさかったですか? ならすぐに言ってきますんで!」
「いえ、大丈夫ですよ。そうではなくて、試着した姿を確認した時には、しっかりと感想を言ってあげてくださいとだけ」
「は、はい……」
「では頑張って!」
笑みを崩さずに店員は去っていった。ここに来たのはかのんの出せない歌声を引き出すためなのだが、どうやら勘違いを生んでしまったらしい。
「始さん、かのんさんの着替え終わりましたヨ! こっちに来てくだサイ!!」
「……」
どうやら店員さんと話しているうちにかのんの着替えが終わったようだ。可可の明るい声がこちらまで聞こえてくる。
正直服の事なんてよくわからない始は、どうしようか迷っていた。見たところでどこがいいとかそんな具体的なことは言えない。さらに店員の言葉で余計に意識してしまっている。
「……」
逃げたい。この店から逃げ出したい。始はそればかり考えている。でも逃げたら追われるし、その後どんなお説教が待っているか……。恐ろしい未来を考えたら、その選択肢は自ずと消える。
ゼットからいつものように呼び出されないかなと期待してしまう。けれど彼の呼び出しはそこまで都合の良いものではない。一応理解しているつもりだが、現状のような自分にとって不都合な状態であるとどうしても頼ってしまう。
試着室から出たかのんは黄色主体のワンピース姿だった。さらにアクセサリーまでつけ、普段の彼女からはかけ離れている。お洒落というよりも、動きやすさをメインに置いているような気がしていたからだ。
「どう……かな?」
「えっと……」
かのんは始をじっと見つめて尋ねてくる。意外だった。「見るな」とか言って腕を振り回すと思っていたからだ。
「……」
こうなってはちゃんと答えなければなるまい。自分の思ったことを始は口に出した。
「似合ってるよ、うん。普段もそういうの着ればいいんじゃないかな」
「当たり障りのない言葉デスネ」
「もうちょっと冒険しようよ~」
「くっ……」
背後にいる2人からの評価は低い。一体何を期待していたのだろうか。恥ずかしさに耐え切れない始からは、言葉にならないただの音だけが口から洩れた。
「始くん、そんなに気を使わなくたっていいよ」
「気を使ってるわけじゃないよ。……似合ってるって思ったのは本当だし」
始の言葉でわずかに表情を変えたかのんの姿を、可可や千砂都は見逃さなかった。
「今デス!」
「ベストショット!!」
パシャリと音が響く。彼女たちは携帯でかのんの姿を撮影したのだ。
彼女があまり着ない服装に、加えてあまり見れない表情。それをデータに保存しておかない意外に選択肢があるのだろうか。いやない。様々な角度から撮り始める姿はもはやどこかのカメラマンだ。
「このショット堪らないね~」
「いいのが撮れました。家宝にシマス」
「ちょ、ちょっとなんで撮ってるの!?」
「こんなかのんちゃん、滅多に見れないもん!」
「かのんさん、もっと自信もってカメラにお願いシマス!!」
そして邪魔だと言わんばかりに始は首根っこを掴まれて後方へ。その際に出してしまった「グェッ」というなんとも情けのない声。幸いにも聞かれていはいなかった。かのんの写真撮影が大事だから。
「消して」
途端に発せられる異様に低い声。ときどき聞こえてくるかのんの低音は普段とのギャップもあって心臓に悪い。普通に怒るより怖いからだ。
けれど千砂都は屈して写真を消すようなことはなかった。寧ろその逆だった。
「大丈夫、ちょっと拡散していいね貰うだけだから」
「全然良くないっ!」
「せめて保存だけで勘弁してやってくれ……」
個人的な欲が見え隠れする店内に、始の声が小さく響いた。
「やっぱ無理だって~、そもそもこんな簡単なことで歌えるようになるなら苦労してないって~」
結局、服でも無理だった。自分が慣れてない仕事をこなしても、着替えて気分を変えても……歌えるようにはならない。そもそも、それで歌えるようになっているのであれば彼女はとっくの昔に克服しているはずだ。でもそうじゃないのは、彼女の中にある何かが未だに引っ掛かっているから。
「クゥクゥは見たんだろ、かのんが歌ってるところ?」
「はい。この目でバッチリと!」
「偶々だったんだよ。これが本当の私なんだ……」
ようやく歌えるようになったと思った途端に逆戻り。悔しさや不甲斐なさなんて本人が一番感じているだろう。
「っ……!」
声を掛けようとした瞬間、始は口を閉じる。そんな根拠のないことを言って元気付けられるのか、また無責任な言葉を言ってしまうんじゃないかと、脳裏に過ったからだった。
「クヨクヨしてもしょうがありマセン! かのんさんのお陰で、可可は今頑張れているんデスヨ!」
可可は真っ直ぐにかのんを励まそうとしている。始はそれが少し羨ましかった。
「でも、また歌えなくなったんだよ? どうしたらいいか……」
「では今は無理に歌おうとするのはやめまショウ。本番は可可1人で歌いマス」
無理に歌わず、今回はステージで共に踊ってくれればいい。可可の提案だった。
「フェスが終わったらまた、歌えるように頑張ればいいんデス。かのんさんが歌えるようになるまで諦めないって約束しマシタ」
今は無理でもいつかは。そこに辿り着くまで諦めないと、可可は彼女に約束していた。だから今は全力でライブを行おう。かのんに呼び掛けた。
「……うん、そうだよね。まずは全力で1位を取りにいかないと!」
可可の言葉に、消えかけていた心の火が再び勢いを取り戻した。その後すぐさま可可に連れられて外へ。本人曰く「皆さんに見せたいものが!」とのこと。
「……なんだこれ?」
「わからないんデスカ?」
「わからなから聞いてるの!? いやいや、色々手が込んでるなって思うよ? マジ凄いと思う。でもこれはなんだよ?」
「まったく、始さんもまだまだデスネ」
「……わ、悪かったよ」
可可が見せてくれたもの。それは巨大な看板のようなものだった。いや、”ような”ではなく看板だ。可愛らしい文字だけでなく、間に散りばめられた星やハートのイラスト。さらにかのんと可可をデフォルメまで。結構器用である。
「初ライブを記念して作ったグループ名付きの看板とブレードデス!」
そして両手に持たせられたのはペンライト。しかしペンライトは観客が使うものではないのか。始と同じく千砂都も疑問に思って訪ねる。
「ブレードはクゥクゥちゃんたち2人は使わないよね?」
「配るんデス! 応援してくれそうな人たちに!!」
「じゃあ、この”クーカー”って?」
質問に答えてまた質問。今度はかのんからだ。
「グループ名デス! 2人の名前を合わせて”クーカー”!」
「でも始くんの言う通り凄いね。練習の合間に作っちゃうなんて」
「こういうのは得意ですカラ」
トラブルがあったにせよ、このまま練習を重ねて本番まで行こうと思った矢先……とんでもない報告が飛び込んできた。なんとSunny Passionがフェスに出ることになったのだ。
「可可が日本に来ようと思ったのは、この方々のライブを見たからなんデス」
彼女の憧れ、そして留学の決め手となった人物なのだとか。可可の家には額縁に入った巨大なポスターが飾られている。そのことからも、どれだけ尊敬しているのかが伺える。
「なんとサニパ様と一緒のステージに立てるなんて~」
「……」
憧れの人物と一緒のステージで曲を披露する。可可にとっては正に夢のような出来事だろう。だからなのか、大人気のSunny Passionがフェスに出るということがこちらにどんな影響を及ぼすのか気が付いていないようだ。
「この人たちが参加しちゃったら、1位はきっと……」
「当然デス。今回程度のフェスであれば1位は絶対にサニパ!」
「可可、それどういうことかわかってる?」
「……ハッ!?」
ようやく繋がったみたいだ。
かのん達がスクールアイドルを続けるためにはフェスで1位を取ることが条件。しかし東京代表になるほどの実力を持つSunny Passionが参戦するということは、ただでさえ1位に鍔がる細い道がさらに細くなる、或いはなくなるということ。
「どうしましょう……」
「ライブまではあと5日……これから練習をハードにすればいいってものでもないだろうし、可可ちゃんが1人で歌えるようにもしなくちゃだしね……」
「ごめん……」
可可が1人で歌うこととSunny Passionの電撃参戦。1位を取るには絶望的な状況。その不甲斐なさは、かのんが一番実感していることだろう。
「大丈夫デス。かのんさんのフォローもできマス。腹筋も……毎日続けてたら結構できるようになってきマシタ。この調子ならライブの時には何もかも完璧になってるハズデス」
運動が苦手だと言っていた可可も陰で努力していた。さらに明るく振舞い、大丈夫だという姿。楽観的だと言われるかもしれないが、こっちのほうが今は助かる。だが、かのんはそう思わないだろう。自分のせいで彼女に負担を多くかけてしまう事になっているのだから。
「じゃあ私と始くんは帰るね」
「え、俺────」
有無を言わせず千砂都は始を玄関まで押していく。千砂都のほうへ少し振り返った始。彼女の表情は「察しろ」と言っていた。
「もう遅いし、ダンスの練習もしなくちゃ。始くんも”用事”があるみたいだし?」
「そ、そうなんだよ。あ、今日は俺が夕飯作るんだった。ワスレテター……」
「それに、2人で過ごす時間も大事だよ」
ステージに立つ者同士で話をしておけということだろう。即座に外へと出ていく2人であった。
「もう、ああいったのは察するもんだよ? 変なときに鈍いんだから」
「わ、悪い……」
千砂都に注意され、階段を下りていく。すると背後から可可の呼び声が。
「あの、こんな事急に言うのは変だとわかっているんデスガ……千砂都さんはスクールアイドルに興味ありまセンカ?」
「あるよ」
可可の問いかけに千砂都は考える間もなく答えた。明るくなった可可の表情から、次に何を言うのかが見て取れた。だが可可がその言葉を言うよりも早く、千砂都は答えた。「ダンスで結果を出すこと」それが今の目標だと。掛け持ちはできるほど余裕はないし、生半可な気持ちで入ることはできないと。千砂都のそれは前にも以前、かのんが抱いていたことと同じだった。真剣にやろうとする人の中に、中途半端な気持ちでやるのは失礼じゃないのかと思っていた時と。
そうして可可の提案を断り、千砂都は階段を下りていく。
「いいのか?」
「うん。てか始くんもわかるでしょ? 生半可な気持ちじゃダメだって」
始は黙り込む。千砂都には千砂都の優先すべきものがある。だから無理に言う事は出来ない。でも、でもどこか引っ掛かるのは……一体どうしてだろうか。答えはでない。今はまだ。
どこかすっきりしない気分のまま、始は自宅へと向かう。すると近くの壁が青く発光する。つまりゼットからの呼び出しである。
「……」
都合の悪いときは臨んだはずなのに、いざ本当に呼び出されると緊張感が漂う。何故呼び出したのかなんて百も承知だ。正直に謝るべきだろうと、始は中へと入っていくのだった。
もうすっかりお馴染みとなったゲートの中。そこにはいつものようにゼットが待っている。
『始……』
彼が何を気にしているのかなんて聞かなくてもわかる。十中八九、あの時始とゼットの繋がりが極端に弱くなった時の時ことだ。
「あの時は……すみませんでした」
頭を深々と下げ謝罪。そしてあの時の責任は自分にあると語る。当然ゼットは把握しきれてない。
『お、おい……いきなりどうしたんだよ……?』
「俺……あの時……もう戦わなくてもいいじゃないかって思ってしまって。ストレイジやビートル隊がいる。だからウルトラマンは必要ないんじゃないかって……」
『……』
あの時抱いていた心を曝け出した。怒っているだろうか。呆れているだろうか。自分と一体化した人物が守ることを放棄しようとしたのだ。罵倒の1つや2つ仕方がない。なんだったら解消だってあり得る。何があっても受け入れる覚悟だった。
『一体、この星で何があったんだ? 俺に教えて貰えてくれ。頼む』
でも返ってきたのは疑問。ウルトラマンが要らないと言われるようになった原因が知りたいと。
覚悟していた言葉とは全く別のものだったことに、始は固まる。でもゼットは大丈夫だと、深く頷いた。
『あの時、どうして繋がりが弱くなってしまったのかはわかった。でも、始みたいな奴がどうしてそう思ってしまったのか。何かウルトラデカい理由があったってことなんだろ? 俺はそう思うし、そして知りたいんだ。話してくれ。この通りだ』
頭まで下げられたら答えるしかない。始は記憶の底を掘り返した。
「そうですね。もう10年前になります────」
始はこの星での出来事をゼットに語った。地球を守ったウルトラマンが去って、この星の人類が何を抱いたのか、そしてどうしたのか。始の語ることが総意ではなく、あくまでよく聞く意見の1つであると前置きをしてから。
『成程……確かに仕方のないことなのかもしないな。地球人にとっては大きな問題だ。でも、オーブ先輩のことも理解できる。地球のように危機に晒されている星はたくさんあるんだ。そこには俺たちのような存在や、守る力がないことだってある』
地球のような出来事は、空を見上げると輝いてる星々でも起きていること。状況によっては
「けど、
宇宙で起きていることだって地球から見れば関係のないこと。ウルトラマンがいなくても怪獣は現れる。そのせいで、多くの命が奪われた。そう語る始の声、表情からは悲痛さが伝わってくる。
『まさか……始も?』
「……はい。ウルトラマンが去った後に起きた怪獣災害で父を」
彼の父である勝。消防士であった彼は今から5年前、始が当時10歳の時に命を落とした。どこからともなく現れた怪獣。その避難誘導を行うと駆け出して行った。始が見送ったその背中が、勝の最期の姿だったのだ。
「って言っても、もうウルトラマンが居ないとわかってた時でしたし……このことで恨みをぶつけるのはお門違いってのもわかってます」
ウルトラマンが悪いわけじゃない。知っている。わかっている。でもその時のこともあって、「ウルトラマンなんて今更いらない」という人たちの気持ちも理解できてしまう。それに自分よりも上手く怪獣を倒せる存在を知っている。だからなのか、心のどこかで疑いみたいなのが生まれてしまった。
『……初めて地球に来た時、そしてこの前。俺も見て思ったよ。地球人は自分たちの力で平和を掴み取ろうとしているって。俺はもともとメダルを回収するために来た。なら、1人で立とうとする地球人に手を出すものじゃないのかもなって」
平和を守るために戦い続けているのがゼット達宇宙警備隊。だけど、自分たちでどうにかしようとしているところにしゃしゃり出て手を出すことは、かえって成長の妨げになることもある。そんなことは、あらゆる星々で戦う彼らの方がよっぽど知っている。
けど、とゼットは続ける。
『以前のゲネガーグのように、地球人の戦力でも太刀打ちできないような力を持った奴だっている。そんな奴らが出てきた場合でも……任せるか? 力を持っているのに、任せるか?』
試すように放たれたゼットの言葉。それは始の過去……幼い頃に父と交わした会話を呼び起こさせるものだった。
────「おとうさんはどうして消防士になったの?」
普段の生活の中で何気なく聞いたことだったと覚えてる。
勝が少し悩んでいたのはキッカケを思い出すためでなく、どう伝えるかを悩んでいたからだろう。
「……後悔しないために、かな」
そう言って勝はさらに続けていたことを思い出すと、無意識のうちに始は彼の言葉を噛み締めるように口に出していた。
「自分に何かできるのに、しなかったら……それで沢山の人が傷ついたら……ずっと後悔する……」
はっとして始は視線を前方へ向ける。
力を持つのであれば、その力にはそれ相応の責任がある。使わなかったせいで何かが、誰かが傷つくことになってしまえば、自分の責任だとして一生抱えることになる。そうならないために、できることをする。
『だろ? だから俺たちは戦うんだ。平和を守るために。始の立場であれば……そうだな……大切な人を守るためとかな』
「でもそれだと……」
それだと一方的に守ることになってしまうのではないかと始は危惧する。しかしそうじゃないとゼットは話す。
「一方的にじゃない。一緒に戦うんだ。俺たちと、地球人で」
地球人が、ウルトラマンだけが人々を守るのではない。共に手を取り合い、協力して戦っていく道だってあるのだと教えてくれた。
『それに師匠から言わせれば、俺はまだまだ3分の1人前だからな。始たち地球人たちの力が必要なんだ』
自虐しつつもどこか明かるく語るゼットに始は笑みを溢す。
そうだ。今は守る力がある。けれどそれを使わず、また自分のような思いをする人を増やすことになれば、一生自分を許せなくなるだろうし、余計に地球はウルトラマンという存在を邪魔に思うだろう。
『とは言っても悪いな。こんな責任を負わせてしまって。ウルトラ申し訳ない』
「そんなこと……ゼットさん、こんな俺でよければ、これからも一緒に戦ってもらえませんか?」
迷いは消え、再度ゼットに頼み込む。すると勿論だと言わんばかりに腕を出してきた。迷いを乗り越え、後悔しないため2人で戦うと強く決心したことを証明するかのように、腕と腕をタッチさせた。
『……なあ、始』
「どうしたんですか、ゼットさん?」
ふと、ゼットは迷いながらも語り掛ける。
『やっぱり、その……”さん”ってつけるのとかやめないか? 礼儀なのは理解してるつもりだ。けど、これからも一心同体で戦う仲だ。なるべく対等な立場ってやつでやっていきたいんだ』
年上として敬っていることが、ゼットにはどうにも慣れないものらしい。共に戦うのであれば、全てとはいかなくとも対等でありたいと語るのは、ゼットなりの誠意かもしれない。
「そうですか……けど年上ですし……」
『こういうのは、年上の頼みを聞くもんでございましょう?』
「う……それはズルいっすよゼットさん……」
悩む始であったが、ゼットがここまで頼んでいるのだ。観念した始は再度名を呼んだ。
「じ、じゃあ……ゼット、これからもよろしく。これでいいだろ?」
『ああ、よろしく頼みます!』
別の場所で改めて決心していた彼女たちのように、
長く険しい道のりになるのかもしれないが、彼らなら大丈夫だろう。簡単には消えることのない炎が、瞳の中で燃えているのだから。
原作サイドが進む中、始のちょっとした過去がまた明らかになりました。
そしてゼットとタメ語。
やっちゃいけないよなとは思いつつ、ゼットとタメでやっていくのも見たいなと思って書かせていただきました。