一巻の終わり
昔から、見えないものが見えることがあった。
本の中に篭りたいと、見るたびに現実を避けた。
ぱたりと本を閉じれば、見たくもない現実を直視する。
昔から、見えないものが見えていた。
本の中に篭りたいと願っても篭れないので、僕は、栞を手に戦うことにした。
「“ブック・オブ・ジ・エンド”」
栞が、僕の中の何かを吸って刀となる。羽根のように軽く、身体の一部のように自在。
見るに堪えない異形に、その刃を向けた。
この栞の持つ力は、『過去を挟み込む』というもの。
正確には、僕という存在を何らかの形で斬ったものの過去に挟み込む力だが、この力は別にこの化け物に対して何ら意味があるものではない。理性のない獣に、過去の編纂など意味をなさないからだ。
ならばどう使うか。
『グァァガガァァァォ!!』
突貫してくる異形の、その目の前の地面をなぞるように斬り、そして挟み込む。
『そこには僕が地雷を埋めた』──そんなありもしない過去を、地面に挟み込めば。
ドォン! と異形の足が触れた地面が爆ぜた。人をただの肉袋にしてしまうような兵器だ。異形とて無事では済まない。再生はするのだけれど、足が止まる。そこに、僕は刃を振り下ろした。
大概、僕の戦いはそんなものだ。見えない怪物の周りを編纂して、怪物を倒す。流れ作業のような単純工程。刀を栞の形に戻して、お気に入りの本に挟み込む。戦っている間、頭の中には栞を挟んでいたページ番号が回り続けている。でなければ、また探す作業がいるから。
それはそうと、今回の敵は大きかった。あたりの地形も中々に抉れてしまい、もし見つかれば朝刊の一面を飾りかねない。……まぁ、そうとう山奥だし、背の高い木がまばらながらも空を覆っているから、注視しない限りは大丈夫だと思ってる。大体いつもそうだし。
ぺらりと、薄い紙が捲れる。電子書籍が幅を利かせる世の中だが、紙の本もまたいいものであることは言うまでもない。目に飛び込んでくる優しい文字群は、電子の光よりもすんなりと頭に馴染む。この感覚が好きで、読み進めることがやめられないのだ。
「“僕は耳と目を閉じ、口をつぐんだ人間になろうとした”、──そのくらいしなきゃ、完璧にはなれないのかなぁ」
森を抜けながら、一際印象に残ったフレーズを
そうしてポツポツと読み進めていくと、ふと誰かに見られた気がした。
「ふーん。君、面白いもの待ってるね」
否、その『誰か』はもう既に、僕の側にいた。いつの間に、という驚愕と恐怖が神経を走る。筋肉は緊張して冷や汗が落ちた。それでも本を手放さないあたり、読書の虫というか、僕の本性が本の虫であることが如実に見える。
「誰ですか」
ややあってその方を向くと、それはまた奇妙な人間だった。色素の抜けた髪。何も見えないであろうアイマスク。それが推定190cm以上の高さを伴って立っているのだ。
「森をあんなにしたのは、君かな?」
「だとしたら?」
脅しというには軽く、舐め腐っているといえる。目隠ししてるのに見えているのか。当たり前のようにこちらへ手を伸ばしてくる。
後ろへ咄嗟に飛べば、あららと、その男はやはり軽く笑っていた。
「確定かな。でもまあ正当防衛でしょ。とりあえず、高専に連れて行こっと」
その言葉に、目下の本に目を落とす。僅かに赤く色づく
「へぇ、それが」
なにかが、この男には見えている。不気味だ。僕の“ブック・オブ・ジ・エンド”が、理解されているのだろうか。目を閉じただけで、そんな風になれるのか。なら耳と口も閉じれば──って、そんな場合じゃない。
地面に刀を一差し。過去を挟み、クレイモア地雷を埋め込んだ。木を切って過去を挟む。この方向に倒れるように削ったのだと。
一連の行動は、何も知らない者からみれば意味が不明な行為だろう。現に目隠しの男も首を傾げている。その薄ら笑いが消えるのが楽しみだ。
「なにやってんのかは知らないけど、無駄だと思うよ〜」
そう言って歩を進める。数歩歩いて、地面が爆ぜる。
あの距離で喰らえば、流石、に…………??
「驚いた。まさか爆ぜるとは。面白い術式だ」
術式? なんだそれ。てか何だチートなのか? なけなしの動体視力は、貫くはずだったクレイモアの鉄玉が、ピタリと不自然に静止しているのを捉えていた。
木が倒れても同じこと。潰す前に止まった。
この分なら刀も届くまい。けど。
その薄ら笑いくらいは、消してやりたかった。
だから僕は突貫した。鋒が止まることは自明で、でもそれは、きっと何かを切っているのだと信じて。
「〜〜〜〜っ、“ブック・オブ・ジ・エンド”!!』
「!?」
過去を挟み込む。何の過去を挟み込む? 『何か』を揺らがせるためには、どんな過去を挟み込むべきか?
突貫する前のわずかな逡巡でたどり着いた答えは、『穴があった』というものだった。
何度も使って、この能力のことは理解していたつもりだ。『活きているものに対して、無茶な過去は挟めない』というのは、肝に銘じている。だが、この『何か』は無機だ。僕の力でも、無理無茶を通すことは出来るはずだ。
「っ、これは」
男から笑みが消えた。『何か』に空いた僅かな綻びから刀の先が男を貫く直前、後ろに下がって躱された。
息が荒い。肩が弾むように、そんな息をしなければ酸素が回らない。無機とはいえ、先の行使は相当な無茶だったらしい。かつてなく疲れている身体に、しかし鞭打つほかないのが現状だ。
「まさか、僕の無限に穴空けるなんてね。これは放っておいたらマズいかも」
ちょっと手荒にいくよ、と零され、瞬間。肺の酸素が残らず吐き出され、目も耳も、意識すらも閉じられてしまった。
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昔から、見えないものが見えた。
1人で刀を手に取っていたけど、僕はいつの間にか、呪術師として戦うことになっていた。
誰か続き書いてください。
すまぬ。あらゆるモチベが死んでるのです。OTL.