とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》 作:田芥子慧悟
#10 束の間
十月の三連休、一日目。
ツンツン頭の上条当麻、素朴な美男の七海守戸は肉とか野菜とかな入ったレジ袋片手に何やら物々しい雰囲気を醸し出していた。
何を隠そう、これから上条と守戸は料理対決を開催するのである。
ちなみに、隣人の義妹、土御門舞夏も交えた三つ巴の戦いである。実を言えば、料理対決に後から加わったのは彼女ではなく、上条の方だ。
審査員は天下の大食らい、純白のインデックス。あと、その隣人、土御門元春も単純に義妹の料理食べたさで参加している。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
それは今朝のこと。
朝食は守戸手製のホットサンド。上条が再現可能なのか怪しいまでにフワフワでコクもあるスクランブルエッグと、レタスのシャキシャキした食感、カリカリベーコンの仄かな塩味、そして、食パンの程よい焼き加減。シンプルながら、相変わらずの美味だった。
そして、上条とインデックスには昼時のさらなる食の喜びが約束される。
朝食中に土御門舞夏が乱入し、彼女もこのホットサンドを食べた結果として、昼ご飯は守戸と舞夏それぞれの得意料理のセット、というラッキーなイベントが発生したのである。
実際は、互いが互いの手料理を紹介し作るレシピ交換会。だが、上条やインデックスからすれば、その副産物こそが主だ。
学園都市のオルソラである七海守戸とメイド養育の繚乱家政女学校に属す土御門舞夏。
この2人の手料理の組み合わせというのは、
それも、たとえば学園都市第一位
そんな最強のタッグは総じて、
「やはり、七海守戸の料理の腕はホンモノだったなー」
「本物のメイドさんにそこまで褒めらると光栄を通り越して恐縮しちまうな」
「正確には私は養成学校の生徒だから、メイドさん見習いだけどなー。お主には私が本物のメイドさんと同じに見えると取っておくぞー。ありがとなー」
「いやいや、こちらこそ」
「それにしてもあのスクランブルエッグ……。フワフワ感にコクと僅かな酸味……。さては、ヨーグルトを混ぜたな?」
「ご名答。流石は舞夏さんだ。」
「これぐらい、当然なのだー。牛乳じゃなく、ヨーグルトというのがにくいなー。スクランブルエッグには生クリームが一番だが、庶民には手に入れにくい代物だからなー。テイストは少し変わるが、ヨーグルトが最も近いのだよー」
初耳だった。
いつの間にか2人が知り合っていたっぽいこともそうだが、それよりもスクランブルエッグの件だ。
火加減と加熱時間、それと牛乳。これで満足していた上条は二流だったということか……。
主夫としての課題が見えてきたところで、土御門元春がやってきた。いや、知らない間に輪の中だった。
「お前、何でここにいんの?」
と微妙なものを見る目で上条が聞くと、
「愚問だにゃー、カミやん。舞夏あるところに俺あり!それだけのことぜよ」
と、まあ予想通りの返答。察するに、舞夏と同じベランダの裏ルートから来たのだ。
「それにどうだ、ナナミン?うちの舞夏は凄いだろう?」
何故か自慢気な彼に、守戸は
「まぁな。俺と同じ波動を感じるよ」
「舞夏とお前が同じだと?それは、聞き捨てならないセリフだぜい、ナナミン。傲慢にも程があるぜよ。そうだな…。この際、舞夏とお前、どっちの料理が上か勝負と行こうじゃないか。審査員はインデックスにやってもらおう。まあ、舞夏が勝つに決まってるがにゃー」
だが、その言葉が何故か戦いの火種となったようだ。守戸はその挑発に乗って、
「良いぜ、やってやる」
土御門舞夏も、
「七海守戸との料理対決かー。燃えてくるなー!」
とあっさり術中に。
「インデックス。お前、これでいいのか?皆でほのぼの食事タイムってのがなくなるってよ?」
と聞くのだが、
「私は美味しい料理がたくさん食べられるなら、そんなことはどうだって良いんだよ!」
案の定、失敗。
「おいおい、お前ら。料理で勝敗つけるってのは…何つうか……どうなんだ?料理人として……?」
次は当事者へのアプローチ。こちらも、
「舞夏とナナミンの聖戦に水を差すとは恥を知れ!!カミやん!」
(なっ…)
「てか、俺の500分の1しか味しか出せない奴は黙って見とけ」
(おまっ…!まだ、それをっ……!)
「言ってやるなよー。上条当麻にもそれなりの料理スキルはあるから、いくら何でも500分の1は酷いと思うぞー」
(『は』を強調しやがって…!俺の料理の腕が本当にそこそこだからって見下してやがるな……!)
と満場一致で失敗した。
極めつけはインデックスの一言。
「そうだよ、とうま。とうまには参加権なんて端からないんだよ」
(テメェ……誰のおかけで食っていけてると思ってやがる)
捉え方によっては時代錯誤の言葉を心に秘めて、あとは笑うしかなかった。
「…、そっちがその気ならやってやる……。インデックスがいるなら量は気にする必要がないしな」
さらに、料理対決への参加を表明する。
上条も結局は術中に嵌まってしまう。だが、ほのぼの食事タイムというのはどれだけバカにされても諦めきれない程のものでもないのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「とりあえず、水分補給しようぜ。ドリンクだが、戦いの前の腹ごしらえだ」
途中、公園の自動販売機を見て守戸がそんなことを言い出す。
だが、その公園には見覚えがあった。かつて上条の二千円札を呑んだ因縁の相手、それは大抵彼女との遭遇を意味する。
「いや、七海……!ここはやめとこう…!ほら、自動販売機なんてここ以外にもある訳だし?ちょっとぐらい我慢しよう!でなきゃ、俺、ビリビリ中学生に絡ま…れ……?」
バチッ!迸る音に背筋が凍る。振り向くとそこに彼女が立っていた。
「誰に絡まれる、ですって?」
恐ろしい笑顔でこちらを見つめる美琴。彼女も彼女で何か入った紙袋を片手に持っている。
「よ、よう!御坂!元気だったか?」
レジ袋を守戸に預けて無理に挨拶する上条に電撃が放たれる。これを右手で打ち消す。
「相変わらず、忌々しい能力よね。その右手」
むしろ、忌々しいのは効かないからといって平気で電撃を浴びせてくる美琴の方なのだが、それを言ったとして「何?」とか言われるのがオチなのでやめておく。
「あ、そうそう。そう言や、この前のお礼何もしてなかったわよね」
「いや、だからそれは良いんだって。お前がいなきゃ俺も手助けできなかったんだから」
「うっさいわね。それならせめて、飲み物ぐらい奢らせなさいよ。佐天さんはクッキーが何とかって言ってたけど」
「あ?何でそこで佐天さんの名前が出てくんだよ。まあ、お前がそうしたいなら受け取るけどさ。あと、こいつにも奢ってやってくれ。こいつが七海守戸、匡勢を説得した奴だ」
「なるほど。そういうことならいいわよ」
結果、上条にお茶が、守戸に感謝の言葉付きでジュースが渡る。美琴の方はお気に入りの炭酸飲料。流石に今回は故障を悪用した姑息な蹴りは使わなかった。
そんなこんなで、朝から乱入続きの色々カオスな状況である。
だが、まだ続く。上条はカオスの深淵へどんどんと落ちていく。
「お姉様……?」
最後は白井黒子。ここで彼女の登場は美琴にとっても最悪この上なく、ため息まで聞こえた。
「お姉様!またこの類人猿…とぉぉぉおおお??」
白井は上条に加えて、守戸がいることに唖然。
「二股だなんて……そん、な…。お姉様、が……」
震える声の彼女の頭に美琴がげんこつを喰らわせる。
と、同時に何故か上条まで守戸に叩かれる。
「なぁ、上条。これのどこが不幸だよ。第四位ともじゃれ合って、佐天さんってのも女の子だな。あと、
と言う守戸。
「じゃれあっ……!?」
と赤くなる美琴。
「そうそう。殿方2号さん。わたくしお姉様の露払いを務めております
と忠告する白井。
「だからぁ…そうじゃないつってんでしょうがぁぁぁぁぁっ!」
雷が直撃するより前に白井は
その隙に上条は逃げ出す。守戸はああ言うがやはり、これは不幸以外の何物でもない。
さて、料理対決の方はと言うと、舞夏がホワイトシチュー、守戸がチャーハン、上条が肉野菜炒めで勝負に出た。言い出しっぺは電話がかかってくるなり、かなり怒って出ていったらしい。
その程度で戦火が収まるはずもないのだが、あの土御門が義妹の手料理を差し置いてどこかへ行くというのはよっぽどだ。不穏なものを感じさせる。
そんな中、ジャッジは下る。
「全部美味しかったけど、とうまの肉野菜炒めが一番かも」
と。
まさかのどんでん返しで勝ちをもぎ取った上条。『とうまに初めて会ったあの日、野菜炒めを食べ損ねちゃったからとうまの野菜炒めには特別な意味があるんだよ』とのこと。当然、その日の俺は記憶を失う前の俺であって覚えていないのだが。
「料理で大切なのは味だけじゃない、ってことだな」
「だなー」
と他の2人も負けを認める。
だが、それは束の間の日常。やはり、上条当麻は非日常のある中でしか生きられない。
この日、エーゲの海域に悪魔の王が降臨した。