とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》 作:田芥子慧悟
同じ三連休の二日目。
タダめし食らいの居候にベッドを占領され、平然と空けられている1人分のスペースで添い寝をする勇気もない少年は、いつものように水気を抜いた浴槽で目を覚ます。
そんな訳で上条は風呂場の戸を開けて、洗面所でうがいと歯磨きを済ませるとリビングに出る。
そこで上条は惨状を目の当たりにし、愕然とする。
部屋がメチャクチャになっていた訳ではない。
すべてはインデックスが眠っているはずのベッドに凝縮されている。
蘇るあの日のトラウマ。いや、それを超えている。
姿は少女から青年、髪色は銀から赤、背は短身から長身に変化。職業で言えば、修道女から神父とかいう物理的にあり得ない転職。
「おはよう…とうま……」
ちゃっかりくわえタバコとバーコードの刺青までしたソイツは寝ぼけ眼を擦りながらインデックスの口調で挨拶した。
「あぁぁぁぁぁああああああああああっ!?」
上条は堪らず叫んでいた。
「とうまー…朝ご飯作って欲しいんだよ。ねぇ、とうまー!」
ステイル姿のインデックスが朝食を要求してくるが、今の上条はそれに応えられる心持ちではない。
どうしてこんなことになっているかは心当たりがある。
それにしても、上条を嫌う態度の目立つステイルと入れ替わってしまうとは、いつもながら何たる不幸。これ程の気持ち悪さを感じたことがあるだろうか。
一応、テレビも付けてみる。
朝のニュース番組がやっていて、五和、舞夏、インデックスの姿をした3人が世界中で多発するUMA騒ぎの話をしていた。
それが終わると、天気予報に切り替わる。担当は建宮斎字とアカシャである。
次に外へ出る。やはり、道を行くのは明らかに不相応な服装の老人や中年だ。
間違いない。誰かがあの魔術、あるいはあの魔術と同じ結果を呈する何かが起こっているのだ。
と、守戸の部屋の扉が開く。
「どういうことだ?」
そこから出てきた彼、いや、彼女?の姿を見て上条は思わず洩らした。
前提として、守戸にはあらゆる異能を打ち消す
「上条。どうした?そんなに冷や汗かいて?」
とオリオナ=トムソンの姿で守戸は言う。
上条は急いで部屋に戻って、この地獄から目を背ける。
なぜ、守戸は入れ替わったのだろうか。まさか、外見の入れ替わりは異能によるものではないのだろうか。
(いや、それはないか……。インデックスや七海の反応を見るに、俺の中身と外見は一致してるみたいだし…)
その推察は自己解決で否定された。
「なぁ、土御門。今って一体どういう状況なんだ?また
土御門に電話を繋げて確認を取る。
『ご名答ー!!覚えてくれていて何よりだにゃー』
彼は的中を表明する。
外見の入れ替わり。あの時も今と同じ現象を引き起こしていた。
『だが、本命はそっちじゃない。いや、ある意味では本命か……』
「?」
『カミやん、サタンって知ってるか?』
「は、サタン?」
『悪魔の名だ。それも最強のな。元は天使だったとされる。昨晩、そのサタンが何者かに召喚された。術師は悪魔崇拝者、それも個人ではなく集団だろうな。あれは少数で召喚できるものではない』
「ちょっと待て。
いよいよ、話についていけなくなった上条。土御門は構わず
『案の定、理解が及ばないか……。だが、これだけは分かってもらうぜい。目的は、神の御座たる天上を悪魔の支配下にすること。それが、全悪魔崇拝者の望みぜよ』
UMA騒ぎの発端でもあるらしい
初めに憑依。悪魔は召喚者との契約の元、人の肉体に癒着。その主導権を奪い取ろうとする。
サタンは学園都市に消え、時間を考えればこれは既に完了している。
次に魂の侵食。憑依した悪魔は自らの悪性で宿主の魂を侵し、単一の魂となる。悪魔の魂と完全に同質のものだ。
これにはより長い時間を必要とする。それ故に、しばしの余裕が与えられている。
そして、最後にその魂を天上へ送る。
入れ替わるのは天使長、
セフィロトの樹において第六のセフィラ、
計画の完遂は悪魔にとって天敵の消失を意味する。
結果、悪魔は台頭。世界の法則は歪み、十字教の地位のみならず、人の尊厳をも揺るがす。
そんなこんなで、既に色々とややこしいのだが、土御門は目下進行中の
目的は天使の力を借りて
適任は先述にもあった
だが、問題はその強大な力が宿主ごと悪魔を地獄へ縛り付けてしまうということだ。
つまり、巻き込まれただけの人間が犠牲となる。
上条の性根はそれを許さない。知り合いであるなら尚のこと、たとえさうでなくとも同じだ。
戦う理由は十分にある。
『天使に見つかるまではカミやんの土俵だ。悪いが今回は手を貸せない。召喚魔術において、儀式場は『門』でしかない。『門』を閉じればヤツは戻れなくなるが、送り返すことはできない。誰一人犠牲にしたくないなら、お前がこの計画を終わらせろ。お前の右手にもそれをなし得る力があるんだからな!!』
土御門は鼓舞するよう言って電話を切った。
戦う理由は既にあって、その言葉が足りなかった覚悟を与える。
インデックスを黙らせるために朝食としてざく切り生キャベツだけ作ると、上条はさっさと部屋を出る。
誰かを犠牲にするのではなく、誰も失うことなくすべてを終わらせるために。