とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》 作:田芥子慧悟
時は戻って、現地時間にして前日の17時半ごろ。
インドのチェンナイ、白く美しいサン・トメ大聖堂。
南アジアの少数十字教派であるバーラト済教の本部に茶髪の神父が駆けつけた。
「最大司教!最大司教はいらっしゃいますか!?」
「わらわはここじゃ。どうしたのだ、ヴァーユ?落ち着きがないの」
その神父、ヴァーユ=リグに呼ばれて奥から現れたのは緋色の修道服に身を纏った、長い黒髪で妖艶な雰囲気の美女どある。
名はサフラニ=マハーラージャ。バーラト済教の首座、最大司教の26代目。
「中国河北省にてサタンの姿が確認されました!それに伴い、悪魔の軍勢が人々に襲いかかっています!イギリス清教、ローマ正教からも同じような状況にあるようです。さらに、ギリシャ聖教から自国の悪魔崇拝者によるものだろうとの通告が……!」
と聞いて、彼女は
「サタンじゃと……!?それはどの方角へ向こうた?」
と問う。
「
ヴァーユはそう答え、対応を求めた。
「欧州から河北を通り、東南東か……。さらば、行き先は……」
「はい。おそらくは日本、正確には学園都市でしょう。あそこにはあの少女がおります」
「禁書目録か。確かにあの『知識の宝庫』があれば、何をするにも有用じゃな。止めねばならぬが、どんな手を使えばよいかのう……」
「
と、後方から1つの解を出したのはシュレーシュタ=プラーナだ。
インドにおいて教会同等の権威と組織力のある魔術結社『悉くを知る陰の王』リーダーである。
「今、
予想だにしない提案にサフラニは戸惑った顔をする。
だが、シュレーシュタは動じなかった。
「ああ。当然、私の
「いいじゃろう。そなたに任せる」
「よし。今すぐ、世界各地に
そう言って早速、自らが指揮にまわった。
無数の霊装を精密に組み込ませ、教会に巨大なセフィロトの樹を描き出す。
工程完了までおよそ3時間。教会と結社双方の人手を合わせても、完全なる
シュレーシュタはそこへ『聖なる気』を注ぎ、位階の波長を望むままに崩していく。
そして、同日の午後9時頃。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
さて、連休の二日目の上条が起きる少し前。
御坂美琴が目を開けると、見えたのは寮の天井でなく白の天井だった。
原因不明の大怪我で病院に運び込まれ、無事、処置を終えた後なのだ。
「よかったですわ、お姉様。お目覚めになられて……!」
付き添いの白井は若干涙目で美琴の手を包む。
「黒子……。私、また……」
美琴が静かな声で言うと、
「一体、昨日の夜、何がありましたの?朝起きましたら、血を流して倒れていらして……。幸い、大事にはいたらなかったようですけど」
「あー……。昨日のことはあんまり覚えてないのよね。夜中に目が覚めたんだけど、あの時は私が私じゃなかった気がしたっていうか…
「お姉様!もしかして昨日、変なものでも口にしたのでは!?あの類人猿と殿方2号に何か盛られたとか……!」
凄まじく被害妄想を膨らます白井に
「そんな訳ないじゃない。アンタじゃあるまいし。大体、出血性の毒物なんてアイツらがどうやったら手に入れられんのよ。そんなことする奴らでもないし」
「そりゃ、そうなんですけども」
ずっと付き添いたかったが、白井には
「数値は全て正常なようだね。しばらく、安静にしてれば問題なく退院できるだろう」
少しして来たカエル顔の医者は言う。
「そうですか。よかった……」
「それにしても立て続けに病院のお世話になるなんてね。あの少年の後を追うことにしたのかな」
胸を撫で下ろした美琴に医者は少々呆れた顔をする。
「いや、別にアイツと同じことをしたい訳じゃ……今回は絶対私のせいじゃない…いつもどこかの誰かさんのために怪我して帰ってくるなんてそんなバカ、アイツぐらいよ……」
「まあ、僕がいるから問題はないと言えばないんだけどね……なるべく煩わせないでもらいたいね」
最後、何気に凄いことだけ言うと彼も病室を出ていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして、昼が訪れた。
仕事を終えた白井は、初春飾利、佐天涙子とファミレスで合流し食事を摂る。
「それって世界中で悪魔の目撃情報が絶えないことと何か関係あるんでしょうか?御坂さんがあんなことになったのも昨日なんですよね?」
ドリンクバーのオレンジジュースを啜りながら佐天はそんなことを言った。
「また、そんな非科学的な……。関係があるも何も、ただの都市伝説なのでしょう?」
白井は心底呆れて、そう返す。
「それがそうとも言い切れないんですよ。これを見てください」
差し出した携帯には都市伝説サイトのとあるページが映っている。
『悪魔崇拝者の仕業か!?魑魅魍魎の侵略者たち!』という見出しに、数十の証拠写真。まさに悪魔という出で立ちだ。
「なっ…!確かにこれは……」
認めそうになって白井は雑念を掻き消すように首を振る。
「そんなのどうせ合成とかですわ」
と言葉で思考を否定に固める。
「そんな夢のないこと言わないでくださいよー、白井さん」
都市伝説好きとしては不服な佐天だが、
「学園都市のそれも常盤台の生徒がゴシップを信じる訳にはいきませんのよ」
白井は冷たく言って、紅茶を一口飲む。
白井はステーキを、初春はミックスフライを、佐天はオムライスを。
それぞれ食べている窓越しに、ツンツン頭の少年が横切っていった。