とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》   作:田芥子慧悟

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#14 閉門

 強い磁力を帯びて、足元の鉄骨が浮きあがる。

 上条はそれらを足場に空中からサタンに接触を狙う。サタンに気付かれるより先に、そこから飛びかかった。

 と、ゲームセンターのコインが目の前に散らばる。

 「超電磁砲(レールガン)ッ?こんなにっ!!!」

上条は思いきり重心を後ろへ。それに応じて、敵は電流の光芒でコインを繫ぎ、鞭のように体を叩く。

 地面にぶつけた背中の痛みに加え、四肢に痺れたような痛みを覚えた。

 電熱を纏ったコインを押し付けられて、上着も皮膚も灼けている。

 

 そこへ容赦なく鉄骨の雨が降り注いだ。

 急いでかわして、勢いで懐へ突っ込む。

 「がっ……!?」

しかし、触れられはしなかった。先に敵の膝が鳩尾を打ち、怯んだところへ拳の強打を畳み掛けられる。

 思わず、腹を押さえて後ずさる。

 そこへすかさず敵が飛び込んだ。上条は右腕を伸ばすが、なんと宙返りでかわされて、しかも、後ろを取られる。

 振り向くより先に、背中を拳が突いた。

 上条は右腕を横に振って牽制し、とりあえず敵を退ける。

 

 だが、すぐ目の前まで距離を詰められた。

 「なっ…」

「驚きが隠せないか、ガキィッ!」

咄嗟に後ろへ飛んだが、間に合うはずがない。

 間もなく、胸部に強烈な蹴りを食らう。

 バギバギッ、と嫌な音が身体の内から聞こえた。肋骨が二、三本折れたらしい。

 それだけでは収まらない。その激しい痛みに苛まれながら、上条は後方の石壁まで吹き飛ばされたのだ。激突した瞬間、今までにない激痛が身体を貫いた。

 

 あの速度にこの威力。

 止まない痛みで思考が鈍るが、明らかにおかしいということだけは理解できた。

 いくら能力者とは言え、所詮、身体は人間である。人間があんな瞬発力と破壊力を出せるはずがない。ましてや、美琴の能力は身体強化ではなく、発電である。

 「答えは簡単だ」

心の声を汲み取ったのか、サタンは人並み外れた身体能力のからくりを説明する。

 「筋肉ってのは電気信号で動いているだろう?それをこの女の超能力で操ってやったのさ。身体にはかなりきてるみたいだが、俺には関係のないことだ」

 「ク……ッソ」

意識が朦朧とする中、辛うじてそれを聞き取れた。美琴の身体を軽んじる悪魔の言葉に怒りを感じる余裕まではなく、間もなくして意識を喪失した。

 

 サタンは動かなくなった上条にトドメの超電磁砲(レールガン)を構える。

 殺したその後、美琴に自我を戻せば第二段階の完遂は近い。返り血に濡れた服を見れば、否が応でも人を殺めてしまったことに気付かされる。しかも、その人とは自分の想い人である。宿主の精神は確実に崩壊する。

 その隙をついて、一挙に魂を汚染する魂胆だ。

 

 だが、次の瞬間。

 異変は起こる。サタンはその異変が何であるかすぐに理解した。

 

 

「門を…閉じられた……!?」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 それから少し時は遡り、事件の発端、エーゲ海に浮かぶとある島。

 そこに剣を携えた男の影があった。

 「……ここか……」

男は魔力を感じ取って、つぶやいた。結界である。

 「……幽隠の霧(フェートフィアダ)か……」

それはアイルランドの神話に由来する姿隠しの結界術。領域の内側のあらゆる物体は術者の許しを得ぬ限り、無きものとして知覚される。

 だが、人として異形の肉体を持つ彼にその制約は何の意味もなさない。

 

 「……我が身は人為の罪科を洗う……ッ!」

詠唱とともに、結界は男の特異な魔術によって中和され、廃れた教会が露わとなる。

 石造りの扉は固く閉ざされていたが、男は構わず進む。

 間もなく、扉は男に軽く触れただけで崩れ落ちた。

 

 中に入るや、黒いローブの魔術師数十人が四方から火球を放つ。

 「……無駄だ……我が身は人為の罪科を洗う……」

だが、それが男をとらえることはない。彼に触れるとすべて弾けて消えていくのだ。

 男はまた1人、また1人と斬り伏せて、無傷で一掃する。

 さらに、前方から槍や剣を持った魔術師が飛びかかってくる。

 「……雑兵が……」

男はそう言って、攻撃をかわし、剣で受け、生まれた隙へ一気に斬り込んだ。

 

 そうこうしていると、奥からさらに12人を率いて背の高い男が現れる。

 「なんだ。この状況は……?」

男は誰にとでもなく尋ねる。だが、それに答えられれたのはただ1人。

 「……私がやった……」

「何……ッ?貴様、何者だ!?なぜここが分かった?いや、なぜ許可もなく侵入できる!」

「……神の左座、真天のアルファ……。結界は破壊しておいた……。術者はお前だな……」

 アルファはその男、事件の首謀者マヴロ=クレメンスに突撃を仕掛けた。

 

 「業火は忌むべき罪人を灼き尽くす」

後ろの12人が一斉に詠唱する。すると、マヴロたちを黄金の炎が取り囲む。

 火刑。術者の信仰する教義に基づき、「異端」のみを炎によって害する大禁呪。

 術者単体では大した効果を示さないが、他の信徒との集団使用により、その威力はいくらでも増す。

 13人ともなれば、理論上炎は摂氏6000℃にまで達する。

 「……幽隠の霧(フェートフィアダ)を破壊したと言ったはずだ……私に魔術は効かない……。……我が身は人為の罪科を洗う……ッ!」

だが、アルファはそれをものともしない。

 炎を掻き消して突破し、剣を振り上げた。

 マブロスは咄嗟に土の魔術で自身を守るが、

「……我が身は人為の罪科を洗う……」

当然、アルファに粉砕され、抵抗虚しくマヴロは斬り捨てられる。

 その凶刃で残る12人も残滅した。

 

 アルファは血濡れた剣を片手に教会の奥へ。

 そこに巨大な法陣を見つけた。サタン召喚に使われたものに違いはない。

 法陣は地獄の門。破壊されれば、地獄と人界は再び乖離する。

 後は誰かがサタンを地獄に帰せば、それで終いだ。

 「……我が身は人為の罪科を洗う……」

魔方陣の中心でアルファが唱えると、召喚術式は根源から崩壊。

 獄門は一瞬にして閉ざされる。

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