とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》   作:田芥子慧悟

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#15 輝く腕

 上条当麻は願っていた。ただ当たり前に、ただいつものように、ハッピーエンドを求めて戦った。

 だが、少年は敗北を喫する。

 敵は御坂美琴に憑依し、学園都市第四位の能力(チカラ)を手にした悪魔サタン。

 美琴の脳を覗いて知識を盗んだばかりか、悪魔らしくえげつない発想で彼女以上の強さを発揮した。

 

 「そうだ!超電磁砲(レールガン)とやらでコイツの頭をぶち抜いて、その瞬間を御坂美琴に見せつけてやろう。記憶を見る限り、この小娘はこの男に気があるな」

サタンはほくそ笑み、ポケットからコインを取り出す。

「自らの手で想い人を殺めたと知れば、こいつの魂はズタボロだ。簡単に乗っ取れる。後は信徒どもがどうにかしてくれる」

 サタンは高笑いして、親指で手に乗せたコインを弾く。

 

 ところが、超電磁砲(レールガン)が上条の脳天を捉えることはない。

 「は?」

地面に叩き落とされたコインを、サタンは腑抜けた声を出す。

 しばし困惑し、彼は理解した。その右手には上条の右手と同じ力が宿っている、と。

 助っ人に現れたのは七海守人、の見た目をしたどこかの誰かさんだった。

 肉体は守人そのものであ、右手の力は健在だ。

 サタンは一度その場から離れる。

 

 「チッ……あの小僧も上条当麻と同じ力を持っているやがるな。忌まわしい!」

サタンは苛立ち、鉄骨をけしかける。それをカミト(仮称)はのらりくらりとかわし、間合いに入ると勢いよく右のフックを繰り出した。

 急激な動きの変化にサタンは回避が遅れて、拳が頬を掠める。迎撃術式を施した保護膜を1枚引き剥がされる。

 さらに、第二撃。

「(肘ッ!?)」

返しの肘打ちをまともに食らって一気に3枚。

 4枚目をいかれる前に何とか飛び退いたが、カミト(仮称)は着地の瞬間に頸部側面への手刀を合わせる。サタンは咄嗟に身体強化をして逃れる。

 

 怒濤の連撃はサタンに付け入る隙を与えない。

 たまの迎撃も余裕でかわし、着実に保護膜を剥がしていく。

 初速に能力を使う超電磁砲(レールガン)の仕組みを考えれば、魔術や超能力を封じる力も意味はないはずである。

 それなのにカミト(仮称)は何度も右手でさばく。そればかりか、逆に発光が目眩ましとなって敵の反応を鈍らせる。

 訳は分からないままだが、サタンは超電磁砲(レールガン)を封印することにした。

 1枚剥がされては後退、また剥がされてはまた後退。

 ほぼほぼ防戦一方で、サタンはどんどん後ろへ追いやられていく。

 

 それはサタンにとって怪我の功名だった。

 気付けば、砂鉄の法陣を描いた場所に戻ってきている。

(悪魔である私が言うのも何だが、勝利の女神が微笑むのはこっちらしい)

サタンはその砂鉄に電気を流した。

 下からの砂鉄による斬殺。それができなくとも、右腕は落とす。それで力が消えれば万々歳、消えなくとも激痛で動きを止められる。

 カミト(仮称)がサタンに集中している以上、下からの攻撃は回避不能。回避できたとして、完全とはいかない。

 『砂鉄の剣』は未だに見せておらず、警戒もない。単に砂鉄を集める暇がなかっただけだが、むしろ都合が良くなった。

 

 かの者はそこで来る。やはり、天は悪魔の味方など決していしない。

 「irf発見mq……awrq久闊ydf……ejf排除ht」

神の如き者(ミカエル)、だと!?」

背に一対の燃ゆる翼を持つ修道士の少年は、ノイズ混じった声を発した。

 少年が右手を掲げると、太陽は一瞬で真南まで昇る。

 火の象徴にして太陽を守護する右方の赤色。シュレーシュタの御使堕し(エンゼルフォール)でバーラト済教修道士の身に降りた、天使長神の如き者(ミカエル)だ。

 堕天使であるサタンは気配から、中身はそれだと理解した。

 それで気を取られ、カミト(仮称)に残る2枚の保護膜が剥がされてしまう。

 何とか直接の接触は免れたが、後方にいるのもこれまた天敵。

 サタンは早急にカミト(仮称)を殺し、その場を去る必要に迫られた。

 

 上条当麻が長めの失神が覚めたのも、その時である。

 まず、目に移ったのは対峙するカミト(仮称)とサタン。その後ろには有翼の修道士。魔術に疎い上条でも、それが天使であることを察っした。

 「天使はダメだ……!あれがミカエルなら、御坂が……」

ヨロヨロと立ち上がり、右拳を握る。状況は読めないが、やることは変わらない。

 サタンに向かって疾駆する。

 そこで、さらなる最悪が上条を襲う。

 ザグシュ!という音とともに守人は体の右側から血を吹き出した。地面からの『砂鉄の剣』を避けきれず、右腕が飛んだのだ。

 「な、七海ぃぃぃぃぃぃっっ!」

サタンへの怒りが増した。もう時間もない。

 上条はさらにピッチを上げる。

 

 が、間に合わなかった。正確には、もう間に合わない。

 修道士の右手が凄まじい力の奔流を巻き起こす。

 状況証拠から考えて、あれが土御門の言っていた『聖なる右』だ。

 間に合う奇跡が起きたとして、物量に弱い幻想殺し(イマジンブレイカー)にあれを打ち消せるとはとても思えない。

 上条はそれでも走った。無駄と分かっていても、ここで歩みを止めれば、信念を永遠に見失うことになると直感した。

(畜生……ッ!こんなのアリかよ。こんな救いようのない結末なんて……!)

心中で泣き言を吐きながら、ひたすら走った。

 

 「やめろぉぉぉぉぉぉぉォォォォォッ!!」

自分の無力を呪い、美琴への酷遇を憂い、少年は大きく吠えた。

 神の如き者(ミカエル)がそれを聞き入れるはずもなく、天使の力(テレズマ)を纏った右手は振り下ろされる。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 カミト(仮称)は右腕を切られていても、まったく痛みは感じていなかった。

 それどころか、麻酔をうたれたみたいに全身の感覚が失われていた。

 「やめろーーーっ!」という男の叫び声だけが遠くに聞こえる。

 七海守人の学友、上条当麻の声色だ。

 

 叫びにこもった懇望の念に応えるためか、カミト(仮称)は、真の力を解放する。

 右肩の断面から光の繊維が無数に押し出され、手袋を編むように筋骨隆々の白腕を形づくった。

 天使の力(テレズマ)をも超える強大な力を目にして、神の如き者(ミカエル)は一瞬固まる。

 一方、サタンが感じたのは驚愕ではなく恐怖であった。

「何だその力は!気配は全然違うが…それじゃ、まるで……」

言葉が途切れた。輝く右腕に叩かれて、サタンは宿主から引き剥がされる。

 『聖なる右』はサタン本体だけに振るわれた。

 

 挙げ句、カミト(仮称)の切断された右手は光の繊維と繋がって、肩にしっかり接合される。

 「こんなのアリかよ……」

それまでの悲惨をすべて払拭する奇跡の連続に、上条は腰が抜けてしまう。

 

 奇跡を起こしたあの輝く腕は何なのか。そもそも、七海守人という男が何者なのか。

 当然、上条は全くといって分からない。

 ただこれが、渇望したハッピーエンドであることに間違いはなかった。

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