とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》 作:田芥子慧悟
#17 宵闇の追走劇
それは10月8日の宵のこと。
第一一学区の広大な倉庫街に3つの人影が現れた。
「ほら、超簡単に忍び込めただろ?」
先頭を行く男子高校生、林護が2人に微笑みかける。1人は男子、1人は女子で、ともに中学生。
「うん。流石だよ、お兄さん。私なんて第七学区のこともまだ把握しきれていないのに……」
「まあ、当然だね。何てったって僕の兄ちゃんだから」
「何で、大河が威張ってるの?凄いのはお兄さんの方でしょ?」
「何だよ、夏海。兄ちゃんの凄さは弟の自慢だろ?」
実弟とその馴染みの子どもらしい会話に、林護は笑みを溢した。
3人は何事もなく学園都市外壁へ向かって、直進する。
目的は学園都市からの脱走。林護が第一一学区を選んだのは、最も人数が少ない外周区域だからだ。代わりに行き交う機械類については、弟の
ただ不可解なのは、人数が少ないどころか、
たまたまだと気にしないようにしていた男子高校生だったが、数百mも進むと流石にいぶかしくなってくる。
「やっぱり、おかしい……。物資の搬入は機械によって自動化されているけど、それを管理するエンジニアとかが常駐しているはずだ」
林護は難しい顔で顎に手を当て、ブツブツと言う。
「どうしたの、お兄さん」
夏海と呼ばれた少女はその顔を覗き混み、可愛く首を傾げた。
と、その時だった。
「ダメですよ、こんなところに来ては。学生さん、ですよね?」
突如、3人を包みこむ大きな影。振り向くと、不気味な笑顔を浮かべる茶髪の男が立っていた。
右手には警棒にようなものが握られてる。その先をペチンペチンと左手に打ち付ける音が恐怖を煽る。
「く、くらいやがれぇっ!」
大河は体を震わせながらも、最大出力で電撃を放つ。
ところが、男はノーダメージ。
「おっと、まだ幼いのに勇敢だね。でも、残念。その程度の電撃じゃ、僕の絶縁性チョッキは貫けないよ?
彼は終始穏やかな口調だが、形相は恐怖そのもの。むしろ、その穏やかさが不気味さを際立たせている。
「はぁあっ!」
今度は夏海の
「壁まで逃げろ!」
おかげで距離ができ、林護の合図で皆全力疾走に移行する。
ところが、3人は数十mも行かずして、足止めを食らう。
四方八方に銃を構えた機械兵。逃げ場はなし。
そこへ男と女が転移してきた。男の方は黒髪のウルフカットで、女の方は赤褐色のミディアムヘアをしている。
「悪いことは言わない。お前ら、死にたくなければ引き返せ」
男、
「そうだよ?学園都市から脱走しようなんて考えちゃダメダメ!」
女、
「バレバレか……。あんたたちが何者かは知らないがな……そうはいかないんだよ!」
林護はそう言って、機械兵を一機手元に取り寄せる。
「夏海ちゃん!」
「はい!はあっ!」
続いて、
仕上げに、林護は中に残った2人を取り寄せ再び走り出す。
その後ろ姿を見る2人。
「
黎明はため息を吐いた後、聡音に聞いた。
「そっか。同系統の能力者が相手じゃ、お得意の
「十分です。やっちゃってください」
「了解」
小さく頷き、聡音は自身の能力を発動した。
瞬間、林護たちの足元がトランポリンみたいに一気に沈む。
「「「え……?」」」
困惑の声がシンクロした頃には既に6、7m上空へ放り出されていた。
「きゃあああああああぁぁぁっ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
宵闇に響く悲鳴。林護は咄嗟に
「ダメだよ、兄ちゃん!こんな高さから落ちたら無事じゃ済まないよ!僕たちを抱えてるから尚更だよ!」
「そうですよ。私の
「ダメだ!
言い合っている内に、あっと言う間にその時が来た。
「こうやれば怪我をするのは俺だけで済む!」
そう言って林護は激突時に吹っ飛ばされないよう、大河と夏海を強く抱き締めた。
ところが、すべて杞憂に終わる。聡音が
「素晴らしい自己犠牲だね。感動したよ」
と聡音は笑顔で林護を賛美する。
「おい、お前ら。今度はホントにやるぞ?自分たちのせいであの人が傷付くことになるが……それでもいいのか?」
一方、黎明は中学生2人に脅しをかける。
「「い、いいえ……」」
当然、両者同じの返答。
「なら、やるべきことはわかるな?もう二・度・と、脱走なんて考えないことだ」
「「はい……」」
これも、両者同じ解答。
「よし、良い子だ」
黎明は2人の頭をポンポン叩くと、
「おい、そっちの!次、妙な真似しやがったらガキどもを数百m上から落としてやるからな!!お前の能力の範囲外で!俺は
と林護の方にも釘を刺しておく。
「あ、ああ……。心得た……」
林護の心も折られる。
そこへ先程の茶髪、
「安心してくださいね、お三方。寮へは私たちが運びますから」
虻飛はそう言うと、麻酔銃を3発撃つ。
そして、3人の意識と記憶の一部が消し飛んだ。
上条当麻はC文書の件でフランスへ行っていますので、第三章に彼は登場しません。代わりに、同系統の力を持つ七海守人が動きます。