とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》   作:田芥子慧悟

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#2 既視感と謎の少女

 「とうまー、今日のお昼はかれーらいすが食べたいんだよ。あとあと、冷蔵庫にあったえびをフライにして上にのせてほしいかも」

昨日、お詫びとは言えトンカツをご馳走したというのにこの腹ペコシスターと来たら、今日も手間のかかる料理を要求しやがる。

 「あのですね、インデックスさん……。昨日、上条さんがトンカツを作ってあげたこと忘れた訳じゃありませんよね。あなた、完全記憶能力があるんですから」

そう、完全記憶能力を持ち10万3000冊の魔導書を記憶する彼女がましてや昨日のことを忘れるはずがない。

「うん。でも、それとこれとは話が別なんだよ。一昨日、晩ご飯を作らなかった罰なんだから」

当たってはいたが、どうやらこのシスター、お詫びとは言えトンカツを作った家主さんへの感謝が欠如しているようだ。

 丁重に断る作戦だったが、失敗した。もう、行動で示す以外の選択肢はない。

 

 「じゃぁ、間を取ってシーフードカレーにでもするか……。文句ないだろ?海老は入ってるんだ、しぃっ!?」

「重要なのはそっちじゃなくフライの方なんだよ、とうまぁぁぁぁぁっ!?」

飛びかかるインデックス。だが、食材を取るため丁度開けていた冷蔵庫の扉に彼女は激突。その場に倒れ伏す。

 「す、すまん、インデックス。不慮の事故とは言え、すぐに閉めなかった俺も悪かったんだ」

要望は通らず、扉に頭も打たれたせいだろうか。ただならぬオーラを発するインデックスに謝辞を述べる。ダメモトで許しも請う。

 が、その想いは届かなかった。

 立ち上がったインデックスが今まで見たこともない鬼の形相でこちらを睨む。

 

 と、その時。

 ゴンッ!とベランダの方で金属の鈍い音がした。

 何事かとベランダに出てみると、そこには亜麻色髪の少女が干されていた。そこには亜麻色髪の少女が干されていた。

 藍色のローブを身に纏っていて、どう考えても学園都市製のファッションセンスではない。年はインデックスと同じくらいだろうか。

 「デ、デジャヴ!?まさか、インデックスさんみたいに行き倒れだとか、追われの身だとか言ったりしませんよね?」

その少女に聞いてみる。

「そう、です。なぜ、分かるですか……?」

「いや、まぁ、インデックスの時と同じ光景だったし」

「それより、ご飯を食べさせるです。さぁ、早く…!早くです……!!」

「で、全く遠慮のないところも同じなんですね、はい」

あまりの一致っぷりに思わず溜め息が出た。

 

 干されていたその少女が加わったことでインデックス勢力なるものが結成され、件のインデックスが今日の一悶着の情報を漏洩したせいで、際限のない海老フライコールが始まってしまう。

 上条当麻は収集をつけるために、海老フライカレーをご馳走する他になかった。

 サクッ。ルゥが絡んでいても、かじると良い音がした。海老はスーパーで買った安物の特売品だが、インデックスの言った通り、海老フライで一番重要なのはフライであり、衣である。海老が安物でも、衣がチープでないのなら何の問題もない。

 

 「で、誰に追われてるんだ?それにお前、名前は?」

食べ終わって少し落ち着いてから、その少女に聞く。と言っても、誰に追われているのか、については大体予想がつく。

 こういった格好の絡みであれば十中八九、魔術師、科学では説明のつかない力を操る集団であろう。

 「おそらくは魔術師です。名前に関しては…ごめんです。私には1年前からの記憶がないのです。魔術というのもその存在を知っているだけです」

名前以外は予想通りの返答。

「ただ、これを見るです。ここに名前のようなものがあるです」

そう言って彼女は首につけていた黄金のペンダント、その先の四角錘の飾りの裏を見せる。

 そこにはアラビア語と同じ類で、アラビア語とはどこか違う、とにかく上条当麻には理解不能な複雑怪奇の文字が掘られていた。

 英語すらろくにできない上条には無理ゲーである。

 

 「イ、インデックス。お前なら読めたりするか?」

「これはサンスクリット語だね。アーカーシャ、インド系の術式に使う五大の『空』を意味するんだよ」

涙目で助けを求めると、インデックスは期待通りの仕事をしてくれた。

 だが、謎が謎を呼ぶ。サンスクリット語なんて、バカなせいなのかもしれないが見たことも聞いたこともない。それもインデックスは今、「インド」と言った。

 「サンスクリット語?確かインドってヒンディー語じゃなかったか??」

「その程度の知識しかないんじゃ、やっぱ、とうまは学園都市に籠もってた方がいいかもね」

また、言葉のことでバカにされた。でも、言い返しようがないのがもどかしい。

 「では、アーカーシャ…いえ、長音を省略してアカシャと呼ぶです」

と謎の少女、改めアカシャは言う。 

 「で、アカシャ。なんで魔術師に追われてるの……かっ!?」

思い当たる節を聞こうとしたその瞬間。

 

 ゴォォォッ!炎の音とともにドアが倒れた。

 「全く……。君は騒ぎの中心にいないと気が済まないようだね」

黒い服、高い身長、頬のバーコードと赤い髪。上条も見知った男だ。

 「ステイル!?まさか、アカシャを追ってた魔術師ってこは……!」

「アカシャ?ああ、その子の名か。そう名乗るのも不思議ではないね。ああ、そうさ。僕だよ。今、君と争うつもりはない。さっさと、そのアカシャをこちらに渡して貰おうか。渡さないというなら、力ずくもやむを得ないけどね」

ステイルが動いている、ということはイギリス清教がまた何かをやろうとしているのだろう。

 これまで、イギリス清教の営為をいくつか見てきたが、納得のいくものもいかないものもあった。

 ただ、経験則的にこんな強引な手段をとる場合はろくなことではない

 

 「断る!テメェがこの子を追う理由が何なのか言わない限りな!内容によっては、お前を許さない!」

そんな不審なものにアカシャを委ねることはできない、ただそう示した。

 「なに、殺しはしない。僕はただ上に言われてその子を保護しに来ただけだ。その子が他の組織の手に渡るとマズいことになるからね」

「じゃあ、何であの子は逃げてんだよ。テメェが手荒な真似でその子を攫おうとしたからじゃねぇのか!」

「そりゃ、そうさ。抵抗するなら、力尽く。それが僕たち魔術師のやり方だからね」

 納得がいかない。やはり、その強引な魔術師のやり方とやらは納得がいかない。

 

 「そうかよ。なら、アカシャは渡せないな」

「君がインデックスを守りながら、彼女も守れるというならそれでも構わない。だが、それは無理だ。君のその右手だけでは1人を死守するのが精一杯だろう。違うかい?」

「っ……!」

「それにこれは私情だが、その子を守るために彼女が倒れたときは僕が君を許さない!君は彼女の監督役だろ」

 確かにそうかもしれない。インデックスの10万3000冊を狙って襲ってきた連中が今までに何人かいたが、そこからインデックスを救い出すのは一瞬とはいかなかった。   

 「保護」、「両方守れるのか」。コイツらは殺すなら殺すと言うはずだ。本当に殺すのなら、そんな言葉は出てこない。

 それだけではない。ステイルは何よりもインデックスのことを憂いているのだ。

 

 「分かったよ、ステイル。アカシャは渡す。殺さない、ってのは本当だろうな」

「保護すると言っただろ。殺さないさ、神に誓ってね。聖職者たるもの、神の誓いを破る訳にはいかい。もういいかな、上条当麻?」

「まだだ。さっき、両方守れと言って理由は何だ?アカシャもインデックスみたいな何かなのか?」

 「本当にしつこいね、君は。その予想は当たらずとも遠からず、だよ。虚空書録、またの名をアカシックレコード。この世界のすべてを記憶した万象図書館だ。つい最近までインドの魔術結社にいたようだが、逃げ出してきたらしい。それを回収するために、僕が駆り出されたという訳さ」

 保護が最優先だと言っていたステイルはあっさり、秘密を吐いた。

 

 だが、おかしい。本当にこの世のすべてを記憶しているのなら、なぜステイルから逃げる必要があったのだろう。

 魔術に対して、例えば、インデックスの強制詠唱(スペルインターセプト)などの対策を講じれたはずだ。

 いや、そもそもどうしてアカシャは魔術に関して、存在するということしか知らないのだろう。

 

 引き渡したアカシャを連れていくステイルを止める。

 「なぁ、ステイル」

「なんだ。まだ、何か?」

「その子、1年前からの記憶がないみたいなんだ。名前も忘れていた。『アカシャ』って名前もペンダントに刻まれていたから分かったんだ。魔術が何なのかも知らないみたいだし。そんな人間が本当に世界のすべてを記憶しているのか?」

「何?記憶がないだと?まさか、虚空書録というのはデマだったのか……」

 ステイルはしばらく考えて、首を横に振る。

 「いや。デマだったとしても、それが広まってしまった以上はこの子を取り巻く環境は変わらない。失われた記憶が元に戻ったという話だってあるしね」

ステイルはそう言い残して、去っていった。

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