とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》 作:田芥子慧悟
10月9日、昼。
学園都市統括理事会より暗部組織『テキスト』に、ある任務が課せられる。
「暗部の反乱、上からの抹殺命令……。おそらく、他の組織にも連絡は行き届いていることでしょう……。フフフ、これは修羅場になりますね」
電話の声が消えると、リーダーの
彼女は黒曜石のように艶っぽい黒の長髪で、白衣の上からでも分かる程度の胸の膨らみと、なめらかなくびれを兼ね備えた美少女だ。
ただ、顔立ちが幼いせいか色香のようなものはあまり感じられない。
「相変わらず悪趣味ですね、リーダー」
そう言ったのは『クアッド』のメンバーであり
「いいえ、雨宮くん。暗部の人間なんてのは、大体そんなものですよ?」
既に開き直ってしまっている蛭葉にその言葉は届かない。軽く受け流し、その場を去る。
「せっかく可愛いのにもったいないよね、蛭葉ちゃん。確かに暗部の人間は狂人ばっかしだけど、あれは単に性格が悪いってだけだと思う」
と
「私は見た目も城塞さんの方が好きですよ」
綺麗系が好みの
「ウフフ……。ありがと、裕二くん。試しに私と付き合ってみる?」
聡音は褒められたのが嬉しくて、満面の笑みを浮かべた。聡音は胸こそ控えめだが、顔は端麗で大人の色気もある。
「それが遊びでないなら、喜んで」
「相変わらず、真面目だねぇ。裕二くんっていいものは持ってるんだし、遊びまくれるはずだよ?」
「軽い男にはなりたくありませんので。本当にいいものを持っているなら、色に走る必要もないでしょう」
「リーダーとは別種ですが、あなたも大概ですよ、聡音さん」
「えっ、小悪魔キャラって性悪認定なの?昔、男子に人気だって本で読んだよ?」
「他は知りませんが、俺は無理です。やっぱり、素直な子がいいですね」
付喪蛭葉、城塞聡音、虻飛裕二、雨宮黎明。
以上の4人が統括理事会直属の暗部組織『テキスト』のメンバーだ。
主な活動内容は昨晩のような能力者の脱走阻止。どういう訳か、脱走者はいつも統括理事会に伝えられた場所に現れる。
能力者は貴重なサンプルであるため、極力殺しは避けるようにと言われている。
蛭葉に続き3人も、自室へ支度をしに向かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『やっと、連絡をくれたね。話をするのは何年ぶりかな?』
アジトの一部屋に電話越しの男声が聞こえる。
「7年です、ロレンソ司祭。ごめんなさい。最初の2年で暗部への潜入には成功したのですが、タイミングを掴むのに5年近くかかってしまいました」
通話の送信者は学園都市に来てからの7年を概説する。
『司教だ。その7年の間に私は実績を積んで、1ランク昇格してしまったよ』
「イヤミはご勘弁を。上層部の注意が他に向く頃合いを待っていたのです。そうしなければ、他の組織に粛清されていました。言い訳にしかなりませんけど」
『いや、良いんだ。久しぶりに声を聞いていたら、少し君をいじめたくなってしまってね』
「もう!ロレンソ様ってば……。7年経っても、性格の方は変わりませんね」
からかわれた、ロレンソの変わらない茶目っ気が送信者には微笑ましかった。
『で、そう言うからにはその頃合いとやらが来たんだね』
雑談はそこら辺にして、ロレンソがそう言った。
「はい。どこぞの恐れ知らずが学園都市に反旗を翻してくれたおかげです。これから、学園都市暗部の抗争が始まります。他の組織はそちらへ向かってくれることでしょうから、かなりやりやすくなりますよ」
送信者はにたりと笑う。
『そうか……。もしその恐れ知らずが抗争を生き残れたなら、1人1人に謝礼でも送ってやりなさい』
「もちろんです。まあ、生き残ったとしても暗い未来が待っているだけですが。抗争のどさくさに紛れ、学園都市の軍需を掌握します。それで学園都市の住民を支配できれば御の字、できなかったとしてもローマ正教の勝戦に貢献できることでしょう」
送信者はますます笑みの不敵さを強め、通話を切った。
その者は使いなれた拳銃を片手に自室を出る。